エルフとの出会い
突然飛んできた弓矢と「動くな!」という言葉に俺達は一様に驚いた。
「え?」
驚いて少し動いたら、もう一本飛んできた。
ほんのちょっと動いただけなんだよ。
「......動くなと言ったはずだ」
その言葉に俺達は全員、両手を挙げてその場に固まった。
「ま、待ってください! 僕達は怪しい者じゃないんです」
全員が固まる中、震えながら啓吾が口を開いた。
やるな啓吾、もう啓子なんて呼ばないからな。
「エルフの里に入り込んで怪しくないだと? どうやってここまで入り込んだ!?」
ああ、殺気って感じるんだね。
もうピシピシとプレッシャーが襲い掛かって来てます。
「い、異世界だ! この石を通って異世界から来たんだ!」
「なんだと? ......伊勢会の者か......しかし、この聖域に無断で入る事など認めてはいないはずだぞ? それに石からだと?」
俺の思わず出た言葉に彼女の殺気が弱まったように感じる。
それにしても、............美人だ。
かなり離れているが、彼女たちの美しさはかなりの物だと分かる。
しかも聞き間違いじゃなきゃ、エルフって言ったよな。
とにかく怒ってるみたいだし謝っとくか......。
「えっと、......すいません」
「......とにかく、身元が確認出来るまで捕らえさせて貰う」
「おい? やばくねえか?」
「確かに。......いちかばちか石に飛び込むか?」
太一の言葉に鏡石に目をやるが、結構な距離がある。
彼女たちが構えた弓と、向けられる殺気が、その距離を余計に遠く感じさせた。
「何をこそこそ話している」
木から降りて近づいてくる女性に俺達は全員目を奪われた。
遠くからでも美人だと分かったが、間近で見ればなお美しい。
胸当てを着けているが、その下の服装はどこか着物っぽく、丈は短くミニスカートぐらいだ。
露出した太股が眩しい。
革の袋みたいな靴を履いて腕とすねには布を巻き付けている。
淡い緑の髪は木々の隙間から差し込む日の光に宝石のように輝き、整った顔立ちは大好きだったアイドルの事を忘れてしまうほど美しい。
そして、髪から飛び出るように出た長い耳......。
本当にエルフ?
彼女に見惚れる啓吾に、こんな状況だがこいつも男なんだなと思ってしまう。
「さあ、行くんだ」
だが、彼女が腰から剣を抜いた瞬間に一気に寒気に襲われ俺達は顔を青くした。
俺達の後ろには、それぞれ1人ずつ女性が付いて、最後尾から話をした女性が睨みを効かせている。
後ろに付いた女性は、まだ高校生ぐらいの年齢だろうか、女性と言うよりは女の子といった感じだ。
俺は動揺と恐怖からか足に上手く力が入らないように感じた。
「うわっ!」
案の定、俺は足を踏み外したのだが。
「大丈夫ですか?」
俺の後ろに付いていた女性が、素早く動き手を添えてくれた。
あ、いい匂い。
「あ、ありがとう」
見れば彼女もほんのりと頬を染めている。
「い、いえ。足下に気をつけて下さい」
「う、うん」
「しっかり歩け!」
その厳しい口調はどこか上司の女性を思い出させる。
そう思って彼女を見たら、思いっきり睨まれた。
見ただけじゃん......。
そのまま山を下りていくと、木々の数も少なくなっていく。
そして、その木々の間に木造の家が建っているのが目に入ってきた。
その家々は粗末な物ではなく手の込んだ装飾が施されたもので、どこかうちの神社を思い出させる。
「とりあえず、ここに入っていろ。......お前たち、私は里長と話をしてくるからこいつらを見張っておいてくれ」
「「「「はい」」」」
案内された家の中で、隅に固まり小声で話し合う。
エルフの女性たちは俺達と対角線の位置から俺達を監視していた。
殺気こそ感じなくなったが、いつでも抜けるようにと手元に置いてある剣が、俺達の緊張を緩めることを許さなかった。
「どうすんだよ?」
「とりあえず今日は土曜で月曜は祭日だから明後日までは仕事は休みだな」
「そうじゃねえし、......それに農家に休みはねえし」
「家畜の餌やりどうしよ~」
「やべえな、明日耳川の婆さんとこの屋根を直しに行く約束してたんだ」
俺は村役場に勤め、一応神主をやっているが、他の3人は基本は農家で副業として色々とやっている。
タケシは大工、太一は炭焼きと陶芸、啓吾は畜産を営んでいた。
捜索願いは......。期待できないかもしれない。
俺達が、休日に姿を消すのは珍しい事ではなかったからだ。
「それよりも、ここがどこかって事だよ」
「エルフの里だろ?」
太一は適応力高いな。
「やっぱり異世界だろ、亘が自分で言ってたじゃないか」
タケシよ、俺が言った事を何でも信じる癖を直した方がいいぞ。
「やっぱりエルフなんだよな」
「だな、すげえ可愛い」
「ああ、半端ねえな」
「うん、可愛い」
ここは異世界で、エルフは可愛いと言うことで意見は纏まった。
そんな話をしていると監視の女性達が距離を近づけてきていた。
「ねぇ、これ食べる?」
そう言って来たのは、タケシの後ろに付いていた女の子で、当然のように美人なのだが、元気が良さそうな印象を受けた。
「う、うん。何これ?」
「木の実を焼いた物を、甘い樹液に漬け込んだ物だよ」
「へぇ、貰うよ」
「お、美味いな」
「あ、美味しい」
「これは、いけるな」
「こ、これも、どうぞ。果実を干した物です」
俺の後ろに付いていた子が、赤い干し柿みたいな物を差し出してきた。
干した果実と同じくらい顔を赤くしている
「ありがとう。......うぉ、甘いね」
「あ、お水持ってきますね」
彼女はそう言って、トタタと家から出ていく。
やっべ、超可愛い......。
暫くすると彼女は、さっきのおっかないお姉さまと一緒に家に入ってきた。
「見張っておけと言ったはずだが?」
その言葉に彼女たちは慌てて俺達から離れていく。
「......まったく。里長がお会いになるそうだ、来い」
彼女は見張りの女性達に呆れた視線を送る。
そして俺達は家から連れ出され、里長の元へと案内された......。