第214話 質疑応答と目標決定
設定に不一致があったので修正します。
進化について
・ごく少数の魔物だけが可能な、能力の大幅な上昇を伴う種族の変化(変態とは異なる)。
・作中で公開されているのは、フェザードラゴン、仔神獣の2種類。
「さて、女神を殴るのは確定として、まずは目先の魔王攻略に集中していこう。大部分の情報は共有できたと思うが、ここまでで何か質問はあるか?」
情報共有の後は、質疑応答が来ると相場が決まっている。
とは言え、全ての質問を拾っていたらキリが無いので、質問はアルタが集約し、重要度の高いものや共有しておいた方が良いものだけをピックアップしてもらう。
なお、ピックアップするのはアルタで、回答するのもアルタである。お疲れ様。
それでは、ピックアップされた最初の質問がこちら。
Q:魔王は一体いくつの呪印を持っているのか?
A:魔王は5つの呪印を持っており、詳細が判明しているのは、<四天任命>、<暗黒領域>、<魔王>の3つです。<魔王>は勇者から攻撃のダメージを増加し、それ以外の者からのダメージを低減します。
残念ながら、魔王の呪印に関する情報は、四天王に対する情報制限に含まれており、新しく判明したのは<暗黒領域>と<魔王>の2つだけだった。
度々話に出てくる、勇者の攻撃が大ダメージになり、他の者の攻撃がほぼ無効になるというのが<魔王>の効果だ。
それだけの効果なら、<凶星>とほぼ変わらないけど、他にも効果があったりするのか?
A:はい。ナーハルティが知らないだけで、他の効果があると思われます。
<四天任命>は主力となる配下を生み出し、<暗黒領域>は王として君臨する環境を作り出す呪印なので、どちらも魔王に相応しい効果と言えるだろう。
それらと並び、<魔王>なんて大袈裟な名前の付いた呪印なのだから、メリットとデメリットが半々の微妙な効果で終わるとも思えない。
きっと、魔王に相応しい素敵(極悪)な追加効果があるのだろう。期待している。
次の質問と回答をお願いします。
Q:魔族領にいる最終試練の詳細は分かっているのか?
A:ナーハルティと直接面識があるのは邪神獣ヘルだけです。武神アスラと美神フレアは情報だけ与えられていました。邪神獣ヘルは巨大な獅子で、仔神獣が成長した姿の1つです。
「うげっ、ミャオの闇落ち進化形態かぁ……」
ミオが非常に嫌そうな顔をしながら言った。
「確か、ミオちゃんの従魔の子ですよね……?」
「そうですよ。可愛くてモフモフなんです!」
ミオの従魔であるミャオは、数少ない進化する種族であり、進化形態が複数あるという。その内の1つが、闇に呑まれて最終試練になるというモノだった。
どう聞いても真っ当な進化ではないので、ミオは「ウチの子は絶対に闇落ちなんてさせないからね!」と言って、ミャオを大切に育てることを誓ったという。
そして、邪神獣ヘルがその闇落ち進化の末路ということになる。
「悪いが、敵対するならミャオの同族でも容赦はしないぞ」
「まぁ、仕方ないわよね。あのモフモフが失われるのは惜しいけど……」
「……テイムできそうなら、テイムしようと思う」
確かに、ミャオ同等のモフモフというなら、失うには惜しい。
借りてモフモフすることはあっても、ミャオの主人はあくまでもミオだ。俺専用のモフモフ神獣が欲しいという気持ちはある。
名前にはあまりモフモフ感が無いが、モフモフしている可能性は十分にある。魔王がテイムできたのだから、俺がテイムできる可能性も0ではないはずだ。
「流石ご主人様、モフモフには全力ね」
《ドーラもモフモフしてー!》
「そうだな。この話が終わったら全力モフモフするか」
《わーい!》
巨人島に居る間はモフモフしていなかったので、久しぶりにモフモフ祭りをしよう。
アルタ、モフモフ要因に連絡を頼む。
A:はい。承知いたしました。
それで、邪神獣ヘルはどんな攻撃をしてくるんだ?
