第192話 祭り巡りとフリマ
のんびり回です。
弱めのイベントが多いので、タイトルに難儀しました。最終的に適当に決めました。
見事勝ち抜き戦10連勝を達成した俺には、大会運営から豪華賞品が贈られた。
「これ何だ?」
「協賛店の割引チケットです。祭典週間期間中、対象店舗の商品が全て20%OFFになります」
豪華……かなぁ……?
いや、参加無料のイベントで貰える賞品としては豪華と言えるか。
割引なら、利益は多少減るが、別途予算を割く必要が無いから色々と楽なんだよね。
「有難く使わせてもらう」
「いや、大盛り上がりでこちらとしても大満足です。是非、祭りを楽しんでいってください」
こうして、イベント会場を後にした俺は、外で待っていた5人と合流する。
「仁君、おめでとうございます……」
《おめでとー!》
「お疲れ様です。どうぞ、お飲み物になります」
「お、サンキュー。あ、これはミオが預かってくれ」
マリアから渡された飲み物を飲み、ミオに割引チケットを手渡す。
「何これ?おー!お祭りって色々と割高だから助かるわ」
「本当に助かりますわ」
割高な物を色々と食べる気満々のセラも喜ぶ。
ミオ曰く、お金はあるけど、節約できる部分では節約したいそうだ。主婦かな?
そして、そんな和気あいあいとした俺達に近づく二つの影……。
無駄に勿体ぶった言い方をしたが、ソルとルーナの2人である。
「貴様、我の部下として、我が国に来る気はないか?」
俺達の前に立ったソルが、いきなりそんな事を口にした。
喋り方で予想は付いていたが、どこぞの国のお偉いさんだったようだ。
「我が国?」
「うむ。我が名はソル・ヘラクレス。ここより東、ヘラクレス帝国の皇帝である」
お偉いさんはお偉いさんだが、皇帝だとは思わなかったよ。
試合も終わった事だし、折角だからステータスを覗いてみよう。
名前:ソル・ヘラクレス
LV201
性別:女
年齢:19
種族:人間
称号:超越者、ヘラクレス帝国皇帝
スキル:
<一子相伝LV-><影雄演舞LV-><超越LV10>
20歳未満でレベル200オーバーと言うのは珍しいな(ウチのパーティは除く)。
そして、当たり前の様に『超越者』の称号を持っている……。
ああ、スキルは多すぎてユニーク級以外を省略したよ。
魔法系、技能系は0個だけど、武術系、身体系は嫌になる程大量にあったから。
それも、軒並み高レベルと言うオマケ付きだ。
一応、強さの秘訣も理解し、納得した。
<一子相伝>
武術に関わるスキル、および所有者の知識を保持できる。名前に反して継承先は指定できず、所有者の死亡時にランダムに移動する。武術に関する知識を保持するが、記憶を保持する訳ではない。
<影雄演舞>
武器を浮かせて操作する事ができる。予め型を登録しておくことで、自由に再現することができる。型ではなく本人を登録することで、仮初めの自我を持った影として再現できる。ただし、影が攻撃を受けた場合、本人にも同じダメージが入る。
寄生……継承属性付きの<一子相伝>により、高レベルの武術系スキルを引き継ぎ、その技術を<影雄演舞>で余すところなく再現する。
相性の良いスキルによる見事なコンボである。
なお、<影雄演舞>は継承されるスキルに入っていないので、完全にソル限定の構成だ。
さて、色々と分かってスッキリしたところで、ソルのお誘いを丁重に断ろうか。
「悪いが、俺は誰かに仕える気はないんだ」
「そうであろうな。我も言ってみただけだ。貴様の様な強者が、皇帝と言う肩書きだけで首を垂れるとは思っておらん。ルーナよ」
「はい。どうぞこちらをお納めください」
呼ばれたルーナが懐から封筒を取り出し、俺に手渡してきた。
「これは?」
「ヘラクレス帝国への招待状です。ソル様は自身の認めた強者を国に招きます」
「我に仕えるかどうかは、我が国を見てから決めるが良い」
「日時の指定、同行者の制限などはございません。お越しの際に招待状をお見せ下さい」
ある種のフリーパスみたいな物か。
アルタ、後でヘラクレス帝国について教えてくれ。
A:はい。
「ルーナよ。武器の件も伝えよ」
「はい。ジン様、ソル様は武器の蒐集をしておられます」
ソルの戦い方を考えれば、むしろ集めていない方がおかしいとすら言える。
