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第234話 水の都と巨人の島

 進堂仁セレクション6日目。


 最終日となる本日の目的地はパジェル王国と巨人島の2つ。

 どちらも全力で観光した土地なので、しっかりと案内することができると思う。


 パジェル王国とは言ったが、俺達が観光したのも、今から行くのも、水の都と呼ばれるラティス島だけである。目的は言うまでもなくゴンドラツアーだ。

 水の都に行ってゴンドラに乗らないとか有り得ないよな?


 その後、巨人島に行って巨人娘達と一緒に秘宝探しを行う予定だ。転移者である林さんが遺した秘宝はまだ残っているので、その内の1つか2つを探そうと思う。

 秘宝探しの前に巨人の村で昼食を食べようと考えている。巨大な食材から生み出される違和感バリバリの料理は、一見の価値があるはずだ。村自体、見ていて楽しいというのもある。



 本日の予定を説明した後、俺達は向かったのは、アドバンス商会ラティス島支店だ。

 島が支店名となっていることから想像できるかも知れないが、この国にはアドバンス商会の支店が複数カ所に存在する。

 大した理由がある訳ではない。ただ、この国が俺に掌握されているというだけの話だ。

 以前、この国で水災竜・タイダルウェイブが復活し、この国の中枢が海に沈んだ。その時、真面な者だけを奴隷化して救済したので、国にとって重要な人物は全員配下となっている。


「その権力を行使すれば、他人のゴンドラツアーの予約を強制的に奪うことも可能だ」

「仁にぃ、そんなことをしたの……?」


 聖がジトッと非難するような目を向けてきた。

 ラティス島のゴンドラツアーは人気なので予約待ちが普通だ。しかし、俺の持つ権力を使えば、予約待ちなどする必要はない。


「それは冗談だ。俺がそんな下らない真似をする訳がないだろ。実は、ゴンドラツアーの予約表には、非公開の枠が存在するんだ。VIP用の枠だから、他の予約客に悪影響を及ぼすことはない」

「はい。完全に一般の予約とは別の枠なので、他のお客様の迷惑になることはありませんよ」


 俺の発言を肯定してくれたのは、水先案内人ツアーガイドであるアクアさんだ。


 言い忘れていたが、俺達は今、アクアさんが操舵するゴンドラに乗っている最中である。

 俺の配下であり、水災竜の現身うつしみであり、水先案内人ツアーガイドであるアクアさんが、今回のゴンドラツアーの案内を快く引き受けてくれたのだ。

 アクアさんはラティス島でも人気の水先案内人ツアーガイドだが、水災竜・タイダルウェイブの一件の後は業務量を減らし、生まれて初めて何にも縛られない自由な時間を満喫中とのこと。

