第8話 さくらの異能と街到着
もう1つ異能が増えていた、と言っても俺のではない。ステータスを確認しているときにさくらの異能が確定しているのを発見したのだ。早速ドーラと話をしているさくらに伝える。
「さくら、今ステータスを確認してたら、さくらの異能が開眼していたぞ」
「本当ですか!どんな異能ですか?ああ、やっと役立たずから抜け出せそうです!」
とてもうれしそうに笑うさくら。しかし若干心外だ。何度も言っているが役立たずなんて思ったことはない。確かに戦力としては期待できていないが、見知らぬ場所で1人ではないというのは、大きな支えになると思うんだ。もし、無能扱いで追い出されたとき、自分1人だったら何してたかわからないよ、俺。
「だから、そんなことを考えたことはないって…」
「わかっています。仁君はそんなこと言わないってことも。ですが、私自身は常に役立たずでいることを自覚しているんです。何か1つでも、自信をもって役に立てていると言えることが欲しかったんです」
「そうか、じゃあこの異能が自信につながるといいな」
そういうと俺はさくらの異能を紙に書いた。
<魔法創造>
???
これまたすごそうな異能が出てきたものだ。
「魔法創造?どんな効果ですか?」
「わからない」
「わからない?ヘルプで聞いてもわからないんですか?」
困惑するようにさくらが聞いてくる。俺もやってみたが、変わらなかった。それが何でかを質問したら、こちらには回答があった。
「異能って言うのは、この世界のルールから外れているらしい。ヘルプで分かるのはこの世界に属することだけらしい。概念や自分の持つ異能ならともかく、他人の異能に関してはわかるのは名前くらいみたいだよ。<契約の絆>による共有でもわかんないんだから厄介だよね」
「じゃあどんな力なのか、分からないんでしょうか?」
「いや、そんなことはない。俺の場合は<千里眼>が説明してくれたけど、本来はそんなものがなくても自分の異能がどんな力なのか自然と分かるらしい。要は異能の存在に気付けるかどうかという話だ。名前まで分かっているから、試しに自分に問いかけるようにしてみたらどうかな?」
俺も確証がないから、さくら自身にやらせるしかない。
「わかりました。やってみます。…自分に異能を問いかける。…自分に異能を問いかける」
目を閉じながらぶつぶつ唱えるさくら。30秒くらいたったところで目を開く。
「あ、わかりました」
やはり、ここまで分かっていれば理解するのも簡単なのだろう。俺の方を向いて説明してくる。
「えっとですね。この世界にない魔法で、想像力の限り新しい魔法を創造できる能力みたいです」
「これまたすごい能力だな。元の世界に帰る魔法はできないのか?」
これで元の世界に帰れる魔法が出来たら、話は早そうなんだけれど…。多分そこまでうまい話はないだろうな。
「ちょっと待ってください…。…無理みたいです。なんか邪魔が入る感じがしますね」
やはり、そんなに甘くはないか。残念だが、さくらのせいでもない。諦めよう。
「後、魔法を作るのには大きな魔力が必要みたいで、作った魔法を使うのも既存の同等の魔法よりは大きく消費MPが必要みたいです」
ある意味デメリットというか。制限が付くわけだ。しかし…。
「それさ、普通の状態のさくらで使える能力なのか?」
なんか、俺の<生殺与奪>と<契約の絆>が前提にあるような能力じゃね?
