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第205話 解読と採掘

更新間隔が長くなってしまったので、あらすじを書きます。


あらすじ:

何もかも巨大な巨人島に商人のフリをして観光に来た仁。

巨人族が呪われていたのでポーションを売って恩も売った。

転生者の楓を案内役に巨人島の観光を開始する。

最初の目的地は、ダイヤモンドが採れそうな鉱山。

 ここで、ダイヤモンドという宝石について軽く触れよう。


 ダイヤモンドの価値を決める要素は大きく輝きカット重量カラット透明度クラリティカラーの4つであり、頭文字が全てCなので4Cと呼ばれている。

 カット以外の3つは人為的に変わることは無く、採掘された時点で決まることとなる。

 簡単に言えば、大きくて、無色に近く、内包物が無ければ価値が高い(例外有)。


 面白いのは、重量カラットが倍になった場合、価値は倍では済まないという点だ。

 ダイヤモンドを2つ足して倍の大きさに、なんてことは出来ないので、大きければ大きいほど希少価値が高くなり、値段も跳ね上がっていく。

 巨人島で取引する品目として、これ以上に相応しい物はないのではなかろうか?


 なお、ダイヤモンド薀蓄うんちくについては、楓が走っている最中に転生日本人の成瀬母から聞いたモノである。

 俺が知っていたのは、『重くなる程高くなる』という部分だけだ。


「ダイヤモンドって高く売れるの?」

「ああ、宝石の中でも特に高く売れるだろうな」


 ダイヤモンドが高く売れるのは、地球でも異世界でも共通だった。

 ただし、カットの技術に差がある為、元の世界のダイヤモンドの方が美しくなるそうだ。


「へー……」


 楓の反応が薄いのは、ダイヤモンドに興味が無いからだろう。

 日本人としては、享年5歳の楓が宝石に興味を持たなくてもおかしくはない。

 巨人族としては、種族として着飾る文化が無く、宝石に価値を見出していない。


「ジンさんが欲しがる物なら、他の商人さんも欲しがるよね?」

「そうだな。知れば、他の商人も取引をしたいと言い出すだろう」


 商人として、専売、あるいは優先販売の権利は絶対に確保する。


「何で、他の商人さんは東の山に宝石があるって知らないのかな?ジンさんが気付けたなら、他の商人さんが気付いてもおかしくないよね?」


 正直、楓がそれに気付くとは思っていなかった。

 もしかして、意外と楓は頭が良いのではないだろうか?思い出してみれば、少ないヒントで俺が日本人だと察したという実績もあったな(自爆からは目を逸らす)。

 単純に知識量が少ないだけで、頭の回転は速いのかもしれない。『ドジっ子』と『村一番の戦士』という情報からは想像しにくいが……。


「楓はダイヤモンドの事は知っているんだよな?」

「うん!ニホンにいた頃、ママが持っていたから見た事もあるよ!」


 もしや、楓(前世)の家はセレブなお宅だった?


「じゃあ、金剛石って知っているか?」

「ううん、知らない。何それ?」

「金剛石はダイヤモンドの日本での呼び方だ。この世界では、使われていない単語でもある」


 これが、今まで金剛宝山が宝石鉱山として注目されなかった理由である。


 この世界、基本的には日本語なのだが、全ての日本語が使われている訳では無く、『日本でよく使われている言葉』が使われる傾向にある。

 日本では、金剛石と言うより、ダイヤモンドと言った方が通じやすい。この世界では、ダイヤモンドという単語はあるが、金剛石という単語はない。


 他の例を挙げてみよう。『ハンガー』という単語はあるが、『衣紋掛け』という単語はない。『ルビー』という単語はあるが、『紅玉』という単語はない。『サファイア』という単語はあるが、『蒼玉』という単語はない。宝石が多いな……。


 日本語とカタカナ語の内、使用頻度が極端に低い方が消えると思って良いだろう。

 なお、使用頻度が近ければ、両方の単語が存在することになる。『ドア』と『扉』、『スープ』と『汁』、『ソード』と『剣』などがこれに当たる。


「だから、この島の商人は、金剛石といわれても、ダイヤモンドと結びつかない。気付けるのは、俺や楓のような日本の知識がある者だけだ」

「そうだったんだ。ジンさんって物知りだね。……あ!もしかして、東の山に名前を付けたのもニホン人なのかな!?」

「ああ、恐らくはそうだろう」


 1つ気になるのは、その日本人が転生者なのか、転移者なのかという点だ。


 楓の家で和食が出た時のように、日本文化が見えた場合には、とりあえず勇者を犯人とする癖がついているが、実際には転生者の仕業である可能性も低くはない。

 ミオを例に挙げれば分かる通り、転生者だって日本文化を広めることはある。

 実際に巨人族の転生者である楓が存在する以上、過去の日本人が転生者であったとしても、何の不思議もないだろう。


「何で、そんな紛らわしいことをしたのかな?ダイヤモンドやまじゃ駄目なの?」


 ダイヤモンドやま、ダサくない?


