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11ページ目 真夜中のお姫様の巻

9/17 各所訂正


かなり日本語がぶっ飛んでいるところがありましたゆえ。訂正しました。

俺が教会から出てきたのは、太陽が傾き辺りに陰りが見え始めた頃であった。すっかり夕方である。さっそく帰路に着くためにクラウスと合流する。


「……?」


クラウスが横目で俺をじっと見つめてくる。え、なに……。


「どうかした?」


「うむ、なんともずいぶんな疲れ顔をしているからな。後ろも気にせず何をしていたんだ?」


「あー、ワルイけど今は言えないな。成功するかわかんないから。けどまあ、今夜も昨日までと変わらず付き合ってくれたら俺的に嬉しかったりする。

あと後ろってなんだ?」


「うむ、そこは安心しろ。なんせ今夜が最後なんだ。お前の後ろはしっかり警護してやる!」


「なんでそんな俺の後ろばっか気にするんだよ!なんか怖いんだけど!?」


あれか、昼間のアーニェのことまた引っ張ってきたの?それにしたって何なんだって話だが……。


その後もクラウスと話しながら城へと向かう。クラウスはいろんな話題を振ってくれるから話しやすいヤツだと思う。


城についてからすぐに晩餐となったわけだが、昨日とは打って変わって王様がアルコールを摂取することがなかった。


初めは王様も飲む気満々だったのだが、ラーニア王妃にそのことでこっぴどく叱られたのだ!笑顔ってあんなに迫力あるんですね。綺麗な分だけますます、はい。


そうして晩餐は俺とラーニアさんのみの会話で占められていた。ラーニアさんは俺にばかり話を振るもんだから王様はちょっと悲しそうだ。王様なのにこの扱い……。


晩餐が終わるといつものように風呂に入って出かける準備。ギムさんも元気そうで何よりだ。


「キョーイチ様、お身体の調子はいかがでしょうか?」


「ん?特に変わったこともないみたいだし、元気だよ?」


唐突な質問だったので俺も疑問形になった。


「いえ、日中教会に向かわれたと聞いたので。

今朝のこともあったので心配になっただけです」


「あー、まあ、俺は大丈夫だよ。


……その、気にかけてくれて、ありがとう」


「いえ、キョーイチ様が望まれるなら、私の胸程度、いつでも御貸しいたします」


「おっと、そんな真顔でそんなこと言われると思わなかったな」


「女性の胸に顔を埋め涙と涎まみれにするというご趣味は姫様でも許容しかねると思われますので。

衝動に駆られた場合は仕方ないので何なりと私を頼ってくださいね?」


「そんな高尚なもの、シラフの俺には実行することできませんからね?

