第252話 侵略者と真実
バケモン世界編、起承転結の転です。
リュリュのグリフォン・キマイラを倒したヘルは、嬉しそうに俺に近寄ってくる。
「ヘル、良くやった。これでリュリュのことを見返してやれたな」
「キィッ!」
リュリュとのバケモンバトルでヘルを出したのは、ある種の意趣返しでもあった。
自分のエースが、自分が弱いと言って捨てたバケモンに倒されるというのは衝撃だろう。
「キィ……」
ヘルはランサー・デビルの姿のまま、再び俺の頬に頬ずりをしてきた。
俺がヘルの頭を撫でると、ヘルは更に満面の笑みを浮かべた。
《なでなで、いいなー……》
「次はドーラの番だな。勝ったら目一杯撫でてやるからな」
《うん!すっごいがんばる!》
これで1勝1分、ドーラのやる気も十分だし、優勝にかなり近付いた。
逆に1敗1分となったリュリュはまだ立ち上がれていない。
リュリュの理屈で言えば、これでリュリュの勝ち越しはなくなった。
もし仮に次の試合でリュリュが勝ったとして、代表1匹による最終戦で勝ったとして、最終戦績は2勝2敗1分で終わるからだ。
「有り得ない、有り得ない……。私のエースが、あんな弱いバケモンに負けるなんて……」
リュリュは目を虚ろにして、ブツブツと呟いている。ちょっと怖い。
「見ての通り、ヘルはお前に勝った。つまり、ヘルは弱くない。弱いのは、お前なんじゃないか?」
「な!?」
弱い弱いと繰り返すので、勝者の特権で『お前が弱い』と煽ってみたら、効果は劇的だった。
顔を真っ赤にして俺のことを忌々しげに睨み、乱暴に立ち上がった。
「絶対に潰す……。早く3戦目を開始して!」
リュリュは倒れたグリフォン・キマイラを回収し、司会に向けて言い放つ。
『承知いたしました。それでは、3匹目のバケモンを出してください』
「戻れ、ヘル。行け、ドーラ!」
《いってきまーす!》
俺はヘルをキューブに戻し、ドーラをバトルエリアに出す。
「行きなさい、ステップ・ラビット!」
リュリュがキューブから出したのは、1匹の白いウサギだった。
普通のウサギより足が発達していて、ジャンプ力は高そうだが、角も生えていないし、鋭い爪を持っている訳でもないウサギに見えるが……違う。
このウサギからは、バケモンとは異なる悍ましい気配を感じる。
怪物ではなく、異物と言いたくなるような気配だ。
ステータスを確認したいが、バケモンリーグ中は相手のステータスを見ないと決めているので、<千里眼>を使う訳にはいかない。
『リュリュ選手、事前申請がありませんが、変態はしなくてよろしいのですか?』
「ええ、しないわ……」
見た目からしてステップ・ラビットは変態するバケモンのようだが、リュリュが一向に変態する様子がないので、念のため司会が確認したのだろう。
しかし、ステップ・ラビットを呼び出してから、リュリュの様子が少しおかしい。
目が虚ろで口数も少なくなっている気がする。
A:ステップ・ラビットの正体から精神干渉を受けています。
アルタが大ヒントを言っちゃったよ。
まぁ、アルタやマリアが止めていないということは、大した脅威ではないのだろう。
『進堂選手、リュリュ選手、準備はよろしいですか?』
「ああ、大丈夫だ」
「問題ないわ……」
『それでは、第3ゲーム、試合開始!』
気になることは多いが、第3試合が始まったからにはバトルの方に集中しよう。
「…………」
「…………」
試合が始まったのに、お互いに何も指示せず、沈黙がバトルエリアを包む。
俺は念のため様子を見ているのだが、リュリュの方はどういうつもりだ?
