第208話 後始末と第二の観光
巨人島のお話も佳境です。リザルトを含みますが、まだ少し続きます。
あらすじ:
何もかも巨大な巨人島に商人のフリをして観光に来た仁。
巨人族が呪われていたのでポーションを売って恩も売った。
転生者の楓を案内役に巨人島の観光を開始する。
かつての転生者が残したレアなアイテムをゲット(点字を読めることが条件)。
宝石鉱山でダイヤモンドなどの宝石をゲット。
呪いの原因である魔王軍四天王を呪い返しで撃破。
巨人族の呪いを解き、呪い返しによりグレイブフォードが死んでから一夜が明けた。
「はい!ミオちゃん特製、巨人島クッキーが出来たわよ!」
《わーい!》
「どれどれ……うん、甘い」
「ご主人様、もうちょい食レポ頑張って!」
俺達は巨人族の集落に建てられた、アドバンス商会の巨人島支店で優雅なティータイム……あるいは10時のおやつを楽しんでいる。
「このクッキー、大きくないですか……?」
一般的なクッキーと比べ、明らかに大きい巨人島クッキーを見てさくらが呟く。
「ええ、巨人島の食材で作ったので、大きさも5倍にして巨人島らしさを出してみました」
「美味しそうですけど、1個食べきるのは大変そうですね……」
10時のおやつと言うには若干重く、普通のクッキー感覚で食べるのは難しい。
小食でおやつもあまり食べないさくらには、1個食べるのも厳しいようだ。俺でも1個食べれば十分なボリュームだからな。
「そう言うと思い、こちらにカット済みの物があります。私はこっちを食べます」
「私もそっちにします……」
ミオが追加で取り出したのは、巨人島クッキー1/5カットだった。……それはそれで、元も子もない気がする。
「巨人島らしくと言うのでしたら、125倍の方が相応しいのではありません?」
「……セラちゃん、125倍のクッキー食べたいの?」
「可能でしたら、食べてみたいですわ」
《ドーラもー!》
さくら達とは逆に、5倍でも足りないと言うのは、セラとドーラの大食いコンビ。
縦横高さがそれぞれ5倍となった、125倍のクッキーを想像してみる。……それは最早、『甘い小麦粉の塊』と呼ぶべき存在では?
「マジか……。まぁ、材料は沢山あるから、その内作ってみるわね」
「よろしくお願いします」
《しますー!》
食材が沢山あるのは、村人達が大量にくれたからである。
現在、俺達は全ての巨人族から敬われていると言っても過言ではない。
食材が欲しいと言えば、村人が列をなして食材を運び込んでくるし、支店を作りたいと言えば、土地と木材がその日の内に準備されるほどだ(建てたのは同行していた商会員)。
元々、巨人族は感謝が過剰になりやすいチョロい種族だ。
攻撃者を排除し、村人を苦しめていた呪いを解いた大恩人に対して、感謝のゲージが振りきれてしまったようだ。
なお、正確には『呪いを解いたからグレイブフォードが死んだ』のだが、説明が面倒だったので、村人には詳細の説明はしていない。
俺が回復した村人にした説明は、大きくまとめると次の5つだ。
・集落を呪っていた攻撃者は、魔族であるグレイブフォード。
・椿はグレイブフォードに呪い殺された。
・椿は死んだ状態で操られ、集落に呪いを広める手伝いをしていた。
・グレイブフォードを排除すれば、村人の呪いは解けると言うので戦った。
・グレイブフォードに勝利した。
嘘を吐かないで、不都合があることは隠す高等テクニック(自画自賛)である。
商人として巨人島に来た以上、商人を越える印象を持たれると困る。
上手く情報を操作することで、『集落の大恩人である商人。とても強い護衛付き』という理想的な好印象を得られた。嘘は吐いていない(2回目)。
反面、どうしても悪い印象になってしまうのが椿だ。
俺自身は悪く言っていないが、椿が呪いを広めたのは紛れもない事実であり、村人の中にはそれが許せないと言う者も少なくなかった。
