第1話
間章と言う事で、試行錯誤が入ります。また、話数のナンバリングは1話からといたします。
短編を1回つの話に複数個まとめていますが、分けた方が良いというご意見が多ければ、分けて投稿し直そうと思います。
基本、短編2~3話分を一回で投稿いたします。今回は下記の3本となります。
・進堂凛と言う少女
・進堂凛の交流 お風呂編
・騎竜ブルー 仁の部屋
標題:進堂凛と言う少女
視点:なし
時期:第13章後
進堂凛は進堂仁のたった1人の妹にして、たった1人の家族である。
「ここが兄さんのお屋敷ですか」
そんな凛は、兄である進堂仁の所有する屋敷へと来ていた。
「国の一等地にある自慢の屋敷だ。望むなら、凛もここに住んで良いぞ」
「兄さんの話を聞き、身の振り方を考えてから決めさせてください」
「ああ、分かった」
凛としては、自身に最適な条件が分かるまで、安易に物事を決めないようにしている。
下手な事を言い、実は不利な条件だったら困るからだ。
「メイドが居るとは聞いていましたが、人数が多くありませんか? ……もしかして、彼女達も兄さんの配下なのですか?」
屋敷に入り、応接室に案内され、立ち並ぶメイドの数を見た凛が尋ねる。
「ああ、その通りだ。他にも拠点があるから、ここに居るメイドは一部だけどな」
「今更、兄さんのすることに驚きはしませんが、兄さんが自由に行動すると、どんどん物事の規模が大きくなっていきますよね。元の世界で災害と呼ばれていたのも納得です」
「それを納得されても困るんだが……」
余談だが、仁はこの世界における災害の化身を吸収している。
仁がその気になれば、この世界はまさしく災害に飲み込まれることになる。
椅子に座ると、メイドがテーブルの上にお茶とお茶菓子を用意した。
「さて、準備も整ったし、色々と詳しい話をしようか」
「よろしくお願いします」
そして、仁はこの世界の事や、今までの経緯などを詳しく語り始めた。
この世界の理を説明する上で外せないのが、スキルやステータスの存在だ。
正確に言えば、この世界において一般的に認知されている事柄ではない。
しかし、仁達にとってはこれ以上無く身近で、かなり重要な存在である。
「これが、私のステータスですか」
そう言って、凛は自分のステータスを確認する。
名前:進堂凛
性別:女
年齢:13
種族:人間
スキル:<異世界標準LV->
「見ようと思えばスキルの詳細も見えるのですね」
「まだ、その機能の説明はしていなかったはずだが?」
「これくらい普通ですよ。兄さんがゲームに近いと言っていましたから」
<異世界標準>
異世界で習得可能なスキルの熟練度習得量が10倍になる。対象となる異世界は、所有者の生誕した世界に限定される。
「このようなスキルを得る心当たりがありません」
「この世界に転移した時に自動的に付与されたスキルだな。本人に合ったスキルが選ばれるらしいぞ」
「私に合ったスキルですか。 ……私に合っていますか?」
凛が不思議そうに尋ねる。
「『普通』が口癖だからじゃないか?」
「その割には普通じゃないスキルのように思えるのですが……」
「ああ、かなり希少で、かなり強力なスキルだな。俺も、スキル熟練度に影響スキルなんて1つしか知らないくらいだ。何より、10倍はヤバいだろ……」
仁が言っているのは<超越>と言うスキルだが、こちらの上昇値は2倍である。
10倍と言うのは明らかな異常値である。
「それでは、このスキルは兄さんにあげます」
「は?」
「スキルを移動することも出来るのですよね?私は、普通じゃないスキルは要りません」
使い方によってはこれ以上無い程強力な武器になるスキルだが、凛は一切躊躇なく言い切った。凛の『普通』に対するこだわりは強い。
余談だが、世界樹から得たスキルは基本的に他人も使える。
例外は仁の持つ<世界樹支配>だけである。これは、『世界樹の主』の称号が無ければ効果を発揮しないからである。
「本気か?」
「はい。本人に合っている事と、本人が望んでいる事は別だと言う良い例でしたね」
過去、ここまで本人に望まれないユニークスキル(デメリット無し)があっただろうか?
