第216話 人造生物と確認
以下、過去の内容に修正を入れさせていただきます。話に絡むのは次話以降です。
①エルディア王国の魔族殲滅時、ドーラが魔族を殺さないようにする。
②ミミが作った聖剣の名前『聖剣・アルティメサイア』→『究聖剣・アルティメサイア』
①はドーラに人殺しを禁止しているのに、魔族が含まれていなかったため。
②は書いた後によりスタイリッシュな名前を思いついたため。究極の聖剣と救世の剣のダブルミーニングです。アルティメサイアとも上手く絡んでいるのがさらにグッド(自画自賛)。
咲から贈られてきたスキルオーブは2つ。
その中には、<剣聖>と<祓魔剣>という、明らかにユニーク級の雰囲気を持つスキルが入っていた。
<剣術>の上位互換らしき<剣聖>は良いとして、問題は<祓魔剣>の方である。
<祓魔剣>
魔族、魔王に特攻となる剣術。殺すのではなく、祓うことを目的としている。摂理に反して生まれた者を祓い、あるべき姿に戻す力を持つ。
ハッキリとしたことは書いていないが、コレ、魔王の人格だけを祓えそうじゃないか?
A:はい。祓えると思われます。
何と言うか、あまりにもタイミングが良すぎるな……。
普段なら『運が良い』で済む話だけど、今回は確実に咲の意思が介入しているから、単純に俺の運とは言えない状況である。詳しい事は、聞ける奴に聞こう。
「この2つに関する説明をしてくれ」
「はい。まず、この2つはスキルオーブと言い……」
「ああ、その辺りは知っている。中身と贈ってきた理由の説明を頼む」
「分かりました。それでは、こちらに入っているスキルから説明させていただきます」
そう言って小咲が示したのは、<剣聖>のスキルオーブだった。
「こちらは<剣聖>と呼ばれるスキルです。元は祝福でしたが、咲様の手によって普通のスキルへと分離されております。元は、進堂仁様に与えられるはずだった祝福を、咲様が回収したとお聞きしています」
悲報、普通で面白くないと思った<剣聖>は、俺の祝福になる予定だった。
幼馴染の1人である織原が、さくらに与えられるはずだった祝福を回収し、もう1人の幼馴染である咲が、俺に与えられるはずだった祝福を回収したのか。
少し前にリリィから『ユニークスキルは異世界人1人につき1つ』と聞いたはずだが、早くも2人目の例外が明らかになってしまった。
後、咲が祝福をユニークスキルに戻したって言ったけど、ソレ、そんな簡単にできることじゃないよね?一体、どんな裏技を使ったのやら……。
「咲様は『今まで預かっていたけど、返す方法が見つかったので返すね』と仰っていました」
「別に、俺の物って訳でもないんだけどな……」
「少なくとも、咲様はこのスキルを進堂仁様の物だと思っておられます」
祝福として受け取ったならともかく、受け取り拒否したのだから、俺のスキルと言うのは正しくはないだろう。
しかし、何で俺の元に<剣聖>のような、面白味のない普通のスキルがやってきたのか……。
「とりあえず、話は理解した。それで、このスキルの効果は?」
「得るだけで剣の達人になるスキルと聞いております。私は咲様がスキルを使用する所を見たことは無いのですが、『漫画のような必殺技も使える』と仰っていました」
「ほう……」
たった今、<剣聖>の評価が上方修正された。
『剣の達人になれる』と『漫画のような剣の達人になれる』の間には、越えられないほどの大きな壁が存在する。
そして、ほんの少しだけ、俺に向いているスキルだと思わなくもない。
「補足させていただいても、よろしいでしょうか?」
ここで、今まで黙って話を聞いていたエカテリーナが声をかけてきた。
スキルの説明に対する補足ということは……。
「もしかして、このスキルの効果を見たことがあるのか?」
「はい。私が咲お姉様と行動を共にしている時に、その祝福を使用する場面を拝見させて頂いたことがございます」
エカテリーナは咲の仲間なのだから、効果を知っていても不思議ではない。
「剣を振るうだけで<風魔法>のような物を発生させたり、明らかに剣よりも硬い物を切り裂いたりしていました。後は、鞘から剣を抜いた瞬間、再び剣が鞘に収まっており、目標物が斬れているというのも見たことがございます」
「漫画っぽい……」
漫画で見た事あるようなエピソードばかりだ。
1つ目は<飛剣術>に似た遠距離攻撃のようだが、斬撃そのものを飛ばすのではなく、風圧や衝撃波を飛ばすタイプなのだろう。ファンタジー剣士御用達だ。