椿は殺され、操られていた被害者だと分かっているのだろうが、どうしても印象が悪くなってしまうのは防げない。
せめて死体があれば、被害者として弔うことで、名誉を守ることができたかもしれない。
『崩壊強化』のデメリットである10分後の消滅は、効果を受けた者の生死に関わらず訪れるものだ。それは、魂と肉体に時限爆弾を仕掛ける行為に等しい。
故に、グレイブフォードより先に死んだコジローも、グレイブフォードの死と共に死亡した椿も等しく消滅することになった。
……と言いたいのだが、椿に関しては楓が目を離した隙にコッソリ<無限収納>に回収している。以下、椿回収の流れである。
椿の死体を見て涙する(楓)→楓に村長の様子を見るように頼む(俺)→椿の側を離れる(楓)→コジローの死体が崩壊する→それを見て驚く(楓)→椿を回収する(俺)→慌てて椿の様子を見る(楓)→椿の死体が無く、呆然とする(楓)
何故、リスクを冒して椿の死体を回収したのか?言うまでもない、蘇生するためだ。
俺達が巨人島に来た時点で椿は死んでおり、俺達にその責任は一切存在しない。
しかし、折角集落を救ったのに、犠牲者が1名出ているというのは、ケチが付くようで気に食わなかったのだ。どうせなら、完全クリアを目指したいよな?
不幸中の幸いとして、<存在冒涜>は蘇生ではないが、魂が肉体から離れることを防いではいた。つまり、<死者蘇生>による蘇生が可能なのだ。
それでも、『崩壊強化』による消滅は残っているのだが、精神や魂を守ることなら<多重存在>の十八番である。何の問題も無い。
幸い中の不幸として、椿は<存在冒涜>で操られていた時の記憶も完全に残していた。呪いを振りまき、集落を滅ぼそうとした自分の言動も……。
<無限収納>に回収された椿の死体は、<多重存在>による魂の保護を受けた後、迷宮で蘇生されることとなった(サイズの都合)。
「私は……何という事を……」
これが、椿の蘇生後最初の一言である。
無表情なのは操られている時と変わらないが、明らかに青い顔をしていた。
「村は……村はどうなりましたか!?」
俺達の存在に気付いた椿は、何よりも先に村の安否を尋ねてくる。
「安心しろ。呪いは解け、村人は全員無事だ」
「良かった……」
俺の簡潔な回答を聞くと、椿は安堵の表情を浮かべた(ほぼ無表情)。
ここまでの様子を見るだけで、椿にとって集落がとても大切な存在だと分かる。
その後、集落の詳しい状況や、俺達が椿を蘇生したことを伝えた。
魔法により蘇生されたことを知っても、椿はほとんど驚いていなかった。まぁ、実質二回目の蘇生だからね……。
前提となる話を終えた後、最も重要な話を始める。
「椿には、今後の身の振り方を2つの選択肢の中から選んでもらう」
椿には悪いが、今回は多くの選択肢を用意していない。1つ、ほぼ確実にこれが選ばれるだろうという選択肢があるからだ。
「1つ目は、俺の奴隷として、俺の元で働くという選択だ。奴隷、知っているか?」
「はい。村には居ませんでしたが、港町にそういう立場の人が居ることは知っています」
1つ目の選択肢は『奴隷化』である。言うまでも無いが、選ばれないと思っている方の選択肢である。
意外なことに、椿の表情に嫌悪感は見えない(ほぼ無表情)。……え?有りなの?
俺達は死者蘇生を含め、色々と秘匿しているため、基本的に蘇生した者は奴隷化し、行動を制限していることを教えた。
「1つ目の選択肢については理解しました。それで、2つ目の選択肢は何でしょうか?」
やはり、椿の表情に否定的なモノは無く、納得しているように見える(ほぼ無表情)。
「2つ目は、このまま集落に戻り、そのまま生活をするという選択だ」
2つ目の選択肢、大本命の『集落に戻る』である。お勧めだよ!
