第224話 決着と予想外のリザルト
今後、書籍化の際に想定される阻害要因の修正を進めていく予定です。
基本的に前書き以外の告知無しで修正すると思いますので、ご注意ください。
書籍化阻害要因①:ホビット名称の使用
・該当箇所をハーフリングに変更することで対応いたします。
書籍化阻害要因②:作者の性癖
・該当箇所を削除することで対応いたし……ません。NGが出なければ!
魔王との最後の近接戦闘は、手数VS威力の正面衝突となった。
「はっ!」
魔王の一閃は、今の俺には片手の剣だけで防ぐことはできず、両手の2本の剣を使うことで辛うじて防ぐことができる。
『辛うじて』と言っていることからも分かる通り、攻撃を受け止めるときは、こちらもほぼ全力だ。受けた後、こちらから反撃を仕掛ける余裕がなくなってしまう。
故に、俺は可能な限り魔王の攻撃を避けるようにしている。
能力の上がった魔王も、常に避けきれない程の攻撃を続けられる訳ではないからだ。
「おらっ!」
そして、魔王の攻撃を避けたら次はこちらが攻撃をする番だ。
<天駆>を使い、空中から右の剣で魔王の顔面を狙う。怪我をしないのが分かっているので、親友の妹の顔に向けて剣を振るうことにも躊躇はしない。
「……っ!」
魔王は動きながらギリギリで首を傾けて避ける。
直後、流れるような左手による追撃が魔王の胴体を狙うも、『万魔剣・ディアブロス』により受け止められてしまう。
両手持ちの剣を片手で弾くことはできないので諦め、魔王の攻撃に備える。
魔王は防御力も上がっているはずなのだが、決して俺の攻撃を受けようとはしない。
必ず、避けるか受けるかで対処してくる。そして、受けたときに魔王は攻撃に転じる。
俺は魔王の斬撃を避けたとき、魔王は俺の斬撃を受けたときに攻撃に転じる。そのような真逆の戦いを既に5分程繰り広げていた。当然、どちらもスタミナには余裕がある。
「ここまですれば、何とか互角に戦えるみたいだね!」
魔王は剣を振るい、俺の剣を避けながら、笑みと共にそう言った。
「そうだな。だが、お前と違って俺には時間制限がない」
俺は剣を振るい、魔王の剣を受け止めながら、笑みを浮かべてそう返す。
「別に構わないよ!それも、僕が最後まで全力で戦った何よりの証拠となるから!」
「勝敗より、全力を出して戦うことが目的になっていないか?」
「いいや!勝敗は大事だよ!全力を出すのも、同じくらい大事だけどね!」
会話をしながらも、互いに剣を振るう腕は一切緩めていない。
実際のところ、この戦いは魔王にとって、負けて良いもののはずだ。
死ぬことに抵抗はないようだし、俺に負けて死ねば、女神の思惑を崩せるから80点は付けられると言っていたくらいだからな。
むしろ、勝った方が問題かもしれない。俺の手によって対勇者の策を悉く潰され、魔王は相当に不利な状態に陥っているはずだ。
このまま勇者が来れば、魔王は意識を奪われ、不本意な死に様を強要されることになる。魔王にとっては、それが1番避けたい状況ではないだろうか?