2つ目と3つ目は必殺技と言うよりは、達人がその実力を見せる時に使われる技だな。物理法則に従っているのか、怪しく見えるヤツだ。
「他にもあるそうですが、見せて頂く機会に恵まれませんでした」
「それは、自分で確認させてもらおう」
……後で、スキルの効果を色々と試してみよう。ちょっと気になる。
「1つ目のスキルについて、何か質問はございますか?」
「いや、無い。2つ目の説明を頼む」
評価は上がったが、ハッキリ言って<剣聖>は前座である。
一番聞きたいのは、<祓魔剣>に関する情報だ。
「はい。こちらは<祓魔剣>と呼ばれるスキルです。このスキルを得て振るう剣は、魔族や魔王の魂を祓い、あるべき姿に戻す力を持ちます」
「あるべき姿とは?」
「魔王と四天王は元の人間に戻り、それ以外の魔族は無に帰ります」
ソレ、魔王や四天王が元人間って知らないと出て来ないセリフだよね?ついでに言えば、他の魔族が魔王の呪印で生み出されるってことも知っているね。
どうやら、咲は魔王について相当詳しい情報を持っているようだ。語り部に匹敵する情報源があるのかもしれない。
「このタイミングで俺にそんなスキルを贈る理由は何だ?」
「咲様は進堂仁様の知人が魔王となった可能性を憂慮していました。もしそうだった場合、このスキルがあれば最悪の状況を回避できるから、と仰っていました」
「……明日、魔王の元に向かう予定だった」
「間に合ったようで何よりです」
まるで、俺の動向を把握しているかのようなタイミングだ。
善意から来る偶然と言われても、簡単に信じるのは難しい程のタイミングだ。
咲の使者であるエカテリーナ達が怪しいと言えば怪しいが、エカテリーナは咲と連絡をとる手段を持っていないので、流石に無関係だろう。
A:小咲がマップの検知範囲に入ったのは、マスターが魔族領に行くと決める前なので、偶然だと思われます。
そうだったのか。それなら、やっぱり偶然なのかなぁ……。
アルタ、マップで検知した時に報告を入れる対象に、咲関連も加えておいてくれ。
A:はい。承知いたしました。
アルタには、マップで特定の条件を満たした存在を検知した時に、報告するように頼んでいる。具体的に言えば、種族:魔族、称号:勇者などである。
咲に関連する者は、少し優先度を上げて対応した方が良さそうなので、咲も報告対象に加えておこうと思う。
「ところで、このスキルの由来や入手方法は聞いているか?」
「申し訳ありません。訳あって言えないらしく、咲様からお聞きしておりません。必要があれば咲様ご自身で説明すると仰っていました」
「咲がここに来るのか?」
エカテリーナが来た時点で、俺は咲の謝罪を受け入れている。
そもそも、咲が敵意を向けてきたのは、祝福による精神干渉の結果だと分かっているので、咲個人に対する隔意は存在しない。
咲の気が済み、俺に会いたいというのなら、俺の方に会わない理由はない。
敵意を向けた原因である祝福も、分離して無害化されているだろうからな。
「そちらは咲様からの伝言に関わる話となります。他にスキルに関する質問が無ければ、伝言の方に移りたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「ああ、頼む」
「咲様からの伝言をそのままお伝えします。『仁君、久しぶり、咲だよ。召喚された日、仁君に敵意を向けてしまってごめんなさい。お詫びの品として、スキルオーブを小咲に持たせたから受け取ってね。その代わりという訳じゃないけど、仁君が私のことを許してくれるか、許してくれないか、今の気持ちを教えて欲しいの。まだ、お詫びには足りないと思うから、他にも『人材』と『情報』を用意しているよ。きっと、仁君も喜んでくれると思う。ただ、『情報』は私が直接仁君に渡す必要があるから、私に会っても良いか、会いたくないかを教えてもらう必要があるの。前者なら私も『人材』と一緒に仁君の元に向かい、後者なら『人材』だけを贈り、『情報』はまたの機会にするつもりだよ。あ、質問の答えは、小咲に伝えてね。仁君とまた会える日が来ることを、心から願っています』。以上となります」
それなりに長い伝言だったし、手紙の方が良かったと思わなくもないが、雰囲気的に小咲は一言一句間違えずに伝えたのだろう。
要約すると、『許すか許さないか教えて』、『会っても良いか悪いか教えて』、『スキルオーブと人材はあげる』、『会ってくれるなら、秘密の情報を教えてあげる』かな。