高レア度装備ならば、<影雄演舞>の負荷にも耐えられるし、高レア度装備特有の特殊能力があれば、更に戦略の幅が広がる。
ソルの本気は、模擬戦用の武器では到底発揮できないのだ。
「お売りになる予定の業物があれば、是非買い取らせていただきたく思います。今は手持ちが少ないので、帝国にお越しの際になりますが……」
余談だが、<影雄演舞>によって破壊された模擬戦用武器は、ルーナが弁償していた。
あれでも魔法の道具の武器だから、意外とお値段が高い。それを20個以上壊したら、お財布に大ダメージを受けるのは必至である。
「今のところ、売る予定はないな」
「はい。一応、お伝えだけさせていただきました。ソル様は、強者と武器に興味がある。そう覚えておいていただければ幸いです」
戦闘狂らしい興味の方向性ですね。
「また、ソル様は強者と武器を探す為の遠征に出る事があります。その為、ヘラクレス帝国に不在となる帰還がある事、ご承知おき下さい。大体、一月以内ですので、お待ちいただけると幸いです。本日もイズモ和国へ向かった帰りで、一月以内の遠征でした」
「強者はともかく、武器の方は魔剣鍛冶師が不在であったがな」
不満そうに言うソル。
イズモ和国の魔剣鍛冶師って、ウチの聖魔鍛冶師の事じゃありませんか?
A:はい。
確か、ミミは元々魔剣の鍛冶師として有名だったはずだ。
武器の蒐集者からしてみれば、見逃せない人材なのは間違いないだろう。
余計な事を言っても話が拗れるので、お口にチャックである。
「適当に立ち寄った余興で、貴様の様な強者を見つけられたことだけは僥倖であった。気が向いたら、我が国に来るが良い」
「それでは、失礼いたします」
こうして、伝えるだけ伝えた2人は去って行った。
俺が参加を希望していた模擬戦イベントを終えたので、今後は他の皆の希望に従ってお祭りを楽しむことにした。
まずはセラとドーラの希望。『大食い大会』である。
「さあ、残り時間もあとわずか!果たして、勝つのはセラ選手かドーラ選手か!?」
「聞けば、2人は旅の同行者と言う事です。食費が凄いことになりそうですね」
2人の司会がセラとドーラの一騎打ちを実況する。
当初の懸念通り、セラとドーラに勝てる選手はおらず、いつの間にか2人の一騎打ちになってしまった。
厳密に言えば他の選手もいるが、2人にペースを乱されたせいで、手が動いていない。
セラは元々大食いだったから問題はないが、ドーラはここ最近非常に良く食べる。
気になってアルタに聞いた所、ドーラの進化には多くのエネルギーが必要になる為、食べる量も自然と増えたと言う。それにしても多い気はするが……。
進化が終われば食欲も落ち着くそうなので、今はそれほど心配していない。
つまり、セラといい勝負が出来るのは今の内だけという事だ。
余談だが、ドーラも『兵糧玉』を食べ始めたので、食費は問題ない。
「一体、ドーラ選手のどこにあれだけ入るのか!?全く理解できません!」
「セラ選手は恐らく、摂取した栄養が胸に行っているのでしょう。見事です」
司会の1人がナチュラルにセクハラ発言している。
「それにしても、お二人ともテーブルの上が綺麗ですね。大食い大会だと、多かれ少なかれ汚れるものなのですが……。セラ選手は上品な食べ方ですので理解できますが、ドーラ選手のテーブルに落ちる前にキャッチするというのは、私も初めて見ました」
セクハラ司会者は真面目なコメントも出来るのか。
セラは仮にも元貴族令嬢と言う事で、食事のマナーは覚えている。
早食いだからと言って、汚らしい食べ方はしないし、アレで味わって食べているそうだ。
ドーラの方は綺麗に食べる習慣が無いからこぼすのは仕方ないが、食べ物を無駄にするのは嫌だという事で、食べカスが落ちる前にキャッチしている。
ある意味では2人共ハンデを背負っている訳だが、それでもその速さは圧倒的である。
「さあ!食べたホットドッグの数は、セラ選手が256個!ドーラ選手が254個!このままセラ選手が勝つのか!ドーラ選手が追い付くのか!後1分、最後の勝負です!」
「ホットドッグではなく、ウインナー単体の方が男性受けは良かったでしょうね。残念です」
真面目なコメントの後にセクハラ発言で落とす……。
このセクハラ司会者、どうにか出来ないかな?
