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第219話 裸婦像と次なる敵

最終試練戦の続きです。

お忘れかもしれませんが、武神アスラは全裸の幼女、美神フレアは全裸の男性です。

 アスカ会心の斬撃は、フレアのHPを1/4近く削った。

 しかし、不可視の腕を消して速度を重視したアスカの一撃では、フレアを倒すまでには至らなかった。


 あるいは、不可視の腕4本で殴っていたら、一撃で倒せた可能性もあるが、バリアに阻まれた可能性もある。リスクを考えれば、最善の判断だったと思う。

 何より、斬撃の間合いまで詰められたのが大きい。ここまで近寄れば、バリアを発動する猶予はなくなるからな。


「まだ!!!」


 アスカは血塗れになったフレアに、返す刀で追加の斬撃を放つ。

 斬撃が当たる直前、フレアは手を掲げて魔法を放とうとして、止めた。


「ぐふっ……!」


 そこから、アスカの連撃がフレアに叩きこまれる。

 吹き飛ばしたら距離を取られてしまうので、威力抑え目で逃がさない動きの連撃だ。

 ゴリゴリとフレアのHPが削られていく。その間、フレアは一切の抵抗をしていない。


 うーむ、気になる……。


《アスカ、攻撃を止め、抵抗しない理由を聞いてくれ》

《分かった》


 フレアが抵抗しない理由が気になって仕方がないので、戦闘中のアスカには申し訳ないが、戦闘を一時中断させてもらう。


「何故、抵抗しない?」


 アスカが斬撃を止めて質問をした時には、フレアのHPは残り僅かとなっていた。

 罠かと思ったが、俺が止めていなければ、フレアは確実に死んでいただろう。


「……抵抗しても無駄と分かっていたからよ。最初に斬られた時点で、ワタシに勝つ可能性は残されていなかったわ」

「あれは致命傷じゃなかった」

「いいえ、致命傷よ。少なくとも、ワタシにとっては致命傷だったのよ。うっ……」


 立っている体力も残っていないのか、フレアはその場に仰向けで倒れ込んだ。

 全裸の男が大の字になっても、何も嬉しくはない。


「ワタシの魔法は、ワタシの魅力に比例して強くなる。逆に言えば、ワタシが美しくなくなれば、魔法も弱くなるのよ。アナタに正面から斬られ、血塗れになったワタシには、アナタ達に対抗するだけのうつくしさが残っていなかったわ」


 確か、無詠唱で魔法を発動するのにも『魅力』パラメータが参照されていたはずだ。

 最初に斬られた直後、魔法を使おうとして止めたのは、無詠唱で魔法を発動するだけの『魅力』が残っていなかったからかもしれない。

 確かに、それはフレアに限って言えば、致命傷と呼ぶに相応しいだろう。


「ワタシ、死に際も美しくありたいの。勝ち目がないのに、見苦しく足掻くのは主義に反するから、抵抗せずに攻撃を受け入れたわ。そういう意味では、一撃で殺してくれた方が嬉しかったわね。……ホントは、こんな風に傷だらけの瀕死で倒れ込むのも嫌なのよ」


 なるほど、納得した。死ぬ間際まで自分の主義を貫こうとしたのか。

 こういう、行動が一貫しているヤツは嫌いじゃない。これで全裸の男じゃなければ、かなり気に入っていたと思うが、全裸の男というだけで、大体のことはアウトになる。


「もし、慈悲を与えてくれるなら、最期に身なりを整えさせてくれないかしら?」


 身なりを整えたら、『魅力』が回復して、再び魔法が使えるようになるのでは?

 騙し討ちを警戒するなら、慈悲なんて与えずに殺すのが正しい。しかし、慈悲を与えてもらって、騙し討ちをするなんて、そんな美しくないことをフレアがするとも思えない。


《どうすれば良い?》

《フレアの好きにさせてやれ。……罠だったら、スマン》

《気にしなくて良い。私、あなたに従う》


 アスカが念話で聞いてきたので、フレアの望みを聞くように指示した。

 俺はフレアの美学(上手い事言った)を信じることにしたが、万が一罠だったら、俺の見る目が無かったということで、アスカ達に謝るとしよう。


「分かった。好きにすると良い」

「それなら、血を落とす魔法と、傷を消す能力を使っても良いかしら?」

「良い」

「助かるわ。……『清浄クリーン』」


 <美神術>ではないので、フレアは普通に詠唱して『清浄クリーン』を発動した。

 倒れたままのフレアの身体から、血の汚れが消え去った。しかし、身体中傷だらけなのは変わっていない。

 『傷を消す能力』と言っていたが、魔法以外で傷を消すスキルがあるのか?