「流石にそこまでは分からない。入れば何か事情が分かるかもしれないな」

「ジンさん、この山に入るの?」

「当然だ」


 ここまで来て、入らないという選択肢はない。


「じゃあ、その前にさっきの話の続きをしても良い?」

「さっきの話?」

「ジンさんがニホンに戻るって話」

「あれ?ご主人様、楓ちゃんとそんな話をしていたの?」


 そう言えば、ミオ達には楓の正体について説明していなかった。


「ああ、楓は享年5歳の転生者らしい」

「5歳かぁ……。知識や振る舞いの偏りはそれが原因なのね」


 同じ転生者から見れば、楓の行動には違和感が多かっただろう。


「黒い髪……。もしかして、ミオちゃんとさくらさんもニホン人なの!?」

「大正解!私も日本人よ」

「はい、私は仁君と一緒に転移してきました……」


 厳密に言えば、ミオは楓と同じ『元』日本人だが、ミオが転生者であるという情報まで、楓に伝える必要は無いだろう。なお、ミオの黒髪は偶然です。


「思ったより、ニホン人って多いんだね!」

「いや、俺の周りに多いだけで、実際には相当少ないはずだ。勘違いしないように」

「そっか、少ないんだ……」


 楓が変な勘違いをしそうだったので修正しておいた。


「それで、話の続きって何だ?話に一区切りは付いたと思っていたが?」

「うん。だけど、もう少し話したい事があるの。……ジンさんは、ニホンに戻ることを諦めていないんだよね?」

「さっきも言ったが、諦めていないな」


 諦めるどころか、既に方法を見つけ、準備のほとんどが終わっている。言わないが。


「ニホンに戻る方法を見つけたら、ミオちゃんとさくらさんも一緒に戻るの?」

「当然、ご主人様と一緒に行くわよ」

「はい、私も同じです……。仁君と一緒なら、大丈夫です……」


 余談だが、さくらは元の世界に未練はないそうで、目的は『俺に付いてくる』なのである。


「それなら、私も一緒に連れて行って欲しいの!」


 楓は日本に戻りたいと言っていたので、想像できる願いではあった。


「楓は元の世界に戻って、何をしたい?」

「パパとママに会いたい。前みたいに一緒に暮らしたい」

「楓、今の楓は巨人族だぞ。どうやって、人間と一緒に暮らす?」

「あ……」


 他にも様々な問題があるが、楓にとって一番致命的な問題を突き付けると、楓の表情が目に見えて落ち込んだ。


 帰りたいという気持ちだけが先行しているだけで、実際に日本に戻った後の事を考えている訳ではなさそうだ。

 獣人とかエルフなら、ある程度正体を隠すこともできるが、巨人族はどうにもならない。


「巨人族の楓が、日本に戻って幸せになるのは難しいだろう」

「…………」


 楓は完全に黙り込んでしまった。


 実を言えば、さくらの<魔法創造マジッククリエイト>を使えば、種族を変えることは可能だ。実際に、魔族を人間に変える『再誕リバース』があるのだから。

 しかし、配下ではない楓にそこまで説明する気はない。逆に言えば、配下になるなら、手厚いサポートが待っているのである。勧誘はしないが……。


「決めるのは楓だ。それでも日本に戻りたいというなら、一緒に連れて行っても良いぞ」

「…………」


 楓の事は割と気に入っているので、多少のサービスはしても良いと思っている。


「楓はどうしたい?」

「……もう少し、考えたい」

「分かった。それじゃあ、そろそろ山の入り口に向かおうか」

「うん……」


 楓の話も終わった様なので、本来の目的である鉱山の探索に入ろう。

 楓のテンションが最低値まで落ち込んでいるのは、見て見ぬふりをする。



 地図によれば、金剛宝山には複数の横穴がある。……どう考えても、採掘用だろう。

 地図を頼りに横穴を探してみれば、思っていた以上に簡単に見つかった。横穴も巨人族サイズなので、遠目で見ても分かるからだ。


「まさか、横穴に入らなくても事情が分かるとは思わなかった……」


 横穴の入り口にあったのは巨大な石板だった。

 その石板には、日本で使われている文字で文章が書かれてあった。