だから、魔王は全力を出すと言っているし、実際に全力を出しているのだろうが、内心では勝ちたいと思っていない可能性が高い。
故に、魔王の最期の望みは、魔王として全力で戦い、負けることだと思われる。
勝敗は大事って言っていたけど、魔王が負けることが大事って意味かよ……。
「そろそろ、ギアを上げさせてもらうぞ!」
「来なよ!」
望み通り、魔王の全力、打ち砕かせてもらおう。
近接戦闘が始まってから、意図的に減らした元祝福の使用頻度を上げる。
ただし、中距離戦闘になりそうなモノは使わない。
俺は高速移動をしながら、魔王の胴目掛け右手で斬撃を放つ。
魔王が避けず、剣で迎え撃とうとしたところで、<茨の檻>を発動し、魔王の足を拘束する。
「なっ!?」
一瞬とは言え、魔王の動きが止まる。
それが、魔王が攻撃を防ごうとした瞬間ならば、とても大きな好気となる。
魔王はバラに気を取られ、防御の剣に上手く力が込められていなかった。その剣に向けて、右手、遅れて左手の2本の剣を思い切り叩きつけた。
「ぐふっ!」
右手の剣が魔王の剣を弾き、左手の剣が魔王の胴に直撃した。
これが、最後の近接戦闘が始まってから、最初に魔王に届いた有効打だった。
「はぁっ、はぁっ……。それ、動き回りながらも使えるの!?」
魔王はすぐに体勢を立て直し、俺に文句を言いながら斬りかかってくる。
大抵の場合、魔法やスキルを使うには、ある程度集中する必要がある。
特に、魔王の『イヴィルシフト』や俺の<茨の檻>のような、自分から離れた座標を指定するようなものは、とても高い集中力が必要になる。
要求される集中力を考えれば、高速戦闘中、視界が一瞬で動く中で使うのは、困難と言わざるを得ない。
「ああ、元々、こういうのは得意なんだ」
魔王の斬撃を避けながら言い返す。
意外かもしれないが、実は俺、高い集中力を維持したまま動くのは得意なのだ。
具体的に言えば、色々と器用なマリアよりも得意である。
分かりやすい実例を挙げると、俺は最初から近接戦闘をしながら、魔法の詠唱ができて、近接戦闘の実力もほぼ落ちなかった。
マリアは訓練により、どうにか俺に近いレベルまで至れたが、最初は近接戦闘中だと相当にパフォーマンスを落としていた。
<無詠唱>は集中力が要らないから、詠唱しながらの移動をする機会はなくなったが、<茨の檻>や<結界術>のように、座標指定が必要となるスキルもあるので、意外と覚える価値のある技術である。
そして、流石の歴代最強魔王も、スキルに含まれない技術までは知らないようだ。
<茨の檻>で足を引っ張るので、『バラバサミ』と呼ぼう。トラバサミとバラをかけた、ナイスネーミングである。
惜しむらくは、この作戦は何度も通じるものではないことだ。
バラの強度では、魔王を転ばせるどころか、動きを一瞬止めることすらすぐにできなくなる。慣れれば、気にせずに行動することもできる程度のシロモノだからだ。
今回は、近接戦闘を始めて初回だから、先にバラの拘束で転移を封じたという実績があったから、魔王が警戒して通用しただけの初見殺しにすぎない。
逆に言えば、初見殺しの小技なら、魔王にも1回だけは通用するのである。
俺は魔王に向けて、右手、左手の順に連撃を繰り出した。
魔王は右手の剣を避け、左の剣を受けようとする。
「……っ!?」
魔王が驚くのも無理はないだろう。
剣と剣がぶつかる直前、俺の左手にある黒剣が消滅したのだから。そして、魔王の剣を通り過ぎた位置で、再び俺の手に黒剣が現れる。
「ぐぅっ!」
勢いは若干落ちたものの、左手に現れた黒剣が直撃した魔王は呻き声を上げる。
魔王からは、剣同士がぶつかる瞬間だけ、俺の剣が消えたように見えたはずだ。
これが、初見殺し第2弾、その名も『消える魔剣』。
黒剣はあくまでも<漆黒ノ剣>のスキルで作り出した剣なので、消滅させることもできるし、すぐに再作成することもできる。
コツは必要だが、慣れれば何かに当たる瞬間だけ消すことも可能になる。
実は、<無限収納>の方が簡単に、似たようなことができたりする。この戦いで異能を使う予定はないが……。
この『消える魔剣』、初見殺しと言いつつ、初見以外でも十分に強力な技術である。
何故なら、相手は常にこの技術を使われることを警戒しなければならないからだ。
その効果は明白で、魔王は黒剣が消えるのを見てから、俺の左手の斬撃は受けなくなり、避けることに専念し始めた。何時、同じことをされるか分からないから仕方ない。
こうして、俺は魔王の行動を一つ封じることに成功した。
元々、手数VS威力の戦いは拮抗していた。
その状態で、俺がスキルの使用を解禁し、魔王の行動が1つ封じられたらどうなるか?