「私が二度目に死んだ場面を楓も見ていたはずです。蘇生のことは秘匿するのですよね?どのように説明すれば良いのですか?」
「簡単だ。記憶を失った状態で戻り、何も覚えていないと言って、説明しなければ良い」
説明するのが難しいなら、最初から説明できない状況にすれば良い。完璧な理屈だ。
「……記憶を失ったフリをするのですか?」
「いいや、本当に記憶を失ってもらう。俺にはそれができる。信じられないか?」
「信じます。死者を蘇生できるなら、記憶を消せても不思議ではありません」
余談だが、死者蘇生はさくらの異能で、記憶の操作は俺の異能だ。
記憶を消すだけならいくつか方法があるが、<多重存在>による魂の操作が一番確実なのだ。記憶が復活しないという意味で。
「集落に戻るなら、ここで聞いたことは全て忘れてもらう。代わりという訳では無いが、望むならグレイブフォードに操られていた時の記憶を消しても良い」
「それは……」
「集落で生きていくなら、忘れた方が楽だろう?」
今後の人生を歩む上で、マイナスにしかならない記憶である。
俺達に不都合のある記憶ではないので、勝手に消すつもりは無いが、本人が望むなら消してしまうのも有りだろう。
「大変有難いお話ですが、私は村には戻りません。理由はどうあれ、私の行いは許されるものではなく、村に戻る資格は失われています」
椿はハッキリと集落への帰還を拒んだ。大本命……。
「自分の意思で呪いを振りまいた訳ではないし、呪いによる死者も出なかった。だから、絶対に許されないような罪じゃないと思うぞ?」
2つ目の選択肢を選ぶように説得してみる。
「そうかもしれませんが、自分で自分を許せないのです。村の皆に合わせる顔もありません」
「だが、集落に戻らないなら、俺の奴隷になるしかない。自由は無くなるぞ?」
今までの生活とは、大きく様変わりするのは確実だ。自由に行動する事も許されない。
……後に奴隷メイドに確認した所、『いえ、十分自由に行動できていますよ。奴隷どころか、一般人よりも自由かもしれません。定期的に休暇もありますし』とのこと。
「むしろ、奴隷になるのは望むところです。奴隷となり、生涯を貴方に尽くすことで、貴方に対する恩返しと、村に対する罪滅ぼしが両立できるのです。それを考えれば、自由が無い事など、何の問題にもなりません」
「……本当に、良いのか?」
「はい」
駄目だ。俺の説得では、椿の意思を変えることはできそうにない。
2つ目の選択肢、自信あったのに……。
こうして、巨人島で死亡扱いとなった椿は、俺の奴隷として配下に加わり、第二の巨人生を歩み始めたのだった。
……え?総メイド長、椿にメイド教育をする?それ、どんな状況を想定しているの?それと、巨人族サイズのメイド服を作るのか?
