第210話 秘宝探しと最後の一人
あらすじ:
何もかも巨大な巨人島に商人のフリをして観光に来た仁。
巨人族が呪われていたのでポーションを売って恩も売った。
転生者の楓を案内役に巨人島の観光を開始する。
かつての転生者が残したレアなアイテムをゲット(点字を読めることが条件)。
宝石鉱山でダイヤモンドなどの宝石をゲット。
呪いの原因である魔王軍四天王を呪い返しで撃破。
島の観光を再開したら、湖の近くで地下通路を発見。当然入る。
封鎖された部屋で転生者の性癖を知る。後、巨人島の秘密も。
間章の第4話で登場したサイキョー装備が大活躍します。
読んでいなくても、一通りの説明はしています。
むしろ、今まで大した説明をせずに引っ張っていました。
林に性癖で殴られ……違う。ギガント湖でリージョンコアを入手した翌日、林の秘宝を求め、巨人島を探索することにした。建前上は今まで通り、商品になる物の調査である。
何があるか分からない状態の探索も楽しいが、明確に秘宝があることが分かると、やる気は当然のように上がっていく。
「まずは地図上でアタリを付けよう」
そう言って、俺は地図をテーブルの上に広げた。
「林さん、名前にヒント入れるタイプよね。しかも結構分かりやすいヤツ」
「ああ、だから地図にある地名である程度は絞れるはずだ」
ミオの言う通り、林が関わった地名には、分かりやすいヒントが隠されていた。
宝石鉱山に金剛宝山、巨大化の秘密が眠る湖にギガント湖と名付けているのだ。同様に、怪しい名前を持つ土地に林が関わっている可能性は低くない。
「日本の知識が必要だから、さくら、ミオ、探すのを手伝ってくれ」
「おっけー!」
「はい、頑張ります……」
偶然ではあるが、マリア、セラのネタバレ組には日本知識がなく、マップ禁止組のさくら、ミオには日本知識がある。ドーラは……。
《ドーラもやるー!》
「分かった。じゃあ、俺の膝の上においで」
《うん!》
残念ながら、日本知識もなく幼いドーラはほぼ無力だろう。
とりあえず、膝の上に座らせて地図が見えるようにする。例え無力でも、やる気を否定せず、思うままにやらせてみる教育方針です。
「一応言っておくけど、目的は秘宝の『入手』じゃなくて『探索』の方だから、純粋な推理で探してくれ。俺も運や勘には頼らない方針だ。あ、ドーラは勘で探して良いぞ」
《はーい!》
運はテンションで半自動的に決まってしまうが、勘の方は『勘に頼らない』と思えば、空気を読んで登場を控えてくれる。
「ご主人様、チート級の異能が無くても、運や勘だけで探し物ができるのよね。この間のダーツみたいに……」
ミオが言っているのは、パジェル王国で<勇者>を探した時の話だな。
「アレはノーヒントの緊急時にやるモノだ。時間もヒントもある時にする事じゃない」
「やっぱり、楽しくないから?」
「そういう事だ」
確かに、ダーツで行き先を決めれば、一発で目的地が確定するだろう(絶対の信頼)。……でもそれ、楽しいか?最初は楽しくても、すぐに飽きる。というか、飽きた。
今では、時間的余裕がなく、ノーヒントで、重要な何かを探すときだけ使うようにしている。時間とヒントがあるなら、ヒントを使って探す方が楽しいに決まっている。
「今回、隠した相手を知っているのが大きなヒントだ。林の思考をトレースしてみるか」
「あまり、トレースしたくない相手ではあるわね……」
ミオの言葉は辛辣だが、全くの同感である。
林ノート(私的な話)の閲覧が無駄ではないことを切に願う。
林の気持ちになり、3分が経過した。
「一か所、確定した」
「早いわね。しかも、運や勘を使っていないのに『確定』なの?」
「ああ、思考トレースと推理だけで、この『無限山』に秘宝があると確定した」
俺が示したのは、集落から見て西の方角にある『無限山』という山だった。
東の山と呼ばれていた金剛宝山とは異なり、一般的な認知も無限山である。下手をすれば、『西の山』呼ばわりだったかもしれない。