 アクアさんの自由な時間を奪う気もないので、優秀な水先案内人ツアーガイドの紹介をお願いしたら、丁度非番なので自分が案内すると立候補してくれた。非常にありがたい。


「それなら良いんだけど……。僕、無関係な人に迷惑をかけてまで観光したくはないからね?」

「俺も同意見だから安心しろ。観光は何の憂いもなく楽しむべきだ」


 変な罪悪感とか持ちながら観光しても楽しくないからな。

 正々堂々、正規の手順で楽しむのが一番である。VIPの権限を使うのは、それはそれで正規の手順なのでOKです。


「到着しました。ここからも見えますが、美しいステンドグラスで有名な教会です」


 ラティス島はそれなりに広く、1回のゴンドラツアーで全ての名所を回ることは不可能だ。

 俺達の前回の順路を覚えているアクアさんは、前回とは異なる名所を案内してくれた。


「あれは海と船がモチーフでしょうか?」

「はい。穏やかな海を進む船がモチーフですね。水の都にピッタリのモチーフと有名ですよ」


 凛の質問にアクアさんが素早く答える。


「綺麗なのは分かるけど、ステンドグラスを外から見てもねぇ」


 ミオがステンドグラスを見て残念そうに呟いた。


「どういうことですか……?」

「さくら様は、ステンドグラスが一番綺麗に見える条件って想像できますか?」

「えっと……。駄目です、すぐには思い付きません……」

「正解は、ステンドグラスが光を透過している時です。つまり、暗めの室内から明るい外を見る時が一番綺麗に見えるんですよ」

「なるほど……」


 有名なステンドグラス、特に教会のステンドグラスは大体がその構図になっているはずだ。

 ステンドグラスとは、外から見たら『綺麗なガラスの絵』、中から見たら『神秘的な光の芸術』となるので、見るのなら教会の中から見るべきである。


「はい、その通りです。外から見ても美しいですが、教会の中から見るステンドグラスが一番なのは間違いありませんので、お時間があるようでしたら、教会に行ってみることをお勧めします」

