第218話 武神アスラと美神フレア
アスラVSシンシアチームとフレアVSアスカチームのバトル回です。
一人称視点だと、二組の戦いを実況しにくいということに今更気付きました。
三人称視点だと、「同時刻」とか「一方」とか頭に付けて並行で実況できるのですが。
シンシア達とアスラの戦いが始まってから3分が経過した。短いながらも激しい戦闘だが、互いに決定打に欠けており、膠着状態に陥っていた。
実は、シンシア達のパーティは、大型や多数の魔物との戦闘経験は多いが、人型で単独の相手との戦闘経験は少ない。これは、主な戦場が迷宮だった弊害とも言えるだろう。
当然、シンシア達も対人戦の訓練はしているが、それは基本的に1対1、あるいは多対多の訓練となる。
簡単に言うと、小さくて強い相手に4人がかりで攻撃する事に慣れていないのだ。
「「はあ!」」
「……のです!」
今、シンシアはカレン、ソウラとタイミングを合わせて攻撃したが、アスラが小柄すぎて、狙いを定めるのに一瞬のタイムラグが発生してしまった。
アスラはその一瞬のズレを見逃さず、闘気の放出によりカレン、ソウラを牽制し、直後に迫るシンシアの拳を、蹴りによって迎撃した。
タイミングが完全に合っていれば、全ての攻撃を防ぐことは難しかったはずだ。
「ふはははは!」
アスラは何故かハイテンションで笑いながら戦っている。
ただし、笑っていても隙があるわけではない。絶えずシンシア達の攻撃を受け、弾き、逆に攻撃し、時々爆発している。闘気の爆発でクレーターがいくつもできている。
そのアスラの攻撃も、シンシア達には当たらない。攻撃はともかく、回避や防御ならば、抜群のコンビネーションが健在だからである。
アスラの戦いを見ていて、気付いたことが3つある。
1番印象的なのは、『アスラは敵の攻撃を一切避けない』という点だろう。アスラは攻撃された時、闘気を纏った肉体で受けるか弾く。あるいは闘気を飛ばして迎撃する。
完全に足を止めて闘っている訳ではない。ただ、避けるために脚や身体は動かさない。
武術系スキルを持つアスラに避ける技術がないとは思わない(そんな奴は武神を名乗るな)。恐らく、アスラなりの信念や主義があって、攻撃を避けないのだろう。
ヒットアンドアウェイを主軸とするシンシア達とは、まるで対照的と言える。
「ははは、ふん!」
今も避けようと思えば避けられたはずのカレン、ソウラの同時攻撃を、しっかりと闘気を纏った腕で受け止めた。
カレン、ソウラの持つ武器は伝説級なのだが、闘気の鎧を打ち破ることはできていない。しかし、付け入る隙が無い訳ではない。
気付いたことの2つ目は、『同時に扱える闘気の量には限界がある』というモノだ。
これは、明らかに攻略のカギとなる要素の1つだな。
「なのです!!!」
「甘い!」
今、シンシアの攻撃を受け止めた腕に纏った闘気だが、明らかにカレン、ソウラの攻撃を受け止めた時よりも量が多い。
闘気による防御は、相手の攻撃力に応じて必要となる闘気の量が変わる。当然、強い攻撃を防ぐほど、必要な闘気の量は多くなる。
つまり、3人の中で最も高い威力を誇るシンシアの攻撃を防ぐには、カレン、ソウラの攻撃以上の闘気を必要とするということだ。
そして、同時に扱える闘気の量に限界があるということは、防御に回した闘気の分だけ、他に回す闘気の量が減るということでもある。シンシアの攻撃を受けた瞬間、身体全体の闘気の量が明らかに減っていた。
相手の攻撃の威力を見極め、咄嗟に闘気の量を変える技術は素晴らしいが、これは付け入る隙になり得る。
今はシンシア達の攻撃にズレがあるから防げているが、コンビネーションの精度が上がれば、全ての攻撃を防ぐことは困難になっていくはずだ。
