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第196話 報告と提案

修正を忘れていましたが、本章は「水の都編」です。

188.5話を読んでいる事が前提となります。

また、187話と188.5話でアシュリーの年齢に矛盾が出ていました。正しくは17歳です。

 マップを解禁すると言う事は、その土地で進行している企みを丸裸にすることに等しい。

 流れ島でマップを解禁する宣言を出し、ラティス島にいるさくら達もマップを使用したことにより、パジェル王国内で進行している災いイベントが概ね把握できた。


 なんと、『水災竜・タイダルウェイブ』さんの復活が間近なのである!

 さぁ、皆さんご一緒に……。


 知ってた。


 実際のところ、マップ禁止と無関係なアルタは既に内容を把握済みだし、アルタ経由でマリアも知っている。アルタに至っては、いざという時の保険も用意しているくらいだ。

 だから、俺が動かなくても事態の収拾は可能だろうが、ある事実を知ってしまった以上、俺にも無視できなくなった。故に、積極的に動かせてもらう。


 また、災いイベントを事前に潰すことも不可能では無い。

 しかし、以前も述べたように態々この国、アルタ曰く腐敗した王国を守りたいと言う理由も無いので、復活自体にはノンアクションを貫く。

 よって、俺が積極的に動くのは、『水災竜』の復活以外の部分である。


「『召喚サモン』」


 俺が最初に行ったのは、さくら達の流れ島召喚だった。

 いつまでも、蚊帳の外と言うのは可哀想だからね。


 余談だが、俺が重要視したのは『初回上陸の手段』だけであり、それ以降は気にせずに転移魔法などを使う事にしている。

 また、この縛りプレイに共感してくれるのはミオだけだと思うので、さくら達を呼ぶ分には何の問題も無いと考えている。


《ごしゅじんさまー!》


 跳び付いてきたドーラを受け止め、そのまま肩車をする。


「まさか、この島に2人目の勇者が居るとは思いませんでしたわ」

「はい、驚きました……。でも、後から考えれば、あれだけ仁君が興味を持っていたのだから、勇者が居るくらい不自然じゃないですよね……?」

「それで納得できるご主人様が凄いですわね……」


 昔、親友の東から、『進堂が歩けば金の延べ棒に当たる』と言われたことがある。

 勘違いするなよ、『良い事がある』と言う意味じゃない。『良い事はあるけど、必ず厄介事になる』と言う意味だからな。


「それで、ご主人様はこれから何をするつもりなの?」


 これから行う事は、まだミオにも説明していない。


「決まっているだろ。個人的な目的サブイベントが全て終わったんだから、メインイベントを進める準備をするんだ」

「ゲーム脳……ぴっ!」


 雉も鳴かずば撃たれまい。



 災竜復活と言う時間制限タイムリミットがある以上、作業タスクには優先度を付け、優先度の高い物から順に処理していくことが必要となる。


 そして、最も優先度の高い処理と言うのが、大海蛇シーサーペントのメープル、人魚のレーラや人魚マーメイドメイド部隊と言った水棲魔物の配下に、バジリスクによって石化させられ、海に沈んでいる者達を回収させることだ。