A:邪神獣ヘルは獣系の魔物らしく、爪や牙、咆哮などがメインの攻撃手段です。固有のスキルにより、全ての攻撃にデバフ効果が付与されているので、攻撃を一度でも受けると加速度的に不利になっていきます。
話を聞く限り、かなり嫌らしい戦い方をしそうだな。
例えどれだけ良い感じにモフモフしていても、救えそうにないくらい完全に闇落ちしていたら、流石に諦めるしかない。
A:ナーハルティの記憶上では、諦めた方が良い可能性が高いです。
期待2割、諦め8割と思っておこう。
ナーハルティの記憶には、他の二体に関する情報はあるのか?
A:はい。武神アスラと美神フレアはどちらも人型の最終試練で、武神アスラは武術を極めており、武器を使うより素手での戦いを好む戦闘狂です。美神フレアは魅了系の能力を持っており、洗脳ではなく行動不能、無力化する事に特化しています。
両者とも、分かりやすく強敵感のあるスペックだ。
勇者一行と戦わせるには丁度良い能力とも言えるだろう。どちらも、勇者を疲弊させ、勇者以外の同行者を排除するのに向いているからな。
万が一突破されたとしても、邪神獣ヘルが更に弱体化を仕掛け、魔王が勇者を倒すためのお膳立てが整えられるという訳だ。見事と言わざるを得ない。
残念ながら、最終試練達が勇者と戦うことは無いんだけどね。
……いや、ちょっと待てよ。
「最終試練の相手は、勇者にさせよう。ただし、異界の勇者ではなく、この世界の勇者だ。魔王の想定とは少し違うだろうが、勇者であることに変わりはないだろ?魔王の頑張りを無駄にしない、俺流の優しさと言うヤツだな」
「いや、ご主人様。勇者を無力化するための布陣に、無力化できない方の勇者をぶつけるとか、優しいどころか一番エグい気がするんだけど?」
「この世界の勇者ならば、何の問題も無く最終試練を倒せますものね。マリアさんが最終試練を倒したという実績もありますわ」
ミオとセラの言うように、この世界の勇者は普通に最終試練を倒せる。
余談だが、厳密に言えば最終試練を倒せないのは、『異界の勇者』という称号を持った者ではなく、祝福を持った者なので、偽勇者組でも倒そうと思えば倒せたりする。
「一応、『勇者と戦った』という実績にはなるだろ?勝ち負けは最終試練達の実力次第だ。それに、この組み合わせが本来あるべき姿だと思うんだよ」
本来、最終試練の討伐者となる可能性が一番高いのは、この世界の勇者なのだろう。
運を味方に付ける必要はあるが、俺のようなイレギュラーを除けば、この世界で最も強くなれる人類は勇者だと思う。
事実、真紅帝国のスカーレットは、前『人間の勇者』であるヴァーミリオンと共に最終試練を討伐している。
最終試練と言うのだから、人が力を付けて行けば、いずれは倒せる存在のはずである。
最終試練が異界の勇者からダメージを受けないのは、祝福という自然ではない方法で力を得た者が、最終試練を倒してしまわないようにする特殊措置だと思われる。
言ってしまえば、魔王はこの特殊措置を悪用して、勇者を倒そうとしているのだ。
「最終試練と戦うべき存在は、異界の勇者ではなく、この世界の勇者だと考えている。だから、魔王が歪めた対戦カードを正しく並べ直しただけだ」
先程、魔王の頑張りを無駄にしないと言ったな。あれは嘘だ。
「ご主人様のいつもの思い付きかと思ったら、ちゃんとした理由があったのね」
「まぁ、思い付きなのは否定できないけどな」
最終試練に関する考察自体は以前からしていたが、魔王配下の最終試練とこの世界の勇者を戦わせようと思い付いたのは今さっきである。
「加えて言えば、人数的にピッタリだったのも高得点だった」
「何の人数のことですか……?」
「さくら、現時点で討伐ボーナスを得ていない勇者は何人いる?」
