第8話
・Sランク冒険者クロード 前代未聞の指名依頼
・元勇者木野あいち 魔王を倒させるために
今後の本編の展開に関わる内容の短編となっています。
本編で語られていない設定も出てきます。
標題:Sランク冒険者クロード 前代未聞の指名依頼
視点:クロード
時期:第12章頃
Sランク冒険者というのは、その功績を複数の国に認められ、英雄と呼ばれるべき偉業を成し遂げた者にのみ与えられる称号であり、多くの権利と義務を有する。
冒険者はBランク以上になると、義務の1つとして指名依頼という制度の対象になる。
これは、冒険者を指名しての依頼であり、大衆に認められた証とも言える。
指名依頼の依頼料は高く、冒険者ギルドが依頼をある程度精査するため、無茶苦茶な依頼が来ることも少ないので、冒険者から見れば美味しい依頼でもある。
補足すると、先輩の冒険者から聞いた話では、依頼元の土地や冒険者ギルドが酷く腐敗している場合、無茶苦茶な依頼が来る確率が跳ね上がるそうだ。
指名依頼に強制力は無いので断る事も出来るが、断る際には注意が必要となる。
指名依頼を断ると言う事は、自分の実力を認めた相手の頼みを断ると言う事だ。
更に言えば、依頼者は高額な報酬を支払うだけの権力、財力を持った相手となる。
下手な断り方をすれば、『味方に近い権力者を敵に回す』可能性がある。
逆に言えば、縁を切り、敵に回しても構わない相手の指名依頼なら断っても問題無い。
そして、Sランク冒険者ともなれば、国からの指名依頼が来ることも少なくない。
国からの指名依頼は、大抵の場合は国として相当に重要な案件となる。
何故なら、冒険者に依頼をすると言う事は、国家が保有する人材、戦力で対処できない状況に他ならないからだ。
今回、僕達の元に届いたのは、単独の国ではなく、複数の国の連名による依頼であり、色々な意味で非常に断りにくい指名依頼だった。
冒険者ギルドで指名依頼の説明を聞いた僕は、一度クランハウスに持ち帰り、パーティメンバーと相談することにした。
「……前代未聞の指名依頼だな」
ノットが呆れたように言うのも無理はない。
今回の指名依頼は、一般的な常識で考えれば有り得ない物だったからだ。
「断り難さも前代未聞よね。勇者支援国が連名で指名依頼なんて、聞いたことないわ」
「拘束期間も長いですよ。最低でも一月だそうです」
「その代わり、依頼料も前代未聞だよ……。多すぎて、依頼料が妥当か判断できないね……」
ココ、ロロ、アデルが依頼の前代未聞度合いを口々に言う。
「でも、一番有り得ないのは依頼内容に間違いないよね?」
「はい。これは本来、依頼して良い内容ではありません」
僕の言葉にユリアさんが頷く。
今回の依頼内容は、一言で言うと『勇者と共闘して魔王を倒す』だった。
少し、状況を整理しよう。
魔王の治める魔族領は、旧エルディア王国の西部に隣接している。
しかし、魔族領は四方をパスフィル山脈と呼ばれる高い山々に囲まれており、山脈の性質もあって行き来が非常に難しくなっている。
パスフィル山脈の性質とは、『低レベルの存在に対する特大の負荷』だ。
特殊な瘴気のような物を山脈全体が放出しており、一定のレベル……大よそ50レベルに満たない者がその瘴気を取り込むと体調を崩し、最悪の場合死に至る。
レベルの概念は師匠の関係者でなければ理解していないので、一般的には弱い人は越えられないと言われている。
この性質の例外は勇者だけであり、勇者は50レベルに満たなくてもパスフィル山脈を越えられる。道中の魔物に殺されなければ、という条件が付くが。
この性質は魔族側にも有効であり、基本的に弱い魔族が山脈を越えてくることはない。
しかし、極稀にこの瘴気が弱まることがあり、魔族側はそれを検知できるが、人類側は検知できないという不利を強いられている。
魔族側は、瘴気が弱まったタイミングで、魔族の大軍を送り込んでくる傾向にある。