「……あの教会、女神教じゃないよな?」

「ご安心下さい。あの教会は女神ではなく、海の神を奉っています」


 どれだけステンドグラスを見たくても、女神教の教会には行きたくないので確認すると、アクアさんが安心させるように答えてくれた。


「実際には、大昔に水災竜が復活しないように祈っていた教会です。もちろん、何の効果もありません。今は元の目的は忘れられ、航海の安全を祈るだけの教会になっています」


 そして、しれっと極秘情報をぶっ込んで来た。

 一般の客に話せる内容ではないが、俺達なら問題ないと判断したのだろう。相当長く生きているようだし、色々と裏話を知っていそうだ。

 とりあえず、後で教会にステンドグラスを見に行くと決め、次の目的地に向かった。


「この先にラティス島で今最も人気のジェラート屋さんがあります。道路と水路、両方から商品を買うことができますので、購入するなら寄せますが如何しますか?」

「ご主人様、絶対に食べるべきだと思いますわ!」

「僕も食べたいな」

《ドーラもー!》

「それじゃあ、買うから寄せてくれ」


 セラ、聖、ドーラが強い興味を示し、俺も名物なら食べるべきだと思うので購入を決めた。

 アクアさんがジェラート屋にゴンドラを寄せると、すぐに店員が現れてメニューを渡してきた。


「フレーバーは10種類以上、トッピングも10種類以上、どれも見覚えのある品揃えね。ご丁寧にお勧めの組み合わせも書いてあるわ。ご主人様は何を頼むの?」

「俺はお勧めの一番上にあるヤツを頼む」


 一番のお勧めを頼めばハズレはないという持論なので、一度しか行かないお店で食べ物を買う時、下手に悩むくらいならお勧めを選ぶようにしている。

 なお、明らかにハズレだが、面白すぎるネタ枠がある時はその限りではない。


「……あら、Lサイズや大サイズの表示がないですわね?」

「このお店では、一番大きいサイズをグランデと呼ぶそうですよ」


 迷わずLサイズを選びに行ったセラにアクアさんが補足を入れる。グランデって確か……。


「普通にイタリア語じゃない! ……やっぱり、この店のオーナーは転生者だわ。道理で見覚えのあるメニューだと思ったのよね」


 俺はアイスのお店に興味がないから知らなかったが、ミオによれば日本にもあったジェラート店のデザインに酷似していたらしい。

 人気店になっていることを考えると、生半可な知識で真似をしただけとも思えない。つまり、実際にそのお店で働いていた人間の可能性が高そうだ。


「仁様、転生者の方と接触なさいますか?」

「いや、普通に生活できているなら会う必要もないだろう」


 基本的には、転生者を見つけても不必要な干渉はしない方針だ。

 アルタにも伝えてあるが、余程のことがなければ俺への報告すら不要としている。余程のこととは、転生者が奴隷になっている場合などを指す。問題がなければ買います。


「転生者の方がオーナーということは、味の保証がされたも同然ですわね。これとこれ、それとこれのグランデを頼みますわ」

《ドーラはこの3つー!ぐらんで?》

「僕も仁にぃと同じのをグランデでお願いしようかな」

「私も同じ物の中サイズメディオにします」


 他のメンバー達も次々に注文を決めていく。

 なお、小サイズピッコロを頼んだのはさくらとミオの2人だけだった。


「美味い!」


 注文の品を受け取り、ゴンドラに揺られながら一口目を食べた感想がコレである。

 聞いて分かると思うが、俺に食レポを期待しないで欲しい。


「これは人気店というのも納得の味ですわ!」

《あまーい!おいしー!》

「うん、日本で食べたジェラートにも負けていないよ。むしろ、こっちの方が美味しいかも?」

「材料や機材がない異世界でこの味を出すのは大変だったはずです。凄いですね」


