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第245話 救出作戦と因果応報

活動報告に記載しましたが、今月から毎月1日の昼12時に更新いたします。

また、書籍化・コミカライズの告知ができるようになったので報告いたします。

出版社はマッグガーデン様となり、まずはコミカライズが先行します。

詳細は後書きの方に記載しましたので、ご覧頂ければ幸いです。


もう少し、真面目な本編の時に報告したかったです。

 幾つかのエリアを越え、ネクロ・リードの美術館があるエリアを確認できるようになった。

 美術館の中を調べると、ネクロ・リードは本の修復作業を行っている最中だった。

 そして……。


「本当に生きた死体リビングデッドの少女達が飾られているわね。マジで気持ち悪いわ」

「動けないというのも本当ですわね。瞬きすらしていませんわ」

「そもそも、生きた死体リビングデッドって瞬き必要なんでしょうか……?」

「必要ないけど、生前の癖で瞬きする子は多い」


 さくらの質問にコルネリアが答える。

 少し調べてみたところ、生きた死体リビングデッドに生理現象は存在せず、目の乾燥を防ぐために瞬きをする必要はないらしい。


「あの美術館、絵画に彫刻といった普通の美術品も置いてあるのか。明かりは魔法の道具マジックアイテムみたいだな」

「この世界で明るいのは美術館だけ。生きた死体リビングデッドは暗闇でも困らないけど、美術品は明るいところで見たいとネクロ・リードが話していた。動けない少女達に向かって……」

「最後の一言がなければ、分からなくもない話なんだが……」

「本っ当に気持ち悪い!」

《きらーい……》


 動けない少女達に向かって、明るいところで裸体を見たいと言ったのか。ヤバいね。

 どんな話題からでも評価の下がる男、それがネクロ・リードである。


「さて、ネクロ・リードの品性を再確認したところで、そろそろ作戦会議を始めようか」

「そんなもの再確認したくなかったわよ」

「ここまでハッキリしていれば、潰すのに遠慮が要らなくて良いだろ?」

「それはそう」


 満場一致のようで、全員が頷いていた。


「1番大切なことは、生きた死体リビングデッドの少女達に犠牲を出さないことだ」

「どうか、皆のことを助けて欲しい」

「ああ、任せておけ。全員を確実に助けるための作戦を考えてある」


 そして、俺はアルタと共に考えた作戦について説明する。

 大切なのは順番だ。順番を間違えると少女達に被害が出てしまう。


「……全体的な流れはこんな感じだな。名付けて、『ネクロ・リード破壊作戦』!」

「流石はご主人様、全く容赦がないわね!良いと思うわ!」

「ネクロ・リードはそれくらいされて然るべき」


 結構エグい結末だと思ったが、ミオ、コルネリアは大賛成のようだ。

 ネクロ・リードの所業が酷すぎて、許容できる因果応報のレベルが高くなっているのだろう。


「意見や質問があれば言ってくれ。その後は役割を決めよう」


 20分くらいで作戦会議が終わり、『ネクロ・リード破壊作戦』が始まった。


 先にも述べた通り、少女達に被害を出さないことが最優先の目標となる。

 ここで問題になるのは、ネクロ・リードは美術館に居て、少女達も美術館に居ることだ。

 つまり、美術館で戦えば少女達が被害を受ける可能性が高くなってしまう。よって、最初にすべきことは、ネクロ・リードを美術館から引き離すことである。


《目標の回収、完了いたしました。今から指定ポイントに向かいます》


 美術館からネクロ・リードを引き離すための作戦をシンプルに言えば、『誘拐』……いや、ネクロ・リード的には『窃盗』になるのか?