「無理、ですね。結局仁君のお世話にならなければ、異能1つ満足に使えないようです。ごめんなさい」
さくらはそういうが、俺の頭にはある仮説が浮かんでいる。自分で言うのもなんだが、さくらは俺に依存する傾向がありそうだ。そして発現した異能も俺ありきとなっている。そこで考えたのは『異能は本人の望みをかなえる方向に発現する』というものだ。俺の異能も含めて、異能が発現する際にはその時の困りごとを解決することが多かった。これを異能の性質と考えれば、納得できると考えたのだ。
ちなみにこれを踏まえてさくらの性質を考えると、『さくらは俺の役に立つことを望んでいる。しかし、独り立ちできるような力は望んでいない』ということになる。悪い言い方をすれば、さくらは謝っているが、望み通りの状況を作ったことになる。
「さくらの異能の検証は後にして、とりあえずここを引き払おうか。持てるものは全て俺の<無限収納>にいれればいいから…」
「わかりました。入れるのに手伝いとか必要ですか?」
「いや、大丈夫だ。この部屋を回って、持っていくものに触れればいいだけだから」
正確には手をかざすだけでも問題ない。触れたくないものとかでも入れられる親切設計だ。
「わかりました。じゃあ、ドーラちゃんとお話でもしていますね」
「頼む」
《わーい。またさくらおねえちゃんとおはなしできるー》
「ドーラちゃん。可愛いです…」
さくらもすでにドーラにメロメロだ。天使だな。格納に入る前に俺もドーラの頭を撫でる。
《きもちいーよー》
「こっちまで幸せになるな…」
「そうですね…」
2人してドーラに癒されていた。作業が進まないので、泣く泣くドーラのもとを離れる。
《またなでてねー》
「おう、また後でな」
部屋の中を時計回りに移動しつつ手当たり次第にアイテムを格納していく。樽の中身を確認する。血が付いた装飾品が入っている。商人から奪ったものだろう。他にも武器、防具などが複数入っている。木箱を開けてみるとポーションなどの薬品が無造作に積まれていた。金品の類もかなりの量があったので、当然頂戴する。
面倒なので樽ごと、木箱ごと<無限収納>の中に入れていく、<千里眼>と組み合わせることで、<無限収納>の中にあるものを識別することもできるのだ。細かい中身の確認は後でもできるだろう。
あまりにも変なものが入ってないことだけを確認してから<無限収納>に突っ込むだけの簡単なお仕事になっていた。
そんな中、あるポーチが気になった。こんなところにポーチが単体で置かれているのは不自然だからだ。高価な品なのかと思ってステータスチェックをかけると、少し驚くべきことが書かれていた。
アイテムボックス
備考:一定量までのものが入るマジックアイテム
この世界には<無限収納>ほどではないが、物を多く収納する手段がいくつかある。
1つは目の前のポーチと同じアイテムボックス。これはカバンや箱などに特殊な魔法をかけた、いわゆるマジックアイテムというもので、見た目よりも多くのものを格納できる。入る量は体積で決まり、最大で体育館くらいの体積は入るらしい。安物は物置サイズ。それでも数10万はかかるというのだからびっくりだ。目の前のアイテムボックスはポーチサイズでレンタルボックスくらいまで格納できるらしいので、かなりの高級品だ。宝部屋に置かれるのも納得だ。
もう1つは<空間魔法LV1>の『格納』だ。これは使用者の魔力量によりサイズの変わる亜空間に物を収納するというもので、空間魔法使いは運び屋なんて言われることがある所以だ。
<無限収納>がある以上、その劣化版ということにしかならないが、これを手に入れられたのは嬉しい。なぜならこれで<無限収納>を誤魔化せるからだ。空間魔法使いでもない奴が、アイテムの出し入れをしていたら不自然だからな。
ポーチ型ということで、さくらに持っていてもらうことにした。もちろんアイテムボックス云々の説明もしておいた。
「この部屋にあるものの半分くらいは、そっちに入れようと思うんだ」
「なぜです?全部<無限収納>に入れても問題ないのでは?」
