第35話 後始末と褒賞
リザルト回です。カスタールで得たものが大体話に出てきます。
後、試験的に初めて本編に別視点を入れてみました。執筆予定の戦争編で仁の視点だけだと殴った→終わったで済んでしまうので…。
『女王になり替わろうとした魔族を極秘の女王騎士が退治した』
それがこの事件の顛末として巷に流れる噂となった。
もちろんこれは王家側が意図的に流したでっち上げだ。実際には既にある程度の期間なり替わられているし、俺は女王騎士ではない。噂が流れるのを覚悟の上で、その噂を王家の方である程度操作しようというのだ。
「諸君らも此度の件は内密によろしく頼む」
女王自ら頭を下げたので、冒険者たちもそれ以上強くは言わず、納得して帰っていった。集まった冒険者にランクに応じて報酬、と言う名の口止め料が払われたのも理由の1つだろう。残念ながら、俺には口止め料は支払われなかったけど…。
後、サクヤのあの口調は余所行き、女王状態専用の口調らしい。俺たちといたときはそんな口調じゃなかったので、初めは面食らったものだ。細かく聞いてみると…。
「え?あんな疲れる口調、普段使いするわけないじゃん」
と、返された。キャラ付けかよ!
城内は冒険者たちが帰った後も、上を下への大騒ぎだ。実際になり替わられていたわけだし、影響範囲の検証にかなりの時間がかかりそうだ。もちろん、俺もサクヤに頼まれてマップやアルタの能力をフル活用させられた。その途中で汚職とか横領のばれた家臣が何名かいたらしい…。知ってしまった以上、責任追及しなければいけないので、さらに忙しさが増したとサクヤにぼやかれた。そこまで責任持てねえよ。
ロマリエの企みがばれた時点で、地下牢の看守は自害していた。潔いというか、何というか…。
そんなこんなでもう3日も王城にこもりきりになっている。俺はナチュラルにサクヤの近くにいるし(アルタが)有能なのは見せている、それに戦闘力が高いのもばれているわけで、秘書兼護衛みたいな扱いを受けている。食事で横の席に座っても誰も文句を言わないほどだ。俺の分すら出てくるし…。
個人的には政治の世界にあまり関わるつもりはないけれど、今回の件に関しては自分で選んでやったことの後始末の面もあるから、やらないわけにもいかないだろう。
今もサクヤは俺の膝の上で書類と戦っている。いや、俺いらんよね?
「いる!」
頑として譲らない。ドーラが時々やってきて寂しそうに見ている。そういう時はサクヤを半分どけて、そこにドーラを座らせる。
ちなみに俺のメインパーティは城内にフリーパスだ。ただし、俺と一緒にいる場合に限る。もちろん、俺と一緒にいる=サクヤと一緒にいる、なのでどう考えても問題ない。
さらに2日が経った。ようやく今回の魔族を発端にした騒動が収束を見せてきた。しかし、それと同時に俺の扱いもさらに上がっていた。大臣の一部は俺を様付けで呼んでくる始末だ。
A:マスターが女王サクヤの婚約者であり、未来のロイヤルファミリーであるという噂が飛び交っています。サクヤも積極的には否定しないので、その噂が真実味を帯びています。
おい、サクヤ…。
俺が半目でにらむとサクヤはこちらを向き、無邪気そうに(無邪気とは言っていない)笑顔を見せた。ほっぺたを引っ張る。
「だって、そんな素敵な未来、否定したくないから」
はあ、こいつはコイツで俺への好意を隠さなくなっている。プロポーズは気のせいかと思ったが、やや本気らしい。
「兄呼ばわりなのに、夫にしたいのか?」
冗談交じりでそう言うと…。
「知ってる?血のつながらない兄妹なら結婚できるんだよ」
そう笑顔で返してきた。
ラノベか!