師匠がエルディア王国に攻め入った時、魔族の軍がエルディア王都を襲っていたのは、丁度そのタイミングだったというのが理由だ。
過去の勇者達は、魔族領からパスフィル山脈を越えてきた魔族と戦い、十分に実力を付けた時点で魔族領に攻め入り、魔王を打ち取ったと聞いている。
この時、大抵の場合は勇者を含む少数精鋭だけで魔族領に攻め入ることになる。
これは、魔族領にはパスフィル山脈とは別の瘴気が充満しており、勇者と魔族には効果が無いが、その他の者には有害で、長時間取り込むのは危険だ。
過去、魔族領にて多くの魔王が打ち取られたが、今もなお魔族領が存在しているのは、人が住めず、管理できない土地だからだ。
レベルが高ければ、多少は効果が軽減されるので、『勇者に同行できるのは、余程の覚悟がある強者だけ』と言われている。
今回、一番有り得ない点は、僕達の覚悟とは関係なく、指名依頼によって魔族領に入る事を強制されそうになっている事だ。
「依頼する方もそれを理解しているのでしょう。だからこそ、依頼書の理由説明がここまで細かく書かれているのだと思います」
指名依頼とは、冒険者の実力を認めたが故の依頼方法だ。
依頼書に理由を記載する事で、『貴方達のこの部分を評価しています』と主張できる。
今回の依頼書には、理由の項目が事細かに書かれてあった。
依頼書に記載された、僕達が選ばれた理由は大きく次の4つだ。
・Sランク冒険者なら、パスフィル山脈を越えられる見込みが高い。
・劣風竜を所有しており、魔族領からの退避が容易である。
・唯一のSランク冒険者のパーティであり、協調性に優れている。
・Sランク冒険者の中では、勇者の平均年齢に近く、馴染みやすい。
確かに、1つ目の理由を除き、僕達にしかない要素だ。
3つ目の理由は、Sランク冒険者は我の強い人が多く、集団行動には向かないという悲しい現状が影響している。
「前代未聞ではあるが、悪い依頼ではないよな?」
「そうね。少なくとも、依頼書から誠意は感じるわ。アデルと同じく、依頼料の判断は付かないけどね」
「依頼料は妥当な範囲だって受付嬢さんが言っていたよ。他国で活動しているSランク冒険者を、指名依頼で呼び出して長期間拘束すると、このくらいの額になるだろうって」
受付嬢さんから見ても前代未聞だったようで、資料を出して計算をしていた。
今まで黙っていたイリスが、真剣な表情で口を開いた。
「師匠は何か言っていた?勇者に関わる依頼でしょ?」
「!?」
『師匠』の一言で肩を震わせたのは、同じく今まで黙っていたシシリーである。
「大丈夫、師匠からは『好きにしていい』って言われているから」
師匠と勇者の間には因縁がある。
流石に、師匠の意向を無視して依頼は受けられないので、予め確認は取っておいた。
「それなら良いわ」
「良かった~」
イリスとシシリーが安堵の表情を浮かべる。
師匠が駄目と言ったら、他の要素は全て無視して依頼を断るに決まっている。
先にも述べた通り、指名依頼を断ると言う事は友好関係を壊すと言う事だ。
複数の国の連名ともなると、その影響範囲は非常に大きくなる。
それでも、師匠の機嫌を損ねるよりは遥かにマシだと思う。
「後、今回の依頼は8人全員ではなく、4人から6人で参加することになるよ」
この指名依頼は、僕個人ではなく、Sランク冒険者のパーティに宛てた物だ。
8人全員に向けた物かと思ったら、依頼書には『パーティに所属するSランク冒険者4人~6人』と記載されていた。
「本当ですね。気付きませんでした。何か意味があるのですか?」
依頼書を見直したロロの質問に頷く。
「僕も受付嬢さんから聞いた話なんだけど、カスタールへの配慮らしいよ」
「?」×7
冒険者として大成したとはいえ、僕達は見た目通りの教養しかない(ユリアさん含む)。
政治的な話は、説明を受けないと理解できないのだ。