「もしも盗賊から奪ったものを見せろとか言われたら、そのアイテムボックスを見せればいいんじゃないかと思ったんだよ」
面倒事というのはいつ起こるかわからないからな。もちろん、見せた後にそれを奪おうとかされたら、ただじゃおかないけど。
「なるほど、じゃあ高価そうな物はこちらに入れましょうか」
「ああ、頼む。今<無限収納>から高価そうな物を出すから」
<無限収納>と<千里眼>の機能により、一定額以上となる品物だけを取り出す。血とかも<無限収納>内で取り除くことが出来るので、出てきたものはみんなきれいな状態となっている。
俺が<無限収納>から出して、さくらがアイテムボックスに入れるというのを繰り返し、高価なものは大体さくらの方に移した。
この部屋のものは大体収納したので、次は盗賊の装備品とかだ。盗賊からは特に高価な品物以外は取り外さないようにした。装備を全部奪い、村人みたいな恰好で転がしておくと、俺たちの行為の正当性が疑われてしまう。アイテムボックスのことも極力話したくはないからな。
お頭の大斧は<無限収納>に入れた。大きくてかさばるので、アイテムボックスに入れるよりも良いと判断したからだ。盗賊が使うには過剰な逸品だ。奪わないという選択肢はなかった。どこにやったか聞かれたら適当に惚けよう。
「めぼしいものはこれで全部かな…」
「そうですね。あとは特に必要ないでしょうね」
《おかたづけおわったのー?》
そうか、ドーラにはお片付けに見えていたのか…。
「ああ、終わったよ。これからここを出るんだ」
《わかったー。どーらはドラゴンがいい?にんげんがいい?》
多分、どっち形態でいればいいかっていう質問だな。
「しばらくはドラゴンでいてくれ。街で服を買ったら、人間形態でその服を着てくれ」
《わかったー》
「それと、ドーラにも戦ってもらう予定だが構わないか?」
《どーらもたたかうの?わかった。がんばるー》
「ドーラちゃん、戦えるんですか?」
さくらとしてはできればドーラを戦わせたくない様子だ。
「ああ、戦ってもらう。素質を見れば十分に戦えるだけの力はある」
<竜魔法>は強力そうだし、見てみたい気持ちもある。
「だからまずはステータスとスキルを与えようと思う」
《???》
まだ詳しくは話していないからな。その辺の説明も併せて行う。その結果のドーラの反応は…。
《ごしゅじんさますごいー》
あんまりわかってない模様。まあ、俺がすごいということをわかってくれてれば、問題はないだろう。え、ダダ甘?何のことかわからないな。
せっかくなので<契約の絆>を使って遠距離から能力を与えてみる。ここの盗賊から奪ったものと、元々キープしていた能力からドーラに合わせてスキルを与えていく。
《なんかつよくなったきがするー》
どうやら、実感できるほど能力が向上した様子だ。これなら戦闘でも役に立ってくれるだろう。
「さて、後はドーラの戦闘スタイルだな。フェザードラゴン形態で中距離を自由に移動して、<竜魔法>をぶつけるんだ」
《わかったー。まかせてー》
ドーラが元気よく返事をする。横ではさくらが不思議そうな顔をする。
「<竜魔法>?なんですかそれ?」
「ああ、さくらには説明してなかったっけ。<竜魔法>は、竜種のみが使える魔法で、無詠唱、高威力、多属性ととんでもない代物だ。その分、1度撃つとしばらくは撃てない。つまりクールタイムが長いということになるけどな」
「そんなすごい魔法があるなら、どうして檻を壊さなかったんでしょう?」
そういえばそうだ。逃げようと思えば逃げられたんじゃないのか?俺とさくらはドーラの方を見る。ドーラは首を傾げながら考えているようだ。
《あのね、おじいちゃんからそとで<竜魔法>はつかうなっていわれてたの。だからおりのなかではつかわなかったの》
ドーラの称号から考えて、強力なのだろう。外で使うことを禁じる程度には…。
「あれ、でも仁君が使えって言ったら使うんですよね?」
《うん、だっておじいちゃんより、ごしゅじんさまのほうがすきだから、ごしゅじんさまのいうことをきくの》
嬉しいことを言ってくれる。でもおじいちゃんかわいそう。