次の日、一段落付いたということで、俺はひとまずお役御免になった。
で、今俺は謁見の間にいる。理由?それは今回の件の褒賞だよ。いくらサクヤが認めていても、俺は所詮国家運営としては外部の人間。有能なアルバイトでしかないわけだからな。しかも魔族討伐の立役者となれば、褒賞を渡さないわけにもいかないらしい。
もちろん、他の冒険者とは別枠で、だ。
それに俺が王家最大の防衛を突破したところは多くの人間が見ている。簡単に言えば、俺は単身で王家を滅ぼせるわけだ。そんな人間を敵に回すなんて正気の沙汰ではない。加えて、そんな俺が女王であるサクヤと親密なのだから…。
「臣下の礼は不要なり」
また茶番ですね。演技でもないのにサクヤに跪くのは嫌だしな。
《女王の聖水》
「ぐっ」
「どうかされましたか?女王陛下?」
「いや、何でもないのじゃ…」
俺のジャブに膝をつきそうになるサクヤ。何とか踏みとどまったようだ。
「仁殿、此度の件における様々な助力、感謝するのじゃ。ついてはその褒美を取らせようと思う。望むモノについては先に聞いておる。以下のもので相違ないか?」
この場で俺の方から言うのも面倒なので先にサクヤの方に伝えておいた。それをサクヤの口から言うことで、すでに了承済みであると先に念を押しておく、らしい。
「1つ、王都に拠点を用意する。2つ、魔族の遺体の所有権。3つ、『王授の首飾り』を含む魔法の道具を含む宝物を複数。以上じゃな」
「はい、間違いありません」
まあ、敬語くらいは使ってあげないとね。
「では、これら3つを…」
「お待ちください!『王授の首飾り』をそんなどこの馬の骨とも知れぬ輩に授与するくらいでしたら、我がハインベルぐふっ」
余計なことを言おうとした貴族を、近くの他の貴族、確か俺のことを様付けで呼んでいた大臣が腹パンで黙らせた。崩れ落ちる失言貴族。腹パン、いいなあ。
A:マスターが腹パンをしたら、あの貴族は魔族と同じ末路をたどります。
だよなあ。
てか、なんであの貴族わざわざこの場であんなことを?
A:古い家ですが、不祥事も多く、なかなか『王授の首飾り』を得られないようですね。
そんな奴この場に呼ぶなよ。サクヤ、後でお仕置き決定。
「ひっ」
「どうかされましたか?サクヤ女王?」
「いや、何でもないのじゃ…」
あ、サクヤから念話だ。
《ごめんなさーい!お兄ちゃん許してー!》
《だめ》
《ひーん》
よく見ると涙目になっているサクヤを大臣が促す。
「女王陛下、失礼しました」
「う、うむ。では、これら3つを仁殿に授与することとする」
「ありがとうございます」
これで終わりかな。と思ったら、大臣が話を続けた。
「して、仁殿は貴族位などは…」
「謹んで辞退させていただきます」
「そうか…、残念だ」
余計なものを押し付けようとするな。貴族たちも半数位ががっかりした顔をしているぞ。普通こんなよそ者が貴族になるなんて嫌がると思うんだが…。
A:ご自覚がないようですので補足を。有体に言って、この国は崩壊の瀬戸際でした。それを食い止め、かつ後処理でも力を振るったマスターを、この国の上層部は取り込みたいと考えています。そのためなら貴族位くらい安いものだと判断しているようです。
へー。
サクヤがその場を締め、俺への褒賞の授与はお開きとなった。ちなみに最後まで失言貴族は崩れ落ちたままだった。いいパンチしているね、あの大臣。
俺たちは早速、女王から授与された拠点、平たく言えば屋敷に向かっていた。そこは王都の中でも一等地で、サクヤの別荘と言うか一時期住んでいたという屋敷だった。
「ご主人様、僕たちはどこへ向かっているんですか?」
クロードが珍しくおろおろしている。と言うか新人組は全員おろおろしている。普通に考えて、奴隷の身分で一等地をうろうろするのは度胸がいるだろうからな。褒賞とか女王関連の話、一切してないし…。
「俺が入手した拠点だ。お前たちはそこで生活してもらう」
「ええ!?こ、この辺りってどう見ても一等地…」
「ご主人様、本当に規格外ですよね…」
「やっぱり…」
何がやっぱりかは分からないが、軽く説明をしつつ歩いていたら屋敷に到着した。
うん。マップで見てわかってはいたけど、デカい。かなり広い庭があるし、本館は20部屋以上あるみたいだ。そして使用人用の別館まである。これ、ちょっとやそっとの褒賞で与えていい規模じゃないよね。
A:国を救ったなら、いいんじゃないですか?