実のところ、巨人族の中で俺の配下に加わったのは、椿1人だけではない。
「ジンさーん、準備できたよー!」
アドバンス商会巨人島支店の前に居るのは、楓と5人の巨人族少女(10~12歳)だった。
彼女達こそ、アドバンス商会の現地採用商会員にして、俺の新しい配下達である。<契約の絆>的には、部下も配下に含まれるので……。
巨人島に支店を作る話が出た時、巨人族の協力者も欲しいので、楓を商会員にしたいと言ったら、何故かおまけが5人付いてきた。
楓を指名したのは、以前に『何でもする』と言ったからである。色々としてもらおう。
楓以外の5人の選出基準は、現時点で明確な仕事が決まっておらず、巨人島の生物に負けないくらいには身体が出来上がっていることである。
なお、全員が少女なのは、男子は家業の跡取りとして内定している者が多いからであり、俺の趣味では無い事をここに記す。
「それじゃあ、案内を頼む」
「うん、任せて!」
楓達に頼んでいるのは、昨日の続きとなる島の案内だ。
流石の俺も、グレイブフォードとの騒動一件があった直後に、追加で観光案内を頼むことはできなかった。まぁ、次の日には頼むのだが……。
目的地への移動方法は昨日までと同じく、巨人族キャリーである。
俺はいつも通り楓の胸に抱えられているが、さくら、ドーラ、ミオは他の3人の巨人族少女に抱えられている。
マリア、セラが楓の肩に掴まっているのも変わらない。2人は、俺の護衛だからな。
道中、巨大生物が近づいてくることは一切なかった。俺達の接近に気付いた巨大生物は、一目散に逃げていくのである。
好戦的な個体でも、『巨人族の集団』に近づくことは絶対にないそうだ。
楓以外の5人の巨人族少女は、楓のような規格外の身体能力は持っておらず、移動速度も昨日に比べれば大分遅くなっている。
楓と違って、30分近くほぼ最高速度で走り続けることはできないとのこと。
そして、昼休憩込みで2時間かけて到着した、第二の観光地がコチラ。
「ここが、巨人島最大の湖、ギガント湖だよ!」
目の前に広がる広大な湖、その名をギガント湖と言う。
巨人島の中で唯一、巨人の名を冠する土地であり、その名に相応しく本当に広い。普通の人間では、肉眼で対岸を見ることもできないだろう。
水の色は透明度の低い濃い青だ。湖の底を覗くことができないのは残念だが、鏡のように景色を反射しており、これはこれで絶景だった。
「それで、ここには何があるの?」
「それが分からないから、調べに来たんだよ」
「そうなの!?ジンさんでも知らないことがあるんだ……」
楓は俺の事を何でも知っている賢者とでも思っているのかな?残念ながら、賢者は禁止中なので、何があるかは調べなければ分からない。
俺の直感は『何かある』と言っているが、根拠と呼べる程のモノは無い。
「ご主人様の直感は、それだけで立派な根拠だからね?」
「仁君の直感は、基本的に当たりますよね……」
《おおあたりー!》
これが行き先と理由を告げた時の、ミオ、さくら、ドーラの反応である。直感の的中率が高いのは認めるが、それを根拠と呼ぶのは如何なものか……。
ついでに言うと、俺の直感は危険物ではなく、面白い物があると告げている。
「本当にマップを使っていないんですわよね?」
「俺が自分で言ったことを曲げるとでも?」
「そうは思いませんけど、あまりにも……」
セラの様子を見る限り、本当にギガント湖には何か面白い物があるのだろう。
マリアの様子を見る限り、危険度が低いのも間違いなさそうだ。
閑話休題。
「それじゃあ、ギガント湖の調査を始めるぞ」
今回の観光(調査)は日帰り予定なので、サクサクと調査を開始する。
折角の湖なのでバカンスを楽しみたい気持ちはあるが、今回は商人モードだから諦める。
調査は3チームに分かれて進めることにした。
俺、マリア、セラ、楓のAチームは到着地点周辺の調査だ。湖の生態調査と称して、釣りをする予定である。
さくら、ドーラ、巨人少女2人のBチームは湖を時計回りに進んで調査し、ミオと巨人少女3人のCチームは反時計回りに進んで調査する。
諦めきれなかったバカンス欲求が、釣りという形で現れた可能性は否定しない。否定はしないが、理由はソレだけではない。
湖で商品になる物と言ったら、魚というのは外せないだろう。そもそも、巨人族と港町の商人の間の取引では、魚は取り扱われていないので、新規領域の開拓とも言える。
巨人族は川で魚を捕っているのだが、その量が少ないため、全て巨人族の集落で消費されているのが現状である。
一昨日の夕食で出た焼き魚、美味しかったな。骨が大きいから、取るのに神経を使わない点も良い(魚の骨嫌い派)。
普通の巨人族は、魚のためだけに湖まで来ることは無いが、商会員ならば話は別だ。湖まで遠征して魚を捕ってもらえば、立派な商品にできる。
そのためにも、どんな魚が釣れ、どんな味がするか調査しなければならない。という訳で、レッツフィッシング!