最終試練に止めを刺した者には、素敵な討伐ボーナスが与えられる。
ただし、この討伐ボーナスは、1人1度しか貰えないので、同じ者が2度最終試練を倒すことにメリットは無い。今まで戦った最終試練も、全て別の者に止めを刺させている。
「えっと、マリアちゃん以外は全員持っていないので……6人ですね……」
「その内、俺の指示で戦いに参加できるのは?」
「シンシアちゃん、リコちゃん、アスカちゃんの3人です……。あっ……」
「最終試練の数と一致しましたわね。確かにピッタリですわ」
現在、所在が判明している勇者は、人間、獣人、エルフ、ドワーフ、ホビット、鬼人、巨人の7種族、7人である。
獣人の勇者であるマリアはボーナス取得済み。巨人の勇者である楓は俺の事情を知らない。ドワーフの勇者はまだ生まれていない。エルフの勇者は配下ではない。
つまり、人間の勇者シンシア、ホビットの勇者リコ、鬼人の勇者アスカの3人が残る。
邪神獣ヘルを討伐対象に含めれば、丁度最終試練の数と勇者の数が一致するのである。
「そう!見事な偶然で勇者と最終試練の数が一致したんだ。これはもう、勇者と最終試練を戦わせるしかないじゃないか!」
「タイミングの良さがご主人様の琴線に触れちゃったかー」
「ああ、意外かもしれないが、こういう偶然は珍しいからな」
俺の運の良さは周知の事実だと思うが、『丁度』よりも『過剰』になる傾向がある。
例を挙げれば、パジェル王国で勇者を1人探していたら、2人見つけた話が分かり易い。
そんな性質もあり、狙わずに偶然達成したピタリ賞はテンションが上がってしまう。
大は小を兼ねるとは良く言うが、ピッタリという美しさがあるのも事実なのだ。
「という訳で、勇者と最終試練の3対3は確定だ。直接会った訳じゃないから、確実に倒すとは言わないけど、武神アスラと美神フレアは高確率で倒すことになりそうだな」
今までの経験上、話の通じる最終試練は存在しない。
今回はそれに加えて魔王の配下という要素もあるので、倒さない選択肢はほとんどないだろう。邪神獣ヘルだけ、ワンチャンあるかどうかだ。
「マッチングは実際に最終試練を見てから決めるつもりだが、個人的にはシンシアと武神アスラの戦闘狂対決が見てみたいな」
「質問ですが、勇者と最終試練は1対1で戦わせるんですの?」
「……いや、本人が望むならパーティで戦っても良い」
セラの質問に少し考えてから答える。この際だから、細かい方針も決めておこう。
「リコとアスカに固定のパーティはないだろうから、俺の配下の中から協力者を集うのは許可しよう。それと、勇者が止めを刺すかどうかは任意とする。勇者対最終試練のマッチングは決めたが、目的は討伐ボーナスを勇者に与えることじゃないからな」
勇者に止めを刺させることを強要して、余計な縛りプレイをさせるつもりは無い。
討伐ボーナスはオマケであり、勇者対最終試練のマッチング自体が目的なのである。
「ご主人様、パーティの最大人数は何人?」
「うん?6人くらいで良いんじゃないか。何でそんな事を聞くんだ?」
ミオが不思議な質問をしてきたので、やや適当に答えながら聞き返す。
「ご主人様の配下に、最終試練の討伐ボーナスが欲しい人、一体何人居ると思う?」
「……そんなに多いのか?」
「討伐ボーナス自体も強力だけど、ご主人様とお揃いの称号、スキルを得られることが、一部の人達にとって、どれだけ魅力的なことだと思う?下手すると、戦争よ」
ミオがボカして言ったのは、一部の人達のことだよな。
「…………パーティは、平和的に決めるように」
俺には、それだけ言うのが精一杯だった。
その後、重要度は低めだが共有した方が良い質問を3つ拾い、質疑応答を終了した。
