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第191話 祭典と模擬戦

割とよく見るスキルが登場します。

 流れ島行き域の船を確保した次の日、泊っている宿に祭典週間フェスティバルの運営が訪ねてきた。

 料理大会の件で、ミオとニノに話があるとの事。


「料理大会の総合優勝?私達が?」


 ミオが聞き返すと、運営の男は頷いた。


「はい。例年は店舗の部の優勝者がそのまま総合優勝するのですが、今年は一般の部の優勝者であるお二方が総合優勝となりました。審査員達の満場一致でした」

「でも、大会のポスターには総合優勝の記述はなかったわよね?」

「はい。担当者に確認した所、今まで一度も一般の部の優勝者で、総合優勝した方が居なかった為、ポスターへの記述はいつの間にか無くなっていたそうです」


 一般の部は前座だからね。

 ほぼ有り得ない事に割く労力は無駄だよね。


「それで、総合優勝するとどうなるの?」

「総合優勝者にはある権利が贈られるのですが、店舗の部である前提となっており、明らかに個人向けでは無いのです。それで、ご相談に参りました」


 一般の部の優勝者には、『トロフィー』と『ゴンドラツアーへの招待』が贈られた。

 店舗の部の優勝者には、『豪華なトロフィー』が贈られた。


 そして、総合優勝者には、『パジェル王国の王族へ料理を振る舞う権利』が与えられる。

 確かに、店舗にとっては箔をつける良い機会だと思うが、個人でそれだけの栄誉を得ても、あまり利益にはつながらない。

 そして、『ゴンドラツアーへの招待』は店舗の部と一般の部のバランスをとる為の賞品だという裏話もあるそうだ。


 まさか、こんな形で王族に関わることになろうとは……。


A:ネタバレ禁止と言う事で、発言を控えさせていただきました。


 まあ、アルタは知っていたよな。

 もちろん、ネタバレ禁止令を出したのは自分だから、文句を言うつもりはない。


《どうする?断る?》

《ああ、断ってくれ》

《らじゃ!》


 ミオからの念話に即答する。


 アルタ曰く、この国の王族、貴族は基本的に腐敗しており、『姫巫女』が逃げ出す様なトラブルを抱えている。

 貴族的に面倒なことになるのが目に見えているので、絶対に関わりたくない。


「悪いけど、その権利に何の利益もないから、お断りさせてもらうわ」

「そうですか。それは良かったです……」


 意外な事に、大会運営の男が見せたのは、安堵の表情だった。


「断られて、喜ぶの?」

「はい。実は、数日前から王侯貴族の方々が何やら忙しそうなのです。理由はお教えいただけませんでしたが、総合優勝の権利に関する相談も出来ないくらいでした」


 ……アルタ、ネタバレしても良いから教えてくれ。

 ミオ達に対する、貴族の強引な勧誘が無かった理由って、もしかしてコレのせいか?


A:はい。王族からのハイエルフ捜索令が出ました。結果、料理人の勧誘どころの話ではなくなりました。


 平時だったら強引な勧誘が来ていたという事だな。

 結果的に、両者にとってベストな状態になった訳だ。主に、勧誘側の被害と言う点で。


「店舗の部の方でしたら、日を改める調整も出来ますが、お二方は観光者との事ですので、調整が難航する事が予想されていたのです。辞退ならそれが一番穏便に済むので、こちらとしては願ったり叶ったりな訳です。もちろん、別の形で何か補填はさせていただきます」


 王侯貴族に面倒があった時に、普段とは違う例外的な処理をするのは大変だ。

 大会運営の方も穏便に済んで一安心と言ったところか。


「ニノも良いわよね?」

「もちろんです、はい」


 優勝者二名の合意が取れた事で、大会運営の男は帰って行った。


 なお、『別の形の補填』は、祭典週間フェスティバルへの優先参加権にしてもらった。

 折角のお祭りなのだから、料理大会以外も楽しみたい(ゴンドラはそれ以上に優先)。

 しかし、タイミング的に興味のあるイベントに参加できる保証がない。

 優先参加権があれば、大会運営の力でゴリ押しが出来るという訳だ。やったね!