「くっ……」
当然、拮抗した状態は崩れ、徐々に魔王が不利になっていく。
俺は更に初見殺しの小技である『残像だ(<残影分身>
使用)』と『舞飛ぶ聖剣(<剣聖>使用)』を使い、魔王を翻弄する。
当初は攻防の配分は5対5だったのに、6対4となり、最後には7対3となった。
今や、魔王はほぼ防戦一方と言っても差し支えない状況だ。
「ふふっ、いよいよ、限界かな……」
魔王の表情にも余裕はない。既に、魔王に逆転の目は残されていない。
まだ、初見殺しはいくつか残っているが……そろそろ終わらせよう。
「次で決める」
「……頼むよ」
俺は最後の一撃の準備のため、左手の黒剣を魔王に向けて投げつけた。
魔王は飛んできた黒剣を難なく弾く。この、一瞬で十分だ。
「終わりだ」
俺は『究聖剣・アルティメサイア』を両手で握り、複数の元祝福を同時に発動する。
<加速>+<天駆>+<神聖光術>+<剣聖>
<加速>と<天駆>で高速空中移動、<神聖光術>で剣に光の力を与え、<剣聖>の奥義を使う。
これが、元祝福を組み合わせた必殺の剣、名付けて『光の剣』だ。
「がはっ……!」
次の瞬間、魔王の身体に、不可避と言える速度で光の剣が叩きつけられた。
実を言えば、『光の剣』にはもう1つ、スキルを使っていた。
その名は<手加減>。通常、<手加減>は斬撃に適用できないが、魔王は斬っても切れないので、効果が発動したのである。
魔王は仰向けで力なく倒れているが、死んではいない。
HP自体は<HP自動回復>によって徐々に回復しているが、身体に刻まれたダメージが消える訳ではない。しばらくは立つこともできないだろう。
「僕は、死んでいないのかい……?」
「ああ、お前にはまだ、死んでもらっては困るからな」
魔王の人格を聖から取り除くには、魔王の身体が生きている必要がある。
故に、最初から魔王をそのまま殺す気はなかった。
「僕に、何をさせようって言うんだい?」
「お前に何かをさせる気はない。ただ、その身体を元の人間に返してほしいだけだ」
俺は『精霊刀・至世』を取り出し、<祓魔剣>を発動する。
「ふふっ、そういうことか。それで、魔王の消滅が不可欠と言ったんだね。もしかして、この身体は君の……いや、それを聞く必要はないよね」
魔王も自分が死んでいない理由を悟ったようだ。
察しの良い魔王なら、俺が異世界転移者ということにも気付いたかもしれない。
「……それにしても、その剣……いや、本体はスキルか。そのスキルは一体何なんだい?詳しいことは分からないのに、脅威であることだけは伝わってくる……」
魔王には、<祓魔剣>が自分を消し去る力を持っていると分かるらしい。
「これは、魔族や魔王を倒すことに特化したスキルだ。この剣は斬った相手を傷つけないから、組み合わせれば身体を傷つけず、魔王の人格だけを消滅させられる」
「初めて聞いたよ。そんなスキル。それがあれば、勇者じゃなくても魔王を倒せるのか……。戦いの中でそのスキルを使えば、もっと早く勝負は付いていたよね?」
「ああ、魔王が分かりやすい人類の敵なら、このスキルを使って瞬殺する気だった」
聖を救うという目的のためなら、<祓魔剣>を使い、魔王の人格を問答無用で消すべきだろう。俺も最初はそのつもりだった。
「だけど、お前は人類の敵である前に、女神の敵で、女神の被害者だった」
人類の敵であることに違いはないが、それは女神による強要の結果だ。
歴代の魔王がどうだったかは知らないが、今代の魔王が積極的に人類の敵になろうとしていたようには見えない。
「魔王が他者の身体を乗っ取っている以上、その存在は許容できない。必ず消し去ると決めていた。それでも、女神の被害者を問答無用で消し去る気にはなれなかった」
何を言ったところで、最終的に魔王の人格を消す以上、自己満足なのは理解している。
それでも、魔王の意思を聞き、女神への恨みを知った上で、特効スキルによる無慈悲な瞬殺をする気には、どうしてもなれなかった。
だから、魔王に全力を出させ、真っ当な戦いの果てに打ち倒すことを選んだのだ。
「そのスキルを封じても、僕に勝てると思ったんだね……」
「ああ、勝つ自信があった」
「……やっぱり、勘違いじゃなさそうだ。君、そのスキル以外にも、色々と制限を加えて戦っていたよね?とてもじゃないけど、本気とは言えなかったよね?」
「…………」
確かに、俺はステータスを制限して戦っていた。
聖の件があり、絶対に負ける訳にはいかないので、HPと防御は制限していないが、その他のステータスはかなり下げた状態だった。
それでも、魔王よりは随分と高い値に設定していたはずなのだが、最後にはギリギリまで迫られてしまった。マリアも横で結構ハラハラしていたな。
「よく、気付いたな」
「君、必ず行動の先手を僕に譲っていたよね?つまり、何をされても絶対に対処できる自信があった訳だ。そんなの、対策スキル1つで持てる余裕じゃないよ」
「それもそうだな。流石に不自然だったか……」
魔王に全力を出させることも目的なので、先手を取って行動を潰すのは避けていた。
魔王ならば、その行動の不自然さに気付いても無理はないか……。
「少しだけ、不自然だったね。……ああ、全力を出せたのは楽しかったけど、君の本気を引き出せなかったのは悔しいな。でも、まあ85点は付けても良い死に様か」
「5点、増えたな」
最後の近接戦闘前は、80点付けられる死に様と言っていたはずだ。
「うん、この身体が持ち主に返るからね。僕も、他人の身体に寄生するのは、不本意極まりなかったよ。僕が消えた後、聖に身体が返るなら、5点追加してもいいかな」
ここで、俺の中の何かが顔を出してきた。……これは、遊び心?