「ドーラ、『尻尾アタック』!」
このままでは埒が明かないのでドーラに攻撃を指示する。
俺の指示通り、ドーラはステップ・ラビットに尻尾を叩きつける。
ステップ・ラビットらしき存在は、尻尾を避ける素振りすら見せなかった。
-グシャ-
尻尾がステップ・ラビットらしき存在に当たると、何かが潰れるような音と共にその形が崩れた。
《なにこれ!?》
ステップ・ラビットの身体が波打ち、徐々に形を変えていく。
ウサギの白い身体は、内側から黒が滲み出て広がっていき、あっと言う間に黒一色となった。
「ふう、ようやく元の姿に戻れました」
流暢に喋り出したのは、名状しがたい姿をした存在だった。
あえて、表現を探すとすれば、プテラノドン型の黒いエイリアン、になるだろうか?
「まったく、余計な手間をかけさせてくれましたね。中々に厄介な結界でしたが、中からの解析が終わったので、もう私には通じませんよ。ほら、この通り」
そう言って、黒いエイリアンは指らしきものを観客席の方に向けた。
エネルギー弾のような物が指先から飛び出し、観客席との間にあった結界に直撃する。
-パリン!-
ガラスが割れるような大きな音を立てて結界が破壊された。
エネルギー弾は結界に当たり消滅したが、その衝撃までは消しきれず、周囲の人を吹き飛ばす。
当然、観客席は大混乱に陥り、観客達は悲鳴を上げて逃げ出し始める。
……怪我人は出ているが、死者はいないようだ。
「くっくっく、さあ、逃げ惑いなさい。逃げる獲物を殺すのが1番楽しいですからね」
黒いエイリアンはプテラノドンのような顔だが、何故か明確に笑っていることがわかった。
「おや?貴方達は逃げないのですか?」
同じバトルエリアに立ち、一向に逃げない俺達を見て、不思議そうに尋ねてきた。
「逃げる必要がないからな。それよりお前、バケモンじゃないよな。何者だ?」
「おっと、ご挨拶が遅れましたね。私はDリーパーのYSDと申します。お察しの通り、私はバケモンではありません。何を隠そう、異世界からこの世界を蹂躙しに来た侵略者なのです」
黒いエイリアン改めYSDは自らを侵略者と表現した。
Dリーパーとやらが何かは気になるが、それよりも重要なことは……。
「つまり、お前は俺の敵ってことで良いんだな?」
「ええ、この世界の住人にとって、私は間違いなく敵ですね」
俺はこの世界の住人じゃないから、この世界の敵であろうと俺の敵とはならない。
しかし、このまま放置したら、バケモンリーグが中止になってしまう。
それは、明確に俺の邪魔になる。つまり、結果として俺の敵になる。
「ちょっと違うけど、まあ良いか。それじゃあ、遠慮なく排除させてもらうぞ」
「どうぞ。そんなこと、不可能だと思いますけどね」
YSDは戦闘能力に自信があるのだろう。余裕を感じさせる口調で応じた。
「そうそう、結界の破壊により、この空間のダメージを疲労に変える効果も消えていますよ。ここから先は、バケモンバトルなどという遊技ではなく、本当の殺し合いが始まるのです!」
「それは丁度良い。行け!ドーラ、『尻尾アタック』!」
俺の指示に従い、ドーラがYSDに向かって飛んで行く。
「実戦で技名を口にするなど、愚かとしか言いようが……ぐべっ!?」
YSDはドーラの『尻尾アタック』を避けようとしたが、思ったよりも速かったのか、避けきれずアッサリと顔面に直撃して吹き飛ぶ。
「こ、この私が避けられないなんて……。そんなことはありえ……」
「ドーラ、『尻尾アタック』」
YSDが何かを話していたが、最後まで聞かずにドーラに攻撃させる。
補足しておくと、俺が戦わないのは、バケモンリーグがまだ中止されていないからである。
万が一、俺が戦ったことで失格になったりしたら、悔やんでも悔やみきれないからな。
まあ、俺が失格になる前にリュリュが失格になるだろうし、そもそも大会を続行できるのかどうかも怪しいところなのだが……。
「くっ……!」
ドーラの尻尾がYSDに当たる直前、YSDの姿がその場から消え、少し離れた場所に現れた。
どうやら、YSDは『ワープ』の魔法に近い短距離の転移ができるようだ。
「こんなところで、転移を使わされるとは……!良いでしょう、少しは戦えると認めます。ここからは、私も本気で戦わせていただきますよ」
そう言うと、YSDの爪が伸び、鋭い刀のようになった。