 『水災竜』が復活した場合、海底に沈んだ彼らがどうなるか分からないので、早い内に回収しておきたかった。石像のまま水中で永遠に、と言うのは不憫だからな。


《これで102人目っす!》

《は、はやい……。わたし、まだ46にん……》

《海は私のフィールドっす!泳ぎに関して、生まれて3年のレーラには負けないっす!》


 実は、最初に考えていたよりもバジリスクの犠牲者は多かった。

 流れ島……島鯨の進行ルートを調べ、そこを中心にマップで調べたら1000人以上が石化して海に沈んでいる事が分かった。

 破損してバラバラになっている者もいるから、普通に考えれば回収は困難だ。


 そこで、マップと水棲魔物の出番である。

 大海蛇シーサーペントも人魚も海の魔物としては上位に位置するので、海中での移動に不自由することは無い。パワーレベリングしているので、他の魔物に負けることもない。

 マップがあり、破損した欠片の位置も把握できるから取り逃しもない。

 国外に流れていった破片があっても、多少ならば『リバイブ』でフォローできる。


 こうして、回収作業は驚く程順調に進んで行く。今日明日中には終わる見込みだ。


 当然、回収した冒険者その他は奴隷化してから復活させる。

 彼らの多くは装備を含め資産を全て失っており、頼る身内も帰るあてもない。

 加えて、世間的には死んでいる者ばかりなので、奴隷化して運用する事に全く問題が発生しない素晴らしい人材なのである。


 石化から復活した者達は、基本的に流れ島の住民と同じように扱うつもりだ。

 石化に関して口止めをして、まだ帰る場所がある者は帰し、無い者は俺の拠点に送る。石化した時代がバラバラなので、教育してから適性に合った仕事をさせる。

 なお、基本的に冒険者は許さない方針である。冒険者ギルドに情報が残っている可能性もあるし、流れ島に特攻すると言う暴挙に出た者達に冒険者を続ける資格はない。


 ついでなので、流れ島の住民についても話しておこう。


 住民は『元々住んでいた場所に帰る者』と『俺の拠点で働く者』に分かれたが、元々住んでいた場所がパジェル王国の者達は、全員が『俺の拠点で働く者』になった。

 一言で言えば、パジェル王国の国民はパジェル王国への帰還を望まない。

 ラティス島だけを見たから分からないが、国全体としては良くないのだろう。


 これは、ある意味幸いとも言える。

 パジェル王国に帰りたがる者が居た場合、これから起きる災いの事を話し、引き止める必要があったので、手間が省けたのだ。


 肝心の島からの脱出については、『ポータル』を使う事にした。

 多分、これが一番早いと思います。


 制限時間的な意味で、脱出に余計な時間を掛けられなくなったので仕方がない。

 本当は、大脱出劇をプロデュースしたかったので、非常に残念である。


 アルタ曰く、『水災竜・タイダルウェイブ』は放っておけば後4日で復活するらしい。

 当然、放っておく。


 当初の予定よりも大幅に短くなっているのは、『敵』が頑張った成果である。

 なので、マップを解禁しなくても、明日にはアルタがこの件を伝える予定だったそうだ。


 俺がアルタのリミットよりも一日早くマップを解禁したことには大きな利点があった。

 具体的に言うと、パジェル王国内にメイドを呼び寄せ、マップによるローラー作戦でレアなスキルを持った人材どれいや、レアなアイテムの回収作業が行われた事だ。

 最悪の場合この国が滅ぶので、その前に可能な限り回収するのである。

 アルタの説明が明日になった場合、いくつかレア物の取りこぼしがあった可能性がある。


 これで、この国が滅んでも大丈夫である。

 俺も心置きなくメインイベントを進められる。



 諸々の作業を見届けた後、俺達はメインイベントの発生する島へと向かう事にした。

