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第203話 解毒と解呪

お待たせいたしました。

 この世界において、『呪い』とは状態の1つであり、大きく『呪われた物』と『呪われた生き物』の2つに分類できる。


 生き物を呪う場合、<呪術>を始めとしたスキルを使用する必要がある。逆に言えば、スキル無しで人を呪うことはできない。

 物を呪う場合、スキルによる呪い以外に、憎しみや恨みの感情を浴びせ続けるという方法もある。実際に呪うには、恨みの質や量も重要なので、簡単な話ではないが……。


 何故、生き物を呪うにはスキルが必要なのかと言えば、生き物には呪いに対する抵抗力が存在しており、スキルの補助なしでは、その抵抗力を突破することができないからだ。

 抵抗力はスキルによる呪いにも有効で、仮に<呪術>を受けたとしても、抵抗力が高ければ効果が表れることは無い。これは、<呪術>のスキルレベルが10でも変わらない。


 対して、物には抵抗力が存在せず、スキルが無くても恨みによる呪いが通る。

 ただ、伝説級レジェンダリー以上の武器は、人の恨み程度で呪われることは無く、生半可な<呪術>も効かない。抵抗力は無くても、存在の『格』が高く、下等な呪いなら弾けるためだ。

 なお、最初から呪いの武器として生み出す<聖魔鍛冶>は例外とする。


 呪い状態になると、物も生き物も変わらず、大きなデメリットを背負うことになる。

 しかも、そのデメリットの種類は無数に存在する。これは、元となった恨みの種類により、現れるデメリット効果が変わるからだ。

 稀に、大きなデメリットと引き換えに、メリットとなる効果が得られることもあるが、大抵の場合で差し引きマイナスとなる。


 今回、巨人族にかけられた呪いは、最もポピュラーな『徐々に衰弱し、最後に死ぬ』というモノだった。

 ステータスが見えない者からすれば、病気と間違えても無理はない。


 ここで重要なのは、呪い状態は自然現象的に発生しない点である。

 呪いは、必ず誰かの意思を媒体として発生するモノであり、人が呪われるということは、すなわち『悪意ある攻撃者』が存在する証拠でもある。


 これで、何故マリアが集落の危険度が低いと判断したか、その理由が分かった。

 つまり、マリア達は巨人族を攻撃した者の存在を把握しているのだ。

 当然、攻撃者の持つスキルも把握しており、俺を呪うことは不可能だと判断したのだろう。

 また、マリア達の判断材料には入っていないと思うが、仮に呪われたとしても、今の俺達は呪いを解除する術を持っているので安心だ。


 呪いを治すには、高レベルの<回復魔法>や解呪用のアイテムを使う必要がある。

 少なくとも、解毒ポーションで呪いを治すことができないのは確実だ。

 教会?そんなのクソの役にも立たねぇよ。


 俺達は全員が<回復魔法>を使えるし、解呪用のアイテムも大量に所持している。

 仮に巨人族全員、約1000人が呪われていたとしても、余裕で治しきることができる。

 もし、楓が俺達以外の商人を連れてきていたら、呪いを解く事ができず、集落は酷いことになっていただろう。



 巨人族の集落に入った俺達は、最初に村長の家へと向かった。

