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第9話 連携戦闘と最初の買戻し

「ああー。生き返るー」


 ざぱーん。


 そう。この宿を選んだ最大の理由。OFURO。お風呂です。個室ではなく、共同風呂、平たく言えば銭湯のような施設が付いているのだ。それを知った俺とさくらは、迷わずに宿泊費を払った。確認したら銭湯は町中にいくつかあったが、宿泊客しか使えない風呂の方がトラブルは少なそうだと判断した。

 女湯ではさくらがドーラを洗っているのだろう。石鹸はこの世界にもあるようで、特に高級品ではないようだ。

 体を洗い、髪を洗い、湯船にゆっくり浸かる。満足するまで堪能してのぼせる前に出る。他の客は入ってなくて、事実上の貸し切りだったのもうれしい。備え付けのタオルで体を拭く。

 下着と部屋着は買っておいたものを使う。学生服は元の世界の思い出の品であり、服の交換はできるだけ早くしておきたかった。

 ちなみに買い揃えた服は日本の学生服と同じようなものだ。過去に来た勇者も学生服を着ており、当然のように真似をするものが出始めた。気付いたら学生服もファッションの一部に取り込まれていたとのことだ。オッサンが学生服を着ている姿を見て笑ったのはいい思い出だ。


 部屋に戻るがまだ2人は帰っていなかった。女性の長風呂を待つのは男の甲斐性です。昭和か?

 待つことしばし、2人が帰ってくる。2人に向き合って、今後についての話をする。


「今後の話をしようと思う」

「はい」

《はーい》


 2人からは湯上りだからかいいにおいがする。ちなみにドーラはパンツ一丁だ。なんでも寝るときはできるだけ服を着たくないそうだ。外とか普段生活するときは我慢できるが、寝る時だけは人間形態でも裸に近い格好でないとだめらしい。なんとか頼み込んで、パンツだけはつけてもらったと、さくらが言っていた。


「具体的にはドーラの戦闘スタイルについて話し合いたい」

「ドラゴン形態で<竜魔法>ではないんですか?」


 さくらは先ほどの戦い方が基本だと考えていたようだ。


「いや、さっきの戦い方はあくまでも<竜魔法>の威力を確認するためのもので、今後の連携を考えたら、有効とは言えない」

「1度撃ったら次撃つのに時間がかかるって言っていましたね。その間遊ばせておくのももったいないです」


 意外といい目の付け所だ。俺もそんなもったいないことをさせる気はない。


「できれば人間形態に合わせた戦い方がいいと考えている。いっその事、盾を持たせて突っ込ませるか?フェザードラゴンのステータスは低くないし、普通にドラゴンだから頑丈だし」

「なんかすごいことを言っている気がします…」

《なんでもやるよー》


 ドーラは特に反対はないようだった。

 いいかもしれない。頑丈で機動力の高い盾。一定時間ごとに強力な竜魔法を放つ前衛。ドーラをかわいがっているのに前衛にするのかって?部屋で飾るためにテイムしたわけじゃない。適材適所においてこそ仲間ってもんだ。それに可憐な前衛ってニーズあると思います。


「となるとメインウエポンはバトルスタッフ(殴れる杖)かな。竜魔法の威力にブーストかけられるし、打撃武器は俺も使ってないし」

「こんな小さい子が盾持って杖で敵を殴るって、凄い絵面ですよね」


 さくらの言い分は無視しておく。俺もそう思うけど。

 それはそれとして、ドーラの育成計画が今、始まる。お金がないから装備はもう少し後になるけど…。ギルド登録して討伐料割増し…。いやいや、目先のお金にとらわれるな、俺。あ、盗賊のところのお金使えばいいか。

 とりあえず、今日はここまでにして続きは明日武器屋とかで決めることにした。


「きゅいい…」


 寝ることにしましたが、ベッドは2つしかありません。ドーラを床で寝かす?バカ言え。ドーラならちゃんと俺の腕の中さ。竜形態で。いや、フカフカの羽毛が抱き枕にちょうどいいんだよ。その証拠に明日はさくらの番だぜ。このモフモフ抱き枕。


 翌日、ギルドに行ったけど、まだ買戻し依頼は出ていないようだ。ま、大抵のものは諦めざるを得ないしね。冒険者相手に金を出すより、同じものを買った方が安く済む。取られた本人は襲われた段階で生きている方が珍しいし。


