異世界バーベキュー後半
エルフの里でのバーベキューも順調に進み、みんな笑顔で食事をしてくれている。
「そろそろ飲むか?」
おにぎりを配り終わった太一が聞いてきた。
まあ、いい頃合いだろう。
「すいませんサキさん、此処にもお酒ってあるんですよね? どんな物か飲んでみたいんですけど」
「ふむ、......サクヤ様にお伺いを立ててみよう」
とりあえず、ここの酒を飲めば俺たちの持ってきた酒が平気か分かるだろう。
強いアルコールが駄目なら最悪水で割ってしまおう。
逆にすっげえ強い酒飲んでたらどうしよ。
「此処のお酒ですか? 伊勢会から買った物が少しは残っていると思いますが」
「それを一口頂ければ、僕たちの持ってきたお酒の飲み方も少しは参考になりますんで」
「そういう事であれば構いませんよ、どうぞこちらへ」
結構、貴重品だったりするのかな?
確かにお酒を説明したときに目が輝いていたような。
案内されたのはサクヤ様の屋敷の奥にある薄暗い部屋だった。
そこに置いてある小さな瓶に酒が入っているようだ。
「さっそく太一殿に頂いた器を使わせて貰いましょう」
サクヤ様がネコが描かれた可愛いお猪口に酒を入れてくれて、俺がそれをクイっと口に入れると彼女は少し驚いたようだった。
ふむ、酸味があるな。
乳酸菌飲料みたいだ。
でも、これアルコール結構入ってるな。
「お強いんですね」
サクヤ様はお猪口の酒を一気に飲んだ俺に驚いていた。
同様にサキさんも驚き顔だ。
「そうなんですか?」
「はい、そんなに一気に飲んだら倒れてしまいます」
ふむふむ、エルフは酒に弱いと。
「僕たちの持ってきたお酒はこれの倍ぐらいきついお酒なんですよ」
「あらまあ」
サクヤ様は少し嬉しそうだった。
「味は落ちるかもしれませんが水で割って飲むという方法もありますけど」
「いえ、そのまま頂きましょう」
サクヤ様は少々食い気味で言ってきた。
お酒好きなのかな?
「サクヤ様はお酒お好きなんですか?」
「はい、とても」
おおう、すごい笑顔で返ってきた。
「そ、そうですか。次は色々なお酒を持ってきますね」
「それは、素晴らしい。お土産を催促するようで恥ずかしいですが期待させて頂きますよ」
すごい笑顔だった。
花が咲いたよう。
それも1輪じゃなく、花見会場の桜が一気に満開になったような感じだ。
ちょっと凄すぎて引きそうになった。
残念なのはその笑顔を写真に収められなかった事だろう。
そんな訳で、俺たちの持ってきた酒はそのまま飲むことになった。
みんなが手にしたお猪口に酒を注いで回る。
サクヤ様には最後に注いでくれとサキさんに言われた。
そういうしきたりかと思ったら、最初に注がれると我慢するのがきついらしい。
そしてようやくお酒を飲める年齢に達しているという女性達に酒を注ぎ終わり、サクヤ様の前に立った。
「さあ、どうぞ」
「でわ、お願いします」
彼女は両手に持ったお猪口を捧げるように出してきた。
俺はそこに酒を注いでいく。
エルフの里は静けさに包まれた。
騒いでいた子供たちも、静かに大人たちの事を見つめている。
サクヤ様が無言でお猪口を口に運ぶと、他の人達もその動きに合わせるようにお猪口を口に運んだ。
「ふわぁぁぁぁぁぁ」
里全体が、そんな甘い吐息に包まれた。
「これは美味しいお酒ですね」
ほんの少し口をつけただけのように見えたが、そう言ったサクヤ様を含めお酒を飲んだ女性が全員頬を染めてうっとりとしていた。
俺は無我夢中で写真を撮りまくった。
エロフか? エロフなのか!?
まあ、顔に酔いが出ただけで期待していたような変化は起きなかった。
食事も終わり酒も振る舞ったので、そろそろ宴も終わりかと思ったところで、サクヤ様が口を開いた。
「数々の品を振る舞っていただき心より礼を申し上げます。こちらからは大したお返しも出来ませんが、せめてもの感謝として唄を聞いていって下さい」
「は、はい」
「おい亘、それって動画も撮れるよな」
「お、おう」
「撮っておけよ」
「任せろ」
俺はデジカメを動画モードにして構えた。
エルフの女性達は楽器を手にして誰の合図も無しに演奏を始めた。
弦楽器や笛の音、太鼓の音が里に響いていく。
風にそよぐ葉の音も楽器の一部のように旋律を奏で曲の一部になっていた。
それだけでも夢心地な気分になっていく。
そしてサクヤ様がひとつの楽器のように唄いだした。
俺たちは音に包まれ。
心が解き放たれるような感覚を覚え。
泣いていた。
エルフの里に静けさが戻ってきた時には、只々感動して止めどなく涙がながれていた。
「す、素晴らしい! 感動してこんなに泣くなんて初めてです」
「ああ、凄かった。まだ、震えてるよ」
「な、なんも言えねえ、感動したっ!」
「はわぁぁぁ、感動で漏らしそう」
啓吾、それは我慢しろよ。
「喜んでいただけたようで、こちらも嬉しいです。せめてものお土産に、こちらをお持ち下さい」
そう言って渡されたのは、以前監視についた少女から貰った、木の実の樹液漬けと干した果物だった。
「ありがとうございます。最後にみんな集まって写真を撮ってもいいですかね?」
「ええ、どうぞ」
サクヤ様は快く了承してくれた。
俺はセルフタイマー機能を使い、エルフの里の人々との集合写真を撮った。
今回のバーベキューは大成功だった。
俺たちは、また来ると約束し、意気揚々と元の世界へと帰っていった。