 作戦の内容もシンプルだ。飾られた少女の1人を、美術館に潜入したマリアが誘拐し、戦いに適した場所に運ぶ。言葉にすれば、それだけのことである。

 状況によっては、ネクロ・リードとマリアの追いかけっこが発生する可能性もあった。しかし、本の修復に専念していたネクロ・リードは、マリアの行動に全く気付かなかった。


「飾っていた少女が居なくなったことにちゃんと気付くかしら?」

「1番のお気に入りだから、すぐに気付くと思う。気付かなかったら、眷属としての繋がりを切って、俺の従魔にしてから別の少女を連れ出せば良い」


 マリアが誘拐したのは、美術館で最も目立つ場所に飾られた少女だった。言い換えれば、ネクロ・リードが最も気に入っている少女である。

 比較的早い段階で誘拐に気付くだろうし、気付いたら全力で追いかけてくるだろう。

 そして、万が一気付かなかった場合は、コルネリア同様の処置をしてネクロ・リードの支配から切り離す。無いと思うが、これで全員を救助できたなら最高の結果だ。


「仁様、お待たせいたしました」


 少しして、マリアが指定ポイント……俺達が待つ場所に到着した。


「マリア、お疲れ様。その子をここに降ろしてくれ」

「はい」


 マリアは抱えていた少女を地面に降ろす。

 少女は前情報の通り全裸で彫刻のようなポーズで固まっていた。

 俺は少女の前に立ち、屈んで少女と目の高さを合わせる。


「突然のことで驚いていると思う。だが、俺達に君を傷付ける意図はない。俺達の目的は、ネクロ・リードを殺すことだ。ネクロ・リードを美術館から引き離すため、君を誘拐させてもらった」

「この人の言っていることは本当だから安心して。きっと、貴女達を救ってくれる」


 コルネリアが横に立ち、俺の言葉を肯定してくれる。

 少女の表情は変わらない。変えることができない。しかし、マップ上の表示が青……味方に変わったことで、俺の言葉を信じてくれたことが証明された。


「もうしばらく待っていてくれ。ネクロ・リードが追ってくるはずだから」


 動けない少女には悪いが、今はまだ眷属の繋がりを断ち切る訳にはいかない。

 ネクロ・リードを調べて分かったことだが、奴は眷属の様子を窺う能力を持っている。

 当然、繋がりを切ると能力は使えなくなるので、ネクロ・リードをおびき出すには、少女を眷属のままにしておく必要がある。もう少し、我慢してくれ。



 それから10分程経ち、ようやく長かった本の修復が終わった。


「……本の修復が終わったか」


 ネクロ・リードは椅子に座ったまま目を閉じた。次の瞬間、勢い良く椅子から立ち上がる。

 恐らく、コルネリアとの繋がりが断たれたことに気付いたのだろう。驚愕の表情を浮かべ、大慌てで美術館を出ようとした。美術館で走り回ることはお止めくださーい。


「ふふ、滅茶苦茶動揺しているわね」

「いい気味」


 ミオ、コルネリアがご満悦の表情である。

 美術館の中を走るネクロ・リードは、その途中で飾られていたお気に入りの少女が居なくなっていることにも気付き、膝をついて『ウギャアアアアア』と全力で絶叫した。

 ネクロ・リードは再び目を閉じ、居なくなった少女の様子を窺った。ネクロ・リードの目には、少女の前に立つ俺とコルネリアの姿が写ったことだろう。

 ネクロ・リードはすぐさま転移能力で俺達の前に現れた。


「キサマアアアアア!!!コルネリアちゃんに何をしたあああああ!!!」

「見ての通り、お前の呪縛から解き放っただけだが?」


 転移直後、激怒したネクロ・リードが大声で質問してきたので、冷静に答えてあげた。

 そして、近くに居たコルネリアを抱き寄せる。作戦通り、コルネリアも俺に抱きついてくる。


「キ、キサッ、キサマッ!ボ、ボクのコルネリアちゃんに触れるなあああああ!!!」

「断る!もうコルネリアは俺の眷属だ」

「ご主人様、大好き」

「こ、殺す!キサマは絶対に殺おおおおおす!!!」


 ネクロ・リードが叫ぶと、その周囲に真っ黒な球体が10個現れ、俺に向かって飛んできた。

 この黒球に触れた生き物は生命力を全て奪われる。そう、俗に言う即死魔法である。

 コルネリア曰く、ネクロ・リードの操るこの即死魔法により、この世界の生物は滅んだとのこと。

 黒球の直径は1m程度で、思ったよりも飛ぶ速度は速い。触れたら即死と考えると、中々に強力な魔法なのかもしれない。しかし、これは魔法だ。


「ふんっ!」


 セラが飛んできた黒球を全て斬り捨てると、黒球は燃えるように消滅した。

 異世界の物であろうと、魔法である以上、セラに通用する訳がないんだよなぁ……。


「は?」

「これで終わりですの?」

「な、なんっ、何だ!?ボ、ボクの魔法が切られただと?そんなこと、有り得ないだろ!ボクの魔法には『無効化の無効』が付いているはずだ。こ、こんなの、何かの間違いに決まっている……!」