「気持ちは有り難いが、『俺』はそのスキルを持っていても、全く意味はないんだ」
「どういうことですか?」
「知っているか、凛。0は何を掛けても0なんだ……」
仁は説明になっていない説明をする。
「ごめんなさい、兄さん。意味が分かりません」
「俺、スキル熟練度を得られない体質なんだよ。0に10を掛けても、0にしかならないだろ?」
ここまで仁と相性の悪いスキルも珍しいだろう。
しかし、仁の異能とは非常に相性が良い。
「俺が持っていても意味が無いから、そのスキルは凛が持っていてくれ。ただ、他の人と共有させてもらえると助かる。スキルの共有って言うのは……」
仁は<契約の絆>によるスキルの共有について説明する。
「分かりました。兄さんがそう言うなら、私が持っています。当然、共有も問題ありません」
あっさりと前言を翻す凛。
凛の『普通』に対する拘りは強い。しかし、それ以上に『仁』に対する拘りが強い。
こうして、<異世界標準>はそのまま凛が所有することになった。
全ての話が終わったのは、かなりの時間が経過した後だった。
「それで、凛はこれからどうしたい?もちろん、今すぐ決める必要は無いぞ。この世界に呼んだのは俺の都合だからな。可能な限り凛の要望は叶えてやるつもりだ」
仁にそう言われ、凛は少しの間考えてから口を開いた。
「絶対条件として、兄さんと定期的に会える環境をお願いします」
「最初に言うのがそれか……」
「当然です。たった1人の家族ですから」
何よりも先に仁に関連する要望が出る辺り、凛のブラコンは揺るぎない。
「他に何かあるか?」
「学生と言う立場がなくなる以上、働きたいと思うのですが、斡旋をお願いできますか?この世界には伝手が無いので、苦労しそうですから」
「思ったんだが、妹に中学中退させて働かせる兄って最悪では……?」
仁が気付いてはいけないことに気付いてしまった。
慌てて仁が首を横に振る。
「いやいや、妹の1人くらい俺が養うぞ!それくらいの甲斐性はある!」
実際のところ、仁の個人資産(アドバンス商会関連を除く)があれば、妹12人以上は養えるだろう。
「学校に行かないのなら働くのが普通です。それに、私は兄さんのお荷物になりたくありません。働かせてください」
「ウチの妹が真人間すぎる。これは、元の世界で生活させた方が良かったか……?」
凛のような真人間が居なくなるのは、元の世界にとって大きな損失なのでは?と本気で考える仁であった。
「そんな事を言わないで下さい!後数分召喚されるのが遅れていたら、発狂していた自信がありますよ!」
「ウチの妹が怖すぎる。凛ってそんなに情緒不安定だったっけ?」
仁の知る凛は、甘えん坊でしっかり者だった。
最近は甘える量が減ってきたので、兄離れも出来てきたと思っていた。
「兄さんが居れば大丈夫です。居なければ狂います」
自信満々に言う凛。
最初の要望である『仁と会える』は、本当に凛にとっての絶対条件だったと言う事だ。
「……もういいや。それで、働く場所の要望はあるか?」
仁は妹の知らなかった一面を知り、聞かなかったことにして話を進めた。
「極力、兄さんの影響が少ない場所でお願いします。兄さんの妹と言う事を理由に、特別扱いされることを減らしたいのです。兄さんに斡旋してもらう以上、完全になくすのは無理だと理解していますから」
仁の影響による優遇と言うのは、凛にとって極力減らしたい物だった。
これは、元の世界から続く凛のスタンスである。
「そうか。……それじゃあ、こんな仕事はどうだ?」
「それでお願いします」
碌に内容を聞かずに了承する凛。
仁>>>>>スタンスなので仕方がない。
*************************************************************
設定
・<契約の絆>による共有について