 実はジェラートを食べるのは初めてなので、日本のジェラートと比較することはできないが、コンビニアイスより美味いことは断言できる。

 花の女子中学生組が言うのだから、日本の物より美味しいというのも間違いないのだろう。


「本当に美味しいわね。料理で成り上がった転生者、羨ましい……」

「ミオちゃんは大失敗しましたからね……」

「マヨネーズが毒なのは流石に酷すぎますよ……」


 ミオのマヨネーズトラウマは未だに癒えていないらしい。


「食べながらお聞き下さい。次にご紹介しますのは、ラティス島で最も有名な橋の1つである、クリストロー・ブリッジです」


 見えてきたのは、大きなアーチ状の橋だった。

 水路が張り巡らされているラティス島には、大小様々な橋が架けられている。寝そべらなければ下を通れない橋から、大運河を越えるための歩道橋など色々だ。

 このクリストロー・ブリッジはラティス島で最大の運河に架かった歩道橋とのことで、パッと見ただけでも数10人が橋の上を歩いている。


「……何か、キスしている人が多いですわね?」

《らぶらぶー!》


 セラの言うように、周囲のゴンドラに乗っている客の半数が男女のペアで、橋の下を通るペアは必ずと言って良い程にキスをしている。どう見てもデートスポットだな。


「この橋の下でキスをしたカップルは、長く幸せになれるという言い伝えがあるのです。午前中だからこの程度ですが、夕方や夜になるともっと凄いですよ」

「ゴンドラツアーって夜もやっているのか?」

「ええ、この島は夜景にも自信がありますからね。夜のツアーで夜景を楽しむ人は多いですよ」

「夜景か。偶にはそれも良いな……」


 そう言われると、夜のラティス島観光にも興味が出てきてしまう。

 俺の観光は基本的に日中がメインなので、夜景を楽しむことは少ない。幼いドーラがいるので、夜の活動は控えめにしているからな。

 もちろん、夜しか楽しめないことなら、夜に行動することにも拒否感はない。


「それで、ご主人様は誰とキスをするの?」

「What?」


 思わず英語が出てしまった。ミオのヤツ、急に何を言い出すんだ?


「観光地に言い伝えがあるなら、試してみるのもアリじゃないかしら?」


 ゴンドラに乗っている女性陣、つまり、俺以外の全員が俺に注目している。

 確かに、観光地の風習には従う方針だが……。


「この状況でそれは無理だろ……」


 男1人、女7人(アクアさんは除く)でゴンドラに乗り、1人の女性を選んでキスをする。

 周囲からどのような目で見られると思う?少なくとも、真面な人間とは思ってもらえないと思う。


「却下だ。俺にも恥というものがある」

「ご主人様のいけずー」


 そもそも、デートで来ているならともかく、仲間とグループで来ている時にすることではない。

 ブーブー言うミオを無視して、何事もなく橋の下を通り過ぎ……。


《ごしゅじんさまー!ちゅっ》


 近くにいたドーラが頬にキスをしてきた。

 恐らく、好きな人にキスをする、低度の認識なのだろう。

 避けようと思えば避けられたが、ドーラの親愛を拒絶するような振る舞いはできなかった。


《えへへー》


 まあ、ドーラなら何も問題はないか。


 その後、更に何カ所かの名所に案内され、最後にゴンドラから降りて教会まで行き、ステンドグラスを見て午前の部は終了となった。

 なお、教会で見たステンドグラスは、『光の芸術』と呼ぶに相応しい物だったことをここに記す。



 午後、俺達はアドバンス商会巨人島支店へと転移した。

 巨人島は全てが大きい島だが、支店で働く人の大半が人間サイズのため、支店の造りは人間向きになっている。ただし、建物自体はとても広く、倉庫等には巨人が入ることもできる。