情報共有、質疑応答が終わったので、最後は目標や方針を決めていく。
「最も重要な目標は、魔王を殺さず、元の人格を取り戻すことだ。現時点で具体的な方法が分かっていない。言い方は悪いが、行き当たりばったりで何とかするつもりだ」
「臨機応変って言えば、少し良く聞こえるわよ?」
「臨機応変に何とかするつもりだ」
ミオのアドバイスを即座に反映してみる。
「しかし、何も考えずにこの目標を達成すると、確実に世間は大混乱に陥るだろう。勇者が倒した訳でもないのに、魔王が行方不明になるのだから当然だよな」
「500年前の件もあるから、魔王が魔族領を出たと勘違いされるかもしれないわね」
「四天王も行方不明ですから、余計にそう思われると思いますわ」
近い内に、サノキア王国で準備中の勇者達が魔族領に踏み込むことになる。
苦労して魔族領を進み、魔王城に到達したのに、魔王と四天王が行方不明だったら、大混乱間違いなしである。
勇者が魔王を倒したら女神から神託があるのだから、倒せていないことも明白だ。
「だから、目標を達成する前に、目標を達成した後のことを考えておく必要がある」
流石の俺も、世界規模の話で行き当たりばったりはできない。
「現時点で考えられる方針は大きく3つある。1つ目は魔王や女神の真実を隠し、世間の混乱を防ぐ方針。その場合、カバーストーリーを考え、魔王の行方不明を誤魔化す必要がある。2つ目は真実を公表し、世間の混乱と引き換えにマッチポンプを終わらせる方針。こちらは公表の際に証拠が必要になる」
「2つ目の方針ですが、女神教を納得させるのは困難だと思いますわよ」
「別に全人類を納得させる必要は無い。そういう説があると、周知させるだけで十分だ」
女神を強く信仰している連中に対して、懇切丁寧に説明して納得させるつもりなどない。
信仰の薄い、あるいは無い連中から徐々に真実を広めていけば良い。
「複数の国のトップを抑えているから、周知するくらいならきっと簡単だろう」
「ご主人様の王族コレクションが火を噴く訳ね!」
「すごく、人聞きが悪いです……」
「否定したいけど、否定できる余地が無いんだよなぁ……」
コレクションしたつもりは無いが、コレクションされているのは事実である。
「お兄ちゃん、コレクションの第一号は私よね?」
「いや、第一号はサクヤじゃなくてドーラだな」
《ドーラもおひめさまー!》
「あ……!」
王族感が0なので忘れがちだが、ドーラも竜人種の姫である。
当時は知らなかったが、最初に配下にした王族はドーラということになる。
「よく考えたら、ご主人様がこの世界で初めて配下にしたのってドーラちゃんなのよね?」
ミオに問われ、少し記憶を遡る。
ドーラをテイムした直後に<契約の絆>を取得し、さくらと契約したはずなので、最初の配下はドーラということになる。
「ああ、そうだな」
「つまり、ご主人様が異世界転移して早々に、王族コレクションの1ページ目が埋まっていたってことになるわよね?」
「……………………」
俺の異世界生活、開始直後から王族コレクションが始まっていたのか……。
「……さて、3つ目の方針について話そうか」
「あ、話を逸らした」
「3つ目の方針は、魔王や女神の真実もカバーストーリーも公表しないというモノだ。魔王は行方不明となり、世間は大混乱するだろうが、知らぬ存ぜぬを貫く」
世間は混乱するだろうが、その原因が俺にあると突き止められる者などそうは居ない。
そもそも、犯人探しが始まることすらないだろう。
「お兄ちゃん、3つ中2つも世間が混乱する方針なんだけど……」
「何も考えず行動することが問題であり、後のことを考え、準備ができているなら、世間が混乱すること自体は構わない。混乱を防ぎたいなら真実を隠す方針しかないが、正直言って俺はその方針が気に食わない」
