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泥にもがいて

 言いたい事を言ってしまうと、段々興奮が冷めて来た。

 そうなってしまうと、熱くなっていた自分が恥ずかしくなって来る。

 自分が初めにカパ郎を不安にさせたクセに、お菓子を買って貰えない子供みたいにギャンギャン吠えたててしまった。

 こちらを真面目な顔で見ているカパ郎の瞳に映されて、私は居心地が悪かった。

 揺らめく焚火の光を反射してキラキラ光るカパ郎の瞳は本当に綺麗で、そういうものに映され慣れていない私は、聖なる光を浴びた魔物さながらに「う……うう……」などと呻いて消えて行きたい気分になった。

 瞳からセイント☆ビームが出せる相手に、私はしおらしく縋り付くどころか般若面でオラオラと説教っぽく責め立ててしまった。

 おひとり様の呪いを解くには「愛し愛される事」、この二つの条件を満たさなければいけないと言うのに、こんな攻撃的で我儘な野獣女、一体誰が愛してくれるのでしょう。

 と言うか、「愛し愛される事」って物凄い難易度じゃない? アノ野獣は本当に良くやったよ。美女がもふもふ好きだったのかな。私はもふもふじゃないからなぁ……。

 余計にもそんな事を思いながら、カパ郎の瞳を見詰め返し、どうにかして繋ぎ止めようと更に口を開き……でも、もう何も出なかった。

 何を思ってこちらを見ているのか分からないカパ郎の姿に、ただただ胸が締め付けられた。

 無理に声を出せば、たった一言漏れて掠れた。


「す、き……」


 これだけなのに、どうして。

 理不尽な事ばかりだ。なにもかもにケチが付くのは、私のせい?

 いつも体当たりで頑張っているつもりなのに、報われないのは……まだ努力が足りないから?

 視界がゆらゆら揺らめいて、コッチにあった焚火の光がアッチに見えたり、大きくなったり小さくなったりして零れ落ちては、また新たな膜の中で同じように照っている。

 鼻からは寒くも無いのに鼻水が垂れて来て、盛大に啜り上げると、額の辺りがツンと痛んだ。


「りおな……すまんのじゃ」


 カパ郎が申し訳なさそうに言った。

 何が何だかもう分からない視界の中で、ぐにゃぐにゃのカパ郎が立ち上がるのが見えた。

 自分の鼻を啜る音の端で、カパ郎の足音も聴こえた。

 やっぱり私は無茶をカパ郎にぶつけたんだ、きっと川へ帰ってしまうんだ、と絶望的に胸の中を冷やして目を閉じる。

 大粒の雫が、頬をかすめて真っ直ぐ落ちて、サンダル履きの素足に落ちてぬるく溶けた。


 カパ郎、カパ郎……行かないで。

 怒った顔や声を最後の思い出にしないで。

「そうだね、さよなら」って綺麗に微笑んでおけば良かった?

 そうしたら、ずっと綺麗な思い出になった?

 いっつもいっつも、私は自分で自分に泥を塗っているみたいだ。

 私の局面は毎回泥試合だ。しかも多分、自分からダイブしちゃってる。

 今だって、まだ足掻こうとして何か良い言葉を探してるから、本当に意地汚いったらないのかも。

 気持ちを繋ぐ言葉を「えぐえぐ」言いながら吐こうとすると、やっぱり「すき」しか出て来ない。

 しかも、心も顔面もぐしゃぐしゃだから、「ずぎぃ……ずぅぅぎぃ……」と不気味な生き物の鳴き声みたいだった。


「すまん、りおな」


 なんで謝るんだろう?

 謝らなくても良いのに。謝って欲しくなんて無いのに。


「ずぴぃ……ずずっぎぃぃぃ……えぐっ」

「俺はりおなと同じ気持ちでおらなんだのぅ」

「……ぐ……ぐぅぅ……えぐっ」


 本音を言えと言ったのは私だ。

 だから、カパ郎の言葉に私は頷いた。


「俺は……」

「いいよ……もう、行って……」


 泣こう。滅茶苦茶泣こう。もう泣いてるけど、カパ郎が行っちゃったら、もっとこう……足の無い生き物みたいにグネグネうねって泣こう、と心に決めながら、私はカパ郎を促した。

 これ以上は、引き止められない。

 こんなにカパ郎を近くに感じるのは、きっと願望とか妄想とかそういうのが混じった幻覚だよね?


「ん、言うのじゃ」

「うぐむぅぅ……もうわかったよカパ郎、行ってったら……」

「今、言うのじゃ」

「もう、行って!!」

「ほんにせっかちじゃのう」

「うぎぃぃ~! 早く行って!」

「好きじゃ、りおな」

「ふひぃぃんっ! カパ郎、幸せにね……っ」

「りおなが同じ気持ちなら、幸せじゃ」


 スッと、大きな手に顔を包まれた。少し湿り気のある指が、私の汚い涙を優しく拭って、視界を晴れさせた。

 直ぐ目の前に、カパ郎の丸くて綺麗な目が微笑んでいた。


「好きじゃ、りおな。それだけでいいンなら、好きじゃ」



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