第4話
・聖魔鍛冶師ミミ 創世に至る剣
・最大火力
本編ではありませんが、本編にも関わる重要な事をしています。
標題:聖魔鍛冶師ミミ 創世に至る剣
視点:ミミ
時期:第13章後
とうとう、この日がやって来ました。
私は今日、鍛冶師人生の集大成とも言える剣を打ちます。
「……ええっと、これで全部揃ったよな?」
「大丈夫……。確認……しました……。失敗……出来ませんから……」
私は助手であり弟子でもあるノット君の問いに頷いて答えます。
鍛冶に必要な素材は何度も何度も確認しました。
二度と入手できないであろう希少な素材もありますから、絶対に失敗できません。
「多分、ここにある素材を買い集めようとしたら、普通に大国の財政が破綻するよな?」
「イズモ和国は確実に破綻するのだぞ」
「ええ、半分も揃えられないですの」
実際にイズモ和国の王族であるトオルさん、カオルさんが言うなら間違いないでしょう。
この2人は弟子ではありませんが、今回の鍛冶では助手を務めてくれます。
大の刀好きである2人は、普通の人よりは鍛冶の知識もあり、助手として邪魔にはならない……と売り込んできたのです。
なお、同時期に仁様の配下となり、色々と縁のある2人に最高傑作を打つと話したら、何でもするから立ち合わせてほしいと言われた事が発端です。
「これ程の素材を揃えて打つ刀の目的がアレって言うのは、ちょっと勿体ない気もするけど、師匠に使ってもらうためには仕方がないよな……」
「もう……、決まった事です……」
ノット君が少しだけ残念そうに言うが、これは既に決まっている事なのです。
これだけの素材を揃えるのは、メイド達の力が不可欠でした。メイド達も、『仁様のため』になる武器なら、協力を惜しまないのです。
それを、仁様のためにならない武器を作るためには使えません。
「出来れば、余のために刀を打ってほしいのだ」
「同じ……素材を……用意できるなら……作ります……」
私の<聖魔鍛冶>は精神状態が性能に直結するので、仁様のために作る剣より性能は落ちると思いますが、素材を用意してくれるのなら拒みはしません。
「そんなの、絶対に無理ですの……」
当然、私も言ってみただけです。
「うむ、イズモ和国を質に入れても無理なのだぞ」
「国を質に入れる宣言って、王族がしても良いモノなのか?」
「例え話なのだぞ?」
「いや、それは分かっているけど……」
例え話でも、そんな事を統治者側に言われたら不安になりますよね。
……大分、話が逸れてきましたね。
緊張を解くには良いですが、あまり気が緩むのも良くありません。
「そろそろ……作業に入ります……」
私の言葉を聞き、3人も表情も引き締めて頷きました。
私ももう一度気を引き締め、鍛冶場に入ります。
仁様にとって、武器と言うのは絶対に必要な物ではありません。
仁様程の存在になると、神話級程度の武器では、戦いの結果に大きな影響を及ぼさなくなるからです。
半端な武器を持っていると、むしろ戦いの邪魔になる事すらあるでしょう。
故に、仁様にとって一番使いやすく、良く使う武器はその拳なのです。
そんな仁様が『英霊刀・未完』を使うのは、強いからではありません。
『英霊刀・未完』が仁様のお気に入りだからです。実際に聞きました。
つまり、例え『英霊刀・未完』より強い武器を作っても、『英霊刀・未完』よりも気に入らなければ、仁様は使わないのでしょう。
ハッキリ言って、この話を聞いた時点で、『英霊刀・未完』に代わる刀を打つことは諦めました。
私の中には、『仁様が気に入る刀』の指針がないからです。
方向性の定まらない状態で刀を打ち、偶然仁様が気に入る可能性に賭けるのは、あまりにも分が悪いです。
それからしばらく、私は試行錯誤を繰り返しました。
『英霊刀・未完』に代わる刀を打つことは諦めましたが、仁様の役に立つ武器を打つ事を諦めた訳ではありません。
補助武器として、短剣等を作る事を考えました。
しかし、『英霊刀・未完』ですら使用頻度が低いのです。
今更、補助武器に出る幕はないでしょう。
例え、お使いいただけたとしても、本当の意味で役に立つとは思えません。
逆に、刀以外の武器を作る事も考えました。
仁様は刀以外の武器を使えない訳ではありません。刀以外の武器を使いたいと思った時のため、予め武器を用意しておけば、使って頂ける可能性はあります。
恐らく、それで使って頂けるのは1回が良いところでしょう。
残念ですが、私の本懐からはかけ離れていると言わざるを得ません。
そして、最終的に私は1つの結論に辿り着きました。