あ、大会運営っぽい人がセクハラ司会者をどこかに連れて行った。
流石に度を越えていたのだろう。
その隙にドーラとセラの差はホットドッグ1つまで縮まっていた。
ドーラの食べる速度は最初の方と比べるとアップしている気がする。
しかし、ドーラの奮闘虚しく、追いつく前に無情にもタイムアップとなった。
「ここで試合終了!大食い大会、優勝はセラ選手です!」
「やりましたわ!」
《くやしー!》
見事優勝したセラには希少で高級な食材のセットが贈られ、惜しくも準優勝だったドーラには希少ではないが高級な食材のセットが贈られた。
見事に食材のセットばかりである。
「ただいま帰りましたわ」
《ただいまー!》
表彰式を終えた2人が戻ってきた。
食材セットは2つともセラが担いでいる。
「おう、お疲れー」
「お疲れ様です……。相変わらず、凄い食事量ですね……」
メンバーを大食い順に並べるとセラとドーラの大食い組、俺とマリアの普通組、さくらとミオの小食組の順になる。
さくらは年齢の割には小食だ。栄養不足と言う事もないようだが……。
「見ているだけでお腹いっぱいになりますよねー」
「はい……。昼食は少なめにしようと思います……」
「右に同じくです」
小食組は大食い大会を見ただけで食事量が減るらしい。
俺はむしろ、腹が減ってきたくらいなのだが……。
「2人はしっかりと楽しめたか?」
《まけてくやしー!でもおいしかったー!》
「私も楽しめましたわ。それにしても、最後は危なかったですわ。ドーラさんの食べる速度が上がりましたから」
「何か理由があるのか?」
それは俺も気になっていたので、ドーラに尋ねてみた。
《えっとね。いっぱい食べる食べかたと、はやく食べる食べかたがちがうってわかったの》
「なるほど、ついにドーラさんもその領域に入ったのですわね。そうですわ。時間ギリギリになって、余裕があるのならば、食べ方を切り替えた方が効率的ですわ。私は今回、一定のペースで食べる事を自ら枷にしていたので使いませんでしたが」
《つぎはもっとうまく食べるから、セラにもまけないよー!》
「そう簡単には負けませんわよ。本気の私には、他にも10以上の戦略がありますから」
「……………………」
いや、大食いバトル漫画みたいなやり取りをされても困るんだけど……。
「そうだ!賞品の食材セット見せて!」
「ええ、どうぞ」
ミオに促され、セラが食材セットを降ろして開ける。
「うんうん、中々に良い物が揃っているわね!」
「どれも高級食材のようですし、ミオさんに調理して頂きましょう」
《ミオー!おねがーい!》
「よし!ミオちゃんに任せなさい!」
ミオが張り切っているので、今日の夕食は豪勢になりそうだ。
協賛店の割引チケットもあるので、現地の食材には事欠かないだろう。
お次はさくらの希望であるフリーマーケットへと向かった。
「アルタから、探していた本が売られていると教えてもらいました……」
さくら曰く、1巻から6巻まであり、最終6巻だけ持っていない本が売っているそうだ。
続きが気になって仕方がないとの事。
「言ってくれればさくらの都合を優先したのに……。売り切れたらどうするんだ?」
「そうですわ。大食い大会はまだ機会があったのですわ」
俺の武闘大会もセラ達の大食い大会も、一度きりのイベントではない。
売り切れる可能性があるさくらの方を優先して問題なかった。
「大丈夫です……。その本が売られ始めたのは、料理大会が終わる頃でしたから……」
「それなら良いんだけど……。まだ、売れていないのか?」
A:売れていません。
フリーマーケットの会場はかなり広い公園だった。
参加者は思い思いの場所に商品を陳列している。
商品を見て回るのは後回しにして、さくらのお目当てのブツへと一直線で進む。
目的地には、カートに乗った大量の本が置いてあった。
