第200話 再訪と召喚
13章最終話です。本編200話と言うキリの良い数字でにんまり。
「おう、随分と早かったな」
そう言って俺達を出迎えたのは、真紅帝国の皇帝、スカーレット・クリムゾンだった。
ここは真紅帝国の帝都である紅蓮、その帝城にある謁見の間だ。
俺達は約束通り、1カ月以内に最後の勇者を見つけ、真紅帝国に再び訪れていた。
鬼人の勇者、アスカを奴隷にした時点で、アドバンス商会経由でスカーレットに『数日中に向かう』と連絡を入れていた為、スムーズに会う事が出来たのだ。
「本当に1カ月経たずに見つけて来るとはな。それで、その<勇者>はどこに居るんだ?」
「ここには連れてきていない。後で『呼ぶ』から安心してくれ」
ここに居るのは、俺、さくら、ドーラ、マリア、ミオ、セラの6人(+タモさん)だけだ。
アスカは連れてきていないし、ルージュ達も連れてきていない。
騎竜達は帝都に連れて来たが、城には連れて来なかった。
なお、真紅帝国側はスカーレット、アッシュ、クロアの3人で、護衛は1人もいない。
表に出せない話もするから仕方ない部分もあるが、それで良いのか大国の皇帝……?
「……ああ、『ジンに出来る事』の1つか。それで、早速向かうのか?それとも、休憩がてら持て成そうか?」
相変わらず、話の早い男である。
余計な事を聞いて来ないので、非常に話し易い。
「持て成されても困るだけだから、行けるならさっさと行こう。……そもそも、皇帝がそんな簡単に出かけられるのか?」
「ああ、問題ない。後の事は後継者であるカーマインに任せられる」
その顔には、明確な信頼感が見えていた。
どうやら、第一皇女は着実に次期皇帝の道を進んでいるようだ。
スカーレットはすぐにカーマインや側近達に後を任せ、出発の準備を整えた。
この間、僅か10分。本当に、フットワークの軽い皇帝である。
俺達は帝都・紅蓮を騎竜に乗って出発し、エルフの里に向かった。
エルフの里とは、世界樹を中心としたエルフの集落であり、真紅帝国の北東に存在する。
真紅帝国内では『未開領域』と呼ばれ、迷いの森によって一般人は立ち入る事が出来ない。
立ち入るには、エルフの里出身の者が案内する必要がある。
そんな、ファンタジーの代名詞の1つとも言える様な土地に、俺は再び足を踏み入れる。
なお、クロア以外の騎竜には一旦帰還してもらった。お疲れ様。
迷いの森の案内は、前回に引き続きエルフの里出身のハーフエルフであるアッシュが務めてくれた。案内無しでも里まで辿り着けるのは内緒だ。
「今回は予め世界樹の守護者による防衛を切ってもらっています」
俺達の連絡を受けた後、アッシュがエルフの里に報告に赴き、里の防衛機構である世界樹の守護者が俺達を襲わないようにしてもらったそうだ。
俺、基本的に世界樹にとって危険人物認定されているので。
「ああ、完全にリソースの無駄遣いだからな」
世界樹の守護者を作るには結構なリソースが必要になる。
俺に倒されるためだけに作るのは完全な無駄である。
「はい、長は少し渋っていましたが、リリィ様に叱られるのが嫌で、反対はしませんでした」
マネキン大量発注の前科がある長は、今回大人しくしているようだ。
嫌いと言う訳では無いが、面倒な相手ではあるので、関わらなくていいならそれに越したことは無い。
そして森を抜け、エルフの里に到着した。
「よく来たのじゃ」
こちらの儚げなロリババアは、エルフの里の語り部にして世界樹の保護者、初代の『姫巫女』の1人でもあるリリィさん。属性多すぎ問題。
「おう!リリィの婆さんも元気そうだな」
「うむ、リソースが多くなったことが、ワシにも好影響を与えておるようじゃ」
スカーレットが言うように、リリィの顔色は以前よりも良くなっている。
迷宮と同じく世界樹の維持にもリソースは欠かせない。今の世界樹には、相当量の余剰リソースがあるのだ。
理由は、エルフの里には分裂タモさんを3匹住まわせているからである(公認済)。
これだけで、今までの数千年分を超える量のリソースが得られるという。
「話はアッシュ坊から聞いておるのじゃ。本当にこの短期間で見つけて来るとは……」
既にスカーレットからも同じような事を言われている。