「思っていたよりも大きいですね…」
「普通に豪邸じゃないの…」
さくらとミオも唖然としている。
「仁様ならこのくらい当然です」
「ええ、マリアさんの言う通りです」
信者2人は肯定しかしない。そういえば、この2人ってお互いのことをマリアさん、ルセアさんってさん付けで呼び合っているんだよな、なんでだろう?
A:(信者同士では上下を付けないって方針らしいですよ)
ん?アルタなにか言った?
A:いえ、なにも。
ならいいや。
門を開け、屋敷の敷地に入る。サクヤはしばらく使ってないって言っていたけど、普通に管理されているみたいで、埃1つない。逆に言えばこれからは俺たちでここを手入れしなければいけない。
「メイドや執事を雇わないといけないかな…」
「仁様、そのようなことにお金を使うようでしたら、ぜひ、奴隷をお買い求めください。新人奴隷組も含め、執事やメイドの教育を行えばよいと思います」
なるほど、今までは戦闘や旅を基準に奴隷を買っていたけど、今度は拠点整備も含めた奴隷を買えばいいのか。なんでそっちに頭が回らなかったのか…。
後、ちゃっかり新人奴隷たちにもメイドと執事の教育をさせるみたいだ。
「わかった。じゃあ、後で奴隷商に向かうか…」
「お待ちください。それは私とルセアさんにお任せいただけないでしょうか。新しい奴隷の教育も合わせて私たちにお任せください」
マリアが真剣な目でこちらを見ている。ルセアの件もあるから若干の不安がよぎる。ただ、ルセアにしても特に悪い方には転んでいないから、任せてしまってもいいかもしれないな。堂々と神様呼ばわりしなければ、多少は許してあげよう。と言うか、俺が何を言っても内心の神様扱いは変わらないと思う。
A:やっぱり気付いていますよね。
そりゃあな。なんか2人でコソコソやっていたし…。『神様』と堂々と呼ばれるのは嫌だけど、信者も配下もあんまり変わらないだろ?自主的に配下を増やそうとしているのを邪魔するつもりもないからな。
A:私の方で監視しておきます。問題がありそうなら報告いたします。
ああ、その扱いでいい。よろしく頼む。
A:はい。
「じゃあ、新しい奴隷の購入は2人に任せる。一応、スキルとかの確認も忘れるなよ」
「はい、お任せください」
「おー、『ルーム』のキッチンに負けず劣らずのキッチンがある!」
ミオはまずキッチンへ向かった。設備自体は同等だが、こちらの方が圧倒的に広い。でもミオは旅に連れていくから、ここで料理する機会は少ないよ?
他の面々も思い思いに探索している。
「ご主人様には当然1番大きな部屋ですわよね」
「まあ、誰かと言われれば仁君以外にいませんよね」
サクヤが使っていたであろう1番大きな部屋は俺の部屋となった。
「じゃあ、とりあえずメインメンバーは本館に1人1部屋ずつ…」
《ごしゅじんさまとおなじへやがいいー!》
「私もです。1番近くでお守りします」
ドーラとマリアが俺と同じ部屋を所望した。俺の部屋は他の部屋2つぶち抜いた以上の広さがあるので、多少人数が増えても問題ない。
「あ、私はご主人様の隣の部屋がいいわ」
「私も仁君の隣がいいです」
「私もですわ。そこが1番安心ですわ」
他のメンバーは俺の隣の部屋を所望した。いや、偏り過ぎじゃね?
とりあえず、じゃんけんで部屋割りを決めた。最終的に俺の隣の部屋はさくらとミオが勝ち取った。セラは正面の部屋だ。その左右にドーラとマリアの私室が用意された。俺の部屋で寝る気満々だけど、私室は別で用意することにした。あって困るものではないからね。
新人奴隷やルセアには別館を使ってもらうことにした。本館でもいいといったのだが、恐れ多いと辞退されたからな。しかも別館で2~3人で1部屋を使う予定らしい。まあ、いきなりその待遇に慣れろと言っても無理だろうしな。
奴隷たちが作った昼食を食べ(奴隷以外は昼食を作れない。俺、さくら、従魔)、自由行動とした。この自由行動の間にマリアとルセアは奴隷を見繕うとの話だ。。
「じゃあ、これを<無限収納>に入れておくから」
「何ですか?」
「俺の血。奴隷契約に必要だろ?」
俺はビンに入れた血液をマリアとルセアに見せる。奴隷契約に必要な血はその場で出したものじゃなくてもいいんだよな?