「さて、ドーラの戦闘準備も終わったことだし、本格的にここから出ていこう」
「はい」
《おー!》
準備を終えて洞窟を後にする。一応背嚢にも物は入れている。こちらには旅人らしい装備などを入れた。簡単に言えば偽装だ。アイテムボックスがあるとはいえ、何も持たずに旅をするなど怪しすぎる。
森の中で遭遇した魔物は俺が倒した。<竜魔法>の威力がわからない以上、森の中では使わせたくなかったからだ。
森を抜け、最初に遭遇した(わざと)ゴブリンに実験台になってもらうことにした。
「ドーラ、あのゴブリンに向けて<竜魔法>を撃ってくれ」
《わかったー》
ドーラは空を飛び、ゴブリンに近づくと息を吸い込む。そのまま吐き出すと、その口から勢いよく炎が噴出された。火はドーラを中心に40°くらいの角度で10mにも渡って焼き払った。当然、射程内にいたゴブリンは黒焦げだ。
さくらはもちろん、俺も驚きだった。まさかこれほどの威力の攻撃をタメ無しで撃てるとは…。
《おわったよー》
そういって俺のもとに近づいてくるドーラ。ステータスを確認するとゴブリンの分だけ能力が増え、経験値も取得できているようだった。
「ああ、ご苦労様。それにしてもすごい威力だな」
《えー、でもひさしぶりだから、すごいてかげんしたんだよー》
これで全力ではないそうです。スペック高いなこの子…。
「ドーラちゃん凄いです…」
《ほめてほめてー》
さくらのもとに近づき、すりすりとほっぺたを擦り付ける。
ドーラが戦えることがわかり、誰が倒しても能力を奪えるようになったので、今後は連携を中心に練習して行こうと思う。盗賊にできたんだから俺たちにもできるよね。
それから3時間ほど歩き、街が見えてくる。途中で食べたホーンラビットの肉をドーラは気に入っていた。
《また、ホーンラビットのお肉が食べたいー》
「また今度ね。街に行けばいろいろ食べられると思いますから、楽しみにしててくださいね」
《わーい》
街に入ったら、ドーラにいいものを食べさせてあげたい。
街に入るときはドーラには背嚢の中に隠れてもらうことにした。フェザードラゴンでもマッパの幼女でも目立つことは間違いない。なので、まず服を買う。宿をとって着替えさせる。幼女姿で連れていく。喋れない子供と言って連れていけば問題がない。設定も考えており、口裏合わせに余念がない。
街についた。村よりも規模の大きい「街」だと、外壁や出入りの門がしっかりと整備されている。入るのには1000ゴールド。魔石支払いでよい。売れるものがある場合は確実に1000ゴールドを超えるものを質として置いていけばよい。中で換金して質の品を買い戻すこともできる。
質を受け付けるということは門番は信用第一の職業ということになる。逆に言えば、門番が信用できなそうな街は中も信用には値しないということだ。ここの門番はきちんとしているようだった。無事2000ゴールド(ドーラの分はノーカウントだ)払い中に入る。
この街はティエゾの街というらしい。王都に比べればかなり小さいが、この間の村(カバテ村)とは比べるまでもなく大きい。
「向こうに服屋があるみたいだ」
「いつものことですけど、マップ便利です」
早速マップにより服屋を探す。数件あるが門から1番近いところに入る。
「いらっしゃいませー、何をお探しでしょうかー」
探しているのが子供服なので、不自然にならないように考えた設定を押し出す。
「子供服を探しています。5歳になる妹の誕生日に、いい服を買ってあげたいんです」
店員の女性が勧めるまま、青いワンピースタイプの服を購入する。…1万ゴールドもするのか。予算は2万といったからな。ちょっと大きく出すぎだったか。いや、誕生日プレゼントという以上、奮発したとしてもおかしくないからしょうがない。まあ、ある意味俺からの最初のプレゼントだからな。かわいい子はかわいい服を着るべきだとは俺も思う。
とりあえず一着、念のために安物(1000ゴールドくらいの)を2着追加で購入した。
ある条件付きでマップから宿屋を探す。見つかった宿は1泊3000ゴールド、食事は1000ゴールドの少しいいところだ。2名分の宿泊料金を払って、部屋に入る。