さくらは迷わず一冊の本を手に取り、店主のおじさんに渡した。
「これ、下さい……」
「あいよ。1000ゴールドだな」
この世界、印刷技術を伝えた日本人が居るようで、本はそれなりに普及している。
しかし、普及し始めたのが比較的最近の為、それ以前の本は貴重なのである。
印刷はあるが、複製の手段はない。印刷用に起こし直すのも手間なので、ベストセラーでもなければ、一点物と言うのも珍しくは無いのだ。
これが一点物の希少本だったら、桁が2つ3つ上がってもおかしくはない。
無事に購入を終えたさくらが、安堵の息を漏らす。
「無事に買えました……。装丁も綺麗なので、本棚に置いても映えるんですよ……」
余談だが、屋敷の自室に本棚を置いているのはさくら、ミオ、マリアの3名。
さくらは物語中心、ミオはレシピ本、マリアは俺の元の世界の情報を書き記しているそうだ。内2名が買うのではなく、書く側というのも面白い。
「俺も知的さをアピールするために本棚でも用意するかな。もしくは眼鏡」
「眼鏡=知的って言うのも、随分と古いイメージよね。そもそもご主人様、知的なの?」
ミオに言われ、改めて考えてみる。
「……学校の成績は別に悪くないぞ。選択問題は全問正解だし」
「ご主人様に選択問題とか、相手が悪いとしか言えないわね。記述問題は?」
「それなりは取っていたと思う。……やっぱり、知的アピールは止めておこう」
そもそも、親友にガチのインテリが居たから、『知的』という単語のハードルが高いのだ。
俺は、俺の認める『知的』に達していない。大人しく諦めよう。
「マリア。本棚は用意しなくて良いからな」
「……はい」
マリアの歯切れが悪い。
やはり、俺が口にした瞬間に念話で準備を進めていたのだろう。
A:していました。
「あ、でもご主人様の眼鏡姿は見てみたいかも。さくら様もそう思いません?」
「はい……。少し見てみたいです……」
「……マリア、眼鏡を準備させてくれ。度は入れるなよ」
「はい!」
女子に眼鏡姿を見たいと言われたら、嫌とは言えないよな。
この後、アドバンス商会の主力商品に、眼鏡が追加されたのは別のお話である。
さくらの目的を達成したところで、このままフリーマーケットに留まる事にした。
順番的にはマリアの希望の場所に行くべきなのだが、こういう時にマリアは自己主張をしない。今回も希望は無いので、他の人の行きたい場所で良いと言っていた。
という訳で、丁度お昼時なので、適当に屋台で食べ物を買いながら適当に歩き回る。
「2人共、まだ食べられるんですね……」
大食い大会であれだけ食べたセラとドーラの2人は、普通に1人前以上の食べ物を持っている。さくら、ミオは先程言っていた通り、少な目だというのに……。
「時間制限が来ただけで、満腹になった訳ではないのですわ!」
《まだまだ入るー!》
「えぇ……」
さくらも引いているし、正直俺も引いている。
時間制ではなく、量で勝負が決まる場合、相当に長引いたのだろう。
「気になっていたんだけど、2人の胃袋に底ってないの?」
「最近は『兵糧玉』抜きだと、満腹になる事はほぼありませんわ」
《ドーラもー!》
「マジかー……」
驚きの回答にミオも引いている。
これで、引いていないのはマリアだけである。
マリア、俺に関係ない事では引いたり動揺したりする姿を見かけないから……。
「そう考えると、早い段階でセラを満腹に出来る『兵糧玉』の魔法を創ってもらったのは正解だったな」
「流石、仁様の慧眼とさくら様のお力です」
マリアがすかさずヨイショしてきた。
「ええ、本当に助かっていますわ。ただ、最近はご主人様の『兵糧玉』を食べる機会が減っているのが残念でなりませんわ」
昔はMPの多い俺がほぼ専属で作っていたが、今は配下のステータスにも十分な余裕がある為、『兵糧玉』を作る機会は相当に減った。