「はあ!!!」
-ドン!-
「「「くっ!」」」
そして、アスラは攻撃を防げないと判断したら、纏う闘気を爆発させて範囲攻撃を行う。
強力な回避技に見えるが、これにも欠点はある。闘気は、放出したら減るのだ。
考えてみれば当然のことだが、闘気の放出や爆発をさせるには、身に纏う闘気を減らす必要がある。短時間で回復するが、一時的に減ることには間違いがない。
特に、闘気の爆発による範囲攻撃は、裏技的な使用方法のためか、闘気の減少量が非常に多い。最初の攻防でアスラがシンシアと共に弾き飛ばされたのは、身に纏う闘気が少なくなりすぎて、衝撃の全てを防ぐことができなかったからだ。
攻防一体の闘気は、攻撃にも防御にも同じリソースを使うので、非常に繊細な管理が必要となる。武神を名乗るなら、力だけでなく、技も極めて欲しいのでグッドである。
闘気を使いこなすアスラは、その欠点も把握しているだろう。今は立ち回りで補えているが、欠点があるというだけで、天才相手では相当の不利を強いられるはずだ。
「はぁ!」
シンシア、カレン、ソウラとの応酬の最中、アスラは小さく拳を出し、闘気により直撃コースだったケイトの『サンダージャベリン』を迎撃した。
気付いた点の最後の1つは、『魔法だけは闘気の鎧で受けない』である。
攻防に大活躍の闘気だが、どうやら魔法攻撃のダメージはあまり軽減してくれない様子。
ケイトの魔法攻撃が直撃すると判断した場合、闘気を放出させて防ぐしかなくなる。そして、ケイトの魔法攻撃は、直撃以外のコースに飛んでくることは無い。
これが、相当にアスラの動きを阻害している。当然、アスラもそれは気付いており、度々ケイトに攻撃を仕掛けている。
「くはは!」
丁度、ケイトへの射線が空いたので、アスラは笑いながら駆け出した。
「せい!」「やあ!」
カレン、ソウラがケイトへの射線上に割り込んで武器で足止めし、動きが制限されたアスラにシンシアが飛び蹴りを決める。
「たあ!」
「くはっ!」
アスラは闘気で防いだものの、その場で踏ん張る必要があり、ケイトへの攻撃は完全に中断されることとなった。
「ケイトちゃんに攻撃はさせないのです!」
ケイトへの接近は、シンシア、カレン、ソウラにより完全に防がれている。
近接戦闘の得意な3人を相手にしながら、後衛であるケイトを狙うのは、相当に難しいだろう。3人も、後衛の位置を常に気にしながら動いているからな。
時々、闘気を飛ばしてケイトを狙うのだが、護衛役が盾で受け流しているので問題ない。
ケイト本人も鈍いわけではないので、ケイトが回避するだけで済むケースも多い。少し際どいと思った場合のみ、護衛役が防御に回るようになっている。
なお、高レベルの<盾術>なら、闘気を爆発させずに軌道を変えられるらしい。どうやら、闘気が爆発するのは、闘気の弾に一定以上の衝撃が加わった時のようだ。
余談だが、回復役は現状、俺専属のカメラマン状態である。
シンシア達のHPは<HP自動回復>で済む範囲でしか減っていないからだ。
折角、戦闘に参加させたのに、役割がないのは悲しいだろうな。
A:マスターと視界を共有するという栄誉を与えられ、この上なく歓喜しております。
あ、そう……。
……さて、正直なところ、大きな形勢は既に決まったと思っている。
戦闘の長期化は、シンシア達の味方だ。戦えば戦うだけ、シンシア達のコンビネーションが洗練される。戦えば戦うだけ、ケイトが相手の情報を理解する。
今はまだ、互角の戦いを繰り広げているようにも見えるが、アスラが勝利する可能性はかなり低そうだ。ここからアスラが勝つには、ド級の隠し玉が何個も必要になる。そこまでされたら、シンシア達が負けるのも止むを得ないと思う。