A:鮮度は必要ですが<無限収納>で時間停止していれば問題ありません。
「じ、仁様!結構な量の血が!?」
「大丈夫大丈夫、すぐに『ヒール』かけたから」
「せ、せめて他の人の目のある場所でやってください!心臓に悪いです!」
涙目で懇願されてしまった。マリアとルセアの過保護が辛い。
「そんなことをしなくても、私たちの方で奴隷契約をした後で譲渡をすればよかったんですよ。仁様<奴隷術>使えますし…」
「いや、それはそれで面倒だろ」
「…わかりました。では最初から仁様名義で奴隷契約をしてまいります。行きましょう、ルセアさん」
「はい、マリアさん」
こうして2人は『ポータル』で移動していった。なぜ『ポータル』かと言えば、他の街にも奴隷の確認に行くからだそうだ。そこまでしなくても…。
屋敷には当然のように馬車を置くスペースもあるので、こっちに移してきた。ミドリは庭が気に入ったようで隅っこの木陰でのんびりやっている。いや、植物なんだから日の当たる場所に行けよ。
ミドリに関しては旅に連れていきたい理由もないし、屋敷で生産に励んでもらう方が有意義かもしれないな。
《そっちの方が…いい》
本人もこう言ってるし。あ、ノルマを決めておかないと何もしなさそうだから、一応はその辺の指示をしておいた。新人奴隷たちも俺の従魔については説明してあるから、回収係はそちらに任せることにした。
そうそう、従魔の話で思い出したけど、タモさんがついに<分裂>した。<分裂>に関しては<擬態>しない状態で使えるみたいだから与えておいたんだけど、今の今まで分裂はしなかったんだ。理由を聞いても《ま…だ》としか言わないし…。
A:よくわからない待ち時間があるみたいです。
アルタに聞いてもこれだし…。とりあえず1匹タモさんが増えたので1匹は馬車の護衛、もう1匹は屋敷の巡回をお願いすることにした。暫定だけどね。
思っていた通り、分裂するとスキルレベルは半分になった。しかし、半分になる前のレベルまではボーナスがついて上がりやすく、と言うか元に戻りやすくなっているらしい。つまり、タモさんにスキルを与えた状態で分裂させれば、スキルポイントを比較的簡単に増やせるということだ。
これを試さない手はない。次に分裂できそうだったら教えてもらうことにした。上手くいけばネズミ算的にスキルポイントが増えていく。あ、後タモさんも増えていく。
「で、お兄ちゃん。欲しい魔法の道具は決まった?」
「うーん、あんまりいいのはないなー」
「まあ、お兄ちゃんからしてみれば、お兄ちゃんの異能とさくらちゃんの魔法があれば、大抵のことはできちゃうからね」
サクヤは引っ張られすぎて真っ赤になった頬と涙目のままそう言った。もちろん、お仕置きの結果だ。
俺は今、3つ目の褒賞である魔法の道具の選定に来ている。サクヤの私室で目録を見せてもらっているのだ。しかし、サクヤの言う通り、俺らにできないことをフォローするような魔法の道具がなかなか見つからない。
そもそも、魔法の道具が欲しいというのは、『王授の首飾り』のオマケで他にもくれと言ったらサクヤがOKしたというだけで、何か目的があって言った訳ではない。
加えて『王授の首飾り』すらも、城内で<無限収納>から魔法を使っても怪しまれないようにする程度の意味しかない。基本的に必要なものなどほとんどないのだ。
「お、これなんかどうだ。魔力(MP)を注ぐと変な笑い声が聞こえる袋だって」
「ネタ枠じゃないの!なんでそんなのがあるのよ!」
欲しいものがない以上、面白い方に走るのはありだと思うんだ。
「じゃあ、こっちの魔力(MP)を通すと透ける女性用下着…」
「もっと酷くなった!え、嘘でしょ。そんな魔法の道具が城内にあるの?」
「ほらここ」
目録を指さす。このページはどうやらネタ魔法の道具のページのようだ。他にも魔力(MP)を込めると水が出るアイテム(ただし見た目はションベン小僧)とか、自動でめくられるスカートとか、比較的エロい、いや頭の悪そうな魔法の道具が見受けられる。
「本当にあるし!しかも男性用まである!何に使うの!?」