方針として挙げたものの、1つ目の真実を隠す方針は不快なものである。
「私はその方針が1番良いんだけど……。ちなみに、1つ目の方針が嫌な理由って何?」
女王のような為政者としては、世間の混乱なんて望まないだろう。
気持ちは分かるが、俺としても許容できることとできないことがある。
「……どうして、俺が女神の歪めた真実を守るために、嘘を吐かなければならないんだ?どうして、気に食わないマッチポンプの片棒を担がなければならないんだ?」
世間の混乱を防ぐと言えば聞こえは良いが、歪んだ現状を維持しているだけである。
歪んだ現状を維持するために、無駄な労力を支払う?不愉快なマッチポンプに加担する? ……気に食わないにも程がある。
「ゴメン。お兄ちゃん、私が悪かった。確かに1つ目は無いわ。だから怖い顔止めて?」
「ご主人様、落ち着いて。どうどう」
殺気が漏れていたようで、サクヤが涙目になり、ミオが落ち着かせようとしてくる。
俺は暴れ馬ではない。落ち着きました。
「それで、お兄ちゃんはどの方針を選ぶつもりなの?」
「あえて言うなら、3つ目の何もしない方針になるかな。この方針だけが、後で方針転換できるから」
「……もしかして、後で方針を変える可能性が高いの?」
「正直、方針転換する可能性は低くないと思っている」
『何もしない』にも色々あって、今回の場合は『もう少し後で決めたいから、現在は何もしない』と言うのが一番正しいだろう。
一度決めたら引き返せない決定がある場合、保留というのも立派な選択肢の1つである。
「理由は、魔王を元に戻した後に控えているのが、女神を殴るイベントだからだ。女神と直接話をしたら、3つの方針を選び直す必要が出てくるかもしれない。あるいは、4つ目の方針が出てくるかもしれない」
「……うん?今の言い方だと、1つ目の方針を選ぶ可能性もあるように聞こえるけど?」
俺の発言の違和感に気付いたミオが尋ねてくる。
「ああ、万が一、億が一の話だが、女神にマッチポンプの理由を聞いて、俺が納得して協力せざるを得ないような物だった場合、1つ目の方針を選ぶ可能性はある」
「お兄ちゃんは、どんな理由があったら、納得して1つ目の方針を選ぶ?」
「私も気になるわね。そもそも、そんな理由がこの世に存在するの?」
「知らん。俺も思いつかないからな」
残念ながら、サクヤ、ミオの問いに対する答えを持っていない。
今までの女神の所業を考えれば、女神に協力する可能性は限りなく0に近いだろう。
「だが、可能性が0じゃない以上、検討はしておいた方が良いだろう。逆に、『女神絶対に許すまじ』となれば、真実を公表して女神教を潰しにかかる予定だ」
今までの女神の所業を考えれば、こちらの可能性はそれ程低くない。
「現状、情報が足りないので、目標達成後にどうすべきか決めきれない。だから、とりあえず魔王を倒した時点では何もせず、後でどの方針を選んでも良いよう、準備だけ進めておきたい。つまり、臨機応変に対応するってヤツだな」
2回目の臨機応変である。便利だね、臨機応変って言葉。
「この場では、その準備について話し合いたいと思っている。例えば、真実やカバーストーリーを公表する場合、魔王と戦う建前や立場をどうするかって話だな。これは、1人で決めるより意見を集めた方が良い結果になると思う」
自分1人で考えただけだと、どうしても抜け漏れが出てくる可能性がある。
様々な状況を想定する場合、できるだけ多くの意見が出るよう、人を集めた方が良い。
「ようやく、本題に入ったって感じね。意見を集めた方が良いのは賛成だけど、ちょっと人を集めすぎじゃない?ご主人様の配下の内、かなりの人数が念話で話を聞いているわよ?」