 たった1度、攻撃が防がれただけで、先程までの激高を忘れ、オロオロと狼狽しだした。

 やはり、俺の推測は当たっていたようだ。ネクロ・リードは、危険な魔法と異常な品性を持っているだけで、特別メンタルが強い訳ではないという推測が。


「そ、そうだ!この魔法を使うのも100年ぶりだったから、失敗しただけなんだ!」

「いえ、目の前で切られるところを見ていたでしょう?」

「う、煩い!ボクの魔法は無敵だ!ボクがそう願ったのだから・・・・・・・!」


 セラの冷静なツッコミにも耳を貸さず、自分の都合の良いように解釈する。


「こ、今度こそ、死ね!死ね!死んでしまえ!次は10倍、いや100倍だ!!!」

「子供みたいな発想ですわね」


 再び黒球が現れた。ネクロ・リードの言った通り、1000個の黒球が周囲を埋め尽くしている。


「『飛剣連斬』」


 次の瞬間、1000個の黒球はセラの放った無数の飛ぶ斬撃により全て消滅した。


「余裕でしたわね。次は1万個ですの?」

「あ、有り得ない……。有り得ない……。有り得ない……」


 身体をガクガクと震わせるネクロ・リード。


「……い、いや、まだだ。まだ、ボクには無限の魔力がある。無限の魔力があれば、何度でも魔法を使える。無限の魔力があれば、ボクは不死身だから、絶対に負けることはない!」

「あらら、今度は現実逃避しちゃったわね。無限の魔力が自慢らしいわよ?」


 ミオが呆れたような表情をする。

 ネクロ・リードは自分に言い聞かせるように『無限の魔力』と連呼している。

 調べた限り、即死魔法の消費MPは中々に重い。連発するには膨大なMPが必要になる。


「それ、実際には無限じゃないよな?」

「は?」

世界の寿命リソースを削って魔力に変換しているだけだから、限りある資源だよな?」

「な、何故、それを……」


 ネクロ・リードは魔道士としては優秀らしいが、『無限の魔力』なんて物は持っていない。

 ある方法により、この世界の寿命を魔力に変換し、我が物顔で使っているだけなのである。


「他にも知っているぞ。お前、実はネクロノミコンを読めないんだよな?」

「あ、ああ……。そ、それを言うなアアアアア!!!」


 ネクロ・リードが頭を抱えて絶叫する。

 実はこの世界の魔道書には相性があり、相性の悪い者には読むことすらできない。

 そして、ネクロ・リードにはネクロノミコンを読む才能はなかった。


「ボ、ボクはリード一族最高の天才、死者の書を読む者ネクロ・リードだ!このボクにネクロノミコンが読めないなんて話があるはずないだろ!実際、ボクはネクロノミコンを使って生物を滅ぼし、ネクロノミコンを使って生きた死体リビングデッドを作り出したんだ!」

「残念だけど、ネクロノミコンに生物を滅ぼす能力は無いんだ」

「は?」

「お前の知っている伝承、間違っているんだよ」


 コルネリア曰く、ネクロノミコンの伝承の中では即死魔法があるそうだ。

 しかし、実際のネクロノミコンの効果は『生きた死体リビングデッドの作成』だけであり、即死魔法を使えるようになったりはしない。


「う、嘘だ!そんなはずはない!ボクはネクロノミコンを使えるんだ!」

「じゃあ、少し視点を変えてみようか。お前、さっき即死魔法を使った時、魔道書を持っていたか?魔道書の魔法を使うには、魔道書に触れている必要があるって知っているよな?」

「あ、あ、ああ……!」


 この世界の魔道書を使うには、魔道書に触れている必要がある。

 前に会った時は魔道書を取り出してから即死魔法を使おうとしていた。しかし、今回は怒りに我を忘れ、魔道書を取り出す前に即死魔法を使ってしまった。


「お前が本当に読めるのは、グリモワールの魔道書ただ1つ。それは、膨大なリソースと引き換えに願望を叶える禁忌の魔道書。お前はそれを使って、2つの魔道書が読めるフリを続けてきたんだ」

