第194話 鬼人の勇者と稽古
次回予告の内容から変更になりました。
エイプリルフールのネタはあるのですが、今から書いて間に合うか次第です。多分、無理。
今更だが、『石化』という状態異常について少し語ろう。
石化と言うのは、読んで字のごとく身体が石になってしまう状態異常だ。
石化の特徴は次の通りだ。
・意識はない。
・仮死状態となる。
・HPは変動しない。
・自然回復しない。
・回復時、石の破損状態はそのまま。
仮死状態でHPが変動しないという事は、石化状態から死亡することは無いという事だ。
逆に言えば、どれだけ石像が破損していても、石化状態である以上は死ぬことがない。
厳密に言うと、全身が溶けたりして消失してしまえば死亡扱いになる。
自然回復しないので、魔法や薬によって石化を解除することになるが、石像が破損していた場合、そのままの形で復活することになる。
当然、糊でくっつけようが、元に戻る時にはバラバラになる。死ぬ。
また、破損した身体の一部だけ石化解除した場合、それが『欠損』で済まない致命的な部位だと、死亡することになる。
つまり、石化状態で生存不可能なレベルまで破損するという事は、良くて死亡。悪くて死ぬことも出来ない永劫の牢獄に囚われる事となる。
俺、マリア、ミオの3人は、崩れ落ちているアースとアイルに近づく。
「そんな……。そんな……」
「チクショウ……。遅かった……」
2人は絶望しきった表情で集落を眺めて呟いている。
石化の事を知っている者なら、この状況に救いがないという事が理解できてしまう。
「集落の状態を見るに、昨日今日の話じゃなさそうだな」
「はい。狩猟の痕跡と同じ程度の時間が経過していると思われます」
集落を見渡し、石化が最近の出来事ではないと判断した。
「もしかしたら、手紙が届いた時には、既にこの状態だったのかもしれないわね」
手紙を瓶詰で流しても、辿り着くまでには時間がかかったはずだ。
ミオの言う通り、手紙を受け取った時には既に手遅れだった可能性はある。
さて、この状況をどうしたものか……。
「アンタに……頼みがある……」
俺が考え込んでいると、アースが声をかけてきた。
顔を上げたアースは、絶望と覚悟が合わさった表情をしている。
「この集落の連中に、石化の解除魔法をかけてやってくれないか……」
それは、この集落の人達を死なせてやってくれと言う懇願だった。
「何てことを言うんです!彼女達を殺すつもりですか!?」
「他にしてやれることもねえだろうが!!!」
アイルが声を荒げると、アースも怒鳴り返した。
石化は一般的な状態異常ではないが、一般常識として石化し、致命的に破損した人を見かけた場合、可能であれば石化解除し、死なせてあげるのが礼儀とされている。
まあ、バラバラ石像を石化解除すると、完全無欠のグロ映像になるので、好んで行いたいという人はまず居ないが……。
「それは……。ですが……!」
アイルは納得できないようだが、反論することも出来なかった。
そのまま、アイルは黙り込んでしまった。
……さて、実は石化した人達を元に戻す事はそれほど難しい事ではない。
<無限収納>に石像の破片を入れて治せば良いだけだ。
組み立ても<無限収納>が勝手にやってくれるし、多少破片が欠けていたとしても、『リバイブ』の魔法で欠損回復をすれば問題ない。
問題は、異能関連の成果は基本的に秘匿するという点である。
代替手段があれば気にしないが、異能でしか出来ない事は関係者(主に奴隷)にしか見せない主義なのである。
簡単に言えば、おっさん2人の処遇について悩んでいる。
おっさん奴隷とか、誰得だしなぁ……。
余談だが、石化した人達は石化解除時に強制奴隷化する予定だ。
細かい話をする前に主導権を握っておいた方が、色々と面倒が少ないからね。
そんな事をつらつらと考えていると、俺達に接近する存在を察知した。
「仁様、お下がりください」
「マリア、殺すなよ」
「はい」
俺は接近者の相手をマリアに任せる事にした。
「がああああああああああ!!!」
森の奥から雄叫びを上げながら駆けてきたのは、1人の少女だった。
黒髪の中から2本のツノが見えているから、種族は鬼人だな。
年齢は10代中頃で引き締まった健康的な肉体だ。出るところはしっかり出ている。
問題は襤褸切れ一枚しか着ておらず、隙間から色々な物が見えている点と、左腕を欠損している点の2つだろうか。
それじゃあ、ステータスを見てみようか。
名前:アスカ
LV30
性別:女
年齢:12
種族:鬼人
称号:鬼人の勇者
スキル:
武術系
<剣術LV4>
魔法系
<光魔法LV4>
身体系
<身体強化LV4><HP自動回復LV4><MP自動回復LV4><覇気LV4>
その他
<勇者LV4><封印LV3><鬼札の剛腕LV->
以下、ステータスを見ての突っ込みどころです。
・何でこんな所に鬼人の勇者が居るの?