この結論は<聖魔鍛冶>でしか至れず、仁様に利益だけを与える事が出来ます。
ここで、<聖魔鍛冶>というスキルについて説明をしましょう。
<聖魔鍛冶>は聖剣、魔剣を作り出すスキルですが、その本質はそれだけでは説明できていません。
より正確に説明すると、作成した武器に指向性を持った魔力を付与するスキルなのです。
この指向性と言うのは、武器を作る時の強い願いによって決まり、最終的に武器の持つ特殊効果に現れます。
この時、負の感情により武器を打つと、指向性が歪み、本来の意図とは異なる特殊効果になってしまいます。これが魔剣の生まれる理由なのです。
正の感情で武器を打てば、正しい指向性で望む特殊効果が得られ、聖剣となります。
実は<聖魔鍛冶>というスキルに、鍛冶の腕に関する補正はありません。
本質は『魔力の操作』であり、鍛冶はその発現手段に過ぎないのです。
ここで考えて欲しいのが、『魔力の操作』の極致です。
ヒントは既にありました。魔剣の中には、生きた武器というモノがあります。これは、付与した魔力が歪み、自我が生まれ、魔物となった魔剣です。
生きた武器は、武器という器に『自我』が宿ることで『魔物』と呼ばれることになりました。
では、器を持たずに『自我』を得た『魔力』は何と呼ぶでしょう?答えは『精霊』です。
一般には知られていませんが、生きた武器と精霊は、部分的ではありますが非常に近しい性質を持つのです。
近い性質を持っているからと言って、簡単に精霊を生み出せるわけではありません。
生きた武器を生み出す事と、精霊を生み出す事の間には、とてつもなく大きな差があるのです。
それは、<聖魔鍛冶>の持ち主がいくら努力を重ねようと、決して埋められない差です。
……少々話は変わりますが、仁様の勢力には、様々な方がいます。
例えば、仁様の魔力を持った精霊。
例えば、精霊と合体する『精霊化』の使い手。
例えば、精霊と契約が出来る<精霊術>の使い手。
例えば、精霊に関わる素材を集められるだけの冒険者。
そして、仁様の異能は、次のような事が出来ます。
スキルやアイテムの情報を余すところなく開示する。
マップにより希少な素材の位置を把握する。
<聖魔鍛冶>というスキルを一段強化する。
ここまで聞けば分かると思います。
<聖魔鍛冶>の持ち主がいくら努力しても埋められない差なら、他の力を使って埋めてしまえば良いのです。
仁様の下でなら、それが出来てしまうのです。
鍛冶を始めてから数時間が経過しました。
「でき……ました……」
私はそう言って、1本の白い直刀を掲げます。
精霊刀・至世
分類:刀、精霊
レア度:神話級
備考:所有者制限、不壊、武器召喚、静寂、精霊化
<聖魔鍛冶>を<拡大解釈>で強化し、精霊に関わる希少な素材を大量に消費することで、1本の刀にして1柱の精霊が生まれました。
「凄いな」
「凄いのだぞ」
「凄いですの」
残念ですが、人工的な精霊の誕生と同時に、3人の語彙力が死んでしまいました。
3人は瞬きもせずに精霊刀・至世を目に焼き付けています。
神話級には、それだけの存在感があるのです。
恐らく、人類種の手によって生み出された、初めての神話級の武器です。
公開すれば、歴史に名を残す程の偉業でしょうが、そんな物には欠片も興味がありません。
大切なのは、この刀が私の望む力を持っているかどうかです。
「特殊効果を……確認しましょう……」
「あ、ああ。そうだな」
私が促すと、3人も精霊刀・至世の特殊効果を確認していきます。
所有者制限。仁様以外の存在に使用できなくなるという特殊効果です。本来の効果は、他の人が使うと、能力が大幅に制限されるという物ですが、この刀の場合は触れる事すら出来なくなります。今は、精霊がまだ起きていないから私でも触れられます。
不壊。通常の手段では、破壊が出来ないという特殊効果です。神話級装備なら持っていて当たり前の特殊効果とも言えます。本来、精霊にはHPがありますが、この精霊にはHPがなく、不壊を持っています。言い換えれば、不死身の精霊となります。
武器召喚。武器を呼べば手元に戻ってくる特殊効果です。他の武器についている同名の特殊効果とは若干異なり、効果を発動するのに対応する指輪が不要となっています。当然、仁様にしか使用できない効果です。
どれも本来の効果とは若干違いますが、この辺りは割と見かける特殊効果です。
正の感情により作った武器には、これらの効果が付与されることが多いです。
しかし、ここから先の特殊効果は、私も見た事の無いものばかりです。
私が心から願った効果が付与されているか、1つずつ確認していきましょう。