「よし、ドーラ。人間形態になってこの服を着てくれ」
渡すのは1万ゴールドの服。最初だからね。いい服着てもらいたいものね。
《はーい》
ドーラが人間形態になるのを見守る。見守る。マッパの幼女が服を着るのを見守る。見守る。
「あれ?なんで仁君見てるんですか?」
さくらが今頃気付くがもう遅い。可愛いものが可愛いことをしている瞬間を、見逃すなんてもったいない。
「ご主人様だからな」
「理由になってないですよ…。でも私も含めて配下ですし、ありなんでしょうか…。普通に考えたらおかしいですけど、異世界ですし…」
考え込むさくら。異世界だろうが、テイマーとテイミングモンスターだろうが、幼女の着替えを覗いていい理由には弱いんじゃないかな。自分が不利になることは言わないけど…。というか、さくら相手には紳士的にふるまっているつもりだが、変なところで欲望が出ているのだろうか…。気を付けよう。
《着替えたー》
「よしよし。よくできました」
《えへへー》
白い髪をなでるとドーラがうれしそうに笑う。ドーラの髪は白いが、白髪のようなものではなく、銀色のような光沢があるきれいなものだ。さらさらしており、触っている方も気持ちよくなる。俺、ドーラのこと好きすぎやしないだろうか。ロリコンなのか。そうなのか。でも、ドラゴン形態も大好きだしなー。
「さて、ドーラを愛でるのはこれくらいにして、ギルドに報告に行こうか」
「そうですね。行くなら早い方がいいですよね」
街でやることの1つに、盗賊を倒した報告をするというのがある。以前も説明したが、盗賊退治はギルドからの依頼になっているし、盗賊の壊滅は商人や周辺住民からしたら重要な情報なのだ。
この国には恩などないが、罪もない住人に対し、不義理をし続けるつもりもない。報告程度で済むならすべきだろう。ちなみにギルドへ登録するつもりはない。この国にあまり情報を残すつもりがないし、拠点にするつもりもないからな。
冒険者ギルドに到着する。それらしい雰囲気のする建物だな。レンガ造りでなかから喧騒が聞こえる。荒くれ者も多いのだろう。余談だが、受注のための正面入り口の他に、依頼専門の入り口というのもあるようだ。たしかに、こんなところに正面から入りたくないよな。
俺たちの場合、一応達成に属する用件だからこちらから入ることにした。
「すいません。ちょっとご報告したいことがあるんですが…」
「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件でしょうか」
丁寧な対応だ。やはり受付嬢とは見目麗しいお姉さんであるべきだろう。
「はい。盗賊を討伐しましたので、そのご報告に…」
「討伐、ですか…。アジトを見つけた報告とかではなくて、ですか」
「はい。全部で 10名。リーダーは大斧使いでした」
そこまで言うと受付嬢さんは驚いた顔をしてから、何かを考え込んだ。
「この辺でその情報に当てはまるのは…。『黒い狼』ですかね…」
「そういえば、テイムされたと思しき狼がいましたね」
確かあの狼も黒かった気がする。テイムモンスターが先か団名が先かは知らないが。結局名乗らせなかったし。
「間違いないでしょう。ちょっとギルド長呼んできて」
近くの受付嬢にそんなことをいう。大事になりそうな予感。小規模だし、すぐに話が終わると思っていたんだが…。こちらに向き直った受付嬢さんが確認してくる。
「えっと。冒険者の方でしょうか。この辺ではお見かけしたことがありませんので」
「いえ、旅人です。ギルドカードは持っていません。多少腕に覚えはありますが…」
ギルドカードとはギルドに登録した冒険者であるという証だ。例にもれずいくつかのランクがある。国家を問わずに発行できるが、別の国に行ったら1度更新する必要がある。
「そうですか。では登録はなされますか。登録していただきますと、順番は前後しますが、討伐が確認され次第、報奨金の方をお渡しできますが」
「いえ、確か登録しないでも、報奨金の半額はいただけるんでしたよね」
不義理だなんだ言ったが、結局は金が欲しかったんだ。悪いか!
