里緒奈、「強制じゃないからね」と念を押される
お久しぶりです。検索除外を解いて、また再びカッパ達を公開する事にしました。
相変わらずのんびりの予定ですが楽しんで頂けたら幸いです。
カパ郎のいる山から日常に帰って一週間が過ぎた。
うーたんの馬鹿野郎に、『また話聞くからね』とメッセージを送ると、変なブリッコしたパンダが気だるげに『OK』って体現しているスタンプの返信をもらった。
返信してくれるんだ! と、ちょっと喜んだものの、何だ貴様スタンプ一個でペイッと返事をしおってこの野郎という気持ちが沸き上がり、放置を決めた。
向こうから変化球を投げつけて来たくせに、解決できない私に対して怒るとは何事であるか。遺憾である。うーたんはカレシのポエムに対してこの様な態度をとるべきだ。こんなのやんわりした交通事故じゃないか。
うーたんにとって私という存在が、揚げたての軟骨と共に置き去りに出来るほど薄っすい存在なのかも知れないと思うと、悲しくもなった。軟骨凄くおいしそうだったのに。
久々に出社した会社ではインフルエンザ菌扱いされて、空間消毒剤を机に置かれてむせ返るほど臭い日々を送っている。同じ部署の人たちが、私がいなくても特に困っていた様子ではない事には救われたけれど、少しだけ虚しくもあった。
そして、私の休暇中に小さな改革が起こっていた。
最近彗星の様に現れた、他部署の素敵な女性派遣社員さんが、ご挨拶と腕試しとばかりに私の休暇中の仕事を与えられ、今まで計算機を叩いて数字合わせをしていた伝票処理に『はぁ?』って思ったのか、エクセルでちょちょいと便利フォーマットを作ってくれていた。
これによって私の仕事が十分の一くらいに減った。
私だってこの、なんだ、フォーマット作りくらい出来る(と、思う)けれど、あえてそういう文明的なものを作らなかったのは、アナログ頭の上司が『今までこうやってやってきた』と頑なにやり方を変えようとしなかったからだ。それなのに、あのバカエロ上司はキラキラ女性派遣社員さんにデレデレし、彼女のハキハキした物言いと、他の会社でも活躍していたであろう押し出しの良い自信オーラみたいなヤツにあっけなく『これは凄い!』と寝返ったのだった。(彼女の上司が自分のポストより上だったのも大いに要因としてありうる)
私がこういうの提案した時には鼻で笑って、伝統を大事にしないチャラチャラした女扱いしたクセに、酷い。酷すぎる。挙句の果てには、妹尾(私の名前)のヤツ今まで……え? ウッソーッ? みたいなリアクションを喰らって腸が煮えくり返った。
更に、諸々のファイルの保管場所を覚えた上司、特に私を必要としなくなっていた。
あんなくだらない雑用が消えたと喜ぶ半面、あれ? じゃあ、私何するの? 状態だ。
なので、ここ一週間を平仮名四文字で表すと『ぱやぱや』とか『ぴろぴろ』とかそういう感じだ。
やる事もなく、誰にも必要とされない事がとても寂しい事だと、デスクで爪を磨きながらしみじみと思う。やる事が無いからゆっくりとネイルを塗っても良いし、空間消毒剤の匂いのお陰で除光液の匂いも相殺されてイイ感じだった。明日はMONMON最新刊も持ち込もう。……うむ。割とよきかな。良いハズ……。
私は、かなり気楽な気分で前向きに頑張ろうと思った。
しかし、その一週間後に人事部長から呼び出され『妹尾さんさ、パートにならない?』と言われた。
私は最初、パートナーにならない? と聞かれたのかと思った。
人事部かぁ、人事部ならあの上司ともお別れな上にちょっとは気を使われるかもしれないなグフフと思ったものの、人事部長が胃を手で押さえてさすっていたので現実に戻った。
「え、えっと、そういうのって……あの……」
「もちろん、強制では無いよ? 強制では無いんだ。強制じゃ、無いよ? ただ、ほら、あまりやる事が無いみたいだし……早く帰れるよ?」
パート、しかも時短パートを推して来ていて更にビックリ。私は、キョトンとする他なかった。
「き、希望しません。困ります! 確かに今仕事が無いですが、忙しい部署に配置換えとかして頂けませんか? 精一杯頑張りますから」
若干二枚舌がスラスラ動いたものの、人事部長は「う~ん」と腕を組む。
目が、『察せよ』と言っている様だ。
「察してくれないかなぁ」
口でも言われてしまった。
「あ、もちろん、会社から強制はしないからね」
私は俯いて―――だって、抗議出来る程会社に貢献出来る力が無い事を自分が一番よく知っていたし、自信もなかったんだ―――小さく答えた。
「考えさせてください……」
泣きそうになりながら、パーティションで囲われた小さな空間を出た。その日は、事情を知っている臭がぷんぷんする周りの、居心地の悪そうな、他所他所しい空気をたくさん感じて終わった。
定時にフロアを後にし、トボトボと廊下を歩いていると、忙しそうに早足で歩くキラキラ女性派遣社員さんとすれ違った。きっと、まだ残業なんだろう。彼女の配属部署は、私がかつて入社時に希望した部署だった。
*
「う、ぐす……ちっきしょ~」
アパートに帰ると、直ぐにベッドにもぐりこんで泣いた。
私は馬鹿だけど、今日言われた事の意味くらいは分かる。
パートを勧められたんじゃない。自主退職を促されている。
皆が安心してお仕事出来る様に作られた法律に守られているものの、屈辱的だったし、周りが事情を既に知っている感じにも胸が冷える。なにより、日頃のロクでもない自分を思い返して涙が止まらなかった。
馬鹿にすんナ!! 辞めてやらぁ!! と啖呵を切るほど剛毅だと思われてるんだろうか?
それとも、冷たい空気に耐えられなくなるまでジワジワと首を絞めようと……?
ゾクッと身震いして、布団にしがみ付く。
「う、うッ……かぱ、カパ郎……」
カパ郎とのハッピーライフの為に、まずこちらの暮らしを整えるなりなんなりしようと思っていた矢先に躓いてしまった。
こんな時はうーたんなのだけれど、うーたんとは絶賛分裂中だ。
アパートの薄い窓ガラスを木枯らしがガタガタ揺らす音が、とても貧乏チックだ。
来週からは友人の結婚式が立て続けにあるし、こんな谷底から高砂見るの辛い。涙がとめどなく溢れて来て干からびそうだった。
私は鼻をすすり、ドラッグストアに焼酎瓶を買いにアパートを出た。
こういう時は酒だ! 酒だ!!
やっすい酒を呑んで、水分補給だ!!