ミオに言われて確かめてみたところ、配下の半数近くが念話でこの話を聞いていた。
急ぎの予定や仕事の入っていない配下は、ほぼ全員が参加しているらしい。
「……流石に全員参加で話し合いをするつもりは無い。質疑応答の時と同じように、アルタに意見の集約を任せようと思う」
A:お任せください。
アルタが有能なおかげで、本当に楽をさせてもらっている。
2時間に及ぶ話し合いの末、ようやく方針と準備に関する詳細が定まった。
「それじゃあ、俺に関わるメインの方針を軽くまとめて行こう。まず、俺は女王騎士ジーンとして、女王サクヤからの極秘任務を受けて魔王討伐に向かう。サクヤは極秘任務を出してくれ」
実際に魔王を討伐する気は欠片も無いが、魔王と戦うだけでも建前が必要となる。
俺は魔王と戦うための建前として、女王騎士ジーンの立場を使うことにした。
女王騎士ジーンとして行動する以上、サクヤの命令が必須となる。首脳会議で勇者に対する不信感を表明したサクヤならば、ジーンに魔王討伐を命じても不自然ではないだろう。
「それっぽい書類を作っておけば良いのよね?」
「ああ、ジーンと魔王が戦ったことを公表する場合、公的な文書として残っていれば、説得力が増すはずだ。ただし、公表しない場合は闇に葬るから、くれぐれも内密に」
「了解!」
魔王討伐の指示が書類として残っていれば、真実を公表する時にも、誤魔化してカバーストーリーを公表する時にも使えるだろう。
必要になってから作るのではなく、予め作っておくことで、嘘を吐く必要もなくなる。
「次に、実際に魔王の元へ向かうのは、俺、マリア、タモさんの2人と1匹だ。マリアとタモさんは透明化して隠れて同行してもらう」
「はい、お任せください」
《任せろ》
女王騎士ジーンに対する極秘任務だから、関係者は極力少なくする必要がある。
しかし、俺が1人きりで行動する事を、マリア達が許容できなかったため、透明化した状態での同行は許可することとなった。
「移動はブルーに任せるが、魔王城には入らず、上空で待機しておいてくれ。時間がかかりそうなら一旦帰ってくれても構わない」
《空の移動は任せて!それと、ご主人様が帰れと言わない限り、私は帰らないからね!》
ジーンの騎竜でもある天空竜に乗り、魔王城まで空路を行くことにした。
魔王の元に向かう同行者にブルーを含めず、上空での待機を指示したのは、ブルーを同行させるには、人の姿になる必要があるからだ。
魔族しか居ないだろうが、俺の騎竜が竜人種だと公開する気はない。
上空で不毛な時間を過ごさせることは申し訳ないが、忠竜であるブルーは、俺が指示しない限り、自分の意思で帰還することはないと言うので仕方がない。
「シンシア、リコ、アスカは女王騎士ジーンの部下として、パーティを組んで魔族領に侵入し、最終試練と戦ってもらう」
『分かったのです!』
『お任せください!』
現地勇者のパーティは、同行者ではなく別動隊として最終試練と戦ってもらう。
女王騎士ジーンには、女王騎士ではない独自の部下が居るが(居るという設定はさっき生えた)、飛行手段を持たない(実際はある)ので地上部隊として行動することになる。
余談だが、鬼人の勇者は会議に参加していない。
一般常識と非一般常識を勉強中のアスカは、会議に参加したところで、内容を半分も理解できないだろうから仕方がない。
不参加者の予定を勝手に決めるのはどうかと思うので、会議の途中で確認したところ、『何でもする』との回答を貰うことになった。ホントこの子、『何でもする』な……。
「最終試練の様子によっては、必ずしも討伐する訳ではない。真っ当な奴なら、倒さずに無力化することになる。今まで、まともな最終試練が居なかったから、可能性は低いかもしれないけど……。一応、邪神獣ヘルだけは少し採点を甘くするつもりだ」