「ええ、ですが登録に際してデメリットなどはありませんし、討伐報奨は決して安い額ではないのですが…」
「すいません。他の国のギルドで登録すると友人と約束しているので…」
「そうですか、そのような約束があるのでしたらしょうがありませんね」
ギルドカードには発行した最初の国の印が刻まれる。何か複雑な事情があるのだろうと、詮索をやめてくれた。嘘は言っていない。さくらという友人と約束したのだから。後ろにいるけど。
「『黒い狼』を倒したというのは誰だい」
厳ついおっさんがやってきた。40代くらいだろう。歴戦の強者感が出ている。
「はい、ギルド長。こちらの方です」
「ふむ。君、応接室を用意してくれたまえ」
ギルド長を呼びに行った受付嬢が再び奥に下がる。応接室とかあるんだ。あとやっぱり面倒事になりそうな予感がする。
「私の名前はジョセフという。この街の冒険者ギルドのギルド長をしている。君たちに詳しい話を聞きたい。お時間はよろしいかね」
応接室準備させといて今更…。拒否権はないのね。いや、問題はないけどさ。
「はい、大丈夫です。僕の連れも一緒でいいですか?」
「うむ、構わんよ」
ギルド長と先ほどの受付嬢に連れられ奥にある応接室に入る。きれいな部屋だ。とても表にいるような荒くれ者が使う部屋とは思えない。ああ、依頼者を連れてくるのが主な利用方法か…。
「さて、早速聞きたいのだが、『黒い狼』のアジトはどこにあった?」
そういって地図を広げるギルド長。
「この山のこの辺ですね。洞窟がありました」
俺のマップほど正確ではない地図を見ながら、大体の位置を指さす。
「むう、意外と近くにあったのだな。経緯や戦いなどの詳細を説明してくれるか」
「はい。旅をしている中で、採取がてら山に入りました。その中で洞窟の前にいる狼を見つけました。狼を倒して怪しい洞窟に入ると、盗賊がいたので戦闘になりました。10名を殺し、その報告のためにこの街に来ました」
聞きいるギルド長。大丈夫。矛盾はないように作った話だ。嘘ではないし。強いてあげるなら、採取=お宝強奪、という部分だろうか。
「ボスは大斧を使っているという話だが、どうだった?」
あまり親切ではない質問をするギルド長。模範解答は多分…。
「手強かったです。斧を力任せに振るのではなく。手下との連携を考えて振るっているようでした。指示も的確で、なんで盗賊をやっているのか不思議に思いました」
「…どうやら嘘ではないようだな」
小声で言うギルド長。<身体強化>のおかげで聞き取れてしまった。
「いや、わかった。聞けば君たちはギルド未登録らしいね。今日は遅いから明日、ギルドから討伐の確認を出す。問題なければ報奨金の半分を渡そう。登録したくなったらいってくれよ。残りの半分を渡すから」
要らないって。
「そうだ。戦利品はどうした?まだアジトに残っているならその辺も相談に乗るが」
「いえ、運べるものは全て運び、別の場所に置いています。残っているものはほとんどありませんが、それらは好きにしてもらって構いません」
「わかった。調査隊の報酬に上乗せしておこう。後、買戻しの対応のためにしばらくはこの街にいてほしいのだが…」
「いいですよ。とはいえ、急用があればそちらを優先させてもらいますが」
簡単に言うと、『急にいなくなるかもしれないけど、その時はゴメンね』。
「それは仕方がないだろう。言い方は悪いが、君たちを拘束する権限など我々にないのだから」
「街を出るにしても、可能な限りはギルドにその報告をしてからにさせていただきますよ」
「それは助かる。出来れば、今の所在地を教えてほしいのだが」
不用意に居場所を知られるのは好ましくないな。一応追われる身だからな。
「買戻しの方に押しかけられても面倒なのでそれは遠慮させてください」
「口外はしないつもりだが…。仕方あるまい。では朝の10時と夜の6時の2回、ギルドに顔を出してくれんか?」
「それくらいなら構いませんよ」
こうして、滞在中のタスクが定まった。これくらいなら大事にはならないだろう。
「しかし、その若さで大したものだ。『黒い狼』といえば、この辺りを最近騒がせていた。悪名高き盗賊団だぞ」
「運が良かったんですよ」
「リーダーの狡猾さは有名だ。ちょっと運がよいくらいで奴を倒せるとは思えん」
もちろん、運が絡むような戦い方はしていないが、こう言っておくのがいいだろう。ギルド長としては細かい戦い方を聞きたそうにしているが…。
