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第3話

・進堂凛の交流 再会編

・バジリスクの歓迎会

前の方が長いので、後ろは短く終わる話です。

標題タイトル:進堂凛の交流 再会編

視点:なし

時期:第13章後


 その日、レガリア獣人国の王都グランレオンにある王城、その最上級の貴賓室に2人の客人が訪れていた。

 そして、2人を迎えたのは、レガリア獣人国の最高権力者であるシャロン女王だった。


「やあ、ユリシーズ。久しぶりだね」

「お久しぶりね。シャロンちゃん、ファロンちゃん、元気にしていた?」


 客人の1人は地の災竜の『姫巫女』であるユリシーズだ。

 シャロンの親友であり、10年来の付き合いになる。


「元気。ユリシーズも元気そうで何より」


 当然、シャロンの別人格であるファロンにとっても親友と呼べる存在だ。

 今回、ユリシーズから久しぶりに会いたいという連絡を受け、シャロン達は迷わずに最上級の貴賓室を予約した。


「ええ、仁さんの下で楽しく過ごしているわ。ここを再び訪れるくらいには落ち着いたのよ」

「そうみたいだね。でも、態々ユリシーズがレガリア獣人国に来なくても、僕達が別の国に行っても良かったんだよ?」

「そんな理由で女王を国から離れさせる訳にはいかないわ。それに、偶に来るのなら問題ないのよ。嫌な思い出は多いけど、生まれ育った土地だし、良い思い出も0じゃないから」