受付嬢さんの説明では、Sランク冒険者は国の宝であり、他国のSランク冒険者を大勢呼び出し、長期間拘束する事は褒められた行為ではない。
他国のSランク冒険者に指名依頼を出す場合、その国の上層部にも報告が入るようになっているので、内密に依頼を出すことも出来ない。
勇者に関する依頼だから、勇者支援国が相手なら問題にはならないけど、この国は勇者支援国になる事を明確に拒否しているので通用しない。
勇者を理由に出来ないから、『全員』と言わない事で、依頼に悪意は無いとアピールしているそうだ。
「依頼を受ける場合、メンバーも決める必要があるってことね」
「あ、悪い。全員じゃなくて良いなら、今回は遠慮させてくれ」
ノットが申し訳なさそうに言った。
「もしかして、鍛冶の仕事かな……?」
「おう!今、ミミさんの仕事を手伝っているんだよ」
ノットはSランク冒険者であり、鍛冶師でもある。
一流の鍛冶師であるミミさんの元で、弟子として修業中なのだ。
「へえ、何やっているの……?」
「ミミさんの悲願でもある、師匠専用の最高傑作作りだな」
「当然、師匠を優先するのよね?」
「おう。そのつもりだ」
師匠と言う単語に反応したイリスにノットが答える。
流石に師匠が理由なら参加させる訳にはいかない。残る参加メンバーは、依頼を受けることが決まってから選ぶ事になった。
今回の指名依頼は連名で行われたが、連名の中でも代表となる国は存在している。
それが最強の勇者17人を擁する大国、サノキア王国である。
一般的には知られていない裏事情なのだが、サノキア王国の勇者17人は、既に祝福を失っており、厳密に言えば勇者とは呼べない。
そして、サノキア王国の上層部(女王含む)と17人の元勇者は、師匠の配下……つまり、僕達の同僚と言っても過言ではなかったりする。
「サノキア王国から、説明はあったのですか?」
「クロード君の事だから、確認はしているのよね?」
ユリアさん、ロロの問いに頷く。
依頼書を受け取った後、最初に師匠に確認し、次にサノキア王国に確認を取った。
同僚なのだから、依頼について質問するくらいは簡単だ。
「もちろん、確認済みだよ。……依頼書だけで判断して欲しいってさ」
「なんだそりゃ?」
「向こうの方針だよ。師匠から、『出来るだけ正規の手順で魔王を倒す』ように言われているらしいよ。裏で説明するのは、正規の手順じゃないから控えたいんだって」
依頼の詳細は説明してもらえなかったが、方針は説明してもらえた。
サノキア王国は師匠の指示に従い、極力師匠の能力に頼らずに魔王討伐を目指している。
事情を説明して、強引に依頼を受けさせるのは、その方針に反するそうだ。
「それじゃあ、無理に聞く事は出来ないわね」
『師匠の指示』と言うのは、師匠の配下にとって非常に大きな意味を持つ。
何よりも優先されると言っても良いだろう。
その後の話し合いの結果、僕達は指名依頼を受ける事にした。
参加するメンバーは僕、アデル、ロロ、イリス、ユリアさんの5人だ。ノット、ココ、シシリーの3人は不参加となり、カスタールを中心として活動を続けていく。
事情は分からないが、サノキア王国が連名の代表となっている以上、『出来るだけ正規の手順で魔王を倒す』ために重要な指名依頼であることは確実だ。
依頼書に書かれた理由を見ても、代替手段を探すのは簡単ではないだろう。
これは、Sランク冒険者として、絶対に受けなければならない依頼だよね。
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登場人物
名前:クロード
性別:男
年齢:12(登場時)
種族:人間
称号:仁の奴隷、Sランク冒険者
備考:カスタールの冒険者奴隷組の1人。『精霊化』の属性は光。冒険者組のリーダーであり、王道サクセスストーリーの主人公のような少年。スキルとは別の主人公補正があり、ピンチになると強くなったり、女性のピンチに遭遇したりする。詳しくは『列伝』参照。