俺の方針として、テイムした魔物がテイムされる前に行ったことは不問としている。魔物をテイムする以上、それは許容すべき事である。
ただし、テイムする前からその魔物の性格や所業を知っていれば話は別だ。俺が度を越えたと判断したら、そもそも最初からテイムしようとすることはない。
邪神獣ヘルだけは、モフモフ要員候補として、採点が甘くなるので悪しからず。
「同行しないさくら、ドーラ、ミオ、セラの4人は、魔族領の包囲に力を貸してくれ」
「分かりました……」
《はーい!》
「おっけー!」
「承知しましたわ」
今回、マリア以外のメインパーティメンバー4人は、他の配下と共に魔族領の包囲作戦に参加してもらうことになった。
この作戦は、魔王攻略後に魔族が魔族領から出ることを防ぐために行う。
従来とは異なり、魔王が勇者に討伐される訳ではないので、魔族がどのような行動に出るか分からない。予め魔族領を包囲しておき、魔族の暴走に備えるという訳だ。
「魔王との決戦だが、まずはマップが確認できるまで近づいたら、魔王のステータスを確認する。可能性は限りなく0に近いが、対処不可能と判断したら作戦中止だ。逃げるようで非常に不本意だが、俺1人で済む話じゃないから仕方がない」
俺は逃げるのが大嫌いだが、何があろうと絶対に逃げないと誓った訳ではない。
主に、親しい人の生死が関わる時は、『逃げる』コマンドを選択肢に入れる事もある。今回の場合、魔王の元人格を確実に助けるために、無策で突っ込む訳にはいかないのである。
「その場で元人格を取り戻せるのが1番だが、不可能だった場合、石化か凍結させて<無限収納>に格納する。それも出来ない時に備え、エステア迷宮に隔離エリアを作っておく。それも駄目なら亜空間に送る」
《お任せ下さい……ピョン。その日はアレコレ理由を付けて、迷宮内に居る人が極力少なくするようにしますピョン》
迷宮側の準備は、主任迷宮保護者のキャロに任せてある。
……ほとんど仕事をしない迷宮支配者でゴメンね?
また、迷宮でも魔王を抑えきれない場合、災竜の亜空間に放り込んで無力化する予定だ。
「さくら、頼んでいた魔法は出来たか?」
「はい……。二か所の空間を繋ぐ『ゲート』という魔法を創りました……」
「上手く出来たみたいだな。ありがとう」
「いえ、お役に立てたなら幸いです……」
配下ではない魔王に『ポータル』や『サモン』は使えない。
魔王を迷宮や亜空間に送るため、さくらに新しい魔法を創ってもらった。
魔王が魔法を無効化できる場合を考え、相手を直接転移させる魔法ではなく、空間を繋ぐ魔法にしておいた。
「無事に魔王を回収した後は、魔族の動向を見つつ、魔王城周辺の魔族は殲滅する。勇者が魔族領に来た時のことを考えても、目撃者を残すメリットは存在しないからな」
目撃者だけを消すことは難しいので、魔王城と移動経路の周辺に居る魔族は皆殺しだ。
後のことを考え、全ての魔族を殺すことは目標としない。
「このタイミングで、包囲作戦の方に動きがあるかもしれないのよね?」
「ああ。誰一人、魔族領の外に出さないようにしてくれ」
「500人以上が参加しますから、余程のことが無い限り大丈夫だと思いますわ」
「ステータス制限をかけないのも大きいわね。もちろん、本気でやるわよ」
「ええ、油断は致しませんわ」
セラとミオの言うように、包囲作戦には500人以上の配下が、ステータス制限なしで参加することになっている。
出番がない可能性も高いのに、何故か参加希望者が非常に多かった。ミオ曰く、俺が指揮する作戦に参加できるだけで嬉しい者が多いとのこと。信者かな?