<契約の絆>にはスキルなどを共有するための機能がある。言ってしまえば、1つスキルがあれば<契約の絆>の対象者全員が同じスキルを使用できるのだが、この効果は一部のスキルでしか有効にされていない。スキルを共有しても、同時に使用できるのは基本的に1人に限られるため、共有をアテにして運用する事にリスクがあるからだ。予め、共有用として用意したスキル、凛の<異世界標準>の様に、全員が利用できるスキルだけが共有設定をされている。前者に関しては、「セマフォ」で検索すると分かるかもしれない。
標題:進堂凛の交流 お風呂編
視点:なし
時期:第13章後
進堂凛と言う少女は、客観的に見て美少女と言える。
腰まで伸ばした艶のある黒髪、色白できめ細かい肌、整った顔のパーツ、手足は細長く、胸は13歳と言う年齢の割には大きいが主張しすぎると言う程でもない。
全体的に清楚な印象を受け、街で見かければ目を引かれるのは間違いがない。
「妹ちゃん、本当に美人ね……」
「胸……、13歳……」
そんな凛の姿を、改めてじっくりと見たミオが呟いた。
また、さくら(なくはない)は凛を見て呟いた。
現在、仁を除いたパーティメンバーと凛は、屋敷にある風呂へと来ていた。
親睦を深める為に裸の付き合いをすると言う、ミオが発案した若干古い方法である。
「あまり見ないで下さい。普通に恥ずかしいです……」
バスタオルを巻き、頬を赤くする凛の色気に当てられ、ミオが生唾を飲んだ。
「これが、13歳の色気……。セラちゃんのド迫力の色気とはまた違った趣があるわね」
「そこで私を引き合いに出すのは止めて下さらない?」
セラも同年代だが、肉体的には凛以上に成熟している。
胸も凛以上に大きいが、大和撫子的な色気は皆無と言って良い。どちらかと言えば、オープンな色気に溢れている。
「妹ちゃん。ここまで美人だと、元の世界では相当にモテたんじゃないの?」
ミオは凛に対して気軽に接している。
これは、凛たっての希望で、極力畏まらないで欲しいと言われたからである。
尤も、ミオの場合、何も言われなくても同じ接し方だった可能性は高い。
「そんな事ありませんでした。告白とかもされたことはありません」
「男子、見る目ないわねー」
「何か理由があるんですか……?」
元の世界という共通項があるので、凛、ミオ、さくらは話が弾みやすい。
「兄さんの影響力らしいです」
「ああ……」
「納得です……」
仁本人が知らない影響力は意外と大きい。
そんな話をしながら、6人は湯船に浸かった。
「しっかし、本当に妹ちゃんはブラコンだったわね」
「予想はしていましたけど……」
「思っていた以上でしたわ」
ミオ、さくら、セラは仁から聞いた話から、凛が重度のブラコンである事を見抜いていた。
凛の召喚に賛成していたのは、そんな理由からである。
「ミオさん、私の事は兄さんから聞いていたのですよね?どのように仰っていたか、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
凛の目は非常に真剣である。
「ご主人様から聞いていたのは、最近、ベッタリじゃなくなった妹って言うのが多かったわね。ただ、話の所々に重症級のブラコン要素が見えていたわ」
「ええ、兄離れしたフリをしているだけ、と言うのが印象的でしたわ」
「でも、仁君は全く気付いていませんでした……」
散々な評価だが、これでも凛は必至に隠しているつもりだった。
「兄さんが気付いていなかったのが不幸中の幸いですね……」
「でも、気付いていなかったから、元の世界でも心配は要らないと思っていたそうよ」
「世界樹による召喚も、ミオさんが言わなければ候補にすら上がっていませんでしたわ」
凛の頬がヒクッと引き攣る。
「そうだったのですか?」
「はい……。その内帰るのに、呼ぶ必要は無いだろ、と言っていました……」
「兄さんの鈍感を喜ぶべきでしょうか?嘆くべきでしょうか?」
凛としては非常に複雑な心境である。
「皆さんのおかげで、私は兄さんの下に来る事が出来ました。ありがとうございます」
そう言って凛は頭を下げた。
しばらく湯に浸かり、身体を洗うために湯船から出る6人。
「凛様、お背中をお流しします」
「様、なんて付けなくて良いですよ。マリアさん」
「そう言う訳にもいきません。凛様には申し訳ありませんが、仁様の血縁者と言うのは、それだけ特別な存在なのです」
