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第247話 水没世界と海の王

コミカライズ、書籍の続報です。

コミカライズ1巻が12/14発売予定、書籍1巻が1/10発売予定です。

是非、お手にとって頂けたら幸いです。

活動報告もちょくちょく更新していきます。

 光の柱に触れ、転移した先は草原のど真ん中だった。少し遠くには街らしき物が見える。

 そして、俺達は草原のど真ん中で、10名の人間に囲まれていた。


「ようこそいらっしゃいました。勇者様」


 そんなことを言ったのは、集団の中で最も豪華な服を着た女性だった。他の9人は全員が鎧を着込んでおり、その様相は『姫様と騎士』以外の感想が出てこない。

 それにしても、俺を相手に、ねぇ……。


《ご主人様、勇者呼ばわりが嫌なのは分かるけど、ちょっと落ち着こうか》

《ごしゅじんさま、かおがこわいよー》

《……気を付けよう》


 ミオとドーラに指摘され、意識して表情を緩める。

 俺を勇者と呼んだからと言って、まだ敵と決まった訳ではないのだ。


「アンタ達は何者だ?俺達のことを知っているのか?」

「姫様になんて口を……!」

「お止めなさい」


 俺がタメ口で尋ねると、騎士の1人が声を上げ、姫様がそれを止めた。

 そろそろ、ステータスを確認しておこう。


名前:リランド・グラード

性別:女

年齢:158

種族:陸の民

称号:グラード王国王女、不老ギョジャック


 想像以上に年齢が高かった。見た目は20代前半なのに……。

 補足しておくと、周囲の騎士も全員『不老』の称号を持っており、100歳を越えていた。

 もう1つ補足すると、『不老』の括弧内の文言は人によって異なっていた。何だコレ?


「ご挨拶が遅れました。わたくしはこのグラード王国の王女、リランドと申します。彼らはグラード王国の騎士です。あなた方のことは存じ上げませんが。我が国の予言者によれば、本日、この地に勇者様が現れるとのことです。私は予言に従い、勇者様をお迎えにあがりました」

「俺達が勇者ね……。この国は、一体どんな危機に瀕しているんだ?」

「簡潔に言えば海面上昇です。この世界には数多くの島があったのですが、海の王ウォーアルの手により、この島を除き海に沈みました。勇者様には、ウォーアルの打倒をお願いしたいのです」


 マップで見える範囲では、この島以外の島は見つからなかった。

 ここで、転移条件を弾く感覚があった。アルタ、転移条件を教えてくれ。


A:はい、この世界の転移条件は3つです。

①2400時間生存する。

②海王ウォーアルに勝利する。

③海王ウォーアルを殺害する。


 はい、①は諦めます。100日滞在とかやってられるか!

 『勝利』と『殺害』の組み合わせは、甲虫王ゴールデンヘラクレスオオカブト以来だな。

 甲虫王……略して金ヘラと同じ条件なら、殺し合いではない勝負の方法があるのだろう。


《まずは情報収集に専念しようと思う。この世界の住人に聞くのが1番早いだろうからな》


 念話で方針を伝える。おっと、これだけは言っておかないと……。


《警戒は怠らないように。他人を勇者と呼んで祭り上げる連中に、碌なヤツはいないからな》

《承知いたしました》

《警戒の理由が『勇者と呼んだから』というのが、ご主人様らしいですわね》

《まあ、ご主人様の経験則だから仕方ないわよ》


 他人を勇者と呼んで仕事を押し付ける。それは他力本願の極みみたいなものだ。

 もしかしたら、やむを得ない理由や事情があるのかもしれない。しかし、どんな理由や事情があろうとも、無関係な相手に仕事を押し付けようとした時点で、碌なヤツと呼ぶことはできない。