……こっちは長引きそうなので、そろそろアスカパーティの様子を見よう。
アスカパーティの回復役に視界の共有先を変更すると、タイミング良くアスカ達がフレアの元に辿り着く瞬間だった。
良かった。戦闘開始前の問答から見ないと、楽しみが減少するからな。
「あら、ワタシを侮辱したあの子は居ないのね。残念だわ」
ポーズを決めて待っていた全裸のオネエ、もといフレアが少し残念そうに言った。
シンシアの言った『逃がさない』が侮辱に該当するそうだ。
『逃げるのが嫌い』なのは俺も同じなので、少しだけ親近感があるのだが、全裸の男性相手に親近感があるとは言いたくないのが正直な気持ちだ。
「まあ良いわ。あの子はアスラちゃんが殺してくれるでしょう。ワタシ……」
「があ!!!」
フレアが喋っている途中で、アスカがフレアに斬りかかった。
アスカの戦闘スタイルは刀の二刀流である。しかも、マリアのような長剣、短剣の組み合わせではなく、攻撃力重視が明らかな太刀の二刀流だった。
-ガキン!!-
しかし、アスカの刀はフレアに当たる少し手前で壁のようなモノに阻まれた。どうやら、予めバリアのような物を張っていたようだ。多分、<美神術>の魔法だと思う。
A:はい。その通りです。不可視のバリアを発生する魔法です。
武神も闘気を防御に使っていたが、美神はもっと分かり易いバリアと来たか。
今の一撃で壊れていないところを見ると、バリアは中々の強度を誇るようだな。
「ちょ、ちょっと、普通、話の最中に攻撃する?」
いくらバリアで防いだとはいえ、唐突過ぎる攻撃にフレアも驚いていた。
攻撃を防がれたアスカは再び距離を取った。構えは解いていない。
「話、長い。戦うなら早くする」
「情緒の分からない、せっかちな子ね……」
アスカもシンシアと同じく、考えるより前に身体を動かすタイプだ。
メイド達が様々な教育をしている最中だが、ジッとしていることと、頭を使うことが苦手だという報告を受けている。
幼少期から長期間、教育を受けておらず、頭を使う機会が無かったことが原因だろう。勉強に慣れていない人に、長時間大人しく頭を使えって、中々に厳しいらしい。
反面、戦闘の方は勇者の名に相応しい圧倒的な成長率を誇る。
学べば学ぶだけ強くなるタイプで、様々な戦い方をする俺の配下との戦闘訓練により、既にステータス補正無しでも、そこらのSランク冒険者を凌駕する実力がある。
その中で色々と試し、刀の二刀流という、本人に合った戦闘スタイルを習得していた。
話は変わるが、教育の中でアスカの口調を修正しようと言う話が出た。
しかし、ミオの『え?折角特徴的な口調のキャラなのに、矯正するなんて勿体ない!』という発言により、矯正しないことが決定した。俺も許可を出した。
もちろん、本人が変えたいと言うなら止めはしないが、今のところその気はないようだ。
閑話休題。
フレアは臨戦態勢をとるアスカを見て、「はぁ」とため息を吐いた。
「良いわ。話す気がないなら終わりにしましょう。さあ、ワタシの虜になりなさい」
そう言ってフレアが発動したのは、相手を『虜』にする<美神の虜>だ。フレアの身体が淡く光り、フレアを中心に半径30mくらいの範囲で光の粒子が降り注ぐ。
<美神術>は魔法だが、<美神の虜>は魔法ではなく、詠唱無しで発動できる強力なスキルだ。詠唱無しで広範囲状態異常とか、ゲーム基準で考えても超強いよね。
「?」←アスカ
「?」←フレア
何をされたのか良く分かっていないアスカと、明らかに『虜』になっていないアスカパーティを見たフレアが、揃って首を傾げている。
ゴメンね。精神系の状態異常、<多重存在>があるから効かないんですよ。
「あれぇ!?」
「こちらも本気を出す」