「それなら、もう少し加点してもらおうか」
「ふふっ、何をしてくれるんだい?」
期待するように魔王が尋ねてくる。魔王になら、言っても良いだろう。
「俺は、俺達は女神を殴りに行く。その時、お前の分も1発、女神を殴ってやるよ」
「何を言って……まさか、世界樹の条件を達成したのかい!?」
「ああ、既に異常個体は集め終わり、『女神の領域』に行く準備はできている。何事もなければ、2週間以内には出発する予定だな」
勇者が魔族領に向かい始めるのが大凡2週間後、その間に真紅帝国皇帝の退位と咲の到着というイベントがあるので、それが終わったらすぐに出発だ。
「……は、はは、流石にそれは想定外だよ。僕が知らない内に、君は女神を殴る一歩前まで準備を進めていたんだね。……そうか、それなら僕の分も1発、お願いしようかな」
「良いだろう。だが、歴代魔王の分は諦めてくれ。知らないヤツの分までは殴れない」
直接知らない女神の被害者の分まで殴ろうとすると、本当に際限がなくなるからな。
俺が増やせるのは、魔王ホーリーの分の1発だけだ。
「ははっ、僕もそこまでお願いする気はないよ。……うん、満足だ。これなら100点……いや、僕は女神が殴られる様を見ることができないから、1点だけ引いて99点だね」
流石に、満点は取ることができなかったか……。
「女神を殴ろうという君に、1つ良いことを教えてあげるよ。女神は祝福を使って、勇者の目からこの世界を見ている。だから、勇者に見せたものは、女神も知っていると思った方が良い。このことは、エルフの語り部も知らないはずだよ」
「ほう……」
ここで、魔王から衝撃の新情報がもたらされた。
今まで、それなりの回数、勇者と接点がある。女神にこちらの情報が漏れているのか?
「君が勇者とどれだけ関わりがあるのかは知らないけど、関わった記憶があるなら、気をつけることをお勧めするよ。もし、勇者と何か女神に聞かれたくない話をするなら、廃棄世界か、世界樹の領域、迷宮の中に行くと良い。その3つには、女神の目が届かないことになっているからね」
そうなると、問題は女神の目に鑑定系の能力があるかどうかだな。
俺は迷宮と灰色の世界以外で勇者(祝福持ち)に顔を見られておらず、他は全てジーンとして出会っていたはずだ。
俺とジーンが同一人物と気付かれていないなら、情報漏洩は最小限で済むだろう。
「……有り難いが、そんな貴重な情報を渡して良いのか?」
「敵の敵は味方ってヤツだよ。君の世界の言葉だろう?女神の敵なら、僕の味方みたいなモノだからね」
やはり、魔王は俺が異世界転移者だと気付いているようだ。
「そうか、感謝する」
「役に立ちそうなら何よりだよ」
正直、魔王のことは嫌いではない。
魔王に関して許容できないのは、魔王の身体が他者の物であるという1点だけである。
しかし、その1点がある以上、このまま放置する訳にはいかない。
「悪いが、そろそろ終わらせてもらう」
「良いよ。女神の件、頼むね」
「ああ、任せてくれ。…………」
俺は少し考え、『精霊刀・至世』と<祓魔剣>に<拡大解釈>を発動した。
手向けの一撃を少しだけ豪華にしてから、倒れる魔王に向けて剣を一振りする。
その瞬間、聖の身体から魔王が消滅した。
同時に、俺は<回復魔法>を発動して聖のHPを回復する。
魔王のHPは<HP自動回復>で徐々に回復していたが、余裕で危険域だったからな。
俺は眠ったままの聖のステータスを確認する。
名前:浅井聖
性別:女
年齢:14
種族:人間
称号:転移者
スキル:<存在継承LV-><存在昇華LV->
どうやら、魔王の持つ5つの呪印の内、2つは少し効果が変わり、スキルとなって聖の元に残ったようだ。
<祓魔剣>の効果だとは思うが、ナーハルティとヴィンヴァルトの時は呪印が残るようなことはなかったはずだ。何で?