「もう少し、詳しい話を聞いても良いか?」

「ええ、もちろんです。わたくしの父である国王陛下から詳しい説明がありますので、お手数ですが王城の方までお越し頂いても構いませんでしょうか?」

「ああ、大丈夫だ」


 こうして、俺達はリランド王女に案内されて王城に向かうことになった。

 草原を離れ、王女達が用意した馬車に乗り込む。馬車が3台並んで走り、先頭から王女と騎士の乗った馬車、騎士の乗った馬車、俺達6人の乗った馬車となっている。

 5分程で到着したのは、草原から見えていた街で、王都グーランドと言うらしい。

 その街並みは『深淵アビス』の外と大きくは変わらず、今までの異世界のような異文化感が感じられなかった。何と言うか、既視感……のようなものもある。


「何となく、旧エルディア王国の王都に街並みが似ていますね……」

「ああ、それで興味が全く湧かなかったのか」


 さくらに言われ、既視感の原因が分かった。

 確かにエルディア王国の街並みに似ている。そりゃあ、興味が湧く訳がない。


「ご主人様の好感度がドンドン下がっていくのが目に見えるわ」

「類似点が1個ならともかく、2個もあるとなぁ……」

「正直、私も気分が良いとは言えません……」


 俺とさくらのエルディア王国嫌いは相当に根深い。

 この国に恨みがある訳ではないが、エルディア王国との類似点が『勇者』、『街並み』と続いたことで、どうしても印象が悪くなるのは止められない。


「まだ、まだ何もされていないから、一旦この悪感情には蓋をしよう」

「はい……」


 印象が悪いのはどうしようもないが、それだけを理由に態度を悪くするのも良いとは言えない。

 一旦、悪感情には蓋をして、可能な限りフラットな精神状態で接しようと思う。



 少しして馬車が止まり、リランド王女に先導されて王城の中を進む。

 リランド王女は草原からここまで、必要なこと以外は一切喋らない。聞いたことには答えてくれるが、自分から何かを話そうとはしない。

 王城は中央に大きな廊下があり、左右に1つずつ建物があるような造りになっていた。中央の廊下には幾つもの渡り廊下が架けられており、人の行き来もそれなりに多い。

 中央の廊下、渡り廊下を歩く人達は、俺達を視界に入れると、ジロジロと値踏みするように見つめてくる。あまり気分の良いものではないな……。

 そして、俺達が渡り廊下の下を通り抜けた時、それは起こった。


「うおおおおおおお!!!」


 渡り廊下の上から、騎士の格好をした男が飛び降り、叫びながら剣を振り下ろしてきた。

 狙いは俺のようで、真っ直ぐ俺に向けて剣が迫ってくる。


「はあ!」


 当然、そのような蛮行をマリアが許す訳もなく、迎え撃ったマリアにより、男の両腕が一瞬で切断された。血が俺達に飛びかからないよう、<結界術>で防ぐオマケ付きだ。


「ぐわあああああ!!!」


 空中でバランスを崩し、着地もできず地面に叩きつけられた男は、のたうち回りながら絶叫する。

 両腕を失い、地面を転がる男の姿は、踏まれて死にそうな毛虫の動きを連想させた。


「アルドー!?は、早く止血を!」

「は、はい!」


 リランド王女は慌てて男に駆け寄り、同行していた騎士達に指示を出す。

 騎士の1人が魔法を発動し、男の傷を癒し始める。流石に腕が生えてくることははさそうだ。


「な、何ということをするのですか!」


 あろうことか、リランド王女は俺達を糾弾してきた。意味が分からない。


「襲いかかってきた者を返り討ちにしただけです」

「違います!アルドーは貴方達のために用意した試金石なのです!」


 マリアが平然と返すと、リランド王女は意味不明なことを言い出した。


「理由はどうあれ、殺す気で襲いかかってきたことに変わりはありません」

「アルドーに殺意はありませんでした!その証拠にアルドーの剣は刃を潰してあります!」

「金属の塊で殴ろうとして、殺意がなかったって言われても困るんだが……」


 2階から飛び降りながら金属塊で殴ろうとしておいて、殺意がなかったと言われても無理がある。


「貴方達にこの国を救うだけの実力があれば、アルドーの攻撃を上手く捌けると考えたのです!それなのに、まさかここまで酷いことをするなんて……!」


 うーん、言いたいことは何となく分かってきた。

 漫画でよくある、相手の実力を試すために不意打ちをするヤツじゃないか?