 そして、俺達は祭典週間フェスティバルの会場へと再び足を踏み入れた。

 どこもかしこも、大いに盛り上がっている。


 え?船の建造は手伝わないのかって?

 素人が口や手を出す事じゃないだろ?それは、彼ら2人の仕事だ。


 俺に出来るのは、金と資材と魔法を出す事だけだ。

 専門の人手メイドも手配できたのだが、それは2人に断られた。

 建造は既に最終段階まで入っており、今更人が増えても意味がないそうだ。


 最終段階で金欠になったのが一番辛かったとのこと。


「さて、どのイベントに参加するか……」

「仁様、目玉イベントは1日1つずつだそうです」

「それ以外にも、今日だけで20以上のイベントがあるみたいですね……」


 俺が呟くと、パンフを持ったマリアとさくらが補足してくれた。

 マリアは、パンフを見つつ周囲を警戒するという、器用な事をしている。


「ミオちゃんは料理大会で大満足したので、皆にお任せします!」

「大食い大会があるので、是非出たいですわ」

《ドーラも出るー!》


 ミオはともかく、セラとドーラは通常運転だ。

 料理大会以外にも食べ物関係のイベントは多く、大食い大会は毎日開催されている。

 だが、はたして大食い大会にこの2人を出しても良いのか?

 勝てる相手、居るのか?


