第257話 英雄と終末の獣
エステルは自身のパンツの色を宣言した後、赤い顔のまま俯いてしまった。
「「……………………」」
お互い無言の微妙な空気感だ。
「……ジン様の質問の仕方から、何かしらのヒントはあると推測しました」
そして、沈黙を破ったのはエステルだった。
まだ少し顔が赤く、平静を装っていることが見てとれた。
「最初の質問の前にパンと言いかけたので、パンから始まる質問ではないかと考え、『変質者が女性のパンツの色を尋ねる』という事件があったことを思い出しました」
変質者、進堂仁です。よろしく。
「まさか、そんな質問を、とは思いましたが、『何でも答える』と言った直後、ジン様の目線が不自然に逸れたことから、『私に対する良からぬ質問』の可能性が高まっていきました。他の候補も検討し、1番可能性が高い質問の回答として、パンツの色を答えました。合っていましたか?」
しっかりとした根拠を持ってあの回答に辿り着いたのか。
これは、天才と認めざるを得ない。
「さて、聞きたいことも聞き終わったし、俺達はそろそろ終末の獣 ファイナル・カイザー・ドラゴンを倒しに行こうと思う」
「え、えっと……」
エステルの問いには答えず、強引に話を逸らすことにした。
「終末の獣 ファイナル・カイザー・ドラゴンとの戦いを見に来るか?」
「いいえ」
エステルは一瞬も躊躇せず首を横に振った。
「想像もしたくありませんが、皆様が敗れた時のことを考えると、私達は表に出る訳にはいきません。私達の生存は、絶対に知られてはならないからです」
「……言いたいことは分かるが、あんまり意味はないと思うぞ?」
俺達が負けた時には、再び息を潜めて、次の奇跡を待つつもりなのだろう。
しかし、俺にはその策が上手く行くとは思えなかった。
「それは、どういう意味でしょうか?」
「エ、エステル様……」
俺達の話に割り込んできたのは、クラシカルなメイド服を着た若い女性だった。
とてもデカい胸、とても悪い顔色が特徴的だ。
「ジュディ、顔色が悪いですが、何かあったのですか?」
「オロロロロロ」
ジュディと呼ばれた女性は、エステルの質問に答えず嘔吐した。
いや、嘔吐と呼ぶのは正しくないか。
何故なら、ソレはジュディが吐き出したのではなく、自ら這い出て来たのだから。
終末の眷属 パラサイト・ワーム
コスト:黒2
ライフ:1
パワー:1
スキル:<偵察><寄生>
終末の眷属は誰に潜んでいるか分からない。
ジュディの口から現れたのは、グロテスクな見た目の巨大芋虫だった。
身体は紫と黒の縞模様、芋虫なのにムカデのような足が付いている。
そのステータスはまるでカードゲームのようだ。ご丁寧にフレーバーテキストまである。
「ジュディ!? ……そうですか。私達の生存は、既に知られていたのですね……」
天才エステルは、芋虫を見ただけで現状を正しく理解してしまった。
そう、エステル達の生存は、パラサイト・ワームを通して終末の獣 ファイナル・カイザー・ドラゴンに既に伝わっていたのだ。
「だーいせーいかーい」
芋虫の口が開き、嬉しそうな声でエステルの発言を肯定した。
「貴方は終末の獣 ファイナル・カイザー・ドラゴンの身体に乗り移った侵略者ですね?」
「それも正解だよ。僕はこの世界に来た侵略者、気軽にFKDと呼んでくれると嬉しいな。ふふっ、それにしても、必死に隠れていたのにとっくにバレていた気分はどう?ねえ、絶望しちゃった?僕、ニンゲンが絶望する顔を見るのが大好きなんだ」
人を馬鹿にしたような、聞いていて不快になる声色でエステルを煽る。
「……カル、快癒の水瓶を持ってきて下さい」
「は、はい!」
エステルは倒れて痙攣しているジュディを見て、街の入口にいた子供に指示を出した。