「ああああああああああああああ!!!」


 ネクロ・リードは頭を抱え、ブンブンと振りながら絶叫する。


 グリモワールの魔道書、それは世界の寿命リソースを犠牲にして願望を叶える能力を持つ。

 ネクロ・リードはグリモワールを使い、『即死魔法』、『生きた死体リビングデッドの作成』の能力を自身に与え、ネクロノミコンの能力を再現した。

 加えて、グリモワールで『太陽の拒絶』を実現すれば、1つの魔道書しか読めないのに、2つの魔道書を読めるフリができるという寸法だ。

 当然、多くの願いを叶えるほど世界の寿命は短くなる。『無限の魔力』や『再生能力』を含め、沢山の願いを叶えた結果、この世界の崩壊は大幅に早まった。

 つまり、ネクロ・リードは二重の意味でこの世界を滅ぼした張本人となる。


「う、煩い!煩い!煩い!煩い!!!ボクを馬鹿にするな!例えネクロノミコンを使えなかったとしても!グリモワールを使えるボクが最強の大魔道士であることに変わりはない!何度でも何度でも何度でも、お前達が力尽きるまで即死魔法を放ってやる!ボクには無限の魔力があるし、魔力がある限り不死身だ!腕を切り落とされようが、胴を真っ二つにされようがボクは死なない!」

「でも、体内のグリモワールを破壊されたら不死身じゃなくなるよな?」

「ヒョッ……」


 空気の抜けるような呻きがネクロ・リードの口から漏れる。


 先にも述べた通り、魔道書を使うには魔道書に触れている必要がある。

 ネクロ・リードはそれを弱点と捉え、グリモワールに『グリモワールの体内への吸収』を望んだ。

 グリモワールは物質から魔力の塊となり、ネクロ・リードの体内を今も絶え間なく動いている。

 そして、仮に腕を切られようが、胴体を真っ二つにされようが、グリモワールを含む部位を基準に『再生能力』が発動する。これがネクロ・リードの言う不死身の正体である。

 これを防ぐには、体内を移動するグリモワールを正確に狙って破壊しなければならない。


「そ、そんなの無理に決まっている……」

「本当にそう思うのか?お前の能力に詳しい俺が、対処法の1つも持っていないと思うのか?」

「…………」


 強がりを一刀両断にぶった切ると、ネクロ・リードの表情が徐々に歪んでいった。


「……ま、待て。待ってくれ。まさか、ボクを殺す気じゃないよな?ボクを殺せば、眷属達も死ぬんだぞ?そこに居るリステシアちゃんも死ぬぞ?そ、そうだ!コルネリアちゃんとリステシアちゃんをキミに譲ろう!他人の手垢のついた作品なら失っても我慢できるからね!も、もう君達を殺そうとしないし、その2人のことも諦めるから、それで手打ちとしようじゃないか!」

「今度は命乞いですの?しかも、譲っているようで何も譲っていませんわ」

「見苦しいわよね、ホント」


 今更、命乞いされても困るよね。もう、殺すって決めているんだから。

 捕捉しておくと、リステシアとはマリアが運んできた少女のことだ。


「断る。俺はお前の眷属を全員助け出すと決めているからな」

「ぜ、全員だと!?ふ、ふざけるな!眷属はボクの物だ!これ以上、キサマなんかに奪われるくらいなら、ボクの手で全員死なせてやる!リステシアちゃん!自害しろ!」


 ブチ切れたネクロ・リードはリステシアに自害を命じた。


「嫌です!」


 しかし、リステシアから返ってきたのはそんな言葉だった。


「な、なんで……」

「気付いていなかったのか?リステシアは既に俺の眷属だぞ」

「もう、貴方の命令には従いません!」


 リステシアがネクロ・リードを睨みつける。

 ネクロ・リードにネクロノミコンが読めないという事実を突きつけ、発狂している最中にリステシアを眷属から解放し、俺の従魔としてテイムしていたのである。

 短い時間でテイムするため、事前説明をさくらに頼んでおいた。黒球を展開して視界が狭くなっている間にコッソリと行われたので、ネクロ・リードも気付けなかっただろう。

 ネクロ・リードが来る前に説明しなかったのは、眷属の様子を窺う能力を警戒してのことである。


「……ぐ、ぐふ、ぐふふ。い、良いさ。もう、リステシアちゃんのことは諦めていたからね。た、大して興味なんてないよ。ボ、ボクにはまだ、数多くの眷属が居るんだ。キサマが奪うというのなら、み、皆、殺してやる。……キ、キサマが殺すんだぞ。ボクを怒らせたから、キサマがボクの眷属達を殺すんだ!こ、これで、キサマの望みは叶わない!ざまあ見ろ!」

