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第251話 天国と地獄

パロディ回その2です。

 リュリュとのバケモンバトルを終えた俺達は、バケモン捕獲のために街の外に出る。

 この世界、技術力は高そうなのに、移動のための機械が全く存在しないため、街の外の移動には馬車……パワフル・ホース車を使用するのが一般的だ。

 パワフル・ホースはその名の通り体力があるホース種のバケモンで、街の入口で車部分とまとめてレンタルすることができる。

 揺れの少ない高級車を1台レンタルして、セントラルシティを出発した。


「ここに目的のバケモンがいるんだな?」


 シュシュにパワフル・ホース車の操縦を任せ、1時間程で目的地に到着した。


「はい、このエンジェル山にファイター・エンジェルが生息しています」


 俺の目的はファイター・エンジェルと呼ばれるエンジェル種のバケモンだ。

 シュシュに俺の希望を伝えたところ、ファイター・エンジェルが最も適合するらしく、エンジェルが最も多く生息しているエンジェル山に来ることにしたのだ。

 ……いや、エンジェル山って、俺よりもネーミングセンスがないのでは?


「山に入る前に、『ピース・エンブレム』はお忘れではありませんよね?」

「ああ、これを持っていれば、攻撃を仕掛けない限りバケモンが襲ってこないんだよな」


 コマンダーショップで購入した腕輪型の『ピース・エンブレム』を見せる。

 シュシュによれば、『ピース・エンブレム』にはバケモンの意識を逸らす機能があり、攻撃などにより明確に意識されなければ、襲ってくることがなくなるそうだ。

 加えて、『ピース・エンブレム』に登録したバケモンが全滅した場合、セントラルシティに強制送還される機能も付いている。移動は馬車なのに、転移は存在するんだな……。

 何にせよ、『ピース・エンブレム』はコマンダーの安全を守る必需品なのである。


「はい、ドーラ様が簡単に負けるとは思いませんが、用心はした方が良いですからね」


 リュリュとのバケモンバトルを見て、シュシュもドーラの実力を認めてくれた。

 当然、あの時はかなり手加減していたが……。


「ご主人様、全員間違いなく『ピース・エンブレム』を装着したわよ」

「そうか、それじゃあ、出発だ」

《ゴー!ゴー!》


 ドラゴン形態のドーラを頭に乗せ、エンジェル山に足を踏み入れる。

 エンジェル山は緩やかな坂道が続く低めの山で、あちらこちらにエンジェル種のバケモンが生息しているのが見える。

 しかし、この辺りに生息しているのは弓を持った天使アーチャー・エンジェル剣を持った天使ソード・エンジェルのような種類ばかりで、俺の望むファイター・エンジェルはもう少し山頂の方にいるらしい。