《ドーラも、ごしゅじんさまが作ったのがいちばんすきー!》
「え?『兵糧玉』って味があるのか?」
俺は『兵糧玉』を食べていないので、どんな味なのか知らない。
「もちろん、ありますわよ。美味くもなく、不味くもない不思議な味ですわね。ただ、魔力の提供者によって、効果が発揮された時に感じるものが違うのですわ。ご主人様のは……、安心するようなものを感じますわ」
《すきー!》
『兵糧玉』は魔力を栄養に変える魔法だ。
出来た物が、変換前の性質に影響されるのは考えられない事ではない。
「そう言われると味が気になるけど、自分の作った『兵糧玉』を食べても意味がないんだよな……」
実は、『兵糧玉』が効果を発揮するには、『他人の魔力で作った物』という条件が付く。
自分で作った物を食べても、栄養素にならないのである。
だからこそ、セラは自分の魔力で『兵糧玉』を作らない。
「今度、皆で『兵糧玉』の交換会でもしてみるか?輪になって、隣の人が作った『兵糧玉』を食べるんだ。もしくは、音楽を流して、止まった時に持っていたヤツを食べる」
「クリスマスのプレゼント交換かな?」
正直、俺もそれをイメージして言ったところがある。
「仁様、栄養素を低くするようにお気を付け下さい」
「ああ、それは分かっている」
マリアに言われるまでもない。
そのままの『兵糧玉』は一般人が食べるものではない。
確か、1粒で成人20人分の栄養素が取れたはずだ。
栄養素は任意で変えられるので、出来るだけ低くして作れば大丈夫だろう。
一番低くすれば、どの程度になるのかな?
A:一番低くして、小食の女性が1回の食事で摂取する程度です。さくらの食事1回分、と置き換えてもらって構いません。
それでも、軽く一食分にはなるのか。
「『兵糧玉』だけで一食を済ませるのはお勧めできないわね。栄養を摂るだけじゃなくて、噛むという行為自体にも意味があるから」
「私達も、『兵糧玉』だけで1食済ませる事はほとんどしませんわ。やはり、温かい食事が一番ですわ」
「そうだな。やるとしても1回限りにしよう」
『兵糧玉』はあくまでも不足分を補う物であり、主食にする物ではない。味が気になるなら、交換会は1回やるだけで良い。
この時の俺は気付いていなかった。
1回だけ、俺の作った『兵糧玉』を入手できる機会がある。それが意味する事を……。
後に、参加者が配下1000人以上となった、『兵糧玉』交換会は、こんな些細な会話から始まったのである。
軽く腹を満たしたところで、本格的にフリーマーケットを見て回る。
大抵の場合、俺がフリーマーケットなんかに行くと掘り出し物があるのだが、今日は不思議と全く見つからなかった。
仕方がないので、良く分からない置物を数点購入した。
多分、招き猫とか狸の置物の親戚みたいな奴。小さいので、適当に棚に飾れる。
「ご主人様、話に脈略がないわよ?」
「いや、折角来たんだし、何か買いたいだろ?掘り出し物があったら迷わず買うけど、無かったら適当な物を買うしかないだろ?」
「いくら何でも、適当過ぎない?本当に欲しかったの?」
「……………………」
本当に欲しかった訳では無いので、コメントは出来ない。
「すいません。同じものを下さい」
ミオと話をしている間に、マリアが同じものを購入していた。
「……マリアちゃんは、ある意味本気で欲しがっているわね。ご主人様とお揃いだから」
「そうだな……」
マリアの部屋の棚には、俺の棚と同じものが多く見られる。
マリアの部屋に入ると、一瞬自分の部屋と錯覚することもあるくらいだ。
先にも述べた本棚等、多少の違いはあるが、基本的なレイアウトが酷似している。
それにしても、ここまで掘り出し物が無いのも珍しいな……。
アルタ、何か知っているか?