 それなりに長い文章であり、先頭には次のように書かれている。


○● ○○ ○● ○●  ●○ ○● ○○ ○●

○● ●● ●○ ●●  ●○ ●○ ○● ●○

●○ ○○ ○● ○●  ●○ ●● ●● ●○


「これ、どう見ても点字ですよね?」

「はい、間違いないと思います……」


 ミオとさくらが言うように、石板に書かれた文字は点字だった。


 恐らく、大半の日本人が点字の存在を知っているだろう。しかし、大半の日本人は点字を読む事はできないだろう。

 そして、日本の知識がない、この世界の住人には絶対に読めないはずだ。

 金剛石の件も合わせ、明らかに日本人を対象とした『仕込み』である。


 問題は、金剛石はともかく、点字は日本人でも読める者が限られるという点だ。

 目の前に日本人が残した文章があるのに、読めなかったらストレス貯まらない?


「幸い、俺は点字が読めるから問題ないけどな」


 自慢をするつもりはないが、俺は点字が読める。

 日本語とアルファベットを知っていれば、後は少しのルールを覚えるだけで良いから、習得難度は思ったよりは高くないのだ。

 どちらかと言えば、指で点字を読む方が難しい。


「あら、ご主人様も点字を読めるの?折角、ミオちゃん活躍のチャンスと思ったのに……」

「点字なら、私も読めます……」


 まさか、3人とも点字が読める少数派だとは思わなかった。

 楓は読めないようなので、日本人(『元』を含む)4人中、3人が読める。つまり、読める派が多数になってしまった。


「ミオは何で点字を覚えたんだ?」

「昔、やっていたゲームで必要になったから覚えたのよ」


 俺の質問にミオはアッサリと答えた。


「点字を使うゲームなんてあるんですか……?私、ゲームにはそれ程詳しくなくて……」


 さくらのゲーム知識は0ではないが、あまり多くないというのは知っている。

 マルチプレイが前提のゲーム知識は特に乏しそうだよな(無慈悲)。


「ありますよ。結構な大作ゲームです。……もしかして、ご主人様も同じ方法で覚えたの?」

「いや、俺は別の機会に覚えた。さくらはどうして覚えたんだ?」

「私は本で覚えました……。中学時代、放課後の図書室で……」

「「…………」」


 俺とミオが無言で目を合わせる。

 これ、さくらの悲しい話に含まれる?よし、深追いは止めよう!


「折角だし、読めるなら読んでから横穴に入ろう!」

「そうね!そうしましょう!」


 気を取り直して、石板の点字を読んでいく。


『ようこそ、日本の知識を持つ者よ。私の名前はハヤシ、日本で生まれ、この地に転移した者だ』


 この石板を残した林さんは転移者のようだ。

 でも、石板は巨人族サイズなんだよな。誰か他の巨人族に作ってもらったのか?


『この石板は、同郷の者に対する、私からの贈り物だと思って欲しい』


 贈り物は良いのだが、点字にした理由は何だろう?

 日本人を狙い撃ちにしたいなら、ローマ字で日本語を書いても良かったのでは?


『この石板を読めるということは、思いやりの心を持つ者であると私は信じている』


 次の行に答えが書いてあった。

 贈り物を渡すに相応しい相手かどうかの判断基準だった訳か。


 ……………………ゴメンね?


『察しているかもしれないが、この山は宝石鉱山だ。私が石板を書いている時点において、坑道は掘ったが採掘はしていない。これは、最初に気付いた同郷の者への贈り物だ』


 金剛宝山は点字が読めなくても気付ける仕込みだ。

 俺達が気付くまで、誰も気付かなかったのは偶然なのだろう。


『私の予想では、この山が宝石鉱山と気付いた者と、この石板を読めた者は別人だと考えている。この石板を読める者には、宝石鉱山とは異なる贈り物を残したいと思う』


 林さん、完全に読みを外しているな。確かに、宝石を目当てにして来た者に、優しさを求めるのもどうかと思うけど……。


『この贈り物は、影響が大きすぎるので、思いやりを持った者にしか渡したくない。くれぐれも、気を付けて使って欲しい』


 もう一度言うけど、ゴメンね?