「この期に及んで、責任まで押し付けてくるなんてサイテー過ぎるでしょ……」

「ネクロ・リードが最低なのは、眷属全員が知っている」


 ミオ、コルネリアの発言にリステシアもコクコクと頷く。

 この世界にはネクロ・リードと眷属しか残っていない。つまり、世界共通認識最低……。


「だ、黙れ!黙れ!黙れ!ホントに殺すぞ!ここからだって、自害を命じることはできるんだか……ら……な……。な、なんで、誰も見つからないんだ?」

「もしかして、美術館の眷属の様子でも見ようとしたのか?誰にも繋がらなかっただろ?」

「キ、キサマ、今度は何をした……?」


 怒りと恐怖、様々な感情の入り交じった表情でネクロ・リードが尋ねてくる。

 ここまで来ると、言わなくても俺の仕業だとわかるようだ。


「お前の眷属は全員回収させてもらった」

「回……収……?」

「気付いていないのか?俺達の仲間、1人足りないだろ?」

「……あ」


 俺達はネクロ・リードを美術館から引き離すための囮でしかなく、本命のマリアとタモさんが美術館で眷属の少女達を回収していたのだ。

 回収の方法は、最近お家芸になりつつある石化+<無限収納インベントリ>である。

 石化と回収だけならベジリスクとなったタモさんだけで良いのだが、意味も分からず魔物に襲われる少女達が可哀想なので、説明要員としてマリアが同行することになった。


「不思議に思わなかったのか?俺達は1度もお前に攻撃を仕掛けていない。俺達の目的は最初から時間稼ぎだったんだよ。お前を挑発したのも、美術館の眷属に意識を向けさせないためだ」


