表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
295/356

第202話 衝突と商談

お待たせしました。

 巨人島の港町を発った俺達は、巨人族の集落に向けて歩みを進めている。


 急ぐ理由もないため、普通に歩いているのだが、予想通り結構な距離があるようだ。

 一本道らしいが、直線という訳ではなく、残念ながら未だに集落の様子は見えない。


 道の左右には雑木林が広がっているのだが、当然のように木々も巨大であり、少し見上げただけでは頂上が見えない。

 これが集落の様子が見えない一番の理由である。


「当たり前だけど、道幅は巨人族基準みたいだな」


 俺達が通っている道は巨人族も使用するはずだ。

 巨人族が港町に行く一番の理由は商品の輸送だろう。つまり、荷物を持った巨人族が問題なく通れる道幅になっているという事だ。

 一言で言えば、超広い。


「広い道の真ん中を歩いていると、不思議な罪悪感があります……。何か、高速道路の真ん中を堂々と歩いているみたいで……」


 少し、落ち着かない様子でさくらが言った。

 言われてみれば、元の世界の高速道路を彷彿とさせる道幅だ。通るのは大型車両ではなく、大型歩行者だけどな。

 しかし、高速道路の真ん中を歩くことに罪悪感か……。


「俺はどちらかと言えば、普段できない事ができるならワクワクするタイプだ」

「まぁ、ご主人様の鋼メンタルならそうでしょうね」


 ミオが関心半分、呆れ半分で呟く。

 俺のメンタル、鋼ほど柔らかくないつもりなんだが……。


「そう言うミオはどうなんだ?」

「私は少しの罪悪感と多めのワクワクが共存しているかな?……ご主人様、罪悪感ある?」

「無いな」

「さくら様、ワクワク感あります?」

「無いです……」

「流石にちょっと両極端では?」

「「……………………」」


 恐らく、ミオの感覚が最も一般的なのだろう。

 俺もさくらも、極端な性格であることは周知の事実である。


「さくら様はともかく、そもそもご主人様に罪悪感ってあるの?」


 話が逸れて、ミオが失礼な事を言いだした。


「失礼な。俺だって罪悪感を抱くことくらい……、ちょっと思い出す時間をくれ」

「時間をかけて思い出さなきゃ、罪悪感のエピソード出て来ないんだ……」

「とても、仁君らしいと思います……」


 視界の端でマリアがさくらのセリフに同意するように頷いていた。


 現在、俺達はセラを先頭、マリアを殿、他の4人を真ん中に配置して歩いている。

 セラとマリアは商人である俺の護衛なので、隊列だけでもそれっぽくしたのだ。

 盾装備で耐久に優れるセラを前、俊敏で判断力に優れるマリアを後ろに配置するのは、護衛という意味では最善の選択だろう。


 隊列の都合上、セラとマリアは話に入り難いので、さくら、ミオと元の世界トークに花を咲かせているという訳だ。

 セラは半分くらい、マリアはガッツリと俺達の話を聞いているけどな。


 ちなみに、ドーラは俺に肩車されて嬉しそうにしている。

 ドーラにとって、俺と話をするより、俺と一緒に居ること自体が重要らしく、良く分からない話は聞き流す傾向にある。

 なお、ここでは幼女メイドを肩車する商人の是非は無視する事とする。


 しばらく考え、ようやく1つ罪悪感エピソードを思い出したところで、遠くから地響きのような音が聞こえてきた。


「この音、もしかして巨人族が走っているのか?」

「ええ、その通りですわ」


 マップを禁止しているから断言はできなかったが、巨人族の島で地響きと言えば、きっと足音だろうという予想は当たっていたようだ。

 そして、足音のリズムから走っている事が分かる。


「このまま進むと、丁度曲がり角で鉢合わせる形になりそうですわ。巨人の方がわたくし達の存在を見落としたら大変ですので、少し様子を見た方が良いと思いますわ」

「分かった。安全の為、ここで少し待機だ」


 セラの提案を受け入れ、この場で待機することにした。


「ファーストコンタクトで巨人族に怪我をさせるのも嫌だからな」


 縁起が悪いにも程があるし、今後の巨人島観光に影響を及ぼすかもしれない。


「あ、やっぱり巨人族安全の為なんだ」

「当然だろう。仮に先頭に居るセラと巨人族が衝突したら、どちらが勝つと思う?」

「もちろん、セラちゃんに決まっているわ」


 仮に曲がり角で鉢合わせ、正面衝突する事になっても、セラはダメージを受けない。

 しかし、巨人族の方は躓いて転び、良くて捻挫、悪ければ骨折する可能性もある。


 この世界では重量差よりもステータス差が優先させるので、そんな異常な状況が発生してしまうのである。

