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鏡石

 俺の家は村でも歴史が深く、かつてはこの村を治めていたらしい。

 その名残は村や神社の名前にも残っている。


 長耳村と長耳神社。

 そして俺の家は『長耳家』だ。


 残念ながら、今では古い神社と親父の残した一軒家ぐらいが俺の財産だ。

 過去の権力はどこへやらだ......。


 神社もあるだけで年1回の掃除ぐらいしかしていない。

 夏祭りも初詣も、みんな町まで行って楽しんでいる。

 一応神主の俺も町に行きたいぐらいだ。


 参拝にやってくるのは僅かな老人だけで、それも年々少なくなっている。  

 そんな神社だが、立派な御神体だけは奉られていた......。


****


「うわぁぁぁぁぁ!」


 俺は叫んだ。

 とにかく叫んだ。


「とりあえず警察か?」

「役場は......亘が役場の人間だしな」


 親父の残した一軒家には巨大な石。

 御神体の『鏡石』がめり込んでいた。


「すぐ来てくれるってよ」

 

 俺は武の言葉を呆然と聞いていた。


 俺も親父に危ないって言ってたんだよ。

 まあ、俺も何にもしないで放って置いたんだけどさ。

 

「今日はうちに来いよ」

「ああ、すまないな」


 その日は武の家に泊めてもらい、翌日改めて家を見に行くことにした。


****


「思ったより酷くないな」

「そうだな」


 鏡石は柱を避けて居間に突っ込んでいたため、比較的被害は少なかった。

 ただ、補修の事を考えると、財布への被害は大きい。

 この石の撤去にも金が掛かるだろう。


 元の場所に戻す?


 俺は御紳体が奉られていた、家の裏手の山を見上げた。


 この石をあそこまで運ぶだと......。


 考えたくもない。      


 まあ、良い方向に考えれば命が助かったと思える。

 あの時、居間に居たら鏡石に押し潰されていただろう。


 とりあえず鏡石は神社の庭に置いておく事にした。


 ここなら参拝客も山を登らないで済むから喜ぶだろう。

 

 家の補修は追々やっていくことにしよう。

 幼なじみの3人も手伝うと言ってくれている。


「テレビでやってるみたいに、おしゃれにしようぜ」

 なんて太一が言っている。


 匠はどこに居るんだ?


「とにかく、鏡石があった場所を見てくるけど、行くか?」


 俺の言葉に3人は頷いた。


 俺の家の裏手の山を登ると、御神体を奉っていた社がある。

 転がった鏡石に所々破壊されているのが見て取れた。


「なんだこれ?」

「石? かな?」

「真っ黒だな」

「これが本当は鏡石なんじゃないの?」


 鏡石が置かれていた場所の奥には、真っ黒な石が置かれていた。


 その表面は平らで啓吾の言う通り、これが鏡石なんじゃないかと思わせる物だった。


「まるで水面みたいだ......」


 俺はその磨きあげられた鏡のような表面に指を伸ばした。 

    

 チャポン......。


「え?」

「「「え?」」」


 俺は慌てて指を引き抜く。


「入ったぞ」

「ああ、見てた」

「水面に指を入れたみたいだった」

「も、もう一回やってみろよ」

「や、やだよ」

「お前の家の物だろ」

「し、知らねえよ」


 俺達は散々揉めたあげく、この場所の責任者である俺が触ることとなった。


「い、行くぞ」

「おう」

「行くからな?」

「お、おう」

「本当に行くからな!?」

「「「早く行け!」」」


 俺は3人に背中を押された。

 押すなよ! って言ってないのに......。



 ドボンッ!


「ありゃ? なんだここ?」


 水面に飛び込んだ感覚だったが、普通に森の中に俺は立っていた。

 周囲には木々が生い茂り、背後には黒い平らな石があり破損した社が建っていた。

 木が邪魔でよく見えないが、麓に民家らしきものも見える。


「通り抜けた?」


 感じとしては口に出した言葉のまま、水の膜を通り抜けたような感覚だった。


 ただ、服は濡れてはいない。


「ふむふむ」


 俺がもう一度黒い石に触れようとしたら......。


 武が黒い石から出てきた。


「何やってんだよ? 危ないかもしれないだろ」

「遅いから心配になってよ。じゃんけんで負けたしな」


 じゃんけんで決めたって......。本当に心配したのか?


「まあいい、戻ってみるか。......戻れなかったら最悪だな」

「本当だな」


 今更だが、準備不足だなと心の中で呟いた。


 だが、どこか長耳村と似たような風景に油断していたのかもしれない。


 結局、俺と武は本当の鏡石と思われる黒い石を通り抜け元の世界に戻ることが出来た。


 そして全員、通り抜けられることも確認できた。


「どうするよ?」

「どうすっかなぁ?」

「警察に連絡するか?」

「どっかの研究機関とかじゃない?」


「でも、こういうのって金になったりしそうだよな」

「ありえるな」

「もう少し様子を見てみるか」

「そうだね」


 俺達は近所の裏山にでも居る感覚だったのかもしれない。

 だから足下に弓矢が飛んできたときには凄く驚いた。


「動くな! 人間が何の用だ!」


 声の主は木の枝の上に居て、弓を俺達に向かって構えていた。


 よく見れば、それは何人も居た。

 そして、その全員が美しい女性だった......。

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