 時間稼ぎが目的だから、俺は嫌と言うほどネクロ・リードを口撃した。

 興味のない話を延々と聞いているのは中々に大変だったよ。


「お前は、ずっと俺の掌の上で踊っていた」

「う、ううぅ……。嘘だ……。嘘だ……」


 ネクロ・リードは後退りしながら、首を横に振って現実を拒絶する。


「もう、お前の眷属は1人も残っていない。お前と話を続ける理由もない。そろそろ、終わりだ」

「うう、うわあああああああ!!!」


 ネクロ・リードは絶叫すると黒い球体に包まれ、その場から姿を消した。


「逃げたか」


 ネクロ・リードが転移したのは、俺達の居るエリアから最も遠いエリアだった。


「本当に全てご主人様の掌の上ですわね」

《すごーい!》

「あ、ご主人様の想像通り、グリモワールを取り出したわよ」

「ネクロ・リードにはグリモワールしか頼る物がない。追い詰めたら、使うと思っていたよ」


 ネクロ・リードは体内からグリモワールを取り出していた。

 グリモワールに何かを願う場合、グリモワールの中にその内容を書き込まなければならない。

 ネクロ・リードを追い詰めることで、新しい願いが必要だと思わせ、グリモワールを取り出すことを誘発したのである。


「こ、この星を滅ぼして、私達を巻き込む気のようです……!」


 ネクロ・リードがグリモワールに望んだのは『星を砕く魔法』だった。

 そんな強力な魔法を創り出したら、それだけで世界の寿命リソースが尽きてしまう。

 これは、今度こそ完璧に世界を滅ぼし、俺達と共倒れすることが狙いとしか思えない。


「急いだ方が良さそうだな。ミオ、任せた」

《ミオ、がんばれー!》

「了解!」


 当然、ネクロ・リードが願いを叶えるのを待つつもりはない。

 ミオは弓を構え、遠く離れた先にあるグリモワールに狙いを付ける。


「……滅びろ!このネクラロリコン!」


 掛け声と共に放たれた矢は、幾つものエリアを飛び越え、ネクロ・リードが文字を書こうとしていたグリモワールを貫いた。

 火属性の魔力が込められた矢に貫かれ、グリモワールは瞬く間に燃え上がる。

 ネクロ・リードは何とか火を消そうとするが、その炎は一切勢いを緩めずに燃え続ける。


-ピシッ-


 ガラスが割れるような音がしたと思ったら、夜空にヒビが入り、ヒビから光が漏れてきた。

 グリモワールが燃えたことで、願いで生み出した結界が壊れ始めたのだろう。


「太陽の光……」

「100年ぶりです……」


 コルネリアとリステシアが漏れ出る光を見上げて呟いた。


「2人共、懐かしいのは分かるけど、日光を浴びるのは危険だからフードを被れ」

「分かった」

「はい、お気遣いありがとうございます」


 2人はいそいそとフードを被った。

 生きた死体リビングデッドの2人は日光を浴びるとダメージを受けるので、日光を遮るためにフード付きの黒いローブを着せてある。

 余談だが、リステシアは裸の上に直接ローブを着ている。他に着せる時間はなかったからね。


「グリモワールは完全に焼失したようだな」


 グリモワールがタダの炭となり、結界も完全に破壊されたことで、この世界に青空が戻った。


「ミオちゃんも称号が増えたわよ!『幻想の書を滅した者』だって!」

「向こうに光の柱が現れましたわ。後はネクロノミコンの破棄だけですわね」


 グリモワールが焼失したので、条件を達成したミオに称号が付与され、他の世界に行くための光の柱が立ち上った。


「ネクロノミコンは称号を持っていないドーラちゃんが破棄するんですよね……?」

《ドーラのばん!》


 この世界に到着した時点で、異世界産の称号を持っていないのはミオとドーラだけだった。

 ネクロ・リードが遠く離れた地でグリモワールを開くと予想していたので、遠隔で破壊できるのは俺とミオの2人だけだった。つまり、グリモワールの破棄はミオの仕事だ。

 残るネクロノミコンはドーラに破棄させて、全員に異世界産称号を与える心積もりである。


「さて、それじゃあ、最後の仕上げだな」

「本当に楽しみ」

「これから何をされるんですか?」

「見てのお楽しみ」


 リステシアの質問にコルネリアが不敵な笑みを浮かべる。

 最後の仕上げの話をした時、コルネリアは大絶賛していたからな。



 俺達は最後の仕上げのため、『ポータル』でネクロ・リードの美術館の中に転移した。


「ク、クソッ、これを外せ!ボ、ボクは偉大な大魔道士だぞ!」

「……」


 転移した先に居たのは、叫ぶネクロ・リードと無言のマリアだった。

 ネクロ・リードは手足にオリハルコン製の枷を付けた状態で転がされていた。


「仁様、お疲れ様です。ネクロ・リードを回収しておきました」

「マリア、お疲れ様。色々と良い仕事だったぞ」

「ありがとうございます」


 今回の『ネクロ・リード破壊作戦』でマリアは3つの大きな役割を担っていた。

 1つ目は『リステシアの回収』、2つ目は『眷属少女の回収』、そして、3つ目は『未確認エリアへの進出』である。

 2つ目までは既に説明しているので、3つ目の『未確認エリアへの進出』について説明しよう。

 俺のマップは4エリアしか届かないので、この世界には未確認のエリアが多かった。

 ネクロ・リードを追い詰めた後、この未確認エリアに転移されたら、グリモワールに変な願い事をされるのを防げなくなってしまう。

 そこで、『眷属少女の回収』を終えたマリア、タモさんに残るマップを埋めてもらったのだ。

 実際、ネクロ・リードは未確認エリアに転移したので、俺の狙いは大当たりだったことになる。


「キ、キサマ!よくも、よくもグリモワールを!」


 地面に転がりながら、ネクロ・リードが俺を睨み上げでいる。

 余談だが、マリアは1つ大きくない役割を担っていた。それは、グリモワールが燃え、日光で無力化されたネクロ・リードを美術館に連れてくることである。


-ザシュッ-


「ヒィッ!」


 転がるネクロ・リードの目の前にミオの放った矢が突き刺さる。


「残念だけど、グリモワールを打ち抜いたのは私よ」

「キ、キミが……?ど、どうしてそんな酷い事をしたんだ!?」

「それをアンタが言うの……?」

「ミオ、ソレと話をしても時間の無駄だ。言葉は通じるみたいだけど、話は通じないからな」

「はーい」

「おい、ボクを無視するな!クソッ、外れない!」


 時間稼ぎが目的でもないのに、ネクロ・リードと話をするのは時間の無駄である。

 俺達は見張りのマリアを除き、ネクロ・リードの居る部屋とは別の部屋に入る。全員が部屋に入って扉が閉まると、マリアがその部屋に防音の結界を張ってくれた。


「最後の仕上げを始めよう。5人ずつくらいで良いかな」


 そして、俺は石化した眷属の少女達を取り出し、石化解除、眷属からの解放、テイムと一連の作業を5人分繰り返す。そして、俺の配下になった少女達にちょっとしたお願いをする。