 なお、優先参加権はミオに付随しているので、ミオが居なければ権利が存在しなくなる。

 なので、いつもの6人で一緒に行動する事になっている。

 本当は功労者のニノも誘ったのだが、もう十分に満たされたからと言って辞退した。

 とても、満足そうな顔をしていた。


「最初はこれに参加しようか」


 6人が最初に向かったイベントがコチラ。


『最強の戦士は誰だ!10人勝ち抜きで豪華賞品プレゼント!』


 闘技場で行われるイベントで、当たってもダメージの無い模擬戦用の魔法の道具マジックアイテムを使った勝ち抜き戦だ。

 祭典週間フェスティバルでは血生臭いイベントは禁止だからな。


 ちなみに、優先参加権が要らないタイプのイベントです。

 列に並んだ者が、順番に戦っていき、連勝を競うだけである。


「がははー!6人目の相手は居ないのかー?どいつもこいつも雑魚ばかりだなー?」


 舞台の上で、5人抜きを達成したらしき大柄な男が挑発をしている。

 今は並んでいる人が居ない。今ならすぐに戦えそうだ。


 武器は大斧。<斧術>を持ち、<身体強化>もある純粋な戦士だ。

 魔物との戦いで負ったであろう傷もあり、単なる力自慢ではなく、実戦経験がある事がうかがえる。5人抜きも妥当なところだろう。


「じゃあ、楽しんでくる」

「ご武運をお祈りしています」

《いってらっしゃーい!》


 皆に見送られ、俺は受付に参加を伝えた。


「武器は何になさいますか?」

「彼と同じ、大斧で」


 察しの良い人なら、この時点で俺が何をしようとしているか理解できるだろう。


「さあ、次の挑戦者は、見た目に似合わぬ大斧使い、ジン選手だー!」


 舞台に上がり、実況から紹介を受ける。

 今回は身元を隠す理由が無いので、本名で登録することにしている。


「対するは、既に5連勝中の実力者!ドンゴ選手ー!」

「がははー!こんなヒョロい兄ちゃんなら楽勝だー!このまま10連勝してやるぞー!」


 実力はそれなりのようだが、見る目はあまりなさそうだ。


「それでは、試合開始!」

「くらえー!」


 試合開始と共に猛烈な突進を仕掛けてくるドンゴ選手。

 巨体による突進と、勢いを付けた大斧の振り下ろしは迫力満点だ。

 ダメージを受けないと分かっていても、街の力自慢程度では身がすくんでしまうだろう。


 俺は、大斧を持ったまま、その場でくるりと身体を捻る。

 垂直振り下ろしなので、軸をずらせば避けるのはそれほど難しくない。

 そのまま、回転の勢いに乗せて大斧を振り切れば……。


「がっ……!」


 大斧を振り下ろした体勢のドンゴ選手の横っ腹へと、俺の大斧が突き刺さる。


「しょ、勝負あり!ジン選手の勝ちー!」


-おおおぉぉぉ!!!-


 周囲の観客が沸いた。

 今回、意識したのは『魅せる戦い』だ。


 細身の男が、曲芸のような動きで大男を瞬殺するというのは、見ていて面白いだろう。

 加えて、同じ武器を使っているから、素人目にもどちらが強いか明らかになる。

 明らかに無駄な動き(回転)が含まれていたが、見世物ショーで披露する分には何の問題も無い。


 どちらかと言うと、ドンゴ選手の方に面白みが無さすぎた。

 見た限りだが、今までの試合は全部最初の突進による瞬殺だったから。

 ワンパターンで盛り上がりに欠けていたので、それを逆手に取って盛り上げたのだ。


 続く第二試合の相手は天元無双流の槍術使いムゲン選手。


「喰らえ!天元無双流奥義、乱月みだれづき!」

「乱月返し!」

「ば、馬鹿な!全ての突きを穂先で受けるだと!」


 第三試合のクーヤ選手はイズモ和国出身の老剣豪。


「拙者が長年の修行の末に編み出した飛ぶ斬撃、受けてみるがよい。はぁ!」

「『飛剣連斬』」

「うそーん」


 第四試合から第八試合までは面白みがないので省略。


 第九試合。エルフの弓使い、ピエリー選手。


「刃物の扱いは凄いみたいだけど、弓の撃ち合いはどうかしらね?」

「投擲!」

「矢を!そのまま投げるな!せめて弓を使え!」


 そして、最終第十試合。


「次の相手はこの『超……」

「退け」


 名乗りを上げかけていた大男を片手で押しのけ、20歳くらいの女性が舞台に上がった。