 食べものを多めに買い込んで<無限収納インベントリ>に入れる。次に武器屋に向かった。ドーラの武器を買うためだ。俺たちも武器を新調した方がいいかもしれないが、今のところ困っているわけではないので、ドーラを優先させることにした。


「ごめん。さくらの杖の新調はもう少し後になる」

「いいですよ。私は後回しで。一応、ゴブリンの杖でも戦えますし…」


 女の子にいつまでもゴブリンの杖を使わせるのも可哀想なので、次の機会で買い換えよう。


「すいません。楯ってありますか?」


 武器屋の店主に聞いてみる。


「おお、あるぞ。…お前らの中の誰が使うんだ?」

「この子です」

「アホか。そんな小さい子が楯なんか使えるわけ…、もしかしてそういう種族なのか?」


 ドーラを前に出して言うと店主が呆れたような顔をするが、すぐに思い直して聞いてくる。


「はい。腕力には自信があります。ね?」

《うん。だいじょうぶー》


 店主には聞こえないが、コクリとうなずくドーラ。


「なんの種族だ?ドワーフか?…まあいい。その子の背丈に合わせると…これかな。言っとくが重いぞ…」


 そういって店主が取り出したのはドーラの身長と同じくらいの楕円の楯だった。ドーラに持たせてみると気に入ったようだった。俺としても武器屋の店主が見繕ったものは大体使いやすいはずだという目算で動いている。細かいことは本職の人に任せるべきだよね。


鋼の楯

分類:楯

レア度:一般級

備考:ノックバック耐性


《これ、もちやすいー》

「すいません。これを下さい。あとバトルスタッフもありますか」


 今度はバトルスタッフについて聞いてみる。


「また、使い手を選ぶような武器を聞きやがって、今度はどいつだ?」

「この子です」

「いったい何なんだよその子…」


 ドーラの種族が全く分からないらしい店主が呟く。そう言いつつも、武器を探してくれる店主。持ってきたものを使わせてみると、やっぱり使いやすいそうだ。


僧兵のバトルスタッフ

分類:戦闘杖

レア度:一般級

備考:魔力がほんの少し上がる


「じゃあこの2つを下さい」

「お前らは買わないのかよ…」

「ええ、お金もあまりありませんし、今のところ武器で困ってませんから」

「そうかい。じゃあ合わせて10万だ」


 店主に金を払う。11万払った。


「多いぞ」

「見繕ってくれたお礼です」

「それも仕事なんだが…。まあいい。有難く受け取っておく」


 そういって店を出る。ここの店主はそこそこいい人だったが、出来るだけ借りは作りたくない。お金を多めに払うことで、金額以上のサービスを借りや義理にしないというつもりだ。


 準備も終わったので街の外に行く。ギルドからの滞在依頼証を見せる。ギルド側の依頼で街にいてもらうということで、街への再入場が無料になる証明書だ。


 道沿いにしばらく歩き、そこから魔物の多い方に道を外れていく。しばらく進むと複数の魔物を発見した。まずは、新しいバトルスタイルのドーラ1人で戦わせてみる。


 マッドボアの突進が直撃するも楯を持ったドーラはその場を一切動くことはなかった。バトルスタッフをすかさず振るい、一撃でマッドボアを沈めた。


《やったー》


 何回か戦わせるが、どれも安定して勝利している。正直<竜魔法>が必要とは思えない。


《あたしつよいー。むてきー》


 少々調子に乗りすぎているようだ。あまり良いことではないので、少しステータスを奪ってみる。次の戦闘でマッドボアの突進を受けて吹っ飛ぶ。


「きゃううううん《いたいよー、ごしゅじんさまー、たすけてー》」


泣いて騒ぐドーラ。しまった。やりすぎたか。


「ハイ!ヒール!」

「ちょっと仁君!?回復量多すぎませんか!?」


 <回復魔法LV2>ハイヒール。LV1のヒールとは比較にならないほどの回復量を誇る。正直ヒールでも全回復しました。弱くしたといっても、命に関わるHPと防御力は下げていない。