あの時のことはできれば水に流してください」


「そうですね……。


それでは、次の朝以降にキョーイチ様からもう一度催促されたらそうします」


そう言ってこちらをじっと見つめるギムさん。

ここで俺が返す言葉は、決まってる。


「はい。必ず。ギムさんこそその言葉忘れないでくださいね?」


声にできるだけ力を込めて、言葉を伝える。


すると、珍しいことにギムさんがはにかんだ。それは、いつも表情が硬いギムさんが年相応の女の子であることを証明する、思わず見入ってしまう可愛らしい笑顔だった。


またこうして軽口を叩き合えるように。そのことを心に刻み付ける。


それから教会へと移動する。ベートにクラウス、それにギムさんを連れ立って。


今夜は教会に着くと、すぐに準備に取り掛かるために早々に1人になることにした。他の3人は特に反論することもなく、俺を見送ってくれた。


「んじゃ、明日迎えに来るわ」

「うむ、気をつけるんだぞ?」

「ご武運を。キョーイチ様」


そして、教会の扉に鍵がかけられる。

ここからが本番。


……よし、やってやる。


------------------------------------


昨日は、正直言って失敗だった。

あの、人間をいたぶって恐怖させるというのは、どうにも心高ぶるものがある。


しかし、逃がしてしまっては意味がない。


やはり、時間を確認したうえで愉しむべきだろう。


万全の体制で。逃げ道など作らせない。確実に捕まえる。


この夜であの人間を確実に仕留めよう。


『緑帽子』は、そんなことを思った。


今は12時を回ったばかり。他の悪魔たちに言葉を送る。


「昨日ノ人間が近くニいるはズだ。見つケ出せ」

「キノウハイシニデキナカッタシナ!ブヒャヒャ!」

「イマゴロコワクテフルエテルナ!キゼツシテナキャイイナ!」


そこら中から奇怪な声が挙がった。昨日あと一歩で獲物を逃がしたこと、そして新たな玩具を見つけた悪魔たちは早々に遊戯に興じることにした。


「怪シげナ所は全部探せ。地下モ調べろ。


……そうだ」


そう言って『緑帽子』は石の姫に対して指示を出す。


「お前も探せ。見つケタら俺に知ラせろ」


「……。」


表情を少しも変えることなく移動する姫。


その後自らも捜索に出る『緑帽子』。


これは自分の愉しみだ。誰にも渡すつもりなどない。


人間の隠れられる場所などたかが知れているが、その上さらに恐怖に駆られた者がどこに逃げるのかを考える。


この思考そのものが愉しくて仕方がないのだ。


もしこの予想が見事的中し人間を発見した時のことを想像しながら、さっそくめぼしい場所を探っていく。



……。


…………。


それから、40分が経過した時だった。


まだ、件の人間を発見できずにいる悪魔たちに焦りにも似た感情が芽生えていた。


「ドコニモイナイゾ!ホントウニココニイルノカ!?」

「ソウダ!キノウノコトガアッタノニノコノコクルバカハイナイダロ!」

「ホントハダレカミツケテルンダロ?ジカンモナイシサッサトヤレヨ!!」


他の悪魔たち同様、『緑帽子』も動揺していた。


あの人間は間違いなく今日もいるはずだ。アイツはこの女を助けるために、ここに来ているはず。それは間違いない。


しかし、ヤツを見つけることができていない。なぜか?