「ドーラ、避けながら『尻尾アタック』」
俺が指示をすると同時にYSDの姿が消え、ドーラの背後に現れる。
YSDは鋭い爪をドーラの首に向けて振るう。
《えいっ!》
ドーラはその場でクルンと回って爪を避け、そのままの勢いで尻尾を打ち込む。
「ぐはっ……!」
回避と攻撃が同時に行われたため、YSDは転移で避ける暇もなく尻尾で弾き飛ばされる。
「まさか、その程度の不意打ちが本気なのか?」
「……そんな訳、ないではありませんか!食らいなさい!」
YSDはバトルエリアの結界を破壊したエネルギー弾をドーラに向けて連続で放った。
「叩き落とせ!」
ドーラは飛んでくるエネルギー弾を尻尾でペシペシと叩き落としていく。
「まだです!」
《たあっ!》
エネルギー弾を放ちながら、ドーラの背後に転移して攻撃を仕掛ける。
ドーラは飛んできたエネルギー弾を逸らし、背後のYSDにぶつけた。
「ぐべらっ!?」
自分の技だからダメージを受けない、なんてことはなく、YSDは変な声を上げて吹っ飛んだ。
「ぷっ、ドーラ、面白いことするなぁ」
《えっへん!》
「……よ、よくも私を虚仮にしましたね。もう許しませんよ。絶対に殺します!」
胸を張っているドーラを見て、馬鹿にされていると理解したYSDの顔が怒りに染まる。
しかし、ダメージが足に来ているようで、足をガクガクさせている。
「死になさい!」
そう言って、YSDは俺の背後に現れて爪を振るった。
「な、馬鹿な……!」
「はぁ……」
俺は迫り来る爪を人差し指と親指で抓んで止めると、深い溜息を吐いた。
ドーラに勝てないからって、指揮官である俺を狙うなんて、本当にガッカリだよ。
指揮官を先に潰すのは戦いの定石だから、俺を狙うこと自体は構わない。
問題は、目の前の敵に勝てないから、弱そうな方から狙う、という精神性だ。
「飽きてきたし、もういいや」
「ぐっ、動きません……!?」
YSDは力一杯爪を動かそうとしているが、俺がしっかり抓んでいるので叶わない。
「ドーラ、『ブレス』だ。ほいっ」
「ぐわっ!?」
俺はドーラの方に向かって、YSDを放り投げた。
《ふぁいあー!》
「ぁ……」
ドーラのブレスがYSDに直撃し、『ジュッ』という音とともに一瞬で焼き尽くした。
さて、バケモンリーグはどうなることやら……。
結論から言うと、バケモンリーグは中断されることとなった。
バケモンリーグに使用されていたバトルエリアは封鎖され、気付いたら倒れていたリュリュは拘束され、YSDの焼死体はバケモンリーグのスタッフが回収されていた。
俺達はセントラルタワーの施設で待機中だ。
「コレ、優勝ってことになるのかしら?」
ミオが難しい顔をして考え込む。
「結果だけ見れば2勝1分になるけど、バケモンじゃないって自分で言っていたからなぁ……」
「最終戦のやり直しで済むと良いですね……」
「そうだな。中止になったら、もう1つの転移条件を狙うしかないか」
「私とミオさんで150種類までは集めていますわ」
「その最後の1種類が問題なんだけどね」
俺が訓練している間に、ミオとセラはバケモンを150種類まで集めてくれた。
しかし、最後の1種類は普通の方法では捕獲できないはずだ。
-コンコンコン-
「どうぞ」
部屋の扉がノックされたので声をかけると、スーツのような服を着たシュシュが入ってきた。
「失礼いたします。進堂様、申し訳ありませんが、通信室まで来ていただけないでしょうか?」
「通信室?」
「はい、中央のトップ、マザーが進堂様との対話を希望しています」
中央のトップね。いずれは接触したいと思っていたから、丁度良いと言えば丁度良い。
「分かった、今から向かえば良いのか?全員で行って良いのか?」
「はい、今から、全員で来ていただくのが1番望ましいです」
「それじゃあ、案内してくれ」
「承知いたしました」
俺達はシュシュに案内されてセントラルタワーの中を移動する。
そして、明らかにスタッフオンリーな区画へと入っていく。
「こちらが通信室になります。どうぞお入りください」
シュシュが開いた扉に入ると、壁一面にモニターが並んでいた。
全員が部屋の中に入り、シュシュが扉を閉めると、1つのモニターが点灯した。
「ようこそいらっしゃいました。私の名前はマザー、この世界を管理するものです」