「その心は?」
「無限とは、丸を2つ繋げた文字(∞)で表されることもある。……こんなの、おっぱいにしか見えないだろう!」
「「えぇ……」」
ミオとさくらがドン引きしている。ドーラは気にしていない。
「最近、居心地が悪いですわ……」
「仁様も大きい方がお好きなのでしょうか……」
セラは胸を隠すように押さえ(隠しきれていない)、マリアは自分の胸(結構育った)を見て何かを考えこんでいる。
「地図からは分かり難いが、無限山は山頂が2つある二子山だ。当然、おっぱいだ。俺なら、2つの山頂……いや乳首にそれぞれ別の秘宝を置く。加えて言えば、2つの秘宝は無関係な物ではなく、対になっている物、セットで運用できる物を置くだろう」
「……ご主人様、林さんの亡霊に身体を乗っ取られていたりしない?」
「俺は正気だ。<多重存在>がある俺に精神攻撃は効かないからな」
「いや、言動に正気を感じられなかったから言ったんだけど……」
ミオのガチドン引き表情を見て、心がクールダウンする。
どうやら、思考を林に寄せすぎてしまったようだ。
「コホン。……とにかく、林なら確実に無限山に秘宝を置いているはずだ」
「分かった。とりあえず、ご主人様は今後、林さんの思考トレースは禁止ね」
「私も、止めた方が良いと思います……。いえ、止めてください……」
俺の名推理ではなく、林トレースに対するコメントしか出ない件について。
ミオとさくらが真剣に拒否してくるので、林トレースは使用禁止とした。
林トレースを止めてアイデアを出し合った結果、次の3カ所に行くことが決まった。
・無限山(二子山。∞)
・竹取の林(竹林。竹取物語と『宝物』は関係が深い)
・不上の滝(瀑布。あがらない→ナイアガラという駄洒落)
日本知識が無いと意味が分からず、微妙にインテリが入った林らしい土地名だ。他にも候補はあったのだが、特に秘宝がありそうな場所を上から3つピックアップしてみた。
「それじゃあ、よろしく頼む」
「うん!任せて!」
例のごとく移動は巨人少女商会員6人に任せている。今回の目的地3カ所は、それぞれ距離があるので、巨人族の移動速度でも1日で全て回りきるのは難しいだろう。
6人に確認したところ、楓を含む4人に野営の経験があったので、日帰りコースではなく、ツアーコースで数日掛けて一気に回ることにした。
地理的な都合により、無限山、不上の滝、竹取の林の順に回る予定だ。
……ここで1つ、残念なお知らせがある。
移動は巨人少女に任せると言ったが、今までのように胸に抱えられての移動ではなく、背負子に乗っての移動となっている。
流石の俺も、胸に人を抱えて登山しろとは言えない。数日間、胸に人を抱えたまま行動しろとも言えない。
そして、1度でも背負子を用意してしまった以上、「次は胸に抱えてくれ」とも言い出し難い。俺の特等席は、こうして消滅したのだった。無念……。
「ジンさん、聞いて欲しい話があるの」
「何だ?」
「私、ニホンには戻らない。この島で生きていく」
無限山に向かう道中、楓は走りながら唐突に日本に戻らない宣言をした。
「良いのか?」
「うん。ジンさん、言ったよね?私がニホンに戻っても、幸せにはなれないって」
「『なれない』じゃなくて、『難しい』だな」
実際のところ、楓が日本で幸せになるのは、相当にハードルが高い。これは、楓が俺の配下となり、手厚いサポートの対象者となった今も変わらない。
楓の幸せが『日本に戻る』だけなら、『転生の秘宝』を使って人間になるだけで良い。しかし、『両親と暮らす』を目的にすると、急激に難易度が上がる。
なにせ、元の世界で楓は死んでいる。新しい戸籍くらいならどうにでもなるが、死亡届を無かったことにするのは流石に難しい。
一番現実的なのは、楓の両親に事情を話して、楓を養女にしてもらうことか? ……それ、本当に現実的か?
