神木
俺はサキさんの楽器作成を撮影するため、奮発してハンディタイプのビデオカメラを購入した。
役場の上司には嫁不足解消に向けた動きということで外出の許可を貰っている。
一応、農作業に励むマユさんの写真を見せて、啓吾とうまくいっている事を伝えてあるので、それほど否定的ではなかった。
耳を隠しているがマユさんは相当な美人なので、
「こんなに綺麗で可愛い子が村にお嫁さんに?」
と、驚いていた。
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「笛でいいかな?」
「はい、それで構いません」
「じゃあ、森の奥へ行ってくる」
「え? ええっと、ついていっても、良いですか?」
俺の言葉にサキさんは表情を曇らせた。
「ひょっとして、部外者立ち入り禁止とかですか?」
「いや、まあ神木の周囲は聖域ではあるが、それ以上に人の足では厳しい道のりなのだ」
「そ、そうでしたか」
「まあ待ってろ、手が無いわけではない」
そう言ってサキさんは、4人の女性を集めてきた。
村を訪れたときに監視についた4人だ。
そして彼女たちの方には小さな神輿の台座のような物が担がれていた。
「これに乗っていけ」
「ええっ!? まじっすか?」
「うむ、まじだ」
サキさんは少しニヤリと笑った。
「大丈夫ですよ、落としたりしませんから。でもしっかり掴まってて下さいね」
そう言ったのは監視の時、俺についたスミちゃんだった。
そして元気印のアマネちゃん。
少し大人っぽいランさん。
最後に無口なミナちゃんだ。
「よ、よろしくお願いします」
俺は彼女たちに頭を下げた。
そして彼女たちは軽々と御輿を担いで森を進んでいく。
......死ぬかと思った。
道のりを撮影する余裕もなく、俺は1時間ほどの山道を凄まじい速度で進む御輿にしがみついていた。
「着いたぞ」
「ひゃ、ひゃい」
俺は地面に下ろされた御輿に、未だにしがみついていた。
手に力を込めすぎて、なかなか開かない。
そして俺は目の前の光景に固まった。
「この神木の枝を使って楽器を作る」
「......すげえ」
サキさんは何気なく神木と言ったが、目の前の開けた空間にはビルのような大木の幹がそびえ立っていた。
視界を埋め尽くしそうな神木からは何ともいえない力のような物を感じる。
ほどよい緊張と安らぎを感じる不思議な空間だ。
息を深く吸えば、濃い自然の香りを感じられた。
サキさんたちは神木の前に膝を突いて一礼して、周囲に落ちている腕ほどもある神木の枝を拾いだした。
「帰りは神木の枝を積むから、少し乗り心地は悪いだろうが我慢してくれ」
「は、はい」
俺は慌ててカメラを手に取り、神木や枝を集める彼女たちを映像に収めた。
サキさんが4人の少女を纏め御輿に枝が積まれていく。
そして、
「じゃあ、帰るか」
と言われ、再び恐怖の時間が始まる......。
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「木で出来ているんですね」
俺はサキさんが手にした小刀を手にしてそう言った。
「ああ、その日の最後に明日使う物を作るんだ」
「この柄の部分もですか?」
俺は見事な装飾が彫り込まれた柄に目をやった。
「いや、作るのは刃の部分だけだ」
そう言ってサキさんは小刀を俺から受け取ると、刃の部分を外して見せた。
「なるほど」
「柄も痛めば造り直すが、これは......夫が作ってくれた物なんでな」
俺はその言葉と彼女が一瞬見せた表情に胸が痛んだ。
「す、すいません」
「気にするな、もう過ぎた事だし夫を亡くした者は私だけでもない。悲しむ時は過ぎ去っているよ。......さあ、始めるぞ!」
「は、はい」
彼女の言葉に俺はカメラを構えた。
サキさんは木製の小刀を手にして目を瞑ると集中していく。
小刀に魔力を流し込むそうだ。
そして、目の前に置かれた神木の枝をどんどん削っていく。
足を使って枝を押さえているため、開かれた股の間だから下着が見えている。
ついつい視線が行ってしまうが、彼女は気付いていないのか気にする様子もなく作業を進めていく。
緊張感を持った彼女の横顔は、普段よりも凛々しく、そして美しかった......。