 ユリシーズにとって、レガリア獣人国には悪い思い出の方が多い。

 仁の下に身を寄せたのも、レガリア獣人国から離れるという意味合いが強かった。


「そっか。理由はともあれ、ユリシーズが再びレガリア獣人国の地を踏んでくれて嬉しいよ」

「私達はユリシーズを歓迎する」


 ユリシーズの心情を知るシャロン達には、レガリア獣人国に来て欲しいとは言えない。

 2人はユリシーズがレガリア獣人国を訪れてくれたことを、素直に喜んでいた。


「それで、シャロンに会わせたいのは、その人で良いのかな?」

「ええ、その通り。上手く行けば、私の義妹になる子よ」


 客人のもう1人は、頭まで隠すフード付きのローブを身に着けていた。

 一国の王城を訪れようという格好ではない。


「始めまして、シャロンさん。……もしくは、お久しぶりです、シロ。私の事を覚えていますか?兄さんに話を聞いて、会いに来ました」


 もう1人の客人、仁の妹である凛がフードを取った。

 凛の姿を見て、シャロンの顔に驚愕と歓喜が広がる。


「もしかしてリン!?うわ、懐かしいなぁ!え、リンもこの世界に来ていたの?」


 前世で仁のペットだった白猫シロ、現在のシャロンは当然のことながら仁の妹である凛の事を知っている。


 ここで1つ、勘違いしてはいけない事がある。

 白猫シロは『仁のペット』であり、『進堂家のペット』ではないという事だ。

 凛に懐いていない訳では無いが、当時の白猫シロにとって飼い主と呼べる存在は仁ただ1人だったのである。


「来ていた、というより、最近兄さんに召喚されました」

「ジン、異世界人の召喚まで出来るようになったの……?」

「はい。兄さん曰く、最近出来るようになったそうです」

「相変わらず、世界の常識を簡単に覆す人だなぁ……」


 これは、仁を知る者にとって共通の認識である。



 貴賓室の椅子に座った3人は、紅茶を飲みながら話をする。

 最初の話題は、ユリシーズがレガリア獣人国を離れた後の事についてである。


 実は、ユリシーズとシャロン達は、レガリア獣人国で別れた後、『八臣獣』となった仁の配下の獣人を経由して、手紙のやり取りをしていた。

 しかし、この手紙は第三者が見る可能性があった為、仁に関する話題は出せず、当たり障りのない、最低限の近況しか書かれていなかった。

 よって、シャロン達には災竜と『姫巫女』にまつわる動乱を知る機会はなかった。


「まさか、災竜を全滅させているとはね……」


 ユリシーズから話を聞き、呆れ半分、感心半分と言った様子でシャロンが呟く。

 もちろん、部外者に話せない部分は省略しつつの説明だったが、仁の事情を理解しているシャロン達は、深く質問することは無かった。


「世界から災竜の脅威が消滅する日が来るとは、思っても居ませんでした」

「ジン、凄い」


 仁は4匹の災竜を倒し、4人の『姫巫女』を保護……隷属させている。

 それは、まさに世界を救ったと言っても良い偉業だ。

 なお、本人にその自覚はない。


「その災竜という存在を見た事が無いのですが、そんなに凄い事なのですか?」


 凛が召喚されたのは、全ての災竜が滅んだ後だ。

 凛も話には聞いているが、災竜の話だけを詳しく聞いた訳では無いので、イマイチ感覚が掴めないでいた。


「そりゃあ凄いに決まっているよ。凛に分かり易く言うと、人間が単独で自然災害を消し飛ばす様なモノだからね」

「普通の人間には不可能ですね」

「ジンは普通の人間じゃないから、不可能じゃなかったんだね」


 シャロンとファロンは、ユリシーズの手によって災竜の居た亜空間に送られている。

 一度とはいえ、その脅威を直接見た者だからこそ言える事がある。


「兄さんは、『滅茶苦茶デカい魔物を殴った』と言っていました」

「認識の差が酷い」

「仁さんらしいと言えばらしいわね」