 恐らく、俺達が回避や防御することを想定しており、上手く捌ければ実力を認め、やるじゃないか、めでたしめでたし、で終わらせる気だったのだろう。

 しかし、マリアが選んだのは容赦ない反撃……殺してないから、容赦した反撃だった。


「実力を確認したいなら、模擬戦でも挑めば良かっただろ」

「それでは、貴方達の真の実力が測れないではありませんか!」


 リランド王女の回答は俺の想像を裏付けるものだった。

 不意打ちへの対応で測れる実力なんて、全体から見たらほんの一部だと思うんだけど……。


「その理屈で言うなら、十分に合格点のはずだ。しっかり反撃して無力化したんだからな」

「それだけの実力があるなら、腕を切り落とす必要などなかったではありませんか!」

「いきなり襲いかかってきたヤツに配慮する必要はない。ソイツはただの通り魔だからな」

「違います!アルドーはこの国の誇り高き騎士です!」


 不意打ちしたヤツに誇り高き騎士は無理があると思うよ。

 駄目だ。根本的に話が通じていない。そろそろ、諦めるべきかな?


「そもそも、どうして俺達がアンタらに試されなきゃならないんだ?」

「え?」

「俺達は頼まれる側なんだぞ?頼む側が頼まれる側を合意無く試すとかおかしいだろ」


 『試す』というのは、基本的に立場が上の者が行うことだ。

 頼む側と頼まれる側。どちらの方が上の立場だと思う?俺は頼まれる側だと思う。


「頼み事をする相手に合意無く襲いかかり、反撃が予想よりも苛烈だったから文句を言う。アンタ達は、そんな馬鹿みたいなことをしたんだよ」

「そ、そんなことは……」

「騒がしいぞ。何事だ」


 通路の奥から一目で国王と分かる風貌の男が歩いてきた。

 暫定国王は騎士や文官と思われる者達を10名程引き連れていた。


名前:グランド・グラード

性別:男

年齢:185

種族:陸の民

称号:グラード王国国王、不老ギョハル


 当然、国王だった。

 王女と共に居た騎士達が国王に向かって跪く。


「リランド、こんなところに居たのか。遅いから心配したのだぞ」

「陛下、申し訳ございません。勇者様がアルドーを切ったため、向かうことができませんでした」

「何だと!?アルドーは無事なのか!?」

「両腕を切り落とされ、瀕死の重傷です」

「何と言うことだ!勇者が我が国の騎士を傷付けるとは……」


 国王は俺達の方を見ると、不快そうに顔を歪めた。


「其方達が勇者か?我が国の優秀な騎士を再起不能にして、どう落とし前を付ける気だ?」

「……これは、駄目だな」


 騎士、王女、国王でスリーアウトとなったため、この時点で俺はグラード王国への興味を失った。


「一体何を言っている。いや、それよりも国王であるワシの前で何故跪かない?」

「ゆ、勇者様!陛下の御前です。跪いてください!」

「…………」


 王女が何か言っているが、俺が気にすることは何も無い。


「勇者様!」

「……もしかして、俺に声を掛けているつもりか?」

「な、何を言っているのですか!?先程から、勇者様とお呼びしているではありませんか!」

「残念だけど、俺は勇者じゃないから、そう呼ばれても返事をする気はない」


 俺、『勇者』って呼ばれるのが1番嫌いなんだよね。

 ちなみに、2番目は『織原の親友』。アイツは幼馴染みであって親友ではない。なお、異世界に転移するまでは1番でした。


「はい? ……いえ、貴方達は予言の通り、この世界を救いに来た勇者ではありませんか!」

「それはそっちの都合だろ?俺は勇者になる気でこの世界に来た訳じゃないぞ。そもそも、俺はこの世界を救うとは一言も言っていない」

「で、ですが、詳しい話を聞くと……」

「話を聞いて、協力するかどうか決める気だった」


 情報収集して、この国に義があると分かったら、ある程度の協力をする気だった。

 当然、協力までだ。鉄砲玉ゆうしゃになる気はない。


「もしかしたら、理解していないかもしれないから宣言しておくぞ。俺がアンタ達に協力することはない。頼み事をする相手にここまで失礼な態度を取る連中に、協力してやる義理はない」