「さすがにそれを俺の口から言うわけにはいかないな。不敬罪で処刑されてしまう」
「いまさら何言ってんの!お兄ちゃん、私の、女王の私室に『ポータル』設置しているんだよ!寝室に直結だよ!いつでも暗殺や夜這いができるんだよ!まさしく生殺与奪を握ってるんだよ!」
まあ、そうですね。女王の私室には俺だけが使える『ポータル』を設置してある。はっきり言って、サクヤに俺の行動を止める術は何1つない。
「でも、夜這いは受付中なんだろ?」
「もちろん!」
これである。実は『ポータル』がなくても私室のカギは渡されている。これが何を意味するのかは誰でもわかるであろう。
目録をペラペラとめくる。その中で2点だけ見逃せないモノがあった。そこには『守護者の大楯』と『守護者の大剣』と書いてある。装備品のページにあるので、魔法の武器なのだろう。
「サクヤ、この『守護者の大剣』と『守護者の大楯』を貰ってもいいか?」
「うん?別にいいよ。一応、勇者の残した武器らしいんだけど、重すぎて誰にも扱えなかったから、ずっと宝物庫の肥やしになっているし…」
思っていたよりも簡単に許可されてしまった。
「いいのか?勇者の使った武器なんだろ?」
「ううん。そうじゃなくて、勇者が『作った』武器なの。実際に使ったという伝承は全くないのよ。このお城には他にも勇者製のアイテムは色々あるし、使っていない、使えない武器くらいならあげても平気なのよ」
「意味わからん。なんで態々そんなものを…」
腑に落ちない思いを抱えながら、早速宝物庫に向かう。番の兵士はサクヤが来たことに驚いていたが、サクヤの方は気にせずに俺を中に招く。
宝物庫の中には目録にあった魔法の道具が所狭しと並べられていた。その奥の方に目的の『守護者の大剣』と『守護者の大楯』があるようだ。
「はい、そこに置いてあるから持って行ってね。<無限収納>に入れるだけなら、持ち上げなくても平気でしょ?」
「ああ」
そこにあった大剣と大楯は勇者が作ったというだけあり、かなり立派な代物だった。
守護者の大剣
分類:大剣
レア度:伝説級
備考:『守護者の大楯』装備時に効果上昇、戦闘中背後の味方の数だけ強化、魔族特効
守護者の大楯
分類:大楯
レア度:伝説級
備考:『守護者の大剣』装備時に効果上昇、戦闘中背後の味方の数だけ強化、ノックバック完全無効
と言うか、普通に伝説級だった。それも俗にいうセット装備と言う奴だ。2つを同時に装備していると効果が上昇すると書いてあるが、普通は大剣や大楯を同時に装備はしない。重すぎて使えないということも合わせ、セラのために作られたような武器である。珍しく勇者がいい仕事をしているな。
大剣も大楯も白色をベースに青いラインが入っていて、所々に銀色の細工がしてある。どことなく神聖な雰囲気を持っている。ゲームとかだと聖騎士とかが使いそうな意匠である。
重すぎて動かせないらしく、ほとんどむき出しのまま置かれている大剣と大楯を手に持ってみる。重い…、でも持てなくはないな。
「って、お兄ちゃんなんで普通に持ってるのよ…。あ、ステータス…」
「…セラへのお土産確定だな」
折角の伝説級を使わないというつもりは全くない。セラならば使いこなせるだろうから、とりあえず<無限収納>に格納しておいた。
「あ、そうだサクヤ、この紙に書いた魔法の道具も頼めるか?」
他にも面白かった魔法の道具数点をサクヤに頼んだ。
「はーい。ふむ、ふむ、あ、これはいるんだ。ふーん」
ニヤニヤした顔をこちらに向けてくるサクヤ。余計なこと言われる前に帰りますかね。
「じゃ、俺は帰るから」
「あ、ちょっと待って、他の人の武器も持って行ってあげて!」
「どういうことだ?」
「みんなの武器を見たんだけど、明らかに実力に対して使っている武器のレベルが低いじゃない?折角だから他の人の装備も一新してあげたらいいと思うの」
あー。俺は霊刀・未完を入手してから武器の更新をしていない。他の子たちもステータスのおかげで武器の戦力不足にはなっていない。そのため、中々武器の更新が発生せず、実力に見合わないレベルの低い武器を使うことになっている。