狼狽えるフレアを無視して、アスカが不可視の腕を出現させるユニークスキル、<鬼札の剛腕>を発動した。
流れ島に居た頃のアスカは、不可視の腕を1本しか出すことができなかった。しかし、スキルにそんな制約は存在しない。
激しい戦闘訓練を経て、アスカは不可視の腕の本数を増やすことに成功していた。
<鬼札の剛腕>の強化はそれだけではない。
右側にある不可視の腕は、最初から槍を持っていた。左側にある不可視の腕は、最初から楯を持っていた。
そう、不可視の腕に武装を与えれば、単純に攻撃力と防御力を上げることができる。
図らずとも、不可視のバリアVS不可視の腕という見えない物対決になったな。
「武器が宙に浮いている?一体何なの!?あ、もしかしてこの子も見えない何かを……」
「私の名前はアスカ。鬼人の勇者」
「あら、アスラちゃんと名前が似ているわね……じゃなくて!鬼人の勇者?何それ!?」
「…………」
最終試練も、現地勇者の存在は知らないのか。
アスカが無言なのは、アスカも詳しい事を知らないからである。
「……行く」
「話の続きは!?気になるわ!?」
アスカがフレアに向かって走り出す。
不可視の腕という空気抵抗があるため、あまりスピードは出ていない。その代わり、手数も増え、攻撃力と防御力が上昇している。
先の攻撃でバリアを突破できなかったから、攻撃力重視に変更したということだ。
「『ビューティバリア』!」
アスカがフレアに近づく前に、フレアが魔法を発動した。誰がどう聞いても、バリアを発生させる<美神術>の魔法である。
「むっ!」
アスカは発生した不可視のバリアにぶつかる直前でバックステップをして回避する。
ウォール系の魔法と同じく、突進してくる相手への対策にも使えるらしい。
「あら、良い勘しているわね。悪いけど、美しくない人は近づかないでちょうだい」
「断る」
刀2本と槍1本でバリアを攻撃するアスカだが、バリアはビクともしない。
「無駄よ。この『ビューティバリア』は、使用者の魅力に等しい強度となるのよ。最も美しいワタシが使えば、何者にも打ち砕けない無敵のバリアとなるわ。……まぁ、魔王様には破られてしまったのだけど」
説明どうもありがとう。よく分からないけど、魅力って凄いな。
とはいえ、本人の言う通り、魔王の従魔になっている以上、武神アスラも美神フレアも邪神獣ヘルも風神も雷神も、全員魔王に一度は負けているのである。
つまり、無敵なんかではなく、攻略法は存在するという訳だ。もちろん、魔王が単純な力押しをした可能性もあるけど……。
「『アイスジャベリン』!」
「『サンダージャベリン』!」
アスカのパーティメンバーが放った魔法がバリアに直撃するが、被害を与えたようには見えない。武神アスラの闘気のように、魔法を防げない、なんてことは無さそうだ。
「それも無駄よ。ワタシの『ビューティバリア』は魔法も完全に防ぐわ。それじゃあ、お返しの『ビューティビーム』よ」
魔法の発動と同時に、6つの魔法陣からアスカ達6人に向けてビームが放たれた。
電柱くらいの太さのビームを、アスカは不可視の腕が持った盾で防ぎ、他の5人は距離があったので、余裕をもって回避していた。
「あら、詠唱のない魔法をよく避けたわね。フフッ、ワタシの魔法、魅力に応じて詠唱時間が変わるのよ。詠唱が無いってコトは、それだけワタシが魅力的ってコトなの」
「能力、喋りすぎ」
敵であるアスカに心配される程、フレアは自身の能力について喋っている。
これで、誤情報を織り交ぜているなら戦術として分かるのだが……。
A:全て本当です。
全て本当だというのだから驚きだ。確かに、嘘は基本的に美しくないよな。