「「な!?」」


 俺の宣言を聞いた国王と王女は絶句し、周囲に居る連中も驚愕の表情をしている。

 どうして、ここまでの扱いをされて協力を得られると思えるのか……。


「もう、ここに用はないから、俺達は出て行かせてもらう」

「ご主人様、これから何処に向かう?」

「海王ウォーアルに話を聞こうと思う。俺達の目的は『勝利』だから、敵対する必要はないだろ?」

「そっか、勝利方法は指定されていなかったわね」


 ③の『殺害』はともかく、②の『勝利』はかなり曖昧な条件だ。

 戦闘の『勝利』しか認められない可能性が高いが、ジャンケンとかの『勝利』でも認められる可能性は0ではない。少なくとも、試す価値はある。


「騎士達よ、その無礼者達を逃がすな!囲め!」

「「「「「は!」」」」」


 国王の命に従い、騎士達が俺達を取り囲んだ。


「1度だけチャンスをやろう。この場で跪き、ウォーアルと戦うと誓えば、命だけは助けてやる」

「先に言っておくけど、攻撃してきたヤツには容赦しないからな」


 俺は国王を無視して、周囲の騎士達に警告をする。


「このワシを無視するとは、何処までもふざけた真似を……。騎士達よ、その連中を殺せ!」

「「「「「は!」」」」」


 騎士達が剣を構え、俺達に斬りかかってきた。

 次の瞬間、俺達を囲んでいた全ての騎士の胴体と頭がマリアの手によって切り離されていた。

 俺が容赦しないと言ったから、意図を汲んで皆殺しにしてくれたようだ。


「ば、馬鹿な……。我が国の精鋭騎士が、何もできずに殺された、だと……」

「どうして、俺達がこの国の騎士より弱いと思ったんだ?この国の騎士で対応できない事態だから、勇者と呼んで頼ろうとしたんじゃないのか?そんなことにも思い至らなかったのかよ」

「ぐ、ぐぬぬぬ……」


 国王が悔しそうに呻き声を上げる。


「まあ、いいか。国王、とりあえずアンタは殺させてもらう」

「な、何!?わ、ワシを殺すと言うのか!?」

「攻撃してきたヤツに容赦しないって言っただろ。当然、指示を出したヤツも含まれる」

「ゆ、勇者様!今までの非礼をお詫びします!だから、陛下に手を出すのはお止めください!」


 俺が国王に向かって一歩進んだところで、その前に王女が立ちはだかった。


「残念だけど、もう謝罪で済む段階はとっくに過ぎているんだよ」

「だ、誰か!ワシを助けろ!この男を殺せ!や、止めろ!ワシに近付く……」


 話を聞く気もないので、王女を避けて国王の首を切断する。


「ぐぴっ……」


 断末魔を上げる暇もなく国王は死亡した。


「お、お父様!?そ、そんな……」

「この城にもう用はないから、俺達は出て行かせてもらうよ。邪魔をした奴は殺すから」


 何か言っている王女を無視して、俺達は来た道を戻ることにした。

 騎士っぽい連中が襲ってくる度に有言実行で首を飛ばす。


「想像以上にクソみたいな国だったな。流石、エルディアに似ているだけはある」


 王城の入口に到着したところで、この国の感想を述べる。


「エルディアに似ているのは関係ないと思うけど、全く話が通じなかったわね」

「自分達の意見を押し付けることしか考えていないのでしょう。会話と呼ぶには一方的でしたわ」

「私、話を聞いてくれない人は嫌いです……。仁君、早くこの国を出て行きませんか……?」

「そうだな……」


 俺も早くこの国を出て行きたいが、何処に向かうべきだろう?