「単純な戦闘能力では、ファイター・エンジェルよりもソード・エンジェルの方が強いと言われていますが、本当にファイター・エンジェルでよろしいのですか?」

「ああ、本気で勝利を目指すなら、ファイター・エンジェルじゃないと駄目だ」


 ファイター・エンジェルとは格闘家タイプのエンジェル種だ。

 俺が伝えた人型、格闘家タイプ、明確な弱点がない、の3つの希望から、シュシュが最も適合したバケモンとしてピックアップしてくれた。

 ただ、人型格闘家タイプのバケモンは、武器を持った人型のバケモンに火力で劣るため、コマンダーの中では人気がないという。

 しかし、俺が本気でリーグ優勝を目指すなら、ファイター・エンジェルが最適だろう。


「そろそろ、ファイター・エンジェルが集まる区画に入ると思います」


 しばらく山を進んだところで、シュシュが教えてくれた。

 マップでもファイター・エンジェルが近くにいることが分かっている。


「あ、ご主人様、あれじゃない?」


 ミオが指さす先には、ギリシア神話の天使のような薄い布を纏った天使達が集まっていた。


「30匹はいそうだな。さて、どの子を捕まえるか……」

「進堂様、レベルスカウターを使用しては如何でしょうか?」


 レベルスカウターとは、その名の如く相手のレベルを測る眼鏡型の装置である。

 どうせ捕獲するなら、レベルが高い方が良いというのも分かることだが……。


「いや、レベルは重要じゃない。それよりも重要なのは根性だ」


 俺はそう言うと、ファイター・エンジェルの群れに向かって<恐怖>を放った。


「「「「「!?」」」」」


 突然の殺気にファイター・エンジェル達が劇的な反応を見せる。

 空を飛んでいたファイター・エンジェルはボトボトと地面に落ち、恐怖に身が竦んで立ち上がることもできなくなっている。


「これは一体……?」


 <恐怖>の対象になっていないシュシュが異様な光景に首を傾げる。

 そんな中、1匹のファイター・エンジェルが、力を振り絞って立ち上がった。


「弱めとはいえ、これを受けて立ち上がれたのか。決めた、お前にしよう」


 俺が<恐怖>を止めると、立ち上がったファイター・エンジェルが駆け出してきた。

 <恐怖>を攻撃と見なし、反撃をするつもりなのだろう。


「いけません!早くドーラ様を前に!」


 シュシュの警告も虚しく、ファイター・エンジェルの右ストレートが俺を襲う。


「!?」


 しかし、その拳は俺の掌であっさりと受け止められた。

 一応フォローしておくと、ファイター・エンジェルの右ストレートには、この世界のヒトを粉々にして即死させる程度の威力はある。

 驚いたファイター・エンジェルは右手を引き、再び右ストレートを放ってくる。

 同じ攻撃が通じることもなく、再び俺の掌で受け止められる。そして、それが繰り返される。


「本当に野性のバケモンはワンパターンなんだな」


 シュシュ曰く、野性のバケモンは1つか2つしか技を使えないとのこと。

 バケモンは究極のシングルタスク生物らしく、戦いながら適した技を選択することができない。

 コマンダーの命令があれば、複数の技を切り替えて戦えるが、野性ではそれも叶わない。

 結果、1つか2つの技を繰り返すワンパターン攻撃しかできないという訳だ。


「次はこっちの番だな」


 俺は腕を伸ばし、ファイター・エンジェルの額にデコピンを放つ。


-パコン!-


 小気味よい音と共にファイター・エンジェルが吹っ飛ぶ。

 ゴロゴロと転がり、止まった時には完全に意識を失っていた。


「確か、気絶していたらほぼ確実に捕まるんだよな?」

「は、はい、その通りです。まさか、素手でバケモンを倒してしまわれるとは……」


 俺はキューブを取り出し、倒れているファイター・エンジェルに向かって投げる。

 ファイター・エンジェルはキューブに吸い込まれ、無事に捕獲することができたようだ。



 目当てのバケモンを捕獲できたので、ここからはリーグ優勝に向けた特訓を始める。

 さくらとマリアは俺の特訓に付き合い、ミオとセラは宣言通りバケモン捕獲に向かった。

 シュシュには戻って良いと言ったのだが、是非見学させてほしいと頼まれたので、少し離れた場所で見学してもらっている。


「『ジャブ』!『ジャブ』!『ストレート』!ヘブン、良いぞ!」


 俺はファイター・エンジェルにヘブンという名前を付け、1対1の戦闘訓練を行うことにした。

 最初に覚えさせているのは、格闘技で言う連携技コンビネーションだ。

 複数の技をコンビネーションとして覚えさせて、1つの指示で複数の技が繰り出せるようになれば、この技と技の間の時間的な隙間を埋められると考えたのだ。


「『ローキック』!『ミドルキック』!『ハイキック』!良いぞ、白だ!」


 ファイター・エンジェルは突きだけでなく、蹴りも得意なバケモンだ。