 仁にとって、その辺の魔物も、災害を司る竜も、『殴れば死ぬ敵』でしかない。

 分類としては、同じになってしまう。


「何よりも凄いのは、災竜が復活したのに、国の1つも滅びなかったところ」

「ええ、災竜の復活は文明の崩壊と同じだと思っていたわ。災竜の居た地が崩壊した以外は、ほとんど被害なしなんて、想像できないわよね」


 ファロンの意見にユリシーズが同意する。


 風災竜、水災竜の2匹は、実際に封印が解けてしまった。

 災竜の復活により、その土地自体は崩壊したものの、その後はほとんど被害を出すことなく倒されてしまった。

 災竜の存在を知る者にとって、これも有り得ない状況である。


「ジンは結構割り切った所があるよね。気に入らない相手は絶対に助けないし……」

「水災竜に関しては、止めようと思えば止められたらしいわね。でも、仁さんは自業自得に関して非常に厳しいみたい」


 仁曰く、『他人の不始末の尻拭いは御免』だそうだ。


「はい、兄さんはそう言う人です。反面、完全な被害者には優しい部分もあります」

「覚えがあるね」

「私も同じです」


 2人共、仁によって助けられた経験があるので、すんなりと納得できた。


「そう言えば、風災竜以外の『姫巫女』は生き残っているんだよね?どんな娘達なの?」


 シャロンとしても、親友ユリシーズの同族と言うのは気になる所だ。

 なお、風災竜の『姫巫女』も生きているが、死者の蘇生は仁にとっての秘匿情報であるため、シャロン達は知らない。


「火災竜の『姫巫女』は冒険者ギルドの最高責任者だそうよ」

「ええ!?『姫巫女』が表舞台に立っていいの!?」


 災竜の復活が実質的な世界の滅びと認識されていた以上、『姫巫女』の存在は極力秘匿されるべきである。少なくとも、シャロン達はそう考えていた。


「冒険者ギルドの創設自体、災竜に対する戦力の確保が目的だったそうよ」

「いや、無理でしょ」

「彼女も諦めたそうよ」

「だよね」


 Sランク冒険者が何人集まろうと、災竜に勝てるビジョンは見えない。


「水災竜の『姫巫女』は、頭にスライムを乗せた女の子よ」

「ゴメン、意味が分からない」


 首を傾げるシャロンだが、ユリシーズは一切嘘も冗談も言っていない。


「軽い人間不信になっているみたいで、そのスライムが心の支えになっているそうよ」

「スライムってセラピー効果があったかな?」


 ない。


「数カ月前に代替わりしたらしくて、『姫巫女』としては最年少の17歳よ」

「それでも僕より年上なんだね」


 シャロン、ファロン。御年15歳である。


「違う。シャロンは前世分を足せば17歳を超える」

「それは言っても意味が無いだろう?少なくとも、『人生』ではなかったし」


 猫年齢で計算してはいけない。微妙なオバサンになってしまう。


「……風災竜の『姫巫女』は、ギレッドの非道な研究に手を貸した結果、その被害者の父親に殺されたそうよ。正直、あまり好ましい相手ではないわね」

「そっか。死んだ人を悪く言うのは好きじゃないからコメントは控えるけど、『姫巫女』が死んだことでユリシーズが傷ついていないなら良かったよ」


 風災竜の『姫巫女』が死んだのは、間違いなく自業自得の結果である。


「水災竜の件で、ギレッドを殴れたんだよね?」

「ええ、スッキリしたわ」


 レガリア獣人国に再訪できたのは、過去の因縁であるギレッドを殴れたことも大きい。


「私も殴りたかった。呼んでくれれば良かったのに」

「それは流石に無理よ。かなり遠くの国よ?」


 冗談抜きで遠方の国家である。

 仁抜きで移動していたら、国家運営に差し障るレベルである。


「言い方は悪いけど、ギレッドと僕らに直接の関係は無いからね。ユリシーズが殴れないなら、代わりに殴るくらいは良いけど、ユリシーズと別口で殴るのは道理に合わないよね?」