名前:アデル
性別:男
年齢:11(登場時)
種族:人間
称号:仁の奴隷、Sランク冒険者
備考:カスタールの冒険者奴隷組の1人。『精霊化』の属性は氷。物静かで勉強が好きなインテリ少年。ただし、眼鏡はかけていない。堅実な戦い方をしており、クロードとの模擬戦では勝率5割をキープしている。反面、実戦での爆発力は無い。良くも悪くも一定。
名前:ノット
性別:男
年齢:10(登場時)
種族:ドワーフ
称号:仁の奴隷、Sランク冒険者
備考:カスタールの冒険者奴隷組の1人。『精霊化』の属性は土。鍛冶師としても優秀な少年。間章4話で紹介済みなので省略。
名前:ココ
性別:女
年齢:12(登場時)
種族:獣人(犬)
称号:仁の奴隷、Sランク冒険者
備考:カスタールの冒険者奴隷組の1人。『精霊化』の属性は風。仁に忠誠を誓う健康巨乳少女。間章5話で紹介済みなので省略。
名前:シシリー
性別:女
年齢:11(登場時)
種族:人間
称号:仁の奴隷、Sランク冒険者
備考:カスタールの冒険者奴隷組の1人。『精霊化』の属性は水。ココが大好きなおっとり少女。間章5話で紹介済みなので省略。
名前:ロロ
性別:女
年齢:11(登場時)
種族:人間
称号:仁の奴隷、Sランク冒険者
備考:カスタールの冒険者奴隷組の1人。『精霊化』の属性は火。お色気担当のロリ巨乳少女。仁に対して明確な恋愛感情を持っているが、鈍感スキルを持つ仁にはアピールが届いていない。将来の夢が『お嫁さん』から『愛人』に変わった。
名前:イリス
性別:女
年齢:10(登場時)
種族:ハーフエルフ
称号:仁の奴隷、Sランク冒険者
備考:カスタールの冒険者奴隷組の1人。『精霊化』の属性は闇。本(物語)が好きな毒舌眼鏡っ娘。気安い相手、気楽な状況なら軽い毒舌を披露するが、仁が絡むと真剣そのものとなり、その余裕は無くなる。裏設定として、違う世界線を夢で覗いた経験がある。
名前:ユリア
性別:女
年齢:392(登場時)
種族:ハイエルフ
称号:仁の奴隷、エルフの姫巫女、エルフ王族、記憶喪失、Sランク冒険者
備考:カスタールの冒険者奴隷組の1人。『精霊化』は使わない。記憶喪失、銀髪のハイエルフ王族、ロリババアと属性過多気味な少女……少女?11章で自身の出自が分かり、13章で過去の因縁が全て消えた。憂いが無くなったので、1から将来設計を始めている。
標題:元勇者木野あいち 魔王を倒させるために
視点:木野あいち
時期:第12章頃
私の名前は木野あいち。
サノキア王国に所属する勇者の1人……間違えた。正しくは、元勇者の1人だ。
勇者とは、女神より祝福を与えられた存在の事であり、既に祝福を失っている私を勇者と呼ぶべきではない。
現在、サノキア王国には私を含め17人の勇者が所属しているが、全員が私と同様に祝福を失っており、元勇者となっている。
祝福自体に未練はなく、失ったところで嘆くような物でもないが、ある理由により最低1つ必要になってしまったのだ。
祝福が必要になった理由は、私達の行動指針にある。
私達の行動指針は、『出来るだけ正規の手順で魔王を倒す』であり、祝福を失ったことを隠し、普通の勇者として魔王を倒そうとしている最中だ。
伝承では、勇者が魔王を倒すと、元の世界に帰る方法が神託により伝えられるそうだ。
この神託は、魔王を倒した勇者に直接授けられると言う。
過去、祝福を持たない者が魔王を倒した事例は存在せず、結果としてどうなるのかも分かっていない。
神託の性質を考えると、勇者以外の者に神託が与えられる可能性は低いだろう。
つまり、正規の手順を守ろうと思えば、祝福の存在が必須となってしまう。
最低でも1つ。魔王に止めを刺す勇者が持っている必要がある。
私達17人は祝福を持っていないし、もう1度得る機会があったとしても、得る事を選ぶ者が1人も居ないのは確実だ。
ならば、どうすれば良いだろうか?