 突きのコンビネーションも蹴りのコンビネーションもバランス良く覚えさせていく。

 なお、ファイター・エンジェルはスカートを履いているので、ハイキックだと色々と見える。


「(うん! ……白って何?)」


 補足しておくと、基本的にバケモンは喋れないが、コマンダーにだけは意思を伝えられる。


「これでコンビネーションの訓練は一旦終了だ。次は実戦形式で慣らしていこう」

「(頑張る!)」


 1時間程でコンビネーションの訓練を切り上げる。

 コンビネーションの訓練も重要だが、実際の戦いで使えなければ何の意味もない。


「さくら、マリア、準備は良いか?」

「はい、大丈夫です……」

「お任せください」


 野性のバケモンでは実戦形式にならないので、さくらとマリアの2人に相手をしてもらう。

 2人が使うのは、ミオとセラが<無限収納インベントリ>経由で送ってきたバケモンだ。

 それも、シュシュに聞いた流行のバケモン達である。


「メタル・ゴーレム、『アイアン・パンチ』です……!」

「ヘブン、コンビネーションA!」


 さくらにはゴーレム種やエンジェル種、デビル種等のバケモンを使用してもらった。


「ポイズン・ウルフ、『ポイズン・バイト』!」

「ヘブン、コンビネーションD!」


 マリアにはウルフ種、イーグル種、プラント種等のバケモンを使用してもらった。


「よし、実戦訓練は一旦止めて、コンビネーションを増やしていくぞ。まだまだやれるな?」

「(うん!余裕!)」


 コンビネーションの練習と模擬戦を繰り返すことで、技術を確実に身につけさせる予定だ。


「よし、今日はこのくらいにしておこうか」

「(疲れた……)」

「ふう、お疲れ様でした……」

《こっちもおわったよー!》


 日が傾いてきたところで、本日の訓練は終了することにした。

 無事、目標としていたコンビネーションTまでの20種類を習得し終えることができた。

 セントラルシティに戻り、セントラルタワーに用意してもらった部屋に泊まる。


「今日だけで41種類も捕まえたわよ!」

「この調子なら、リーグまでに150種類集められそうですわ」


 同じくセントラルシティに戻っていたミオとセラの報告を聞く。

 捕獲の方も順調のようなので、上手くいけば転移条件を両方達成できるかもしれない。


「ご主人様達の方はどうだった?」

「ああ、コンビネーションと模擬戦で随分と力を付けることができた。ミオとセラがバケモンを捕まえてくれて、さくらとマリアが相手をしてくれたお陰だな。4人とも、明日も頼んだぞ」

「明日もガンガン捕まえてくるから、期待して待っていてね!」

「キューブも多めに購入してありますし、明日は丸1日捕獲に時間を使えますわ」

「図書館でバケモンバトルの専門書を借りたので、明日に備えて読んでおきます……」

「私もご一緒します」


 明日は今日よりも訓練に使える時間が長いから、ミッチリと訓練することができそうだ。


《ドーラはー?》


 本日、ドーラにはシュシュと一緒に特別な訓練をお願いしていた。

 シュシュ曰く、ほぼ完璧に仕上がったそうだ。


「ドーラは明日から俺達の訓練に合流だ。一緒に頑張ろうな?」

《うん!いっしょにがんばる!》


 そして、次の日、その次の日と訓練を続け、あっと言う間にバケモンリーグの開催日となった。

 短い期間だが、やれることはやりきったつもりだ。



 バケモンリーグとは、1年に1度開催されるセントラルシティ最大のイベントである。

 予選と本戦があり、本戦は総勢32人のコマンダーによる3-3のトーナメント戦だ。

 この32人の参加者にはシード枠があり、公式戦によるランキングの上位10名、そして前回優勝者と前回優勝者に推薦された者に与えられる。つまり、俺のことだ。

 俺は直接見ていないが、予選には500人以上の参加者がいたそうだ。普段は使われない推薦枠が使われたことで、本戦出場の枠が1つ減り、参加者達は阿鼻叫喚だったとか何とか。

 また、バケモンリーグで使用されるバトルエリアは、リュリュとの試合で使用した一般的なバトルエリアではなく、観客席が設置された特別製である。

 なお、バトルエリアと観客席の間には結界があるので、技が観客席に飛んで行っても大丈夫だ。


『第1回戦、続いてはジョジョ選手と進堂選手の試合です。ジョジョ選手は皆様ご存じの通り、ランキング2位かつ前回大会の準優勝者です。今年こそ、ランキング1位もリーグ優勝もリュリュ選手から奪い取って見せると意気込んでいました』


 司会がそこまで言うと、バトルエリアにジョジョという男性が入ってきた。

 観客達は大歓声でジョジョを向かえる。


『進堂選手は街の外から来た参加者で、驚くべきことに前回大会優勝者のリュリュ選手の推薦を受けています。一体、どんなバケモンバトルを見せてくれるのか、全くの未知数です』