・12歳の見た目じゃないんだけど?
・何で<封印>スキルが中途半端に解除されているの?
・明らかにユニークっぽいスキルがあるんだけど?
とりあえず、これで人間、獣人、小人、エルフ、ドワーフ、鬼人とメジャーな種族が揃ったことになる。良かった良かった?
「村、近づくな!!!」
少女はカタコトで叫び、先頭に居たマリアに向かって飛び蹴りを放った。
マリアは最小限の動きで回避すると、すれ違いざまに少女の顎に掌底を入れた。
相手の突進力を活かす、見事なカウンターである。
「がうっ!?」
空中で体勢を崩し、着地も出来ないまま転がっていく少女。痛そう。
俺達はその隙におっさん2人を連れて離れる。
「がっ……。ぐっ……」
顎へのカウンターは相当に効いたようで、フラフラしている少女。
マリアはその場を動かず、少女の様子を見ている。
「マリアちゃんなら、今の一撃で意識を奪う事も出来たはずよね?」
ミオが呟くと、マリアが念話で返してきた。
《丁度良い機会ですので、彼女に少々稽古を付けようと思っています》
《え?ゴメン。意味が分からない》
マリアの発言に、ミオが困惑している。
《今の彼女は、本気で敵と戦おうとしています。これは、戦いの経験としては最上級のものです。上手く彼女を誘導して、技術を叩きこもうと思います》
《???》
ミオの困惑は深まるばかりだ。
《<勇者>のスキルを持つ彼女を、仁様が無視する事はないでしょう。つまり、彼女は仁様の配下に加わるという事です。それなら、早い段階から、強くなってもらって損はありません。貴重な実戦経験を、安全に積ませてあげられるのです。良い機会だと思いませんか?》
《一部、暴論がある気もするけど、言いたい事は分かったわ……》
マリアの説明に、ようやくミオも納得した。俺も納得した。
マリアの中で、少女は既に俺の配下に加わる事が決定しているようだ。
それより意外なのが、マリアが俺の護衛を後回しにした点だ。
今は代理の護衛であるセラも居ないので、タモさん1匹しか護衛が付いていない。
本当に俺に護衛が要るかどうかは別として、マリアが護衛を減らすとは思わなかった。
……違った。すぐに護衛タモさんが10匹追加されてきた。
一見分からないように、しかしガチガチに周囲が固められている。
少々過剰ではないだろうか?
《必要な事ですから、ご理解いただきたく思います》
今、念話していないんだけど……。
少し待っていると、ようやく回復してきた少女が、敵意に塗れた目でマリアを睨む。
あれだけ綺麗なカウンターを喰らって、敵意が消えていないのは立派だな。
「私、負けない……。敵、倒す……。ぅああああああ!!!」
少女は気合を入れる様に叫ぶと、自身のユニークスキルを発動した。
<鬼札の剛腕>
不可視の剛腕を生み出し、操作する事が出来る。
腕のない少女の左肩から、目に見えない巨大な腕が生えてきた。
目に見えないだけで、存在しない訳では無い。当然、その気配を察知することができる。
「喰らえ!」
少女はマリアを脅威と判断し、俺達を無視してマリアに向かって駆け出す。
そして、不可視の腕を振るってマリアを殴りつけようとする。
剛腕の名は伊達ではなく、まともに当たればマリアのHPもカケラは削れるだろう。
その後、すぐに<HP自動回復>でなかったことになるけど……。
もちろん、被害がない事と攻撃を受ける事は別の話である。
マリアは何も言わずに攻撃を避け、体勢を崩したところを足払いで転ばせる。
少女は攻撃の勢いそのままに転んだため、受け身も取れずに地面に叩きつけられた。
「ぐっ!!!」
大振りで直線的な攻撃は、『技』を持つ相手にはほとんど通じない。最低でも、相手に隙を作ってから撃つべきである。
「まだ……!」
少女はすぐさま立ち上がり、マリアに向けて剛腕で突きを放つ。
振りかぶった方が遠心力により威力が上がると考えがちだが、実際には直撃までの時間が伸び、軌道が読みやすくなり、体勢も崩れやすいと良いとこ無しなのである。
安定した構えから放つ、最短距離の突きに勝るものはそうそうない。
今の一瞬で学んだのは褒めても良いが、まだまだ考えが甘い。
攻撃をするという事に集中しすぎて、攻撃されるという事が全く意識できていない。
先程のカウンターが偶然だとでも思っていたのだろうか?