その答えは、長い年月人間を欺くことに重きを置いた彼でも見つけることができない。

その疑問が苛立ちに代わるまで時間はかからなかった。


「……ッ!!探せ!!モウ一度ダ!!」


怒号が教会に響き渡る。散り散りに飛んでいく悪魔を見やり『緑帽子』は考える。

懺悔室もくまなく調べた。この教会の部屋は1つずつ自ら調べた。地下も調べた。2階にある1階から死角になる箇所も調べた。抜かりはないはずである。


なのに、見つからない。


「どこにいルんだ?人間ンンンンッ!!!」


時刻はもうすぐ12時58分。


悪魔たちの全ての者が諦めて広間に戻ってきていた。

『緑帽子』の言うように人間がここにいる可能性はあった。

しかし、この数の悪魔から逃れることなど人間には不可能だと知っている悪魔たちからすれば、それは杞憂でしかなかった。


『緑帽子』は人間がここにいることを証明することができなかったため、それ以上強く出ることができなかった。


そして、1時の鐘が鳴った時。


そいつが、現れた。


「ッ!?」


音もなくその場に佇むその人間は見たこともない黒い装束に身を包んだ奇妙な男だった。まだ若い。

その幼さを残す顔に、恐怖は見られなかった。


『緑帽子』が行動するよりも先にその少年は一息に叫んだ。


「悪魔たちよ!見張り番たちの代わりに穴倉で石になってしまえ!!」


その言葉が教会内を駆け巡る。

と同時に悪魔たちは悲鳴を挙げ始める。


「ナンデオマエニンゲン!ニンゲンガイルンダァアア!!」

「マズイゾ!ケイヤクガヤブラレタゾ!!」

「ギャァァアアア!!!」


醜悪な顏から耳障りな断末魔を張り上げ、悪魔たちが穴倉へ吸い込まれていく。

『緑帽子』も例外ではなかった。


「なぜダ!?ドコに隠れてヤガッタ人間!?俺が見つけられないワケガ」


最後にそれだけ言ったとき、『緑帽子』も急速に穴倉に吸い込まれていった……。


------------------------------------


悪魔たちが全て穴倉へと吸い込まれたことを確認した俺は、姫様のもとに駆け寄り抱き上げる。

悪魔たちが消えた後、糸が切れたように倒れてしまったのだ。結構鈍い音がしたので内心かない焦った。

よかった。どこも折れたり欠けたりはしていないようだ。


すると、端正なシャウラ姫の顏が、少しずつ、血が通っていくように健康的な色へと変化していった。

顏から首の下へと、色の変化は波のように広がっていく。


どうやら無事に呪いは解けたようだ。


「……ん」


俺が緊張から解放されて脱力していると、シャウラ姫が腕の中でもそもそと動くのがわかった。

というか腕の中って!と自分にツッコミながら近くの長椅子へと姫様を運ぶ。二重の意味でお姫様抱っこをしている男子高校生がいた。てかそれ俺な、はい。


「うまくいったみたいじゃの!そちもなかなかやりおるわ!!」


「うひゃあ!?」


耳元でキンキンとした大声を聞かされた俺は情けなく叫んでしまった。


「~~~っ!いきなり大声出すなチビ!!潰すぞチビ!!」

「な、なんじゃ貴様ァ!恩人に向かってそのような態度を取るつもりか!?」

「うっさい!ただでさえあの悪魔たちの前に姿さらすだけで心の許容量超えてるんだよ!少しくらい考慮してくれてもいいだろが!!」


そう言って目の前を漂う小さな存在に声を張り上げる。


そいつは、精霊だ。名をシールという。てかつけた。

そう、何を隠そうこいつが俺の切り札なのだ。


俺はこの最終日を乗り切るための秘策を結局思いつくことができなかった。

そもそも、隠れることのできる場所には限度があり、それらは使い物にならないことは明白であった。

わかりきったことだった。俺自身に残された手はなかったのである。


敗色濃厚な中、俺が脳内で独り相撲をしていると、ふとギムさんとの会話を思い出していた。


そう、魔法という未知の力について、である。


その取得方法は3つあったはずだ。潜在的には、持っていないだろう。

悪魔を欺くために悪魔と契約する?本末転倒な気がしてならない。


最後に残ったのが、精霊からの譲渡。

これはさすがに運頼みというか時間ないじゃん!と思った俺。


そこで、また思い当たることがあった。

あの教会は、元々違う目的で作られた、ということだ。


「建設中に事故が多発したから途中で教会作ったってギムさん言ってたな……。」


精霊の住まう聖域に、人間が手を加えようとしたから、精霊が力を使った、としたら。

その精霊が、あの教会にまだいる、としたら。


そんな突拍子もないことを思いついてしまった俺。

しかし、そんなものでも希望は希望である。藁にも縋る思いで俺は教会へと向かったのだった。


そしたら、簡単に出てきた精霊。俺拍子抜け。

前髪を切りそろえた美しい銀髪をなびかせ、人形のような端正な顔に自信を漲らせた小さな少女が光の粒子を纏いながら出てきた!……誰でも驚くわ!


なんでドヤ顔なんだよ。


そこから一悶着あったりしたが、今思い返すとどうでもいいな、これ。


そんな中、名もない精霊は古めかしい言葉遣いで現状報告してきた。

何でも、毎晩ばか騒ぎする悪魔たちにお灸を据えたいのだとか。

平穏が戻るのなら、人間すなわち俺に力を授けてもよい、と。


会話をそこまで持って行った俺は半ば誘導する形で精霊との契約に成功したのであった。まあ、精霊、シールの身の上話に同情していたのが伝わったからかもしれないけど。


「隠れんぼするにはもってこいの力じゃと思うがどうじゃ?」


そうして俺は気配を外界から完全に遮断する力をシールから授かることに成功したのであった。力を授かったばかりで数時間ぶっ通しで使うことはできないらしかったが、それでも1時間しのげるのなら何ら問題はなかった。


こうして今に至る。

もしかして、こんなに脱力してるのも力を使ったからなのか?

地味にだるい上になかなか回復の兆しが見えない。やだなこれ。


「というわけでしゃべるのだるいんだ。もう受け答えはしなくていいよな?」

「な、き、貴様は妾に独り言を延々と言わせる気か!?ちょっとは相手しろ!するのじゃ~~!!」


2人(?)がギャーギャー騒ぐ横で、シャウラ姫はすやすやと穏やかな寝息を立てていたのであった。

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