《ごしゅじんさまー、ありがとー。でも急に弱くしたでしょー。ひどいー》


 俺の胸に飛び込んでくるドーラ。魔物はさくらが倒してくれました。


「ごめんよ。でも油断はしちゃだめだぞ。後、強くなったからって相手を見下すのもよくない。命を懸けあって戦っているんだから」

《わかったー。ごめんなさーい》

「いい子だ。よしよし」


 全力で撫でる。ドーラもすごくいい笑顔をしている。


《えへへへへー》

「仁君、ドーラちゃん。いちゃついてないで次いきましょ?」

「《あっはい》」


 さくらが呆れるほど、俺とドーラはいちゃついていたようだった。ドーラと触れ合っていると時間感覚無くなるんだよね。

 ドーラの油断がなくなったところで、連携の練習に入る。魔物が群れを成しているあたりへ向かう。


 戦闘開始だ。ドーラに前衛を任せて、最初に<竜魔法>を使ってもらった。相手に接近しすぎているため、あまり多くの魔物を巻き込めなかった。

 敵も<竜魔法>が脅威であることを察したのか、ドーラの方に多くが向かう。 敵を引き付ける壁役という意味では最初の<竜魔法>は敵愾心ヘイトを上げる良い手段だった。さくらには補助魔法でステータスを上げる役目と、戦線から離れている魔物を魔法で狙うという役目を与えた。ちなみに<契約の絆エンゲージリンク>の効果の1つにパスを繋いだ者同士の攻撃を無効化するというものがある。フレンドリーファイア無効。平たく言えば『味方への攻撃OFF』だ。これにより万が一強力な魔法が味方に当たっても平気だ。

 俺は遊撃として、ドーラの横をすり抜けた相手や、魔法などの遠距離攻撃をする相手を事前に潰したりとあちこち動きまくっていた。

 戦闘中も味方とはパスを通じて連絡を取り合う。


《ドーラ、<竜魔法>は遠くへ行くほど横に広がるから、使う前に少し後ろへ下がれ》

《わかったー》


《さくら、補助魔法の切れるタイミングはステータス画面で見えるから、完全に切れる前に次の分を詠唱してくれ》

《はい、任せてください》


《ドーラ、前に出すぎだ。マップで味方と敵の位置を確認して、中心くらいをキープするようにしろ》

《う、うん。わかったー》


 基本的に戦術という単語を知らない少女たちに指示を飛ばしていく。

 何回か集団戦を行うことで、2人にもチームプレーというものを理解させる。


 昼食も外でとった。結局この日は1日中街の外で戦闘を繰り返していた。

 戦闘に関して、いくつか分かったこともある。まずドーラ、わかっていたことだが見た目に反してかなりタフである。1日中前衛で戦っても全然平気のようだった。<身体強化>があるとはいえさくらには辛いようで、ちょくちょく休憩はとっていたが。

 度胸も十分にある。<竜魔法>の威力は言うことなし。かなり強力な盾職として立派に働いてくれた。

 さくらに関しては、冷静な判断が目を引いた。指示したように補助魔法のタイミングとかについて最初は気にしていなかったが、俺が指示すると似たようなことで2度は注意されない。つまり1度でしっかりと本質まで理解しているということだ。補助の重要性、マップの見方、有効な魔法などを1番後衛でしっかりと判断できるようになった。

 情緒不安定なところもあるので心配していたが、1度寄る辺を見つけると、その後はかなり安定するようだ。依存体質ってこういうもんかね?


 1日でかなり安定した連携をとれるようになったし、いくつか新しいスキルもとったので、満足して街に帰ることにした。


マンドラゴラ

LV4

<毒攻撃LV1><調剤LV1>

備考:人の形をした根っこの魔物。


キラーアント

LV6

<酸攻撃LV1><噛みつきLV1>

備考:大型の蟻。


ファイティングベア

LV8

<身体強化LV2><格闘術LV2>

備考:格闘技を身につけた熊。


ホークアイ

LV6

<飛行LV2><索敵LV2>

備考:鷹の魔物。上空から襲撃してくる。


ナイトメア

LV5

<闇魔法LV2>

備考:闇属性の魔力の塊。人間が近づくと闇魔法を放つ。


エレメンタル

LV7

各属性魔法をランダムでLV2

備考:各属性の魔力の塊。人間が近づくと各属性の魔法を放つ。


 ギルドに向かう。さくらとドーラには先に宿に戻ってもらうことにした。全員で行く必要もない案件だし、万が一面倒事になったら、1人の方が動きやすい。アイテムボックスはさくらから借りている。これがないと誤魔化せないからね。