 国王から事情を聞く前に敵対したため、海王ウォーアルの情報を得ることができなかった。

 ……いや、自分達に都合の良い話しかしないだろうから、そもそも信憑性は低かったか。


「仁様、国民の噂話によれば、海王ウォーアルは北の海に居るようです」


 どうやら、予めマリアが調べてくれていたようだ。助かる。


「マリア、他に何か分かったことはあるか?」

「はい、何故か海王ウォーアルの味を期待する声がありました」

「……まさか、海王ウォーアルって食えるのか?海王……鯨とか、鮫とか、鮪とか?」

《おさかな!たべたい!》

「いや、仮に魚だったとしても、異世界の食べ物を食べるのは禁止だからな」

《ざんねーん……》


 ドーラが本当に残念そうにしているので、今日の昼食は魚にしてもらおうと思う。


「海の多い世界で海の幸を堪能できないのは残念よねぇ……あれ?海に魚が1匹も居ないわよ?」

「何? ……本当に1匹も居ないな」


 この世界の海をマップで確認したのだが、ミオの言った通り魚が1匹も棲息していない。


「もしかして、この世界には魚が居ないのか?」

「海底に魚の骨があるから、居ないのではなく、居なくなったが正しそうね」

「また、気になることが増えたな。……ん?」


 気配を感じて振り向くと、王城の方から白い人魂のような物が近付いてきていた。


「ぎゃ!?お、お化け!?」

「斬りますか?」

「いや、斬らなくて良い。害はなさそうだ」


 人魂に怯えたミオにしがみ付かれながらマリアを止める。

 人魂は全部で21個、マップの表示は青色(味方)だが、念のため情報を確認しておく。


名前:ギョハルの霊魂

種族:霊魂


 ……確か、ギョハルって国王の『不老』に付いていた名称だったよな?

 もしかして、コレが『不老』の秘密なのか?


