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我儘なシャウト

ラップをやってみたかったのですが、うまくいきませんでした。

すみません。

 空には星が瞬いていた。

 ロッジのポーチに灯した電飾の灯りと、三匹のカッパが起こした小さな焚火が無ければ、辺りは真っ暗闇だ。

 虫たちは私達の重たい空気を感じているのか、はたまたジッと高みの見物でもしているのか、ちっとも羽を震わせない。ついさっきこの辺りにピョンピョンとやって来たのか、事情を知らずに鳴く虫もいたけれど、直ぐに気まずそうに音を途中で止めるといった具合だった。


『ヨオヨオ、イヤー、この辺のオス静寂脆弱? サマーナイトにサイレンナイツ☆ どうかしてるぜ俺はしねぇぜ、静寂と同化! ヒョウッ ラッキー呼び込み放題じゃん? オラオラ、俺様のカレーよりホットで華麗な音にチェケラッて来いヨかわいこちゃん! え? アレ? なんだよオスいるじゃん! ヨオヨオお前ら玉虫? 玉無し? どうしたの?』

『バッカ、お前ちょっと静かにしろよ。踏みつぶされんぞ!』

『マジで? つぶさにヤッベー……それヤッベー……』

『気を付けろ、メスのヒステリーパワーはスゲェからな。感情波に吹っ飛ばされない様に草にしがみ付いとけよ!』

『やれやれ、夏の虫のテンションが落とされるとはな……! とんでもない火事場に飛び込んじまったぜ! ファッ〇ンマザー!』


 こんな虫たちの会話が聞こえて来そうだった。

 カパ郎は私の醸し出す空気が変わった事に気付かずに、幅広の肩を小さくしてボソボソ言った。


「楽しかったのじゃ、りおな、ありがとう」

「そんなありがとうなんて聞きたくない!!」

「りおな?」


 私の出した大声に、カパ郎はようやくこちらを見て、ギョッとした顔をした。

 それもそのはず、私はとても怒った顔をしていた。


「それって優しさのつもり? カパ郎は私から優しさが欲しいんじゃ無いって言ったよね? 私だってだよ! 優しさなんて要らない!! 欲しいのは本音だよ!!」


 久志、いや、久死! 私は本音が欲しかったよ。

「もうお前は要らない」でも「巨乳の方が良い」でも何でも良い。そういう本音をぶつけて欲しかった!!

「幸せに」? そんなの捨てる女に言わないでよ! 不幸の根源がああああああ!!


「りおな……じゃが……」

「じゃがじゃない! 言ってよ! 本当は名前を知られてるから私に優しくしてただけとか、やっぱりカッパの女の子の方が良いとか!! あのAV女優のが可愛いとかさぁ!!」


 私は勢いに任せてとにかく不安だった三点をカパ郎にぶちまけた。

 この三点は今のテンションじゃなきゃ聞けないと思った。

 特に名前知ってる問題については、しんみり聞いては余計に答えにくいと思ったし、カパ郎もこの勢いに乗ってくれれば本音をウッカリ言うかも知れない、と私は計算をしたのだった。

 それから、彼が夢中になっていたAV女優は私の十倍は可愛かったのだった。

 かくしてカパ郎は勢いよく首を振って、私の不安を打ち消してくれた。


「そんな事思っとるわけないじゃろう!」

「本当!?」

「本当じゃ。りおなは弱みに付け込む様なオナゴじゃないと、俺は信じとるのじゃ! カッパでのうても、俺はりおなが良いし、『えーぶいじょゆう』がなんなのかよう解らんのじゃが、りおなは可愛いのじゃ!!」

「か、カパ郎……♡」


 あ、駄目だ! まだだよ里緒奈!!

 私は、ほだされかけた自分の頬に張り手して(こういう時は物理的刺激が一番)、気を引き締める。


「じゃあどうして帰れなんて言うの? 確かに私が躊躇したのが悪いけど、そんなにいきなりバッサリ言わなくてもいいじゃない!!」

「いや、こういうのは早い方がいいんじゃ」

「どうして?」


 カパ郎は、仁王立ちして彼を見ていた私を見上げ、少し呆れた様な顔をした。


「どうしてじゃと? わからんのか。無理に引き止めて『やっぱり駄目じゃった』となるよりお互いいいじゃろう」


 ひぃぃっ、ごめんカパ郎! 私は正直そこまで考えてなかったよ!! カッパって頭の回転早いんだ。イヤ、私がアホなだけか。目先のカパ郎にしか気持ちが行って無かったよ!

 イヤイヤ!! でもだからこそ、今、アホな私の勢いが大事な気がする。

 楽しい事をたくさん二人で迎えようと期待していた能天気さが、必要な気がする!

 がんばれ里緒奈!!

 こんな素敵なカッパを失ってなるものか!!


「は、ハイ! ……ええと……それって、『私の為に』じゃないよね!? 」

「な、なんじゃと?」

「だって! 『やっぱり駄目じゃった』ってガッカリしたくないのは誰!?」

「……」

「語尾が『じゃった』だからカパ郎だよね!?」


 物凄いこじつけだけど、近い! 近いよ、近いと思う!!

 カパ郎は情け無さそうに「むぅぅ…」と顔をしかめて、小さく頷いた。


「俺かもしれんのう……じゃが、りおなは山の暮らしに躊躇しておるじゃろ」


 フフフ、カパ郎、やはりソコか。

 ではこれを喰らうがいいわ!!


「じゃあカパ郎は私と街で暮らそうって言われたらどうする!?」

「!?」


 ビックリした顔のカパ郎に、必殺鏡面返し(今名付けた)のキマッた私は「やはりな……」と内心武士顔でニヤリとした。

「そ、それはじゃの……」とカパ郎は私から目を逸らした。

 カパ郎だって今とガラリと違う環境に怖気づいてんじゃん!!

 ほらねほらね!! 無茶は承知だけどね! 


「ほら、戸惑ってるじゃない!! 私の気持ちが解った!? いきなり言われたら戸惑うでしょ!? オッケーって飛び込むには、私達はたくさん一緒にお互いを知ったり考えたりしなきゃいけないんだよ!! 私は人間で、カパ郎はカッパなんだから!! それを何!? いきなり上手く行かない未来を予想して私を追い返そうとするなんて、酷いよカパ郎!! そんなんだったら、好きとか言わないでよ!! ま、まままだ言われて無いけどね!!」


 ま、ままままだ言われて無かった。

 動揺しつつ、私はポカンとするカパ郎に、言葉の勢いが止まらない。

 問題の先送りなのはわかってる。

 そうする事で痛い目を何度か見ても来た。

 自分が傷つくのは嫌だし、カパ朗が傷つくのはもっと嫌。

 けれど、私は立ち向かいたいな。可能性があるなら。

 占い師は一夏の恋って言ってた。

 でも、私は一夏でなんて足りないよ。

 もっともっとカパ朗とたくさんの夏を一緒に感じたい。

 せめて、『やっぱりダメだったね』って笑い合えるような……そのくらい、後悔無く深く。

 ううん! 『やっぱりうまくいった』ってなれるように……!!


「『私の為に』なんて私の為にならないよ! 私を想うなら私のしたい事をさせて!」


 カパ郎は目をシロクロさせて、くちばし? をぱくぱくした。

 当たり前だ。私の言葉は我儘だ。でも、これが受け入れられないならカパ郎は、はなから私とは無理だ。

 だって―――。


「私のしたい事はね、幸せはね……カパ郎と一緒の気持ちでいる事」


 ああ、私はとても我儘だ。

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