 ギルドに着いたのは6時2分前。少々ギリギリになってしまったが、遅れてはいないし大丈夫だろう。


「すいません。買戻しの件で伺いました」


 受付嬢さんに用件を伝える。ちなみに今日も昨日と同じ受付嬢さんがいたので、その人にお願いした。


「はい。買戻し希望の方が応接室でお待ちです」


 なんと、買戻し希望がこんな早く来るとは…。少し驚いていると受付嬢さんが買戻しについて説明してくれた。


「買戻しの交渉はギルド内で職員監督のもと行ってもらいます。もちろん返却の拒否もできますが、余計なトラブルを防止するために、こちらとしても監督しておきたいというわけです」


 なるほど、ギルドの管理外で勝手に交渉されて変なトラブルを起こしたら、ギルドとしても不都合があるということだろう。


「わかりました」

「では案内いたします」


 応接室に向かう。応接室は防音設備が整っているため、その区画はひどく静かだ。俺たちの足音だけが廊下に響く。


「こちらの部屋になります。あまり、買戻し相手の方の情報を言うのは良くないのですが、今回の相手は貴族の方になりますのでご注意ください」


 受付嬢さんが小声で言う。

 今更それを言いますか。よりにもよって貴族ですか。嫌な予感しかしないんですけど、帰っていいですか?

 こちらの心境を無視し、受付嬢さんがノックをする。


「どうぞ、お入りください」


 扉の向こうから聞こえてきたのは落ち着いた感じの男性の声だ。良かった。少しはマシな相手っぽいな。


「失礼します」


 受付嬢さんが扉を開ける。そこで待っていたのは…。


「遅いですわ!」


 大声で叫んできたのは、金髪縦ロールのいかにもなお嬢様。豪勢な赤いドレスを着こなしている。すげえ、フィクションがここにいる。

 というか騙された?よく見ると縦ロールの後ろにいかにも執事といった感じの初老の男性がいた。


「お待たせいたしました。こちらは買戻し希望のエリザベートさんです」


 受付嬢さんが気にせずに紹介をする。それに対しエリザベートと紹介された縦ロールは挨拶もせずに大声で怒鳴り散らす。


「遅いですわよ!貴族を待たせるとはどういうつもりかしら。ギルドには6時前に来ると伝えていたはずですわよ!貴族の貴重な時間を取らせるのですから、それよりも前に来て準備するのが常識でしょう!」


 いきなり無茶苦茶なことを堂々と宣言する縦ロールに対し、俺の好感度は一気にマイナスまで下がっていた。ここまで予想通りに駄目な貴族の例が待ち受けているとは思わなかった。

 一応交渉の席だし、丁寧な口調を心掛けて説明をしよう。そうしないと、苛立ちが表に出てしまいそうだ。


「そうは言いますが、私は6時にギルドに来るように言われているだけですし、それには間に合っていますよ」

「そんなことは関係ありませんわ。貴族である私が用があると言ったら、ギルドがそれを伝えて、準備させておくのが当然でしょう」


 また勝手な言い分を…。受付嬢さんも困った顔をしている。


「申し訳ありませんが、ギルドの方ではそのようなルールはございません。わたくし共としましても、指定時間前に準備させるような権限はありませんので、その要望にはお応えできかねます」

「ギルド員風情が余計な口を叩いているんじゃないですわ!」


 おうおう、誰彼構わず思い通りにならないと喚き散らすとは、最悪の部類の貴族だな。話をさっさと進めて、とっとと帰ろう。


「時間がないんでしょう?さっさと話を進めましょう。何を買戻したいんですか。いくら払うつもりですか」


 話し方が、多少適当になってくる。印象も悪くてあまり取り繕う必要を感じない以上、仕方のないことだろう。


「なんて失礼な男でしょう。これだから冒険者というのは…」

「お嬢様、お話を進めましょう」


 ずっと黙っていた、執事っぽい男性が先を促す。


「そうですわね。ご苦労様、セバスチャン」


 執事っぽい男性は名前まで執事っぽかった。完璧だ。というか間違いなく執事だろう。


「さて、私が買戻したいのは鷲の紋章の入った短剣ですわ。持っていらして?」


 取り繕ったような声色で問いかけてくる縦ロール。今更な気もするけどな。さっき大体本性見せているし。王女も大概だが、この国の女貴族は外面を取り繕うのは得意なのかもしれないな。