「次は、身体の傷を消すわね」


 フレアの身体が光り、そのシルエットが変形していく。こ、これは……!


「ふう。これで、最低限の体裁は整えられたわね」


 そう言って、フレアは仰向けから体を起こした。その際、豊かな胸がプルンと揺れる。

 絶世の美女・・としか表現できないフレアの身体には、アスカに付けられた傷は1つも残っていなかった。


「……女になった?」

「当然でしょう。ワタシの美しさは、生物としての美しさなの。男性の姿しか無ければ、生物としての美しさの内、半分しか満たせないことになるわ。1人で男性の美しさと女性の美しさを併せ持ってこそ、真に完成された美と呼ぶべきなのよ」


 よく分からん理屈を口にするフレアだが、とりあえず口調の違和感はなくなった。

 男性の姿だとオネエ口調が気になるけど、女性の姿なら全く気にならない。


「男性の姿に戻れば、また傷だらけになっちゃうけど、女性の姿でいれば傷は消えるのよ」


 つまり、男の姿と女の姿は個別の状態を持っていて、男の姿で受けた傷は、女に変われば消えているということか。

 ただし、ステータスは男女共通だし、HPが回復する訳ではないようだ。まあ瀕死。


「死んで汚れるのは仕方がないけど、死ぬ直前だけでも美しくありたいのよ。だから、せめて、この状態から一撃で殺して欲しいわ」


 立ち上がり、スッキリとした表情でフレアが言う。見れば見る程、絵になる美女だな。

 全裸の男性なら躊躇なく死んでもらったが、全裸の美女となると勿体ない気がしてきた。生き様は悪くないと思っているし、全裸の男性ではなくなったというのも大きい。


《みんなー、ちょっとお願いがあるんだけどー》


 このまま放っておくと、アスカが止めを刺してしまうので、念話で皆に頼み事をする。


《分かった。あなたの言う通りにする》


 アスカ達には何のメリットもない頼み事だが、快く了承してくれた。


「……どうしたの?立っているのも辛いから、できれば早く殺して欲しいのだけど?」

「あなたは殺さない」

「どういうことかしら?さっきまで、殺す気で剣を振っていたわよね?」


 訝し気な表情でアスカを見るフレア。悪いな、状況が変わったんだよ。

 そう、全裸の美女は惜しいので、フレアを殺さないようアスカ達に頼んだのである。


「あなたを気に入った。だから、保留にする」

「一体、何を言っているのか理解できないわ……」

「アスカさんはあまり説明が得意ではないので、代わりに私が説明します」


 そう言って近づいて来たのは、回復役のルルカである。


「戦いや話をする中で貴女の在り方を気に入って、殺すのを惜しいと思われたのです。出来れば、魔王の元を離れ、私達の側に付いて欲しいと思っています」


 絶妙に主語を省いて、俺経由の話であることを隠すルルカである。


「それは無理ね。今のワタシは魔王様の配下。魔王様に逆らうことはできないわ。それに、経緯はどうあれ、主を裏切るなんて美しくないこと、ワタシがする訳ないでしょう?そんなことをするくらいなら、死んだ方がマシよ」


 これは、良い意味で想定通りの反応である。

 俺も、命を助けるから裏切れと言って、簡単に裏切るヤツを信じる事はできない。


「はい、それは理解しています。だから保留なのです。遠からず、魔王は消えます。魔王が消えた後、もう一度判断して欲しいのです」

「魔王様を倒せるとでも思っているのかしら?魔王様はワタシよりも遥かに強いわ」

「いいえ、魔王は確実に消えます。何故なら、この後に来る方は、私達よりも遥かに強く、魔王を消すための対策を用意しているからです」


 戦闘力はともかく、対魔王用のスキルは昨日手に入れたばかりなのだが……。


「少なくとも、無策と言う訳ではないようね。……仮に魔王様が負けて、アナタ達の味方になる検討をするのは良いとしましょう。でも、それは今のワタシが止まる理由にはならないわ。ワタシは見苦しく足掻く気はないけれど、見逃されたのなら話は別よ。戦えるまで回復したら、魔王様の命に従い、再びアナタ達の前に立ちはだかることになるわ」