A:はい、現在判明している情報によれば、この国の住民は霊魂を取り込むことで『不老』となっているようです。取り込むためには、霊魂を経口摂取する必要があります。


 経口摂取……したいビジュアルじゃないよ、人魂は。

 そんなことを考えていたら、人魂達は何故か俺とミオの方に近付いてきた。


「ひいっ!」


 ミオは声を上げて俺から離れ、今度はセラにしがみ付いた。

 何となく予想はしていたが、人魂はミオを追わず俺に群がってきた。


《ごしゅじんさまにくっついたー》

「まるで取り憑かれているみたいですね……」

「仁様、本当に大丈夫ですか?」

「ああ、少しくすぐったいけど実害はない。と言うか、コレ、灰人達と同じことしているっぽいな。俺から漏れ出るエネルギーを取り込んでいるみたいだ」


 灰色の世界でエネルギーを節約して生きていた灰人達は、俺の体液を取り込むことで本来の姿を取り戻していた。

 この人魂達も俺の体表の汗からエネルギーを取り込んでいるのだろう。


「……これ、海王ウォーアルの元に連れて行こうと思う」

「何か考えがあるんですか……?」


 俺は自分に引っ付いている人魂の1つを指さす。


「ああ、この人魂、『ウォーセッツの霊魂』って名前なんだよ。なんか、海王ウォーアルと関係がありそうじゃないか?」


 これ以上なく分かりやすいイベントアイテムだと思う。

 良い方に転ぶか悪い方に転ぶかは分からないが、絶対に『何か』は起こるはずだ。


「ウォーアル、ウォーセッツ、ギョハル、ギョジャック……」

「ミオ、何を考え込んでいるんだ?」

「ちょっと待って!何か思い付きそうなの!」


 セラにしがみ付きながらミオが何かを考え込んでいる。


「そっか!魚の名前だ!」

「魚の名前?何の話だ?」

「前半のウォーとギョは魚の訓読みと音読み、それに後半を合わせると魚へんの漢字になるのよ!」


 ミオがドヤ顔で己が推理を披露した。

 ウォーアルは有を足してマグロ、ウォーセッツはセツを雪とするならタラ、ギョハルは春を足してサワラ、ギョジャックはジャックを弱としてイワシになるのか。


「つまり、この人魂、魚の魂なのか? ……魚魂さかなだま?」

「言い難いから、人魂で良いってことにしましょ?」

「そうだな。そして、海王ウォーアルがマグロということも確定した。……言葉、通じるかな?」

「この国の人達とは別の意味で話ができない可能性がありますわね」

「その時はその時だ。とりあえず、まずは海王ウォーアルに会いに行こう」


 海王ウォーアルに会わなければ、話が進まないのは確定だからな。



 21個の人魂を引き連れ、俺達は北の海へと飛んで行く。

 人魂は俺から離れないので、抱えていくことにした。滅茶苦茶軽いけど、しっかりと質量はあるようで、抱えていくことには困らなかった。

 そして、エリアが2つ切り替わったところで海王ウォーアルを発見した。


「思ったよりも簡単に見つかったけど……これは、海の上に城が建っているのか?」


 海王ウォーアルが居たのは、海上にポツンと建った城の中だった。


「城の下に海に浮かぶ石があるから浮島ってヤツね。ちょっと予想外だったわ」

わたくし、海王の称号から勝手に海の中に住んでいると思っていましたわ」

「私も海に住む魚か人魚だと思っていました……。しっかり足のある人みたいですね……」


 マップで見る限り、海王ウォーアルは城の玉座に座っており、ピクリとも動いていない。

 人間と同じ姿をしており、人魚でも魚人(頭が魚)という訳でもない。……言葉は通じそうだ。

 まずは海王ウォーアルのステータスを確認しておこう。


名前:ウォーアル

性別:女

年齢:555

種族:海の民

称号:海王、不老


 多分、この中で1番重要な情報は種族だろう。

 例の国の連中は『陸の民』となっており、海王ウォーアルは『海の民』となっている。

 どう考えても対になっており、陸に住む種族、海に住む種族という分類だと思う。


「城の中には他に誰も居ないのか」

「周辺の海にも海の民は居ませんでした。また、魚も棲息していません」


 王という称号が付いているのに、民と呼ばれる存在が何処にも居なかった。

 いや、海の民らしき存在に心当たりはあるけど……。


「……もしかして、この人魂は海の民の魂なのか?」

「確かに、命名規則的にはその可能性が高そうね」

「その人魂、海王の元に連れて行って大丈夫ですの?勘違いで恨まれたりしません?」

「いきなり、戦闘になる可能性も否定できないか。マリア、殺すなよ」

「承知いたしました」


 一応、海王ウォーアルの『殺害』でも次の世界に行くことはできるけど、正規ルートを無視したゴリ押し感が強くて気が進まないんだよ。

 どうしても話が通じない場合を除き、『殺害』を選ぶのは避けようと思う。


「男性だと思っていましたけど、海王ウォーアルは女性ですわね。悉く予想が外れていますわ」

「海の女王って言うと、人魚の国の女王を思い出すわね」