 全員がお願いを聞いてくれたので、少女達を連れてネクロ・リードの居る部屋に戻る。


「ま、まさか、キサマ、また、ボクの眷属を……」


 部屋に現れた俺達を見て、ネクロ・リードは理解してしまったようだ。

 まあ、5人の少女に嬉しそうな表情で抱きつかれている俺を見れば、察して当然なのだけど……。


「ああ、このまま300人、全員を俺の眷属にしてやるよ」

「!!!!!!!!」


 ネクロ・リードが何かを叫ぼうとしたが、その前にマリアがネクロ・リード口周りだけに防音の結界を張ったことで何も聞こえなくなった。

 これで、コチラの言いたいことだけを押し付けることが出来る。


「ほら、言いたいことがあるんだろう?」

「はい」


 俺が促すと、俺に抱きついていた少女の1人が俺から離れ、ネクロ・リードに近付いた。

 ネクロ・リードが気持ちの悪い笑みを浮かべ、口を動かした。

 口の動きから察するに、『ぐふ、ミリアリアちゃん、ボクを助けてくれるの?信じていたよ、キミはボクを愛しているって』と言っているのかな?うん、気持ち悪い。


「ずっと、貴方のことが大嫌いでした。貴方が死んでくれることが何よりも嬉しいです」


 しかし、少女の口から告げられたのは、ネクロ・リードの想像とは真逆の恨み言だった。


「!!!!!!」


 ネクロ・リードが何かを叫んでいるが何も聞こえない。今度は読唇術を使う気にもならない。

 そして、言うだけ言った少女ミリアリアは俺の元に戻って再び抱きつく。

 また別の少女が俺から離れ、ネクロ・リードに近付く。再び、ネクロ・リードは喜色を浮かべた。いや、学べよ。


「アンタ、本っ当に気持ち悪いわよ。アンタを好きになるヤツなんて、この世界に誰も居ないわ」


 それからも、少女達は次々にネクロ・リードに思いの丈をぶつける。


「ネクラ・リードさん、早く死んでください。貴方は生きているだけで有害なんです」

「皆を殺したお前なんて、死んじゃえ!死んじゃえ!死んじゃえ!」

「この100年、貴方の死を望まない日は1日もありませんでした。ようやく望みが叶います」


 5人の恨み言を聞き、ネクロ・リードの顔が引きつっている。

 当然、これで終わる訳がない。眷属だった少女は、後300人近く残っているのだから。

 再び隣の部屋に行き、次の5人を同じ流れでテイムする。

 そして、テイムした少女達は思い思いにネクロ・リードに恨み言をぶつける。

 一応、肉体への攻撃は禁止している。それを許すと、きっと1人目で殺してしまうから。


「…………………………………………」


 流石のネクロ・リードも、少女から純粋な敵意を受け続けたら多少は堪えるようだ。

 100人を超えた当たりで何も言わなくなっていた。当然、何か言っても聞こえないが。


「…………………………………………」


 何時間も掛けてようやく300人オーバーの少女達の恨み言が終わった。

 これが、『ネクロ・リード破壊作戦』の最後の仕上げ、何も言い返すことができない状態で、眷属全員から恨み言を言われ続ける因果応報の極地、名付けて『怨嗟連鎖』である。

 割とエグい内容ではあるが、ネクロ・リードの所業と、眷属だった少女達の今後を考えると、何かしらのみそぎは必要なのだから仕方がない。


「最後の最後の仕上げだな。マリア」

「はい」


 俺が声を掛けると、マリアはネクロ・リードの足を引きずり、美術館の外に放り投げた。


「ギャアアアアアア!!!痛い!熱い!熱いいいい!!!」


 『怨嗟連鎖』で数時間経ったが、まだ日は落ちておらず、日光がネクロ・リードの身体を焼く。

 ここから先、ネクロ・リードは苦しむだけなので、口の結界は解除してある。