簡単だ。祝福を持った勇者を魔王討伐に同行させ、止めを任せれば良い。
サノキア王国にある魔物の領域の1つに、『果ての森』と呼ばれている森がある。
この森に存在する魔物は、サノキア王国の中でも最も強いと言われており、Cランク以下の冒険者には入ることも許されていない。
なお、冒険者ではない勇者も、国からの許可があれば入る事が出来る。
「何て強い魔物なんだ……!姉貴、出し惜しみは無しで行くぞ!」
「ええ、そうね!私達の本気、見せてあげるわよ!」
今、森で魔物と戦っているのは、元の世界で生徒会に所属していた旭姉弟だ。
2人は双子で、姉の旭渚沙が会計、弟の旭空我が書記を担当していた。
2人が勇者として得た祝福は、同一名称、ほぼ同一能力だった。
祝福の名は<超転身>。簡単に言えば、変身能力である。
変身後は、渚沙はフリルやアクセサリーの付いたやや露出の多い軽装、空我はタイツの上に鎧とヘルメットを付けた姿をしている。どちらもイメージカラーは黒で共通だ。
変身すると身体能力が大幅上昇して、攻撃に対する強い耐性も得られる。必殺技のような物も使えるようになり、1つの致命的な欠点を除けば、かなり優秀な能力だ。
変身解除した場合、24時間は変身できないという制限はあるが、変身時間自体には制限が無いので、継続戦闘能力もある程度期待できる。
致命的な問題は、一部分だけ服を脱いだりできないので、トイレに行けない点である。トイレに行きたければ、変身を解除しなければならない。それか、諦めて漏らす。
諦めた後、『清浄』を使うという対処法を提案したが、却下されてしまった。
変身解除の問題があるとはいえ、勇者として召喚されたので基礎的な身体能力も上がっているし、祝福以外のスキルがあるので、完全な無力になる訳では無い。
しかし、2人共祝福に頼る傾向が強く、今も変身して戦っている。
「喰らえ!!!」
「行くわ!!!」
ここで、2人の必殺キックが炸裂し、魔物達が謎の閃光とともに粉砕された。
「やったぜ!」
「やったわ!」
満足そうにしている2人には悪いが、ハッキリ言って『弱い』。
2人が激戦を繰り広げた魔物は、森の中心にいるボスのような存在ではなく、入ってすぐの場所に居た、ごく普通の魔物でしかなかった。
逆に言えば、普通の魔物相手に、必殺技を使うところまで追い込まれたのだ。
その日の夜。私、七宝院先輩、五十嵐先輩は揃って難しい顔をしていた。
「正直、予想外でした……」
「ああ、一番マシな連中であの程度とは思わなかった……」
私達の目的は、祝福を持った勇者に魔王を倒させることだ。
現在、生き残った勇者の中で、最も強いのが『生徒会パーティ』と呼ばれていた4人組であり、私達は分担してその強さを確認した。
生徒会長を七宝院先輩、副会長を五十嵐先輩、書記と会計を私が担当した。
「生徒会長はスキルも多く動きは良いのですが、踏み込みが浅いのです」
「副会長は駄目だな。祝福が本人の性格と合っていない。あれは強くならない」
私が不合格を出したように、2人も不合格を出していた。
私の評価は、『スキル頼りで魔物の動きをよく見ていない』だった。
「今のままでは、同行させた勇者が死にかねないぞ」
「それは困りますので、計画を見直しましょう」
方針の1つとして、勇者の犠牲を最小限に抑えると決めている。
私達の知らない場所で死んでしまうのはどうしようもないが、私達が立てた戦略、作戦で勇者が死ぬことが無いように、色々と配慮をしているのだ。
「……勇者の人数も実力も足りないのが厳しいな」
生き残った勇者の資料を見て、五十嵐先輩が溜息をついた。
「加えて、私達も全力を出す事はできません」
「ああ、私達が飛びぬけて強いとバレれば、私達だけで魔王討伐に行け、と言う話になりかねないからな……」
サノキア王国に所属する元勇者17人は、他の勇者よりも『圧倒的に強い』が、世間的には『多少強い』くらいに思われている。……正しくは、私達が思わせた。