 折角手に入れたので、流れ島に向かう時に使った船に乗っていく(セラは『重量軽減フロート』の魔法を使用中)。


《ぐすん……》

《この国の冒険が終わったら、また乗ってやるから》

《約束だからね!》


 余談だが、船に乗ろうとした時点で、どこから聞きつけたのか、騎竜ブルーが抗議してきた。十分な理由が無ければ、移動には自分を使って欲しいとの事。

 俺はこの船を使うのはこれで最後だからと説得し、次の機会を約束する事で宥めた。


「それで、例の島に向かっているんですよね……?」

「ああ、半裸の幼女が居る島だな」

「非常に人聞きの悪い島ですわね」

《ドーラもぬぐー?》

「ドーラちゃん、止めてね?」


 そう、俺達が向かっているのは、半裸の『姫巫女』が居る島である。

 半裸と言う情報が必要かどうかは各人の判断に任せる。


「流石に『災竜』が復活するのに、『姫巫女』を無視して話を進める訳にもいかないだろ」

「殴り殺すだけなら、『姫巫女』関係ないけどね。確か、3分の2は殴り殺しているのよね?」

「ああ、火災竜だけは足踏みで殺したけど、地と風は殴り殺したな。今回はどうするか……」


 個人的には、水の竜なので三枚におろしたい。


「一国が滅ぶかもしれない状況とは思えない会話ですわね」


 俺とミオの馬鹿話を聞き、セラが呆れたように言う。

 少なくとも、同じ形で国が存続することは無いと思うよ。


「仁君ですから……」

《ですからー》


 そのテンプレ、何気に久しぶりな気がする。


「おっ、見えてきたな」


 仲良く雑談をしている内に、件の島が見えてきた。


 『姫巫女』の護衛用タモさんが居るので、この島の情報はアルタが逐一確認していた。

 当然の話ではあるが、タモさんが守護している『姫巫女』は無事だ。そして、この国の連中による捜査の手は届いていない。


 残念ながら、流れ島の様な妨害はなかったので、あっさりと島へ到着した。

 船が波に流されても嫌なので、<風魔法>により砂浜まで乗り上げることにした。


「とーちゃーく!」

《ちゃーく!》


 お子様2人が元気よく船から飛び降りる。


「砂が舞うから、セラは真似するなよ」


 『フロート』を解除したセラが真似した場合、砂ぼこりが酷いことになるだろう。


「しませんわ!なりませんわ!失礼ですわ!」

「しないのは良いけど、なるだろ?」

「なりませんわ!この通り!」


 そう言ってセラは『フロート』を解除しつつ飛び降りた。


-ドーン!-


 酷いことになりました。

 主に、先に降りていたミオとドーラが。


「セラちゃん、自分の体重考えて……」

《ぺっぺっ》

「ごめんなさい……」


 正直、思っていたよりも大きな衝撃だった。セラ、前よりも重くなった?


A:セラの体重は……。


「言っては駄目ですわ!」


A:マスター、如何いたしますか?


 聞かないでおいてあげよう。

 重い事は知っているが、具体的な数字は聞かれたくないらしいからな。


「はぁ、はぁ……。ま、待ってください!」


 漫才の様なやり取りをしていると、浜辺近くの林から少女の声が聞こえてきた。

 少女は何か液体のような生物を追いかけて走っている。


 言うまでもないが、少女は『姫巫女』であり、液体のような生物はタモさんである。

 タモさんには、『姫巫女』を俺の元に連れてくるように頼んでおいた。


「人……、まさか、追手……?」


 林から出てきた少女は俺達の存在に気付き、警戒心露わに小さく呟いた。

 そして、そんな事はお構いなしに、タモさんが跳ねて俺の頭に乗ってきた。


「え?シュバリエが……、懐いているのですか……?」


 タモさん、騎士シュバリエなんて名前で呼ばれているのか?