「人魚の女王に似ていないと良いなぁ……」


 正直、人魚の女王は好きではなかったので、別のタイプの女王であることを望む。

 そんな雑談をしながら空を飛び続け、10分程で海王ウォーアルが住む城に到着した。


「失礼します」


 セラが海に浮かぶ城の門を開いた。


「お邪魔しまーす」

《しまーす》


 誰にも聞こえていないと思うが、そう口にしてから城に入る。

 城の造りはグラード王国と同じく西洋風であり、何となく雰囲気も似ていた。

 しかし、グラード王国とは異なり、こちらの城には人が居ないため、明かりも点いておらず、日の光が差し込む場所だけが明るくなっている。

 なお、グラード王国の城とは部屋の配置も似ており、玉座の間までは少し歩く必要があった。


「暗いお城って少し不気味だわ……」

「幽霊でも出そうだな」

「ご主人様が持っているのが幽霊よね?」

「1個いる?」

「いらないわよ!」


 ミオも少しは人魂に慣れてきたようで、そんな軽口を言えるまでになった。

 しばらく歩いて辿り着いた玉座の間は、一際豪華な扉で閉ざされていた。


「この扉の先に海王ウォーアルが居ます。お気を付けください」

「一応、ノックでもしておくか」


 意味があるのかは不明だが、玉座の間の扉を3回ノックする。


「入れ」


 どうやら、ノックの文化は異世界でも共通だったようで、玉座の間から女性の声が響いてきた。

 許可を貰ったので、遠慮なく扉を開いて玉座の間に入る。


「この城に客が来るのは久しぶりだ。よく来たな、歓迎するぞ」


 玉座に座る海王ウォーアルが声を掛けてきたが、俺は何も返すことができなかった。

 俺は海王……いや、巨乳美女ウォーアルのから、目を離すことができなかったのである。

 まさか、こんなところでビキニアーマーを拝むことになるとは思わなかったよ。


「おお、そこにいるのは我が民ではないか。久しいな、こちらに来ると良い」


 海王ウォーアルが人魂の存在に気付いて呼びかける。

 やはり、人魂は海の民の魂だった。

 そして、海王ウォーアルの様子を見るに、海の民が人魂になるのは自然なことのようだ。


「……どうした?何故、私の元に来ない?」


 海王ウォーアルが呼びかけたのに、人魂達は俺から離れようとしなかった。

 人魂達は集まって会議のようなものを始め、1つの人魂が集合から追い出された。

 追い出された人魂は力なく海王ウォーアルの元にフラフラと飛んで行く。まるで、『お前が行ってこい』と余計な仕事を押し付けられたような哀れな姿だった。

 海王ウォーアルは飛んできた人魂をその豊かな胸に抱えた。


「そうか、そうか……何だと!? 何と言うことだ……」


 俺には何も聞こえないが、海王ウォーアルと人魂は何か会話をしているようだった。

 途中から、海王ウォーアルの表情がどんどん険しくなっていく。

 会話が終わったと思われる頃には、海王ウォーアルの周囲の空気が殺気で張り詰めていた。


「……ふう。私の名は海王ウォーアルと言う。異世界の者達よ、名を教えてくれないか?」


 海王ウォーアルは深呼吸して殺気を収めてから尋ねてきた。

 そう言えば、グラード王国の連中は勇者と呼ぶだけで名前も聞いてこなかったな。


「俺の名前は仁、仲間達は右からマリア、ドーラ、さくら、ミオ、セラだ」

「仁、マリア、ドーラ、さくら、ミオ、セラだな。『海の城』にようこそ、海の国の王として歓迎しよう。そして、話はウォーセッツから聞いているぞ。良くぞ我が民を救ってくれた。褒美として、海の国の秘宝を与えよう。ふふふ、期待しておくが良い」


 海の国の秘宝か。宝物庫にあるアレが欲しいなぁ……。

 いや、それよりも先に聞いておくことがあったんだ。


「褒美の前にこの世界の事情を説明してくれないか?何で感謝されたのかも分からないんだ」

「良かろう。何から聞きたい?」

「そうだな。とりあえず、我が民ってその人魂のことで良いんだよな?」

「その通り、これは我々海の民の魂だ。海の民は死ぬと魂に戻り、次の親の身体に入り、子として再び生まれる。魂が入らなければ子が生まれないため、海の民は一定数を超えることはない」


 異世界らしい不思議な生態の生物である。

 いや、魂の総数は変わらないという意味では、輪廻転生と同じ考え方なのか? 同じ種族の中で完結した輪廻転生と考えれば納得できる。


「その大事な魂、陸の民に取り込まれていたのよね?」

「うむ、我々は陸の民に騙されていたようだ」


 ミオの問いに頷いた海王ウォーアルから、一瞬だが殺気が漏れていた。


「俺が見た限り、確かに碌でもない連中だったな。一体、何があったんだ?」

「……事の始まりは今から100年以上前にまで遡る。ある時から、この世界が小さくなり始めたのだ。それに加え、この世界の海から魚が消えた。本当に忽然と消え、我々海の民は食料を失った。同時に海面上昇が起き、陸の民も住む土地を失ったと聞いている。幸か不幸か陸地には食料が残っていたため、私は国交のあるグラード王国に救援を求めた」