 重量差で言えば、大型トラックと歩行者が衝突するようなモノだ。しかし、歩行者は無傷で巨人族トラックだけが大破することになる。


「仁様、セラちゃんなら、巨人族に怪我させる事なく、受け止めることもできます」


 ここで、何故かマリアからフォローが入った。


A:セラとマリアは訓練を一緒に行うことが多いからです。迷宮にて、巨人族以上の重量を持つ大型の魔物相手に成功させた実績もあります。


 迷宮にそんな大型の魔物は居ないだろ?


A:54層の訓練エリアに生成した、50層までの通常エリアには出ない魔物です。


 ……そう言えば、迷宮の生成権を迷宮保護者キーパーに与えたな。


 通常エリアである迷宮の50層までは、天井という制約があるので、大型の魔物は出現しないようになっている。

 54層は天井も高いので、大型の魔物を出す事も可能となる。


 基本的に魔物の生成は、迷宮支配者ダンジョンマスターに限定された権限なのだが、魔物を相手にする訓練の度に呼ばれるのも面倒なので、54層に限り迷宮保護者キーパーでも魔物を生成できるように権限を付与してある。

 加えて、俺は今まで大型の魔物を生成したことが無かったので、大型の魔物が生成できること自体を忘れていた。


「セラちゃん、そんなことできるの?」

「ええ、できますわ。今のところ、見せる機会には恵まれませんけど」

「あー……、確かに使う機会が少なそうな技よね」

「機会が無くても、選択肢が増えるのは良い事ですわ」


 ミオの言う通り、使い道が非常に限られる技術だが、セラもそれを承知で覚えたのだろう。

 ここで1つ閃いた。


「折角だし、今回をその機会にすると言うのはどうだろう?」


 このまま進めば、偶然・・衝突事故が発生する。

 これは、セラの技を見る良い機会と言えるのではないだろうか?

 巨人族が避けるならそれも良し。衝突したとしても、セラの技が見れるので良し。どちらにせよ巨人族は怪我をすることが無いので良し、となる。


「ご主人様、それはやめよ?」

「もう少し、マシな機会を頂けません?」


 ミオとセラに止められたのでやめました。



 のんびり巨人族を待っていると、徐々に足音は近づいてくる。

 その内、姿が見えて来るだろうと思っていたら、突然足音が消えた。


-ドゴ!!!-


 続いて、大きな衝撃音が響き、ガサガサと木が揺れるような音も聞こえる。


「マリア、何があったか教えてくれ」

「マップ情報ですが、よろしいですか?」

「ああ、構わない」


 俺自身がマップを見るつもりは無いが、流石に気になるのでマリアに聞いた。

 マップを禁止していないマリアなら、何が起きたかも把握しているだろう。


「承知いたしました。道を走っていた巨人ですが、曲がり角で足を滑らせ、雑木林に突っ込みました。衝撃音は、勢いよく木に頭をぶつけた際に発生したものとなります」

「うわぁ……」


 割と洒落にならない事故じゃないか、それ……。


「マリアちゃん、その人は無事なんですか……?」

「無事ではありませんが、現時点では生きています」

「……とりあえず、急いで向かおう」


 マリアのセリフに不穏な物が混じっていたので、巨人族の元に急ぐことにした。

 このままでは、ファーストコンタクトが『巨人族(遺体)』になり兼ねないからな。

 まさか、俺達と無関係な場所で衝突事故を起こすとは思わなかったよ。


 セラが話していた曲がり角の奥に、もう1つ曲がり角があり、S字カーブとなっていた。

 巨人族は、こちらから見えない方の曲がり角で雑木林に突っ込んでいたのだ。

 巨人族サイズのS字カーブなので、それなりに距離があり、一般人が急いだ速度で向かったため、思ったよりは時間がかかってしまった。


 そして、事故現場で俺達を待ち受けていたのは、思いもよらない光景だった。


「白、か……」

「気持ちは分かるけど、最初に言うセリフがソレなのは、どうかと思うわ」


 ここで、少し状況を整理しよう。


 雑木林に突っ込み、顔を木にぶつけたという事は、道からは背中側が見えることになる。

 木にぶつかり、崩れ落ちると、尻を突き上げたような体勢となる。

 気絶している巨人族は、布面積が小さい革製の衣装を着ている少女だった。

 ミニスカートを履いた女性が、尻を突き上げた時に後ろから見える物。それが今、俺が見ている光景の正体である。


 視認面積25倍のパンツ、迫力が凄い。

 これが……これが巨人族か。俺の想像以上だ。


「ご主人様、また碌でも無い事考えてそう……。それより、ほら!この子、ステータスも凄いわよ!」


 最初に白い布に目が行くのはどうしようもないが、次に確認するのはステータスである。

 ミオの言う通り、パンツといい勝負ができる内容だった。


名前:かえで

性別:女

年齢:12

種族:巨人(転生者)