 それも想定通りである。敵を見逃したら、再登場するのは当然の話だ。


「もちろん、貴女を見逃す気はありません。動けないように封印させていただきます。凍結と石化、好きな方をお選びください」

「……何を言っているのかしら?」


 どちらの状態で<無限収納インベントリ>に入るかと言う質問だ(通じてない)。

 フレアは<完全耐性>を持っているが、そんなものは<生殺与奪ギブアンドテイク>で奪えば良いだけの話である。


「あ、もしかして、ワタシの動きを封じる気なの?残念だけど、ワタシに状態異常は効かないわよ。ただ、どちらかと言えば、石像の方が芸術的だから良いわね」

「分かりました。お願い致します」


 はい、<生殺与奪ギブアンドテイク>で<完全耐性>を奪いました。

 はい、気配を消していたバジリスクタモさんが<石化の邪眼>を発動します。

 はい、フレアが足から徐々に石化していきます。

 はい、石化にトラウマのあるアスカがビクッとしました。あ、ヤベ……。


「こ、これは石化……!?有り得ないわ!」


 自身の足が石化しているのを見て、驚愕の表情を浮かべるフレア。


「私達にも、隠し玉はあるということです。この戦いの結果如何に関わらず、貴女のことは必ず元に戻しますので、申し訳ありませんが、しばらくお休みください」

「……ふぅ、参ったわね。まさか、ワタシが石像になるとは想像もしていなかったわ。美しさを求めるワタシにとっては、ある意味お似合いと言えるかしら?それにしても、酷いわ。もっと早く言ってくれれば、もう少ししっかりとポーズをとったのに……」


 意外とすぐに冷静さを取り戻したフレアは、無事な上半身を動かし、両手を後頭部に当てるポーズをとった。

 石化されると知って、直ぐにポーズに意識を向けるのは、流石としか言いようがない。


「1つだけ、お願いしたい事があるのだけど、良いかしら?」


 胸くらいまで石化が進んでも、フレアに焦りや不安は見えなかった。


「何でしょう」

「多分、向こうの6人もアナタ達に負けず劣らず強くて、アスラちゃんも無事では済まないのでしょう?出来れば、アスラちゃんを殺さず、ワタシと同じように石化で済ませてあげて欲しいの。もし石化解除後、魔王様が倒れていて、アスラちゃんが生きていたら、ワタシはアナタ達に従うことを誓うわ。これでも、彼女とは付き合いの長い友人なのよ」