 一族の集落だから『族長』だと思ったら、普通に『村長』だった。


 集落は巨人族基準のサイズであり、想像以上に広いので、引き続き楓に抱えられている。


 俺達の様子を平屋から覗いている者も多いのだが、近づいてくることは無かった。

 楓に理由を尋ねたところ、他人との接触を控え、病気の感染リスクを抑えているそうだ。

 なお、この呪いは人から人に感染しないタイプの呪いなので、広まったのは別の原因だと思われる。


 余談だが、巨人族は全員が楓と同じような布面積の少ない服を着ている。

 上半身は男女ともに胸だけ隠すような服。下半身は女性がミニスカート、男性が短パンとなっており、まさしく最小限といった具合だ。


 また、髪色は緑系統、瞳の色は茶色で統一されていた。

 髪や目の色が種族で固定というのは、この世界で初めて見る特徴だった。名前の木偏縛りも相まって、本当に樹木のような印象を受ける。


 さて、楓に抱えられながら集落を見回していたところ、一際大きな平屋が見えた。

 多分、あれが村長の家だよな。


「ジンさん、あれが村長のお家だよ!」


 答え合わせ、終了である。


 心なしか楓の早歩きがまた少し早くなり、すぐに村長宅に到着した。

 そのまま勢いよく村長宅に入り、一番奥の部屋に真っ直ぐと向かった。


 補足すると、巨人族の履物は草履であり、室内では脱がない文化のようだ。


「村長!お薬連れてきたよ!」


 俺はお薬ではない。


「楓ですか……。薬が見つかったのですね……?」


 部屋に居た……横になっていたのは、70代くらいの男性巨人族であった。

 村長は見るからに顔色が悪く、明らかな死相が浮かんでいた。……これは死ぬ(確信)。


「うん。この人がお薬を売ってくれるジンさんだよ」

「そうですか……。ジン殿、こんな状況の中、村に来てくれたことに感謝をします……」


 明らかに無理をして身体を起こし、俺に頭を下げる村長。

 普通に考えれば、病が流行っている集落に向かうとか、自殺行為でしかないからな。


「私の名前はさかき、この村の村長をしています……。何の持て成しもできず申し訳ありませんが、早速本題に入らせてください……」

「薬を売るという話だな?」

「はい、重要なのは、薬の効果と数量の2点です……。価格は言い値を払います……」


 村長、太っ腹だね。呪いでガリガリだけど……。


「商会に預けている金額で足りなければ、負債にしてもらって構いません……。今は、村を救う方が重要ですから……」


 村を思う良い村長なのは分かるが、残念ながら前提条件が間違えている。


「勘違いがあるようだが、俺はゴーック商会とは無関係だ」

「なんと……。楓、港町から連れてきたのではないのですか……?」

「え?違うよ。途中で出会ったジンさんが薬を持っていたから、そのまま連れてきたんだよ。怪我をした私を薬で治してくれたから、ジンさんの薬はきっと効くと思ったの」

「少し、待ってください……。頭を整理させる時間がほしいです……」


 村長が考え込むように目を瞑り、10秒ほどで再び開いた。


「つまり、ジン殿は直接取引の交渉に来た商人であり、道中で会った楓から村の話を聞き、偶然薬を持っていたから村まで来た、という認識で合っていますか……?」


 まさかの完全正解。この村長、できる……!