快癒の水瓶とは、簡単に言えば水を入れるとポーションになる水瓶の宝物である。
「貴方に私達の生存が知られていることは想定していました」
「ふふ、強がっても無駄だよ。そんなことを想定していたら、あんなに頑張れる訳ないじゃん」
「想定はしていても、対策は打てないと判断して、知られていない前提で行動していただけです」
カードゲームで例えると分かりやすいかもしれない。
相手が特定のカードを持っていたら自分の負けだけど、勝ちを拾うためには持っていない前提で行動せざるを得ない、という状況である。
「ふーん、面白いことを考えるじゃん。でも、実際には生存を知られていたんだよ?今までやってきたことは無駄になっちゃったね?」
「いいえ、無駄ではありません」
エステルはFKDの言葉を真正面から否定した。
「貴方が私達を態と見逃していたのだとしても、ジン様達がこの世界に来るまで生き延びることができた事実は変わりません。生き延びたことで、ジン様達と交渉することができました」
「へえ、それで何かが変わるとでも?」
「私達が異世界に渡れる可能性が残りました」
「残念だけど、それを許すつもりはないよ。僕は君達が苦しむ様をもっと長く見ていたいからね。……ああ、そうだ。良いことを思いついた。異世界人君、この世界の住人を連れていかないなら、この世界から出て行っても良いよ。どうだい?素晴らしい提案だろう?」
「……っ!」
ここで、FKDと相対してから初めて、エステルが動揺を見せた。
エステルにとって、最も避けたいのは俺達に置いていかれることだろう。
「ジン様、FKDの話を信じてはいけません。かつて、国王はFKDに交渉を持ちかけましたが、FKDは交渉に応じるフリをして、交渉の場で国王と騎士団を殺しました」
「ああ、そんなこともあったねぇ。でも、今回は本当だから信じて欲しいな」
その話を聞いて、FKDを信じようとは思えないだろ。そもそも……。
「何を言われようと、俺達がお前を倒すのはもう決めたことなんだよ、FKD」
ここまで話を聞いて、FKDは遠慮なくぶち殺せる相手だと確定した。
称号やスキルポイントを得られる可能性もあるので、殺さない理由を探す方が難しい。
「ふふ、そんなことが可能だと思っているんだ。ああ、異世界人君は僕の姿を見たことがないからそんなことを言えるのか。決めた。君達はこの世界を更なる絶望に陥れるため、全力で惨たらしく殺してあげるよ。命乞いをしてももう遅いからね」
「姫様、持ってきました!」
「キシャアア!」
「うわあああ!」
快癒の水瓶を持った子供が走ってきたのを見た瞬間、芋虫が子供に向かって飛びかかった。
快癒の水瓶を壊し、回復アイテムを使わせないつもりなのだろう。
「ほいっと」
とりあえず、芋虫を一刀両断にしておく。
芋虫は体液を吹きだして死んだが、死骸は残らず塵になって消滅した。
「ジン様、ありがとうございます」
「……あ、ありがとう、ございます。助かりました」
「気にするな。それより、急いだ方が良いぞ」
正直に言って、ジュディはそろそろ限界が近い。
「そ、そうだ!姫様、使って下さい!」
「はい、急ぎましょう」
エステルは快癒の水瓶から柄杓で水をすくい、ジュディの口に運んだ。
「う、うぅ……」
ジュディの痙攣が治まり、穏やかな表情で眠りについた。
エステルは眠るジュディの身体、主に腹部や胸部に触れる。これは触診だな。
「辛うじて命の危機は去りました。しかし、ここまで内臓がボロボロになったら、ジュディも長くは生きられないでしょう」
エステルが無念そうに呟く。
「そ、そんな!?姫様、どうにかならないの!?」