「分かっている。言ってみただけ」

「ファロンの冗談は分かり難いね」


 ファロンは冗談を好むが、面白い訳では無い。


「でも、話を聞いて納得したよ。ユリシーズがこの国に来れるくらい精神が落ち着いたのは、災竜が消え、ギレッドを殴れたからだったんだね」

「ええ、私の過去は全て決着がついたわ」

「ユリシーズ、良かった」


 嫌な過去が全て清算されたので、ユリシーズは再びレガリア獣人国に来る覚悟が出来た。

 それを理解したシャロン達は、ユリシーズを仁に任せて良かったと心から思う。



 ユリシーズの話は一旦終わり、別の話題に移った。


「それで、シャロンちゃんは前の世界ではどんな子だったの?」

「あまり普通じゃない白猫でした」

「……もう少し詳しく教えてくれるかしら?」


 凛にとって、『普通』か『普通じゃない』が一番分かり易い基準である。

 しかし、ユリシーズに異世界の猫の『普通』事情は分からない。


「明らかに人語を理解している様子がありましたし、芸を仕込んだらすぐに覚えました」

「今考えれば、不思議な話だよね。うん、確かに人語を理解できていた記憶があるね」


 前世では不思議な白猫だったシャロンだが、本人がその理由を知っている訳では無い。


「前世では人語を理解する猫、現世では2つの魂を持つ虎獣人。シャロン、飼い主の事を言えないくらいに変わっている」

「確かに否定できないけど、後者をファロンが言うのはどうかと思うよ?少なくとも、ファロンは僕の半分は変わった人って事になるからね?」


 シャロンとファロンの関係は、猫から転生した姉と出産時に死亡した妹である。

 そして、シャロンの肉体にファロンの魂が混ざったので、1つの身体に2つの魂を持つことになった。

 主人格は肉体の持ち主であるシャロンだが、シャロンの意思もあり、表層に出ている時間はファロンの方が長くなっている。


「私はシャロンのオマケ。原因はシャロンにある」

「そこで僕に責任を押し付けるのは酷くない?」


 なお、ファロンはその事を引け目に思うこともないし、卑屈になることもない。

 今の様にネタにすることもある。


「ふふ、相変わらず2人は仲が良いわね。喧嘩なんてした事ないんじゃない?」

「いや、1回だけ大喧嘩したことがあるよ」

「え?どうやって喧嘩するのですか?」


 凛には二重人格の喧嘩が想像できなかった。


「自分の身体を殴って、当たる直前に交代するんだ」

「主導権の取り合いと押し付け合い、激しい戦いだった」


 主人格はシャロンだが、ファロンが一方的に不利な立場にある訳では無い。

 多少はシャロンの方が有利だが、主導権争いが出来る程度には拮抗している。


「……2人共、そんなことをしてたの?」

「……想像すると酷い絵面ですね」


 喧嘩の場面を想像して、ユリシーズと凛が引いている。

 具体的に言うと、1人で自分の身体を殴って転げ回る少女である。


「まさしく、勝者の居ない戦いだった」

「その大喧嘩の後は喧嘩なんてしていないよ」

「少なくとも、口喧嘩で済まない喧嘩はしていない」


 肉体的な喧嘩に得る物がないと言う事を、その大喧嘩で理解したのである。

 やる前に気付けと言いたい。


「その大喧嘩、原因は何だったの?」

「確か……」

「シャロン、ストップ!」


 ユリシーズに聞かれ、シャロンが話そうとしたところでファロンがストップをかけた。


「それは言わない約束」

「ああ、ゴメン。そうだったね。流石のファロンも、アレは聞かれたくないよね」


 どうやら、ファロンにとって恥ずべき内容のようだ。


「言ったら絶交」

「え?どうやって絶交するのですか?」


 凛には二重人格の絶交が想像できなかった。


「…………方法は募集中」


 特に方法がある訳では無かったらしい。


「それより、シャロンの恥ずかしい過去を教えて」

「ちょ!?何を聞いているの!」


 ファロンが矛先を変える。

 あわよくば、シャロンを弄るネタが欲しいようだ。


「そうですね……」

「いや、言わなくて良いから!」


 凛が考え始めたのを見てシャロンが慌てて止めるが、凛は止まらなかった。


「あれは……」


 ………………。


「シャロンちゃん、猫だったとは言え、それはあまりにも……」

「シャロン、変態」

「待って!言い訳をさせて!」

「最初から言い訳と宣言しても良いのですか?」


 シャロンの名誉のため、内容は伏せさせて頂きます。



 気が済むまで話をして、お開きとなったのは夕方近くなった。


「今日は楽しかったわ。良ければ、また来ても良いかしら?」

「うん、いつでも歓迎するよ」

「友人が来ることを拒む訳が無い」

「もちろん、リンのことも歓迎するからね」


 シャロンにとって、前世からの付き合いがある凛は歓迎すべき相手である。


「また、シャロンの過去を教えて欲しい」

「ええ、是非またお邪魔させていただきたいです」

「恥ずかしいヤツは言わないで欲しいなぁ……」


 ファロンにとっても、共通シャロンの話題があるので好ましい相手になっている。


「そうですね。流石にアレは人に話せません。内緒にしておきましょう」

「是非、聞かせて欲しい!」

「まだ、上があるって宣言よね?シャロンちゃん、一体何をしたの?」

「まさか……アレ……?何でリンがアレを知っているの……?」


 どうやら、シャロンには心当たりがあるらしい。


「知らなかったのですか?元の世界の進堂家には、隠しカメラがあるのですよ」

「!!!???」


 人語を理解する猫も、人の作った機械を正しく理解している訳では無い。

 人類の英知カメラは、獣の痴態を激写していたのである。


「どうか!誰にも言わないで下さい!」


 一国の女王が土下座を敢行した。


 進堂凛は進堂仁の妹だ。

 進堂仁と同じく、王族に土下座される運命にあるのだろう。



*************************************************************


登場人物


名前:ユリシーズ

性別:女

年齢:6810(登場時)

種族:ハイエルフ

称号:エルフの姫巫女、エルフ王族、人柱、仁の奴隷

備考:レガリア獣人国の地下に閉じ込められていた地災竜の『姫巫女』。仁が地災竜を倒したことで解放された。解放後はレガリア獣人国を離れ、仁の下で得意の魔法の道具マジックアイテム作りに精を出している。苦しみから解放してくれた仁に惚れているが、アピールは上手く行っていない。


名前:シャロン

性別:女

年齢:15(登場時)

種族:獣人(白虎、転生者)