『贈り物の名は『転生の秘宝』と言い、使うと別の種族へと変化することができる。使用できるのは人類種に限られ、変化の対象は他の人類種、及び一部の人型の魔物となる』


 おお!滅茶苦茶タイムリーなアイテムが来た!

 楓の種族に関する話題が出た後、すぐに種族変更アイテムが現れるとは。

 さくらの<魔法創造マジッククリエイト>でも実現可能とはいえ、異能が関わらない方法で代用できるならその方が良いだろう。


『私も『転生の秘宝』により人間から巨人へと変わったので、その効果は保証できる』


 驚愕!林さん、人間を止めていた。

 この石板が巨人族サイズなのは、巨人族になってから残したからだったのか。


 その後は『転生の秘宝』の使い方や注意点に関して、長々と記載されていた。

 簡単にまとめると、使用回数∞、クールタイムは1週間、1人1回限り、年齢・性別などは維持、身体的特徴の変更は自動、となる。

 ゲーム的に言うと、種族変更はできるが、キャラメイクはできないという事だ。


 林さんの言う通り、色々と影響の大きそうなアイテムだ。当然、公にする気はない。


 話は変わるが、この石板の点字部分には、黒い石がはめ込まれている。

 林さんによれば、『転生の秘宝』は12個目の『の』の3の点に隠したという。


○●

●○

●←コレ


 一通り林さんのメッセージを読み終わったので、さくら、ミオと相談タイム。


「これ、俺達が貰っても良いと思うか?」

「良いんじゃない?林さんの予想とは多少ズレているけど、点字を読める人っていう条件からは外れていないし」

「思いやりに自信はあるか?俺はない」

「ノーコメントでお願いします」


 少なくとも、『点字はゲームで覚えた』は思いやりが足りていないと思う。


「私もあまり自信はありません……」

「それでも、俺とミオよりはマシだろうから、これの管理はさくらに任せよう」

「えぇ……?」


 困惑するさくらだが、少しでも林さんの意向に従おうという俺の思いやりである。

 ……上手い事言えた気がする。


「マリア、あの黒い石にアイテムが隠されている。取って来てくれ」

「はい、承知いたしました」


 俺が12個目の『の』の3の点を指差すと、マリアは垂直な石板を駆け上っていった。僅かな窪みや黒い石の出っ張りを利用したフリークライミングである。

 俺が取りに行っても良いが、商人ロール中なのでアクションは護衛メイドに任せておく。


「さくら様。どうぞ、お納めください」

「は、はい……」


 石板から降りてきたマリアがさくらに渡したのは、直径20cmくらいの円盤だった。

 黒く、透き通った水晶のような材質だが、正面から見れば鏡のように反射する。


「ジンさん、それ何?」

「ああ。昔、この島に居た日本人が、未来の日本人に残した道具だ。点字を読む限り、俺達が貰って構わなそうだから、貰うことにした」


 テンションの低い楓が尋ねてきたので、概要だけ答えることにした。

 林さんのメッセージを無暗に広める気はない。


「そうなんだ。やっぱり、この島にニホン人がいたんだね」

「山の名前を特殊な日本語にしたのは、日本人を呼ぶことが目的だったみたいだ。それと、この山は予想通り、宝石鉱山だとも書いてあったな」


 インパクトの強いイベントと、レアなアイテムの登場により、忘れそうになっているが、当初の目的は巨大ダイヤモンドの採掘である。


「つまり、この山にはダイヤモンドがあるってこと?」

「ああ、間違いないだろう」

「じゃあ、全部ジンさんの予想通りだったんだ。ジンさん、凄いね」

「はっはっは」


 俺は胸を張って楓の賛美を受け入れる。今回は異能のマップを使っていない推測なので、純粋に俺の功績と呼んでいいはずだ。

 なお、マップを使用していた場合、点字を読む必要は無く、林さんのメッセージを無視して『転生の秘宝』を入手出来ていた。


「さて、臨時収入も得た事だし、そろそろ本題の鉱山に入ろうか」

「うん」

「「え……?」」


 さくらとミオが不思議そうな顔をしている。


《楓ちゃんに『転生の秘宝』の効果を教えてあげないんですか……?》

《まさしく、楓ちゃんの為にあるようなアイテムじゃない。何で?》

《しばらくは教えないつもりだ。今、楓に『転生の秘宝』の事を教えても、冷静な判断ができるとは思えないからな》


 確かに、『転生の秘宝』は楓の為にあるようなアイテムだが、一人一回しか使えないという制約がある以上、一生モノの選択になるのは間違いない。

 今の楓は、俺から与えられた情報により、冷静とは言えない状態だ。ここで、人間になるという選択肢を与えたら、何も考えずに跳びついてしまうかもしれない。


《少なくとも、楓が俺の問いに答えを出すまで、教えないようにして欲しい》

《分かりました……》

《了解!》


 人間になれたとしても、転生者が元の世界に戻るのは相当に難しい。

 楓は、山積みの問題を知ってなお、日本に戻ることを選ぶのだろうか?