最後の奴は交換条件に聞こえるけど、咲はそんな小細工はしないと思うので、本当に秘匿しなければいけない理由があるということになる。
「早速で申し訳ありませんが、ご回答をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、俺からの回答は、『咲のことは許しているから、会いに来てくれて構わない』だ」
「ありがとうございます。咲様もお喜びになられるでしょう」
「ええ!進堂様のお許しを得ることは、咲お姉様の悲願でしたから、きっと大喜びです!」
エカテリーナの言葉に、同じく咲の使者である4人も強く頷いている。悲願て……。
「ただし、会いに来るのは一週間後から二週間以内にしてくれ。予定があるからな」
「はい。咲様にお伝えいたします」
「さて、これで小咲の用は終わったと思うが、帰る前にいくつか聞かせて欲しい事がある」
「はい。私の知っている事でしたら、何でも答えさせて頂きます」
何でも答えると言うのなら、パンツの色でも答えて……いや、多分、普通に答えるな。
咲の使者である一国の女王は、俺達に対して敵意が無いと示すため、下着姿になったくらいだ。同じく咲の使者である人造生物が、その程度で羞恥心を見せるとは思えない。
「小咲は何者で、小さい頃の咲と同じ姿をしているのは何故だ?」
「私は<錬金術>により生み出された、人造生物と言う生物です。<錬金術>の持ち主が、咲様の指示に従い、咲様の因子を元に私を作り出しました。咲様の因子を元にしていますが、似ているのは容姿だけで、能力などは継承していません。容姿に関しては、本物の咲様と区別をつけやすいよう、見た目年齢を調整したと聞いております」
咲に似せて作ったのではなく、咲を元に作った人造生物だったか。
年齢を調節したと言ったが、成長したら咲と同じ容姿になるから、あまり意味が無さそうに思えるが……アルタ、人造生物は成長するのか?
A:制作時の設定次第です。小咲は肉体的には成長しない設定となっています。
それなら、咲が若返らない限り小咲と同じ容姿にはならないな。
「次の質問だ。小咲は何処からここに来た?そこには、咲が居るのか?」
「私はトリス王国という国から来ました。私が出発した時点では、咲様もトリス王国にいらっしゃいました。トリス王国はこの大陸とは別の大陸にあります。咲様は現在、『人材』を乗せた船と共にカスタール女王国のメルティス領に向かっています」
メルティス領と言うのは、カスタール女王国の領土の1つで、勇者召喚前にエルディア王国に滅ぼされたメルティス王国が元になっている。
現在のカスタール女王国の領土で唯一、海に面している領である。
「私には咲様の乗る船の位置が分かりますので、進堂仁様を咲様の元へご案内することもできますが、咲様は『お願いだから、私が行くまで待っていて』と仰っていました」
「咲がそう言うなら、待つことにしようか。……ところで、俺が咲に会わないと言っていたら、船の上にいるはずの咲はどうしていたんだ?」
既に船に乗って、メルティス領に向かっている最中なのだ。俺が『会わない』と言ったら、そのまま船に乗り続ける訳にもいかないだろう。そして、降りることも難しいだろう。
「その場合、私がスキルで鳥の姿となり、咲様を連れて飛んで帰るつもりでした」
はい。コチラが小咲のスキル、<形態変化>の詳細です。
<形態変化>
スキルに含まれた複数の形態に自在に変化できる。変化した形態により、対応したスキル同等の効果を使用できる。
ある種の統合スキルであり、変化先に相応しいスキルを含んでいる。
鳥の形態があれば、<飛行>スキルを持っていなくても空を飛べるという訳だな。
「面白そうだな。鳥の姿、見せてくれないか?」
「はい。分かりました」
小咲は頷くとその場で着ていたワンピースを躊躇なく脱ぎだした。
……そうだよね。変化する時に服は邪魔だよね。すっかり忘れていた。
ちなみに、小咲のパンツは装飾のない白一色の物だった。聞いてもいないのに、パンツの色を知ってしまったよ。
そう言えば、咲も白以外の下着を身に付けない主義だったな。そんな所まで咲に合わせなくても良いのに……。
躊躇なくパンツも脱いだ小咲の身体が光に包まれ、次の瞬間には白い大きな鳥の姿になっていた。渡り鳥っぽいが見た事ない種類だな。この世界の鳥か?