「この間の件で横領がばれた貴族が、ミスリル武器のコレクターで、全部押収したから手元にあるのよ。と言うか、ミスリル武器を買うために横領していたみたいなのよ…」
「また微妙な由来のアイテムだな。そしてミスリルか…」
ファンタジー金属ミスリル武器の登場だ。この世界のミスリルはかなりいろんな特性を持っていて、武器に適すると言われている。
剣などの刃物にして良し、魔法を強化する杖にするも良し、変わったところでは特別な製法を用いることで適度な弾性を与え、弓にすることが出来るという、不思議金属なのである。
作られる武器は基本的に希少級で高いとは言えない。正確には希少級の上位で限りなく秘宝級に近いという。
「お兄ちゃん、セラちゃん、マリアちゃんは秘宝級以上の武器があるから、さくらちゃん、ミオちゃん、ドーラちゃんにミスリルの武器をあげるね。後で<無限収納>に入れておくから」
「ああ、よろしく頼む」
それほど困ってはいないが、実力者がレベルの低い武器を使うというのも格好悪いので、ありがたく貰うことにした。一般的にはCランクの冒険者は希少級くらいの装備があれば十分らしい。それ以上のランクになると、いろいろな伝手で秘宝級などを得る機会に恵まれるんだとか…。
後をサクヤに任せ、俺は屋敷に戻ることにした。
屋敷に戻った俺を待っていたのは、総勢20名を超える(ほぼ)少女たちの祈りだった。
マリアに帰ると伝えたら、玄関から入ってくださいと言われた。マップを確認したらその付近に20名くらいの青い点があったので、新しい奴隷と判断して気にせずに戻ったら、その全員が跪いた状態で祈りを捧げていた。
「あ、仁様。お帰りなさいませ」
マリアが一仕事終えた顔で近づいてきた。ちなみに少女たちはメイド服、少年たちは執事服を着用済みだ。メイド服はクラシックとミニスカートが半々ずつくらいだな。
「なにこれ?」
「新たな信…、奴隷たちです。すでに教育は済んでおります。忠誠の証ですね」
どう見ても信仰以下略。
ふと思いついたので、マップの設定をいじってみる。味方と配下を青、敵を赤、無関心を緑、信者を黄色、これで良し、設定終了。
「わー」
すると辺り一面が真っ黄色に変わった。当然のようにマリアも黄色だ。
「どうかされましたか?」
「いや、何でもない。それよりも結構な人数だが、お金の方はどれくらい使った?」
奴隷に関しては購入金額よりもリターンの方が大きいので、あまり気にしてはいないが、念のため。
「いえ、それほど高くはありませんでした。全員で10万もしませんでしたね」
…安い。正確に数えたら24名いるようだ。これで10万しないって、どんな奴らを連れてきたのだか…。あ、俺の方針からすれば今更だった。はっはっは。
見た限り全員欠損もないし、汚れてもいない、その上清潔そうな服を着ている。その内20名が少女だ。少年は4名しかいない。
「少女が多いな」
「ええ、仁様も男性ですから、身の回りの世話をするのにも女性の方が嬉しいだろうという配慮です」
普通にそっち方面で気を使われると、いたたまれない気持ちもあるんだけど…。
「さすがに全員少女にして、男手がないのも問題なので、4名は少年を買いました。後、少年の奴隷は多くが『赤』なんですよ」
ああ、なるほど。赤、つまり害意を持った奴隷は買わないように言ってある。当然だ。わざわざそんな奴を買うメリットがない。よっぽどレアなスキルや称号をもっていなければ欲しいわけがない。
本来、奴隷の心の内なんかわかるわけがないが、マップによりそれがわかるのは大きなメリットだ。
「わかった。それで、今後のメイドや執事教育に関してはどうするんだ?」
「それでしたら、ルセアさんのお屋敷にいた人を教育係として雇うそうです」
「ルセアの屋敷?」
そういえばルセアの家とかってどうなったのか、一切気にしていなかったな。
「ルセアさんは女王騎士副団長として、屋敷を国より与えられていました。そこで働くメイドや執事も含めてです。ですが、今回の件で女王騎士を辞めるので、そこを返却することにしたそうです。別にもらったままでもよかったみたいですけど…」