女性の声とともにモニターに映ったのは、白いドラゴンの姿だった。
その身体は古傷だらけのボロボロたが、みすぼらしいとは全く思えず、歴戦の戦士とか、名誉の負傷といった印象を受けるものだった。
「来訪者進堂、貴方達に幾つかお話ししたいことと依頼したいことがあります。前向きにご検討いただけると幸いです。可能な限りの謝礼はさせていただきます」
傷だらけのドラゴンから出ているとは思えない機械的な声色だな。
「最初にバケモンリーグの件です。指揮官リュリュの反則負けにより、来訪者進堂の優勝となります」
「中途半端な結末だったけど、それでも良いのか?」
「はい、問題ありません」
思ったよりも簡単にバケモンリーグ優勝が決まってしまった。
「正式に優勝を通知すると転移条件を満たしたことになると思われます。私からの依頼を聞いていただける場合、時間が掛かる可能性がありますので、通知はその後にさせてください。依頼を聞いていただけない場合、通知が必要になったら指揮官シュシュにお申し付けください」
優勝を認める代わりにお願いを聞け、みたいなことも言わないようだ。
-ピピピ、ピピピ、ピピピ-
どこからか、電子音のようなものが聞こえてきた。
「丁度良いタイミングです。指揮官リュリュが目を覚ましました。ここから先の話には、指揮官リュリュとも通信を繋がせていただきます」
マザーがそう言うと、マザーの映るモニターとは別のモニターが点灯した。
「な、なによ、コレ……!?どうして私が拘束されているのよ!?」
モニターに映ったのは、白い部屋の中で拘束服を着ているリュリュの姿だった。
「あ!シュシュ!これどうなってるのよ!?助けて!」
リュリュはモニター越しにシュシュの姿を見つけ、必死の形相で助けを求める。
「申し訳ありません。私の口からは何も言えません。マザー、説明をお願いしても良いですか?」
「はい、もちろんです」
「……え、マザー?中央の最高管理者であるあのマザー?」
「はい、私の名前はマザーです」
英語の挨拶かな?
冗談はさておき、リュリュは目の前に映るのが中央のトップだと気付き、少しだけ冷静になった。
「正体不明って聞いていたけど、マザーってバケモンだったんだ……」
「いいえ、私はバケモンではありません。それよりも指揮官リュリュ、貴女の記憶はどこまで残っていますか?」
「は、はい、えっと、そこにいる男とバケモンリーグの決勝で戦っていて、1敗1分で3匹目のバケモンを……あれ?そこで記憶が途切れています……」
確か、ステップ・ラビットを呼び出してから様子がおかしくなったんだよな。
「指揮官リュリュ、貴女が最後に呼び出したステップ・ラビットですが、侵略者の擬態でした。あの個体はどこで捕獲したのですか?」
「あ、あのステップ・ラビットが!? ……よく考えたら、なんで私、ステップ・ラビットなんて弱いバケモンをバケモンリーグの決勝で出したの?出会った場所すら思い出せないの……?」
「侵略者YSDの精神汚染の影響により、正常な思考が阻害されていたようです」
YSDって弱かったけど、意外と多芸だったんだな。
「あ、あの!マザー、どうして私は拘束されているのですか!?」
「侵略者は存在するだけでこの世界を汚染していきます。侵略者YSDに汚染され、精神にまで影響を受けた個体が拘束されるのは当然です」
「わ、私、これから、どうなるのですか……?」
無慈悲なマザーの回答を聞き、顔を絶望に歪めながら更に問いかける。
「来訪者進堂、最初の依頼を説明してもよろしいでしょうか?」
「えっ……?」
「ん?ああ、良いけど……」
マザーはリュリュの質問には答えず、俺の方に話を振った。
「先にも述べましたが、侵略者は存在するだけでこの世界を汚染します。しかし、侵略者YSDの死骸からは汚染物質が検知されませんでした。調査の結果、来訪者ドーラの『ブレス』が汚染を浄化した可能性が高いことが分かりました」
YSDへのトドメをブレスにしたのは偶然なのだが、そんな影響があるとは思っていなかった。
俺は丁度良い位置にあったドーラの頭を撫でる。
「やっぱり、ドーラのブレスは特別なんだな」
『えへへー』
そういえば、決勝前に勝ったら目一杯頭を撫でるって言ったっけ。
俺の優勝が決まったということは、最終戦でドーラが勝ったということになる。
つまり、目一杯撫でてあげなければ!