「ああ、その通りだ」

「また、難しい状況になりました……。本来、直接取引は交渉に時間がかかるのです……」


 俺も、元々はそれなりに時間をかけて商談を行うつもりだった。

 しかし、今はその時間が無いという訳だ。


「この際、面倒な交渉は省略しよう。成功報酬だ。俺達が治療に成功したら、その代金を払ってくれ。直接取引を確約してくれるなら、支払いは直ぐじゃなくても良い」

「それは……。こちらとしては助かりますが、もし治療に失敗したら、ジン殿だけが大損することになるのではありませんか……?」


 普通に考えれば、俺の提案は商人の思考ではないだろう。

 誰がどう見ても、相当に分の悪い賭けだからだ。


「代わりに、成功した時の代金は相場を大きく超えさせてもらう」


 ハイリスクローリターンを無理矢理ハイリスクハイリターンに変える宣言だ。

 なお、ネタが割れているので、既にローリスクハイリターンとなっている。


「代金は覚悟の上です……。分かりました……。ジン殿の提案を有り難く受け入れさせて頂きます……」

「交渉成立だな。まずは誰が薬を使う?」

「私が使います……。万が一の場合、死ぬのは年寄りが先であるべきです……」


 自分で言うのも何だが、見ず知らず相手が渡してくる薬だ。当然、不安もあるだろう。

 病気に対して、合わない薬を使えば、副作用で死ぬこともあるだろう。

 諸々のリスクを承知の上で、自分が実験台になる事を選んだということだ。


「良いのか?村長が実験台になるような真似をして」


 村長、つまり村の指導者が最初に死ぬのは、正しいとも言い難い。


「構いません……。既に引継ぎは済んでいます……。楓、立ち合い人として、椿つばきを呼んでください……。薬を飲む前に、方針を伝えます……」

「うん!」


 楓が走って外に出て行った。


「申し訳ありませんが、椿が来たら、私が飲む薬の説明をお願いします……」

「分かった」


 仮に自分が死んでも、得られる情報は可能な限り残す。少なくとも、同じ間違いを繰り返すような真似はしないはずだ。

 この村長、できる……!


「先程、話が途中になってしまいましたが、薬の数量はどの程度お持ちでしょうか……?」

「細かい数字は覚えていないが、300本以上は確実に持っている。ただし、巨人族に人間と同じ量で効果があるのかは分からない」


 ポーションって人間と巨人族で必要量に差があるのか?