「申し訳ありませんが、倒し方については説明をするつもりはありません。隠し玉もありますので…。それにしても盗賊の頭について詳しいですね。面識があったんですか?」
戦い方についての説明をやんわりと断る。返しに気になったことを聞いてみると、ギルド長は渋い顔をする。
「ちょっとな…。奴はこのギルドの登録冒険者だったのだよ」
沈痛そうな顔をしてつぶやく。訳ありか?詳しくはわからないが、ギルド長や盗賊の頭にもそれぞれストーリーはあったのだろう。オッサン同士のサイドストーリーに興味はないけど。
「さて、聞きたいことは聞かせてもらった。ありがとう。この街を楽しんでいってくれることを願うよ」
切り替えるように言う。こちらとしても必要なことは伝えたので、帰る旨を伝える。
「では、失礼いたします」
「うむ。明日の10時に来てくれ、多分いきなりは買戻しする者もいないと思うがな」
俺のお辞儀に合わせて、さくらとドーラもお辞儀をする。
ギルドを出る。女子供連れなので絡まれるかとも思ったが、そんなことはなかった。後で聞いた話だと、冒険者同士なら絡んでも喧嘩程度でお咎めは少ないが、相手が一般人だと下手をしなくても普通に犯罪。下手をするとギルド除名のお尋ね者らしい。冒険者でない宣言はしていたし、ギルド長と話をしているところも見られているから、手を出すべきではないと思われたそうだ。
多少の買い物を済ませ宿に戻り、食事を済ませる。ちなみに宿代、食事代はドーラの分も追加している。人間形態の方が厄介は少ないし、1人だけ宿の食事を食べられないのはかわいそうだからね。
《おいしいよー》
「慌てずに食べなさい。ご飯は逃げないから」
ドーラが多分初めての人間の食事に夢中になっている。聞いた話ではドーラの故郷ではドラゴニュートはあまり人間形態にならず、竜形態で過ごし、野生の魔物の肉などを食って生きてきたそうだ。竜形態なら複雑な料理とかできるわけないから当然だよね。
「やっぱり値段が高いだけあって料理もおいしいですね」
「そうだね。野営の時は酷かったもんね…」
「ええ、そうですね…」
俺とさくらのテンションは今食べている料理が美味いことによって、逆に下がっていた。
そろそろ本格的に旅の間の食生活を考える必要があるだろう。いくつか考えていることはあるんだよな。とりあえずは<無限収納>にできたての料理を入れておくのが暫定策だな。
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進堂仁
LV12
スキル: <剣術LV5 up><槍術LV3><棒術LV6 up><盾術LV1><弓術LV5 new><格闘術LV3 new><斧術LV5 new><火魔法LV1><水魔法LV1><風魔法LV1><土魔法LV1><雷魔法LV1><氷魔法LV1><闇魔法LV1><回復魔法LV2><呪術LV1><憑依術LV1><統率LV2><鼓舞LV3 up><魔物調教LV3 new><鍵開けLV3 new><泥棒LV4 new><恐喝LV4 new><拷問LV2 new><身体強化LV7><跳躍LV4 up><夜目LV3 new><狂戦士化LV1 new>
異能:<生殺与奪LV3 up><千里眼LV-><無限収納LV- new><契約の絆LV- new><???><???><???>
装備:ゴブリン将軍の剣
木ノ下さくら
LV6
スキル:
<棒術LV5><火魔法LV1><水魔法LV1><風魔法LV1><土魔法LV1><雷魔法LV1><氷魔法LV1><闇魔法LV1><回復魔法LV1><身体強化LV6 up><跳躍LV3 up>
異能:<魔法創造LV- new>
装備:ゴブリン魔術師の杖
ドーラ
LV3
スキル:<竜魔法LV3 new><身体強化LV6 new><飛行LV1 new><突進LV3 new><咆哮LV4 new><噛みつきLV2 new>
装備:なし
数少ない感想の悪い点がさくらちゃんばかりでした。感想を見る前から話の流れは決まっていたので、ある意味丁度良かったです。といいつつ、新しい魔法を1つも作っていませんけどね。
20150803改稿:
アイテムボックスを重量基準から、体積基準に変更しました。
20150819改稿:
仁のセリフから、逃亡者を思わせる部分を削除。
20150912改稿:
修正(6)の内容を反映。