 正直、意外なお願いだった。最終試練にも友情はあるんだな。

 アスラはアスラで嫌いじゃないし、友人と言うならセットで配下にするのも良いだろう。

 全裸の美女と全裸の幼女でお似合いだな。


 一応言っておくと、フレアが俺の配下になったら、男の姿になることを禁止する。……理由?そんなの男の裸を見たくないからに決まっているだろ。

 それと、室内で服を着ろとは言わないが、服を着なければ外出することは禁止する。


《ルルカ、了承してくれ》

《はい、分かりました》


 そして、アルタ。シンシアパーティにアスラを殺さないように伝えてくれ。


A:承知いたしました。


 アスラのHPを確認すると、残り1/4くらいまで減っていた。危なかった……。


「分かりました。可能ならば、石化で済ませるようにします」

「助かるわ。それじゃあ、また会いましょう」


 そこまで言うと、フレアは喋ることなくポーズをとることに集中した。それから少し経って、1体の芸術的な裸婦像が完成した。



 フレアVSアスカパーティが終わり、アスラVSシンシアパーティの観戦に戻った。


「はぁ……、はぁ……」


 回復役の目に映るのは、満身創痍と言う四字熟語を全身で表しているアスラと、4人全員が無傷のシンシアパーティ(オリジナル)だった。完全に佳境である。


 アスラの纏う闘気は、先程までとは比べるまでもない程に少なくなっていた。全身が傷だらけなのは、闘気が少なくなり、防御力が減った結果だろう。

 何カ所か、魔法が直撃したような跡も見受けられる。


 予想していたことだが、時間の経過は両者の明暗をはっきりと分けたようだ。

 形成有利なシンシア達は、満身創痍のアスラに武器を構えたまま対峙している。


「何という未熟……。友が逝ったことに気を取られ、闘いの最中に隙を晒すとは……」


 そう言って、アスラは悔しそうに腹にある酷い傷に触れる。

 恐らく、フレアが石化した瞬間、それに気付いたアスラが隙を晒し、シンシアの良い感じの腹パンが決まったのだと思う。


A:はい。その通りです。


 元々、形勢不利な状況だったのに……いや、形勢不利だったからこそ、小さな隙が大ダメージの原因となり、勝敗を決定づけることとなったのだろう。


「これは、我の敗北は覆りそうにないな……。しかし、何故急に攻撃の手を止めた?追撃の機会はあったはずだ」

「方針が変わったのです。あなたは殺さず、戦闘不能にすることになったのです」


 ゴメンね?戦闘中に急に方針を変えて。


「……随分、急に方針が変わったものだ。我を殺さず、戦闘不能にしてどうする?我を捕らえて拷問し、情報を引き出そうとでも言うのか?」


 拷問してまで欲しい情報、今更そんなに多くないと思う。

 それと、全裸の幼女を拷問するとか、絵面が非常によろしくないので却下である。


「そんなことしないのです。あなたを勧誘するのです」

「勧誘?余計に意味が分からん」


 アスカに続き、シンシアも説明が下手だな。

 ……よく考えたら、俺の配下の現地勇者、皆説明が得意じゃなさそうだな。


「勧誘と言うのは、私達の仲間になって欲しいということです。貴女のことは、殺すには惜しいと判断しました」

「今は魔王の配下なので、勧誘しても無意味でしょう。だから魔王が倒れ、契約が解除されるまで封印致します」


 シンシアの代わりにカレン、ソウラが説明を引き継いだ。

 ケイトが一番説明上手っぽいが、念話無しでは話せないからな。


「なるほど、言いたいことは理解した。要するに、魔王様の代わりに我を従えようと言うのだな。確かに、我も敗者となったのなら、勝者に従うのは吝かではない。魔王様が生きている限り、別の者の配下となることはできないが、魔王様が死ねば話は別だからな」


 間違っていないけど、『仲間になれ』が『我々に従え』に自動変換されている。

 理解が早いから、上手く説得すれば、これで戦闘終了になるか?


「しかし、我にも矜持がある。偶然生き残ったのならまだしも、加減されて生かされるのは屈辱だ。それならば、相手の全力を受けて死にたい。故に、我は今から、命を賭した全力を出させてもらう。『殺さない』など、甘い事を言っていたら、死ぬのは貴様達の方だ。それでも我を殺さず、止めると言うのなら止めて見よ!ぐぅっ……!」