称号:巨人の勇者

スキル:

<封印LV10>


 ついに、俺の前に転生者の勇者が現れたのだ!

 なお、勇者捜索キャンペーンは終わっており、出会えたことのメリットは特にない。


 転生者も勇者もレアな出生だが、両立できるとは知らなかった。

 しかし、転生者と勇者の組み合わせか……。


「まるで、ミオとマリアの徳用セットみたいだな」

「アレを見て言うセリフがそれ!?」


 転生者ミオ勇者マリアを同時購入した俺にしか言えないセリフである。


「改めて考えたら、ミオとマリアは徳用じゃなくて、見切り品だったな」

「言い方ぁ!人を閉店間際のお惣菜みたいに言わないで!」

「閉じる間際だったのは、店じゃなくてミオ達の命運だったけどな」

「上手い事言わない! ……その節は本当にお世話になりました」


 ツッコミから一転、頭を下げるミオ。切り替え早いね。


「ミオさんとじゃれ合うのは結構ですが、怪我人を放っておいて良いんですの?」

「おっと、そうだったな」


 ミオで……ミオと遊んでいる場合じゃなかった。

 目の前には怪我人が居るのだ。


「<回復魔法>を使いますか……?」


 さくらが聞いてきたので、俺は首を横に振った。


「いや、回復アイテムを使う」

「何で態々アイテムを使うんですか……?」


 普通に考えれば、<回復魔法>の方が効率的だが、今は状況が違う。


「俺達は商人だぞ?商人が<回復魔法>を使って、タダで治してあげるなんて異常だろ?ここは、回復アイテムを使って、その代金を請求するのが、商人のあるべき姿だ」

「そんなあるべき姿、聞いたことがありません……」


 基本、俺は役割ロールプレイに忠実なのだ。

 商人のフリをするなら、本気で商人らしく振舞ってやる。


「<回復魔法>は治した証拠が残らない。だが、回復アイテムなら証拠が残る。つまり、法外な値段を請求しても、拒否することができなくなるのだ!」

「ご主人様?それは商人じゃなくて、悪徳商人じゃない?」

「なら、法外な値段は付けない。適正価格を請求しよう」


 俺は<無限収納インベントリ>から1本の薬品を取り出した。


「それ適正価格が一番ヤバい奴じゃん!?」


霊薬 エリクサー

備考:HP、MPを全回復させる。


 みんな大好きエリクサーの登場である。


 これは、ドリアードのミドリが作り出した薬品の1つで、HPとMPを全回復するRPGのお約束アイテムだ(効果は作品により変わる)。

 勿体ない病のせいでラスボス戦でも使われない事で有名だが、俺達の場合は『ダメージを受けない』+『受けても自動回復ですぐに全回復する』という理由から使う機会がない。


 あらゆる病を治す『秘薬 ネクタール』、傷跡や部位欠損を治す『神薬 ソーマ』、HPとMPを全回復する『霊薬 エリクサー』の3つは、伝説の薬と呼ばれている。

 伝説の薬なので、市場価格は存在せず、オークションに出品された場合、とんでもない値段が付くことは確実だ。

 エステア迷宮でドロップした『神薬 ソーマ』の落札価格がそれを証明している。


「ご主人様、この子を借金塗れにしてどうするの?奴隷?やっぱり奴隷なの?」

「やっぱりとは何だ。半分は冗談だからな?」

「半分だけなんだ……」


 俺は<無限収納インベントリ>にエリクサーを入れ、代わりにハイポーションを取り出し、楓の口に流し込んだ。

 エリクサーを使わなくても、楓のHPを全回復するのは難しくない。


「回復アイテムを使うのは本当だが、代金は請求しない。売るのは、ポーションじゃなくて『恩』だからな」

「なるほど。巨人島を観光するのなら、巨人族に恩を売った方が良いわよね」

「そう言う事だ」


 商人としても観光客としても、巨人族に恩を売る方が後の為になるだろう。

 なお、勇者捜索キャンペーン中だったら、少し強引な方法を使った可能性がある。



 当然と言えば当然の話だが、HPが全回復しただけで気絶から目覚める訳では無い。


「う、ううん……」


 楓が目を覚ましたのは、ハイポーションを使ってから約5分後だった。

 目覚めた楓が身体を起こすと、それだけで俺よりも目線が高くなる。


「ここは……」


 キョロキョロと周囲を見渡し、俺達の存在に気付いた。


「あなた達、人間……よね?」