特殊効果の確認が終わったので、早速仁様に献上いたします。
「仁様……、こちらを……お納めください……」
私は跪き、精霊刀・至世を掲げて仁様にお渡しいたします。
「これは?」
「仁様の……ために作り上げた……最高の刀……です……」
「ほぅ」
仁様は興味深そうに受け取った刀を見つめます。
「神話級……。ミミは神話級の鍛冶師になったのか。よくやった」
「っ……!こ……、光栄です……」
危なかったです。仁様の心からの祝福に、意識が飛びそうになりました。
「色々、変わった刀のようだな。折角だから、ミミの口から説明を聞かせてくれ」
「は、はい……。お任せ……下さい……」
緊張と興奮で、心臓が痛いくらいにバクバクと鳴っています。
「この刀は……、刀であると同時に……精霊です……。目的は……刀と精霊の……利点を併せ持つことです……。攻撃力を持たず……仁様以外に触れることが出来ません……。そして……、英霊刀・未完と……『精霊化』できます……」
この刀の持つ特殊効果の精霊化。それは、武器に対する『精霊化』です。
「『精霊化』をすると……、この刀の性質が……英霊刀・未完にも付与されます……」
この『精霊化』は、英霊刀・未完の威力を上げる事はありません。
ただ、この刀の特殊効果を含む性質を、英霊刀・未完に付与するだけです。
「試しても良いか?」
「もちろん……です……」
そう言うと、仁様は英霊刀・未完を抜き、精霊刀・至世に触れさせます。
すると、2本の刀が1本の刀になりました。見た目は英霊刀・未完のままです。
「武器の存在感が薄まった?ああ、これが静寂の効果か」
「はい……。これで……、普段から使えます……」
「これは有り難いな。英霊刀・未完が使いやすくなった」
まさしく、私の目的はそこにあります。
英霊刀・未完は元々、他の神話級装備以上の存在感を放っていました。
同じく、神話級になった鞘の覇気制御という特殊効果が無ければ、普通に持ち歩く事すら躊躇われるレベルで目立ちます。
仁様が英霊刀・未完をあまり使わなくなったのは、これも理由の1つです。
静寂の特殊効果は、任意で武器の存在感を抑える事です。
精霊刀・至世の効果により英霊刀・未完の存在感が抑えられれば、英霊刀・未完を使う機会も増えるでしょう。
すなわち、精霊刀・至世も使って頂けるという事に他なりません。
英霊刀・未完を使いやすくすることで、『精霊化』をしている精霊刀・至世も同時に使って頂ける。
これが仁様にも、私にも利点のある究極の結論です。
「武器召喚で……呼び出すことも……出来ます……」
私がそう言うと、仁様は迷わずに英霊刀・未完を投げました。
次の瞬間、仁様の手元に英霊刀・未完が戻っています。
「これも便利だな」
基本的に、仁様の辞書に躊躇という文字はありません。
「ところで、この刀の精霊ってどんな奴なんだ?ミミが生み出したのか?」
「レインの欠片を元に……私が生み出しました……」
「なるほど。道理で良く馴染む訳だ」
仁様の武器に宿る精霊を生み出すという事は、仁様の契約精霊が増えると言っても過言ではありません。仁様の契約精霊であるレインに確認を取りました。
レインは私の話を聞くと、自らの身体の一部を千切り、渡してきました。
それは、私の作りだす『精霊刀』の核となる素材になりました。
つまり、レインからの『私に関係の無い精霊は駄目』と言う宣言でした。
無口な精霊だから、何かを語る事は無いでしょう。
なお、レインの一部であり、私の産み出した精霊ですので、仁様に対する好感度は最初から最大値を超えています。
「最後に……、その刀は……<拡大解釈>で崩壊しません……」
「Why!?」
仁様がとても驚いた顔をしています。
難しい話ではありません。
精霊刀・至世は武器です。だから、<拡大解釈>を使用し、能力を上げる事が出来ます。
精霊刀・至世は精霊です。だから、<拡大解釈>の副作用である崩壊を免れる事が出来ます。
英霊刀・未完は精霊刀・至世の性質を引き継ぎました。だから、精霊であり、武器でもある精霊刀・至世と同じ事が出来ます。
これが、『刀と精霊の利点を併せ持つ』の意味です。
「そして……、<拡大解釈>により……、神話級の上、……創世級へと到達いたします……」
「What!?」
アルタに聞いたのですが、神話級に<拡大解釈>を使用しても、創世級になる事はありません。
<拡大解釈>による掛け算では、創世級になるには数値が足りないそうです。
なお、勿体ないので実際に試した結果ではないそうです。当然です。
では、精霊刀・至世と『精霊化』をした英霊刀・未完はどうでしょうか?