 金剛宝山の横穴の中は、まさしく坑道といった風情であった。


 何か理由があるのか、人が長期間立ち入っていないはずなのに、獣が入り込んだ形跡もなく、驚く程に荒れていない。

 魔法の道具マジックアイテム(人間サイズ)のランタンが一定間隔で置かれていたので、小粒の魔石を投入して明かりを点けた。至れり尽くせりである。


「この辺りで良いか。今回は、坑道の最奥まで行くことが目的じゃないからな」


 坑道をしばらく進み、何となく良い予感がした辺りで足を止める。

 坑道内では、楓に抱えられることなく、自分の足で歩いている。暗くて狭い(巨人族サイズ)場所でドジっ子に抱えられるのは不安だったのだ。


「適当に掘って、宝石が取れることを確認しよう。採掘したい人は手を挙げてー」

「はい!」

《はーい!》

「ええと……。はい……」


 ミオとドーラが元気良く、さくらが2人を見て躊躇いがちに手を挙げた。

 護衛役であるマリア、セラは手を挙げない。護衛なのに手を挙げていたら叱っていた。


「楓も採掘してみるか?ツルハシは人間サイズで良ければ貸すぞ?」

「え?ううん……。止めておこうかな。考えたいこともあるから」

「そうか、分かった」


 ついでに楓も誘ってみたが、気が進まない様で断られてしまった。

 多分だが、元の世界に戻る件について考えたいのだろう。


 アドバンス商会謹製の最高級ツルハシを4つ取り出し、3つを3人に配った。

 迷宮で入手したヒヒイロカネを素材に作られており、下手な武器よりも頑丈で攻撃力も高いという。何故、ツルハシにそこまでの全力を注いだのか……。


「それでは、1分後に再集合ということで解散!」

「え?」《え?》「え……?」


 1分あれば、マップ無しでも宝石の1つや2つ採掘できるだろう。

 てくてく、ガツン、ポロッ。


「よし!」

「『よし!』じゃ無いわよ!」


 折角、良い感じの塊を採掘できたというのに、ミオに不服そうに叫ばれてしまった。


「1分は短すぎるから!こっちはご主人様と違って、ラック値カンストなんてしてないの!」


 さくらとドーラもミオの言い分を肯定するように頷いている。

 そうか、1分は短かったのか……。


「それじゃあ、10分後に再集合ということで解散!」

「まぁ、10分あればなんとかなるかな?」

「頑張ります……」

《がんばるー!》


 ミオとさくらの様子を見る限り、10分でも確実とは言えない様子。

 ガツン、ポロッ。こんなに簡単なのに……。


 さて、採掘を再開する前に2つの塊の鑑定をしておこうか。そこそこ良い物が取れた気がするんだよ。


「!?」


 そこには、驚くべき内容が記載されていた。


ルビーの原石

備考:最高品質のルビーの原石。研磨すれば非常に高く売れる。


サファイアの原石

備考:最高品質のサファイアの原石。研磨すれば非常に高く売れる。


 ダイヤモンドは何処に行った?


 まさか、この山はダイヤモンド鉱山じゃないのか?名前が『金剛宝山』なのに?

 確かに、林さんのメッセージの中には、ダイヤモンドに該当する単語は一言も出て来なかったが……。


 えぇ……、嘘だろ……?

 俺、自信満々に『ダイヤモンドの宝石鉱山だ』とか言ったのに、ダイヤモンド出ないの?

 いや、まだだ。まだその判断は早い。ダイヤモンドが出ないと決まった訳じゃない。


 ガツン、ポロッ。ガツン、ポロッ。ガツン、ポロッ。

 『アクアマリンの原石』、『オパールの原石』、『パールの原せ……いや、真珠パールが採掘できるのは駄目じゃないか?山の宝石じゃなくて、海の宝石だぞ?