A:いいえ。既存の鳥ではないようです。
「くえー」
「あ、別に人語を喋れる訳じゃないのか」
普通に考えれば、鳥に人語を喋る機能は無いよな(インコなど、一部例外を除く)。
「ありがとう。もう、元に戻って良いぞ」
俺がそう言うと、小咲は再び光に包まれ、少女の姿に戻っていた。ただし全裸。
「俺からの質問は以上だが、小咲はこれからどうする?ここで休んでいくか?」
「同じ咲お姉様の使者ですから、国賓待遇で持て成させて頂きますよ」
「いいえ。少しでも早く咲様に朗報をお伝えしたいので、すぐに帰らせて頂きます」
エカテリーナが国賓待遇と言ったが、一切興味を持たずに帰ることを選ぶ小咲。
「悪いな。早く帰りたいのに、引き止めて質問なんてして……」
「いいえ。咲様から、進堂仁様に最優先で従うよう指示されておりますので、何も問題はありません。他にご命令があれば、何でも仰ってください」
「いや、特に命令する気はないから。ああ、最後に1つだけ質問を追加させてくれ。仮に俺が咲を許してなくて、小咲に死ね、あるいは殺すって言ったらどうするつもりだったんだ?」
恨みがある相手の幼少期の姿をした者を使者にするというのは、ある種の挑発と受け取られてもおかしくはない。
俺が咲を許していない場合、小咲の身は相当に危険だったはずだ。
「もちろん、死にます。咲様には使者の死は伝わりますので、私が死んだ時点で、進堂仁様が許していないと判断する手筈となっております。また、幼い頃の咲様の姿をした私を殺すことで、進堂仁様の溜飲が少しでも下がることを、咲様は期待されておりました」
「そうか……」
本当にある種の挑発だった。
危険が織り込み済みどころか、死ぬことにまで意味を持たせられていた。
言い方は悪いけど、人造生物だからこそギリ許される扱いだよな。
質問も終わったので、早速小咲が帰還することになった。
「それでは、失礼いたします」
「ああ、咲によろしく伝えておいてくれ」
「はい。必ずお伝えします」
小咲は所持品をアイテムボックスに入れ、鳥の姿でサノキア王城から飛び去って行った。
小咲を見送った後、俺は今度こそカスタールの屋敷へと帰還した。
少し遅めの昼食を食べながら、同じく食事中のさくら、ミオ、凛の異世界組と話をする。
なお、スカーレットやリリィ、咲と小咲に関する話は、アルタ経由で展開済みである。
「咲お姉ちゃんは、異世界でも変わりませんね」
俺の妹である凛は、当然ながら咲とも面識がある。
そもそも、俺と咲の家は隣り合っているので、咲と凛の関係も幼馴染と言って良い。そして、凛が『咲お姉ちゃん』と呼ぶ事から分かるように、2人は相当に仲が良い。
「え?ご主人様の幼馴染ちゃんの話を聞いて、最初に出てくるのがその感想なの?幼馴染ちゃん、元の世界でも人造生物を作っちゃうような人だったの?」
「いえ、私が『変わっていない』と言ったのは、咲お姉ちゃんの兄さんに対する献身のことです。規模は大きくなっていますが、行動自体は変わっていません」
確かに、話の繋げ方によっては、ミオが勘違いしたようにも聞こえるな。
流石の咲も、元の世界では人造生物なんて作っていないだろう。どうしても、作らなければならない理由があれば、作っていたかもしれないが……。
「咲お姉ちゃんは、兄さんの為だと思ったら、普通じゃないことを平然とします。法律や常識の違う異世界で、咲お姉ちゃんの枷が外れていても、何も不思議ではありません」
ここで重要なのは、『俺の為と思ったら』という点だ。俺に何も聞かない咲の独断なので、有難迷惑になることも少なくない。
後、凛は気付いていないようだが、『枷が外れる』とは中々に酷い扱いである。
「凄い表現だけど、その結果がユニークスキルの貢ぎ物ってコトなのね」
「人聞きが悪い……けど、貢がれているのは否定できないか。昔から、やたら俺にプレゼントをしたがるヤツだったからな。嬉しい物も嬉しくない物もあったけど……」
「例えば、どんな物を貰っていたんですか……?」
さくらに聞かれたので、実際に贈られた物を思い出してみる。
「嬉しかったのは、趣味に役立つ実用品だな。釣りにハマっていた時のルアーセット。遺跡巡りをしていた時の暗視ゴーグルとかは特に嬉しかった」
