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夏雪葛とお皿②

 次は皿じゃ、とカパ郎は私を自分のいえへ連れて行った。

 すいすい泳ぐカパ郎に抱かれながら、私はドキドキし出した。

 以前連れて行かれた時もドキドキしたけれど、それとは全く違うドキドキだ。

 カレシのお宅へ訪問なんて、しかもお姫様抱っこで連れて行かれるなんて、ドキドキしない方が可笑しい。

 カパ郎も、心なしかソワソワしている様に思えるし、コレはもしや……お皿とか実は口実で、いえに連れて来たかったんじゃ……と、私は自惚れまくってそう思い、胸を高鳴らせた。

 夏雪葛の束を持つ手にギュッと力が入る。しょうがない。この後手に汗握る展開の予兆がするのだから……!!

 しかし、私はある事を思い出して激しく悔いた。

 ……カパ郎のいえに行くのを分かっていたのに、私としたことが今日は良いパンツを履いていなかったのだ。

 元々一人旅の頭で身に付けるアレコレを用意をしたから、クイーン・パンツなんて持って来て無かった。

 手持ちで一番上等なのは、地位的には三番目位のお嬢様パンツ。

 しかし、お嬢様パンツは今、六さんの店先洗濯機の中で脱水されてキュウキュウになっているのだった。

 カパ郎の洞窟に着いて、だんだんと浅くなる洞内を相変わらずお姫様抱っこで運ばれるというロマンチック(私的に)の中にいると言うのに、そのお姫様は今日に限って、コキ使われて擦り切れた奴隷パンツを履いているのだった。

 ううう……せめて町娘パンツに履き替えたい!

 もしもだよ? もしもあの「もじゃもじゃ」の上にそっと降ろされて「では……」ってなったらどうしよう!?

 こんなボロボロの奴隷パンツ見られたら、私が極限まで奴隷をコキ使う最低な君主だと思われてしまう!

 カパ郎の洞窟内が、薄暗い事がせめてもの救いだった。

 カパ郎は常日頃マッパだったワケだし、着衣プレイ嗜好も無い……イヤ、だからこそって言う線もあるけど、とにかく、詳しく見られない様に最新の注意を図らなくては。

 よし、と私が自分を励ましていると、予想通りカパ郎がそっと私を寝床のもじゃもじゃの上に降ろしてくれた。

 自分の縄張り内だと言うのに、彼は落ち着きない様子で、私と目を合わせようとしなかった。


「その……なんじゃ、自分ちにりおながおるのは、照れるのう」


 なんて言うので、私は自分の鼻息が荒くならない様に、未だかつてない程神経を集中させて俯いた。


「う、うん……そうだね……」


 カパ郎はそんな私を見て、いえに連れ込まれて恥じらっているとでも思ったのだろう。

 慌てた様子で私からパッと離れて、


「そ、そうじゃ、皿、皿!」


 と言うと、洞窟内の隅にある小さな朱塗りの卓の傍へ行き、卓の上に大事そうに置いてあるお皿をそそくさと手に取った。


「りおな、これがカッパの皿じゃ」

「へぇぇ~」


 正直脳内がそれどころじゃ無くて、カッパのお皿とかあんまり興味が湧かないのだけれど、私はカパ郎が大事そうに持つお皿を覗き込んだ。

 白に近いクリーム色をしたお皿は、少しザラザラした表面をしていた。

 大きさは、小さめのデザート皿くらいで、カパ郎の頭に丁度良い大きさだ。

 カパ郎は誇らしげに「良い皿じゃろ?」と言うけれど、お皿の良し悪し基準が判らない私は曖昧に頷くしかない。

 カパ郎は私の曖昧な返事に満足した様子で一つ頷くと、水の中にお皿をザブンと入れて、水の滴っているのを頭にヒョイと乗せた。

 ああ、カパ郎が完璧に……。

 私は初めて見る完成形態カッパに、切ない気持ちになる。

 また見えない距離が出来た気持ち。

 でも、負けないよ。私はカパ郎が好きなんだから。

 気持ちを強く持つ様に自分を奮い立たせていると、カパ郎が私の抱えていた夏雪葛に手を伸ばした。


「りおな、夏雪葛を」

「う、うん……」


 カパ郎の手に夏雪葛を託すと、カパ郎は微笑んでそれを自分の膝辺りで一振りした。

 小さな花が幾つか散って、ひらひら落ちる。とても儚い光景だった。

 カパ郎は更に夏雪葛を一振り。今度は腰の辺り。

 一体、何が始まるんだろう?

 不思議そうにしている私に、カパ郎が微笑む。

 本当に、どうしてこんなに優し気に微笑む事が出来るんだろう。


「りおな、良く見ておるのじゃ」


 そう言って、彼はまた白い枝を胸元で一振り。

 私は、目を見張った。


「カッパはの、夏雪葛の枝と皿の力で」


 とうとうカパ郎の顔の前でしなやかな枝が振られて揺れた。


「人間に化ける事が出来るのじゃ」


 白い小さな花びらが、パラパラ散って落ちて行く。

 その先に―――。

 私は目を見開いた。かつてない程見開いた。


「か、カパ郎……!!」


 私の目の前に、甲羅も、小さな水かきも、くちばし? も無い、逞しい人間の美男子が立っていた。



本来(?)は、柳の枝や樫の枝、という説がありますが、綺麗なシーンにしたかったのと、期間限定(花が)の植物が良いな、と思い、夏の美しい名前を持つ夏雪葛にしました。

カッパがお好きな方や、妖怪に詳しい方は違和感を持たれるかもしれませんが、好き勝手に語られるのが物語の面白く、奥の深い所、という事で、わたくしのカッパストーリーです。お許し下さいませ。

(まぁ、姿からして邪道なんですけどね。すみません)

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