畏まらないで欲しい、と言う凛だが、マリアはそれを受け入れられなかった。
この時点で凛は知らないが、メイドの多くからも同様の事を言われることになる。
「仕方ないですね。それでは、背中を流してください。その後は私が背中を流します」
「いえ!私は結構です……!」
「駄目です。親睦を深めると言うのに、一方的に洗われるのは正しくありません」
背中を流そうとしたのは、マリアなりに考えた結果だった。
正論で返されては、マリアも拒否は出来ない。
「……分かりました。お願いいたします」
「何々?背中の流しっこするの?折角だし、皆で並んでやらない?」
「それは良いですね。親睦が深まる気がします」
ミオの若干古いアイデアに凛が賛成したため、並んで背中を流し合うことになった。
《えい!》
「ちょ!?ドーラちゃん、何で羽出すの!?」
背の順に並んだところで、ドーラが羽を出して天使モードになった。
後ろに居たミオが困惑する。
《あらってー?》
ドーラは羽を自分で洗えない。
大体は『清浄』で済ませており、仁と一緒に入る時には仁に洗ってもらう。
背中の流し合いと言う事で、他の人にも洗ってもらおうと思ったようだ。
「これ、一人だけ難易度が違くない?」
背中を流す以上の労力が必要なのは間違いがない。
「綺麗な羽ですね。本当に天使のようです」
天使モードのドーラを初めて見た凛が興味を惹かれて近づいてきた。
「当然、ご主人様のお気に入りよ」
「私も触って良いですか?」
《いいよー》
ドーラの許可を得て、凛が羽に触れる。撫でる。
「濡れていても手触りが良いですね」
《ごしゅじんさまとおんなじさわりかただー!》
「そうですか?それは嬉しいです。次は濡れていない時に触っても良いですか?」
《もちろん、いいよー!》
ドーラは気に入った相手に羽を撫でられる事が好きである。
仁の家族で、仁と似た匂いのする凛は、ドーラにとって気に入った相手に含まれていた。
背中を流し合い、雑談をしながらゆったりと湯に浸かった6人は、当初の目的通り十分に親睦を深め合う事が出来たと言えるだろう。
超が付く程ブラコンで、仁第一主義の凛であるが、仁の関わらない要素に関しては一般的な感性を持っている。
更に言えば、元々社交性も高く、人と話をするのも苦にはならないし、それが仁と仲良くしている相手ならばむしろ望むところである。
「それで、妹ちゃんは今後、どういうスタンスでご主人様と接するの?」
もうそろそろ風呂を出ると言う時に、ミオが最後の質問をした。
「スタンスと言うのは何ですか?」
「兄離れのフリを続けるのか、ベッタリに戻るのかって意味よ」
今のところ、兄離れしているように装っているが、仁も話を聞いて薄々感づいている。
実際に兄離れできていない以上、バレるのは時間の問題だろう。それならば、いっそのことベッタリに戻るのも有りだとミオは言う。
「一応、このまま続けて行こうと思います。寂しいですけど、それが兄妹の正しい距離感と言われたら、頑張るしかありません」
「そこまで言うなら止めないけど、ご主人様も妹ちゃんに無理して欲しいとは思わないはずよ?ホントに辛かったら、ご主人様にちゃんと言った方が良いわよ」
「聖……、私の親友と同じようなことを言うのですね。分かりました。兄さんに心配を掛けない為にも、限界が近づいたら相談することにします」
「妹ちゃん、筋金入りの妹だわ……」
ミオは知らないが、凛の親友である聖も凛の事を『筋金入りの妹』と評していた。
「そうですね。私は永遠に兄さんの妹です」
そして、凛はその評価を決して否定しない。
標題:騎竜ブルー 仁の部屋
視点:ブルー
時期:第12章
「ただいまー」
「お帰りなのー」
「待っていたのじゃ」
私がご主人様の部屋の扉を開けると、本を読んでいた灰人と始祖神竜に迎えられた。
現在、私を含めた3人はカスタール女王国にあるご主人様の部屋に居候している。
部屋が貰えない訳でも、外に出ない訳でもないが、私達3人はご主人様の部屋に居る事が多い。だから、自然と交流も深くなる。
私がご主人様の部屋に居るのは、何時ご主人様に呼ばれても良いようにするためだ。