この『精霊化』は言ってしまえば足し算です。
掛け算だけで足りないなら、足し算をしてから掛け算をすれば良いのです。
2つの神話級を足し、その上で<拡大解釈>を掛ける。
ここまでしてようやく、創世級へ至る事ができます。
「面白い事を考えたな」
私がつっかえながら理屈を説明すると、仁様は嬉しそうに笑いました。
明確に私だけに向けた笑みに、また心臓がうるさくなってきました。
「至世という名前の由来を教えてくれるか?」
「創世級……『創世に至る』……から名付けました……」
心臓、黙って下さい。仁様のお言葉が聞き取り難いじゃないですか。
「偶然の産物ではなく、1から10まで考えて作り上げた武器と言う事か」
「はい……。仁様の役に立つことを……考えて作りました……」
「面白い。本当に面白いな。よくやった、ミミ」
そう言って、仁様は跪く私の頭を撫でられます。
「きゅう……」
「あ、おい!」
許容できる限界を超えた私の心臓は、私の意識を落とす事で鎮静化する事を選びました。
気絶から覚め目を開くと、私に与えられた部屋の天井が映りました。
心には、人生の本懐を為したが故の充実感があります。
「もう……死んでも良いです……」
「いや、早まらないでくれよ」
思わず漏れ出た心の声に、ノット君が反応します。
起き上がると、ノット君だけでなく、トオルさんとカオルさんも居るようです。
少し冷静になると、気絶する直前の事を思い出し、充実感と同等の絶望感に気付きました。
「ああ……、何と言う失態を……」
そうです。興奮のあまり、仁様の前で意識を失ってしまったのです。
あまりにも致命的な失態です。
「もう……、死にたいです……」
「喜んでも悲しんでも死ぬのだぞ?」
「面倒な人ですの」
色々と面倒な性格をしている事は自覚しています。
「私は……どうしてここに……居るのですか……?」
「師匠が連れてきたんだ。撫でたら気絶したって驚いていた」
「ああ……!」
失態の上にご迷惑までかけてしまった!?