「よし!また釣れたよ!ジンさん!」
そう言って、楓は釣り上げた巨大魚を見せてくる。
……残念なことに、釣りをしているのは俺ではない。人間が人間用の釣り竿で巨大魚を釣るのは異常な光景だから、代わりに巨人用の釣り竿を用意して楓に釣らせているのだ。
過去に10m級の大海蛇を釣った事があるし、ギガント湖の巨大魚も釣れるとは思うけど……。
「ジンさん!釣りって簡単なんだね!」
こちら、完全なる釣り初心者である楓が、爆釣した後に放った一言である。
釣竿を垂らすと10秒も経たずにヒットし、巨大魚がアッサリと釣り上がる様子を見続けたら、素人が勘違いするのも無理はないだろう。
どうやら、ギガント湖の巨大魚達は自分より小さい相手に対する警戒心が皆無らしく、面白いように釣れるのだ。まぁ、巨大魚が寄ってくるのは、俺の補正かもしれないが……。
ギガント湖には多くの種類の魚が棲んでいるようで、釣った魚を見ただけでも10種類以上が存在している。……同じ湖の中で共存できるのか?
首を傾げざるを得ないのは、その中に明らかな海水魚が混じっている点だろう。マグロやサンマが釣れた時、思わず「Why?」と言ってしまった。
鉱山で真珠が採掘できて、湖で海水魚が釣れる島。意味不明である。
いや、一応は説明できるのか?真珠も海水魚も海の存在だ。仮に巨人島が海の底が隆起することで生まれた島だとすれば、海の存在が残った可能性も0ではない。
可能性は0ではないが、それだけでは説明のできない点も残っている。
ギガント湖は海水ではなく淡水なので、海水魚が生存しているのは不自然だし、真珠が採れるのは良いとしても、土の中から採れるのは有り得ない。
そして、色々考えた結果、一つの真理に辿り着いた。
たとえ異常だとしても、害がなくて美味ければそれで良いよね!
「はい、こちらも締め終わりましたわ。『清浄』」
セラが巨大魚を絞め、<無限収納>に格納してくれた。
美味しく食べるなら、釣った後の処理は大切だ。なお、今回は血抜き締めなので、『清浄』は必須である。血塗れメイド……いや、塗れてはいないか。
「これで味が良ければ、立派な商品になりそうだな」
「やった!」
味に関しては、ミオが戻ってからの確認となる。
マリア、セラも魚を捌くことはできるが、折角なら専門家の手で捌かれた魚を食べたい。
……俺?俺が捌いたら、何故か不味くなるので検証にならないよ?
しばらくして、BチームとCチームが同時に帰還したので、調査結果を報告し合う。
なお、商人らしくない話をする可能性があるので、巨人娘達には席を外してもらっている。
「まずは俺からだな。楓に釣ってもらった巨大魚が合計で35種類だ。ほとんどが食用可能な魚だったから、ミオに調理を任せる。売り物になるかは、セラを交えて判断してくれ」
「任せて!巨大魚の調理とか、すっごい楽しそう!」
「承知しましたわ。ミオさんの料理、楽しみですわ」
食べ物のことは、料理の専門家と食事の専門家に任せるべきだ。
……俺?雑な食レポしか出来ない奴が、何の役に立つと思う?
《ドーラもたべていいー?》
「もちろん、ドーラも食べて良いし、俺も食べるぞ」
《わーい!》
「ミオ、最初は巨大マグロの調理を頼む。コレが売り物になれば、確実に大儲けだからな」
この世界でも、多くの場所でマグロには高値が付く。一番の理由は、過去の勇者(日本人)の多くが絶賛する食材だから。……これは勇者を責められない。
鉱山で採掘した宝石と同様、マグロも大きさが価値に直結する。後は味が良ければ、最高の商品になるはずだ。
元の世界では、マグロは海の宝石と呼ばれることもある。鉱山に引き続き、湖でも宝石を商品にするというのも面白い。……今回は上手いこと言えたのではなかろうか?