「え?」
少女は呆けた様な声を上げ、ゴン!という鈍い音が響く。
マリアが弾いた小石が少女の無防備な額に当たったのである。あれは痛い。
「がっ……!」
仰向けに倒れるが、辛うじて受け身を取りマリアを睨み付ける。
「まだまだ!」
少女は諦めずにもう一度、今度は警戒を含んだ突きを放つ。
-ゴン!-
残念、目の前しか警戒しないと、蹲っている間にマリアが上に投げた石が当たるよ。
「ぐぅ……」
見えない方向からの時間差攻撃は少し意地悪な気もする。
しかし、『戦闘中に相手から目を離さない』、もしくは、『眼だけに頼らず、気配の察知を怠らない』という基本を守るだけで、防げた攻撃であることも事実だ。
「今度こそ!!」
一向に諦めない少女は、懲りずに突きを繰り返す。
今度は石が当たってもマリアから目を離していないし、警戒の範囲も広がっている。
やはり、現地勇者の学習能力は素晴らしい。
尤も、勤勉な勇者に追いつくのは、簡単な事ではないけどな。
マリアは少女の突きを外側に避けた。
「あっ!?」
少女はその瞬間に自らの失敗を理解したようだ。
実は、<鬼札の剛腕>の『不可視』と言うのは、他者にだけ適用されるもので、本人にはその腕がしっかり見えているのだ。
つまり、巨大な腕によって、視界が遮られるという事でもある。
これは、マリアが自身も不可視の武器を使うからこそ知っている欠点だ。……神話級装備、訓練以外で使う機会の方が少ないけど。
「がはっ!!!」
自身の攻撃自体が死角を産むという事を理解していなかった代償は、マリアによるこめかみへの上段回し蹴りだった。
警告のような石の投擲ではなく、蹴りによる急所への一撃だ。堪らず少女は吹き飛び、一瞬だが意識を失っていた。
マリアがその場で待っていると、フラフラしながらも少女は立ち上がった。
ここまでズタボロにされても、少女の闘志は全く衰えていなかった。
その後も、マリアは何も言わずに少女の攻撃を捌き続けた。
一度の攻防で、マリアは必ず少女の悪い点を指摘するような反撃をする。
少女にも<HP自動回復>があるので、死ぬことは無い。
痛みで覚えさせるとは、マリアも中々にスパルタである。
少女に<格闘術>のスキルが無かったのも幸いした。
武術系スキルの基本は動作の効率化である。
もし、少女が<格闘術>を持っていた場合、最初から動作が効率化され、マリアの指摘も少なくなっていただろう。
しかし、それはスキルによって正解を引いているだけで、『何故』駄目なのかを理解している訳では無い。
極論、それさえ理解していれば、スキルが無くてもスキルと同じことが出来る。
しばらく経ち、少女の攻撃から隙が減ってきたところで、今度はマリアが積極的に攻撃を仕掛けるようになった。
残念ながら、攻撃の隙が減る事と、防御が上手くなることはイコールではない。
「くっ!つぅっ!?」
その証拠と言う訳では無いが、少女はマリアの攻撃を捌き切れず、何度も被弾している。
問題は少女の高い学習能力が、防御に適用され難いという点だろうか。
マリアのフェイントに悉く引っかかり、何度も攻撃を喰らっている。
一応、全く同じフェイントには引っかからないが、少しの応用で簡単に駄目になる。
明らかに防御に関する経験値が低すぎる。下地が無いと言う方が正しいだろうか?