「始めまして、俺の名前は進堂仁。このスライムを君の元に送った者だ」


 俺は最も分かり易い自己紹介をする事にした。

 端的に味方である事を伝えるには、これが一番だと思う。


「貴方がシュバリエを……」


 『姫巫女』アシュリーの声に驚きは含まれていなかった。


 彼女も、何の理由もなくタモさんが守ってくれているとは考えていなかったのだろう。

 もしかしたら、誰かの指示で動いていることまで気付いていたのかもしれない。


「まずはお礼を言わせてください。この子のお陰で私は今日まで生きていられました」


 そう言ってアシュリーは頭を下げた。そこにタモさんが飛び乗る。

 アシュリーが動じないことから、既に定位置になっているようだ。


「君に死なれると色々と困るからな。守るのは当然だ」

「私の事情を知っていらっしゃるのですよね?」

「ああ、勿論だ。君が封印の維持を諦め、ここで最期を迎える気だと言う事も知っている」

「そこまで知っているのでしたか。……私を、連れ戻しに来たのですか?」


 アシュリーに警戒した様子はなく、どちらかというと諦念のような物が見えた。

 俺が連れ戻すと言ったら、抵抗できないと言う事を理解しているのだろう。


「帰りたいのか?」

「いいえ、帰りたくはありません」


 即答である。


「安心しろ、連れ戻す気はない。俺はただ、報告と提案に来ただけだ」

「報告と提案ですか?」


 不思議そうに聞き返すアシュリー。


「ああ、聞いてくれるか?」

「それは、構いませんが……」


 アシュリーの了承も得られたので、俺は最も重要な提案をすることにした。


「それじゃあ、最初の提案だ。動きやすい服、着たくはないか?」

「あっ!」


 アシュリーが顔を真っ赤にして手で身体を隠す。


 そう。ここに至るまで、アシュリーはパンツ一丁、上半身裸の半裸だったのだ。

 真面目な話を半裸で続けるのは無理があると思います。



 無事、最初の提案がアシュリーに受け入れられた。


「久しぶりに文明を感じます」


 アシュリーにはアドバンス商会謹製、森探検セットを着てもらった。

 アシュリーがどんな選択をするにしても、動きやすい服装をして損することは無い。


「文明の代名詞、衣食住の衣が満たされたのだから、次は食を満たさないとね。はい、ミオちゃん特製パスタよ」

《わーい!》

「楽しみですわ」


 野生的な食事が続いていたアシュリーの為に、ミオがパスタを振る舞う事になった。

 何故かセラとドーラも一緒に食べる気らしい。

 なお、食事の為の木製テーブルとイスは俺からのプレゼントだ。


「ありがとうございます。……久しぶりにパスタを食べますね」


 先程まで半裸だったとは思えないほど上品な食器の使い方でパスタを食べる。


「城で出される物より美味しいです。ミオさん、料理がお上手なのですね」

「ああ、うちの自慢の料理人だ」

「えっへん!」


 ミオが自信満々に胸を張る。


 一応補足すると、既に全員分の自己紹介(最低限)は終わっている。

 短い時間だが、大分打ち解けた自信がある。


 アシュリーの食事が終わったところで、『報告と提案』の続きをする事にした。


「まずは報告だな。水災竜だが、後数日で復活する」

「そうなのですか?思っていたよりも早いですね」


 思っていたよりも反応が薄い。


「水災竜の復活を望む者を便宜上『敵』とするが、『敵』が頑張った結果だな」

「『敵』……。どなたですか?」

「君には、アリアと名乗ったはずだ」


 アリアと言うのは本名ではなかったが、そう名乗っていた事は分かっている。

 アリアはアシュリーの婚約者と共にアシュリーを嵌め、殺そうとした。殺害には失敗したが、アシュリーが水災竜の封印から遠ざかった為、復活は時間の問題となった。


「やはり、そうでしたか」

「気付いていたのか?」

「私もこの島で何も考えずに生活をしていた訳ではありません」


 見た目は幼女だが、実際には17歳の少女だ。

 精神的に余裕があれば、自らに起こった事を考察くらいするだろう。


「確認する術がないので、仮説でしかありませんが、いくつかのパターンを考察しました。やはり、不自然なのがアリアの存在です。彼女の存在により、私がどのような選択をしても、災竜が復活する未来しか訪れない事が分かったのです」

「正解。相当入念に計画していたみたいだ。この島に居たキメラもアリアの仕込みだな」


 アシュリーの逃げ込む先を想定し、危険な魔物を送り込んでおく。

 本命の作戦と言う訳では無く、死んでくれたらラッキーくらいの軽い計画だそうだ。


「あの魔物もアリアが……。彼女は一体何者なのですか?」

「アリアの正体は水災竜の現身うつしみだ。本来は自我を持たない災竜が、何らかの理由により自我を持ち、人の世で行動するために意識を写した存在だな。アリアの場合、人の世で行動する理由が水災竜の復活と言う訳だ」


 ウチに居る風災竜の現身うつしみであるペスの同類だ。

 ペスと違い、自我を得た理由までは不明である。俺に実害が無ければ特に興味もない。


「災竜の現身うつしみですか。信じ難い話ではありますが、彼女に感じた不気味さを考えると、それ程不思議ではありませんね」

「結構長い事この国に潜伏していたそうだ。外見年齢はある程度自由に変えられるから、潜伏には有利だっただろうな」


 流れ島に来ていた少女と言うのも、アリアでほぼ確定している。

 アルタ曰く、現身うつしみの外見年齢を急激に変化させるのは面倒だが、普通の成長と同じペースで変えるのは比較的簡単との事。

 3年前に12~14歳くらいだったと言うので、急激な変化をしていなければ、今は15~17歳の外見年齢となる。アリアの現在の姿に一致する。


「今更ですが、どうして貴方はそこまで詳しくご存じなのですか?『姫巫女』である私が知らないような事を、当たり前のように話していらっしゃいますが……」


 当然の疑問である。


「どうしても聞きたいなら話しても良いが、ひとまず後回しにしてもらっても良いか?多分、混乱するから」

「……分かりました、後にいたします。既に大分混乱しているので、これ以上は厳しいです」


 冷静なように見えて、実は混乱していたらしい。

 当然の結果である。


「じゃあ、話を続けるぞ。アリアは多才だったが、単身で『姫巫女』の居城を突破するほどの力は無かった。だから、色々と画策し、『姫巫女』の方を引っ張り出す事にした。上手くいけば殺害出来て、最悪でも封印から引き剥がせる」