「今の私はニホンにいた頃とは別人だから、ニホンに戻ってもパパとママを困らせるだけだと思ったの。それに、よく考えたら今のお父さん、お母さんと会えなくなるのもイヤ。パパ、ママも好きだけど、お父さん、お母さんも好きだから」
朗報。お父さんとお母さん、パパとママに大敗ではなく惜敗だった。
「ニホンに戻って誰も幸せにならないくらいなら、この島で生きていく方が良いよね?この島の生活、不便なことも多いけど、結構幸せだから!」
「分かった。楓がそれで良いなら、俺はその意思を尊重しよう。一応、日本に戻る前には楓にも伝えるから、何かあれば言ってくれ」
「うん、ありがとう!」
衝動的なモノではなく、しっかりと考えた末の選択なら、俺が否定することはない。
個人的には、収まるところに収まったという印象だ。今だから言うが、前世の両親に会うために、現世の両親を捨てるのは、ちょっとどうかと思う。
俺にフォローできることがあるとすれば、楓の手紙を前世の両親に届けるくらいか?
死んだ娘からの手紙なんて、タチの悪い悪戯にしか見えないだろう。仮に信じたとしても、娘に会うことはできないのだから、何の解決にもならない。逆に、どこかで幸せに生きているだけで良いと考えるかもしれないし……。
……よし!俺が考えることじゃないな!ニホンに戻る時に、楓に決めさせよう!
この島の巨大生物は、巨人族の集団には絶対に近寄らない。一度の戦闘もなく、面白いイベントもなく、アッサリと無限山に到着してしまった。
無限山は1000m級の山だが、巨人族換算で言えば200m級になる。景色を楽しむハイキングならともかく、山頂を目指すだけなら大した時間はかからない。
二子山両方の山頂を目指すので、実質2回登ることにはなるが、1日あれば十分だろう。
《想像以上に相応しい形をしていると思わないか?》
楓に背負われたまま、声に出さず念話で皆に話しかける。
無限山の2つの山はサイズ、形状がほぼ同じで、片面は緩やか、もう片面は急な斜面で構成されていた。簡単に言えば、おっぱい山だった。
先にも述べた通り、それほど大きくはないが、形は称賛できるモノだった。
《林さんが無限山って名付けたのも納得ね。正直、理解したくないけど……》
《私より、大きいです……》
《ノーコメントですわ》
無限山の形を人間の身体に合わせると、さくらよりも大きくなる。セラよりは小さい。
《実物を見て確信したよ。ここには、絶対に秘宝がある》
これは、勘に頼らない推理による確信である。
おっぱい星人が、おっぱい山に惹かれるのは当然のことだ。何も残さない訳がない。
登山開始から2時間後、俺達は右乳の山頂に到着した。
到着して5分後に人間サイズの隠し通路を発見した。その先には大きな宝箱があった。
二番煎じの上に、日本知識を活かした謎解き要素も無いので、語ることも無い。よって、大幅にカットさせていただく。補足すると、巨人少女達は素材集め中だ。
「よし!次は左乳だな!」
「……ご主人様、その呼び方止めない?」
緩やかな斜面を首側、急な斜面を臍側としたとき、今は右乳の上に居ることになる。
「分かりやすいだろ?」
「確かに分かりやすいけど、心情的に嫌なのよ」
ミオが嫌がるので、乳呼びは心の中だけにすることにした。
そして左乳。丁度線対称の場所に隠し通路と宝箱があった。大幅カットします。
「ホントに両方の山頂に秘宝があったわね。思考トレース、恐るべし……」
「見つけた秘宝も仁君の言った通りでした……」
これが、右乳と左乳で見つけた秘宝。希少な魔法の道具だ。
連結結界球×2
備考:単体では通常の結界石と同じ効果を持つ。結界の効果範囲内に他の連結結界球がある場合、相乗効果で結界の範囲が大きくなる。同範囲の結界石に比べ、コスト対効果が良い。
通常、魔法の道具には動力源として魔石を供給する必要がある。
これは、魔物除けの結界石も同様であり、効果に応じて要求する魔石の質は変わる。当然、広い結界を張ろうとしたら、質の高い魔石が必要になってくる。
この連結結界球なら、それほど質の高くない魔石2つで、高品質の魔石が必要な結界石と同等の範囲に結界を張る事ができる。つまり、コスパが良いという訳だ。
なお、魔法の道具の説明は、宝箱に同梱されていた林ノート(性癖抜き)に記載があったので、発見者が使い方に困ることは無い。
どうして、ギガント湖のノートには性癖を書いた……。
両方の山頂に秘宝があることも、その2つがセットになっていることも予想できたが、1つだけ予想できなかったこともあった。それは、連結結界球の形状だ。
連結結界球は、その名の通り球体で、大きさはメロンと同じくらいだった。
2つの球体とか、まさにおっぱいじゃん。秘宝の形までおっぱいに寄せて来るとは予想できなかったよ。……これ、胸に入れて爆乳ごっこでもすれば良いのか?
