エルフの里、再び
みんな気合いが入っているのか、普段から朝が早いのか、早朝から俺の家にみんな集まり、おにぎり作りに精を出していた。
我が家の物に加え、各自が持ち込んだ炊飯器から次々と炊き立ての米の湯気が部屋に漂う。
食べさせる相手は女性なので、少し小さめに握っていく。
米の味を感じて貰おうと、具無しの塩おにぎりだ。
大量に具を用意出来なかっただけなんだけどね。
「米食えないとか言われたら最悪だな」
「ああ、向こうの食事事情はまったく分からなかったしな」
俺たちは最悪それでもいいと思っていた。
物の溢れた現代社会なら彼女たちに好まれる物もきっと見つかると思っていたからだ。
だが、里で自分たちが作った米をおいしいと言って貰いたい気持ちは当然大きかった。
完成したおにぎりに『鳥八』で買った焼き鳥と日本酒。
啓吾の自家製ベーコンに太一の陶器と炭に加え、バーベキューセットにまな板と包丁。
各自冷蔵庫からも食材をかき集め、かなりの量となった荷物を背に鏡石へと至る山道を見上げた。
「結構、きついな」
「じゃあ、行くのやめるか?」
「まさか」
そんな訳ないだろうと鼻で笑った。
「行くぞっ!」
「おうっ!」
俺たちは掛け声と共に山道を登っていく。
たいした距離じゃないが、荷物の量が半端じゃなかった。
「今後もエルフの里とお付き合いするなら、何か考えるか」
「そうだな。最低でも道は歩きやすくしたいな」
「すいませんな」
俺の管理怠慢のせいで山道は荒れていた。
「ふぅぅぅぅ」
「ぶはぁぁぁ」
「ひぃぃぃぃ」
盛大にみんなで呼吸を荒げる。
「な、なんで誰も水持って来ないんだよ」
「も、もう少しだ。向こうに着いたら、まずは水を貰おう」
「さ、さあ行くぞ」
「お、おう」
すでに出発の時の元気はかなり無くなっていた。
重くなった足を彼女たちに会いたいという思いで進めていく。
そして俺たちは鏡石を抜けた......。
****
「......誰も居ないな」
「ああ、そうだな」
「と、とりあえず荷物下ろそうぜ」
「か、肩がつぶれる」
俺たちはとりあえず荷物を下ろしていく。
一気に軽くなる身体に少し感動した。
「おお、なんか高くジャンプできる気がしない?」
「本当だ、いいね」
「修行の成果だな」
「おりゃっ! おりゃっ!」
俺たちは4人でぴょんぴょんと飛んでいた。
「何をしているんだ? 異世界の儀式か?」
やや冷ややかな声がした。
見れば、おっかないエルフ姉さんの『サキ』が、この前と同じく4人のエルフ少女を連れて立っていた。
「いやだなあ、見てたのか」
「楽しそうなんで、結構見てたぞ」
サキに馬鹿にしたような笑みを向けられた。
美人だけど苦手だな。
お土産やらんぞ。
「お土産持って来たんですけど、とりあえず水貰えませんか?」
「えっ? お土産!?」
それに食いついたのは4人の少女。
そしてサキの声が響く。
「お前たちっ! まずは客人に水を持って来るのが先だろう」
「は、はいっ!」
「すまんな、すぐに水を用意する」
「いいんですよ、ありがとうございます」
俺が笑顔で言うと、サキはまたしても馬鹿にしたような笑みを向けてきた。
......まさか、これがデフォルトか?
「ごめんなさい」
そう言って美しくも可愛い少女たちから水を受け取る。
「ありがとう」
礼を言って水を喉に流し込んでいく。
生き返るぜ!
「ぷはぁ、生き返ったよ」
「お土産いっぱい」
俺に水をくれた少女『サヤ』は目を輝かせて俺たちの荷物を見つめていた。
「随分と沢山持ってきたんだな」
サキも同じように荷物に目をやっていた。
「ええ、ほとんどが食べ物ですけど、俺たちの村で穫れた物ばかりです」
「おお、では運ぶのを手伝おう」
「いや、女性に運ばせるなんて......」
そう言ったが早いか、彼女たちは俺たちの荷物を軽々と持ち上げていく。
田舎育ちで体力には自信のあった俺たちだが、上には上が居ると思い知らされた。
「すげえな」
「ああ、少しショックだ」
「変な気起こしたら返り討ちに合うな」
「気をつけようね」
「逆に襲われたりして」
「それもいいけどな」
「おい、どうしたんだ? 行くぞ!」
俺たちの下心満載の会話はサキの一言で終了した。
身軽になった俺たちは、足下に気をつけて山道を降りていく。
荷物を背負った彼女たちのほうが軽やかに歩いていくのに、また驚いた。
なんとか山道を下りて里の中へと入っていくと、沢山の住人が出迎えてくれた。
そして、その中から一人の女性が進み出てくる。
「ようこそ異世界の方々、こんなに早く来てくれるとは驚いていますよ」
そう言って迎えてくれたサクヤ様は相変わらず女神のような美しさだった。