他の勇者に魔王への止めを任せる以上、戦力の差は隠すべきという判断をしたのだ。
「生徒会の方達を強化するのが、最も効率的なのですけどね……」
現時点で、私達を除いて一番強いのが生徒会メンバーだ。
彼らを私達と同程度まで強化できれば、魔王への止めを任せられるようになる。
七宝院先輩の言う通り、少数精鋭で魔王を倒す最も効率的な手段だろう。
「勇者の死を許容しない以上、それは難しい」
「はい。他の手段を考えましょう」
勇者を強化する最も効率的な方法は、勇者が死亡すると現れる祝福の残骸を取り込むことだ。
祝福を強化する唯一の方法であり、身体能力も向上する一石二鳥な方法だが、勇者の犠牲が必須なので、私達の方針とは噛み合わない。
「一点突破ができないなら、総合力を上げるべきだ。魔王討伐に参加させる勇者の人数を増やし、訓練で少しずつ実力を上げていくしかない」
「問題は、今の人数では実力を『少し』上げただけでは足りない点ですね」
「ああ……」
勇者の人数が多ければ、『少し』の積み重ねで魔王を討伐できるだろう。
しかし、人数が少なければ、1人当たりの要求値は必然的に高くなる。
残された勇者だけで、魔王討伐に必要な総合力に達するのだろうか?
………………!
「勇者を増やせないなら、代替の戦力を増やせば良いのでは!?」
「「!?」」
私達は、勇者だけで魔王を討伐する事に拘り過ぎていたのだ。
この思い付きが、後に『Sランク冒険者に対する、魔王討伐の協力』という、前代未聞の指名依頼に繋がることとなった。
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登場人物
名前:木野あいち
性別:女
年齢:16(登場時)
種族:人間(異世界人)
称号:仁の奴隷、転移者、異界の勇者
備考:元の世界における仁の信奉者の1人。無口で小柄な和風美少女。イジメを苦に自殺を試みたところで、仁によって救われた。その経験もあり、仁以外の命を重要な物だと思えなくなった。同じ勇者であろうと、襲い掛かってくるなら殺す事に躊躇はない。ある意味、最初から異世界に適応した性格をしていた。
名前:七宝院神無
性別:女
年齢:17(登場時)
種族:人間(異世界人)
称号:仁の奴隷、転移者、異界の勇者
備考:元の世界における仁の信奉者の1人。名家のお嬢様で万能美少女。幼少期、誘拐されたところを仁によって救われた。その経験もあり、護身術には特に力を入れていたので、祝福を利用した戦いにもいち早く順応した。単純な戦闘力で言えば、17人の元勇者の中で最強である。
名前:五十嵐芽衣
性別:女
年齢:17(登場時)
種族:人間(異世界人)
称号:仁の奴隷、転移者、異界の勇者
備考:元の世界における仁の信奉者の1人。凛々しい女子アスリート。幼少期、貧乏だったところを仁に拾われ、ペットとして飼われていた。陸上競技の経験を活かし、速さに特化した戦闘スタイルを得意としている。陸上競技を志したのは、仁が投げたボールを素早く拾った時、褒めてもらえたのが嬉しかったから。
名前:旭渚沙
性別:女
年齢:18
種族:人間(異世界人)
称号:転移者、異界の勇者
備考:双子の姉の方。元の世界では生徒会の会計をしていたボーイッシュな少女。隠れ女児向けアニメオタク。コスプレ経験もある。祝福のせいでオタバレした後はノリノリで変身するようになった。キュア……。
名前:旭空我
性別:男
年齢:18
種族:人間(異世界人)
称号:転移者、異界の勇者
備考:双子の弟の方。元の世界では生徒会の書記をしていたガタイの良い少年。オープン特撮オタク。コスプレ経験もある。オープンオタだったので、怖いものはない。最初からノリノリで変身していた。仮面ラ……。
旭姉弟の登場は、かなり前から決まっていました。
個人的にはかなりお気に入りです。
一応、間章は終わりですが、リアルの都合で新章の更新がさらに遅れるかもしれません。