「治せる可能性はありますが、それを確かめる余裕がありません。今、優先すべきなのは、異世界に渡ることです。ジュディのことは、安全を確保してから考えます。絶対に」
後回しにはするが、絶対にジュディを助けると宣言した後、エステルは俺の方を見た。
「ジン様、FKDとどのように戦うつもりなのか、お聞かせ願えないでしょうか?」
「エステルにだけなら、教えても良いぞ」
「……そうですね。場所を変えましょう」
全てを語らずとも、エステルは理解してくれる。
ああ、ジュディの他にも、FKDの眷属に寄生されているヤツがいるんだよ。
そして、これ以上情報を与えるつもりは無い。
「こちらにどうぞ」
俺達はエステルに案内され、他から隔離された部屋に入る。
「やはり、いると思いますか?」
「ああ、確実にいるだろうな」
主語はないが、何を指しているのかは明白だ。
「そうですよね……。話を戻しましょう。FKDとの戦い方をお教え下さい」
「一言で言えば、セラが1人で戦う」
「ええ、私が1人で倒しますわ」
「ほ、本気ですか?」
流石のエステルも驚いている。
「もちろん本気だ。俺達の目的を達成するには、それが1番良い」
「その目的は……いいえ、勝算はあるのですね?」
「ああ、もちろん……うん?」
質問に答えている途中で嫌な気配を感じ、椅子から立ち上がる。
同時に仲間達も立ち上がっている。
「ジン様、どうしました?」
「どうやら、早速FKDがやって来たみたいだ」
せっかちなヤツだな。
ラスボスならラスボスらしく、英雄が行くまで待ってろよ。
エステル達の隠れ家から出ると、西の空から黒い飛行物体が近付いてきていた。
言うまでもなく、FKDである。
終末の獣 ファイナル・カイザー・ドラゴン(FKD)
タイプ:黒
コスト:黒10無色2
ライフ:12
パワー:12
スキル:『飛行』『超再生』『眷属召喚』『終焉』
終末の獣は世界を終わらせる。しかし、人類には抗う権利がある。
やっぱり、カードゲームっぽいステータスだ。
全長は約20メートル、全身が黒いアーマーで覆われていて、肉体はほとんど見えていない。
ドラゴンを名乗ってはいるが、コウモリのような翼はなく、背中からは赤い光のエネルギーが放出されている。一応、シルエットだけならば、翼のように見えなくもない。
《なんか、やなかんじー……》
「見ただけで良からぬモノって分かるのも凄いわよね」
ドーラ、ミオの感想の通り、FKDは見ただけで『悪い』と分かる。
見た目の問題ではなく、何と言うか、尋常じゃない異物感、邪魔者感があるのだ。
上手い例えが見つからないが、あえて言うなら、通学路に落ちている犬のフンみたいな感じか?
「宣言通り、君達を殺しに来たよ。どうだい?この姿を見ても、僕を倒すなんて言えるかな?」
そんなことを考えている間に、FKDは俺達の近くに降り立ってきた。
ドラゴンなのに、人間と同じ膝を曲げない二足歩行、つまり直立していた。
ドラゴン感が非常に薄い……。
「ああ、宣言通り、お前を倒す。……まあ、その役目は俺じゃないけどな。セラ、任せた」
「任されましたわ。FKD、貴方の相手は私ですわ!」
セラはそう言って片手で持った大剣をFKDに向けた。
「……まさか、君1人で僕を倒すとでも言うのかい?」
「ええ、その通りですわ」
「本気で勝てると思っている表情、不愉快だなぁ。死になよ」
FKDは口を開き、ブレスらしきモノを放とうとした。
しかし、それよりも早くセラが跳び上がり、FKDの顔面に大盾を叩き込んだ。
俗に言うシールドバッシュである。
「ガッ……!?」
FKDは衝撃でよろめき、そのまま仰向けに倒れた。
ステータスを確認すると、ライフが12から11に減っている。もしかして、弱い?