 俺もバトルエリアに入り、ジョジョと向かい合う。

 俺にも歓声は聞こえるが、それなりのブーイングも聞こえてくる。多分、負け犬達だ。


『それでは両者、最初のバケモンを出してください』

「任せたぞ、ヘブン」

「行け、メタル・ゴーレム!」


 俺とジョジョはほぼ同時にキューブからバケモンを出す。


固体名称:ヘブン

種族名称:エンジェル

種族番号:48

種類名称:ファイター・エンジェル

種類番号:48-21

LV:50

攻撃タイプ:物理

能力タイプ:攻撃


 これが俺の育て上げたヘブンだ。

 レベルは大会の平均に比べて低いが、そんなものは技術で簡単に補える。


『ジョジョ選手は相棒であるメタル・ゴーレム、進堂選手はファイター・エンジェルを出しました』


 メタル・ゴーレムは金属の身体を持つゴーレムで、高い防御力、攻撃力を持つ人気のバケモンだ。


「ふっ、同レベル帯のメタル・ゴーレムとファイター・エンジェルでは、メタル・ゴーレムが圧倒的に有利、お前の出し負けだ。更に俺にはこれがある。メタル・ゴーレム、変態!」


 ジョジョは言うだけ言って勝手に変態を始めた。

 バケモンリーグのルール上、試合の開始前にバケモンを変態させることが許可されている。

 変態中に攻撃されると、変態に失敗するだけでなく、大ダメージを受けてしまうからだ。

 今更の話だが、リュリュがバトル中に変態させたのは、俺がバケモンバトルに詳しくないと知っての舐めプである。


「現れろ!プラチナ・ヒューマノイド!」


 変態が終わり、現れたのはプラチナの身体を持つ人型のバケモンだった。

 メタル・ゴーレムはまさしくゴーレムといった姿だったが、変態後のプラチナ・ヒューマノイドは金属光沢を持つ人だった。簡単に言えば鉄人族のような容姿だ。


『両者、準備はよろしいですね。それでは、第1ゲーム試合開始!』

「行け!『連続パンチ』!」


 試合開始と共にジョジョが技の指示を出す。

 鈍重なゴーレム種とは思えないほどに素早く動き、プラチナ・ヒューマノイドがファイター・エンジェルに接近する。


「ヘブン、0-A-1だ」

「(はい!)」


 俺が指示を出すと、ヘブンは指示に従って連続で繰り出されるパンチを避け始めた。

 『連続パンチ』は20回連続でパンチを繰り出す技で、1度でもヒットすれば残り全てがヒットするという利点がある。

 しかし、途中で止められないこと、終わった直後に硬直時間が発生するという欠点もある。


「くっ、何だ、あの指示は……。それに、何故攻撃が当たらない!」


 そりゃあ、俺が訓練の相手をしたんだから、この程度のパンチは避けられるようになるって。

 そして、20発目のパンチが終わり、硬直が発生した瞬間、ヘブンはプラチナ・ヒューマノイドの顔面に『ジャブ』、『ジャブ』、『ストレート』のコンビネーションを食らわせた。

 右ストレートが直撃したプラチナ・ヒューマノイドは吹っ飛ぶ。身体がプラチナでできているので、相当に重いはずだが、そんなことはお構いなしに吹っ飛ばす。


「プラチナ・ヒューマノイド!?」


 受け身も取れず、プラチナ・ヒューマノイドがダウンする。

 ヘブンは俺の指示に従い、距離を離してファイティングポーズをとっている。


「これならどうだ!『ファストパンチ』!」

「ヘブン、7-D-1」


 プラチナ・ヒューマノイドは起き上がり、当てることに特化した『ファストパンチ』を繰り出す。

 ヘブンはその場から動かず、『ファストパンチ』に対して『クロスカウンター』を決めた。

 『クロスカウンター』は発動タイミングがシビアだが、決まれば大ダメージが狙える大技だ。

 更に『クロスカウンター』で仰け反ったプラチナ・ヒューマノイドに、ヘブンの『ボディブロー』と『ハイキック』が直撃する。


「ああ!?」


 プラチナ・ヒューマノイドは再びダウンしたが、今度は立ち上がることもできそうにない。


『プラチナ・ヒューマノイド、戦闘不能!よって第1ゲーム勝者、進堂選手!』


 司会の宣言と同時に歓声が上がる。

 それと同時に今の戦いは何だという疑問の声もあちこちから聞こえる。

 難しいことではない。ただ、動作とコンビネーション技の組み合わせを、コマンドとしてヘブンに覚えさせたというだけのことである。

 例えば、0-A-1なら、『相手の技が終わるまで回避専念』して、『ジャブ』、『ジャブ』、『ストレート』の順で攻撃して、『攻撃が終わったら距離を取って警戒、攻撃が来たら回避』する。