「痛い!熱い!痛い!止めてくれええええ!!!」

「マリア、回収だ」

「はい」


 マリアは再びネクロ・リードの足を引きずり、美術館の中に連れ戻した。


「よし、魔力は0になったようだな」


 日光で焼き殺しても良いのだが、それではまだ足りない。


「な、何を言って……。ボ、ボクの魔力がなくなっている!?な、何故!?」

「知らないのか?生きた死体リビングデッドは体内で魔力を生み出せないんだぞ?だからこそ、眷属の少女達はお前から魔力の供給を受けていたんだ。そして、魔力を失った生きた死体リビングデッドは、肉体を維持できず土に還ることになる。グリモワールが焼失し、『無限の魔力』を失ったお前は、何時まで肉体を維持できるんだろうな?」


 日の光を浴びせたのは、肉体の修復に残された魔力を吐き出させるためである。

 全ての魔力を失ったネクロ・リードの身体は、話している間に崩れ始めていた。


「そ、そんな!?ボクが魔力切れで死ぬだって!?そ、そんな馬鹿みたいな死に方は嫌だ!そ、そうだ!キミ、キミだよ!ボクをキミの眷属にしてくれ!生きた死体リビングデッドを300人も眷属にできるだけの魔力があるなら、ボク1人を追加するくらい簡単だろう!ボ、ボクは大魔道士だ!き、きっとキミの役に立つよ!」


 この状況で、まだ自分に価値があると思っているのか。


「お前なんか要らん」

「な、何故!?ボクは、あ……」


 そこで、ネクロ・リードの顎が崩れ、何かを喋ることはできなくなった。

 先程と同じく、何も言えず、話を聞くことしかできない状態である。

 そんなネクロ・リードに近付いたのは、恨み言に参加しなかった2人、コルネリアとリステシアだ。本当の最期、引導を渡してやれ。


「ネクロ・リードは大魔道士じゃない。ただ、グリモワールを読めただけの凡人。凡人が身の丈に合わない願いを叶えたら、最後に全てを失うのは必然」

「貴方には何も残りません。眷属全員から嫌われ、眷属全員を奪われ、望んだ物を全て失い、最後には魔力が切れて土に還るのです。魔力の1つすら、あの世に持ち込むことはできません」


 そこまで聞き、残された顔が絶望に染まったところで、ネクロ・リードの全身が崩壊した。


1話まるまる使ってネクロ・リードをフルボッコにしました。

別名、ネクロ・リードNTR脳破壊作戦。

実は、ミオが矢を放つ時のセリフを先に思い付いて、そこからこの話が生まれました。


それでは、コミカライズの詳細を発表いたします。

【タイトル】異世界転移で女神様から祝福を! ~いえ、手持ちの異能があるので結構です~ @COMIC

【漫画家】壁アキオ様

【レーベル】MAGCOMI(マグコミ)

【出版社】マッグガーデン様

【連載日】9/6(金)※毎月の第一金曜に更新


連載開始がもうすぐそこまで迫っています。

報告がギリギリになり本当に申し訳ありません。

出版社様の正式な告知は9/3(火)なので、活動報告にリンクを載せる予定です。


書籍の方は今冬発売予定です。

Web、漫画、書籍でそれぞれ少しずつ設定が違うので、

Web版をご覧の方はその辺もお楽しみ頂ければと思います。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
[一言] いや世界一つ滅ぼしたペドフィリア兼ネクロフィリアとか普通に要らんわな…… 織原ですら食わんぞ多分
[一言] コミカライズおめでとうございます! 中々エグい復讐だなw まぁ因果応報だな。
[良い点]  ネクラロリコン
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