お返し
エルフの里を後にした俺は、一人自宅で首から下げられた木彫りのお守りを手に取ってみた。
スミちゃんの緊張した顔が思い出され、俺の顔も思わず綻ぶ。
お守りは小さな人型で、表面には良く見なければ分からないほどの細かい紋様が刻まれている。
見事な物だが、触れるのも躊躇うような美術品と云うわけではなく、手にしていると心が暖かくなり、いつまでも握っていたくなる。
......何かスミちゃんに、お返ししないとな。
ふむ。
いざ考えると、何を送ればいいか悩んでしまう。
なんとなく金属の物はやめといたほうが良いのかもしれない。
......俺はおもむろに立ち上がり、タンスを漁り始めた。
「母さんもタンスの肥やしにしてるよりは喜ぶよな」
俺が幼い頃に亡くなった母は美しい人だった。
それにいたずら好きで、無邪気で、まるで子供のような人だったのを覚えている。
病院に会いに行けば、いつも俺を笑わしてくれた。
そう、最後の時まで......。
おっと、涙腺が緩んだな。
ついでに言えば結構な浪費家で、よく通販に電話していたのを幼心に覚えている。
それにしても、よくもまあこんなに買ったもんだ。
タンスを漁れば、店でも出せるのではと思えるほどの宝飾品が出てきたのだ。
中には、どう見ても安物と思える物まである。
親父も母の浪費癖をよく叱っていたが、惚れた弱みか最後には許していたようだ。
「これなんか良いかも。......サキさんにも何か送っておくかな」
母さんも金属は苦手だったので、彼女たちにはちょうどいいだろう。
俺は彼女達に似合いそうな物を見繕い、その日は床に着くことにした......。
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「これ、昨日もらったお守りのお礼なんだけど」
「え!? こ、こ、こんな高価な物、頂けません!」
「いや、そんなに高価なものじゃないから遠慮しないで」
恐らくは高くても1万円程度だろう。
そんなに恐縮されると、むしろ恥ずかしい。
その様子を見ていたアマネちゃんがタケシをじっと見つめている。
がんばれタケシ。
「じゃ、じゃあ遠慮なく頂きます」
俺から真珠のネックレスを受け取った彼女は、家の屋根を越えるほど飛び上がって喜んでいた。
......凄いジャンプ力だな。
「に、似合いますか?」
「お、下りてきてくれないかな」
木の枝の上から言われても見えないのだよスミちゃん。
「す、すいません。あまりにも嬉しくって」
そう言いながら彼女は木の枝から、すとんと下りてくる。
その胸には淡いピンクの真珠が輝いていた。
「うん、とっても似合うよ」
「ありがとうございます。一生大事にします!」
......本当に安物だからね。
あまりにも彼女が嬉しそうなので、その言葉は胸の奥にしまっておいた。
「こっちこそありがとう、大事にするよ」
俺はそう言ってお守りを握りしめた。
そんな俺を真っ直ぐに見つめるスミちゃん。
周囲に人が居なければキスぐらい行けたかもしれないな。
「じゃ、じゃあ、サキさんの所に行くね」
「は、はい」
凄く名残惜しそうに俺を見送るスミちゃんと別れ、俺はサキさんの家へと向かっていった......。