外に出かけるにしても、ご主人様に関連する施設に限っている。
ご主人様からは、そこまでしなくて良いと言われているが、我慢している訳では無い。
万が一、呼ばれた時に対応できなかったら、自分で自分を許せなくなりそうなのだ。
「今度は何処に行ったのじゃ?」
「パジェル王国って言う、海の綺麗な国よ。何でも、<勇者>の持ち主を探すんですって」
「マップを使えば一瞬じゃな」
「何でも、マップを使わずに探すそうよ」
「相変わらず、何を考えておるのか分からんお方なのじゃ……」
気紛れなご主人様の考えている事を理解するのは大変だ。
その気紛れのお陰で命拾いした私が言えた事でもないけど……。
「そう言えば、今回はエルもお留守番なのね?」
「うむ、今回は声がかからなかったのじゃ」
特に気にした様子もなくエルが言う。
最初の頃は私とエルは競ってご主人様の役に立とうとしていたが、ご主人様と付き合ううちに、それが無意味な行為だと気付いた。
ご主人様は基本的に1人で大抵の事は出来る(料理は除く)。使い魔が必要な場面なんて基本的に有り得ない。騎竜が居なくても空を飛ぶ事も出来る。
エルを使い魔にしたのも、私を騎竜にしたのも、必要に迫られた訳では無く、『その方が面白そう』と言うのが理由だ。
つまり、ご主人様に『頼られる』と言うのは、非常に難しい。
必要ではなくても、ご主人様は私に乗る事を好んでくれている。もちろん、私も乗ってもらえて嬉しいし楽しい。
だからこそ、私は求められた時に全力を出せる状態を維持しておきたい。
1つ付け加えると、エルの方は少し事情が違う。
エルはご主人様により生み出された存在だから、ご主人様の意思一つで消えてしまう。
不要と思われたら消される可能性が高くなるので、必死に役立とうとしていたのだ。
幸い、しばらく前にご主人様が『エルを消す気はない』と明言してくれたので、ご主人様に頼まれた時だけ全力を出すと言う、私と同じスタンスに落ち着くことができた。
「それより、先程の続きをするのじゃ」
「分かったわ。ご主人様と空の旅をして、調子の良い私に勝てるかしら?」
「メンタルだけで勝てる程、勝負の世界は甘くないの!」
私達は、ご主人様に呼ばれたことで中断していたトランプの続きを始めた。
今日のゲームはご主人様から基本ルールを教えてもらった『大富豪』だ。
ご主人様の世界では、このゲームはとにかく派生ルールが多い事で有名だったらしい。
その話を聞いた後、異世界出身の人達にルールを聞いた所、10以上のルールがあり、組み合わせが複数あった……と言うか、全員が別の組み合わせで遊んでいた程だ。
ご主人様は元の世界で、派生ルールの多さを逆手に取り、『数ゲームに1度、派生ルールを切り替える』と言う遊び方をしていた(通称『ご主人様ルール』)。
用紙に派生ルールを列挙し、コイントスでそれぞれの派生ルールの有効、無効を決めるので、派生ルールによって戦術を切り替えていく必要がある。
なお、矛盾するルールが同時に有効になった場合、両方とも無効になる。
『ご主人様ルール』は、部屋でトランプをすることの多い私達にとって、飽きを防ぐと言う意味でも非常に有用だったので、有難く真似をさせてもらった。
「『8切り』の3で上がりよ」
「くっ、この場面まで8を温存しておったじゃと……」
「油断して低いのから出すからそうなるの!」
『大富豪』になった。
「ぐっ……パス……」
「おやおや、2枚出しが全く出ないのう?これはチャンスなのじゃ」
「なら、その2枚出しを『縛る』の」
「ちょ!?待つのじゃ!」
『大貧民』になった。『平民』になるはずが、こんな時に限って『都落ち』ルールがある。
「Qよ」
「パスなの」
「パスじゃ」
「やっと、やっと私が親になれたわ。喰らいなさい!6の『革命』!」
「なんじゃと!」
「あ、4の『革命返し』なの」
「何でよ!?」
『大貧民』のままだ。一度落ちると、上に上がりにくいルールだ。
『革命』一点狙いだったのに……。
そしてルールが切り替わる。
「8からQまでの『階段』なのじゃ」
「強制的に流れるの……」