無限山の麓で野営をして、翌日の昼前には不上の滝に到着した。
不上の滝を見た瞬間、俺は秘宝の存在を確信した。
何故なら、不上の滝がナイアガラの滝(カナダ滝)に似ていたからだ。
瓜二つ、とまでは言わない。しかし、『ナイアガラの滝に似ているだろ?』と問われれば、迷わずに『Yes!』と言える程度には似ている。
なお、巨人島クオリティなので、実物のナイアガラの滝よりも大きい。
名前に関連があり、見た目も似ているなら、林関連と考えて間違いないだろう。
「さて、問題です。滝にお宝を隠すなら、何処に隠すでしょう?」
「はい!滝の裏です!」
俺の問いに対し、ミオが思い切り手を挙げて答えた。
そして、俺達の目の前には、巨人族は通れないけど、人間ならギリギリ通れて、滝の裏側に続いていそうな細道が……。
以下省略。
浄化の宝珠
備考:周囲の汚染、瘴気などを浄化する宝珠。空気の浄化も可能だが、水の浄化の方が効率的に行える。
空気清浄機とか、浄水場みたいな魔法の道具を手に入れた。
補足しておくと、不上の滝は元々綺麗な滝であり、『浄化の宝珠』により水質を保たれている訳では無い。疑惑を持たれそうな置き場所だったので念のため。
その日の夕方近く、最後の目的地である竹取の林が見えてきた。
巨人島に相応しいサイズであることを除けば、ごく普通の竹林に見える。
巨人島では竹製の道具も使われているし、商会を経由して輸出もされている。しかし、巨人族が竹取の林を訪れることは滅多にない。
理由は簡単。他の林でも竹は伐採できるからである(例の多様性)。微妙に遠く、竹しか伐採できない竹取の林に来る意味はほとんどない。
《さて、今回は何処に秘宝があると思う?》
《うーん、竹取物語が元ネタなら、竹の中かしら?》
《それなら、光っている竹を探しますか……?》
竹取物語と宝物の関係は深いが、竹が出てくるシーンでは秘宝は出て来ない。そこで出てくるのは、かぐや姫本人だ。
かぐや姫を宝と考えて探すなら竹の中が有力だが……。
《今まで、秘宝が隠されていたのは、巨人族が入れない場所ばかりだった。今回だけ、誰でも取れる場所に、光る竹という目印まで付けるとは考えにくくないか?》
《確かに、光る竹なら巨人族が見つけていてもおかしくないわね》
竹取の林に巨人族が来ることはほとんどないが、それは絶対ではない。今までの林の傾向からして、そんな中途半端な隠し方をするとは思えない。
偶然ではなく、必然でしか辿り着けないのだろう(ギガント湖の円周率除く)。
《他の秘宝と同じなら、どこかに隠し通路があるのだろう。そして、隠し通路のヒントになる物もあるはずだ。流石に、この広い竹林をノーヒントで探させることは無いと思う》
《竹林の外から見て分かるヒントだと良いんだけど……》
ミオはそう言ったが、今の俺達の居る場所からは、竹林の一部しか見えない。背負子の中から少し周囲を見渡してみる。お、丁度良いものがあるな。
「楓、悪いけど向こうの丘に向かってくれないか?」
「え?うん、良いよ」
楓達に頼み、小高い丘を目指してもらう。少し上から竹取の林の全体像を見てみよう。
《アレは、黄色い竹か?》
丘の上から竹取の林を見たところ、中心部だけ明らかに竹の色が黄色い。
怪しい……。
《仁君、あの黄色い竹の近くに秘宝があるはずです……。多分、竹取物語に出てくる金の竹がモチーフだと思います……》
《金の竹なんて出てきたっけ?》
《はい……。私が図書館で見た本には出てきました……》
残念ながら、俺は竹取物語を本でじっくり読んだことは無い。話の概要は知っているが、省略されたチョイ役までは知らない。チョイ役……チョイ竹?