 アスラが苦しそうに呻くと、その身に纏うオーラが黒くなり始めた。

 あ、駄目だ。これは戦闘終了しそうにない。しかも、あの黒いオーラ、明らかに生命力とか寿命的なモノを削って超強化するタイプのヤツだ。


《シンシア、例のスキルを使え。そして出来るだけ早く戦闘不能にしてくれ》

《分かったのです》


 アスラが本気で命を懸けているので、シンシアにスキルの使用を指示した。


 実は、今までの戦いでシンシアは能動的アクティブスキルを使用していない。

 <格闘術>や<身体強化>など、受動的パッシブスキルは有効になっているが、アクティブスキルを使用することはなかった。

 シンシアは単純に自分の身体だけで戦うことを好み、武器防具やアクティブスキルの類は最小限にする傾向がある。勿論、必要とあれば使うことに躊躇はしないが。


「行くぞ!」

「来るのです!」


 アスラが駆け、シンシアも駆ける。


 シンシアは駆け出しながら2つのスキルを同時に発動した。その瞬間、シンシアの身体黒いオーラで覆われることになった。

 シンシアが発動したのは、<闘気>と<狂戦士化>という肉体強化スキルで、同時に発動することが難しいスキルだ。

 かつて、俺は同時発動が難しいスキルを同時発動し、相乗効果を得る技術を複合スキルと名付けた。そして、<闘気>と<狂戦士化>の複合スキルの名は<闘神>と言う。


 <闘神>の黒いオーラに、<武神術>のように防御力上昇や放出する効果はない。

 単純に、身体能力を大幅強化するだけだ。しかし、それが一番、シンシアに合っている。


 シンシアとアスラ、両者の距離は一瞬で詰められた。


「かはっ……!」


 シンシアの全力<手加減>腹パンが、アスラの腹を打ち抜いていた。

 アスラのオーラが霧散し、その場に崩れ落ちる。

 同時にシンシアも<闘神>を解除してオーラを消した。命を削る程ではないが、<闘神>も身体への負担が大きいから、長時間使用は避けるようにしている。


 全くの偶然とは言え、<闘神>で武神を倒すのは、中々に洒落が効いていると思う。予め、シンシアに指示しておいて良かった(自画自賛)。


 ちなみに、シンシアは<闘神>を自力で習得している。

 流石は現地勇者、短い期間で<闘気>と<狂戦士化>を取得し、更には複合スキルまで使いこなすようになっていた。

 一応、どちらもレアなスキルなんだけど、技術に類するスキルなら、現地勇者は大体習得できるからな。しかも高速で……。


「……はぁ、はぁ。……もう、腕一本、動かす事が、できん。貴様達の、勝利だ」


 戦闘不能にはなったが、意識までは失っていなかったアスラが敗北を認めた。

 余談だが、傷だらけでボロボロな全裸の幼女が、仰向けで地面に倒れている状況だ。……日本なら完全に事件である。異世界でも大体事件である。


「……余力を、残していることには、気付いていたが、まさか、ここまで差があったとは、予想外だ。加減、されたのは口惜しいが、言ったことには、責任を持つ。我のことは、好きにするが、良い……」


 本人の許可も得られたので、バジリスクタモさん、GO!