 このコマンドを使用すれば、相手が技を1つ使う間に、5倍以上の指示を出すことができるので、まず負けることはないだろう。


『それでは、2匹目のバケモンを出してください』

「ま、まだだ……。まだ、俺は負けていない!行け!ヴェノム・ウルフ!」


 ジョジョはキューブからウルフ種のヴェノム・ウルフを出した。

 ヴェノム・ウルフはポイズン・ウルフの上位種のバケモンで、毒による長期戦を得意としている。

 シュシュに聞いた流行のバケモンばかりだな……。


「ヘブン、よくやった。ドーラ、任せたぞ」

「(ぶい!)」

《いってきまーす!》


 俺はヘブンをキューブに戻し、側に控えさせていたドーラをバトルエリアに出した。


『両者、準備はよろしいですね。それでは、第2ゲーム試合開始!』

「行け!すぐに『ヴェノム・バイト』を決めろ!」

「ドーラ、『尻尾アタック』だ!」

《うん!》


 ヴェノム・ウルフが猛スピードで接近して噛み付いてきたので、ドーラはヒラリと躱して尻尾を頭に叩きつけた。


-ドコッ!-


 ヴェノム・ウルフは意識を失った。


『ヴェノム・ウルフ、戦闘不能!よって第2ゲーム勝者、進堂選手!そして、第1ゲーム、第2ゲームを連取した進堂選手が1回戦突破です!』

「そ、そんな……」


 司会の宣言を聞き、ジョジョは膝から崩れ落ちた。

 それと同時に観客席から大歓声が鳴り響く。

 盛り上がりに欠ける瞬殺だったけど、観客達はあれで満足なのだろうか?



 1回戦を勝利で飾った後、俺は2回戦、3回戦、4回戦も勝利することができた。

 1回戦同様、ヘブン、ドーラの順で選出したが、ヘブンのコマンド戦闘、ドーラの『尻尾アタック』に対応できるコマンダーは現れず、3匹目を出すこともなくストレートの決勝進出だ。

 そして、大方の予想通り、決勝戦の相手はリュリュに決まった。幸か不幸か、俺とリュリュは決勝まで当たらない組み合わせだったのである。


『さあ、いよいよ決勝戦が始まります。リュリュ選手、進堂選手の両名は、ここまで全ての試合を2勝0敗で勝利した実力者です。決勝戦に相応しい、素晴らしい試合を見せてくれるでしょう』


 バケモンリーグでは、試合の直前に繰り出す3匹のバケモンとその順番を決める。

 俺はヘブン、ドーラで固定していたが、リュリュは対戦相手によって使うバケモンを変えていた。

 つまり、リュリュは俺の使うバケモンを知っているが、俺はリュリュの使うバケモンを知らないという少々不利な状況になっている。


『それでは、リュリュ選手の入場です。リュリュ選手はこの試合に勝利すれば、2連続優勝の達成となります。シュシュ選手と同じ10連勝目指して、頑張ってほしいものですね』