 転移して間もなく商会員に案内され支店の外に出る。


「ジンさん、こんにちは!」

「おう、こんにちは」


 そこで待っていたのは、転生者で現地勇者のかえでを含む、6人の巨人族少女達だった。

 この6人はアドバンス商会の商会員で俺の部下に該当するが、異能など特殊な事情に関しては話していない。他の商会員から、俺達の案内と移動の足になるように指示をされているだけだ。


「それじゃあ、頼む」

「うん、任せてよ!」


 簡単な挨拶と自己紹介を済ませ、最初の目的地へ向かうことにした。

 前回この島に来た時と同じように、楓達に抱えられての移動である。


「凄い!本当に何もかもが大きいんだ!」

「確かに迫力がありますね。でも、何故ここまで注目されているのでしょう?」


 巨人族の住む村を見て聖が興奮し、巨人族に見られて凛が不思議そうにする。


「ご主人様はこの村の大恩人で村人全員から大人気なのよ。予定があると伝えてなかったら、囲まれて動けなくなっていたと思うわ」

「うん!本当は歓迎の宴を開こうとしていたけど、短い滞在だから泣く泣く諦めたって言ってたよ」

「兄さん、凄い人気なのですね」

「まあな」


 ミオと楓の説明の通り、『注目されるだけで済んだ』という状況なのである。

 下手をすれば、午後は観光する暇もなく歓迎の宴だけで終わっていたかもしれない。それはそれで面白いが、趣旨から外れるので我慢してもらった。


「それで、楓さんの家に向かって何をするのですか?」

「決まっているだろう。昼時だから昼食を食べるんだよ」


 凛の質問に端的に答える。

 俺達の目的地は楓の家、目的は昼食をご馳走になることだ。

 以前の巨人島観光時、俺達の食事の大半は楓の家でご馳走になった。そして、今回の巨人島観光に何処で食事をするか考えた時、真っ先に候補に挙がる程に満足できる料理だった。


「もしかして、楓さんの家は料理店なのですか?」

「え、違うよ?」

「楓の家は普通の農家だ。楓の家の料理が美味かったから、今回もお願いしたんだよ」

「農家の料理ですか。それは楽しみですね」

「任せて!特にお米は自慢なの!」


 楓経由で昼食をご馳走になりたいと言ったら、楓の両親は快く了承してくれた。

 メニューはお任せにしたが、楓宅の料理は全てアタリだったので不安はない。

 しばらく歩き、楓宅に到着した。


「ただいま!お母さん、ジンさん達が来たよ!」

「楓、お帰りなさい。ジンさん、ようこそいらっしゃいました。ご飯はできていますよ」

「うむ」


 楓宅に入ると、楓の母親であるひのきと父親である杉が出迎えてくれた。


「お世話になります」

「そんな他人行儀なことを言わないで、自分の家と思ってくださいな」

「うむ!」


 挨拶のテンプレではなく、檜と杉が本心で言っていることが分かる。

 先にミオが述べた通り、俺はこの村の住民全員から大人気だ。それは檜と杉も例外ではない。


「今日の昼食はご飯とお味噌汁、煮魚とフライドポテトですよ」

「……ご馳走になります」


 相変わらず、楓家の食事は和食に一品だけ異物が混ざっている。

 案内された部屋に入り、料理が並んだテーブルの前にある椅子に座る。

 言うまでもないことだが、人間サイズの家具も食器も楓家には存在しないので、事前にメイドが配膳含めて準備してくれていた。見れば、数名のメイドが部屋の隅に待機している。