「俺は約束を守る男だからな」
「約束っつーか。ジンが自分で宣言しただけだけどな」
はい。誰からも1カ月なんて要求はされていません。自分で言っただけです。
自分自身との約束……決意ってヤツ?努力と言うよりは運要素が強すぎるけど……。
「それで、件の<勇者>はどこに居るのじゃ?」
キョロキョロと周囲を見渡すリリィ。
ここに居るのは以前も居たメンバーだ。記憶力の良いハイエルフが忘れている訳はない。
「今から呼ぶ。『召喚』」
俺は魔法を発動し、屋敷で待機中のアスカを呼び出した。
「これがジンの召喚か、凄ぇな……」
「な、何じゃこれは!?」
何もないところから少女が現れ、リリィが盛大に驚いていた。
スカーレットには多少の話をしていたが、エルフ達には言っていなかったからな。
「待たせたな」
「気にしない。これも仕事」
まだ短い付き合いだが、アスカが非常に真面目で責任感が強いと言う事は分かっている。
流れ島の集落が壊滅したことを自分のせいだと責め、敵討ちの為に強さを求める程度には責任感が強い。良い例とは言っていない。
正式に頼んだ事なら、奴隷としての命令じゃなくても嫌な顔1つせずにやり遂げる子だ。
……何と言うか、『我慢』と『自己犠牲』に慣れきっている気がして将来が少し不安。
「頭の角を見る限り、鬼人か?」
「ああ、鬼人の勇者、アスカだ」
「アスカ、よろしく」
ペコリと頭を下げて挨拶するアスカ(一般常識勉強中)。
「おう、よろしく!」
「また、ジン殿の力か……。その様子を見る限り、レット坊は聞いておったのじゃな……」
「実際に見るのは初めてだけどな」
驚きはしたようだが、リリィもすぐに理解してくれた。
「ふぅ……。この力で残りの100人も呼ぶという事じゃな?」
呆れたように息を吐き、リリィが話を続ける。
「ああ、今日中に終わらせる予定だ」
世界樹の成長に必要なのは大量の『リソース』と、女神の意思から外れた『異常個体』因子の取り込みの2つである。
この大量のリソースを確保するためにタモさんを配置し、異常個体因子を集めるためにパジェル王国に向かったのだ。
異常個体の方は条件が細かく決まっていた。
因子の種類は最低10種類、人数は最低100人、<勇者>は5人分必要という物だった。
この取り込みを今日中に終わらせる。
10分後、所変わって世界樹の前。
「この歳になって、ここまで何度も驚かされるとは思わなかったのう……」
「本当に、ジンを味方にして良かった……」
リリィとスカーレットが、世界樹の前に並ぶ人の列を見ながら言う。
並んでいるのは、俺の配下である異常個体約100人である。
リリィ曰く、異常個体10種類と言うのは、『スキル』、『種族』、『来歴』の3つに分けられる。
『スキル』は<勇者>と<英雄の証>が登録済みだったので、<聖魔鍛冶>と<系統樹の分枝>の持ち主を連れてきた。ドワーフのミミと迷宮内孤児院の少年(4歳)だ。少年の方はもうすぐ5歳の誕生日(<系統樹の分枝>が変化する)なので、割とギリギリだった。
『種族』は竜人種が登録済みなので、人魚のレーラと天使のアンジュを呼び出した。
『来歴』は転生者、勇者以外の転移者、迷宮関係者と全て登録済みである。
100人と言う条件は、『竜人種の秘境』から竜人種を大量に呼び出して達成した。
クロアの知り合いが居て、多少ゴタゴタしたが、特に気にしていない。
<勇者>5人は獣人とエルフが登録済みなので、人間、ホビット、鬼人、が登録すれば良い。
集めるのは全く問題ないのだが、因子の取り込みが1人ずつだったので、並んで順番待ちをしているのが現状である。
今日中に終わる事は間違いのないペースである。
しばらく待ち、後半戦になった頃にアルタから報告が入った。
A:マスター、世界樹から取得したスキル<蘚&[#あ>の解析が終了いたしました。
以前、世界樹の機能で異世界出身者がユニークスキルを貰ったのだが、不思議な事に俺が貰ったスキルだけ文字化けしていたのだ。
アルタに解析を頼んでいたのだが、相当に複雑な処理が必要らしく、中々終わらなかった。
ようやく終わったのが、世界樹を成長させる直前というのは、中々に丁度良いタイミングと言えるだろう。
それで、どんなスキルだった?