 リュリュが大歓声の中バトルエリアの中を歩いている。

 実況がシュシュについて言及した時、不快そうに顔を歪めたのを見逃してはいない。


『次は進堂選手の入場です。初参加ながら、ファイター・エンジェルの戦い方は見事でした。進堂選手が優勝したら、これからのバケモンバトルの常識が変わるかもしれません』


 俺も大歓声の中を歩き、バトルエリアでリュリュと向かい合う。


「やっぱり、アンタが決勝まで勝ち上がったのね」

「バケモンリーグで優勝できる実力はあるって言っただろ」

「いいえ、アンタはここで負けるから、優勝できるって部分は認められないわ」

「……お前、俺に1回負けたことを忘れているのか?」

「あ、あれは公式戦じゃないからノーカンよ、ノーカン!」


 俺、知ってる。公式戦だろうが何だろうが、勝負に負けたら悔しいんだ。


「今度は私の本気のバトルを見せてあげる。優勝するのは私よ!」

「いいや、俺が勝つ!」

『両者、気合いは十分のようです!それでは、最初のバケモンを出してください』


 司会の指示に従い、俺はキューブからヘブンを呼び出した。


「行け、ヘブン!」

「行きなさい、ボルケーノ・ボア!」


 リュリュが呼び出したのは、火山を背負った猪とでもいうバケモンだった。

 シュシュに聞いた流行のバケモンの中にはいなかったはずだ。


『両者、準備はよろしいですね。……第1ゲーム、試合開始!』

「ボルケーノ・ボア、『フルパワー・タックル』よ!」

「ヘブン、8-J-9だ!」

「(了解!)」


 猛スピードの突進に対し、ギリギリで避けて反撃するように指示を出す。


「『ボルケーノ・バースト』」

「ヘブン、その場から離れろ!」

「(え?)」


 まだ技が終わっていないのに、リュリュが新たな技の指示を出した。

 その技名を聞き、俺は慌ててヘブンに指示を出すが……遅かった。


-ドオオン!!!-


 凄まじい爆音と共に、バトルエリアが煙に包まれた。

 『ボルケーノ・バースト』、その技を一言で表すなら『自爆』である。

 自らのHPを全て失う代わりに、相手に大ダメージを与える。バトルエリアで使えば、一発で気絶する代わりに、直撃すればどんな相手でもタダでは済まない。

 そして、ヘブンは回避が間に合わず、爆風が直撃してしまった。

 防御重視のバケモンなら耐えられたかもしれないが、ファイター・エンジェルの防御力は低い。


『ボルケーノ・ボア、ファイター・エンジェル、両者戦闘不能!よって第1ゲームは引き分け!』


 煙が晴れた時、バトルエリアには倒れたヘブンとボルケーノ・ボアの姿があった。

 自爆技の存在は知っていたが、まさかバケモンリーグの決勝戦で使われるとは思わなかった。

 これは、俺の油断だな……。


「ヘブン、お疲れ様」

「ボルケーノ・ボア、良くやったわ」


 俺とリュリュが倒れたバケモンをキューブに回収する。

 自爆技による両者戦闘不能は引き分けになる。

 勝利したという訳でもないのに、リュリュの表情は満足そうに見えた。


「正直に言えば、アンタのファイター・エンジェルに勝つ方法が思いつかなかったのよ」

「自爆技じゃあ、引き分けにしかならないぞ」

「知っているわ。だから、最初から他の2匹で勝つつもりよ」

「それなら、わざわざ自爆技を使わなくても結果は同じだろうよ」


 他の2匹で勝つつもりなら、2勝1敗か2勝1分の差でしかない。

 自爆技で強引に引き分けを取りに行く必然性がない。


「……アンタに1試合も取られたくなかったのよ。もし負けたら、この間の試合と合わせて2勝2敗、私の勝ち越しにならないじゃない」

「……なるほど、理解した」


 確かに、前回の分を計算に入れると、2勝2敗と2勝1敗1分になるので話が変わってくる。

 リュリュ、俺が思っていた以上に負けず嫌いだった。


『それでは、2匹目のバケモンを出してください』

「行きなさい、グリフォン・キマイラ」

「行け、ヘル!」


 リュリュが呼び出したのは、鷹の翼と上半身、ライオンの下半身を持つグリフォンだ。

 それに対し、俺が呼び出したのは、ヘルと名付けた小さな悪魔だった。


「……それ、私が育てていたインプよね?」

「ああ、お前が捨てたから、ウチの子になってもらった。文句あるか?」


 このインプは、リュリュに捨てられて行き場を失ったところを捕獲した。

 捕獲と言うより、『ウチの子になるか?』と聞いたら受け入れてくれたと言った方が正しいか。


「文句なんてないわ。そんな弱いバケモンはいらないもの。もしかして、同情でもしたの? ……ああ、分かった。リーグには3匹のバケモンが必要だから、数合わせのために捕まえたのね。あのファイター・エンジェルとドーラってバケモンがいれば、優勝できる算段だったのでしょ?」