「いただきます」×7

《いただきまーす!》


 全員揃って挨拶をして昼食を食べ始める。

 補足しておくと、檜、杉、巨人族少女達は既に昼食を食べた後だったりする。


「うわっ、お米、本当に美味しいよ!自信があるというのも納得だね」

「はい、ここまで美味しい物は滅多にないですよ」

「ただ、一粒が大きいから、違和感は中々に凄かったけど……」

「一口には丁度良いサイズでしたけどね」


 最初にお米を食べた聖と凛が感想を口にする。

 やはり、サイズの違和感は存在するようだが、それが面白いとも言える。


「フライドポテトは一人一本なんだね」

「大きいから、一本で十分だと思います」


 皿に一本の巨大なフライドポテトが乗っている。

 少しシュールだが、以前の野菜スティックと同様、一本食べれば十分なサイズだから仕方がない。


「塩はかかっていないから、調味料はお好みでってことだな」

《ドーラはケチャップー!》

「俺は普通に塩にするけど……ちょっと、行儀の悪いことをするぞ」


 少し思い付いたことがあるので、そう宣言してからフライドポテトに塩をかける。

 そして、フライドポテトを手に持って丸かじりする。


「美味い」

「フライドポテトをチュロスみたいに食べる人、初めて見たよ……」

「確かにチュロスっぽいわね。でも、妙に様になっているわ。私も真似しようかしら?」


 そう言って、ミオはキッチンペーパーを取り出し、持ち手を包んでかぶりつく。


「……これはこれで有りね」


 ミオのお墨付きが出たので、他の面々も真似をして食べ始める。

 横に居たマリアがキッチンペーパーを差し出してきたので、俺が持っていたフライドポテトを渡すと綺麗に包んで返してきた。その間に手に『清浄クリーン』をかける。


「煮魚は普通ですわね」

「魚の切り身という意味では、普段食べているのと変わらないからでしょう」

「今日は大根のお味噌汁ですね……。大根に味が染みて美味しいです……」

「……これ、明らかにみじん切りにされた大根よね。私達に合わせてくれたのかしら?」

《ごはんおかわりー!》

「僕もお代わり」


 お米も美味かったので、俺も一度お代わりをしてしまった。

 これから動くから、あまり満腹になりすぎるのも良くないと思っていたのに……。


「ご馳走様でした」×7

《ごちそーさまー!》


 和やかに風変わりな料理を堪能し、少し長い昼食が終了した。



 食事が終わったら、いよいよ本題の巨人島探索だ。

 聖と凛は巨人島の特徴を知らないので、最初に簡単な説明をする。


「この島には、転移者の林さんが隠した秘宝がいくつも眠っている。今日はその秘宝を1つか2つ見つけに行こうと思う」

「兄さん、その秘宝というのは、そんな簡単に見つかるものなのですか?」

「仁にぃが運任せに探せば簡単に見つかるんじゃない?」

「運任せにはしないぞ。林さんは秘宝を隠した場所のヒントとして、異世界人、特に日本人が分かるような名前をその土地に付けたんだ」

「どんな名前が付いていたの?」


 俺は秘宝のあった土地を思い出して答える。


「ナイアガラの滝、竹取物語、金剛石を彷彿とさせる土地……」


 無意識にセラの身体の一部に目が行く。


「それとおっぱい山だな」

「なんて?」

「何故、わたくしの胸を見て言うんですの?」


 我らがパーティのおっぱい担当だからだよ。


「二子山で頂点部分に秘宝が隠されていたな。林さん、おっぱい星人らしいから」

「その人、変態なの?」

「否定はできないな。巨人島に来たのも、巨人女性のおっぱいに埋もれるためらしいから」

「その人、変態だね」


 遂に断言されてしまった。


「変態だけど、遺された秘宝は良い物が多い。あまり気にせず、楽しませてもらおう」


 という訳で、改めて巨人島の地図を広げる。

 前回、候補に挙げたが行かなかった土地に赤丸が付けられている。

 俺はその内の1つを指さす。


「今回は前回行かなかった候補の中から選ぼうと思う。今、一番可能性が高いのは『鬼ヶ山』だな」

「名前から察するに、桃太郎の鬼ヶ島かな?」

「ああ、俺達もそう予想している。軽く聞いた話だと、鬼ヶ山には果物の木があるらしい」

「桃……」


 個々の情報だと確証までは至らないが、組み合わせるとほぼ間違いないと判断ができる。

 この辺り、林さんのアイデアとユーモアが光っている気がする。


「あまり詳しいことは聞いていていないから、到着してのお楽しみだな」

「どんなお宝があるんだろうね?」

「既に誰かが見つけた可能性もあるから、絶対にお宝があるとは言えないんだよな……」

「あ、そっか。宝探しってそういうケースもあるよね」


 秘宝が隠されたのは間違いなくても、今もそれが残っている保証はない。

 宝の地図があっても、宝があるとは限らないのと同じだ。


「マリア、分かっていると思うけど、ネタバレは禁止だぞ」

「心得ております」


 マリアは防犯の都合上、マップで既に詳細を確認しているが、危険がない限り絶対にネタバレしないように言い含めている。

 それは、秘宝の有無に関する情報も例外ではない。秘宝がなければ時間の無駄に見えるかもしれないが、それも含めての宝探しというものである。無論、あるに越したことはない。


 目的地が決まったので、部屋を出て巨人族少女達と合流する。


「それじゃあ、鬼ヶ山まで連れて行ってくれ」

「うん、分かったよ!」


 巨人族少女達に運ばれ、北にある鬼ヶ山に向かって進んでいく。

 『金剛宝山』は東の山、『無限山』は西の山、そして、『鬼ヶ山』は北の山と呼ばれている。


「楓、鬼ヶ山はどんな山なんだ?」


 移動中、鬼ヶ山の様子を楓に聞いてみる。地元民の情報はネタバレには含まれません。


「一年中、果物が実っている山だよ。ただ、その果物を食べるとお腹を壊しちゃうから、村の人も動物達も鬼ヶ山の果物を食べることはほとんどないけど」


 腹を壊すということは、果物に多少の毒性があるということか?

 もしそれが毒なら、桃太郎の物語と乖離が生じ、秘宝がある可能性が低くなってしまう。


「私、聞いたことがあります。昔の人は、お腹を壊しても果物を食べたらしいです。健康に良いという言い伝えですが、そのためにお腹を壊したら意味がないと、何時しか食べなくなったそうです」


 そう補足してくれたのは、巨人族少女の1人である桃だ。

 楓以外の少女は、俺達の会話に参加してくることは少ないが、知っていることがあれば話すくらいはしてくれる。


「興味深い話だな。他に何か知っていることはないか?」

「えっと……。あ、思い出しました。その時に食べていたのは桃だそうです。私の名前と同じだね、という話をした記憶があります」

「……なるほど、これは面白いことになりそうだ」


 健康、桃……。確証はないが、今回の秘宝が予想できるかもしれない。

 下手をすれば、世界の常識がひっくり返るんじゃないか?