A:マスター、<英雄の証>のスキルポイントが増加しています。
え? ……本当だ。
<勇者>の時とは異なり、相手にダメージを与えるだけでスキルポイントが得られるのか。
朗報ではあるが、今の一撃で得られたポイントはたったの1だ。
レベル9から10に上げるには90ポイント必要なので、このままでは<英雄の証>のレベルを上げる前にFKDが死ぬ。
「ぐっ、よ、よくもやってくれたな……。『超再生』」
FKDはヨロヨロと立ち上がると、セラを睨みつけながら何かを発動した。
直後、FKDの身体が光に包まれ、ライフが12に戻っていた。
こ、これは……。
「まさか、僕を倒せるとでも思ったのかい?君の攻撃なんて、痛くも痒くもないんだよ!」
「セラ、長期戦になるぞ!」
「了解ですわ!ここで絶対に決めますわよ!」
セラもこの状況で何をすべきか、正確に理解してくれたようだ。
攻撃でダメージを与えるとポイントが得られて、相手が能力でダメージを回復できるのなら、攻撃と回復を繰り返してポイントを稼ぐに決まっている。
「もう油断はしないよ。ここからは本気で君達を殺させてもらう」
そう言って、FKDはDリーパーお馴染みのエネルギー弾を連続で放って来た。
ブレスよりも予備動作が小さく、確実に攻撃を当ててくるつもりなのが見てとれる。
「無駄ですわ!」
セラはエネルギー弾を大剣で軽々と消していく。
避けないのは、街の被害を減らすためだろう。まあ、既に街はほぼ廃墟なのだが……。
「こちらも行きますわよ!はあ!」
セラは再び跳び上がり、シールドバッシュを顔面に叩き込む。
「ぐあっ!?このっ!」
FKDのライフは先程と同じく1減ったが、今度は倒れずに踏みとどまった。
そのまま、自由落下するセラに向かって腕を伸ばす。
「ふん!」
「ぎゃあああ!!!」
セラが向かってくる腕を斬りつけると、FKDの腕から黒い血が噴き出した。
FKDのライフは2減って9になり、スキルポイントは2増えている。
つまり、得られるスキルポイントは、与えたダメージ量に比例するということだ。
これが判明したのは大きいぞ。
「リ、『超再生』!!!」
ライフはたった3しか減っていないのに、FKDは大慌てで回復能力を発動した。
「あ、有り得ない……。この僕が、押されているなんて……」
「まだまだ、終わりませんわ。はあ!」
セラは駆け出し、無防備なFKDの足に斬りかかった。
攻撃の意図に気付いたFKDは足を上げて避けようとするが……。
「ぐぅっ……!?」
セラの斬撃から逃れることはできなかった。
更にセラの猛攻は続く。
「はっ!」
「ぐはっ!クソッ!『超再生』!」
FKDもエネルギー弾で応戦するが、全てセラに消し飛ばされている。
「せい!」
「うぐぐ……。リ、『超再生』……」
何度も攻撃を受け続け、FKDも当初の勢いがなくなっている。
慣れてきたのか、セラはライフを8削った辺りでわざと回復する隙を与えているようだ。
「『超再生』!こうなったら……!」
回復した直後、FKDはエネルギー状の翼を広げて真上に飛んで行った。
「安全圏からの遠距離攻撃か。セラ、行け」
「もちろんですわ」
セラは不死者の翼を広げ、<飛行>スキルによりFKDを追いかける。
空を飛ぶ相手だし、空中戦になる可能性が高かったので、事前に装備させていたのだ。
セラの視覚を借りて戦いの様子を伺う。
「ここから、一方的にブレスで殺してやる!苦しむ姿が見えないのは残念だけどね!」
「そんなことはさせませんわ」
「な!?」
上昇しながら格好悪いことを叫んでいたFKDだが、背後に迫るセラを見て言葉を失う。
セラは大盾を構えたまま、FKDに体当たりを決めた。
空を飛びながら、盾ごと体当たりするのは、シールドバッシュと呼んで良いのかな?