A:はい。<世界樹支配>と言うスキルでした。端的に言って、<迷宮支配>の世界樹バージョンとなります。
……………………はい?
A:どうやら、世界樹は『マスターにスキルを与えた』というより、『マスターに全権を委任した』と言った方が正しいようです。
つまり、今の俺は世界樹の設定を弄れるのか?迷宮と同じように。
A:はい。解析と共に修正も終わりましたので、迷宮支配者に類似した能力を得ております。称号に『世界樹の主』という物が追加されています。なお、文字化けしていたのは、本来の世界樹の機能を逸脱していた為の不具合のようです。リソースが大量に減ったのも同じ理由です。
本当に『世界樹の主』が称号に追加されている……。
アルタの話を聞き、色々と納得できることも多いが、始めに1つ聞きたい。
「何で、自ら進んで身を差し出しているの?」
スキルを貰ったと言うよりは、自分自身を差し出してきたと言う方が正しい状況である。
正直、理解が追い付かない。
A:<世界樹支配>経由で世界樹にアクセスしたところ、世界樹の思考履歴のような物を発見しました。それによると、『命乞い』だそうです。マスターの存在が強すぎ、世界樹は抵抗不可能と判断しました。全権を委任する事で、庇護下に入ろうと考えたようです。
世界樹、そんなに人間臭い思考をしていたのか……。
そして、世界樹に命乞いされる日が来るとは、流石の俺も想像できなかったな。
「ご主人様、何かあったの?」
先程のボヤキを聞きつけて、ミオ達が近づいてきた。
「いや、この間貰ったユニークスキルの解析が終わったから、その報告を聞いていたんだ」
「あ、世界樹から貰った奴!何だったの!?」
《おしえてー!》
「仁君の事ですから、凄いスキルを貰えたんですよね……?」
「まぁ、凄いと言えば凄いかな……」
かくかくしかじか。
「ご主人様がいつの間にかエルフの里を征服していた件について」
「ミオ、人聞きの悪い事を言うな。別に征服した訳じゃない。里の生命線を掌握しただけだ」
「それを征服したと言うのでは?」
「…………」
どうしよう。否定の材料が見つからない。
「確か、世界樹からはその人に合ったスキルが貰えるのでしたわよね?」
「はい、私が貰ったのも相性の良い魔法に関するスキルでした……」
「ミオちゃんは料理にも活かせるスキルよ!」
セラの言うように、世界樹から貰えるスキルには、本人の性質が反映される。
その観点で見れば、俺のスキルと言うのは……。
「そう言う意味では、ご主人様にピッタリなスキルだと思いますわ。ご主人様、支配者気質がありますから。行った場所は大半を支配下に置きますし……」
まあ、そう言う事だろう。
「世界樹すら従えるとは、流石仁様です」
《ごしゅじんさま、すごーい!》
過剰なヨイショをするマリアと、意味が分かっていないままヨイショするドーラ。
別にヨイショを求めた訳じゃないからね?所詮は貰ったスキルだし……。
「征服でも掌握でも良いんだけど、そのスキルを持っていることで、ご主人様に何かメリットって有るの?」
「メリットって有るの?」
ミオからの質問をそのままアルタにスルーパスした。
A:純粋なメリットと言う点で言えば、リソースを使い世界樹製の装備を作る事が出来ます。
「世界樹装備!大抵のゲームだと最終装備クラスよね!」
アルタからの念話を聞き、ミオが嬉しそうに言う。
今の装備よりも上の物を作れるのか?
