不審者情報
私はカッパ達とトランプをする羽目になっていた。
カパ彦が射的の景品で獲った『古いアイドルの水着写真トランプ』のせいだ。
トランプなんだから全部同じ柄なのに、カパ彦が「そんなワケないのじゃ」と多種多様の水着を期待し、パッケージを開けて広げるから悪いのだ。
ホレ見ろ、全部同じオナゴ・同じ水着・同じポーズじゃないか。
それでもカパ彦は満足そうに目を細め、どれだけシャッフルしても水着アイドルの変わらぬ微笑みがある事に大変満足気だった。
変な所ポジティブなメガネだ。
バラけたトランプを見たカッパたちは、ノリノリでトランプを配り初め、私の膝の上にもカードの小山が出来た。
「ババ抜きじゃあ」
「ババ抜きのババってなんじゃろか」
「ババアは仲間に入れてやんねぇって事かのう」
そ、そんなぁ……。ババアになるの怖い! トランプにすら入れて貰えなくなるのか。
「でもババを抜く遊びじゃ。最初からおらなんだら、勝負がつかんじゃろが」
カパ郎……ナイスフォロー。そうだよ。ババアはいつでも重要人物だよね!?
私は手持ちにジョーカーが入っている事にちょっとイラッとしつつも、カパ郎に癒される。
「オリはババアでもヌケる」
「オイもじゃ」
「ナハーはものによるのぅ」
至極どうでも良い。
女顔カッパの厳しさに若干凹みつつ、カパ郎が「俺も熟女好きじゃ……」と発言したのには、安心してババアになれる暖かい光を感じました。
カパ郎とカパ彦の言ってる意味は同じなのに、やはり人柄って大事だな。うん。
グダグダ喋っている間に、皆がトランプの扇を胸の前に掲げた。
始まらなくても良いゲームが始まった。
皆真剣だ。
私は黙ってカパ彦へ自分の扇状にしたトランプを差し出した。
カパ彦は暫く真剣に悩み、私がスッと突き出しておいたジョーカーを驚く程まんまと引いて、「かぴゃーーーっ!?」と、ひっくり返って悔しがった。
その後、カパ彦が私を真似てスッと突き出したジョーカーを女顔カッパに引かせようとくちばし? をひん曲げて目を細めていたけれど、一連の流れを見ていた女顔カッパは引っ掛からなかった。
カパ彦は余計に悔しがって、女顔カッパがジョーカーに触れる様、トランプの扇をグイグイ動かして顰蹙を買っていた。
って、こんな事どうでもいいわい!!
またカッパペースに巻き込まれた!!
「ね、ねぇあなた達、他の会場で遊んで来たら?」
「え? なんでじゃ?」
なにが「え?」じゃー!!
本当に「なんでじゃ?」と首を捻っているカパ彦たちに、殺気立つのも大人げないと言うか、淑女じゃないというか、なんかそんな気がして押し黙った。
ううう、カパ郎と二人になりたい。
「カッパがトランプしよるー!」とか、子供に囃されるのもう厭だ。
シッシッ! カッパも子供もどっか行ってよ!!
男の子に手持ちのカードを読み上げられて、カパ彦が激怒するのを眺めながら、私はげんなりしていた。
しかも、校門の方からまだ子供が数人駆けて来る。
まだ増えるのか、子供!
ソースだか泥だかでばばちい小さな人間なんか、りおなカッパは全然可愛く思えない。
カパ郎の手前「うふふ、可愛い」と微笑んでいるけれど、「浴衣に触れるでない! ええい、泥臭いわ!」と、血管が切れそうだ。
駆けて来た子供たちは、既にここにいた子供達より数段興奮気味で息を切らしていたので、私は悪い予感しかしない。
頼む! お願い!
予測不能な動きだけは止めて!
ジュース零すとか、焼きそばひっくり返すとか転んで流血とか、ホント向こうでやって!!
「ねぇねぇ! カッパがおった!!」
駆けて来た子供たちが、息を切らして叫んだ。
もともと私たちの傍にいた子供たちは、彼らをポカンと見て、それからカパ彦たちを指差した。
「えー? ここにもおるぞ!」
駆けて来た子供の内の一人が、真剣に首を振る。
「そんな偽カッパじゃねぇやい!!」
「なんじゃとゴラー!?」
いきり立つカパ彦に、新参子供組はドン引いた。
カッパ姿の大人が子供相手に「むきゃーっ」となっている様は、さぞや子供心をドン引かした事だろう。
私も触発されてドン引いた。
そしてこの感覚を忘れかけていた事にゾッとしたのだった。
麻痺してる……もっとドン引かねば!!