称号:レガリア王国女王、二重人格

備考:レガリア獣人国の女王で、ファロンの双子の姉。転生者であり、前世は仁の飼っていた白猫。ファロンと共有している身体の本当の持ち主。仁と対等な関係になりたいという望みがあるが、昔の様に飼い猫として甘えたい気持ちもある。今のところ予定はないが、いずれ仁の配下になりそうな予感がある。


名前:ファロン

性別:女

年齢:15(登場時)

種族:獣人(白虎)

称号:レガリア王国女王、二重人格

備考:レガリア獣人国の女王で、シャロンの双子の妹。魂がシャロンの肉体に居候している。人格が表に出ている時間はシャロンより長い。シャロンは1度猫生を満足して終えているので、ファロンに人生を謳歌して欲しいと思っている。ファロンは居候の身で主人格よりも表に出ているのを申し訳なく思っている。作中ではアレだが、実際はかなり仲良し。



標題タイトル:バジリスクの歓迎会

視点:作者メタ

時期:第13章後


 これは、バジリスクがミオの新たな従魔となった直後のお話。


 なお、本話ではセリフに副音声が付くが、これは実際の発言・口調を保証するものではなく、ニュアンスを伝えるためのものである。

 実際に念話した時の口調と差異があった場合でも、苦情は受け付けないので悪しからず。


「ワン!(それじゃあ、新入りの歓迎会をするぜい!)」


 ミオの最初の従魔であるポテチ(フェアリーウルフ・オス)が元気よく宣言した。


「みゃーう!(いえーい!)」

「キュイー!(ぱちぱちー!)」


 二番目の従魔であるミャオ(仔神獣・メス)と三番目の従魔であるブラン(フェザードラゴン・メス)もノリノリで相槌を打つ。


 なお、ミオは従魔同士の関係性を兄弟姉妹として扱っている。

 つまり、ポテチが長男、ミャオが長女、ブランが次女と言う事だ。


「クゥ……(どうも……)」


 残念ながら、新しく兄弟に加わったバジリスクは、テンションを上げるのが苦手である。

 仁により治されたとはいえ、ギレッドの手により命令を聞く以外の知能を奪われていたバジリスクは、後遺症として感情表現が苦手になってしまっていた。

 元は明るく、誰にでも積極的に攻撃するバジリスクだったのに……。


「ワン!(早速、自己紹介を頼むぜい!)」

「クゥ(バジリスクのバジルです。この度、ミオさんにテイムされました。ミオさんからは3匹の弟になるように言われています)」


 ミオはバジリスクのオスに『バジル』という名前を付けていた。

 実のところ、単純な年齢と言う意味で言えば、バジルが上なのだが、大半は知能が低い状態だったし、以前の記憶も失っている為、ミオは末っ子、次男として扱う事を決めた。


「キュイ(ついに、私よりも下の兄弟が出来たのですわ。歓迎するのですわ)」


 末の妹だったブランは、バジルの加入を素直に喜んでいた。


「クゥーン……(これで、姐さんもオイラに乗るのを止めてくれるだろ。マジ助かった)」


 貧弱なのに騎獣枠として鍛えられていたポテチは、邪な喜び方をしていた。

 ステータス強化の結果、人を乗せて走れるようになったポテチだが、そもそも運動が嫌いだし、バランス感覚もあまり良くない為、出来れば乗らないで欲しいと思っていた。


「みゃう……(このヘタレ兄貴……)」


 ミャオが情けない存在を見るような目をする。

 隠すまでもない事だが、ポテチに長男の威厳はほとんどない。


「わ、わぅ!(い、いいだろ!適材適所ってヤツだよ!)」

「キュイ?(お兄様は何に適しているのですわ?)」

「わん?(え?)」

「みゅふ!(ぶふぉっ!)」


 ブランの無慈悲なツッコミに、ミャオが噴いた。

 ブランには、ポテチに何の適正があるのか分からなかった。


「ワ、ワフ……(ほ、ほら、毛並みとか……)」

「みゃう?(え?毛並みでアチシに勝てる気なの?)