「微妙に高そうな物が多いわね。幼馴染ちゃん、お金持ちなの?」
暗視ゴーグルはもちろん、ルアーも物によっては結構高い。
そして、咲が贈ってくる物は、上から数えた方が早いお値段であることが多い。
「咲のお財布事情には詳しくないが、お金に困っているところは見たことがないな」
「咲お姉ちゃんから、個人的な財源があると聞いたことがあります。合法だそうです」
「女子高生の合法的な財源とは一体……。株とかかしら?」
咲が俺や凛に対して嘘を吐くとも思えないから、合法なのは間違いないのだろう。
それに、俺が変な金で買った物を贈られても、喜ばないことは知っているはずだ。
「咲がこっちに来たら、聞いてみるか。結構、洒落にならない値段の物もあったし……」
「もしかして、嬉しくない方の贈り物も高かったの?」
「咲からの贈り物は、大半が高額商品だったな。例外は手作りの品くらいだ」
「咲お姉ちゃんの場合、手作りだからといって、安くなる訳ではないですけどね」
「そうだったな。材料の値段を知って驚いたよ」
商品として値段は付かなくても、材料が高額になっているので結果は同じである。
「それと、さっきは『嬉しくない物』って言ったけど、正しくは『貰って困る物』だな。親友と家で格ゲーやっているのに、アケコン貰っても困る。カードゲームで遊んでいるのに、使えない高額カードを貰っても困る」
欲しがる人も居るだろうが、俺は別に欲しくない、という高額な贈り物である。
贈り物だから、売りに出すこともできず、物置や押入れにINされる運命にある。
「あの、高くて使えないカードって矛盾していませんか……?」
「さくらに質問だ。1枚、100万円以上するカードを、気安く遊びで使えるか?」
「100万……!?紙のカードですよね……?」
「ああ、お札より小さい紙のカードに、100万円以上の値が付くこともある」
「信じられません……。そんなカードがあることも、それをプレゼントする人も……」
元の世界でも、前者を知っている人は多いけど、後者を知っている人は極少数だろう。
流石の俺も、100万円のカードを手渡しされた時は驚いたよ。せめてスリーブに入れろ。
「その点、アケコンは高くても数万円だから、100万円に比べたらまだマシよね」
「ミオちゃん、アケコンって何ですか……?」
さくらはアケコンの存在を知らないらしい。格ゲー、対人、あっ……。
「アーケードコントローラの略で、格闘ゲームをやる時に使うコントローラです。ゲームセンターにある筐体のコントローラを模していまして、操作には慣れが必要ですけど、パッド……普通のゲームコントローラより、繊細な操作ができる利点もあります」
「ゲームのコントローラが、数万円もするんですか……?」
「はい、高い物は数万円します。格ゲー界隈は、本当にフレーム……コンマ秒以下の戦いですから、物や環境にこだわる人が多くなるのも必然なのです」
「そ、そうなんですか……」
さくらの質問に答えるミオだが、その内容が明らかに詳しく知っている人のソレである。
詳しすぎて、さくらが少し引いている気がする。
「もしかして、ミオはアケコン派の格ゲーマーだったのか?」
「うん、そんな時代もあったわ。ご主人様も試しに使ってみれば良かったのに。折角貰ったのに、使わないなんて勿体ないわよ。勝率上がったかもしれないし」
「少なくとも、1人だけアケコンを使うって選択肢は無かった。家で3人集まって、コントローラを共有して遊んでいたから、アケコン持ち込みは気が引けるだろ?それに、負ければ悔しいが、そこまで勝ちに拘っていた訳じゃない。勝率は全員大差ないし……」
浅井や東と対戦するときは、極力条件を揃えて、実力だけを競うことが多かった。
3人とも得意なことが別だから、上手い具合に勝敗が割れる。それが楽しかった。
なお、純粋な格ゲーは浅井が1番強いが、ランダムなアイテムがある場合は俺に分がある。戦略要素が強ければ東が勝つ。
「対等なライバルって奴ね。それにしても、ご主人様と実力が拮抗するって凄いわね」
「能力に差があり過ぎると、友人として交流するのが難しくなるからな」
言い換えれば、実力が拮抗するからこそ、親友になれたということでもある。もちろん、気が合うというのは絶対条件だ。