A:ありません。人間と同じ量で効果があります。


 そこは体積に比例しないのか。巨人族、設定が複雑すぎる。


「私の知る限り、病の感染者は200人程です……。少々、不安な数字ですね……」

「時間はかかるが、商会に戻れば数を揃えることは可能だ。状況の悪い者に優先して使い、不足したら取りに戻れば良いだろう」

「そうですか……。それならば一安心です……」


 どちらにせよ、解毒ポーションでは呪いは治らないので、個数に大きな意味はない。

 問題は、どうやって呪いを解く方に話を進めるかだ。


「村長!椿さんを連れてきたよ!」

「お爺様、ただいま参りました」


 楓がドタドタと走って帰ってきた。

 次いで、その後ろから現れたのは、20代くらいの女性だった。


「こちらは椿、私の孫娘です……。彼はジン殿、薬を売ってくれる商人です……」

「よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく」


 村長がそれぞれ紹介をしてくれたので、俺達も挨拶をする。


「椿、私がジン殿の薬を飲みます……。万一の時は、貴女が村長を引き継いでください……」

「はい、分かりました」


 椿は表情を変えず、淡々と答えている。


「ジン殿、薬の説明をお願いいたします……」

「ああ。まず、これが俺の所持する解毒ポーションだ」


 そう言って、解毒ポーションを偽装用アイテムボックスから取り出し、巨人族3人に見える場所に置いた。


「効果はその名の通り毒を治す。毒に分類される病気は大抵治せる。……今更の話だが、病気の種類は何か分かっているのか?」


 呪いありきだった為、病気に関する細かい話を聞いていなかったことを思い出した。交渉の手順、完全に間違えていたな……。


「いえ、原因は分かっていません……。ほとんど同じ生活をしている者でも、病気になる者、ならない者が分かれるので、特定が難しいのです……」

「そうか。なら、とりあえず解毒ポーションで問題なさそうだな。逆に言えば、これで治らなければ、毒以外の原因と断定しても良いだろう」


 元の世界の薬とは異なり、解毒ポーション1つでかなり広範囲の病気を治せる。

 万能薬という訳では無いので限界はあるが、少なくとも感染症の類は大抵治せる。感染症の多くは、体内に入ってはいけない物、つまり毒に該当しやすいからだ。


「毒以外の原因とは、何があるのでしょうか……?」

「例えば、呪いだな。相手を衰弱させるような呪いなら、病気のようにも見えるだろう」


 丁度良い質問が来たので、呪いの存在を示唆しておく。

 この世界では、呪いの存在は明確になっているが、そのメカニズムは解明されていない。漠然と、恨みにより生じるということだけが分かっている状態だ。


「呪い、ですか……」

「呪われたり、恨まれたりする心当たりは?」

「少なくとも、私にはありません……。やはり、普通の病気でしょう……」

「まあ、そうだろうな」


 急に『貴方は呪われました』と言われたら、俺は詐欺を疑うと思う。


「さて、話が逸れたが、解毒ポーションに関する説明は終わりだ。質問はあるか?」

「いえ、大丈夫です……」

「それじゃあ、まずは一本飲んでもらって、効果があればそれで良し。変化があればもう一本。変化が無ければ悪し、と判断しよう」

「はい……。それでは、頂きます……」


 そう言うと、村長は俺の手渡した解毒ポーションに口を付けた。

 サイズ比があるのですぐに飲み終わり、効果が表れるのを待つ。10数秒が経過したところで、村長は首を横に振った。


「効果は無いようです……。ジン殿、効果が表れるまで、まだ時間がかかるのですか……?」

「いや、もう効果が出ていないとおかしい。解毒ポーションは効かないということだな」

「そう、ですか……」

「…………」


 村長は残念そうに俯き、楓は泣きそうな表情となる。椿は無表情のままだ。


「ジンさん!他に何か無いの!?私にできることなら、何でもするよ!?」


 楓が何でもしてくれるってさ。何をしてもらおうか……。


「一応、呪いを解く薬も持っているが……」

「持っているの!?」


 俺の提案に楓が驚きで声を上げる。


「ああ、持っている。本数も同じくらいはある」


 俺は再び偽装用アイテムボックスから薬品を取り出す。その名も解呪ポーション。何の捻りもない名前である。

 高レベルの<調剤>スキルが必要になり、希少な素材を要求される上に、使用する状況が限られているため、あまり流通していない貴重品だ。


「ただ、解毒ポーションより遥かに希少で高価だからな。もし、効果があった場合、病人全員に使うとなると、洒落にならない額になるだろう」

「何故、そんな希少な薬を大量に持っているのですか……?」

「薬はいくら持っていても困らないからな。持てるだけ持つのは当然のことだ」


 村長の質問に、自信満々に答える。

 なお、RPGなんかでは回復薬の充実より、装備の更新を優先する派だった。

 今回は商人ロールとしての回答である。


「どうする?飲んでみるか?今なら、1本目は無料で進呈するぞ?」


 なお、2本目からはぼったくり価格(そもそも定価が高い)となる模様。


「村長!飲んで!」

「今は、僅かな可能性にでも賭ける時です……。頂きましょう……」


 既に覚悟の決まっている村長は、楓の懇願に頷き、解呪ポーションを飲んだ。

 今度は10秒経たずに、村長の顔から死相が消えた。

 失われた体力まで戻る訳では無いので顔色はまだ悪いが、少なくとも死にそうな状況から脱したことは誰の目にも明らかである。


「これは……。身体から痛みが消えました……。治っているようです……」

「村長!良かった!」

「…………」


 村長の顔が驚きに染まり、楓は喜色を浮かべる。椿は無表情のままだ。


「これで、村を襲ったのが病気ではなく、呪いだと明らかになりました……。原因の究明は必須ですが、今は呪いを解くことを優先したいです……。ジン殿、集落との直接取引は確約いたしますし、代金は必ず払います……。どうか、薬を売って頂けないでしょうか……?」

「もちろん、売るのは構わない。しかし、まだ完治した保証が無いけど、良いのか?本当はしばらく様子を見るべきだと思うが?」


 服薬から時間を置き、完治が明らかになるまで、不用意に薬を広めるのは得策ではない。

 ステータスが見えれば、呪いが解けている事が明らかなのだが……。


「それはその通りです……。しかし、村には私同様、症状の……呪いの進行が進んでいる者も居ます。その者達にだけでも、早めに薬を与え、状況を改善してあげたいのです……」