「美しいワタシには、情報を含め何一つ隠さなければならないことが無いの。『ビューティバリア』が透明なのも、ワタシの美しさを隠さないためなのよ。さあ、何か聞きたいことは無いかしら?ワタシに関することなら、何でも答えてあげるわよ」
自信満々に言うフレア。そこで、ふと思いついたことがある。
《回復担当さん、聞いて欲しい事があるんだけど……》
《は、はい!?何でしょうか!?仁様と一対一の念話……はぁ、はぁ、はぁ……》
大して動いていないのに、何故か息切れ(過呼吸?)している回復担当……ええと、名前はルルカだな。ルルカに頼み、フレアに質問をして貰った。
「それなら、魔王はどうやってそのバリアを突破したのですか?」
「あら、それを聞いちゃうの?魔王様の能力は、ワタシのことじゃないから話せないけど、『ビューティバリア』を単純な攻撃で破壊したわよ。あれは驚いたわね」
ルルカの質問に対し、フレアが普通に答えてくれた。……本当に隠さねぇ。
そして、魔王は単純な力押しをしていた。
「アナタ達に魔王様と同じことができるかしら?」
「やる!」
力押しが最善だというのなら、アスカにも打てる手はある。
アスカは<鬼札の剛腕>により、更に2本の不可視の腕を出現させた。これで不可視の腕は合計4本。現時点でアスカに出せる最大本数である。
腕の本数が合計6本になるので、『阿修羅モード(ミオ命名)』と呼んでいる。なお、腕が8本になったら『タコモード』、10本になったら『イカモード』になる予定だ(腕の本数のカウントで、足の本数は考慮しないものとする)。
余談だが、アスカが『阿修羅モード』になり、アスラと戦った場合、似た名前が多すぎて、確実に頭が混乱したことだろう。
「あら?何か圧力を感じるわね……」
「はあ!!!」
アスカは新たに追加した何も持っていない不可視の右腕で、透明なバリアを思い切り殴りつけた。
-ドン!!!-
今まで以上に大きな衝撃音と共に、フレアの張ったバリアが明らかに揺らいだ。
ここで、軽くネタバラシをしておこう。
元々、アスカの不可視の腕は、腕と呼んではいたが指は存在しなかった。
調べた結果、不可視の腕は『力』と『器用さ』のパラメータを設定でき、『器用さ』を上げれば指が生えてくることが分かった。当然、『力』を上げれば、攻撃力が上がる。
数値で説明すると、腕を1本作るのにリソースが固定で100必要となり、アスカの最大リソースは400なので、最大4本の腕を作る事ができる。
指があって武器を持てる腕はリソースの配分が『50(力):50(器用)』だが、新しい方の腕の配分は『100(力):0(器用)』となっている。
つまり、武器は持てず殴ることしかできないが、これがアスカに出せる最大パワーの攻撃なのである。
「な、何よ今の!?」
「私の本気。壊れるまで、殴る!!!」
そう言って、アスカは『力』全振りの腕2本でバリアを交互に殴り始めた。
アスカが殴るたびにバリアが大きな音を立てる。
-ピシッ!-
「ま、マズいわ……!」
何かにヒビが入ったような音がしたと思ったら、フレアが慌てたように声を上げた。
マップで見たところ、バリアにヒビが入っているのが分かった。この様子だと、後10発も殴ればバリアは完全に破壊できそうだな。
「離れなさい!『ビューティビーム』!」
「む!」
フレアが放ったビームを、アスカは盾を装備した不可視の腕で防ぐ。
「『ビューティビーム』!『ビューティビーム』!『ビューティバリア』!」
ビームを連射し、アスカの攻撃が止んだ隙を突いて、フレアは再度バリアを発生させた。
元のバリアの内側に、少しだけ小さいバリアを張っている。バリアは複数同時に張れないのか、元のバリアは消滅していた。