「キィ……」


 元主人にボロクソに言われ、インプ……ヘルが悲しそうな顔をする。


「いいや、数合わせじゃない。俺はこのインプ、ヘルとならリーグ優勝できると思って選んだんだ」


 インプにはリーグ優勝に貢献できるだけのポテンシャルがあると確信している。

 ちなみに、ステータスはこんな感じ。


固体名称:ヘル

種族名称:デビル

種族番号:49

種類名称:インプ

種類番号:49-1

LV:62

攻撃タイプ:バランス

能力タイプ:攻撃


 正直、インプのままでは火力が足りないので、そのまま戦うのは無謀だ。

 インプを使うなら、変態させるのは前提条件である。


「キィッ!」


 俺の言葉を聞き、ヘルは嬉しそうに俺の頬に頬ずりをしてきた。

 シュシュ曰く、インプにとって最上級の親愛の証だそうだ。


「それなら、どうして今まで選出しなかったの?」

「ヘルを最初に出すのは、お前と戦う時って決めてたんだよ。驚いただろ?」


 不幸にもリュリュとの対戦は決勝だったため、ヘルのお披露目が遅くなってしまったのだ。


「確かに驚いたわね。でも、そのインプの強さを誰よりも詳しく知っているのは私よ。二軍だったインプが、私のエースであるグリフォン・キマイラに勝てるとでも思っているの?」