「うわ、変なオジサンだ!」
「変なオジサンさ近づいたらいかんのだぞ!」
「おじさんじゃないのじゃ!!」
「カパ彦、やめんか」
ポチャがカパ彦を宥めている間に、子供たちは子供達で盛り上がっている。
「ちゃんとしたカッパだった!!」
「なんか『ウィッ』つって笑っとったぞ!!」
「サーヤちゃん、縦笛盗られたんだ!!」
「なんだって!?」
見れば、子供達の中に一人シクシクと泣いているサーヤちゃんらしき女の子がいた。
その女の子は、こんな田舎では珍しいくらいの美少女だった。
長い艶のある黒髪には鰹節とか微塵も紛れていないし、顔もリンゴ飴でドロドロしていない。
更に目を引くのは、小学生にあるまじき胸の膨らみだった。
りおなカッパ軽く負けてるんじゃないかというけしからん発育具合に、男の子たちが夢中なのが一目で判った。
彼らは彼女の縦笛がカッパに奪われた事に怒りを露わにしている。
「もうすぐ、縦笛の演奏なのに……。練習いっぱいしたのに……」
どうやらお祭りの演目に、子供達で縦笛を披露する出し物があるらしかった。
サーヤちゃんは啜り泣く。女の子達が、彼女を心配そうに取り巻いた。
彼女の様なタイプには珍しく、はたまた、良い子が多い学校なのか、サーヤちゃんは女の子たちの同情も買っていた。
「サーヤちゃん……う、ぉぉっ! オレんたぁで取り返そう!」
「カッパを殺せ!!」
か、過激だなぁ……。
燃え上がる子供達を、カパ郎が制した。
「待つのじゃ、どんなカッパだったかの?」
目撃したと言う子供たちは、皆一斉に、櫓に飾られたカッパの絵を指差した。
―――緑カッパだ!!
『ウィッ、ウィッ……』という気持ち悪い笑い声が、私の脳裏に蘇る。
やりかねない。
アイツなら、美少女で巨乳の小学生の縦笛を盗んだとしてもなんら不思議は無い!!
更に子供たちは、耳を疑う内容を報告したのだ。
「女のパンツ、はいとった!!」
「な、なんだって!?」
私は思わず立ち上がり、「どんなパンツ!? ねぇ、どんなパンツだった!?」と、非常に変なオバサンと化して子供達に問い詰めた。
「い、色は!?」
「暗くてわからんかった!」
「フリフリだった!?」
「わかんね!!」
うおーーー!?
ハッキリしたいようなしたくない様な……!!
でも、どうしようもなくこの予感は的中すると、私の第六感が告げている!
「前後ろ逆だった!」
「ほーだ! 前後ろ逆だった!!」
な、なんだってーーー!?(part2)
なんかもう、色々許せん……。
私がガックリと膝を折ると、カパ郎が怒りに燃えた瞳をしながら私を支えてくれた。
「カパ……カパ郎……私の……ぱ、パンツ……」
カパ郎は「わかっておる」といった表情で、私に強く頷いた。
「絶対アイツじゃ!! 許さんのじゃ!!」
カパ郎は私をそっと脇にやり、勢いよく立ち上がった。
ポチャが険しい顔のカパ郎を諌めた。
「落ち着けカパ郎! 他のヤツかも知れん」
「だとしても、放ってはおけんのじゃ!」
「……しょうがないのぅ」
ポチャが次いで立ち上がり、女顔も無言で立ち上がった。
カパ彦は、
「なんじゃ、放っとけ放っとけ」
と、やる気ナシだったけれど、「こんなガキんちょんたぁーの言う事なぞ……」と、ふと子供達へ振り返り、初めてサーヤちゃんを見止めると、急に立ち上がった。
「おっぱっ……! オリが取り返してやるのじゃ!!」
ちょ……カパ彦?
コイツのストライクゾーンがガバガバ過ぎて、怖くなって来た。
私が様々な犯罪の匂いに震えていると、カパ郎達は校門の向こうへ駆け出した。
「え!? ちょっと待ってカパ郎―――!?」
「りおな、ちみっと待っとるのじゃ! すぐ戻るのじゃ!」
カパ郎は肩越しに振り返って、私にそう言うと、バカ三匹と共にあっと言う間にグラウンドを突っ切り、校門の向こう側へ消えてしまった。
え……。置いて行かれた!?
お祭り中に、一人にされてしまった……。
え……?
てゆーか、ああ……もう、最悪。
お待たせしました!!