「確かに、様子見している間に状況が悪くなるよりはマシだな」


 薬の使用にはリスクがあるが、既に危機的状況ならば、治る可能性のある選択肢の方が良いだろう。呪いと明らかになった以上、自然治癒の可能性は皆無に等しいのだから。


 村長と話し合い、俺達が楓と椿を連れて重症者の元を回ることにした。

 楓に配布を任せるという案もあったのだが、巨人族に小さいポーションの瓶を運ばせるのは不安だったし、楓には盛大に転んだ前科があるので却下された。



 現時点で、集落内の重症者数は34名。集落の各地に分散しているので、集落を一周するような形で薬を配り回る必要があった。

 集落を見て回れるのは嬉しいのだが、非常時と言うのが残念である。人通りも無く、巨大な平屋を見るだけでは何の面白みも無い。


 重症者の家に入り、解呪ポーションを飲ませるだけの簡単なお仕事だ。

 解呪ポーションの効果は絶大で、飲んですぐに全ての重症者が快方に向かった。流石、アドバンス商会謹製の解呪ポーションだな。


 補足すると、現在は解呪ポーションを解毒ポーションとして配っている。これは村長からの頼みで、呪いが原因だと広めないための措置だ。

 俺は商売で嘘を付きたくないので、配る時の説明は楓と椿に任せている。


 治療開始から1時間経過で、ようやく半数が終わったくらいだ。

 面白いのは、今のところ全員が全員、解毒(解呪)ポーションに不信の目を向けることだ。

 楓によると、巨人族は病気に罹らず、怪我をしてもすぐに治るため、集落には常備薬のような物が1つも無いという。頑丈な種族だな、巨人族。

 薬を使う習慣が無ければ、薬1つで病気が治ると言われて信じられないのも無理はない。


 しかし、実際に薬により病気(呪い)が治ると話は変わる。


「本当にそんな水を飲んだだけで治るの……?」

「信じられない!治った!好き!」


 これは、とある巨人族女性を治療する前後のセリフだ。見事なまでの掌返しだな。

 なお、治療前後の反応変化率は100%であることを付け加えておく。


《……何というか、好感度が急上昇したのが目に見えるようだな》

《明らかに距離感が近くなっていたわよね。ちょっと引いたわ》


 多くの巨人族は、治療後にいきなり馴れ馴れしくなってきた。

 ミオ同様、俺も少し引いたくらいだ。


《それと、全員が感激して抱き着いてくるのには驚いたな》

《仁君、若い女性が抱き着いてきた時だけは避けないんですよね……?》

《役得はしっかり受け取る主義だからな。想像以上に柔らかくて気持ち良い。落ち着くから、しばらく身を任せたくなる》


 当然、男性やオバサンの感謝ハグは全て高速回避している。


《マリアさんが毎回必ず迎撃態勢に入るから、わたくしは落ち着きませんわ……》

《私は仁様の護衛ですから》


 ハグの瞬間、一瞬だが必ずマリアが迎撃態勢を見せる。巨人族の抱き着きハグって、人間にとっては攻撃も同然だから仕方ない。

 俺は高いステータスがあるから平気なだけで、感謝の全力ハグを一般人が喰らったら、病人が減る代わりに、怪我人が1人増えることになるだろう。

 なお、マリアが迎撃したら、病人が1人減り、死人が1人増える。洒落にならん。


《1人2人ならともかく、全員が同じ反応をするとなると、種族的な特徴なのか?》

《もしそうだとしたら、相当変わった種族ですね……》


A:お答えしてもよろしいですか?


 どうやら、アルタは理由を知っている様子。

 この島を観光するうえで、重要なネタバレにならなければ教えてくれ。


A:はい。巨人族は基本的に大怪我をすることや、病気に罹ることがほとんどありません。逆に言えば、苦痛に対する耐性が非常に低いのです。巨人族が今回の呪いのような苦痛を受けた場合、マスターの想像する以上の負荷となっています。また、巨人族は強靭なため、誰かに一方的に助けられた経験がありません。その為、他者に感謝を示すことにも慣れていません。これらの条件が合わさり、あのような過剰な反応となりました。


《なるほど。まとめると、『巨人族はチョロい』ということだな》


A:はい。


《まとめ方、雑過ぎない!?》


 ミオ、渾身の突っ込み。


《雑なのは否定しないが、間違ってはいないだろ?》

《それはそうだけど……》

《種族的にチョロいとなると、悪い奴に騙されそうで心配だな》


 ジャガー商会とやらに搾取されていたりしない?対等な取引になっている?