「それは納得だわ。親友の2人、幼馴染の2人含めて、ご主人様と日本で交流のあった人は、漏れなく普通じゃないもの。まさしく、類は友を呼ぶってヤツよね」
「他の3人はともかく、織原だけは友に含まないで欲しいな……」
織原は幼馴染であり、友人ではない。そこは譲れない。
「あの、ミオさん。妹の私は『普通』に含まれていますよね?」
「え?」
「え?」
凛、自分のことを頑なに『普通』と言い張るから……。
午後、俺とマリアは『風災竜・テンペスト』の亜空間へと転移をしてきた。
「それでは、今から実験を開始する」
災竜を閉じ込める為だけに存在する亜空間は、周囲の被害や外部からの干渉を受けずに実験するのに最適な空間だ。なお、今回防ぎたいのは、外部からの干渉の方である。
「マリア、出してくれ」
「はい」
助手は俺から少し離れ、<無限収納>から石化した四天王を取り出した。
巨人島でナーハルティを再起不能にし、魔族の人格を消して人間の人格を復元しようと考えていたが、その後の『魔王ホーリー事件』により、後回しにせざるを得なかった。
再起不能ではあるが、そのままにしておくと魔王に干渉され、人格を消されてしまうので、干渉を防ぐために石化させて<無限収納>に放り込んでおいたのだ。
今回の実験では、ナーハルティの人格を<祓魔剣>で祓おうと思っている。
魔族に関するスキルなので、アルタにもスキル発動時の詳細は把握しきれないそうだ。ぶっつけ本番で魔王に使って、想定と違う結果になったら目も当てられない。
魔王と四天王という差はあるが、魔族に人格を奪われているという点では同じなので、魔王に使う前に<祓魔剣>の効果を確認するには丁度良い。
時間ができた後も、ナーハルティを後回しにしておいて正解だったよ(無情)。
「『アンチストーン』」
「うぅ……」
マリアが『アンチストーン』の魔法を発動し、ナーハルティの石化を解除する。
石化する前と同じく、再起不能のナーハルティが呻いている。
余談だが、<祓魔剣>は石化状態では効果が発動できない。
基本的に、石化中は石化解除以外の肉体的変化を受け付けない。<祓魔剣>には魔族を人間に戻す、つまり肉体を変化させる効果が含まれるので、石化中は無効となる。
俺は<無限収納>から、愛刀である『英霊刀・未完』を取り出した。
<祓魔剣>は剣術系スキルなので、剣を介さなければ効果を発動できない。
これはスキルの構造的欠陥だろう。簡単に言えば、<祓魔剣>を使って斬り、相手が生きていた場合のみ、魔族は祓われるのだ。
魔族を元に戻すには、1回はその魔族を斬らなければならない。そして、俺が斬ったら大抵の相手は死ぬ。これを欠陥と言わず何と言うか。
<祓魔拳>なら、殴るだけで良いので、もう少し楽だったのに……。
そんな事を考えつつ、俺は『英霊刀・未完』と『精霊刀・至世』を分離した。
<祓魔剣>の欠陥に対する解決策はいくつかあるが、今回は少し変わり種を使ってみる。それが、実体のない剣、『精霊刀・至世』である。
実体のない剣で相手を斬り、「お前の悪しき魂だけを斬った」とキメ顔で言うのだ。
「えい」
「うぅ……あっ!」
今回は実験なので、キメ顔は省略して呻くナーハルティを斬る。
「ああああああぁぁぁ!」
斬られた直後から、ナーハルティは絶叫と痙攣を始めた。
そして、身体から黒い靄のような物が立ち上る。見たところ、瘴気とか害のある物ではなさそうだが、触れる気にはならない。
「あああぁ……あぁ……。ぁ…………」
しばらく待っていると、絶叫と痙攣と靄が治まってきた。完全に治まる頃には、ナーハルティの肉体は完全に人間の物になっていた。
「マリア」
「はい」
俺が声をかけると、マリアが一瞬で最後の仕上げを行った。その名を<奴隷術>と言う。
さて、実験の結果を確認してみよう。
名前:御影巴
性別:女
年齢:19
種族:人間
称号:仁の奴隷
スキル:
名前、種族は魔族化する前の物になっていた。
年齢が変わらないのは想定通りだ。元魔族の成瀬母娘に聞いたところ、四天王の年齢とは、魔族化する前の年齢そのままだったからである。
スキルが無いのは、この世界で経験を得たのが魔族の魂であり、元の人間の魂ではないからだろう。魔族を祓い『元に戻した』以上、消えるのも当然か。
アルタ、魂や記憶の欠損はありそうか?