「お姫様抱っこで連れてきて、ベッドに寝かせたのだぞ」
「お、おひ……!?おひ……?ひ……きゅう……」
「また気絶したですの……」
恥ずかしさ、申し訳なさ、そしてそれらを上回る圧倒的な幸福感により、私は再び意識を失いました。
*************************************************************
登場人物
名前:ミミ
性別:女
年齢:19(登場時)
種族:ドワーフ
称号:元貴族令嬢
備考:デメリットスキルによりイズモ和国にある森で隠遁生活を送っていた鍛冶師の少女。森林火災で死にそうになっていたところを仁に救われ、仁の配下になると同時に信奉者となる。勘違いしやすいが、奴隷にはなっていない。仁の配下の中で最高の鍛冶師。世間的には、森林火災で死んだと思われている。
名前:ノット
性別:男
年齢:10(登場時)
種族:ドワーフ
称号:仁の奴隷
備考:カスタールの冒険者奴隷組の1人で、メインパーティを除けば、最古参奴隷の1人でもある。現在はSランク冒険者の名声とは別に、鍛冶師としても有名になりつつある。ノットが作った武器は、同クランのメンバーに提供されており、市販品よりも圧倒的に優秀だと周知されている。
名前:トオル・イズモ
性別:女
年齢:14(登場時)
種族:鬼人
称号:イズモ和国王女、仁の奴隷
備考:イズモ和国の双子の王女、その姉の方。妹の暴走に巻き込まれて仁の奴隷になった。重度の刀マニアで、奴隷になった事をむしろ喜んでいる。男装している精神的ドMでもある。胸が大きくなってきたので、そろそろ男装は限界が近づいている。
名前:カオル・イズモ
性別:女
年齢:14(登場時)
種族:鬼人
称号:イズモ和国王女、仁の奴隷
備考:イズモ和国の双子の王女、その妹の方。仁に攻撃を仕掛け、返り討ちに遭って奴隷になった。トオル同様、重度の刀マニア。トオルと頻繁に入れ替わりをする肉体的ドMでもある。ほんの少し、ほんの少しだけ、トオルよりも胸が小さい。双子なのに。
名前:レイン
性別:女
年齢:0(登場時)
種族:大精霊
称号:仁の契約精霊、精霊女王
備考:イズモ和国に封印されていた鬼神の核となっていた精霊。仁によって復活し、仁の契約精霊となる。元々喋らない上に、今回は回想シーンでしか登場していない。かなり特殊な精霊であり、その肉体(魔力)は激レア素材と言っても過言ではない。
標題:最大火力
視点:なし
時期:第13章後(「聖魔鍛冶師ミミ 創世に至る剣」直後)
ここは、進堂仁が『灰色の世界』と呼んでいる異世界。
女神に見捨てられ、迫りくる『崩壊の壁』により、消滅を待つだけの世界。
この『崩壊の壁』は、かつて進堂仁ですら干渉できなかった。
『崩壊の壁』とは、創世の際に定められた最も強固な理の1つであり、それよりも優先度の低い理では干渉する事すら出来ない。
武器やスキルといった優先度の低い理で干渉できないのは、当然の事である。
進堂仁、木ノ下さくらの持つ異能は、理を強制的に書き換える力だ。
『崩壊の壁』に干渉する事も不可能では無いだろう。
しかし、当時の進堂仁には、『崩壊の壁』に干渉するような異能はなかった。
進堂仁にとって、『灰色の世界』は重要な場所ではなかった為、態々干渉しようとも思わなかったに違いない。
結果、今日の検証に最適な条件が揃うことになった。
「レイン、エクリプス。『ダブル精霊化』だ」
「「!!!」」
進堂仁がそう言い、大精霊レインと瘴霊エクリプスの2柱と同時に『精霊化』をした。
身体の一部が黒くなったり発光したりと忙しい。
「こちらも『精霊化』だ」
手にした精霊刀・至世に英霊刀・未完を触れさせ、1本の刀に融合させた。
「更に<拡大解釈>」
『精霊化』した英霊刀・未完に<拡大解釈>を使用する。
その瞬間、神話級だった英霊刀・未完のレア度が創世級に引き上げられた。
進堂仁は、この刀の事を『神霊刀・至世・完』と呼んでいる。
単純な身体能力は『ダブル精霊化』をした状態が最高だ。
装備として、創世級を越える物は存在しない。
「さて、ここまですれば届くのかな?」
ステータスを最大まで上げ、『ダブル精霊化』をした進堂仁が、創世級装備である『神霊刀・至世・完』を振るった。
この日、『灰色の世界』の消滅は止まった。
『崩壊の壁』に刻まれた傷跡は、その理を完全に破壊したのだった。
*************************************************************
設定
・創世級装備について
現状、創世級装備は世界に1つも存在しない。
『神霊刀・至世・完』は、異能の力を使って疑似的に創世級相当にしただけであり、厳密に言えば創世級装備とは言えない。
創世級ともなると、武器としての性能を語ることに意味は無くなり、理に直接干渉するための装置としての側面が強くなる。
そもそも、創世級の意味は、『創世記に記されるべき存在』であり、神話級の意味である、『神話で用いられる装備』とは次元が違うのである。
余談だが、『ダブル精霊化』をしなくても、『崩壊の壁』を止められた。
ただし、傷跡は残らなかった。
ついに「未完」が「完」になりました。長かった。構想は結構前からありました。
念のため言っておくと、「知性ある武器」ではありません。非常に薄い自我がある精霊です。
なお、設定は途中で変わる事があります(急に喋り出すかも?)。
渾身のネタ
『至世・完』→『至世完』→『至世完』