「まさか、『ビューティバリア』が壊れかけるとは思わなかったわ」
「壊れるまで、殴るって言った」
「そうね、アナタを甘く見ていたのは認めるわ。だから、ここからはワタシも本気よ。現れなさい、『ビューティサーバント』!」
フレアが魔法を発動すると、フレアの周囲に12の光が集まり、盾と剣を持った男性の石像が6体、盾と槍を持った女性の石像が6体現れた。
従者と名乗るくらいなのだから、動いて戦う石像なのだろう。
「この子達はワタシの従者、ワタシの敵を排除する優秀な戦士よ。パワーが凄いのは認めるけど、それだけで勝てるとは思わないことね。さあ、行きなさい!」
「それでも、倒す!」
フレアの掛け声と共に動き出したサーバント達がアスカに向かう。
サーバント達は、石像とは思えないほど滑らかに、機敏に動いている。石像にはスキルが無いけど、動きから逆算すると<身体強化LV7>くらいかな?
「アスカさん!サーバントの相手は私達に任せてください!」
フレアの意識は完全にアスカだけに集中しているが、忘れてはいけないのがアスカパーティである戦闘メイド5人である。
回復役の1人を除いた4人が、アスカの代わりにサーバント達の攻撃を受け止める。
「うん、お願い!」
メイド4人にサーバント12体なので、メイド1人で3体のサーバントと戦う計算だ。
途中から薄々気付いていたが、アスカパーティはアスカを活躍させる方針のようだ。
恐らく、俺が現地勇者VS最終試練のマッチングを期待していたから、メイド達が気を利かせたのだろう。
そうでなければ、1番弱いアスカがフレアと戦い、アスカより強いメイド達がサポート要員に徹する理由が無いからな。
補足するが、アスカが弱い訳ではない。ただ、比べる相手が悪いだけだ。
最近、俺の配下になって恩恵を受け始めた天才より、俺の恩恵を長い間受け続けていた秀才の方が強いのは、ごく自然なことである。
「まだよ!『ビューティミラー』!」
次に現れたのは空中に浮かぶ4枚の鏡だった。
この鏡は遠隔操作ができるドローンであり、『ビューティビーム』を反射することで、多角的な攻撃が可能になる優れモノだ。それなりに硬いので、直接ぶつけてもOK。
「更に『ビューティビーム』!」
「!?」
「やるわね。でも、いつまで保つかしら?『ビューティビーム』!」
反射して様々な角度から襲い掛かる『ビューティビーム』を避けるアスカ。
不可視の腕がある分、どうしても小回りが利かず、回避と防御で手一杯となっている。
「はあ!!!」
それでも、僅かな隙を見つけてバリアを殴りつけるアスカだが……。
「『ビューティビーム』!『ビューティビーム』!『ビューティビーム』!」
「くうっ……」
「甘いわ。そう何度も殴らせてあげないから。『ビューティビーム』!」
フレアがビームを連射してくるので、殴れても1発だけとなる。
バリアの強度は自然回復するようで、連続で殴れば壊せるとしても、1発ずつ間隔を空けてしまえば壊れそうにない。
それはフレアも理解しており、1発殴られた後は、執拗にビームを連射してくる。
「アスカさん!一旦引いてください!」
「分かった!」
回復役の指示に従い、アスカがバリアから離れる。
「あら?引いちゃうのかしら?」
フレアは追撃をせず、一旦ビームを出すのを止めた。
<MP自動回復>があるとはいえ、あれだけ魔法を連射すれば当然MPは減る。距離が遠くなり、当たる可能性も低くなったので、無駄撃ちを避けているのだろう。
「アスカさん、連続で殴れないなら、全力の一撃で殴るべきです!私達が援護しますので、前以外を気にせず、全力で走って殴って下さい!」
「分かった!全力で殴る!」
回復役が提示したのは、『全力で殴れ』という作戦だった。作戦……?