もしかしたら、少女は今まで防御行動をほとんど取らなかったのかもしれない。
<鬼札の剛腕>の火力はかなりのモノだ。相手を圧倒する火力で、防御する必要が無かったとしたら、その可能性はある。
マリアが防御を仕込むのを、気長に待つしかないか。
「なあ、この戦いいつまで続くんだ?いや、戦いと言うよりは稽古か……」
気長に待つことを決めた瞬間、アースが今更な質問をしてきた。
既に始まってから結構な時間が経っているが、アースとアイルはずっと勇者2人の稽古に目を奪われていた。
冷静に見ていれば、最初の方の攻防でその事に気付いてもおかしくはなかった。
「相手は殺す気で来ていたみたいだが、マリアの方は稽古のつもりだろうな。いつまで続くかは知らん。少女の体力が尽きるまでじゃないか?見ていて飽きないから、しばらくはこのままで良いだろ?」
少女の成長は見ていて微笑ましい。
「明らかにこの村の関係者だから、出来れば話を聞きたいんだがなぁ……」
「稽古が終われば話も聞けるだろうから、そんなに焦るな」
「え?あれだけ敵意剥き出しで襲い掛かってきたのにですか?」
そうか、アイルはまだ気付いていないのか。
「見て分からないか?既に少女の眼からは敵意が消えているぞ」
「え?」
確かに、最初の方は敵意剥き出しで、話が通じる気はしなかった。
しかし、少女が攻撃を繰り返している終盤には、マリアの戦い方を見てその真意に気付き、冷静さを取り戻していたと思われる。
そして、真意に気付いた少女は、そこで戦いを止めず、そのまま真剣にマリアへの攻撃を続けた。
マリアを自身の上位者と認め、その技を学ぼうとしているのだ。
向上心のある女の子は嫌いじゃないよ。
それから数回マリアが攻撃した時点で、少女の動きが明らかに悪くなってきた。
「もうすぐ終わりそうだな」
「分かるのですか?」
「ああ、少女の体力が限界みたいだからな」
実は、体力が限界の時にしか学べない技術もある。
例えば、疲れた時の身体の動かし方は、疲れた時にしか身体が覚えてくれない。
ただ、それは今のような『言葉にしない稽古』では伝えきれないだろう。
「ここまでにしましょう」
マリアが久々に声を出した。
次の瞬間、マリアは一段階ギアを上げた。
辛うじて、マリアの攻撃を少し捌けるようになっていた少女は、急激な速度の変化について行けず、マリアの突き(<手加減>有)を顎に受けて吹っ飛んだ。
完全に意識を刈り取られており、仰向けで倒れている。
「仁様、お待たせしました」
「お疲れ様。どうだった?」
「未熟です。伝えた事は学びますが、それ以上を自分で考えて昇華するのが苦手のようです」
何事もなかったかの様に歩いてくるマリアに尋ねると、結構辛辣な評価が返ってきた。
『一を聞いて十を知る』のは、そんなに簡単な事じゃないんだけどな。
「ミオ、あの子を介抱してもらえるか?」
「りょーかい」
俺が頼むと、ミオは倒れた少女に駆け寄って介抱を始める。
最後の一撃で少女のHPはかなり減ってしまった。<HP自動回復>はあるが、それだけでは意識を取り戻すまで相当な時間がかかるだろう。
余談だが、<鬼札の剛腕>は少女の意識が無くなると消えた。
本当は、このスキルにはもっと発展形があるのだが、少女は『腕の代わり』としてしか使っていなかった。勿体ない。
少し待つと、少女が意識を取り戻した。
見知らぬ人間が大勢いてもよろしくないので、マリアとミオに対応を任せ、男たちは少し離れた場所で待機する。
当然、俺には声の聞こえる距離だ。
アースとアイルには声の聞こえない距離だ。
「大丈夫?話は出来る?」
「大丈夫。いきなり攻撃して、悪かった」
悪いと思ったことを謝罪できるのは、真っ当な人間の証である。
ただし、いきなり攻撃をしてくるのは、真っ当ではない人間の証である。
どっちだ?