ルセアとしては女王騎士に何の未練も感じていないようだった。サクヤが少し可哀想だな。今回の一件、サクヤが1番の貧乏くじを引いたのは間違いない。何の得もしていないからな。挙句に俺の配下にさせられるし…。
A:(それが1番の得だったんじゃないですかね…)
「私財はこのお屋敷に持ってきます。執事やメイドもお城に戻ることになるんですけど、急には配属が決まりません。その間でウチのメイドや執事を教育してくれるようにルセアさんからお願いしてもらいました。サクヤ女王の許可も得ています」
「わかった。そっちの話は任せてもいいか?」
「はい、お任せください」
本職の方に教育をお願いしたというのなら間違いないだろう。俺からのプレゼントとして女子に<侍女>、男子に<執事>のスキルを1ポイントずつ与えておいた。
ちなみに<執事>はセルディクから奪ったもの、<侍女>はマリアがいつの間にか取得していたのをコピーしたものだ。
スキルのコピーと言えば、SランクやAランク冒険者たちの持っていたレア、ユニークスキルは1ポイントずつ貰っている。勝手な言い分ではあるが、魔族の企みで戦争に参加させられるところを回避させたということで、貸しを与えたということにして1ポイント貰うことにした。もちろん2ポイント返している。
面白いことに、スキルを失敬するときに違和感があったようで、辺りを見渡している冒険者もいた。凄いね、人類。それにしてもSランク冒険者の扱い酷いな…。
以下、貰ったスキル一覧。
<魔法剣><神聖剣><無属性魔法><魔道><神獣化><発動待機>
<神獣化>
獣人族の中でも限られた者しか使えない獣化。そのさらに上をいく獣化。スーパー獣人ともいう。変身だけでBパートが終わる。
<発動待機>
魔法を発動前の状態で保持しておける。レベルにより保有数が変わる。城内では使用不可だった。<無限収納>があれば事足りる。
ここら辺はSランク冒険者のユニークスキルだ。
<水属性耐性><風属性耐性><土属性耐性><雷属性耐性><光属性耐性><闇属性耐性><物理攻撃耐性>
いや、都合がいいのは分かっているけど1人いたんだ。耐性系スキルの塊みたいな奴が…。
<鞭術><獣化><詠唱省略><死霊術>
他にもレアなスキルがちらほら…。後、ついに念願の<死霊術>を手に入れた。
でもさくらにそろそろ蘇生術を頼もうと思ってた頃なんだよな…。
ついでに皆に新しい武器を手渡した。
「あのー、私が伝説級とか、恐れ多いにもほどがありますわよ…」
守護者セットを渡したセラがそんなことを言う。あ、当然のようにセラは守護者装備を持つことが出来た、それも片手で…。
渡した後で伝説級だと伝えたら、口を開けて呆けていた。先ほどのは正気に戻った後の第一声である。
「ご主人様相手には今更ですけど、こんなすごい武器、奴隷が持つものではありませんわ…」
「気にするな。サクヤからの貰い物で、勇者が作った武器と言うだけだ」
「さらに恐れ多さが上がりましたわ…」
セラは俺相手に何を言っても、1度言ったことが撤回されることがないと知っているので、諦めて<無限収納>に装備を仕舞った。
「私たちにも装備を用意してくれたんですね。仁君、ありがとうございます」
さくらが礼を言ってくる。さくらの持っていたルビーの杖も希少級だが、ミスリルの装備の方が高価だし強力だ。言い方は悪いが、希少級の中のピンとキリである。
「今更だけど、ミスリル装備も高いのよね。間違いなく私より…」
「いや、ここにいる奴隷に武器より高い奴なんて1人もいないだろ?」
「それを言っちゃあおしまいよ…」
苦笑しつつ言うミオに突っ込みを入れる。基本的に『捨て値同然の奴隷』で出てきた子たちだからね。
その後、武器の試し切りと称して魔物を狩りに行った。相手が弱すぎると試しにならないので、ティラの森でオークやオーガを根こそぎ倒して回った。あいつら一応Bランクがパーティ組んで戦うのが推奨されているらしいからな。