A:四天王の固有呪印は人格とセットになった物ですが、魔王の固有呪印は転移者の『ユニークスキルを得る権利』を使って取得されています。四天王の場合、<祓魔剣>により権利ごとリセットされますが、魔王の方はスキルが変質した物なので、権利はリセットされず、スキルとして残りました。
言われてみれば、魔王と四天王の呪印は由来が違ったな。
消滅した3つの呪印は、魔王の人格とセットになった呪印だったから、魔王の人格と共に消滅したということか。
A:いえ、魔王の人格も呪印も消滅していません。
What?
A:<拡大解釈>を使ったことで、<祓魔剣>の効果が変化した結果となります。魔を祓い、消滅させる効果から、魔を祓い、浄化する効果となりました。言い換えれば、無害化ができるようになったのです。
無害化……聖の中に残った訳じゃないよな?
A:はい。呪印は聖の身体から祓われた直後に無害化され、スキルとなったので回収しておきました。
……ホントだ。
俺の取得スキルの中に、呪印からスキルになった<魔王>、<四天任命>、<暗黒領域>の3つがある。
スキルにはなっているけど、効果は完全に元のままだ。
A:魔王の人格の方は、純粋な無害化という訳には行きませんでした。魔王は聖の人格に上書きされていました。つまり、魔王の人格は聖の身体と魂がある前提の、不安定な構造なのです。<祓魔剣>により聖の身体から祓われた時点で、魔王の人格は大きく欠損してしまいます。スキル同様、回収しておきました。
そんな中途半端な状態で残るくらいなら、素直に消滅させてあげるべきだったか……。
アルタ、魔王の人格を修復することはできるのか?
A:少し時間はかかりますが、不可能ではありません。取り込み、疑似人格化することで安定させることになります。
……魔王は、自分の生を不本意だと言っていた。疑似人格として復活することも、魔王にとって不本意な結果となる可能性は低くない。
それでも、折角残ったのだから、このまま消し去るのは忍びない。
まずは復活させ、その後のことは本人に決めさせる。消えたければ、消してやろう。
アルタ、悪いけど修復を頼む。
A:承知致しました。
ちなみに、何で時間がかかるの?
A:<多重存在>の効果はマスターと配下にのみ有効となります。仮にマスターが魔王を配下にしていたら、すぐに修復ができました。今回、配下ではない魔王の人格を疑似人格化しながら、配下扱いにして修復するので、行程が複雑になります。
実は、<拡大解釈>による効果の変化は、実際に使ってみるまではアルタでも分からない。1度使ってしまえば、詳細な効果も分かるのだが……。
こんなことなら、<拡大解釈>を<祓魔剣>に使う実験を事前にしておくべきだったか?
変化後の効果を知っていたら、<祓魔剣>を使う前に魔王をスカウトすることもできたはずだ。……魔王討伐に来て魔王をスカウトするとか、意味が分からないな。
そう言えば、魔王は消えたけど、魔族の動きはどうなっている?
A:魔族は全員が混乱しています。<祓魔剣>による浄化は、勇者による通常の魔王討伐とは異なるので、魔王の存在が不定状態になっています。魔族は魔王生存時の行動も、魔王死亡時の行動もとれなくなっています。
殲滅するなら、今がチャンスって感じだな。
待てよ?魔族に<祓魔剣>の浄化を使ったらどうなるんだ?
A:肉体が消滅することはなく、魔族特有の性質が消滅します。魔族の生物としての歪みや人類種への憎悪などが消え、通常の人類種のような存在に生まれ変わります。
生物とは言い難い生態をしている魔族が、普通の人間のようになるのか。
……アルタ、これ以降は魔族を殺さず、無力化するよう現地勇者組に伝えてくれ。
A:承知致しました。
魔族の異常性が消えるのなら、態々殺す必要は感じない。
無力化して、集めて、斬って、奴隷にすれば、立派な人材に早変わりだ。
呪印により生み出された歪な命でも、使えるものは使っていこうと思う。
さて、予想外のリザルトにより、色々と確認することになったが、何時までも聖を地面に寝かせておく訳にもいかない。
俺は騎竜に向けて降下の合図を出した後、未だに起きない聖を抱え上げる。軽く揺すっても、全く起きる気配がない。
ナーハルティは<祓魔剣>で祓ったらすぐに意識を取り戻したのに、聖は簡単には起きそうにない。何で?