《そう言えば、さくらは文学少女だったな。元の世界では図書館に入り浸っていたのか?》
《はい……。図書館なら、嫌な目に合う確率が低かったですから……》
《…………》×4(俺、ミオ、マリア、セラ)
それは聞きたくなかったかな……。
「楓、あの黄色い竹を目指してくれ」
「あそこの変わった色の竹だね。うん、分かった!」
気を取り直して、楓達に黄色い竹を目指すように指示を出した。
丘を下り、竹取の林をしばらく進むと、緑色の竹の中に黄色い竹が混じり始めた。
このように、徐々に変化するタイプなら、目的地は変化の中心点に決まっている。
そして、中心部に到着、隠し通路を発見、秘宝も発見。
月の魔石
備考:魔石と同様に魔法の道具の動力源として使用できるが、実際には魔石ではない。魔力を失っても、月光に当てると魔力が充填される。最後まで使い切ってから充填しないと、最大容量が低くなる。
最初は5つの秘宝に似た物が入っていると思ったが、さくらの言うように物語序盤がモチーフなら、その可能性は低いと考えを改めた。
実際に入っていた秘宝も、かぐや姫をイメージしやすい月に関する代物だった。
月の魔石を簡単に説明すると、魔石の充電池ですね。最大容量の下りも含めて……。
竹取の林を抜けると日が落ち始めていたので、野営をしてから集落に戻ることにした。
推理で決めた三カ所全てで秘宝を発見できたのは気分が良い。これは、手に入れた秘宝に使い道があるかどうかとは別の話である。多分、使い道は無い。
復活させた俺の勘によれば、巨人島にはまだ幾つかの秘宝が残っているが、今回の三カ所で満足した俺にそれらを探索する予定はない。マップを使って回収するつもりもない。
林ノートと合わせて、後世に託そうと思う。性癖を託されても困ると思うが……。
探索に満足し、気持ち良く寝ていると、良くない気配を感知して目が覚めた。
「ようやく来たのか?」
「はい。転移により、魔族が巨人島に侵入してきました」
身体を起こして呟くと、どう見ても寝ていなかったマリアがそれに答えた。
実を言えば、四天王の1人である『奪命のグレイブフォード』を倒してから今まで、ずっと魔族の侵入を警戒していたのだ。
何故なら、グレイブフォードは巨人族を連れ帰る方法を何一つ持っていなかったからだ。
グレイブフォードは、巨人族を傀儡にして勇者と戦わせることが目的と言っていたが、巨人島から勇者の居る大陸まで移動するのは容易なことではない。
巨人族を連れて帰るとなれば、転移能力でもなければ不可能と言っても良いだろう。
グレイブフォード自身は転移を実現する術を持っていなかった。
しかし、グレイブフォードは傀儡であるコジローを、人形を使った転移により呼び出していた。そんな効果を持つ人形を作ることは、グレイブフォードには不可能だ。
ならば、グレイブフォードには協力者がいたと考えるのが自然だろう。そんな事が可能なのは、他の魔族に決まっている。
仮にグレイブフォードの企みが成功していた場合、転移能力者は巨人族の回収要員として、巨人島に侵入してくる。
グレイブフォードの死を認識しているなら、調査のために巨人島に侵入してくる。
どちらにせよ、数日以内に魔族が侵入してくる可能性は低くないと思っていた。
「それで、魔族は何処に現れたんだ?」
「はい。『竹取の林』に現れました」
「近いな!?」
想像以上に近くに現れたので驚いた。
確かに、巨人族の集落から微妙に遠くて、巨人族が近寄らない土地だから、転移先として悪くない選択だとは思う。
「まぁ、速やかに処理するには、丁度良いとも言えるか……」
「詳細は、仁様ご自身でご確認ください」
「ああ、そうさせてもらう」
第二の観光を始める前から、1つ決めていたことがあった。
それは、『巨人島に魔族が侵入したら、マップ縛りを止める』というものである。