「貴女の名前を教えてくれる?」
「私、アスカ。あなたは?」
「私はミオよ。よろしくね」
「マリアです。あちらに居るのは、左から仁様、アイル、アースです」
マリアが俺達を示して少女、改めアスカに紹介する。
「貴女はどうして私達に襲い掛かったの?」
「晴れた日にこの島に来た女、敵だった。また、敵だと思った」
嵐の日はこの島に漂流者が流れ着くことがある。しかし、晴れた日にこの島に上陸する事はバジリスクのせいで困難だ。
以前、晴れた日に何者かがこの島に来たのだろう。そして、そいつは敵だった。だから、俺達も敵だと思った、という事か。
「あなた達、何しにこの島に来た?」
「アースとアイルの家族がこの島に居るらしいのよ。だから、船でこの島に来たの」
「家族……。この島の人、皆、石になった……」
アスカの表情が明確に曇った。
「アスカのせいで、石になった……。私、強くなりたい……。皆の仇、とる」
それが、マリアとの戦いを続け、強さを求めた理由だったのだろう。
「皆が石になったのって何時の話?」
「ええと……。3……年前……くらい?」
つまり、アース達の手にした手紙も、3年以上前に書かれた物と言う事になる。
「その間、誰かと話とかした?」
「ううん」
「なるほど……」
道理で少女の話し方がカタコトだと思った。
12歳の少女は、9歳の時から3年間、一度も他人と話をしていなかったのだ。
それは、言葉を忘れかけても不自然ではない程の時間だ。
その後もミオの質問は続いた。
「食料とかはどうしていたの?」
「魔物、倒して食べた。木の実もある」
「この集落に住んでいないの?」
「石の欠片、見ているのが辛い。離れた所で寝てる」
「そのボロボロの服は?」
「集落のお姉さんの物。急に身体が大きくなって、服が着られなくなった。胸、邪魔……」
「羨ましい……」
アスカの生活について。
「集落にはどんな人たちが居たの?」
「全部で50人くらい。流れ着いた人の子孫が30人。流れ着いた人が20人くらい」
「貴女はどっちだったの?」
「流れ着いた人の子孫」
「瓶詰の手紙って知っている?」
「知っている。結構な数、投げた。あれが届いたの?」
「ええ、その手紙にあの2人の家族が生きているって書いてあったそうよ」
「流れ着いた人達、皆、手紙が届くこと、祈っていた」
集落に居た人達について。
「敵って誰が来たの?」
「綺麗な女の子。当時の私より、少し年上くらい」
「ああ、丁度マリアちゃんと同じくらいだったのかぁ……」
「そう。だから襲い掛かった。ごめん……」
「集落の人が石にされたのはどうして?」
「晴れた日、見知らぬ女の子を見つけて、私が追いかけた。気付かれて、襲われた。強い魔物に命令して、皆を石にした。そして、壊した……。許せない……」
村を襲った敵について。
「その腕はどうしたの?」
「魔物に石にされた。庇ってもらって、左腕だけで済んだ。でも、そのせいで、一番強かった人、石にされた」
「さっきの見えない腕は何?」
「魔物に襲われ、私以外は石になっていた。私も、腕を失い死にかけていた。でも、起きた時には、身体が前より動いた。気付いたら、あの腕、出せるようになった」
アルタさん、説明をお願いします。
A:勇者の<封印>は勇者が死ぬと消えます。仮死状態になり、そこから生還したことで、中途半端に<封印>が消えたのかもしれません。
それで、<勇者>関連のスキルとユニークスキル以外を覚えていないのか。
「あの3人も呼んでいい?貴女に酷い事はしないわ」
「分かった。大丈夫」
一通り話を聞いたところで、俺達も呼んでもらえた。
ミオがざっくりとした説明をアース、アイルに伝えた。
「なあ、嬢ちゃん、聞かせてくれ……」
アースが尋ねたのは、自身の家族の事だった。
幸か不幸か、アスカは聞いた特徴からアースの家族が誰か、分かってしまったようだ。
同じく、アイルの家族についても……。
「そうか、やっぱり、アイツらも石になっていたのか……」
「僕達が、もっと早くここに来ていれば……」
「うぅ……」
アスカに家族の最後を聞き、2人は泣き崩れた。
アスカもそんな2人を見て、思い出し泣きをする。
3人がある程度落ち着いた後で、アースが言い難そうに口を開いた。
「嬢ちゃんは石化について、詳しく知っているか?」
「詳しくない」
「だよな……」
そこから、アースは石化の特徴と、石化解除について説明をした。
今はまだ生きているけど、意識もないし、元に戻る事もない。石化を解除して、死なせてあげる事が優しさだと言う事を。
「嫌!皆まだ生きている!死んでほしくない!」
「でも、元に戻る事はねぇんだよ……。このままってのは、可哀想だろ?」
「嫌!嫌!絶対に嫌!!!」
聞き分けの無い子供の様になってしまったアスカ。
年齢と、精神の成長を考えれば、無理もないのかもしれない。その割に、身体の方は無駄に育っているが……。
そして、アスカは石化解除が出来るという俺に縋り付いてきた。
「何でもする!何でもするから、皆、助けて!」
よし!『何でもする』、頂きました。
弱みに付け込む系主人公。本領発揮。
<鬼札の剛腕>のネーミングは自画自賛しました。