姫様御一行、異世界に到着
――― キョウイチ様、今連絡を取っても大丈夫でしょうか? ―――
姫様の声が俺に届く。前回は至近距離から声を掛けられているような感覚だったが、今はフィルター越しに聞いているかのように薄らぼんやりと声が聞こえてくる。しかし、意味がはっきりと伝わってくるという何とも不思議な感覚だ。
――― 大丈夫ですよ?こんばんは、姫様 ―――
――― はい!こんばんは、キョウイチ様。ふふっ、ご丁寧にありがとうございます ―――
そこでふと思ったことがあった。
――― あの、今そっちは夜なんです、よね? ―――
――― そうですね。こちらは夜です ―――
こっちと時間の流れは同じなのか。多分、同じだと思っていいのか。
あれ、でも俺向こうの世界で5日間過ごしたよな。俺の記憶では5日間だったと思う。
こっちを出発したのが9月2日の夜。んで向こうで5日過ごして帰ってきたら9月3日の朝だった。うん俺の机にある電波時計もスマホもその時刻、日付表示してるし確かだろう。
……?
ナンダコレ?
よくわからん時間の問題が発覚。というか今までそれに気づかない俺って……。
――― あの、キョウイチ様?キョウイチ様~? ―――
――― あ、はい!ごめん、ぼーっとしてたみたい ―――
おっと、姫様を待たせてた。今はこっちに集中だな。
――― それで、姫様は一体どのような要件で? ―――
――― はい、そちらに移動する準備ができたので、私たちもキョウイチ様のもとに行きたいと思いまして ―――
――― あ、そうですか。ん?今”私たち”って言いました? ―――
――― はい、そうですよ?ええっと、私とギム、それと何人かの女中ですの ―――
――― ちょっと待ってください!そんなに大人数ですか?今俺がいる場所はそんなに広くないんです ―――
――― そうなのですか?……そうですよね。私、そちらの環境を考慮していませんでしたのね。反省です ―――
俺としても慎重に、万全の体制でこっちに来てもらいたいのだが。魔法なんてものになじみがない俺と姫様では異世界に来るということに対する注意力に差があるのかもしれない。そんなに魔法というものに対して信頼を置いていない俺であった。
――― 広い場所をそちらで指定できないんですか? ―――
――― えっと、そちらに転移するときに目印にしているものは、あくまでもキョウイチ様が転移なされた場所なんです。 ―――
つまり、俺が飛んできた座標、俺の部屋の位置を基準としてるのか。
――― そちらの場所がどうなっているかということは、私では何も知ることができないのです。もっと私に力があれば可能かもしれませんけど ―――
――― なるほど、わかりました。そうですね、5人くらいなら、問題はないと思います。そんなに広くはないですけど、それくらいなら ―――
――― そうですの?それなら問題ありませんわ!今回転移するのは私を入れて5人ですから ―――
――― あ、そうですか。なら問題ないですね! ―――
——— では、早速転移したいと思います! ―――
おお~、姫様がこっちに来るのか!なんかこう、いろいろとワクワクしてしまうな!
こっちに来たら、いろんなところに連れてきたいな~!明日ちょうど土曜日だし!
そこまで考えた時、ふと思った。
ん?姫様たちが来る?それって、いいの?俺的に。
現在の状況を整理する。俺は一般的な家庭で暮らしている(両親と妹あり)。そんな男子高校生の部屋に突如金髪美少女が従者を連れて転移してくる、と。
これ、なんて説明すんの?家族に。
姫様はこちらの世界について俺しか当てがない。つまり、俺の家で匿う必要がある。けど、俺が勝手に決めるということでいいのか?一階にいる父さんと母さんになんて言うんだ?カノジョツレコミマシタとか言うのか?それで泊めてほしいってか?
……正直言って母さんなら何とかなりそうだけど。というか父さんは母さんに特に反対とかしないよな。基本的に。
後は、雪子だけど、こいつは読めないな。けど、母さんが了承するなら問題ないな。あれ?何とかなりそう。
一瞬焦ったけど、なんか安堵してしまった俺。うん、いいよ、な??