《……今、一番騙しやすい立場に居るの、ご主人様よね?》

《それは否定できないな》

《ごしゅじんさま、わるいヤツなのー?》


 ドーラが純粋な目を向けて聞いてくる。


《そんなことは無……》

《もし、ごしゅじんさまがわるいヤツでも、ドーラはごしゅじんさまのみかただからー》


 嬉しい事を言ってくれるが、まずは『悪い奴』を否定させてほしかった。

 別に、『良い奴』を名乗るつもりもないけど……。


 その後も引き続き重症者の家を回り続けた。


 重症者の家に軽症者が居る場合、軽症者の分も薬が欲しいと言われることがあったが、椿が村長の決定を伝えることで対応してくれた。

 加えて、重症化したらすぐに村長宅に向かうようにも伝えた。村長宅には、非常用に解呪ポーションを10本程度置いてある。


 さらに1時間、合計2時間程かけ、全ての重症者を治した後、再び村長宅に向かった。


「村長、重症者を全員治したよ!」

「ただいま戻りました」


 楓が大声を出しながら村長宅に突撃する。椿は相変わらず無表情だ。


「そうですか。楓、椿、ご苦労様です。ジン殿、本当にありがとうございました」


 そう言って、俺達を出迎えた村長は、立って・・・頭を下げていた。

 たった2時間で、歩けるまでに回復したようだ。声にもハリがある。


「村長、重症者が増えたという連絡はあったか?」

「いいえ、幸いなことにそのような報告はありません。これから数日は経過観察をするつもりなのですが、ジン殿は如何されますか?」

「可能なら、集落に滞在させてもらいたい。ここに居た方が、色々と対応できるからな」

「そうして頂けると、此方も助かります」


 取引が成立したとはいえ、全ての解呪ポーションを村長に渡した訳では無い。

 基本、巨人族は人間サイズ基準のアイテムを管理するのが苦手なのだ。小さいからね。

 仮に俺達が港町に戻っている間に重症者が増えた場合、預けた解呪ポーションだけでは足りなくなる可能性がある。


「一応、聞いておくが、集落に宿泊施設はあるのか?」

「いいえ、ありません。空き家はありますが、すぐに住める状況ではありません」


 集落に泊まろうという者が居ないのだから、宿泊施設の存在は期待していなかった。

 しかし、すぐに住めない空き家とはどういう意味だろう?


A:何十年も他人が住んでいない、荒れ果てた家です。


 それは、確かにすぐには住めないな。

 メイドを呼べば、すぐに住めるようになるのだろうが……。


「ジン殿には申し訳ありませんが、村人の家に泊まって頂いてもよろしいですか?」

「その村人が良いと言うなら、俺は問題ない」

「ならジンさん!うちに泊まりなよ!」


 ここで手を挙げて立候補したのは楓である。


「確か、楓の家は全員、呪いの影響を受けていませんでしたね?」

「うん、みんな元気だよ!」


 村長の問いに楓が力強く頷く。


「ジン殿に泊まってもらうなら、呪いの被害者が1人も出ていない家を選ぼうと思っていました。楓の家なら大丈夫そうです。ジン殿は楓の家でもよろしいですか?」

「ああ、構わない。楓、よろしく頼む」

「うん!」


 こうして、俺達は楓の家に泊まるため、村長宅を後にすることにした。



 楓の家は村長宅から北に徒歩5分(巨人族カウント)程の場所にある平屋だった。

 裏手には小さいながら、立派な田んぼがある。……小さいと言ったが、巨人族サイズを基準とした『小さい』である。人間から見れば、小さいとは言えない。


 楓が事の顛末を説明すると、楓の両親は迷わずに俺達を歓迎してくれた。

 母親はひのき、父親はすぎという、花粉症の人に嫌われそうな名前だった。


 夕食として並んだのは、田んぼで取れたお米(巨大)を主食として、味噌汁(具が巨大)、焼き魚(巨大)、コロッケ(巨大)だった。何か、コロッケだけ浮いていない?