「少なくとも、俺は人間だな」


 獣人のマリア、竜人種ドラゴニュートのドーラも居るので、全員が人間では無い。


「どうして、こんな所に居るの?人間は港町から出ないんだよね?」

「巨人族の集落に向かっている途中だからな。目的は商売の交渉だ」

「商売!あなた、商人なの!?」


 俺が商売と言うと、楓は凄い勢いで迫ってきた。

 色々とデカい。


「ああ、俺は商人の……」

「お薬!お薬を持ってない!?村が病気で大変なの!」


 俺の自己紹介は、迫りくる楓によって途切れることになった。


 これまた凄く分かり易いイベントフラグが立ったな。

 そして、楓が走って港町まで行こうとしていた理由も察することができた。


「もちろん、持っているぞ。君の怪我をハイポーションで治したのは俺だからな」


 ここぞとばかりに恩人アピール。


「え!?あ、思い出した!私、木にぶつかったんだ!でも、顔は痛くない……?」


 楓は顔をペタペタ触り、痛みが無いことを確認している。

 どうやら、ショックで気絶直前の事を忘れていたようだ。


「そのハイポーションって、お薬のこと?」

「ああ、傷や痛みを治す薬のことだが、知らないのか?」

「うん。私、村からこっち側に来るのは初めてで、人間の常識は知らないから」


 楓の回答を聞き、内心で首を傾げる。

 巨人族がポ-ションを知らないのは良いとして、転生者がポーションを知らないというのはどういうことだ?

 元の世界でも、『ポーション』という単語は、それなりの市民権を得ていたはずだ。

 それとも、元の世界の記憶が不完全なタイプの転生者なのか?


「そのお薬で病気は治るの?」

「病気の種類による。絶対に治るとは言えないが、解毒ポーションで治る病気も少なくない」

「ホント!?お願い!そのお薬を売って!」


 巨人族に恩を売りたい俺にとって、楓の懇願は都合が良いとも言える。

 しかし、巨人族の集落に入る前に、巨人族との商談が始まるとは思わなかったよ。


「絶対に治る保証は無いが、それでも良いか?」


 ポーションが効かなくて文句を言われても困るので、予め確認をしておく。

 一般的に流通しているポーションでは、対処できる病気には限界があるからな。

 なお、『秘薬 ネクタール』を使えば絶対に治ると言える。


「うん!少しでも皆が治る可能性があるなら!」


 この言い方から『病人は1人じゃない』、『かなり厄介な病気』ということが窺える。

 巨人族の集落、大丈夫なのか?俺が行く前に滅びるなよ?


「分かった。俺の持っているポーションで良ければ売ろう」

「ありがとー!」


 感極まった楓が俺に抱き着いた。


 余談だが、楓は12歳にしては発育が良い。

 全体サイズを考えず、身体の比率だけで考えると、身長は低くて出るところは出ている、所謂トランジスタグラマーと言う奴だ。

 そして、全体サイズを考えると、それが更に125倍されることになる。


 流石の俺も、125倍巨乳に包まれるのは初めての経験である。


 後、楓は人間との交流が無いせいか、力加減が分かっていない。

 俺だから平気だが、一般人ならダメージを負うほどの抱きしめパワーだ。

 前が天国、後ろが地獄と言ったところか……。下手をすれば背骨を骨折する威力なので、本当に天国か地獄に行きかねないのがポイントだ。


《マリアとセラは、巨人族の集落の事も把握しているんだよな?》


 俺は楓に抱き着かれたまま、マリアとセラに念話を送った。


《ええ、当然ですわ》

《詳しく説明した方がよろしいですか?》

《いや、言わなくていい。念のための確認だ》


 マリアの反応から、巨人族の集落を襲う病魔の危険度が低いことが分かる。

 危険度が高ければ、マリアがこんなに落ち着いている訳がない。

 ネタバレは禁止だけど、マリアの反応で展開を予想する事は禁止していなかったりする。


 どうやら、このまま巨人族の集落に行っても大丈夫そうだ。


「自己紹介がまだだったな。俺の名前はジン。君の名前は?」


 俺は乳を押しのけ、楓に名前を尋ねる。

 毎度の事だが、名前を知っている相手でも、名前を尋ねる必要があるのだ。


「私の名前はかなで……じゃなかった、楓だよ」


 自分の名前を間違えた?もしかして、前世の名前が「かなで」なのか?

