アイキャントストップフォーリンラブ
その者、水の滴る亜麻色の髪に、日の当たる湖水のごとき瞳を輝かせ、あたかも名画の中から現れた神の使いのごとき神々しい姿ナリ。
時は来たりて、腰に薄衣一枚を纏い、非処女の前に現れん。
* * * * * * * *
「か、カパ郎……!!」
驚き過ぎて腰を抜かした私は、目の前の超絶イケメンをアワアワと見上げていた。
こ、このお方がカパ郎!?
元々イケカッパだったけど、更にカッコいい。
多分「更に」なんて思うのは、私が人間だからなんだろうけど。
うわあああああ! どうしよう。カッパだからって平気だったブリーフ姿が物凄く気まずい。
「驚いたかの?」
と、ほんわか微笑む顔も、どこか本来の癒し系ッポイ感じはするのに、情の深そうなセクシーな唇が弧を描いていて無性に胸が高鳴る。
高鳴っているって言うか、もはや動悸だ。求心を、求心を誰か……死んでしまう!!
胸を押えて青ざめたり赤くなったりしている私を見て、カパ郎が眉を潜めた。
みるみる悲しそうに歪む顔も、カッコいい。
なにコレ、俳優なの? アイドルなの? ハリウッドなの? 沙悟浄も真っ青な美男子だよ!! 同類だって知ったら絶望して火焔山に飛び込んじゃうよ!!
カパ郎はノロノロと頭の上のお皿を取ると、両手で胸の前にやりながら俯いた。
「も、もしや……気に入らんのかの?」
私はブンブン首を振って、
「ちがちがうよちががが……」
と、滅茶苦茶アガりまくって答えた。
元々私は冴えないOLなのだ。華やかな世界とも縁が無いし、そもそも山奥のローカルテレビの芋アナウンサーとどっこいどっこいなレベルなのだ。
社内の、こちらも大して冴えないメンズ達の「背中が広い」とか「手が素敵」とか「なんか手伝ってくれた」というルックス要素は一かけらも無い所でキュンとしていた狭い檻の中のちっぽけな私が、突如広大なサバンナに解き放たれ神々しい神獣に出会ったら、竦み上がるのはしょうがない事だと思わないでしょうか?
結局見た目かよ、ビッチ! と言う声が聞こえて来そうだから、この件に関してはもう一つ述べさせてもらおうじゃないか。
私は社内のメンズ達への自身の「キュン」を信頼しているし、それこそが温かい愛の始まりだとも思っている。
でもな、彼らが私にキュンしないで、ピチピチの新入社員や他社の受付嬢や取引先のご令嬢に夢中になってるんだよおおおー!! 報われねぇクセによ~!! バーカバーカ!!
……バーカ……ぐすん……。
ハッ!? もしかしたら神様が私を憐れんでカパ郎と逢わせてくれたんじゃ……とふと思いつつ、私は「失敗じゃった……」と項垂れるカパ郎にバカの一つ覚えみたいに首を振った。
「ちが、違うよカパ郎! ビックリしただけ……って言うか……あの……」
「なんじゃ……」
ぐうう……麗し過ぎて、気後れしてます。
どうして私はこんな素敵な男の前で、『BAD GIRL』とか書かれたしょうもないプリントのピタTとくたびれた短パンなんか履いているの……。
その更に下には奴隷が恨めし気に佇んでいるし、最悪だ。まさにBAD GIRLだ。
カパ郎は、私がもっと単純に喜んだりすると思ったのだろう、なんだか予想と違った反応に、一気にガッカリしてしまった様子だった。
だってだって……くちばし? が無いんだもん……。
くちばし? があったってドキドキしてたのに、こんなの困る。
カパ郎は不安そうな顔で、私の傍にしゃがみこんだ。
漢らしい股広げしゃがみを目の前でされて、私はもう、蒸気機関車だったら出発進行全速前進になっているに違いないのだった。
「なんぞ、おかしなとこがあるかの?」
「無い、無いよ! ただ、ハミち……じゃなくて、素敵過ぎて言葉が出ないだけ……」
「本当かの?」
「本当だよ!! なんか、凄くドキドキする……」
カパ郎はようやく安心した様に見えない光の雫を発しながら微笑んで、「良かったのじゃ」と私の手を取った。
多分、安堵と私への親しさからくる自然な行動だったのだろうけど、がっしりした大きな手を手に重ねられると、満月も無いのに『ドクン』と身体が脈打つのを感じた。
見れば、カパ郎の目が、なんだか怪しい熱を帯びて光っている。
まさか……やはり……ヨーイ・ドン! なのか!? 熱いレースが始まろうとしているのか!?
「カパ郎……」
「ふふ、りおな、人間の『きす』が出来るのう」
カパ郎はそう言ってにじり寄ってくると、私の唇に熱いキスをかまし始めたのだった。
ヒ、ヒギィ……。
*
夢を見ているんだろうか。
大好きな人が、大きくてセクシーな唇で私の唇を塞いでいる。
夢中でそれに応えていると、カパ郎はどんどん身体を近づけて来て、ついには私を腕の中に包み込んだ。
私も彼の逞しい首に腕を回して身体を寄せた。
カパ郎が私の背中を弄りながら、Tシャツの上から器用にブラジャーのホックを外したのには「お、お主、裸族であろう! どこでそんな技を……!?」と内心驚いたけれど、もういい、自分の鼻から鼻血が垂れてなきゃなんでもいい。
カパ郎のブリーフは破れそうになっている。
どうやらBAD BOYになってるらしかった。
私のBAD GIRLが捲られる。
熱いキスは止まらない。
私とカパ郎の息遣いが、洞窟に湿気りながら響いている。
ッッアアーーー!!
アイキャントストップフォーリンラアアアアブ!!
私達が息を荒くして燃え上がっていると、ザブザブっと水を掻き分けこちらへやって来る足音がした。
「!?」
私もカパ郎も動きを止めて、洞窟の入り口の方を見た。
カパ彦(メガネカッパ)が、気まずそうに立っていた。
カパ彦おおおおお~!!
となったら教えて下さい。