A:いいえ。最終試練を乗り越え神話級に至った装備には及びません。
「残念ね……」
ミオが悲しそうに言う。
A:また、リソースを使い、世界樹製の果実を作り出す事が出来ます。
「食べ物ですの!」
《たべものー!》
「またミオちゃん案件来たー!」
ミオのテンションが上がったり下がったり忙しい。
迷宮にも言える事だが、世界樹も何をするにもリソースを使うようだ。
A:後、大量のリソースを使用する事で、マスター達の世界から人を召喚する事が出来ます。
アルタが特大の爆弾を落としてきた。
さて、アルタから聞いた話をまとめよう。
なお、アルタは<世界樹支配>を経由して世界樹にアクセスしたことで、世界樹しか知らない情報も獲得していた。後で詳しく聞こうと思うが、今は召喚の事を先決とした。
世界樹は『世界』に関する機能を複数持っており、『異世界人の召喚』もその内の1つだ。
以前リリィが言っていたように、元の世界への転移は難しいが、こちらの世界への転移は比較的容易なのだろう。
一応補足すると、『人物』の召喚だけで、動物や物を呼び出す事は出来ない。
この召喚は勇者召喚とは異なり、<祝福>が与えられることは無い。また、東の身を蝕んだ、異世界転移の拒絶反応も防いでくれる。
そして、召喚する対象は異世界出身者の縁者に限られるという。召喚には異世界人の縁を目印にする必要があるのだとか。
つまり、俺関連で言えば俺、さくら、ミオ、恐竜娘(一応転生者)、成瀬母娘、元勇者の信奉者達だ。結構多い。
配下以外では、スカーレット、シャロンも転生者だから当てはまるな。
記憶が定かではないティラミスとスカーレットに使わせる意味はないだろうけど……。
召喚には『強制召喚』と『任意召喚』の2種類が存在する。
『強制召喚』は読んで字のごとく、対象を異世界から強制的に召喚する。対象の意思や状況を考慮せず、無理矢理呼び出す。
『任意召喚』は対象の意思を優先し、異世界への転移を希望しない者を召喚する事は無い。
リソースの使用量は『強制召喚』の方が遥かに多い。本人の承諾がある場合、召喚にかかる負荷が減るそうだ。
『強制召喚』と言うのは、俺達がされたのと同じ、意思を無視した拉致に他ならない。
よりにもよって、拉致被害者に拉致をさせるとか、世界樹の神経を疑う。
なお、世界樹に神経があるかは別の話とする。
『任意召喚』にも問題がある。
召喚時に対象者に意思を確認するのだが、『保留』が出来ない。つまり、その場で転移を受け入れるか否かを決定する必要がある。普通、行かないだろ?
せめて、準備をさせて欲しいと思うだろ?出来ないんだよ、それが。
更に、拒否された場合でも当然リソースは失われる。拒否されたと言う結論だけが返ってくるので、もう1度同じ相手に『任意召喚』をしようとは思わないだろう。
……これらの事から、この機能には使い道がないと言わざるを得ない。
更に道義的な問題もある。
転生の事を悪く言うつもりは無いが、あくまでも転生前と転生後は別人だ。『任意召喚』だとしても、転生後の人間が転生前の人間を異世界に呼ぶというのは如何なものだろう?
望まぬ転移をした者が、元の世界の者を『強制召喚』するのは更に問題だ。それは、拉致被害者を増やす、つまり『道連れ』が出来るだけで、何の解決にも繋がらない。
「と言う訳で、お蔵入りだな」
「ちょっと待った!」
凄い機能ではあるが、使い勝手が悪すぎると言う結論を出したところで、ミオのインターセプトが入った。
「どうした?『強制召喚』は絶対に許さないぞ」
例えミオにどうしても呼びたい人が居たとしても、『強制召喚』は使わせない。
『任意召喚』も基本的には反対だが、理由次第では考えなくもない。ほら、自分が死んで、残された親を呼びたいとか……。
「そんな事言わないわよ!ご主人様に『任意召喚』を使って欲しいだけ!」
「俺に?誰を召喚しろって言うんだ?」
俺には積極的に呼びたい相手はいない。強いて言うなら、東と浅井を呼びたかった。
「決まってるでしょ!妹ちゃんよ!」
「ああ、仁君の妹さん……!」
「確か、凛さん……でしたわよね?兄離れできていないと言う……」
ミオの発言に、さくらとセラが納得したような顔をする。
「その内帰るのに、態々呼ぶ必要あるのか?」
「あるわよ!時々妹ちゃんエピソード聞くけど、絶対に兄離れできてないわよ!呼んだら絶対に来るから!むしろ、呼んであげて!」
ミオ達にせがまれ、偶に元の世界の話をしている。
当然、妹が出てくることもあるのだが、ミオ達はその度にブラコン認定をする。
「私も呼んであげた方が良いと思います……」
「私もそう思いますわ」
《ドーラもー?》