援護があるとはいえ、周りからの攻撃を気にせずに走るというのは、中々に度胸の要る行動だが、アスカは一切躊躇せずに頷いた。
「随分、思い切ったことを言うわね。そんなこと、ワタシがさせる訳ないでしょう?」
「殴る!」
アスカがフレア目掛けて真っ直ぐ走り出す。やはり躊躇が無い。
「『ビューティビーム』!」
「『アクアカーテン』!」
フレアが『ビューティビーム』を発動した瞬間、回復役が<水魔法>の『アクアカーテン』を発動し、走っているアスカを中心に水のカーテンを発生させた。
水のカーテンが光線を減衰、屈折させたので、側面から迫るビームはアスカに当たることなく逸れて行った。
「それなら、正面からよ!」
側面からのビームが当たらないなら、正面から狙うのは当然だろう。
仮にアスカが正面からのビームを避けたとしても、助走を付けた全力の一撃とは言えなくなるので、フレアが損することは無い。
「『ビューティビえぇ!?」
しかし、フレアは『ビューティビーム』を発動することはできなかった。
バリアを突き抜けてきた飛来物の存在が、フレアの注意を奪い取ったからだ。
「ちっ!」
舌打ちしながら、フレアは飛来物……『ビューティサーバント』の石像を消滅させた。
実は、フレアの『ビューティバリア』は、同じ<美神術>により発生した存在は通過するという性質がある。
何度も撃っている『ビューティビーム』は言うまでもなく、『ビューティサーバント』で作り出された石像も、バリアの中から外に出る場面を目撃していた。
俺も気付いたし、メイド達も気付いていたのは間違いない。
どうやら、石像はフレアの意思で消滅させられるようだが、逆に言えば消滅させる必要があったということでもある。つまり、石像当てればダメージになる。
ほら、ゲームでもよくあるパターンだろ?
ボスが出した物を、逆にボスに当てることでダメージを与えるヤツだよ。
「な、何よ!これ!」
フレアが驚くのも無理はない。飛来する石像は、今の1体だけではなかったのだから。
最初の1体を除き合計11体の石像を、4人のメイドが四方からフレアに向けてぶん投げているのである。
有効な戦術なら、一回で終わらせるのは勿体ないからな。
「消えなさい!!!」
フレアの一言で、全ての石像が一斉に消滅した。
作り出したのが12体同時なのだから、消滅も同時にできるのは当然か。
これで、石像をフレアに当てるという作戦は無に帰した。
しかし、メイド達は十分な仕事をした。
「はあああああ!」
回復役が言った通り、メイド達の役割はあくまでも援護だ。
目一杯の助走をつけ、アスカが全力で渾身の一撃を放つまでの援護だ。
「しまっ……!」
「はあ!!!」
慌てて振り向くフレアだが、もう遅い。アスカ渾身の一撃が、バリアに直撃する。
-パリン-
アッサリとした音とともに、『ビューティバリア』は消滅した。
「『ビュー……」
フレアが発動しようとしたのが、迎撃のための『ビューティビーム』なのか、防御のための『ビューティバリア』なのかは分からない。
「がはっ……!?」
確かなことは、魔法が発動する前に、全ての不可視の腕を消滅させ、最高速度となったアスカが、一瞬で距離を詰めてフレアを斬ったという事実だけである。
良い感じの一撃が入りましたが、フレアはまだ死んでいません。
ボスが出した物をボスにぶつけるのは、スーパーマ○オが一番有名だと思います。
アレって、ク○パが何も出さずに体当たりだけを繰り返すと、○リオに勝ち目ないですよね。