 さて、問題の短剣だが、アイテムボックスに入れた記憶があるので、取り出してみる。うん、やっぱりあった。鷲の紋章の短剣でいくつも宝石のついた高そうな剣だ。


「持っていますね。これですか?」

「貸しなさい!」


 アイテムボックスを隠すためマントから取り出すと、縦ロールが短剣をつかみ取ろうとしてきた。縦ロールの手を避けると、目の前に手を出してそれ以上の暴挙を防ぐ。この場で縦ロールの手に短剣を渡してもいいことはなさそうだ。


「値段交渉が先です。それまでは一切触れさせません」

「何を勝手なことを!」


 勝手なことをしているのはそっちだろう。受付嬢さんも驚いているぞ。俺が手をどけないので、こちらをにらみ続けている縦ロールの方が先に折れた。


「ふん、いいでしょう。では10万ゴールドでその剣をお渡しなさい!」


 またふざけたことを言い放つ縦ロール。短剣を<千里眼システムウィンドウ>により鑑定する。付加価値を除き、短剣自体の価値だけで500万ゴールドという結果になった。

 これはどちらだろうか。貴族だから言うことを聞くと思っているのだろうか。それとも俺が相場を知らないだろうと思って安く買い戻そうとしているのだろうか。


「何の冗談ですか。この剣はそんなに安くないでしょう?」


 具体的な値段を言わず、『それよりは高いだろう?』と問うように言うと…。


「うるさいですわね!貴族である私が10万と言ったら10万なのですわ!」」


 前者のようだ。貴族をどれだけの特権階級だと思っているのだろうか。実際、この世界において貴族の立場は相当高いようだ。しかし、その威光が誰にでも通用するわけじゃないというのもまた事実だ。この街の住人ではなく、もっと言えばこの国を嫌っている俺に、貴族の威光が通じるわけはないのだが…。それを知らない以上いつもの通りに振舞っているのだろう。…いつもがこれとかなおさら救いようがないよな。

 もういいか。こんなのに付き合うだけ時間の無駄だ。ここからは一気に行かせてもらおう。


「わかりました。では買戻しを拒否させていただきます」


 というわけでまずはバッサリ買戻し拒否してみる。


「なっ!わかっておりますの?そんなことをすれば、この街で冒険者などできませんわよ!」


 流石に慌てる縦ロール。それでも下手に出るつもりはないようだ。というか、ここまでの話の流れでこの短剣は絶対取り戻さなければいけない類の品であるという予測が立っている。貴族の権力を笠に着て、勝手なことを言っている縦ロールだが、本来この買戻しの主導権は俺にあるということを理解していないようだ。俺が拒否すれば短剣は取り戻せないのだから。


「特に関係ありませんね。先ほどから勘違いしていらっしゃるようですが、俺は冒険者じゃないですよ」


 別にこれを見越していたわけではないが、この街で冒険者登録をしなくてよかった。そのおかげで、脅しが通じないということに説得力が生まれる。


「何を言ってるんですの?そんなことで言い逃れしようとしても無駄ですわよ」


 それでも認めようとしない縦ロール。受付嬢さんからも一言入る。


「いえ、本当です。彼は冒険者登録をしていませんよ。後、ギルド内で堂々と一般人を脅すような言動は慎んでください」


 しっかりと脅迫行動にも釘をさすギルド員さん、マジ仕事人。


「ギルド職員風情が偉そうに…」


 受付嬢さんも睨み付ける縦ロール。しばらく、睨み続けていたが、またしても取り澄まして言う。


「わかりました。20万ゴールド出しましょう。早く売りなさい」


 この期に及んでそんなことを言う縦ロールに、俺の我慢も限界を迎えた。何の我慢かって?そりゃこの世界に来てからの色々だよ。冷静な振りしていたって、何も思わないわけないだろ?