A:ネタバレ防止との事でしたので、マスターが関わるか不明な掘り出し物をニノに回収させておきました。それなりに貴重な物も多く、確保するべきだと判断いたしました。
アルタの仕業だったのか……。
そりゃあ、<千里眼>を使って回収されたら、掘り出し物なんて残る訳が無いよな。
まさか、それが理由でニノが同行を断ったのか?もしそうなら、悪い事をしたな……。
A:いいえ。同行を断った後、ニノが仕事を要求してきたので頼みました。本当は、別の者を呼ぶ予定でした。
ニノ、仕事中毒になってない?大丈夫?
A:メイドの休暇は義務なので問題ありません。メイド総長のルセアが休むのも仕事の内、と言い聞かせています。
おお、ホワイト職場。
言い聞かせないと駄目な点と、結局は仕事である事に変わりがない点は気になるが……。
……アレ?よく考えたら、マリアが休んでいるところをあまり見かけないんだが……。
「仁様、私は<超休息>と<快眠快起>を併用し、短時間で効率的に休んでおりますので、全く問題はありません。それより、仁様の側に居られることの方が重要です」
おお、ブラック職場。
何気に初耳のユニーク級っぽいスキルまで使って休んでいる。
真の仕事中毒はマリアだったか……。
「休むことをスキル頼りにするのもどうかと思うが……」
「……長く休もうとすると、仁様の事が気になって逆に眠れないのです」
「重症だな……。無理はするなよ」
「はい」
マリアに関しては、色々な意味で好きにさせてやるのが良いのかもしれない。
フリーマーケットを満足するまで見て回り、優先参加権でイベントを荒らし回った後、俺達は島外れの海岸に来た。
予定では、明日の朝一で流れ島に向かうとの事なので、最後の下見の様なものだ。
そこには、俺が思っていたよりも立派な帆船があった。
周囲にある大量の船とサイズは同程度だが、基礎の造りや装備は全く違う。
A:ここにあるのは試作機であり、本命は別の場所で作成されていました。
通りで、今まで見かけなかったわけだ。
「明日の予定は問題なさそうか?」
「ん?ああ、アンタらか。見ての通り、問題はねえよ」
作業中の海の男に尋ねると、頼もしい答えが返ってきた。
作業中といっても準備は既に終わっており、点検を繰り返しているだけのようだ。
「おや、貴方達も来ていたのですね」
もう1人のインテリ眼鏡も俺達の存在に気付く。
ええと、名前は……アイルと言うそうだ。
「明日の予定に変更がないか、確認に来たんだ」
「貴方達のおかげで、無事に船も完成しました。予定よりも良い物が出来ましたが、一回の航海で廃棄する前提と言うのが少し勿体ないですね」
2人は流れ島から帰る事を考えていなかった。
当然、船にも帰るための機能は含まれていない。
「今更な話だな。何もかもを投げ捨ててでも、あの島に行くと決めたはずだろ?」
「勿論です。それだけ、良い物が出来たというただの自画自賛ですよ」
どんなに良い物が出来たとしても、2人にとっては手段でしかなく、目的ではない。
「なあ、事が済んだ後、要らなければその船を俺にくれないか?」
「はあ?何を言っているんだ?」
「家族を連れて戻れるとしても、その船はもう要らないんだろ?大破していなかったら、記念品として俺にくれ」
折角、良い出来の船なのだ。流れ島に放置するのは勿体ない。
だったら、俺がお持ち帰りした方が良いというものだ。
「俺は構わないが……、正気か?」
正気です。
「金銭的な支援もされていますし、僕も構いませんよ。どうやって持ち帰るつもりなのか、気になる点ではありますが……」
「それは見てのお楽しみだな」
こうして、俺は行きの船と、帰りに船を手に入れることになった。
ヘラクレス帝国には行きません(断言)。
次回は3/10日です。ただでさえ遅れているのに、9日しかないのは無理です。
恨み言は、2月だけ日にちを少なくした人に言ってください(謎の責任転嫁)。