「しばらく、石化していてもらうのです」

「石化だと?我には石化など……しているな」


 アスラも身体が徐々に石化しることに気付いたようだ。


「貴女が敗北を認めても、魔王の指示に背くことはできないと思います。なので、申し訳ありませんが、石化で行動を封じさせていただきます」

「必ず後で元に戻しますので、ご安心ください。それと、美神フレアは生きています。あなたと同じように勧誘し、石化させていただきました」


 カレンが理由を説明し、ソウラが安心材料を示した。


「くくくっ、そうか。フレアは、死んだのではなく、石化していたのか。疑問は幾つもあるが、今は貴様達を、信じよう。目覚めた時、貴様達を、仲間となれることを、願う」


 アスラは安心したように目を閉じ、間もなく2体目の裸婦像が完成した。



 当初の予定とは少し違うが、これで2組の現地勇者VS最終試練が終了した。


 武神アスラと美神フレアは、今までに出会った最終試練とは異なり、倒してボーナスを取得するより、配下にしたいと思わせる性格キャラクターをしていた。

 なので、今までの『話の通じる最終試練は居ない』と言う考えは修正しようと思う。

 尤も、単純に話が通じた訳ではなく、戦闘力の高さを示し、認めさせて話を聞かせたと言う方が正しい気もするが……。


 2名の石像は、<無限収納インベントリ>に仲良く収納してあるので、魔王を攻略したら復活させて配下にしようと思う。

 最終試練は<魔物調教>ではテイムできないようだが、魔王にテイムできた以上、何らかの方法はあるのだろう。


A:マスターの場合、<魔物調教>に<拡大解釈マクロコスモス>を使用して強化すれば、最終試練をテイムすることが可能です。


 ……その手があったか。

 これで、魔王が最終試練のテイムに使用した手段を再現する必要が無くなったな。


 そして、最終試練の3分の2をテイムすることが決まった以上、残る1体であるモフモフ……じゃなくて、邪神獣ヘルをテイムしたい気持ちが高まるのは当然のことだ。

 しかし、アルタの評価によれば、邪神獣ヘルの性格は悪いらしい。

 許容できない程に性格が悪い場合、テイムは諦めて、討伐ボーナスになってもらおう。

 性格が悪くてモフモフだった場合、テイムは諦めて、モフモフ毛皮になってもらおう。


 そんな事を考えていたら、パスフィル山脈に突入した。

 パスフィル山脈を越えれば、いよいよ魔族領だ。そこからは、道中の魔族を殲滅しつつ、中心の魔王城に向かうことになる。


「急に暗くなったな……」

《残念だわ……・》


 上を見上げると、今まで晴れていたのが嘘のように、暗雲で太陽が隠されていた。

 今まで快晴だった分、ブルーも少し残念そうである。


A:魔王が存在する間は、魔族領は常に暗雲で覆われています。


 確かに、魔族領なんて名前で快晴は似合わないな。暗雲の方が雰囲気には合っている。


 今度は下、パスフィル山脈を見てみれば、あちこちに戦闘の跡が残されていた。

 戦闘の跡は残っているが、魔物の死骸は残っていない。これは、シンシア、アスカのパーティが戦い、死骸を<無限収納インベントリ>に入れた結果だろう。

 パスフィル山脈にしか居ない魔物も存在するので、希少な素材が大量に得られたはずだ。


 シンシア、アスカのパーティが魔物と戦いながら進んだ場所を、俺は空路でアッサリと越えて行く。


 メインの仕事である最終試練との戦いを終えたシンシア、アスカパーティには、俺が通らない地域の魔族殲滅を頼んでいる。

 シンシアパーティは北半分、アスカパーティは南半分を担当し、外側から中心に向かって魔族を殲滅して進んでもらうことになっている。

 残るリコパーティは、このまま真っ直ぐに魔王城を目指して進ませる。リコパーティが担当する邪神獣ヘルは、魔王城近隣で待ち構えていると考えているからだ。


A:邪神獣ヘルと四天王の1人をマップ上で捕捉しました。アスラ、フレアの戦闘跡に向かっているようで、遠からずリコパーティと遭遇すると思われます。


 今、待ち構えているって説明したところなんだけど、来ちゃったか……。


 考えてみれば、魔王にとって切り札とも言える従魔が消えた訳だから、原因の調査をしない訳にはいかないだろう。そして、最終試練に異常があった場所の調査に出せる戦力なんて、最終試練か四天王くらいしか居ないよな。何だ、当然の結果か。


 さて、それじゃあ、いつものステータスチェックのお時間だ。

 まずは、事前情報がある邪神獣ヘルからにしよう。


邪神獣ヘル

LV151

スキル:<邪神獣の呪詛LV-><神獣体LV10><完全耐性LV->

称号:魔王の従魔

備考:堕ちた神獣。人類に課せられた最終試練の1つ。


<邪神獣の呪詛>

邪神獣専用スキル。全ての攻撃に能力ダウンのデバフを付与する。1回の能力ダウン量は少ないが、重ね掛けの回数に制限が無い。


<神獣体>

神獣専用スキル。<身体強化>、<HP自動回復>、<MP自動回復>、<咆哮>を含む統合スキル。


 うーん、事前情報を超える情報は無さそうだな。

 武神アスラ、美神フレアに比べ、レベルが低いから、3体の中では1番格下だったのかもしれない。最弱を最後に残すって、盛り上がりに欠けるなぁ……。


A:マスター、表示を切り替え、種族をご覧ください。


 アルタがそう言うって事は、確実に何かがあるんだよな。


 普段、魔物のステータス表記では、種族は表示していない。特に、最終試練は種族と名前がほぼ一致しているからな。

 アルタの指示どおり、邪神獣ヘルのステータス表記を切り替えてみる。


名前:ヘル

LV151

性別:男

年齢:111

種族:邪神獣(転生者)

スキル:<邪神獣の呪詛LV-><神獣体LV10><完全耐性LV->

称号:魔王の従魔


 あ、コイツ転生者だ。


 魔物、それも最終試練に転生なんてかなりレアケースだろう。

 いや、邪神獣は仔神獣から進化するから、仔神獣に転生したと言う方が正しいな。

 闇落ち進化した、性悪疑惑のある転生者……許容できる範囲に居るかな?


