啓吾
エルフの里から長耳村へと戻って来た俺たちは、後で『鳥八』に集合と云うことで一旦解散した。
俺は風呂で汗を流すと、お土産に貰った『木の実の樹液漬け』や『干し果物』を空の小瓶やタッパに入れていく。
とりあえずは『鳥八』とみんなの分があればいいだろう。
準備を整え店へと向かえば、大した時間差もなく4人が集まった。
「はい、生4つ」
「陽子ちゃん、これお土産」
俺は彼女にエルフの里からのお土産をお裾分けした。
「あら、ありがとう」
「知り合いが作った物なんだ。手作りなんで食中りは自己責任で」
俺が笑いながらそう言うと、彼女は早速お土産を口に運んでいた。
「わぁ、甘くて美味しいじゃない」
「なんだ? 俺にもくれよ」
カウンターの向こうからハゲ親父が声を掛けてくる。
厳つい顔のくせに甘い物が大好物らしい。
陽子ちゃんは俺たちの目を気にする様子も無く、ハゲ親父にドキっとするような笑みを浮かべて「あ~ん」とお土産を食べさせていた。
年の差夫婦のイチャイチャぶりに殺意が込み上げてくる。
すっかりピンク色のオーラに染まった陽子ちゃんとハゲ親父に串の盛り合わせを頼んで乾杯することにした。
「乾杯!」
4人でジョッキをぶつけ合うと、早速とばかりに啓吾が口を開いた。
「僕この後、1人でもう1度エルフの里に行ってみようと思うんだ」
「気が早いんじゃないのか? 隣に居た子だろ?」
「うん、マユちゃんって言うんだ」
啓吾と一緒に野菜を切っていた子だろう。
その後も、啓吾の隣には常にその子が居て、仲も良さそうに見えた。
おっとりとして、優しい感じの女性で、もちろん美人だ。
見た感じの年齢は20才ぐらいだろうか?
「それでどうするんだ? 向こうで暮らすのか?」
タケシはこういう所は堅い性格だ。
「いや、そこまで考えてなかったけど。とにかく会って気持ちを伝えたいんだ」
「まあ、そんなのは上手くいったら考えればいいんじゃねえの? 振られる可能性もあるんだろ?」
「うん」
「ゴム、持ってんのかよ?」
「ううん」
「逆に子供欲しがるんじゃねえの? 男不足みたいだし」
「い、一応持っていくよ。誰か持ってる?」
「おう、俺は常に臨戦態勢だからな。1個でいいか?」
太一がそういって財布を取り出す。
一体、何年臨戦態勢を続けるんだか。
「......2個貰っておこうかな」
啓吾の言葉に思わず場が笑いに包まれた。
「景気づけにきついの行っとくか?」
「雰囲気良くするのに何か酒を持っていったらどうだ?」
「デジカメ持っていく?」
「......それは流石に」
デジカメは不味いか。
まあ、タケシも啓吾を応援するムードになり、みんなで景気づけにと酒を一気に飲み干した。
「じゃあ、行ってくるよ!」
そう言った啓吾はすごく頼もしく感じる。
俺たちは頑張れと応援して、啓吾を見送った......。
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翌日の朝。
今日は月曜だが祭日なので役場は休みである。
そろそろ真面目に嫁不足解消の方法を考えないとな。
エルフの里の女性を嫁にしたって、こっちに来れなきゃ長耳村としては嫁不足が解消したとは言えないしな。
そんな事を考えていると玄関から呼び鈴の音が聞こえてくる。
啓吾が帰って来たかな?
上手くいったか聞いてやろう。
そう思って玄関を開けると、そこには啓吾ともう一人の女性が並んで立っていた。
「え? なんで?」
そこに居たのは、エルフの里の女性『マユ』さんだった。