 その女性は白いボディースーツの上にコートの様なものを羽織っており、紫色の髪を頭の上で結っていた。

 女性らしい豊満な肉体がボディースーツで強調されており、有体に言ってエロい。

 服装も髪型も、明らかに場から浮いている。


「おい、姉ちゃん!勝手に割り込むな!次は俺の番だぞ!」

「ふむ、そう言うルールか。ならばその権利、我に献上すると良い。ルーナよ」

「はい」


 大男が文句を言うと、エロい女性は従者っぽい女性を呼んだ。


「お納めください」

「お、おい……、コレ……」


 従者っぽい女性から、金貨がぎっしり詰まった革袋を手渡され、大男の顔が引きつる。


「それで、彼と戦う権利を頂戴いたします」

「……いや、金はいらん。順番は譲る」


 大男は引きつった顔のまま権利の譲渡を承諾し、革袋を返した。

 大男の様子を見る限り、たかが試合の権利に、躊躇なく大金を払うような相手と関わりたくないのだろう。気持ちは分かる。出来れば、俺も関わりたくない。


「ふむ、良い心がけだ」

「ええと……。では、次の相手はこちらの女性と言う事でよろしいですか?」

「ああ……」


 女性が満足そうに言ったところで、司会が順番の変更を確認に来た。


「お名前を伺ってもよろしいですか?」

「我が名はソルだ」


 ルーナ太陽ソルか。分かり易い名前って良いよね。


「それで、ソル選手はどの武器を使用しますか?」

「全てだ。用意されている物を全て出すと良い」


 ソルが不思議な事を言いだした。

 余談だが、対戦相手のスキルは勝負が終わるまで見ない縛り中。


「武器を使い分けるという事ですか?20種類以上ありますが……」

「その認識で構わん。適当に床に置かせる。ルーナよ」

「はい」


 ソルの指示通り、ルーナが舞台の上に25種類の武器を置いた。


「貴様、面白い戦いをしておったが、これは真似できまい?」

「ああ、流石にそれは無理だ」


 こんな事をされては、『相手と同じ武器を使う』のは不可能だ。

 少なくとも、魔法が禁止の模擬戦では。


「一番慣れた武器を使うと良い」

「そうさせてもらうよ」


 俺は慣れ親しんだ片手剣を取った。

 刀もあるが、バランス的にこちらの方が慣れている物に近い。


 そして、俺達が舞台の上で相対する。


「我が武技を見るが良い」


 そう言ってソルが右手を上に掲げると、舞台の上に置かれた武器が宙に浮いた。

 どよめく観客席。


「ソル選手、このイベントでは魔法の使用は禁止です!」

「これは魔法ではない」


 司会が慌てて注意するが、ソルは魔法である事を否定する。

 魔力を感じないから、魔法じゃなさそうだな。ほぼ間違いなくスキルの力だ。


「しかし、このような事は魔法でなければ……」

「俺も魔法じゃないと思う。万が一魔法でも構わないから、このまま進めてくれないか?」

「……ジン選手がそう仰るのでしたらこの試合は良いです。でも、ソル選手が勝った場合、次の試合からは……」

「安心せよ。この者との戦いが終われば、勝敗如何によらず、我は去る」

「分かりました……」


 両者の合意が取れ、懸念点も無くなった以上、司会には試合を進める事しか出来ない。



 司会が舞台を離れ、舞台上には俺とソル、そして浮かんだ武器だけが残った。


「待ち受けるはここまで圧倒的9連勝中のジン選手!対するは謎の技で武器を浮かすソル選手!どのような試合になるのか全く予想できない!」


 どのような試合になるかは不明だが、何をしてくるかは何となく読める。


「それでは、試合開始!」


 試合開始の合図とともに、8の武器が俺へと襲い掛かってきた。


「ですよねー」

「我を楽しませて見せよ」


 大剣、小剣、手槍、長槍、手斧、大斧、槌、鎌が八方から迫る。

 25全部は同時に操れないのか、小手調べなのか……。今は関係ないか。


 俺はソルの方へ駆け出した。

 その場で全てを捌くより、移動しながら攻撃を絞った方が対処は容易だ。


 この時点で、有効打になりそうなのは小剣、手槍、手斧の3つ。

 恐らく、見やすい位置に小振りな武器を配置して、全体の視界を確保しているのだろう。

 この事から、見えない武器は操作できない可能性も示唆されるが、断言する根拠もないので戦術には組み込まない。