「さあ、どうぞ。お米は我が家の自慢なんですよ」

「村でも一番美味しいって評判だよ!」

「うむ」


 なお、巨人族の食器は使用できないので、自前の食器によそってもらっている。

 当然、テーブルや椅子も自前で用意した。楓の両親はアイテムボックスを見るのが初めてらしく、テーブルを取り出した時に驚いていたのが印象的だった。

 巨人族サイズの物を入れられるアイテムボックスなんて、超絶希少品だからな。


「いただきます」×8

《いただきます》


 一家揃って自慢するだけあって、お米の味は良く、正直に美味いと言えた。

 欠点と言う程ではないが、サイズ125倍の米粒に慣れるまで、若干の時間を要したことをここに記す。大体、一粒で一口なのである。何か、違和感が……。


 味噌汁に入った豆腐が、カットされているのに一丁サイズだった。更にカットした。

 焼き魚の骨がちょっとした武器になっていた。口内に刺さったら、痛いだろうな。

 コロッケが一口でジャガイモ部分に到達できなかった。衣だけ食べても……。


 結論。巨人サイズの食事、楽しい!


 食後しばらくして、風呂に入って良いと言われたが、ここは遠慮することにした。

 ささっと『清浄クリーン』で身を清める。


 そして、事件は楓が一番風呂から上がった時に起きた。


「ふぅ、いいお湯だった!」

「ちょ!?」


 ミオが声を上げた理由、それは風呂上がりの楓が全裸だったからである。

 その姿は、まさしく隠すものなど何もないと言わんばかりだった。


「な、何で全裸!?」

「え?暑かったからだよ?それがどうかしたの?」


 楓の様子からは、羞恥心というモノが全く感じられない。


「楓、お客さんの前なんだから、早く服を着なさい」

「うむ」


 両親の反応も『ちょっとした失敗をした娘を注意する』くらいのものだった。


「はーい」


 着替えを取りに歩く楓は、隠す様子も、急ぐ様子も見せなかった。

 ……アルタ、知っていたら、説明よろしく。


A:はい。巨人族には羞恥心がなく、人前で肌を晒すことに抵抗がありません。服を着ているのは、人間と交流を始めた後、人間に合わせた文化です。過去、交流のあった人間に、人前では服を着て欲しい、と言われたことが始まりのようです。


 なるほど。……いや、楓は転生者だよな?

 記憶を失っている転生者でも、羞恥心くらいは残っているのでは?

 まさか、巨人族に転生すると、人間の時にはあった羞恥心まで消えるのか?


A:可能性はありますが、断言は出来ません。


 理由は少し気になるが、転生者の話をする予定も無いし、聞く機会は得られないだろう。


着実に異文化交流を楽しみ始める主人公。


檜と杉をストーリー上で死亡させるか悩み中。

理由は作者の一身上の都合(花粉症)です。私怨とも言う。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
名前が木偏縛りで人口が1,000人だと名字が無いと無理じゃないかなあ・・・・・・ と思ったけど、木偏の漢字は1,617字あるそうで。 辞書が無いと大変そう。
[気になる点] 125倍って体積でしょ。長さは5倍。 長さ5倍の米なら、大豆くらいの大きさでしょ。
[気になる点] 今回の上4分の1くらいのとこ 村長「商会に預けている金額で足りなければ、... 仁「勘違いがあるようだが、俺はゴーック商会とは無関係だ」 ゴーック商会でなく、ジャガー商会だと思いま…
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