 俺の知る限り、記憶が不完全なタイプの転生者は、全員が前世の記憶を覚えていない。

 全ての記憶があるのか、前例がないパターンなのか……。


「そう言えば、ジンさんが私の怪我を治してくれたんだよね?」


 思い出したかのように楓が尋ねてきた。


「ああ、ハイポーションを飲ませた。痛みとかは残っていないか?」

「うん、大丈夫だよ。それと、助けてくれて、ありがとうございます」


 楓は俺を放し、座った状態で姿勢を正し、丁寧なお辞儀をした。


「どういたしまして。随分、綺麗なお辞儀だな」

「昔、いっぱい練習したからね。今でも身体が覚えているの……」


 楓の表情には、隠し切れない寂しさが滲み出ていた。


 偏見かもしれないが、巨人族がお辞儀の練習をするとは思えない。

 恐らく、楓の言う『昔』とは、前世のことなのだろう。今世だったらゴメン。



 俺達は楓と共に巨人族の集落に向かうことにした。


 しかし、巨人族と人間では歩幅が大きく異なるため、一緒に歩くことは不可能に近い。

 そこで、少しでも早く巨人族の集落に戻りたい楓は、俺達を運ぶことを選んだ。


 結果、俺、ミオ、さくらの3人は楓の胸に抱えられることとなった。

 安全に運ぼうと思ったら、胸に抱えるのが1番だから仕方ないよね。

 なお、抱えるときの力加減については、注意したら治してくれたので問題ない。


 ついでに言うと、マリアとセラは肩、ドーラは頭の上に乗っている。

 抱えられると動きが制限されるので、護衛組は動きやすい肩を選んだ。

 ドーラは特に理由も無く頭の上を選んでいた。


 楓には転倒の前科があるので、走らないように言ってある。

 気が急いて早歩きになっているのはご愛敬だ。


 前を向いているので見えないが、背中で胸がボヨンボヨン動いている事は分かる。

 巨人族にはパンツの文化はあるようだが、ブラジャーの文化がない事も分かる。


 ……俺、今、巨人族を堪能している。


「ジンさん、この先が村だよ!」


 巨人族の堪能、終了のお知らせ。

 幸福な時間は短く感じるというのは本当のようだ……。


 最後の曲がり角を曲がると、楓の言う通り村が見えてきた。


 相変わらず遠近感は狂いそうになるが、見た限りでは木製の平屋が多い普通の村だ。

 そして、重要なのは巨人族の姿が全く見えない点だ。


「巨人族の姿がないようだが?」

「皆、家の中に居るよ。動ける人も、病気の人の看病をしないと駄目だから……」


 事実上、集落としての機能を失っている状態だな。


 集落が見えてから、楓の早歩きの速度も上がっているが、野暮な事は言わない。

 それだけ、集落の事が心配なのだろう。


 それから数分かかり、俺達は巨人族の集落に到着した。


「皆!お薬を売ってくれる人を連れてきたよ!」


 集落に入ってすぐ、大きな声で楓が叫んだ。正直うるさい。

 楓の叫びを聞き、いくつかの平屋から巨人族が出てきた。


 折角なので、巨人族のステータスを確認する。

 欅、桂、柊、杠、松、楠……なるほど、巨人族の名前は木偏縛りなのか。


 あ、桜って名前の女性が居る。

 まさか、巨人族の集落で名前が被るとは思わなかったな……。


 そして、顔を出した巨人族の中で、調子の悪そうな男で目が止まる。


名前:たちばな

性別:男

年齢:42

種族:巨人

状態:呪い


 病気じゃないよ!呪われてるよ!


亀ウォーク更新で申し訳ありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公が素でステータスが運に特化してるからかやたら縁起の良し悪しについて言及するね。本来の意味的に「縁起」の使い方間違っているけど。
[一言] 呪術〇戦の影響でも受けた?
[一言] ごくたまーに表出するジンの性欲 生意気で敵対的な大人の女性だと真っ裸でもスルーし 中立で素直な同学年のノーパンには気を良くし 礼儀正しく純粋な年下少女ならパンツにも食いつく ひょっとしたら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