A:いいえ。肉体も魂も完全な状態となっています。『復元』と言うよりは、『巻き戻し』に近い現象だと思われます。
異能を使えば、『魔族の魂と肉体を人間に戻す』ことは可能である。
魂に関して、<多重存在>は通常の可逆変化なら元に戻せるし、不足があるなら補修して形を整える事はできるが、上書きのような完全な不可逆変化は元に戻せない。
肉体に関して、さくらが創った『再誕』なら、人間になることは可能だが、元に戻る訳ではなく、人間として生まれ変わると言った方が正しい。
前者は『復元』、後者は『再変化』と呼ばれる行いであり、厳密に言えば『元に戻す』訳ではない。
しかし、<祓魔剣>なら、魂も肉体も『魔族になる前に戻す』ことができる。人格に至って言えば、既に消滅しているはずの部分も戻っている。理屈は知らん。
つまり、『魔族を人間に戻す』という一点において、<祓魔剣>は異能すら越える力を持っていることになる。
こんな凄いスキル、咲は一体どこで見つけたのだろう?
A:補足ですが、<祓魔剣>による四天王の消滅は、祝福を持った勇者による討伐と同様の扱いとなり、四天王の補充ができなくなるようです。
まさしく、対魔族、対魔王の切り札と言えるスキルだな。
「う、うぅん……。ここは……」
ここでナーハルティ、いや、御影が目を覚ました。
ここまで早く目が覚めるということは、<祓魔剣>が魔族を祓う際、元の人間に掛かる負担はほとんど無いのだろう。至れり尽くせりだな。
「……あれ?私、自爆したはずなのに、生きている?」
御影は日本で女子大生工作員として活動していたらしい。死んだのは、テロ組織の兵器工場を自分諸共爆発させたからである。やたらとキャラが濃いな。
どうやら、死ぬ直前までの記憶しかなく、ナーハルティの記憶は一切残っていないようだ。
「えぇ!?何で全裸なの!?」
言うまでもない事だが、捕虜というのは武装解除されるものである。
ナーハルティは工作員らしく、身体のあちこちに物を隠し持っていた。面倒なので、石化させて<無限収納>に放り込む際、衣類ごと全て取り外すことになった。
当然、<無限収納>から取り出す時に戻すような真似はしない。
つまり、ナーハルティも御影も、現れた時から今まで、ずっと全裸のままなのである。
マリアが一瞬で<奴隷術>を終えたのも、御影が最初から全裸だったからだな。
その後、御影には適当に説明して、奴隷になったことを受け入れさせて、迷宮に送った。
迷宮では、この世界の常識を学び、新人配下向けの研修を受けてもらう。
その後、折角なので亜空間で<剣聖>を使って遊ん……スキルの効果を確認した。これ、間違いなく、俺に来るはずだったスキルだ。凄く馴染む。
実際に100万円以上するカードは存在します。有名なのは黒い蓮でしょうか。後は大会賞品とか。
なお、咲は仁へのプレゼントをオークションで買うことはありません。
買ったのはカードショップが半分ネタで店に値札を付けて展示していた超高額カードです。
詳しくない人が、店で一番高い商品を買った、というのが、咲のテンプレです。
それと御影さんの話は特に深掘りされません。使い捨……スキルの説明のために登場させたキャラなので。