ドーラは良く理解していないようだが、さくら達に合わせたのだろう。
賛成が半数を超えてしまった。これは流石に無視できない(しようと思えばできる)。
話が大きくなりそうだったので、スカーレット達にも相談することにした。
かく(略)じか。
「少し目を離した隙に、とんでもない事になってやがる……!」
「世界樹が、自ら支配されることを望んだ……じゃと」
<世界樹支配>の事を説明しただけで、スカーレットもリリィも驚愕していた。
まだ、召喚の話まで辿り着いていないんだけど……。
か(略)か。
「『女神の領域』に行くリソースは足りるのか?流石に、優先順位までは変えられねぇぞ?」
「それは問題なさそうだ。今も補充しているからな」
「既にワシよりも世界樹について詳しい仁殿が言うのなら、間違いないのじゃろう……」
『世界樹の主』は、リリィ達の『世界樹の保護者』にとって完全な上位存在となる。
リリィとの話し合いの元、この事は公にせず、世界樹及びエルフの里は今まで通りの運用とすることにした。なお、各種機能はこっそり利用させてもらう。
そして、話をしている間に異常個体因子の取り込みが終わっていた。
これで、後は世界樹を成長させるだけで、『女神の領域』に行く事が出来る。
もちろん、俺にも準備があるし、スカーレットの皇帝引退も控えているので、今すぐの話ではないが、少なくとも移動手段の準備は終わったことになる。
今日の本来の予定はここまでだったので、100人近い配下達には先に帰ってもらった。
「俺も召喚を見たいんだが……」
「スカーレットは無駄に威圧感があるから却下だ。さっさと帰って仕事しろ」
「ジンが冷たい……」
身内の召喚なんて、他人に見せたいモノでもないのでスカーレット達も帰らせた。
リリィは『色々と疲れたので寝るのじゃ……』と言って帰って行った。
お年寄りに精神的負担を掛け過ぎた自覚はあるけど、『世界樹の保護者』が世界樹を利用する場面を見守らなくても良いのかな?
善は急げと言う事で、早速『任意召喚』を始めようと思う。
手順は世界樹に触れ、呼び出す相手をイメージして『任意召喚』と宣言するだけで良い。
リソースが十分に足りていれば、リソースが減り召喚の判定が始まる。対象が召喚を受け入れれば召喚され、受け入れなければそこで終了となる。
「それじゃあ、始めるぞ。これで失敗したら、2度はやらないからな」
「うん、それで良いわ。絶対に来るし……」
ミオは相当自信があるようだ。
「『任意召喚』」
俺が世界樹に触れて宣言すると、世界樹が『ぺかー』と光った。
そして、間もなく俺の横に1人の少女が現れ……。
「お兄ちゃん!」
召喚された少女、進堂凛が俺に抱き着いてきた。
「凛、本当に来たのか……」
正直に言って来るとは思っていなかった。
一度は帰るつもりとはいえ、その事は凛には伝わっていない。凛からしてみれば、元の世界の全てを捨ててこちらに来たことになる。
「当たり前です!お兄ちゃんが異世界に居ると聞いたら、追いかけるに決まっています!」
「当たり前かなぁ……?」
凛が俺の名前を出した点について補足しておこう。
アルタによると、凛の元には『進堂仁から、異世界への転移依頼が届いています』から始まるメッセージが届くそうだ。
召喚者と条件を聞いた後、対象者は召喚を受け入れるか否かを選ぶことになる。
そして、『俺が異世界に居る』と言う一点で凛は異世界転移を選んだと言う。
言っちゃ悪いが『兄』だぞ。
普通に考えて、元の世界の全てを捨てるほどの理由にはならんだろ……?
「たった1人の家族です!私にとっては、お兄ちゃんが何よりも大切なのです!」
大胆な愛(親愛)の告白だな……。
どうやら、ミオの言うように兄離れは出来て無さそうだ。
転移前は『兄さん』呼びだったのに、『お兄ちゃん』に戻っている点からも明らかだ。
「そうか、お前が後悔しないなら、俺はそれで構わない」
「はい、絶対に後悔しません!」
「分かった。……よく来たな、凛。歓迎するぞ」
「はい!」
凛が落ち着いたところで、状況の説明を始めた。
「つまり、お兄ちゃんは放課後に学校に居た人全員で異世界に転移したのですね」
「……ところで、俺の呼び方はそれで良いのか?」
「あっ!コホン、兄さん、でした」
別に、お兄ちゃん呼びでも構わんが……。
「……兄さんの様子を見る限り、時間の進み方も違いそうですね」
「相変わらず、察しが良いな」
その説明はまだしていないのに、当たり前のように思い至っている。
「これくらい普通ですよ。……ですが、それで納得しました。道理で、放課後になったら急な不安感に襲われた訳です。兄さんが居なくなったことを感じ取ったのでしょうね」