 パールはともかくとして、この山は複数種類の宝石が採掘できる宝石鉱山のようだ。

 ここまで、多様な宝石が1つの山で取れて良いのかは不明だが、ダイヤモンドが採掘できる可能性が上がったとも言えるので、結果オーライとしよう。


 よし。ちょっと、本気出すか。


 ガツン、ポロッ。ガツン、ポロッ。ガツン、ポロッ。

 『アレキサンドライトの原石』、『スターサファイアの原石』、『ピンクダイヤモンドの原石』。やっと、ダイヤモンドが出てきた。


「ふぅ……」


 一般的なダイヤモンドではないが、ダイヤモンドが採掘できたことに変わりはない。

 少なくとも、『ダイヤモンドの宝石鉱山だ』という宣言は正しかったと言える。

 ……何か、無駄な緊張をした気がするな。


 それから、制限時間の10分が経過するまで、無心で採掘を続けた。

 何度掘っても、普通のダイヤモンドは採掘できず、ピンクダイヤモンドやブルーダイヤモンド、グリーンダイヤモンドといった亜種ばかりが出てくる。


 10分経過後、3人が俺の元に集まってきた。


「ご主人様!ダイヤモンドが一杯採掘できたわよ!」

《ドーラもー!》

「あまりにも簡単に採掘できて驚きました……」


 ミオが手に持っているのは『ダイヤモンドの原石』、さくらが手に持っているのは『ダイヤモンドの原石』、ドーラが手に持っているのは『ダイヤモンドの原石』だ。


「Why?」

「何故に英語?それより、ご主人様の成果は……ご主人様だけ、別の鉱山に行ってきたの?」


 ミオの言いたい事は分かる。明らかに、俺とミオ達3人の結果に差異があるからな。


「この鉱山、ダイヤモンド以外も出るんですね……」

《ごしゅじんさま、すごーい!》

「良く見たら、普通のダイヤモンド1つも無いし……。え、パール?何で?」


 パールについては俺も聞きたい。


 どうやら、金剛宝山は基本的にはダイヤモンドが採掘でき、極稀に他の宝石がでる宝石鉱山だったようだ。俺はその『極稀』をひたすら連続で引いていた訳だ。

 この世界では初めてかもしれないが、似たような現象に思い当たるモノがある。


「ああ、これはアレだな。レアばかりが当たり過ぎて、逆にコモンが不足する現象だ」

「そんな、よくある話みたいに言われても、全く共感できないわよ!?」


 元の世界でも、誰も共感してくれなかったんだよなぁ……。



*************************************************************


裏伝


*本編の裏話、こぼれ話。


・転生の秘宝

 通常、種族の変更はメリットよりもデメリットの方が大きくなる。これは、転生の秘宝により種族を変更した場合、生来の種族固有スキルを取得することができないためである。

 種族特性自体は変わるので、元々の種族固有スキルは使えなくなることもあり、生来その種族だった者と比べると、相当に能力が低くなってしまう。

 ただし、スキルやステータスに関する知識を有し、種族変更前後で計画的に能力やスキルを取得していれば話は別となり、キャラメイクを越えたキャラビルドができる。


 転生の秘宝を使っても、実在する種族にしか変更はできない。逆に言えば、存在さえ明らかになれば、変更する事ができる。これは、<系統樹の分枝セフィラ・ブランチ>によって新たに追加された種族でも同様である。

 どちらかというと、転生の秘宝は<系統樹の分枝セフィラ・ブランチ>に対する補填のような立ち位置に近い。

 <系統樹の分枝セフィラ・ブランチ>による種族の変更者は1人だけなので、そのままでは種族として繁栄する事は困難である。転生の秘宝を使うことで、種族として成り立つまで人数を増やす、というパターンが多かった。

 竜人種ドラゴニュートは<系統樹の分枝セフィラ・ブランチ>により生まれた種族であり、その偶然を掴み取った数少ない種族でもある(人知れず消えた種族は多い)。


金剛宝山の排出確率は以下の通りです。


☆5  0.01% アレキサンドライト、スターサファイア、ピンクダイヤモンド等

☆4  1% ルビー、サファイア、アクアマリン、オパール、パール等

☆3 98.99% ダイヤモンド


*ピックアップ、天井、ステップアップ等はありません。

*表示された確率は、宝石の採掘が確定した後の確率になります。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
人間から巨人へ・・・どこのプロトカルチャーや
なお日本の金剛山は金剛石じゃなくて金剛砂(ルビーサファイアガーネットなどの粉末研磨剤)の産出が由来だとか言われてるけどね
[一言] コモンが不足する… 物欲センサーですね
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