 話をしながら進み続けると、木に覆われた山が見えてきた。

 裾野、平地部分も森が広がっており、遠目で見ても分かるくらい、色鮮やかに果実が実っている。

 バナナのエリア、リンゴのエリアといったように、特定の果物が一定の区間でまとまっているので、目的地が決まっている場合は探すのが楽そうだ。


「鬼ヶ山に到着したよ!ジンさん、これから何処に行けば良い?」


 鬼ヶ山の裾野に到着したところで楓が聞いてくる。


「そうだな。聖、凛、行きたい場所はあるか?」

「そりゃあ、もちろん……」

「はい、桃の実っている場所でお願いします」

「まあ、そうだよな」


 ここまで情報が出揃っていて、他の場所に行くとか有り得ないだろう。

 とは言え、見たところ桃のエリアは1つではない。最初はどこに向かうべきか……。


「ご主人様、見て。あそこに川があるわよ」


 ミオが指し示したのは小さな川だった。

 小さいと言っても、巨人サイズで考えると小さいだけで、俺達からすれば普通の川だ。


「桃太郎、川、間違いないでしょうね」

「そうだね。これ以上ないヒントだよ」

「そうだな。楓、あの川沿いに進んでくれ。多分、途中で桃のエリアに着くはずだ」

「うん、分かった!」


 桃太郎の桃と言えば、川を流れてくることで有名だ。これは林さんらしいヒントだな。

 巨人族少女達に運ばれ川沿いにしばらく進むと、予想通り桃のエリアに辿り着いた。


「楓達はこの周辺で桃以外の果物を集めて来てほしい」

「食べたらお腹を壊すけど良いの?」

「ああ、主な目的は調査だから構わない。任せて良いか?」

「うん、任せて!」


 何かに使えるかもしれないので、巨人族少女達に果物の採取を任せ、俺達は秘宝探しを始めた。


「さて、ここから何を探そうか……」

「兄さん、天津水密桃を探しましょう」

「なんて?」

「簡単に言えば、桃太郎に出てくる尖った桃のことです」

「……ああ、なるほど!」


 思い返してみると、俺達が普段食べる桃と桃太郎の絵本に出てくる桃は明確に形が違う。

 桃太郎の物語を基準とするなら、桃の種類も合わせるべきだ。そう思って周囲を見れば、木によって実っている桃の種類が異なっていることが分かる。

 桃のエリアと一言で言っても、その中には複数の種類の桃が含まれているらしい。

 相変わらず、この島の生態系は滅茶苦茶だな。


「凛、よくそんなことを知っているね」

「不思議に思ったことは調べる。普通のことですよ」


 言っていることは『普通』だが、『普通』はそんなことを不思議に思わないんじゃないか?

 何はともあれ、凛の知識により探すべき桃が分かったので、皆で手分けをして天津水密桃とやらを探すことにした。その後、俺が5分で見つけた。


「どうやら、この1本だけみたいだな」


 俺が見つけた天津水密桃の木は、川に隣接するように1本だけ生えていた。上手くいけば、川に実が落ちることもあるくらいの位置である。芸が細かい……。


「他の種類の桃の木は複数存在していました。天津水密桃だけ、1本しか存在しないようです」

「いよいよ、これが大当たりみたいだね」

「それじゃあ、鑑定を始めよう」


 そう言って、俺は木に実っている天津水密桃を鑑定する。

 桃(人名)の話から、俺はこの桃(果実)自体が秘宝だと予測している。

 恐らく、その効果は寿命を延ばすというものだろう。桃は古来より長寿を与える果実として言い伝えられており、桃の秘宝なら不老長寿に至れても不思議ではない。


神仙水蜜桃

備考:1つ食べることで、年齢を1歳若返らせることができる。


「そっちかぁ……!」


 相変わらず、俺の予想は微妙に外れるなぁ……。

 寿命を延ばすという意味では合っていたけど、老化の停止ではなく若返りとは……。

 ある意味、桃太郎に相応しい効果とも言えるので、もう少し深く考えれば思い至った可能性もあるだけに残念で仕方がない。


「若返りの桃ってことは、アレかぁ……」

「はい、原典の方の桃ですね……」


 ミオとさくらも若返り効果の由来を知っていた。


「原典?何のこと?」

「原典では、桃太郎は若返りの桃を食べた老夫婦の実子として産まれます」


 凛も知っていたようで、聖に原典桃太郎の内容を説明する。

 原典が絵本になっていない理由は、作中で明確に性描写があるせいだと思う。


「そうなんだ、初めて知ったよ。桃から人が産まれるよりは自然だね」

「このサイズの桃なら、赤ん坊が入っていても不思議じゃないけどな」


 巨人島の桃は通常の桃よりも大きいので、中に赤ん坊の1人くらいは余裕で入る。

 昔話でお婆さんが見つけた『大きな桃』も、同じくらいのサイズだったのだろう。……お婆さん、よくこのサイズの桃を1人で持ち運べたな。


「確かに、桃太郎が入れるサイズ……本当に入っていないよね?」


 念のため確認したが、人は入っていなかったので安心して欲しい。


「それでご主人様、この桃はどうするの?」

「まだ決めていないけど……。そもそも、この桃はどういう存在なんだ?」


 この桃の扱いを考える前に、この桃がどのような存在なのか把握する必要がある。

 アルタ、頼む。


A:情報が多いので、まずは木について説明します。神仙水蜜桃の木は巨人島の在来種ではなく、人の手により植えられた外来種です。また、巨人島で育ったことにより巨大化していますが、元々は通常サイズの桃が実る木です。特徴として、1年で1個の神仙水蜜桃が実ります。