 国も出てない内から、貴族相手に面倒事を起こすのは得策ではないだろう。でも、それ以上にこの国の連中に好き勝手されるのは我慢が出来ない。どうせ国全体が敵みたいなものだ。今更貴族の10人20人と敵対したって状況は変わらない。荒事になったら殺して奪えばいい。


「2000万ゴールド」

「はい?」

「2000万ゴールド未満では売りません」


 自主的に500万を超える価格を提示すれば売ろうと思った。しかし、ここまで来たら時間の無駄だろう。4倍の価格を吹っかけて話を終わりにしよう。ちなみに計算式はこう。

 短剣の価格が500万、付加価値が付くだろうから×2、さらに貴族がムカつくから×2だ。


「む、無茶苦茶ですわ。その剣自体の価値は500万程度ですわよ…」


 やっぱり、この短剣自体の価値は把握していたようだな。本当に呆れてものも言えない。しかし、これで遠慮が要らないことも証明できたのでこのまま続けよう。

 それに無茶苦茶なのは当然だ。これは交渉ではなくて脅迫だからね。嫌なら買わなくていいよ。後でファイアボールの的にするから。


「2000万、払いますか。払いませんか」


 出来るだけ平坦な声で語る。


「貴族にそんな無茶な要求してタダで…」

「2000万、払いますか。払いませんか」


 1度目と同じ声色で語る。


「ちょっと待ちなさい、せめて1000ま…」

「2000万、払いますか。払いませんか」


 相手の話を遮って語る。


「だから話を…」

「2000万、払いますか。払いませんか」


 機械のように繰り返し語る。


「…払いますわ」


 ついに縦ロールが折れた。一切話を聞かず、同じ話を繰り返してゴリ押すという、主導権を持っているからこそ可能な無慈悲な戦術が炸裂した。


「交渉成立ですね。現金でお願いします。ギルド員さん、今の記録お願いします」

「…はい」


 後でごねられたら嫌だから、受付嬢さんに正式な記録をとってもらうことにした。正直、受付嬢さんも引いている気がする。


*************************************************************


進堂仁

LV15

スキル:<剣術LV6 up><槍術LV4 up><棒術LV6><盾術 delete><弓術LV5><格闘術LV5 up><暗殺術LV2 new><斧術LV5><火魔法LV2 up><水魔法LV2 up><風魔法LV2 up><土魔法LV2 up><雷魔法LV2 up><氷魔法LV2 up><闇魔法LV3 up><回復魔法LV2><呪術LV1><憑依術LV1><統率LV2><鼓舞LV3><魔物調教LV3><鍵開けLV3><泥棒LV4><恐喝LV4><拷問LV2><調剤LV2 new><身体強化LV8 up><跳躍LV4><夜目LV3><狂戦士化LV1><索敵LV6 new>

異能:<生殺与奪ギブアンドテイクLV3><千里眼システムウィンドウLV><無限収納インベントリLV-><契約の絆エンゲージリンクLV-><???><???><???>

装備:ゴブリン将軍の剣


木ノ下さくら

LV9

スキル:<棒術LV5><火魔法LV3 up><水魔法LV2 up><風魔法LV2 up><土魔法LV2 up><雷魔法LV3 up><氷魔法LV2 up><闇魔法LV3 up><回復魔法LV1><身体強化LV6><跳躍LV3><索敵LV1 new>

異能:<魔法創造マジッククリエイト

装備:ゴブリン魔術師の杖


ドーラ

LV7

スキル:<棒術LV5 new><盾術LV3 new><竜魔法LV3><火魔法LV1 new><水魔法LV1 new><風魔法LV1 new><土魔法LV1><雷魔法LV1 new><氷魔法LV1 new><闇魔法LV1 new><回復魔法LV1 new><身体強化LV6><飛行LV5 up><突進LV5 up><咆哮LV5 up><噛みつきLV4 up><跳躍LV3 new><索敵LV1 new>

装備:僧兵のバトルスタッフ、鋼の楯


高慢な貴族を書くのが苦手です。そのせいで頭が悪そうになってしまいました。次の話から奴隷が出ます。

20150726改稿:

・この世界では学生服が不自然ではないと設定変更しました。

・貴族とのやり取りに仁の内面描写を追加しました。

途中でも少し触れていますが、仁は冷静な振りをしているだけで、感情で動いたり、ゴリ押ししたりします。キャラがブレているように見えたらごめんなさい。

20150811改稿:

ドーラの大盾を盾に変更しました。


20150912改稿:

修正(6)の内容を反映。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
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― 新着の感想 ―
盗賊団の討伐報告なんてしたらこうなることなんてわかりきってたんだから黙ってりゃ良かったのに。
[一言] 面白い作品を作る作者さんに感謝。
[良い点] スカッとしました!
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