まあ、俺達はパーティなんか組まずに思い思いに無双をしていたけどな。あ、残念ながら全滅ボーナスは何も出なかった。全滅してから日が浅いとボーナスは出てこないみたいだ。
―――???視点―――
僕の中にあった繋がりの1つが、音を立てて砕け散った。…ロマリエは死んだのか。
「ロマリエの奴がやられたですと!?」
「そうみたいだね。僕の与えた呪印が消滅したことから見て間違いないと思うよ」
「ふっふっふっ、奴は四天王の中でも最弱」
「そりゃそうだ。擬態能力持ちの斥候タイプが四天王最強だったら、他の3人の立つ瀬がないよね」
まあ、僕からしてみれば四天王間の実力差なんて誤差としか思えないんだけどね。
「そんなことよりも魔剣だ!吾輩の貸し与えた魔剣はどうなったのだ!」
「普通に考えたら誰かが拾ってるよね。ロマリエが死んだってことは策がばれたって考えるのが普通だし」
「クソ!こんなことなら奴に貴重なコレクションを貸し与えるのではなかったな!陛下の頼みだったから仕方なく貸したというのに…」
「それは悪かったね。でも、さすがにこれは予想外かな。残念だけどカスタールへの手出しはしばらく控えようか。エルディアを、勇者を潰すために大きく動きすぎて、一致団結してかかってこられたら堪らないからね」
まあ、歴史を紐解いてみても、よっぽどのことがない限り世界レベルで協力することなんてないんだけどね。
「せめて魔剣の所持者だけでもわかれば…」
「手出しは禁止だからね」
「むう…」
魔剣コレクタ―なんて厄介な趣味を持ったものだね。どれもこれも碌な来歴じゃないし。有用なものもあるけど、好んで使いたいものじゃないね。
「とりあえずカスタールは放っておいて、その分他の手回しに力を入れようか」
せめて誰が企みを潰したのかだけは調べたいけれど、わざわざ火中の栗を拾う様な真似はしない方がいいよね。せめてもう少し落ち着いてからにしよう。
*************************************************************
ステータス
変更点のみ記載
進堂仁
LV64
スキル:
<格闘術LV7 up><無属性魔法LV1 new><気配察知LV6 up><夜目LV5 up>
装備:なし
木ノ下さくら
LV47
スキル:<火魔法LV6 up><水魔法LV6 up><風魔法LV6 up><土魔法LV6 up><雷魔法LV6 up><氷魔法LV6 up><闇魔法LV6 up><回復魔法LV6 up><魔道 LV1 new><詠唱待機LV1 new>
装備:ミスリルワンド
ドーラ
LV45
スキル:<盾術LV6 up><飛行LV10 up><突進LV10 up>
装備:ミスリルスタッフ、ミスリルの円盾
ミオ
LV39
スキル:<弓術LV10 up><魔物調教LV3 up>
装備:ミスリルの弓
マリア
LV55
スキル:<格闘術LV5 up><魔法剣LV1 new><神聖剣LV1 new><火魔法LV5 up><水魔法LV5 up><風魔法LV5 up><土魔法LV5 up><雷魔法LV5 up><氷魔法LV5 up><光魔法LV6 up><闇魔法LV5 up><回復魔法LV5 up><彫刻LV1 up><絵描きLV1 up><美術LV1 up><鑑定LV5 up><MP自動回復LV5 up>
装備:宝剣・常闇
セラ
LV36
スキル:<HP自動回復LV5 up><跳躍LV10 up>
装備:守護者の大剣、守護者の大楯
ここから下のスキルは(ドーラ以外の従魔・新人奴隷を除く)全員に与えているスキル。ここにある値と違う場合は別途記載。
<物理攻撃耐性LV1 new><水属性耐性LV1 new><風属性耐性LV1 new><土属性耐性LV1 new><雷属性耐性LV1 new>
第2章本編終了です。来週の更新は本編ではなく、クロードの短編です。
ちょっと執筆のキリが悪く、後2週ほど本編再開は待っていただきたいです。その間に登場人物紹介とかもやります。本編は出ないけど投稿はするものは色々とありますので。え?登場人物紹介で一週使っていい?