「また、ご主人様がドーラちゃんとイチャついてる……」
「来訪者進堂、話を続けてよろしいでしょうか?」
「あ、はい」
マザーにそう返しつつ、俺はドーラを撫でる手を止めない。
「前置きが長くなりましたが、依頼は来訪者ドーラの『ブレス』を詳しく調査させてほしいというものです。侵略者への対抗手段を得る切っ掛けになるかもしれません」
「調査の内容次第だな。俺はドーラに変なことをさせる気はない」
「来訪者ドーラには、研究施設にて汚染された物質にブレスを放っていただきます。実際に汚染が浄化されるのか、どのような現象が観測されるのかを調べていきます」
「……汚染された物質?」
俺、割と察しの良い方なんだ。
最近、明確に汚染されている物質の存在を知った気がするんだよね……。
「はい、汚染された指揮官リュリュにブレスを放っていただきたいのです」
「わ、私!?」
「はい、指揮官リュリュの『これからどうなるのか?』という質問に対する回答ですが、『汚染の調査のためブレスを受けて死ぬ』となります」
「ひっ……!?」
マザーの宣告を聞き、リュリュが悲鳴を上げる。
「……悪いけど、俺はドーラに人殺しをさせないって決めているんだ」
「ほっ……」
俺の発言を聞き、リュリュが安堵の息を吐く。
「指揮官リュリュは来訪者進堂とは別の種族です」
「正確には、俺達と似た容姿の相手を殺させないって意味だ。他に汚染された物質はないのか?」
「古いものになりますが、YSDとは別の侵略者の死骸があります」
もしかしたら、YSDを含む侵略者達もヒトに分類されるのかもしれないが、俺の中のドーラに殺させたくない対象には含まれていない。
「そっちで良ければ、調査に協力してもいいぞ。な、ドーラ?」
《うん!まかせて!》
俺が尋ねるとドーラは力強く頷いた。
「承知いたしました。指揮官リュリュの方が調査には適していますが、理由があるのでしたら無理にお願いはできません。指揮官リュリュは他の研究に使いましょう」
「わ、私、助からないの……!?」
「汚染されている以上、指揮官リュリュを放置することはできません。来訪者ドーラのブレスを解析し、その成果を試す対象になると思われます」
「そ、そんなぁ……」
「…………」
リュリュの表情が絶望に染まり、シュシュが何かを言いたそうな顔をする。
「来訪者ドーラは、侵略者の死骸にブレスを放ってください」
「分かった。その調査は何時から始める予定だ?」
「研究施設の準備をしますので、しばらくお待ちください。他の依頼は最初の依頼が終わってからにさせてください。準備が終わるまで、質問があれば受け付けます」
正直、質問したいことは結構ある。どれから聞くべきか。
「それじゃあ、あの侵略者達について説明してくれないか?」
「はい、侵略者はDリーパーを名乗り、この世界を侵略しようとしています」
「YSDもDリーパーって名乗っていたな。何かの略称か?」
「過去の発言から、Dリーパーは次元を刈り取る者を省略した単語だと推測されます。また、侵略者の世界も滅びに瀕しており、他の世界の寿命を刈り取ることで延命しているようです」
なるほど、世界の寿命が足りないなら、他の世界から奪えば良いと考えたのか。
まさしく、侵略者だな。
「侵略者はこの世界の寿命を奪おうと、過去に何度も襲撃を仕掛けてきました」
「そっか、その傷はDリーパーとの戦いで……」
「はい、迎撃システム、コード・ドラゴンによって侵略者を退けています。最近では、指揮官シュシュの協力もあり、以前よりは負担が減りました」
「協力と言っても、時間稼ぎ以上のことはできていませんが……」
残念そうな表情でシュシュが補足する。