「え?何で海水魚が湖に居るの?」
ミオ、当然の疑問である。俺も聞きたいよ。
A:海水魚が湖に……。
あ、ゴメン。今は聞きたくない。
「俺もそれは疑問だったが、最終的に害がなくて美味ければ問題なしって結論になった」
「そうね。害がないことが一番大事よね……」
ミオ、未だにマヨネーズ事件の傷は癒えず。
「……俺の報告は以上だ。次はBチーム、さくらの方はどうだった?」
「はい……。私の方では、ドーラちゃんが岩場に隠された通路を見つけてくれました……。奥まで進んだ訳ではありませんが、壁が人工物のように見えたので、仁君の直感が反応した対象だと考えています……」
どうやら、さくらの方が大当たりだったようだ。
俺は最初の地点から動いていないから、大発見をできない可能性が高かった。
「ドーラ、お手柄だな!」
《えっへん!》
嬉しそうに胸を張るドーラが可愛いので、抱っこして撫でる。
《えへへー》
「それと、1つ気になったのは、通路が人間サイズの物でした……。位置的にも巨人族ではまず気付けない場所だと思います」
「巨人島にある巨人族が入れない人工物って、言うまでも無く不自然ですよね」
「少なくとも、巨人族が作った物ではなさそうだよな」
ミニチュア作りが好きな巨人族が居た可能性も0ではない。……流石に無理があるか。
巨人族の集落から離れた湖に、巨人族が作ったようには見えない人工物。確かに、これは俺の直感が反応してもおかしくないレベルの代物だ。
「報告会が終わったら、確認に行こう!」
「当然よね!」
《ゴー!ゴー!》
行かない理由、ある?いや、ない!
「次はミオちゃん率いるCチームの報告ね。残念ながら、Bチーム程の成果はないわ。水辺に生えている植物とかで、売り物になりそうな物を回収したくらいかしら」
Bチームが大当たりを引いただけで、Cチームが外れという訳では無い。どちらかと言えば、Cチームの方が本来想定していた調査結果に近い。
それに、ミオが回収した植物ということは、高確率で食材も含まれている。恐らく、立派な成果と呼んで問題の無い物だろう。
「ご主人様の釣った魚にも共通することだけど、一か所で色んな種類の植物が混在していたわ。普通、共存できないタイプの植物が並んでいるのは、不思議な光景だったわね」
ミオに言われて思い付いたことが1つあった。
「考えてみれば、金剛宝山の時も同じだったな。普通、あれだけの種類の宝石が一つの山で採れることはほとんどないはずだ。……不自然に物や生き物が一つの場所で共存しているのには、何か理由があるのかもしれないな」
「……流れ的に、その理由はBチームの見つけた謎の人工物にあるんじゃない?」
「……やっぱり、ミオもそう思うか?」
「うん」
不自然な現象と不自然な人工物が揃ったら、因果関係を疑うのは当然だよね?