やばい、完全に思考麻痺してるぞ、これ。
部屋汚くないよな。一応整頓してみる俺。
あらかた片付けて机に向かって待っていると、ベッドの方、正確にはベッドのちょっと上あたりに違和感に気付いた。
空間が歪んでいるように見えた、と思ったら次の瞬間には既視感のある青白い光が発生した。
「うお!?」
結構眩しかったためについ声を上げてしまった。いや、こんなピカッとくるとは。
光はすぐに治まって、後には金髪の美少女と青海がかった黒髪のメイドさんがベッドに立っていました。もちろん土足です。
「えっと、いらっしゃいませ?姫様」
「キョウイチ様~!!きゃあ!?」
突然俺に向かって走り出したと思ったらベッドで躓いて倒れ込みそうになっている姫様。あぶねえ!
とっさに身体を姫様と地面の間にねじ込む。奇跡的に姫様をキャッチ成功。
「「大丈夫ですか姫様!?」」
ギムさんと俺が同時に叫ぶ。ギムさんもとっさのことで動けなかったらしい。まあ、ベッドやわらかいし足場としては最悪だよな。
「だ、大丈夫です。感謝しますわ、キョウイチ様・・・。」
若干赤らんだ顏でそう告げてくる姫様。うん、こんな至近距離で姫様に言われたら誰だって緊張します。
というか姫様のこと抱っこしてしまっている俺。身体ほっそ!てかいい匂いスル!やわらかいぞォ!!
「……ハッ!?ご、ごめんなさい!!」
この体制キープはまずいと我に返りつつ脊髄反射で姫様をベッドに座らせてその場から離れる俺。我ながら流れるような動作だな、よし、反省しなさい。
「お怪我はありませんか?キョーイチ様から何かされませんでしたか!?」
「おい、何で後半の方が鬼気迫ってんだよ」
思わず素で返しちゃっただろうが。あまりにも理不尽。
「冗談です。姫様を助けていただき、ありがとうございます」
丁寧に返してくるギムさん。相変わらず無表情だけど。
「あ、いや、こっちこそ失礼しました、ごめん……」
そうして、状況に違和感を感じる俺。
「そういや、こっちに来るとき5人で来るって言ってませんでしたか?」
「はい、そうなのですが、ここにいませんね」
「出発するときは5人だったのです。確かに、他の者たちも居たんですの……」
ギムさんが冷静に、姫様はどこか落ち着きを失った様子でいる。
2人とも、そのことについて心配しているらしい。
「……姫様、向こうの世界と連絡とれますか?」
「一緒にいた3人には念糸を所持している者はいません、お父様とお母様、それに数人の家臣しか持っていないのです」
「では、お城にいる人、儀式場に居た人と連絡できますか?」
そして姫様はすぐに誰かと通信し始めた。その念話による会話によれば、件の3人はお城にいるらしい。なんでも、儀式で飛ばされたのが姫様とギムさんの2人だけだったそうだ。その他の3人は置いてけぼりを食らったらしい。
「そうですか……。まあ、他の方々が無事でよかったですね!」
「ええ、その心配がなくなってほっとしてます」
さっきまで青白い顏をしていた姫様だったが、今は落ち着いているようだ。
しかし、なんでこの2人だけ転移できたのだろうか?
「今のところ、私たちだけ転移に成功したということに関して、疑念を払うことはできませんね。判断材料が少なすぎます」
「……そうですね、この問題はもう少し後にしますか。
姫様たちも転移でお疲れ、ですよね?今夜はここに泊まってもらいたいのですが、その前に俺の両親に許可貰っていいでしょうか?」
「キョウイチ様のご両親ですの?ぜひお会いしたいですわ!」
「はい、準備が悪くてすみません……。姫様たちを実際に合わせたほうが交渉しやすかったんです。ごめんなさい……」
「いえ、その方がよろしいとキョーイチ様が御判断なされたのです。私は異論ありません。」
「もちろん、私もですわ」
そう言ってこちらに笑顔を向けてくれ2人。あ、ギムさんは特に変わらず無表情ですけどね!
「ありがとうございます!じゃあ早速行きますか!
……っと、その前に」
俺はとりあえず、現在進行形で発生している問題について着手するため2人に向き直った。
今回半端な終わり方で申し訳ありません。ちゃんと次に繋げるのでご容赦くださいませ。