「アリアからすれば、最善ではなくとも及第点な結果だったと言う事ですね」

「ああ、アリアは災竜の復活を今か今かと待ち望んでいる事だろう」


 『敵』ながら、本当に見事な作戦だ。

 上手くいけばその場で、悪くても遠からず災竜が復活する。


「……後で、と言った直後に申し訳ありません。1つだけ聞かせてください。貴方の目的は何なのですか?『報告と提案』の先に、何を望むのですか?」


 これも、当然と言えば当然の疑問だ。

 これまでの俺の説明からは、俺の目的が見えてこない。


「俺の目的か……」


 アシュリーは真剣な顔をして俺の回答を待つ。


「…………………………………………特にないな」

「え?」


 アシュリーの真剣な顔が崩れた。


「いや、本当に目的と言う目的があって行動している訳じゃないんだよ。基本は流れに身を任せ、面白そうな方に進むように調整している。一応、災竜は殺すことになると思うが、それは目的じゃなくて、復活して身内に被害が出そうなら殺すと言うだけの話だからな」


 極論、災竜が復活した後、大人しくしているなら殺す必要もない。


「後は2人程殴ることになると思うが、それも最終目的とは言い難いな。その気になれば、今すぐ殴りに行ける訳だし……」

「ご主人様、ご主人様」


 ミオが俺の服を引っ張る。


「どうした、ミオ?」

「アシュリーちゃん、完全に固まっているわよ?」


 見れば、アシュリーの表情は崩れたままで固まっていた。


「何で固まっているんだ?」

「ご主人様の行動原理が理解できなかったんじゃない?慣れてない人には辛いから……」


 どうやら、俺の行動原理は慣れていない人に負担を強いる様なモノらしい。


「えっと、私からフォローするわね。ご主人様の趣味は観光で、行く先々でトラブルに巻き込まれるの。ご主人様にはトラブルを未然に防ぐだけの力があるけど、基本的にトラブルが起きてから対処する方針なのよ。だから、それまでは明確な目的を持たない事が多いの」


 俺の行動原理をミオが分かり易く説明してくれた。

 やっぱり、細かい説明の類はミオに任せるのが正解だな。


「それでは、貴方方に災竜の復活を防ぐ意思は無いのですね?」

「ああ、無い。それは、俺がしなければいけない事じゃない。この国の連中がするべき事だ」


 アシュリーの問いにキッパリと答える。

 他人の不始末の尻拭いなんて御免だからな。


「ですが、災竜が復活したら、この世界は滅んでしまいますよ?私は諦めているので構いませんが、貴方方はそれでも構わないのですか?」

「いや、世界が滅ぶことは無い。俺には災竜を殺す手段があるからな。復活した後に暴れるようなら俺が殺すだけだ」


 災竜が暴れると言う事は、身内に被害が出る可能性があると言う事だ。そうなれば、俺が動く明確な理由が出来る。つまり災竜がは死ぬ。


「あの……。そもそも災竜は殺せる相手ではないと思うのですが……」

「信じられなければそれで構わない。証明するつもりもないからな」


 この場でアシュリーに信じてもらう必要は無い。

 アシュリーが災竜の復活を防ごうとしているのならばともかく、既に諦めているのだから、どちらを選んでも盤面には何の影響もない。


「……今更、貴方の言う事を疑っても意味がありませんね。分かりました。災竜を倒せると言う前提で話を聞こうと思います」


 自分で言っておいてアレだが、まさか信じるとは思わなかった。


「そうか。それじゃあ、ここで2つ目の提案だ」

「1つ目の提案には感謝しております」


 1つ目の提案が無ければ、アシュリーは今も半裸だった。


「前提条件として、災竜は復活する。この国には被害が出る。だが、俺は自分の気に入ったものは守る主義だ。この国においては、ラティス島と流れ島は気に入ったから守ろうと思う」