そもそも、マップを禁止したのは商人として行動しているからであり、グレイブフォードを倒したのも、本質的には商売の邪魔だったからである。
しかし、転移能力持ちの魔族は前提条件が違う。その存在が許容できないから殺す。仮に商売の邪魔にならなくても確実に殺す。
そして、商人の行動とは関係なく殺すと決めた以上、マップを縛る理由は存在しない。
アルタ、魔族の情報を表示してくれ。
A:はい。
名前:ナーハルティ
LV99
性別:女
年齢:19
種族:魔族
スキル:<剣術LV6><闇魔法LV6><無詠唱LV3><忍び足LV6><彫刻LV8><空間魔法LV6><身体強化LV6>
呪印:<存在交換LV->
<存在交換>
魔力によりマーキングした2つの存在の位置を入れ替える。予め条件を設定することで、呪印の持ち主がその場にいなくても効果を使用できる。
やはり駄目だな。コイツを逃がす訳にはいかない。
グレイブフォードを見た時にも感じた事だが、魔王軍四天王の呪印の多くが暗躍に向いた物だった。
そして、ナーハルティの呪印は、どう考えても暗躍との相性が良すぎる。
ナーハルティが居るだけで、魔族の暗躍が数段階飛ばしで厄介になるだろう。俺が知らないだけで、今までの魔族の暗躍にも関わっていたのかもしれない。
魔族の暗躍は、大抵の場合が人類種から見て不愉快極まりない物だ。
きっと、ナーハルティが生きている限り、魔族の不愉快な暗躍は増え続ける。まだ見ぬ観光地が被害を受けることもあるだろう。それは許せん、死ね。
だから、商人としてではなく、1人の観光客として、コイツを殺すと決めた。
決意を新たにしたところで、状況説明のためにドーラ以外の4人を起こす。
良い子は寝る時間だから、ドーラは起こさないように気を付け、『ルーム』の魔法を使って別室に移動する。防音なので、声を上げても大丈夫だ。
「予想通り魔族が侵入してきたので、殺しに行こうと思う。殺害現場を見たい人は挙手!」
「人聞き悪いわよ?」
「はい!」
「マリアちゃんも即答しないで……」
流れるようなミオの突っ込みが冴え渡る。
マリアの場合、殺害現場を見たいというよりは、俺に付いてきたいだけだろうけど。
「ぞろぞろ連れだって行ってまで見たいモノでもないし、ミオちゃんはパスしておくわ」
「私も止めておきます……」
ミオとさくらは不参加。まぁ、嬉々として殺害現場を見たがる性格じゃないよな。
「私はどちらでも良いですわ」
「じゃあ、セラもお留守番だな。どう見ても隠密向いてないし……」
「それ、褒めているんですの?貶しているんですの?」
「褒めているんじゃない?存在感があるって意味だから」
「なら良いですわ!」
普通に考えて、高身長、ナイスバディな金髪美人に隠密行動は無理だよね?洋画の女スパイから目を逸らしつつ……。
隠密行動の得意な俺とマリアで、闇に紛れて四天王をSATSUGAIするとしよう。
……おっと、その前にすることがあったな。
俺は『ルーム』から出ると、『武器召喚』により手元に英霊刀・未完を呼び出した。
商人が武器を持っていたら不自然なので、カスタールの屋敷に置いておいた物だ。
<無限収納>からの取り出しより、『武器召喚』の呼び出しの方が、ほんの少しだけ反応が早いのである。
そして、英霊刀・未完に<拡大解釈>を使用する。
通常、<拡大解釈>を使用した武器は、解除した瞬間に崩壊する。
しかし、<聖魔鍛冶師>を持つミミが打った精霊刀・至世と『精霊化』した英霊刀・未完は、精霊の性質を持つため崩壊を免れることができる。
こうして、神話級装備である英霊刀・未完は、創世級装備である神霊刀・至世・完へと進化を遂げた。
「ほい」
俺はその場で神霊刀・至世・完を軽く振るった。
-ビシッ!-
何かが断ち切れる音とともに、巨人島が外界から隔離された。