 俺は3つの武器を片手剣で弾き、ソルに肉薄する。


「はあっ!」

「むんっ!」


 ソルは俺の斬撃を、同じく手にした片手剣で受け止めた。

 腕力は俺の方に分があるので、ソルは一瞬顔をしかめた。


「素晴らしい一撃だ。それに、あの一瞬で最善手を見出すとは良い目をしておる」

「お褒めに預かり光栄だな」


 距離をとっても不利にしかならないので、出来ればこのまま接近戦で仕留めたい。

 まあ、そんな甘い相手ではないか。


 先程弾かれた小剣と手槍が俺の死角から迫ってきたので、最小限の動きで避ける。

 その避け方を予想していたソルの剣も迫る。忙しいなぁ……。


 更には弓と鞭による中・遠距離攻撃により、強制的に距離を取らされてしまった。

 今後は、一回接近するのも一苦労しそうだ。


 さて、ここまでの短い攻防の中でも分かった事がある。


 まず、ソルの操る武器はただ浮いていて、飛んでくるだけの単純な物ではない。

 その武器の軌道は、達人の振るう型の様な美しさを感じる。

 つまり、宙に浮いているのではなく、見えない達人が操っていると思うべきだ。

 逆に言えば、達人にも出来ない不自然な軌道となる可能性は低いという事でもある。


 そして、見えていない武器も操れるが、操作の精度は落ちる。

 先程、俺の死角、つまりソルからも死角になっていた場所から迫った武器は、直前の様な鋭さが無かった。

 態々精度を落とした攻撃をする意味もないので、これは間違いなさそうだ。


 つまり、25の浮く武器を操るソルを相手にすると言う事は、『目はソルにしか付いていない達人25人を相手にする』と言うのと同じと言える。

 いや、ソル自身も達人級の実力があるのだから、26の達人か……。


「死合に集中せよ!」


 そんな事を、迫る武器を捌きながら考えていたら、それを察したソルに怒られてしまった。

 余談だが、最初に武器を8つしか使わなかったのは小手調べだった模様。


 25の武器が見事な連携を以て俺を攻め立てる。

 同時に迫るのは10くらいだが、それぞれが隙を作らず、隙間を埋める様に迫る。


 今のところ有効打はないが、一旦距離を取られると中々に厳しい。


「どうした。その程度なのか?もう終わりなのか?」


 安い挑発だ。乗ろう。


「じゃあ、そろそろもう一度攻めさせてもらおうか」

「出来るのなら、やってみるが良い」


 俺は25の武器の捌き方を変えた。


 今までは可能な限り避け、回避不可能と判断したモノだけを受けたり弾いたりしていた。

 しかし、今は極力弾くように捌き始めた。


「むっ……」


 ソルにも心当たりがあるようだな。


 恐らく、ソルの持つスキルの効果は『再現』だ。

 常に全ての武器を操作しているのではなく、過去の技の軌道が再現されているのだろう。

 武器同士の連携で誤魔化しているが、1つの武器は多くても10種類くらいの軌道しかしてこなかったので、気付くのは難しい事ではなかった。


 そして、この半自動操縦にも欠点はある。

 技の軌道は再現できても、弾かれた後の動きは再現のしようがないという点だ。

 避けた武器はすぐに攻撃を再開するのに、弾いた武器は戻るのにタイムラグがあった。

 弾かれた武器は手動で戻す必要があるのかもしれない。


 つまり、多くの武器を弾かれると、その分攻撃に隙間が出来るという事だ。


 俺は体勢を低くし、ソルへの接近を試みる。


「やりおる……!」


 ソルが呻いた理由。

 それは、ソルが今操れる武器の多くが、下段への攻撃を特に苦手とする武器だからだ。


 武器と言うのは、基本的に下段の攻撃が苦手だ。

 武術においても、下段の攻撃は他の部位への攻撃に比べ、種類が少ない事が多い。


 理由はいくつもあるだろう。

 武器を持つ『手』が上半身にあり、下段への攻撃が安定しにくい。攻撃に失敗すれば、地面に武器を当ててしまうリスクがある。下半身には一撃で致命傷になる部位がない。


 いくら達人級の動きでも、下段への攻撃と言うだけで他の攻撃程の精度は期待できない。

 加えて、大斧、大剣、槌と言った大振りの武器しか使えない状態で、俺を追い詰めるのは不可能に近い。


 俺は低姿勢で体勢を崩したままの武器の下を走り抜ける。