「ああ、勝つ。それと、1つ訂正させて貰うぞ。ヘルの強さを1番知っているのは俺だ。お前が知っているのは、捨てる前のインプの強さでしかない」

「たった数日で何ができるって言うのよ。あのファイター・エンジェルも育てていたのよね?インプに割く時間なんてほとんどなかったんじゃない?」

「俺1人なら厳しかったかもしれないけど、仲間に協力して貰ったからな」


 初日は訓練の大部分をヘブン育成に充てたが、ヘルを放置していた訳ではない。

 ドーラ、シュシュに特別な訓練をお願いしたし、2日目からはヘブンと2匹まとめて相手をした。

 短い時間だが、やれることはやりきったのだ。


「それでも、強さがそんな急激に変わるとは思えないわね」

「変わったかどうか、この試合で見せてやるよ」

「ふん、期待しないで待ってるわ」


 リュリュは信じていないようだが、別物と言えるくらいには変わったと思う。


『進堂選手、変態は行いますか?』

「ああ、ヘル、変態メタモルフォーゼだ」


 ヘルはコクリと頷き、ランサー・デビルへの変態を始めた。

 変態へんたいと言わず、変態メタモルフォーゼと言ったのは、俺の小さな抵抗である。


『両者、準備はよろしいですね。それでは、第2ゲーム、試合開始!』


 ヘルの変態が終わったことを確認した司会が試合の開始を宣言した。


「グリフォン、『パワー・チャージ』よ」

「ヘル、『パワー・チャージ』」


 俺とリュリュがほぼ同時に同じ技を指示した。

 『パワー・チャージ』とは、一定時間攻撃力を上げるバフ技である。

 初手から攻撃をせず、有利な状況を作り出すのも1つの戦術だ。


「グリフォン、『ディフェンス・チャージ』」

「ヘル、『突進突き』」


 リュリュは更に防御力を上げるバフ技を選択し、俺は攻撃技を選択した。


「……っ!グリフォン、避けなさい!」


 グリフォンは『ディフェンス・チャージ』を中断し、ヘルの『突進突き』を避けようとするが、完全には避けきれず槍が少し掠ってしまった。


「何、今の……。私の知っている『突進突き』じゃないわよ……?」

「同じ技でも、技量が違えば動きも変わる。しっかり指導すれば、ここまで変わるんだよ」


 この世界のヒトは槍なんて握ったこともないという。

 言い換えれば、槍の使い方を指導できるヒトが存在しないということだ。

 その点、俺達は槍も剣も弓も盾も使える。当然、武器の扱いを指導することもできる。

 武術を嗜む身からすると、バケモンの武器の扱い、見ていられないほどに酷いんだよ。

 少し基礎を教えただけで、劇的に変わるくらいには……。


「また、私達の知らない技術を……」

「この世界、バケモンバトルが盛んな割に戦いに関する造詣は深くないんだよな。戦う人間にとって当然のことが、まるで『知識チート』みたいになっちまう」

「何を言っているの……?」

「だから、こんな仕様にも気付けないんだろうな。ヘル、『トルネード・スパイク』!」

「グリフォン、『超・火の玉』で迎え撃ちなさい!」


 ヘルの回転突進に対して、グリフォンは『火の玉』より遙かに巨大な火の玉で迎撃する。


「ヘル、『シフト・シールド』」


-ドオン!-


 火の玉が炸裂し、爆発がヘルの身体を包み込む。


「ふふっ、ちょっと驚いたけど、これで終わりね!」


 火の玉がヘルに直撃したように見えたせいか、リュリュの余裕の声が聞こえる。

 確かに、あの巨大な火の玉が直撃していたら、ヘルは戦闘不能になっていただろうな。


「それはどうかな?」

「え?」

「ヘル、『シールド・バッシュ』!」

「それはっ!?」


 爆煙の中から現れたのは、巨大な盾を構えて突進するヘルの姿だった。

 そのまま、グリフォンに巨大な盾を叩きつけた。

 グリフォンは大技を放った後の硬直で、回避すらできずに吹き飛ぶ。


「グリフォン!?早く立ち上がりなさい!」


 吹き飛んだグリフォンはすぐに立ち上がるが、ダメージが大きいことは隠しきれていない。


「その姿……シールド・デビル?」

「正解。インプはその気になれば、シールド・デビルにも変態できるんだ。知らなかっただろ?」

「知らない……私、そんなの知らない……」


 リュリュは信じられない物を見るような目で、ランサー・デビル改めシールド・デビルを見る。

 この世界の変態は、特定の能力を高め続けることで、上位のバケモンに姿を変えることを指す。

 インプだったら、初期装備の槍を使い続けることで、ランサー・デビルに変態することができる。

 それでは、インプに盾を持たせて、盾の使い手が正しい指導をしたらどうなるだろう?

 答えは、シールド・デビルに変態できるようになる、である。


「変態先が複数ある場合、同格の別の姿に変態することもできる。俺はこれを横変態、シフトフォーゼと呼ぶことにした。お前達も使う時はシフトフォーゼと呼ぶように」


 新技術の命名は発見者の特権だよね。


「加えて言うと、シフトフォーゼの場合、容姿の変化量が少ないほど短い時間で変態が終わる。ランサー・デビルとシールド・デビルの差は武器だけだから、本当に一瞬で終わるんだよ」


 一瞬で変態が終わるから、戦闘中にもシフトフォーゼは行える。

 指示も短くしたいから、『シフト・シールド』のように最低限の情報が伝わる形式にした。


「もちろん、これで終わりじゃないぞ。『シフト・ソード』」

「まさか!」


 ヘルの持つ盾が光り、大剣へと姿を変える。剣術特化のソード・デビルに早変わりだ。


「ヘル、『スラッシュ』だ」

「グリフォン、『ゲイル・フェザー』!」


 グリフォンは羽を風に乗せて飛ばしてくる。

 何発も羽が飛んでくる中、ヘルは円を描くように走ることで全て避け、グリフォンへと接近した。


「避けなさい!」

「『シフト・アロー』、『パワー・ショット』!」


 グリフォンは翼を羽ばたかせ、空中に緊急回避を試みる。

 しかし、回避行動は想定できていたので、武器を弓に切り替えさせ、遠距離攻撃を指示する。

 緊急回避は直後の隙も大きくなる。ヘルの放った矢はグリフォンに直撃した。


「ああ!?」

「トドメだ!『シフト・ランス』、『トルネード・スパイク』!」


 空中から地面に落とされたグリフォンはすぐに立ち上がることができない。

 ランサー・デビルに戻り、回転突進してくるヘルから逃れる術はない。

 以前より威力の増した『トルネード・スパイク』が直撃し、グリフォンは完全に意識を失った。


『グリフォン・キマイラ、戦闘不能!よって第2ゲーム勝者、進堂選手!』


 観客席から歓声が上がり、リュリュは膝から崩れ落ちた。


次回、3/1に投稿予定です。

まだ執筆中ですが、3話でバケモン世界編終わらないかもしれません・・・


ポ○スペの自由に進化できるイ○ブイが好きでした。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
この後、ドーラちゃんが「ヨ◯ファイヤー」じゃなかった、上空からのプチファイヤーで終わりそう(^^)
えっ、ジ○ジョ!?
此でポケ○ンのライバルよろしく、織原が出てきたら死闘になりそう。 初代でも最後はライバルとの戦いだったし、まさかね...
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