「更にジョーカー込みで5~7の『階段』+『2枚出し』なのじゃ!」
「偏り酷くない?」
「『都落ち』が無くなって良かったの……」
ルールが切り替わっていなければ、この時点でアヤが『大貧民』になっていたのに……。
まあ、その後に私がアヤに勝ったので、どのみちアヤが『大貧民』なんだけどね。
-コンコン-
ここで、部屋の扉がノックされた。
「どうぞー」
私の部屋じゃないけれど、ご主人様の許可は貰っているから大丈夫。
「失礼しまーす」
「やっほー♪」
そう言って入ってきたのは、私達のゲーム仲間である恵とティラミスだ。
2人共転生者であり、ご主人様と同じ世界の出身と言う事もあり、ゲームに誘ったら快諾してくれた。ただし、2人は日中に仕事があるから、遊べるのは夕方以降に限られる。
「よく来たのじゃ」
「歓迎するの」
今日はこの2人が来てくれたが、他にもゲーム仲間は結構な人数が存在する。
特に、ご主人様と同じ世界の出身者は、ほとんどが参加していると言って良い。例外は屋敷に近寄らない元勇者の人達くらいだ。
「今日も大富豪をやっているの?」
「ええ、そうよ」
「おっけー♪5人なら丁度良いね☆」
2人もこの『ご主人様ルール』の経験がある為、現在のルールを確認し、すぐにゲームに参加した。途中参加は例外なく『平民』スタートだ。
「縛りのイレブンバックだよ。捨て札を考えると、ジョーカー以外は出せないよね?」
「なら、ティラちゃんがジョーカー出すよ☆」
「ジョーカーを持っていたのはティラミスじゃったか。アヤから貰ったのがKだから、平民の誰かが持っているのは分かっておったが……」
「それを言っちゃ駄目なの!」
「パスが多いから何事かと思ったら……」
順当にアヤが『大貧民』続投となった。
3戦してルールが切り替わる。
人数が増えたので、ここからはローカルルールの種類を増やすことにした。
ご主人様曰く、『よりマイナーなルール』だそうだ。
「ふふふ、ジョーカー込みの『大革命』よ」
「なん……じゃと……」
「今回は『都落ち』があるの。エルはここでドロップなの」
「『貧民』だから、せめて『平民』には上がりたいなぁ……」
「させないよ☆」
『大富豪』になれた。やっぱり、2枚もらえるのは大きい。
数戦して『大富豪』をキープし続けたところで、部屋の扉が開いた。
入ってきたのは、この部屋の主にして私のご主人様だ。
「ただいま。おっ、今日は『大富豪』か。……偶には俺も参加しようかな」
「!?」×5
ご主人様の言葉に、5人が息を飲んだ。
ご主人様を悪く言うつもりは無い。悪く言うつもりは無いが、ご主人様が参加するとゲームにならなくなる。戦力差が大きすぎるから。
少なくとも、次の試合で『都落ち』が発生することだけは確実だ。『大貧民』かぁ……。
「あ、丁度5人か。それなら、半端になるから止めておこう」
「ほっ……」×5
『大富豪』の適正最大プレイ人数は5人。
ご主人様は適正人数を越えたり、誰かを押しのけて参加したりすることは好まないので、そこでゲームへの興味をなくした。
ご主人様の事は大好きだが、ゲームで負けるのはそれはそれで悔しいのだ。
味方が5人では、勝ち目が薄すぎる(前提として、ご主人様を相手にする場合は多対一)。
「ますたー、今日はここで寝るのか?」
「いや、確か今日はアヤに……体液をやる日だったろ?1回戻って来ただけだ」
「仁、愛してるの!」
アヤがご主人様に跳び付いた。
アヤにとってご主人様の体液は食事のような物だ。
普段は間接的な摂取に限られているが、定期的に直接舐めることを許されている。
もちろん、汗の事だ。
アヤは服を脱いでパンツ一枚になり、ご主人様の汗を舐める。
次の瞬間、アヤの肉体が成長した。
「ふっふっふっ、こうなったからには、もう負けないの」
直接摂取に限り、アヤは一時的に大人の姿となる事が出来る。
この状態では、アヤの能力は向上する。当然、思考能力も……。
「俺は戻るけど、あんまり遅くまで遊ぶなよ」
「はーい!(♪)」×5
ご主人様にああ言われた以上、後3戦くらいで終わりかな。
このまま、『大富豪』で終わってみせる!