 これも『見えない達人』が実在しないから出来る技だ。本来なら、人にぶつかる箇所を突っ切れるのである。


 そして再びの接近戦へ。

 やはり、ここまで接近すればこちらに有利だ。


「離れるが良い!」

「断る!」


 当然、再び距離を取ろうとするソル。

 25の武器が俺に迫る。これを待っていた。


 俺は接近する小剣を片手剣で受け流し、ソルへと誘導した。


「ちぃっ!」


 ソルは慌てて小剣を打ち払う。

 同じく、俺に迫る槍もソルへと受け流す。


「くっ!器用な真似を!」

「お褒めに預かり光栄だ」


 槍も弾き悪態をつくソル。

 先程と似たようなやり取りだが、ソルの方に余裕がない。


 武器を弾いている間に気付いたのだが、宙を浮く武器の攻撃は軽い。

 人は武器を打ち合う時、咄嗟に力加減を調節する。

 型の練習をする時とは、力の入れ方が違って当然なのだ。

 ソルの『見えない達人』の攻撃は型の練習だ。力加減が出来ていないから、簡単に弾いたり受け流せたり出来てしまう。


「ここまで我の技が見切られるか……。余興で本気を出すことになろうとは思わなんだ」


 瞬間、ソルの雰囲気が変わった。


 背後から迫る手槍を受け流そうとして失敗。辛うじて避ける。

 ……先程までの『軽さ』が消えた。


「ここからは我の本気だ。今までとは別物ゆえ、心して受けるが良い」


 訪れたのは先程までとは比べ物にならない連続攻撃だった。

 技の精度と速度が上がり、軌道のバリエーションが増え、武器の『軽さ』も消えている。


「こりゃキツイ!」


 今度は避けるのでギリギリだ。

 弾こうとしたり、受け流そうとすると体勢を崩してしまう。


 折角の対策もこの攻撃相手では使えそうにない。


 しかも、驚くべき事に、時間が経てば経つほど、攻撃の精度が上がっていく。

 ……だけど、何か違和感があるな。確かめてみるか。


 俺は、手槍による突きを隙が出来るのを覚悟で大きく弾いた。

 当然、その隙を狙って他の武器が襲い掛かってくる。

 俺が攻撃を回避するために動けるのは、『見えない手槍の達人』の方向だけだ。

 手槍を弾くとき、あえて其方に走り易いように隙を作っていた。隙が出るのは防げないが、隙の方向性くらいは選ぶ余地があったからな。


 俺は『見えない手槍の達人』に向けて走り出し、その勢いのまま突きを繰り出した。


-ドスッ!-


「ぐあぁっ!」


 明らかに何かに突き刺さった音がして、ソルが苦悶の叫びをあげた。


 ソルは膝をつき、全ての武器が地面に落ちる。

 見れば、ソルの口から血が流れている。


「……何故、気付けた?」

「確証はなかった。だが、武器が触れあった瞬間、武器の先に使い手の存在を感じた」


 本人ソルも言っていた通り、第一段階と第二段階では別物なのだろう。

 第一段階では『見えない達人』は実在せず、型だけが再現される。

 しかし、第二段階では『見えない達人』も見えないまま再現されていたのだ。


 使い手が再現されているのならば、攻撃が通じるかもしれない。

 そう思って『見えない達人』に攻撃を仕掛けた。


 まさか、ソルが血を吐くとは思っていなかったが……。


「それだけの根拠で、リスクの高い攻撃を仕掛けるか。貴様、相当に頭がおかしいな?」

「……似たような事はよく言われる。それより、何で血を吐いているんだ?」

「腹を突かれれば血を吐くのが道理だろう」


 第二段階の『見えない達人』への攻撃は、ソルへの攻撃に等しいのか?

 しかも、ダメージを与えない武器の効果も発動しないオマケ付きだ。


「中断させた事を謝罪しよう。では、続けようぞ」

「え?続けるのか?」

「まだ、どちらも死んでおらぬ」


 これ、模擬戦なんだけど……。


 血を吐いた事や死のリスクなんか気にも留めず、戦う事しか頭にない。

 久しぶりの戦闘狂バトルジャンキーだ。


「影への攻撃を躊躇うでないぞ?」


 いや、躊躇うなと言われても躊躇うよ?

 相手だけ死のリスクがある模擬戦とか、何のメリットもない。


「参る」


 ソルはそう言うと、落ちていた武器が再び浮き上がる。

 手槍だけは浮き上がらないという事は、有効打の入った『見えない達人』は消えるのか?