ウチの妹、俺が異世界に召喚されたことを感知していたらしい。
その後、まずはその場にいるメンバーの紹介を始めた。
スカーレットや他の配下を帰したのは、人数が多いと説明が長くなるからという側面もあった。凛が来るとは思わなかったが、念のためである。
「進堂凛です。皆さん、兄がお世話になっています」
一通り紹介が終わったところで、凛はそう言って頭を下げた。
「いえ……、お世話になったのはこちらの方ですから……」
「そうそう、ご主人様が居なければ私達は死んでいたんだから!」
「仁様には感謝しています」
「私も同じですわ」
《ドーラもー!》
なお、凛はまだドーラの声は聞こえない。
喋れない子と言う説明はしている。
「奴隷……と言うのは少し引きましたが、この世界の文化ですから否定はしません。それに、兄さんが手っ取り早く味方を得るには必要だったのでしょう」
兄離れ以外は普通の感性を持つ凛には、奴隷というのは『少し引く』内容だったか……。
更にこの世界の事や、今までの経緯をザックリと説明した。
ここが何処なのか、と言う事も合わせてだ。
「異世界と言う事で、ある程度は想像していましたが、まさしく物語やゲームのような世界ですね。兄さん、随分と楽しんでいたのではありませんか?」
「ノーコメントだ」
「ご主人様の趣味って観光だったわよね?」
「ミオ、シャラップ!」
「ぴっ!?」
異能についてはボカして説明した。
凛がこの世界でどのように生きていくかによって、与える知識を制限するつもりだ。
知らないなら、知らない方が良いこともある。
「兄さんの配下になる事で、兄さんとの間に繋がりが出来る……。兄さん!是非私も兄さんの配下に加えてください!」
妹に配下になりたいと言われた俺は、一体どうすれば良いと思う?
「え?想像通りの状況じゃない?」
「私も、多分そうなると思っていました……」
マジか……。
「兄さん、お願いします!」
凛が一歩も引かない為、渋々凛を配下にすることに決めた。
「~~~♪」
配下になったのに、何故そんなにご機嫌なのだ?妹よ。
配下になった以上、異能の説明も詳しくした。
「今、兄さんには何人の配下がいるのですか?挨拶をしたいのですが……」
律儀な妹だな。
「確か、2万は超えていたと思うぞ」
異能の事を知っている配下、という意味だ。
配下の、配下の、配下くらいまで行くと何も知らないと言う事もある。
「…………冗談ではないのですね」
一瞬、凛の表情が強張った。
「これは、挨拶が大変そうです」
え?全員に挨拶する気なの?マジで?
「ふふっ、それにしても、兄さんは何処に行っても兄さんなのですね」
今度は微笑んでそう言った。
「兄さんの下には自然と人が集まります。どの世界でも変わらない様で何よりです。……そう言えば、学校単位の召喚と言う事は、兄さんの信奉者の方達も来ているのですか?」
ふと、思い出したかのように凛が言う。
「あれ?凛は俺に信奉者が居るって知っていたのか?」
「知っているに決まっています。むしろ、気付かない兄さんがおかしいのです。兄さん、敵意や悪意には敏感ですけど、好意には鈍感すぎます」
何故かさくら、ミオ、セラが頷いている。ドーラは3人の真似をして頷いている。
そして、今後の事についても説明をした。
「兄さんは一度元の世界に戻るのですね?当然、私もご一緒します。ただ、東さんと義信さんがお亡くなりになっていると言うのは悲しいですね。兄さんと対等な立場になれる方は、非常に珍しいですし……」
友達少ないみたいに言わないで欲しいな。いや、『友達』が少ないのは真実か……。
「ザックリした説明は以上だ。詳しい話は、俺の屋敷に戻って、お茶でもしながらにしよう」
細かい話は、エルフの里ではなく、屋敷で落ち着いてすれば良い。
「分かりました。まだまだ聞きたい事は沢山あります。今夜は寝かしませんよ」
「いや、寝るよ。これから時間はあるんだから、そんなに焦る事は無いだろ?」
「そうですね……。では、これからもよろしくお願いします、お兄ちゃん!」
凛は満面の笑顔でそう言った。
ついに登場、進堂凛。登場の方法はかなり早い段階で決めていました。
<蘚&[#あ>の内容も予め決めていました。一応、文字数はあっています。
召喚機能はガチャ(ランダム)にする案もあったのですが、仁の性格上、拉致に近い事は避けると思ったので、『任意召喚』と言う形になりました。ガチャの方が面白くはあるのですけどね。
登場人物紹介の後は、14章ではなく間章です。サブキャラ同士の会話や、凛の挨拶など、時系列をやや無視した短編形式にします(仁達も出ます)。更新頻度は少し戻るかも?