*************************************************************
登場人物
名前:ブルー
性別:女
年齢:16(登場時)
種族:竜人種(天空竜)
称号:仁の従魔
備考:『竜人種の秘境』の元族長候補だったが、ドーラを秘密裏に追放した事がバレ、処刑されるところを仁に救われた。仁にテイムされて騎竜となり、その時点でテンリと言う名前を捨てた。一度忠誠を誓った後は従順で(原典の方のツンデレ)、仁を背に乗せて飛ぶことが何よりも好き。ライバルは馬車馬と不死者の翼。
名前:エル
性別:女
年齢:なし(疑似人格としては0歳相当)
種族:なし
備考:仁の異能により生まれた疑似人格。人格の元は仁に倒された始祖神竜という最終試練。扱いは仁の『使い魔』だが、使い魔として仕事をしたことは数える程度。使い魔に出来る事は、仁にも出来るという致命的な欠陥があったから仕方がない。危険度が高い場合、保険として連れて行かれることはある。基本的に使い魔以外の仕事はしていない。
名前:アヤ
性別:女
年齢:0(登場時)
種族:灰人(異世界人)
称号:転移者
備考:仁が『灰色の世界』から連れ帰った灰人と言う種族。灰人1024人の集合体でもある。その正体は『灰色の世界』の人類の生き残り。崩壊中の世界に適合するため、知性や知識を失って省エネ化した。仁の体液に含まれるエネルギーを摂り込む事で知性を取り戻す。1024人がそれぞれ得意分野を持つので、仁の屋敷で色々な作業のお手伝いをしている。
名前:ティラミス
性別:女
年齢:0(登場時)
種族:ティラノサウルス(転生者)
称号:仁の従魔
備考:エリア全滅ボーナスとして現れた『恐竜の卵』から生まれた魔物であり転生者。日本の記憶は朧気にしか覚えていない。日本の前世とは別に、仁にワンパンされたティラノサウルスの記憶も一部保有しているようで、恐怖故に仁に対して全力で媚びを売っている。現在はアト諸国連合を中心に対魔物専門の傭兵として活動を続けている。
名前:成瀬恵
性別:女
年齢:0(『再誕』使用前は14歳)
種族:人間(転生体)
称号:仁の奴隷
備考:魔族として異世界転生した日本人の少女。魔族としての名前はクラウンリーゼ。転生時に記憶を失っていたが、ショック療法で記憶を取り戻し、仁の配下となった。固有魔法の『再誕』により人間に生まれ変わったので、年齢は0歳としてカウントされている。現在はアドバンス商会カスタール本店で店員として働いている。
間章では、下記のように短編を分類しています。
今回は最初なので、それぞれ1話ずつ含むようにしました。
・仁を中心とした話
・凛を中心とした話
・配下の日常
次回は8/20に下記の2本を予定しています。
・進堂凛の交流 妹編
・メイド総長ルセア 幹部集会