 再び攻撃が始まった。


 いくらソルが覚悟を決めているとはいえ、模擬戦で相手を殺すつもりはない。

 しかし、今のソルは模擬戦と言う事を忘れているし、『見えない達人』が1人2人倒されたところで、止まるようには見えない。

 それこそ、死ぬまで止まらない可能性すらある。


 俺は攻撃を避けながら、ソルを殺さずに『見えない達人』を攻略する方法を考える。

 <手加減>、<飛剣術>、<縮地法>……。色々と考えたが、今の・・俺に使える有効な対策は思いつかなかった。


 じゃあ、大人しく負けるのが良いか?

 うん、絶対に嫌だ。


 こうなると、俺に出来る事は限られてしまう。

 あまり気は進まないが仕方ない。


「悪い。次の攻撃で終わらせてもらう」

「まだ見せられる物があるなら、遠慮せずに見せるが良い」


 ここで、俺は一段階能力を上げた。


 知っての通り、俺達は普段、相当にステータスやスキルを制限して行動している。

 俺達の能力は、この世界で行動するには過剰な域に達しているからである。


 その制限の仕方には段階があり、大きく分けると、観光をするにはここまで、敵と戦うにはここまで、強敵と戦うにはここまで、といった具合だ。

 そして今、俺の能力は観光モードから敵戦闘モードにシフトした。


「馬鹿な!?」


 俺が全ての武器を走り抜けて一瞬で接近すると、ソルの顔が驚愕に染まった。

 それだけ、今までとは次元の違う速さだったという事だ。

 なお、<縮地法>は使っていない。


「ぐっ!?」


 俺の斬撃をギリギリで受けとめたソルが大きく吹っ飛ぶ。


「まだ終わらぬ!」


 続く俺の追撃を、ソルは24個の武器全てを使い防ぐ。

 既に攻撃に回す武器は1つも残っていない。むしろ、24個全て使って辛うじて防げているくらいだ。

 ちなみに、手に持った片手剣は先程の斬撃を受けた衝撃でまともに振れない模様。


「まさか、これほどの力を隠しておったとは!だが、我もこのまま負けるつもりは無い!」

「いや、ここまでだな」

「何?」


 俺が手を止めると、ビシッという音が周囲に響いた。

 その音は、ソルの使っていた武器から響いた物だった。


「不覚だ。我が武器の格を忘れるとは……。そうだ、これは模擬戦だったのだな」


 ソルの武器がバラバラと崩れていく。


 見ていて気付いたのだが、ソルのスキルは武器に負担を掛けていた。

 武器を激しく動かす程、負担も大きくなるという事も分かった。

 多分、秘宝級アーティファクトの強度があれば問題ないレベルの負担でしかない。

 しかし、強度の高くない模擬戦用の武器で、俺の連続攻撃を受け止めるほどに動かして、無事で済む負担ではなかったという事だ。


「我の負けだ」


 ソルが負けを宣言する頃には、全ての武器が粉々に砕け散っていた。


 折角、技を競い合っていたのに、最後はステータスによるゴリ押しをせざるを得なかった。

 ある意味、『いつもの』ではあるが、出来れば最後まで同じステータスで戦いたかった。


 俺もまだまだ未熟だな。

祭りのイベントで近年まれにみるガチバトルを繰り広げる主人公。


ステータス制限の大まかなイメージです。状況によって変わります。

観光用  :<超越>持ちの居ない国を亡ぼせる。

戦闘用  :最終試練、魔王の第一形態を倒せる。

強敵戦闘用:災竜を倒せる。


次回も10日後か20日後。ガンバリマス。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
未熟だと思うならステータス上げずに潔く負けなよ
[気になる点] 名前、もうちょっと凝ってほしいな [一言] 主人公の戦いにも面白みはないけどね。能力の使い方に工夫がないし基本ステータス差でごり押しだし
[一言] 主人公の戦い方にも面白みがないです 能力や武器、道具はたくさんあるのに使い方に工夫が感じられません
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