A:魔王の使用した『イヴィルブースト』の副作用により、聖の精神と肉体に大きな負荷がかかりました。最低でも1時間は起きないと思われます。
魔王、最後に要らん置き土産残していきやがった……。
<祓魔剣>の浄化が効いたのか、『イヴィルブースト』終了時のステータス低下は発生していなかったが、影響を完全に消すことまではできなかったようだ。
……俺が魔王に全力を出させたのが悪いと言われたら、何の反論もできないな。
俺は2カ所の空間を繋ぐ『ゲート』の魔法を発動し、カスタール王国の屋敷を指定する。
目の前に直径2m程の輪が現れ、その先に屋敷の様子が映し出される。
「兄さん!聖は無事ですか!?」
そこには、聖の無事を願う凛が待ち構えていた。
「ああ、ちょっと身体に負担があって寝ているが、大きな問題はないはずだ。凛、俺はまだ帰れないから、聖の介抱を頼む」
「はい、任せてください!」
俺は抱えていた聖を凛に預け、『ゲート』の魔法を切り、輪を消滅させた。
正直に言えば、俺もこのまま『ゲート』で帰りたかったが、女王騎士ジーンは騎竜で帰るまでが仕事なので、そういう訳にもいかないのである。
俺が屋敷に帰る頃には、聖も目覚めているかもしれないな。
『ゲート』を切って数秒後、避難していたブルーが到着した。
《無事に終わったみたいね。お疲れ様》
《そうだな。本当、無事に済んで何よりだよ。<祓魔剣>様様だな》
聖が無事だったのは、90%が<祓魔剣>の功績である。色々と予想していた問題点が、このスキル1つでほぼ解消されたからな。
前にも考えたが、咲は一体どうやってこんなスキルを入手したのか……。よし、聞こう。
《それで、この後はどうするつもりなの?》
《そうだな。魔族領で後処理して、ブルーに乗って帰って、屋敷で聖と話をする予定だ。……そう言えば、魔王を倒した証拠を持ち帰った方が良いんだったな》
魔王の死体は用意できないので、代わりとなる証拠が必要なのだ。
何か、丁度良いものが……あった。『万魔剣・ディアブロス』、これしかない。
《私が回収しますので、仁様は触らないようお願い致します》
俺が動くよりも早く、マリアが一瞬で『万魔剣・ディアブロス』を回収した。
うん、一応は呪いの装備みたいだし、不用意に触れるのは良くないよね。……過保護。
さて、アルタ。魔王城跡地には何か重要な物はありそうか?
女神に関する資料があれば最高だな。全壊しているから、発掘は必要だが……。
A:いいえ。魔王城内部に重要な物は全くありませんでした。また、資料の類は1つも存在していませんでした。破壊させる前提なので、貴重な物は置かなかったと思われます。
……言われてみれば、納得できる話である。
魔王が魔族領の外に出るには、魔王城の破壊が必須となる。壊れる予定の場所に、重要な物を置いておくのは不用意極まりないだろう。
そして、魔王城に重要な物がないなら、何時までもこの場に居る理由も無くなる。
《それじゃあ、俺達も魔族の回収に行こうか。タモさん、石化は任せる》
《任された》
《ブルー、移動は任せる》
《任せて!》
《マリア、回収は任せる》
《お任せください》
こうして、再びブルーに乗った俺達は、魔族殲滅(殺さない)ツアーを開始した。
ブルーに乗って魔族領を移動して、タモさん(バジリスク)が魔族を石化させ、マリアが石像を高速で回収する。その道のプロが揃った、完璧な采配と言えるだろう。
そして、魔族の集落を3つ消滅させた時点で気付いたことは……俺、何もしてない。
現地勇者組の活躍もあり、1時間もかからずに魔族領の魔族を全て石化させ、回収することに成功した。
その間、俺は何も気付かない顔をして、ブルーの上で何もせず座り続けていた。
今回はリザルトが多いので、後2話で章が終わる予定です。