ちょっと、ゲーム的と言うか、メタい思考な気もするけど……。
「そうだ!話を戻すけど、もう1つ報告があったわ。途中で湖のヌシを見つけたのよ!」
「ほう!」
それはそれで非常に興味の惹かれる話だ。しかし、1つ気になることもある。
「どうして、湖のヌシだと思った?この島の魚はどれも大きいよな?」
「明らかに他の魚より大きくて、私も知らない魚だったわ。そして、称号に『ギガント湖のヌシ』って書いてあったわ」
「最後の情報が決定的過ぎる……。うーん、環境調査ならともかく、湖のヌシとなると楓に譲るのは気が進まないな。……よし!後で、釣りに来よう!」
アドバンス商会、特別名誉会長ではなく、一人の釣り人として挑ませてもらおう。
何もかも巨大な巨人島、その最大の湖に棲むヌシ……これは、楽しい戦いになりそうだ。
「ご主人様、めっちゃ目がギラギラしてるんだけど……」
《たのしそー!》
「仁様が楽しそうで何よりです」
こうして、俺のテンションが上がり続けたまま報告会が終わった。
報告会終了後、早速俺達は巨人娘達を連れ、ドーラが見つけたという通路へと向かった。
「確かに、これは巨人族には見つけられそうにないな」
「本当に通路があるの!?ここからでも見えないんだけど……」
岩(巨大)と岩(巨大)の隙間に巧妙に隠された人工的な通路は、巨人族から見えるようには出来ていない。楓が何とか見ようとしているが、上手くいく気配すらない。
人間サイズで、注意力が相当高くなければ、見つけることは不可能だろう。もしくは、俺のように隠し通路センサーのあるタイプ。
「ドーラ、本当にお手柄だな!」
《えへへん!》
ドーラを撫でながら、もう一度通路の中を見てみる。
石の隙間はあくまでも入り口であり、地下へと続く長いスロープになっている。さくらの言っていた通り、通路の壁面は明らかに人工的に加工されていた。
「この通路、どう見ても湖の方に向かっているよな?」
「はい……。少し見ただけですけど、中に水は入り込んでいませんでした……」
通路は湖の方に伸びており、スロープがどこかで湖の範囲に入っているのは間違いない。
水の透明度が低く、湖の深さが分からないため、通路が湖の底を通っているのか、湖の中を通っているのかも分からない。少なくとも、水が入り込むような状況ではないようだ。
「壁も頑丈そうだし、崩落の心配はなさそうだな」
「でも、この先にあるお宝を取ったら装置が起動して崩落するかも……」
「映画の見すぎでは?」
ミオが物騒な事を言った。確かにトレジャーハント物のお約束ではあるけど……。
「冗談よ。そんな凄い施設なら、入り口がこれじゃあショボすぎるでしょ?」
「確かに」
崩落するような大規模な仕掛けがあるなら、入り口もそれなりの物を用意して欲しい。
簡単に入れて、お宝を取ったら崩落するなんて、ただの罠……タチの悪い嫌がらせである。
入り口の軽い下見を終えたので、岩の隙間から出て巨人娘達に顔を向ける。
「これから、俺達はこの通路の調査を行う。巨人族が中に入るのは無理だから、この周囲で指定した素材を集めておいて欲しい」
「はい。集めて欲しいのは、ここに置いた物よ。同じ物を集めてね」
ミオがシートの上に集めて欲しい素材を置いていく。
「ジンさん、魚は釣らなくて良いの?」
「ああ。魚は締め方を間違えると味が落ちるからな。俺達が居ない間は釣らなくて良い」
「そっか、残念……」
楓は魚釣りの面白さにハマったようで、俺が不要と言うと残念そうにしていた。
今回は食用目的なので、締め方は非常に重要だ。間違えると味と商品価値が落ちるので、素人に任せる訳にはいかない。
「採った素材はこのアイテムボックスに入れること。中身が一杯になったら終わりよ」
用意したのは大容量の高級アイテムボックスだが、巨人サイズの素材を入れ続けたら、すぐに一杯になってしまうだろう。
俺は<無限収納>から砂時計を取り出し、ミオから話を引き継ぐ。
「この砂が全て落ちるまでに俺達が戻らなければ、採った素材を持って集落に戻り、他の商会員に指示を仰いでくれ」
「……この通路、そんなに危険なの?」
「それが分からないから、念のためだ」
取り出した砂時計は、2時間で砂が全て落ちる物だ。
2時間経っても戻らなければ、何らかの非常事態に巻き込まれた可能性が高い。予め、非常事態の条件や行動を決め、部下の行動を明確化するのは上司の仕事だ。
その他、俺達が居ない間の指示をいくつか出し、出発の準備を整える。
「それじゃあ、行ってくる。素材集めは任せたぞ」
「はい」×6
巨人娘達に見送られ、俺達は謎の地下通路へと足を踏み入れた。
謎の通路の先にあるのは、一体、何ジョンコアなのか!?
次回、巨人島の秘密が明らかに!