 世界の縮小も問題だが、食料が一気に消滅するのはかなりヤバい危機だな。


「グラード王国は快く海の民を受け入れてくれた。ただし、1つだけ『海王だけは陸地に入らない』という条件を付けられた。陸地に王は2人要らないと言われてしまえば、私も従うしかなかった」


 一応、言っておくと、陸地に海の民は1人も存在していなかった。

 そして、ほぼ全ての陸の民は『不老』の称号を持っていた。……それが答えだろうな。


「陸の民は海の民を喰らうことで不老の存在になるそうだ。全員食われたようで、グラード王国に向かった海の民はこの100年あまり、1人たりとも海に戻ってくることはなかった」

「予想はしていましたが、聞いていて気分の良い話ではありませんわね」

「ますます、グラード王国の人達が嫌いになりそうです……」


 グラード王国への嫌悪感が更に強くなっていく。

 人食いは絶対にNGなので、陸の民はこの世界から連れ出さないと決めました。


「海の民は陸地では大きく能力を落とす。碌な抵抗もできずに殺されたはずだ。……今考えれば、グラード王国は私の強さを恐れていたのだろう。海王である私は海ではほぼ不死身、陸地でも他の海の民よりは能力が落ちない。魔術による契約まで行い、海に封じ込めるのも当然か」


 海王とは単なる王の称号という訳ではなく、それなりの恩恵があるもののようだ。

 そうなると、グラード王国の思惑が気になってくる。


「俺、グラード王国から海王ウォーアルを殺すように言われていたけど、何か心当たりはあるか?」

「私を喰らえば海王の力が得られるはずだ。しかし、今更海王の力が何になる?」

「連中、海面上昇は海王ウォーアルが起こしているとも言っていたぞ」

「ふっ、海王に海を操る能力などない。そんな物があれば、魚をどうにかしている」

「そりゃそうだ」


 海王ウォーアルは苦笑しながら納得できる理由を口にした。


「ありがとう。この世界で何が起きているのか、大体は理解できたよ。グラード王国では話を聞く前に敵対したからな。まあ、聞いたところで信用できる内容じゃなかったとは思うけど……」

「そう言えば、お前達は何故ここに来たのだ?グラード王国に従っている訳ではないのだろう?」

「ああ、実は俺達がこの世界から出るためには、『海王に勝利』する必要があるんだよ。だから、何でも良いから勝負して欲しい。ジャンケンでも良いぞ」

「ふむ、良いだろう」


 俺が無事にジャンケンに勝利すると、海の上に光の柱が現れた。

 そして、俺は新たに『海王を打ち倒した者』の称号を獲得した。……いや、ジャンケンで勝っただけで獲得して良い称号じゃないだろ、コレ。

作者は力を試すために不意打ちをする展開が好きではありません。

力試しは両者合意の元で行うべきであり、一方的な不意打ちをしたなら、手痛い反撃も覚悟するべきです。

次回、大虐殺と解放(仮)、お楽しみ。


前書きにも書きましたが、マッグガーデン様から書籍とコミカライズが発売いたします。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
平和な勝利イイネ(*´▽`*)
称号が大仰w 不意打ち力試し嫌いわかる!反撃されて文句言うやつ嫌いわかる! 試すとか何とか言っても実際襲い掛かってんだから当人からしたらただの暴漢だもんな
不意打ちが発生しても可笑しくない演習・サバゲ―ならともかく こういうのは違うよねえ だいたい刃を潰してあるとは言え金属の棒で殴られたら 辺り所が悪かったら普通に死ねる凶器ってのをなんで考えないんだろう…
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