「キュウ(私も負ける気はないですわ)」


 ミオ曰く、ポテチはゴワゴワらしい。


「ワ、ワン……(戦い……は無理だ。番犬……も無理)」

「キュ(ごめんなさいですわ。悪い事を聞いてしまったのですわ)」

「クゥーン!(そこで謝られるのも悲しいぜい!)」


 本気で申し訳なさそうにするブランに、涙がちょちょぎれそうになるポテチ。


「クゥ……(皆さん、仲が良いのですね……)」


 3匹のやり取りを羨ましそうに見ているバジル。


「ワン!(何を他人行儀な事言ってんだよ。お前もこれから仲良くなるんだ!言っとくけど、お前に拒否権は無いからな!)」

「みゃう(そうそう、これが兄弟の盃。飲んだ瞬間から、アチシ達は兄弟だからね)」

「キュウ!(美味しいから、味わって飲むのですわ!)」


 4匹の前には、皿に入れられたミルクがある。

 兄弟の盃(ノンアルコール)である。


「……クゥ?(……良いのですか?私、つまらないヤツですよ?)」

「ワフ!(気にするな!オイラなんて役立たずだぞ?)」

「キュイ(さっきはごめんなさいですわ)」

「ワフ!(謝るなって!ホラ、さっさと飲むぜい!)」

「みゃう……(兄貴、半分自棄になってる……)」


 最初にポテチがミルクを舐め始め、ミャオ、ブランと続いた。

 そして、バジルも覚悟を決め、皿のミルクをチロチロと舐める。


「クゥ(あ、美味しい)」

「ワフ?(だろ?)」


 13章で登場した、闘争山羊ファイティング・ゴートのミルクなので、美味しいのは当然である。

 なお、以前の盃は普通のミルクだった。


「微笑ましい光景ね。何話しているのかしら?」


 通りかかったミオが、自身の従魔が仲良くミルクを舐めている光景を見て呟いた。



*************************************************************


登場人物


名前:ポテチ

性別:オス

種族:フェアリーウルフ

称号:ミオの従魔

備考:カスタール女王国にある森でミオにテイムされた。一言で言うと、ヘタレで貧弱。ステータスは異能のお陰でマシになったが、性格の方は変わらず戦いには向いていない。ミオのペットであり、決して番犬ではない。毛質はゴワゴワなので、仁の魔の手を逃れた。


名前:ミャオ

性別:メス

種族:仔神獣

称号:ミオの従魔

備考:アト諸国連合でミオにテイムされた。見た目は犬と猫を合わせたような、完全なる愛玩動物だが、意外なことに向上心の塊。積極的に戦闘訓練にも参加しており、真っ向勝負なら恐らくポテチに勝てる。仁のモフモフを受けてしまい、身も心も仁の虜となってしまった。もう一度言います。主人はミオです。


名前:ブラン

性別:女

種族:フェザードラゴン

称号:ミオの従魔

備考:竜の森でミオにテイムされた。最初、危うく食肉になるところだった。ミオにテイムされたのは、仁がテイムすることをドーラが嫌がったから。竜人種ドラゴニュートへの敵愾心が無ければ、大人しくて良い子。仁に魂をこねくり回されている為、仁に対しては一切の抵抗が出来ない。主人はミオです。


名前:バジル

性別:オス

種族:バジリスク

称号:ミオの従魔

備考:パジェル王国でミオにテイムされた。13章の登場人物に入れ忘れたので、この場が初紹介となる。ギレッドの研究成果の1つで、知性を失い、石化に特化した魔物。13章で実践した通り、一国を落とす程の力があった。今は普通のバジリスクに戻っている。仁ではなく、ミオを選んだのは、ミオからは脅威・恐怖を一切感じなかったから。安心した。


13章の修正をします。189話で食材魔物をテイムしたのは、ミオでなく料理メイドにします。

多分、その方が自然なので。この話に出す余地がなかったので、辻褄合わせとも言います。


次回、10日か20日か未定です。今回、完成したのが29日午後でした。ガンバリマス。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
[一言] ポテチの毛で作るブラシは焦げ落としに良さそうです。 ミオが焦げ付かせるとは思えないのですが。
[一言] エナジーボール交換会も見たかった、、、
[良い点] こういった裏話も面白いです!
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