「それと同時に、魔王討伐のカバーストーリーに役立ちそうな物を探す。アルタはマップ上に有用な物が無いか探しておいてくれ」
A:お任せください。
可能性は低くても、女神や魔王の真実を隠す場合の事も考え、『魔王を倒した証拠』になるような物を回収しておく予定だ。
今までの常識を覆す所業なので、相応に説得力のある何かが見つかると嬉しい。
「後処理が終わり次第、ブルーに乗ってカスタールに帰還する。行きも同様だが、ジーンとして行動している最中は転移魔法などで移動を省略することはしない」
ジーンの設定上不可能なことは極力しない。どうしても必要な設定のみ追加で生やす。
今回、新しくジーンに生えた設定は、『女王騎士ではない部下が居る』と『何故か魔王にダメージを与えられる』の2点だけである。
『転移魔法が使える』の設定は生えていない。
「最終試練との戦いが終わっているなら、この時点で現地勇者組も帰還を開始してくれ。悪いが、転移魔法は禁止しておく。また、包囲作戦組も問題が無ければ、最低限の人数を残して解散で良い。こちらは逆に転移魔法を推奨する。人数が多すぎるからな」
仮にジーンの活躍を公表した場合でも、包囲作戦組のことは公表しない予定だ。
500人以上に知られている極秘任務って何だよ……。
「実際に魔王や魔族と戦う時の方針はこの辺までだな。七宝院達の予定では、後2週間くらいでサノキア王国から魔王討伐部隊が出発するんだよな?」
偽勇者組の代表である七宝院に確認する。
《はい。約2週間後、私達元勇者、現役勇者、Sランク冒険者の合同パーティで魔王討伐に出発する予定になります。進堂様がお望みでしたら、予定を変えることも不可能ではありませんが、如何いたしますか?》
「いや、予定を変える必要はない。そのまま、準備を進めてくれ」
《承知いたしました》
現在、俺の軍門に下ったサノキア王国が魔王討伐を主導しているので、俺の都合を魔王討伐のスケジュールに反映させることも不可能では無い。
しかし、この魔王討伐のスケジュールは、各国と調整した結果決まったものだ。いくら主導している国だとしても、勝手な都合で変更したら他国の反発を招く。
また、魔王が行方不明と判明した時、変な疑惑をかけられても困るので、直前に怪しい動きをするような真似は控えた方が良いだろう。
「できれば、その2週間の間に女神を殴りに行って、必要な情報を入手しておきたいな」
「ご主人様、2週間で魔王倒して女神を殴るって、かなりハードなスケジュールよね?」
「それでも、方針を決めるのは早い方が良いからな」
魔王の人格を元に戻した後には、女神を殴りに行く仕事が待っている。
魔王攻略後の方針を決めるのは、女神から情報を得た後になる。時間的な余裕がある方が、選択肢が広がるので、女神を殴りに行くのはできるだけ早い方が良い。
勇者達が魔王討伐に出発する前に方針を決めれば、最も選択肢が多くなると思うので、これを1つの目標として設定しておこう。
しかし、女神を殴りに行く予定は、俺の都合だけで決められるものではない。
女神の領域には、真紅帝国皇帝と共に行くからである。
スカーレットは何の後腐れも無く女神を殴るため、真紅帝国の皇帝を引退する準備を進めている。前に聞いた予定では、そろそろ終わるはずだが……。
スカーレットには幾つか報告する事があるので、その時に状況を聞いておこう。
「そこで方針を決めたら、俺の仕事はほぼ無くなる。その後のことは、基本的にアルタとサクヤに任せることになる。頼んだぞ」
「うん、大変そうだけど頑張るわ」
A:お任せください。
情報処理はアルタが、情報公開や混乱対応は大国の女王が行うことになる。
俺の仕事は、必要な時にジーンとして発言するくらいだろう。
「俺が関わる話はこれくらいだな。決めた通りの内容になっていたか?」
A:はい。問題ありません。
「それじゃあ、作戦決行は2日後だ。各自、準備を進めてくれ」
これから、忙しくなりそうだ。
その後、モフモフ祭りを開催した。モフモフ……。
王族コレクションが最初の1人目からスタートしていたのは、本話を書いている時に気付きました。