啓吾とマユ
俺はとりあえず2人を家の中に招き入れ話を聞いた。
「なんで? 鏡石通れたの?」
「えっと、よく分からないんですけど。皆様が帰られた後、里の者全員で試したときには無理だったんですが......」
やったら通れたって事か?
なんでも、別れの際に啓吾が通ったあとの鏡石に触れたら、通れてしまったらしい。
何度か試したらしいが、問題なく行き来出来るようになっているようだ。
「啓吾、ゴムは付けたのか?」
啓吾は恥ずかしそう俯き左右に首を振った。
二人とも正座をして並んでいるが背筋を伸ばし俺をしっかりと見つめるマユさんの方がしっかりしているように見えた。
そして、しっかりと手を繋いでいる事を羨ましく思ってしまう。
「......小さかったんだゴムが」
その言葉に思わず吹き出した。
「それ、太一には言うなよ」
「う、うん」
男はサイズを気にする生き物だ。
まあ、ゴムを着けないでやったら通れたと。
「マユさん、素直に答えて欲しい」
「は、はい」
「啓吾の事をどう思っています?」
この質問にはマユさんも、顔を赤くして視線を少し逸らした。
「っ! ......お慕いしています」
赤い顔のまま視線を俺に戻してそう答えた。
「啓吾は聞くまでもないよな?」
「うん、彼女を愛してる」
ひゅぅ~、言うねぇ。
マユさん、更に赤くなったぞ。
「ふむ、身体を重ねたからなのか、気持ちが通じているからなのか。どっちかな? とにかくサクヤ様の所へ行った方がいいかもな」
「うん、亘に付いてきて欲しくて来たんだ」
「ああ、すぐに向かおう。マユさんが居なくなって心配しているかもしれない。タケシと太一にも連絡しておこう」
「亘、ありがとう」
「いいさ、でもゴムの事は太一に言うなよ」
「わ、分かったよ」
俺はすぐにタケシと太一を呼び出した。
2人が来るまで、俺の目を盗んではイチャイチャしているバカップルに少しイラついた。
俺もああなるのかな?
タケシと太一の到着は早かった。
仕事を放り出して来たのだろう、作業服のままだった。
「おおおおおおおっ!」
「なんで? なんで?」
「とりあえず落ち着け。今からサクヤ様の所へ説明に行ってくるけど、一緒に行くか?」
「おう」
「もちろんだ」
「みんなありがとう」
「ありがとうございます」
そうして幼なじみ4人組にマユさんを加えた5人は鏡石へと向かって山道を登っていった。
****
俺たちはエルフの里に到着すると、真っ直ぐにサクヤ様の屋敷へと向かった。
サクヤ様は俺の説明を黙って聞いてくれていた。
ただ、その表情はとても厳しいものだった。
「なるほど、よく分かりました。......マユ?」
「は、はい」
サクヤ様は厳しい表情を緩めて言った。
「幸せになるのですよ」
「はい」
その言葉にマユさんは、涙を流した。
「亘様、啓吾様とマユの心に繋がりを感じました。
鏡石の伝承にも、かつて身分違いの恋をした2人の願いを天が聞き入れ、新たな地への扉を開いたとあります」
「その新たな地が長耳村?」
「かなり古いおとぎ話のような伝承ですので真実は分かりません。ですが新たな地が皆様の住む場所なのは間違いないでしょう」
事実、村とこの里が繋がっているのだから、そうなのだろう。
だが何故、鏡石を封印していたんだろう?
「では? 心の繋がりが出来れば、この里の人たちも鏡石を通れると?」
「申し訳ありませんが、それは私にも分かりません」
「その前に、俺たち以外にも長耳村の鏡石を通れるかを確認したほうがいいかもな」
俺はタケシの言葉にうなづいた。
俺たちの共通点は、血を遡れば長耳家に繋がるって事と、長耳村で生まれ育って今も暮らしているということだ。
なんとなく俺たちしか通れないと思っていたが、誰でも通れるとなると厄介な事になるかもしれない。
「誰か長耳に関係ない人に試して貰うか」
「ああ、そうだな」
結構真面目な話をしている間もイチャイチャしているバカップルに本当に腹が立ってきた。