両親の顔合わせ
俺達は鏡石への道がてら、啓吾の両親にエルフの里について説明していくが、どうにも半信半疑といった様子だ。
マユさんの容姿は非常に美しいが日本に居ないこともない。
淡い緑色の髪も今時の女性ならおかしいこともないだろう。
エルフを象徴するような尖った耳の形だが、ミスタースポッ○も尖ってたとか親父さんは言ってた。
宇宙人やん。
「なあ、啓吾。手ぶらで来ちまったが、良かったのか?」
エルフの里が嘘か誠かは別にして、マユさんの親代わりとも言える人への挨拶と云う事は理解しているので緊張もしているようだ。
格好はマユさんの訪問に慌てて着替えた一張羅を着ているので大丈夫だろう。
まあ、サクヤ様なら作業着でも嫌な顔はしないだろうが。
「昨日、沢山の土産は持っていってますから大丈夫ですよ。まあ、鏡石が通れれば、いつでも行けると思うんで、そのうち持って行きましょう」
「うちの手作りベーコン評判良かったよ」
「とっても美味しかったです、お父様」
「そ、そうかい?」
「はい」
マユさんは、親父さんを見つめてニッコリと笑った。
「そうか、美味かったか。美味かったか」
そう言って啓吾の親父さんは涙ぐんでしまう。
「もう、お父さんったら」
お袋さんは、そっと親父さんの肩に手を置いた。
「よしっ! 俺がマユさんを幸せにしてやるっ!」
啓吾の親父さんは、突然力強く叫んだ。
「あら」
「お父さん、それは僕の役目だよ」
マユさんはその言葉に口に手を当て、啓吾は親父さんに目をやった。
「いででででっ! ち、違う、親としてって事だ。痛い、痛い、痛い!」
親父さんは、お袋さんに思いっきり肩を掴まれていた。
「私にプロポーズしたときより心がこもってましたけど?」
「ちちち違うって、母ちゃんを愛してるって!」
「今から行くところは綺麗な女性が沢山居るみたいですけど、鼻の下伸ばしたら許しませんよ」
「は、はいっ! だから肩放して、御願い」
その様子に俺とタケシと太一は大爆笑し、啓吾は恥ずかしそうにして、マユさんは微笑んでいた。
「マユさんも厳しくしていかないと駄目だからね」
「はい、お母様」
「あぁ~ん、娘欲しかったの~。仲良くしていきましょうね!」
「はい」
嫁姑が仲良くなったところで、俺達は鏡石の前へと到着した。
「じゃあ、俺から行くぞ」
「頼んだ」
まずは、お手本とタケシが鏡石に入っていく。
水面にタケシの身体が沈むような光景に、啓吾の両親も口が開いたまま立ち尽くした。
「まずは指先で触ってみて下さい」
「お、おう。やってやる」
親父さんが気合いを入れて指先を鏡石に触れた。
トプンっと指先が沈む。
「おおっ! おおぅっ!」
親父さんは叫び声と共に慌てて指を引き抜いた。
「もう、臆病だねえ、行くよ!」
お袋さんは、親父さんの手を引いて、鏡石へと入っていった。
ドボンっと2人の身体は鏡石に入っていった。
やはり長耳家の系譜に連なる人は鏡石を通れるようだ。
それにしても今時は、男は臆病、女は度胸ってとこか。
俺達も後に続いて、今日2度目となるエルフの里へと入っていった。
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「こりゃあ、あんまり村と変わらんな」
「そうですね、村よりも自然は多そうですけど」
「そうだね、まあ里まで行ってみよう」
俺達はそう言って、里へ向かっていく。
里へ行けば、バーベキューで仲良くなった里の住人も挨拶をしてくれる。
そして、里には美女ばかりで......。
「いででででっ! 伸びてない、伸びてないっ!」
親父さんは思いっきり尻を抓られていた。
サクヤ様に会ったら親父さん殺されるんじゃなかろうか?
俺と啓吾は、ひとまず先にサクヤ様の屋敷に行って、啓吾の両親が挨拶に来たことを伝えた。
「それは、それは、歓迎いたします。遠慮なくいらっしゃって下さい」
との言葉を頂き、啓吾の両親を案内した。
まあ、予想はしていたが親父さんの鼻の下は、サクヤ様の美しさに伸びっぱなしで口まで開いたままだ。
さすがにお袋さんも、抓りはしなかった。
というか、一緒に見惚れていた。
「ようこそいらっしゃいました。大した歓迎も出来ない貧しい村ですが、ゆっくりしていって下さい」
「ひゃ、ひゃい。この度は娘さんを、ばばば、馬鹿息子に嫁に頂き、感謝感激であります!」
「ちょっと、お父さん緊張しすぎ。すいません」
「いえ、よろしいのですよ。啓吾様はとても素敵な方です。マユをきっと幸せにしてくれると信じています」
「あ、ありがとうございます」
親父さんのサクヤ様の雰囲気に飲まれ、まるで女王様か神様でも前にしたような態度に、さすがのサクヤ様も困り顔だった。
そして、なんとか挨拶もすませ、婚礼の儀についても簡単に説明を受けた啓吾の両親は、その後、里を回って見物していた。
「なんだか懐かしい感じがするわね」
「ああ、そうだな」
親父さんはお袋さんに声を掛けられても生返事で何かに気を取られているようだ。
また女性を見てるのかと睨むが、どうにも鼻の下が伸びていない。
そして、今でも愛する夫の凛々しい横顔に少し見惚れていた。
「どうしたの?」
「いや、鳥が吊されているなと思ってな」