 外来種ということは、林さんが植えたのだろうな。


A:次に実の利点です。神仙水蜜桃は1つ食べれば1年、半分食べれば半年というように、食べた量により若返る歳が変わります。若返る回数に限度はないので、1年に1度食べれば老いることはありません。ただし、若返られるのは10歳相当までというのは決まっています。


 やはり、世界の常識がひっくり返るレベルの秘宝だった。

 林さん、そんなヤバい物を平然と植えていったのか……。


A:最後に実の欠点です。神仙水蜜桃を食べると、元の年齢に戻るまで経験値、スキルポイントが一切取得できなくなります。また、肉体の自然回復が遅くなります。


 要するに、元の年齢に戻るまではそれ以上の『成長』を禁止するということだろう。

 利点の方が遙かに大きいとは言え、それなりに重い欠点だな。

 俺の場合、元々スキルポイントは得られないし、経験値を得てレベルアップするより、ステータスを奪った方が強化に繋がるので、関係ないと言えば関係ないけど……。


「とりあえず、今実っているヤツは収穫しておこうか。マリア、任せた」

「はい、承知いたしました」


 俺が指示をすると、マリアは<結界術>で足場を作りながら神仙水蜜桃を回収していく。

 木には30個程の神仙水蜜桃が実っていたので、30年分は若返ることができそうだ。


「仁様、この木も回収いたしますか?」

「いや、木はそのままにしておこう」


 この木を回収すれば神仙水蜜桃を独占できるのかもしれないが、俺自身が神仙水蜜桃にそこまで魅力を感じていないので、このまま放置することにした。

 ただし、実った神仙水蜜桃は用意された秘宝なので全て回収します。


「思ったより、凄い秘宝が遺されていたね」

「もしかして、他の秘宝も同じように凄まじい物だったのですか?」

「どれも凄かったけど、ここまでの物は初めてだよ。折角だから、もう1つくらい探すか?」

「いや、もう十分に驚いたから満足だよ。それより、巨人族の村をもう少し見てみたいかな」

「私もその方が良いです。先程は通り抜けただけなので、じっくり見て回りたいです」

「分かった。それじゃあ、これで撤収だな」


 その後、俺達は巨人族少女達と合流し、村に戻って村の中を見て回ることにした。

 何処に行っても歓迎される観光なんて、この島でしか経験できないだろうな。


 夕食も楓の家でいただいたのだが、デザートに桃(白桃)が出てきたのは笑ってしまった。


「よく考えたら、あのサイズの桃を1つ食べるのって大変だよな」

「折角若返ったのに、糖尿病で寿命が縮まりそうだね」

「それは元も子もないな……」


 神仙水蜜桃に病気を治す効果はなく、若返っている最中にも病気にはなるとのこと。

秘宝の腹案として、テイム成功率を上げるきびだんごも考えていました。

調理済みの生ものを秘宝にする訳にもいかないので却下しました。

そもそも、きびだんごに関する造詣がなさすぎる。材料も調理法も調べるまで知らなかったよ。


次回、話が大きく動きます、多分。

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― 新着の感想 ―
一粒がデカい米は炊くのが大変そう。一度の炊飯に10時間ぐらいかっかたり?
[一言] 自分が普通じゃないってことを再認識させられました。 でも普通じゃなくてもギリギリ一般の範疇だと思います ナカーマ
[一言] ゆっくりで良いので更新を心待ちにしています。
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