「殺すだけだはなく、守る事も出来るのですか。事実であれば、途轍もない事ですね……」

「それと、アシュリー、君に死んでほしくない理由がいくつかある。詳細は秘密だが」

「はぁ……?」


 アシュリーの側からは理解できない理由だろうな。


 理由その1。『姫巫女』には色々と縁があるので、不遇な目に合っている『姫巫女』は出来れば助けてあげたい。勿論、性格が真っ当な事は大前提である。

 理由その2。アシュリーはエルフの語り部であるリリィの縁者である。知り合いの縁者は見殺しにしにくい。勿論、性格が真っ当なら。

 理由その3。単純に半裸でサバイバルをしている『姫巫女』と言う存在を気に入った。

 理由その4。配下に3属性の『姫巫女』が居るのに、水属性だけ死なれるのは困る。コンプ魂。


「君には災竜の被害から守って欲しい存在は居るか?もし居るなら、俺が一緒に守ってあげようと思う。これが、第2の提案だ」


 現時点でアシュリーは全てを諦めているが、災竜が死ねば生は続く。

 見る限り、自殺したいほど絶望している訳では無さそうだからな。

 そんな中、アシュリーにとって大切な相手が災竜の被害を受けていたら悲しむだろう。

 アシュリーを守るついでに、アシュリーの大切な人も守ってあげようと言う気遣いだ。

 ……好感度稼ぎとも言う。


「……全てを見捨てて逃げた私が言える事ではありませんが、同じエルフの一族には無事でいて欲しいです。ですが、彼らの心配は不要です。災竜が復活すれば、空にあるエルフの住む島に逃げる事が出来ます」

「ゴメン、ソレ無理」

「はい?」


 実は水の『姫巫女』の一族には、災竜の封印が解かれた時に、風の『姫巫女』の一族が住む地、つまり、天空城に逃げる為の魔法の道具マジックアイテムがある。

 何を隠そう、ラティス島のゴンドラツアーで見た聖堂である。あの場所に鍵となるアイテムを持って行けば、天空城への転移が可能となる。

 何故ラティス島に転移装置があるのかと言えば、災竜が復活してもすぐには被害を受けない位置にあるからだ。これで、不慮の事故があっても安心である。


「逃げる先って風の『姫巫女』の居る天空城だよな?」

「はい。何故その事を貴方が知っているか、と言うのも今更ですね。少し、慣れてきました」

「それは結構」


 俺、話をする先々で相手に慣れを要求している気がする。


「話を戻すぞ。残念だが、天空城にある転移装置は既に壊れている。だから、転移しようとしても不発に終わるだけだ」

「そんな!?それでは、一族の者は……!」

「忘れたのか?俺の提案その2を」


 俺は動揺するアシュリーを宥めるように言った。


「あ……、そう言う事でしたか……」


 納得したアシュリーは、俺の前で土下座の体勢をとった。


「どうか、私の一族の者を災竜の被害から救ってください。お願いします」


 土下座しろとは言っていないのだが……。『姫巫女』って土下座が好きなのかな?


「分かった。任せてもらおう」


 俺は、動揺を隠しながら自信満々に見えるように答えた。


「続けてアシュリー、第3の提案だ。……折角だから、君も救われてみないか?」


 これが、最後の提案である。

第2章終盤と同じように、読者からは見えにくい仕込みがオープンされます。

次の章は間章として、サブキャラ関係の短編を連打して、本編執筆の時間稼ぎをします。イメージ的には書籍付属のSSみたいなモノです。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
力が欲しいか?を期待したのにぃ
「続けてアシュリー、第3の提案だ。……折角だから、君も救われてみないか?」 あぁ~~仁さん、すごく良い笑顔で言っているのでしょうね(*´▽`*)
[良い点] 本気でギレットって、仁に敵対して、無事に長く生きていたランキング堂々の2位じゃね? 1位は、不動の織原くんだけど 結構すごい事だよね、基本敵対者は殺すか、壊すか、潰すか、隷属させるかの仁を…
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