 気を取り直して、次は新たなる四天王(8人目)のステータスを見てみよう。


名前:ヴィンヴァルト

LV99

性別:男

年齢:24

種族:魔族

スキル:<剣術LV8><格闘術LV8><闇魔法LV5><無詠唱LV5><飛行LV8><身体強化LV8>

呪印カース:<存在汚染ディープアビスLV->


存在汚染ディープアビス

非常に高い瘴気との親和性を持ち、吸収や放出を行える。瘴気を吸収することで強化や回復を行い、瘴気を身体や武器に纏うことで攻撃と防御により相手の身体を汚染する。


 どう見ても、戦闘特化型の四天王だな。初めて見たよ、珍しい。

 ……いや、今までの四天王が、戦闘以外に特化しすぎていた方が問題なのか。


 元々、魔族は魔族領の瘴気を食料としているので、高い親和性はあるのだろう。

 しかし、この<存在汚染ディープアビス>はもう一段先に進んでいる。瘴気を攻撃、防御、回復にそのまま利用すると言うのだ。

 魔王が存在する限り、ほぼ無制限に供給されると思しき瘴気の中では、無類の強さを発揮する呪印カースに間違いない(当社比)。


 欠点は、魔族領の外に出てしまえば、瘴気を得る機会が減るので、効果が著しく下がってしまう点だろう。

 一応、この呪印カースが示す瘴気とは、魔族領に広がる瘴気だけでなく、一般的な魔力の淀みである方の瘴気も含めるので、全くの無力という訳ではないが……。

 利点と欠点を考えれば、このヴィンヴァルトを運用する場合、魔族領の外に出さない防衛要員がベストだ。ただし、勇者相手に防衛ができるとは言っていない。


 ステータスを見て分かったのは、2体同時に相手にしても、リコパーティならば余裕で勝利できるということだ。

 一応、<存在汚染ディープアビス>の強化が不安要素ではあったが、調べたところ能力上昇はオマケで、回復や汚染の方がメインらしく、危険視する程ではなかった。


 それはそれとして、リコパーティに四天王の相手をさせるかは別問題だ。


 四天王に関して言えば、できれば元の人格に戻してあげたいと考えている。

 既にロマリエ、ゼルベイン、グレイブフォードの3人は、元人格ごと四天王として殺しているので、今更と言えば今更なのだが、<祓魔ふつま剣>という正規の救済手段を手に入れてしまった以上、今まで通り無慈悲に殺すのもどうかと思うのだ。


《リコ、悪いけど、最終試練と四天王、同時に戦うことになったら、分断して四天王の相手を俺に任せてくれないか?》

《はい!お任せください!》


 現地勇者VS最終試練を満たしつつ、四天王を俺が元に戻すため、リコパーティには少々面倒なことをしてもらうことにした。


《少し面倒だとは思うが、よろしく頼む》

《いいえ!仁様に頼み事をされて、面倒だと思うメイドは1人も存在しません!》


 リコ、現地勇者の中で唯一の専業メイドだからな。信者メイド思考なんだよ……。

 それと、気のせいだとは思うが、リコの発言に対する同意が山のように積まれている気がする。おかしいな、念話はリコパーティにしか繋がっていないんだけど……。


 それから少しして、俺達がパスフィル山脈を越えるのとほぼ同時に、リコパーティが邪神獣ヘル、四天王ヴィンヴァルトと遭遇した。

当初の案では、アスラはマッチョな男性、フレアは美女(性別変更無)でした。

普通過ぎてつまらないので止めました。

当初の案では、2名は普通に倒していました。

キャラが立ってきたので止めました。

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コミカライズ
― 新着の感想 ―
[一言] <闘気>と<狂戦士化>の複合スキルの名を<闘神>とした。 <闘神>の名付け親はセルディクでしょ。 20話ので複合スキルという言葉を作ったのは確かに仁だけど。
[一言] フレアに<茨の檻LV->のスキル合いそうだな… 読み返してて思ったなぁ
[一言] >今までの『話の通じる最終試練は居ない』と言う考え 仁さん、エルは話は通じてたよ?
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