「ぐあっ!なんで空を飛べるんだよ!?ニンゲンのくせにぃ!」
「まだですわ!」
セラは空中で方向転換し、連続で体当たりを当てていく。
地上戦と同じく、何度も攻撃をして、回復させて、更に攻撃をする。
「セラちゃん、なんで体当たりしかしないのかしら?」
「言われてみれば、空を飛んでから大剣を使っていませんね……」
「下手に大ダメージを与えて、墜落とかされても困るからだろ。シールドバッシュならダメージ量が確定しているから、余計な気を遣う必要もなくなる」
ミオとさくらが不思議そうにしているので、俺の推測を答えておく。
大剣の攻撃は2~3ダメージだが、シールドバッシュは1ダメージが確定している。
空中で大ダメージを与え、なんかの拍子に地上に墜落でもされたら、余計な被害が出るし、最悪の場合は墜落死でスキルポイントが稼げなくなる。
「セラちゃん、絶対にここでレベルを上げる気なんですね……」
「ああ、そうだろうな。万が一、墜落しそうになったら助けるつもりだ」
「それ、どっちを助けるって言ってるの?」
「もちろん、FKDだが?」
「FKDは墜落死すら許されないのね……」
FKDが墜落死しそうになったら、マリアに<結界術>を使ってもらう。
柔らかい結界を何枚も連続で張り、落下物に割らせることで、落下の速度を落とすのである。
「『超再生』!ち、ちくしょう!」
FKDはそう言うと、セラに背を向け、全速力で逃げ出した。
「逃がしませんわ!」
セラは逃げるFKDを追いかけ、その背中に体当たりを決める。
「ぐえっ!?」
セラの体当たりが直撃し、FKDは空中で大きく姿勢を崩した。
「仁様?」
「いや、いい」
「はい」
短いやり取りで、マリアに<結界術>を使わなくて良いと伝える。
FKDはそのまま地面に墜落し、5ダメージを受けた。
「リ、『超再生』……」
身体を起こしながら回復したが、立ち上がることはなかった。
「ま、待ってくれ!参った!僕の負けだ!」
FKDは両手を挙げ、下降しながら接近してくるセラに降参を伝える。
直後、街から少し離れた場所に光の柱が現れ、セラは『終末の獣を越えし者』の称号を得た。
これ、転移条件の勝利を満たしたってことだよな。それにしても……。
「君達には手を出さない!この世界の連中を異世界に連れていくのも構わない!だから、もうこれ以上、僕を攻撃するのは止めてくれ!」
まさか、あの見た目で普通に命乞いしてくるとは思わなかったよ。
「攻撃は止めませんわ。とりあえず、後13発殴ることは決定していますので」
「は?なんで?」
「行きますわよ!」
後13ポイントで<英雄の証>がレベルアップするんだよ。
「ぐっ!ぎゃっ!ごべっ!おえっ!がっ!ごふっ!リ、『超再生』。えごっ!ぎゃん!もふっ!おげっ!ぺよっ!おぼっ!フィニッ!」
セラは一切の容赦なく、FKDを大盾で13発殴った。
「やりましたわ!」
FKDの尊い犠牲により、遂にセラの<英雄の証>がレベル10になった。
その瞬間、セラのステータスから<英雄の証>が消え、新たに<英雄>のスキルが現れた。
<英雄>
自身、及び触れている物質の重力方向、重力量を操作できる。<英雄の証>に対して、肉体の維持に必要なエネルギー量が低減され、エネルギーをストックできるようになる。
セラは筋肉量が多いため、体重が非常に重い。しかし、1つ目の効果により重力を操作すれば、体重を気にする必要がなくなる。もっと言えば、単独で空を飛ぶことも可能だろう。
セラがパフォーマンスを維持するには、大量のエネルギー、食料が必要になる。2つ目の効果は必要なエネルギー量を軽減しつつ、ストック、つまり食い溜めができるようになった訳だ。
<英雄>は<英雄の証>の欠点を補い、更に利点も与えてくれる素晴らしいスキルだった。
進化するスキル……偉業を為し、英雄の証を持つ者が本物の英雄となったと考えれば納得だ。
レベルアップの絵面は、とてもじゃないが英雄の所業とは言えなかったが……。
「ぐ、うぅ……。こ、これで13発殴ったから、終わりで良いんだよね……?」
「何を仰っていますの?私、最初に貴方を倒すと言いましたわよね?この場合の倒すは、勝利するという意味ではなく、殺すという意味ですわ。だから、貴方は殺しますわよ」