創世級装備ともなれば、単なる武器の範疇には収まらず、法則にすら干渉する。
創世級の刀は『切断』の概念を具現化した存在だ。この刀なら、空間だろうが法則だろうが、邪魔な物はぶった切ることができる。
もう少し詳細に説明すると、この刀は俺が認識している座標を問答無用で斬れる。
認識さえしていれば、物も空間も法則も距離に関係なく斬ることができる。……この瞬間、<飛剣術>の存在意義が失われた気がする。
さて、ここで重要なのが、何を指して『認識』とするかという問題だ。基本的には視認を指すので、見えない物は斬る事ができない。
しかし、俺は基本的ではない『認識』を持っている。そう、マップである。この刀は驚くべきことに、マップ上で認識している対象すらも問答無用で斬り捨てるのである。
例を挙げると、この刀を普通の人間が使う場合、スカートを穿いた女の子のパンツが見えないので、その下のパンツの紐を斬る事はできない。しかし、俺ならばマップでパンツを認識できるので、その紐を斬りパンツを落とす事ができるのだ。
ただ、遠隔で斬る場合、1点注意が必要なことがある。
これは斬撃を飛ばす能力ではなく、空間を直接斬る能力だ。つまり、追尾機能のような物はなく、指定した座標を確実に斬ることになる。
簡単に言えば、俺が斬った瞬間に動いたら、目標以外の場所が斬れてしまう。
例を挙げると、俺が斬った瞬間に女の子が動くと、パンツの紐ではなく、女の子が斬られることになる。下手をすれば、パンツではなく命を落とすことになる。
エロい話かと思ったか?これはエグい話だよ。
使い方には注意が必要だが、非常に便利な能力であることに間違いはない。
武器としてはあまりにも過剰な攻撃力を持つため、敵を切るために使うよりも、便利アイテムとして使う事が多くなりそうだ。
加えて言えば、本気でヤバい相手と接近戦をする場合、刀を振っている暇もないし、高速で動いているから遠距離切断も無意味となり、やっぱり殴ることになるだろう。
今回、神霊刀・至世・完は巨人島を外界から切断し、転移や干渉を防ぐ便利アイテムとして役立ってくれた。本当に便利だ。
これで<存在交換>によってナーハルティに逃げられることも、魔王に巨人島での行動を悟られることも無くなったからな。
ナーハルティを殺すと言ったが、実際にはただ殺して終わりという訳にはいかない。
ナーハルティが現在進めている暗躍の内容を知り、観光地の危機ならば救わなければならない。なお、興味が無い土地は放置する可能性が高い。
……いや、配下の誰かは派遣するかもしれないが、俺が行くことは無いという意味だ。
そのためには、殺さずに確保して、<生殺与奪LV9>と<多重存在LV7>のコンボにより、魂から直接情報を引き抜く必要がある。
四天王になって日が浅ければ、転生前の人格が残っている可能性があるので、強い衝撃を与えて戻してあげよう。なお、前述のコンボはこの強い衝撃に含まれるので一石二鳥だ。
元の人格が残っていなければ、最初に述べた通り殺す。どちらにせよ、ナーハルティとしての人格は確実に死を迎える訳だ。
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設定
・仁の武器
英霊刀・未完
分類:刀
レア度:神話級
備考:不壊、覇気、霊体・竜種・獣・鳥・虫・水棲・鉱物・天魔特効、全ステータス大幅向上、魔法吸収、所有者固定
精霊刀・至世
分類:刀、精霊
レア度:神話級
備考:所有者制限、不壊、武器召喚、静寂、精霊化
神霊刀・至世・完
分類:刀(精霊化)
レア度:創世級
備考:進堂仁専用、武器召喚、不滅、概念『切断』、etc
話を大分詰め込んだ気がします。
タイトルの意味ですが、最初の四天王4人の中で、最後の1人と言う事です。




