カッパの物差し③-女顔カッパ尋問ー
私の容赦ない悲鳴で、天井に張り付いていた女顔カッパは敢え無くカパ郎の御用になった。
「まったく! なんなんじゃお前ら!!」
ほんとだよ!! ホントになんなんじゃ!! 天井にブリーフ一枚の男が張り付いている光景、絶対この先忘れられないよ!!
じゃなくて、カパ郎にプライバシーは無いのか!!
「すまんのじゃ……」
女顔カッパはしゅんとして項垂れた。
「さ、酒をの、持って来たのじゃ……」
彼はブリーフの前に差し込んでいた一升瓶を差し出した。もう、女顔カッパってば!
そんな事したらオニューのパンツが伸びちゃうよ!
サッと一升瓶を受け取ったのはカパ彦。
「チンチロ毛がついとるのじゃ」
「うわわ、すまんのじゃ」
だれかー!! このアホメガネに雷を! 裁きの雷を落としてー!!!
もう無理! さすがの里緒奈ちゃんも、もう無理コイツ!!
「おお、朝から集まって飲むなんていいのう。誰か、すまんがここから出してくれんかのう……」
ポチャマッチョカッパ、ポッチャリのクセに壺なんかに入ったので、出られなかったらしい。
皆で引っ張ったり壺の向きを変えてみたりしたけれど、ポッチャリの本領発揮とばかりにポチャマッチョカッパは壺から一向に抜け出せなかったので、結局カパ郎が素手で壺を叩き割った。カッパ恐るべし。
大きな壺は見事に砕け散って、ポチャマッチョの逞しい全裸姿が現れた。
うわ、油断してた! ちょっと! パンツどうした!? パンツ!!
彼は勢い余って自分の腹にまで到達したカパ郎の拳に撃たれ、「ぐううっ」と呻いて床に伏している。(強い男最高。カパ郎最高。)
「おおぅ、すまんのじゃ……!!」
「良いのじゃ……ゲホォッ! 壺なんかに入ったオイが悪ガホォッ! ゴボゴボゴボ……ッ」
ちょ、だ、大丈夫なの!? 詰まった排水溝みたいな音してるけど!?
カパ郎は慌てて申し訳なさそうにポチャマッチョを助け起こし、ポチャ腹を撫でてやっている。カパ彦も「カパ郎は加減が無いのじゃ!」と言いながら、カッパの軟膏を塗ってやっている。内側のダメージにも効くらしい……。頭に塗ったらどうだろうか。
女顔カッパは黙々と散らかった壺の破片を片づけていた。
ポチャマッチョカッパが落ち着いて、女顔カッパが壺の破片を片づけ終わると、私とカパ郎はグダグダな空気の中で溜め息を吐いて座り込んだ。
カッパ達は既に一升瓶を囲んで酒を酌み交わし始めている。
カパ郎はほとほと呆れたように、その輪の中に座り込んだ。
「まったく、なんなのじゃお前らは……」
「ホントだよ、なんであんな所に? ていうか、天井に張り付けるって凄い」
私の「凄い」に、女顔カッパが「イヤ~、大した事ないのじゃ」と照れた。
褒めたつもりはないのよ、女顔カッパ!
「俺だって出来るのじゃ。りおな、俺だって天井出来るのじゃ!」
カパ郎が張り合って天井に飛び付こうとするのを「うんうん、カパ郎も凄いよね!?」と止めて、「どうどう伏せー」と落ち着かせると、私達は再び女顔カッパに話をさせた。
女顔カッパは綺麗な顔を内気そうに俯かせて、
「ナハー(俺)は、朝すぐにりおなどんのとこ行ったんじゃ……なんだかんだ、上手く行っとるんではないかと思っての……」
『良かったのう、がんばるのじゃ』なんて言ってお祝いするつもりで、ブリーフに一升瓶を詰め込み持って来てくれたらしかった。
ううう……なんていじらしいカッパなの、女顔カッパ……。でも一人称が気になる。
「そうしたらのう、おらなんだ(いなかった)でのう……ナハー(俺)はもしやりおなどんが帰ってしもうたと思ったんじゃ……」
「すれ違っちゃってたんだね。心配かけてごめんね」
女顔カッパはコクンと頷くと、話を続けた。
「ほんでの、カパ郎がへっこんどると思ってのう、ここを尋ねたのじゃ」
女顔カッパがカパ郎の巣を恐る恐る尋ねると、カパ郎の姿は無かった。
多分、私とカパ郎はその頃夏雪葛を採りに行っていたんだ。
きっと焼け泳ぎをしているに違いない、と思った女顔カッパ、カパ郎の巣で落ち込んだ親友が帰てくるのをしばらく待つ事にしたらしかった。
さて、どうやって傷ついたカパ郎を慰めてやろう? とソワソワして「もじゃもじゃ」に腰を下ろそうとした時―――。
『うわんっ!!』と犬の泣き声が洞窟に響き渡った。
「なんと……!!」
カパ郎とカパ彦が顔をひきつらせて青ざめさせた。
「お、俺の家に犬が現れよったのかの!? ど、どこに行ったのじゃ!?」
「ぬわーっ!? い、いぬいぬいぬいやじゃああああ!! かぴゃーーーっ!?」
「な、ナハーもビックリ仰天しての!? ビックリするじゃろ!? ほんで天井に飛びついたんじゃ!」
「ほんなら仕方ないのう!! 犬は何処へ行ったのじゃ!? よう無事じゃった! 良かったのう、良かったのう!」
かつてない程のカッパ達の盛り上がりに、『ああ、犬が苦手なのね』と察したものの、ポチャマッチョカッパだけは何故か黙り込んでいるのが気になった。
「それでじゃ……恐ろしゅうて天井に貼り付いとるところに、カパ郎んたぁー(達)が帰って来てのう……」
「……」
私もカパ郎も赤くなった。
そっか、そうだよね。いくら親友でも、他人の家の天井から「オッス! 遊びに来たのじゃ☆」なんて気まず過ぎて出来ないよね。
しかも……その……始まっちゃったし……。
よ、よし、女顔カッパはギリギリセーフで無罪!!
私がせいぜい厳しめの顔で「無罪」と主張すると、カパ郎も「情状酌量じゃ」と頷いた。
うむ。次はポチャマッチョの尋問だ。