「バケモンの攻撃では、侵略者に有効打を与えることができません。並の指揮官では、その時間稼ぎすらできません。卓越した戦いの才がある指揮官シュシュだからこそ、各個撃破のための時間稼ぎを任せられるのです」
「認めていただけるのは嬉しいですが、自分の実力不足が口惜しいですね」
シュシュがバケモンバトルを禁止されているのは、その辺りに理由があるのだろう。
「今まではこの世界に張った結界で侵略者を足止めし、その間にコード・ドラゴンで撃破してきました。しかし、今回の件で結界を破壊せずにすり抜ける個体が現れました。このままでは、結界の内側が戦場になり汚染されてしまいます。早急に対策が必要なのです」
「その対策の一手が、ドーラのブレスってことだな」
「はい、汚染を浄化できるのでしたら、こちらが打てる手も増えます」
どうやら、割と世界の命運がかかった依頼だったらしい。
そう言えば、依頼に関して、まだ話していないことがあったな。
「今更だけど、この依頼を受ける謝礼って何が貰えるんだ?」
「私に用意できる物でしたら、何でもご用意いたします。何か欲しいものはありますか?」
「ご主人様!ご主人様!アレ、アレを頼みましょ!」
「……そうだな。気になることもあるし、アレが1番良いだろうな」
少し考え、ミオの提案を受け入れることにした。
「マザー、俺達が欲しいものは、151種類目のバケモンだ」
「!?」
俺の要望に何故かシュシュが驚きの反応を見せる。
「指揮官シュシュの報告によれば、異世界への転移条件は『バケモンリーグの優勝』と『バケモンを151種類集める』の2つだったはずです。前者を達成した状況で後者を達成する意味はあるのですか?」
「大した意味はないけど、折角150種類まで集めたんだから、コンプリートしたいのよ」
「なるほど、達成感を得ることが目的でしたか。承知しました、151種類目のバケモンを捕獲するには、専用のキューブが必要になります。ご用意いたしますので、少々お待ちください」
「そんな!マザー、良いのですか!?」
再び、シュシュが大きく反応する。
まるで、極秘中の極秘を暴かれるような反応だ。
「構いません。来訪者達は151種類目のバケモンが何処にいるか、ご存じですか?」
「そこら中にいるだろ?」
「やはり、ご存じだったのですね。その通りです。151種類目の種族名称は『ヒト』です」
「……え?」
この中で唯一、151種類目のバケモンの正体を知らなかったリュリュだけが反応した。
「リュリュにこの話を聞かせて良かったのか?一般には広めていないんだろ?」
「指揮官リュリュは今後、中央の者としか接触できません。中央の者は全員この事実を知っているので、指揮官リュリュから情報が漏れる心配はありません。来訪者進堂には強制できませんが、口外しないでいただけると助かります」
「……分かった、口外はしない」
「ありがとうございます」
「ちょ、ちょっと待って!『ヒト』がバケモンってどういうことよ!?」
リュリュは二度と外には出られないという話より、『ヒト』がバケモンという話に反応した。
「聞いての通りだ。幻の151種類目のバケモンは、この世界で最も数の多い『ヒト』なんだよ」
幻と言いつつ、最も数が多いというのが面白いよな。
ちなみに、151種類目の正体に気付いたのは、バケモンと『ヒト』のステータスを見比べた時だ。
こちらが最初に見たシュシュのステータスである。
固体名称:シュシュ
種族名称:ヒト
種族番号:151
種類名称:ヒト
種類番号:151-1
LV:1
攻撃タイプ:なし
能力タイプ:指揮
どう見ても151種類目のバケモンだよな?