Dリーパーを生かして良いことは何一つないので、スキルポイントを稼げても稼げなくても、絶対に殺すことだけは最初から決めていた。
「ぼ、僕を騙したのか!?」
「騙すも何も、13発殴るとは言いましけど、それが終わったら命を助けるなんて、一言も言っていませんわよ。攻撃は止めないとも言いましたわ。そもそも、命乞いを聞かないと宣言した相手の命乞いを聞く理由、あります?」
「く、クソオオオオオオオオオ!!!」
FKDは大量のエネルギー弾をセラに向けて放った。
「無駄ですわ」
しかし、FKD渾身のエネルギー弾は、セラによって全て消滅させられた。
当たらない弾まで消し飛ばしたのは、実力アピール以外の何物でもないだろう。
そして、再びセラのシールドバッシュがFKDの顔面に直撃し、エネルギー弾の放出が止まる。
「ぐあっ!こ、この……!良いのか!?僕を殺せば、この世界の住人が大勢死ぬぞ!さっきの芋虫は他のニンゲンにも寄生しているんだからな!僕が死ねば、芋虫は一斉に宿主を食い殺す!」
「どうぞ、ご自由に」
FKDは芋虫に寄生された人達を人質にしようとしたが、セラは意にも介さなかった。
「う、嘘だと思ってるんだな!それなら、まずは1人殺して……!?」
「誰か、殺せる方はいらっしゃいましたか?」
「な、なんで……?」
そりゃあ、セラとFKDが戦っている間に、俺が芋虫を全部斬り殺したからだよ。
エステルが寄生されていた11人に快癒の水瓶を使ったが、内臓がボロボロなのはジュディと同じなので、長生きはできない見込みらしい。
というか、ジュディ含めて58人中12人寄生されていたのは結構ヤバいと思う。
「残念ですが、貴方の企みは全て把握済みですわ」
「ぐ、ぐぐぐぐ……」
FKDは忌々しそうに顔を歪めていたが、ある瞬間にフッと感情が抜け落ちた。
「もう、いい……。もう、後のことなんて知ったことか……。全て、壊してやる……」
「ああ、私を道連れにするため、自爆をするのですわね」
「な!?」
FKDのスキルの1つである『終焉』は、調べてみたら自爆技だった。
自らの命と引き換えに、広範囲に甚大な被害を与えるという迷惑技だ。
カードゲームで言えば、自身を含めたフィールド全除去になるだろう。
「確か、発動してから10秒後に大爆発する能力ですわよね?」
「な、何故それを……?」
「貴方の企みは全て把握済みと言ったでしょう?」
「う、わ、『終焉』オオオオ!!!」
FKDは自爆技を発動し、爆発までの10秒を稼ぐために全速力で逃げた。
「……」
セラが軽く地面を蹴ると、凄い速度でFKDに近付いていった。
跳躍したのではない。飛行しているのでもない。あれは、FKDに向かって落下しているのだ。
恐らく、<英雄>の重力操作を試したくなったのだろう。
重力の方向を変えることで、好きな方向に落下することができる。
間違いなく、跳躍よりも飛行よりも効率的な空中移動方法だ。
しかも、重力量も変えて落下速度も上げているっぽい。
「ぐっ……」
セラの接近を察し、FKDが急旋回するも、セラは重力方向を変えるだけで対応した。
「ま、待っ……」
FKDの制止を無視し、セラが大剣を全力で振るう。
「あっ……」
DリーパーのFKDと終末の獣 ファイナル・カイザー・ドラゴンは、抵抗という抵抗もできず、一撃でその命を刈り取られた。
そして、いつも通り光の柱が現れ、セラが新しい『終末の獣を滅ぼし者』という称号を得た。
前の世界はマリアが称号総取りだったけど、この世界ではセラが称号総取りだな。
「あら?」
終末の獣 ファイナル・カイザー・ドラゴンは、死亡と同時に塵になったのだが、倒れた場所に何かが落ちている。
それは、一枚のカードだった。
終末の獣 ファイナル・カイザー・ドラゴン
タイプ:黒
コスト:黒10無色2
ライフ:12
パワー:12
スキル:『飛行』『超再生』『眷属召喚』『終焉』
終末の獣は世界を終わらせる。しかし、人類には抗う権利がある。
UC
デカデカとFKDのイラストが描かれ、ステータスと同じ内容が表記されたカードだ。
ホントにカードゲームやんけ!
あ、よく見るとステータスに無い項目もある。UC……アンコモン!?
アンコモンとは、カードゲームにおいて下から二番目のレア度として有名です。
つまり、ガチカードゲーマーにとって、余るくらいには持っているカードです。