「有り得ないわよ!『ヒト』はキューブで捕まえられないのよ!?」
「キューブは『ヒト』以外のバケモンを『ヒト』というバケモンに従わせるための道具です。支配関係が複雑になるため、キューブには『ヒト』を捕獲できないよう設定しています。設定を変えれば、キューブで『ヒト』を捕獲することも可能です」
「そ、そんな……。あ、『ヒト』は言葉を話すこともできるわ!全然違うわよね!」
リュリュ、まだ諦めていない。
「『ヒト』だけが言葉を話せるのは、オリジナルが言葉を話せたからです」
「オリジナル?」
オリジナルという単語は、偽物や後継が存在しない時には使わない。
「はい、バケモンの元となった存在のことです」
「バケモンの……元……?意味が分からないんだけど……」
ほとんど答えを言っているようなものだが、リュリュは全く理解できないようだ。
「マザー、1つ教えてくれ。バケモンって何かの略称なのか?」
「はい、バケモンは生物化学の記念碑の略称です。既に滅んだこの世界の生命体を模した、模造生命体の総称となります」
「は?」
「……やっぱり、この世界は既に滅んでいたんだな」
予想はしていたが、この世界は『滅びかけの世界』ではなく『既に滅んだ世界』だった。
「はい、この世界の原生生物は1529年前に完全に死滅しました」
「その言い方から察するに、マザーは生物でもバケモンでもないんだな」
「はい、私は当時の人類が作り出した、生命保護計画用の人工知能です。この肉体は、伝説上の生物をモデルに作成した物なので、オリジナルは存在せず、バケモンとは呼べません」
人工知能と来たか。機械的な喋り方はそれが理由かな?
「結界により世界の収縮は防ぐことができましたが、生物の死滅を防ぐことはできませんでした」
「世界の収縮を防げたのは凄いな。偉業と言って良いと思う」
『深淵』内で世界の収縮を防いだ世界は初めて見た。
「しかし、本来の目的を果たせなければ意味がありません。目的を失った私は、長い時間を掛けて過去の生物の遺伝子情報から、模造生命体、バケモンを製造しました。そして、この世界に放ち、過去の文明の模倣を始めたのです。残念ながら、完全な再現はできませんでした」
「正直、この世界が普通じゃないのはすぐに分かった。食事も排泄も睡眠をしない生物しかいない世界なんて、普通は有り得ないからな」
この世界の生物は食事、排泄、睡眠などの生き物として当たり前の行動をしない。
セントラルシティにも食事処、トイレ、宿泊施設は存在しないのだ。
なお、個人所有の家はある。睡眠はいらないけど、休息がいらない訳ではないからだ。
「……ねぇ、シュシュ、これは悪い冗談なのよね?」
リュリュはショックが大きすぎたのか、虚ろな表情になってシュシュに問いかける。
「…………」
シュシュは何も答えず、リュリュの映るモニターから目を逸らす。
「そんな……。嘘、嘘よ……」
「中央の者達も同じでしたが、これらの事実は許容できないレベルの衝撃があるようです」
「さすがに可哀想になってきたわね……」
「はい、ちょっと見ていられないです……」
リュリュの様子が哀れすぎて、ミオとさくらが同情し始めた。
-ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ-
再び、電子音のようなものが聞こえてきた。
「研究施設の準備が整いました。『ブレス』の解析を始めさせてください。指揮官シュシュ、来訪者進堂達を研究施設に案内してください」
「は、はい!」
え?この状態のリュリュを放置していくの?
薄々感じていたけど、この人工知能、『ヒト』の心が分からないタイプのヤツだ。
後1話でギリギリ終わると思います。終わらなかったら、少し長くなります。
YSDはYSDです。安田ではありません。後でYMDとかTKDとか出てきます。




