第190話 ゴンドラと流れ島
申し訳ありませんが、188話の内容を少し変更させていただきます。
まだ生まれていない<勇者>持ちの種族を鬼人からドワーフに変えます。
鬼人は他のタイミングで出します。
「やっぱ、水路から見る景色は、歩いて見る景色とは違って見えるな」
ラティス島の水路をゴンドラで進みながら呟く。
水路は通路より低く、風景の印象が若干変わる。俺はゴンドラから見る方が好みだ。
「ええ、水路から見る街並みが一番美しいと評判なのですよ。あちらが高名な建築家であるアンドリューさんがデザインしたホテルで、この辺りから見るのがお勧めです」
俺の呟きを拾ったのは案内人のアクアさん。
ゴンドラを漕ぎながら島の案内をしてくれる青髪の美人お姉さんだ。
若いながらも優秀な案内人で、街の事は何でも知っていると評判との事。
大会の賞品として『豪華ゴンドラツアー』と書かれていたが、ゴンドラ自体は殊更に豪華と言う訳では無い。
単純に、若くて美人の案内人(予約も多く、料金も高い)が付くから豪華と言う話である。確かにそれは豪華としか言いようがない。
「歩いて見た時も目に入ったけど、こっちから見る方が絵になるな」
アクアさんの示した建物を見て納得する。
派手ではないが品を感じるホテルで、歩いている時にも感嘆したものだ。
……満室で、とてもじゃないが泊まれなかったが。
水路から見ると、また違った味があり、一枚の絵画のように映る。
これが、これこそが観光の醍醐味だ。
島の有名どころをいくつか紹介され、少し寂れた水路に向かった。
最初に要望を聞かれ、賑やかな場所だけでなく、出来るだけ満遍なく案内して欲しいと頼んだからだ。
しばらく進むと、人気のない聖堂のような建物が目に入った。
「次はこの島で最も古い建物ですね。歴史的建造物と言う事で残っていますが、何に使っていたのか、正式な記録が残っていないそうです。一説によると、何かの儀式に使われていたとも言われています」
そう言うの、好物です。
……ただ、俺の直感が今は特別なイベントは無いと訴えてきている。
「一般の方は立ち入り禁止されているので、水路からでしか見る事は出来ないのですよ」
「ゴンドラツアーならではの権利と言う訳か。……ホント、大会で優勝してくれたミオとニノには感謝してるよ」
「えっへん!」
「光栄です、はい……」
俺が感謝の言葉を伝えると、ミオが胸を張り、ニノが恍惚としていた。
ニノは最初、俺達と同乗するのは恐れ多いと言っていたが、立役者の1人を置いていくのは道理ではないので、無理を言ってついて来てもらった。
……風景を見ないで、俺の方ばかり見ているのは少しどうかと思う。まあ、マリアも別の意味で俺の方……と言うか、俺の周囲を見回しているのだが……。
アクアさんは分かれ道の内、片方の道に一瞬だけ視線を向け、もう一方に向きを変えた。
今の視線に意味はあるのか?
「この先に何かあるのか?」
俺が尋ねると、アクアさんはほんの一瞬だけ考え、口を開いた。
「いえ、今日は何もありませんよ」
「何時なら、何が見られたんだ?」
この先に何かあるのだろう。ただ、『今日』は見えない。
嘘を付かずに誤魔化そうとしたのだろう。
「本当は、案内出来ないのに話すのは褒められた行為ではないのですけど……」
アクアさんはそう前置きをした。
その日の案内で見る事が出来ない名所の説明をするのは嫌だと言うプロ意識のようだ。
「ゴンドラに乗るのが2日後だったら、この先から丁度流れ島が見られたのです」
「流れ島?」
「ええ、このラティス島……いえ、パジェル王国の周辺を回遊している島の事です」
曰く、直径5km程の小さな島で、周期的にパジェル王国周辺海域を移動している。
流れ島の周辺は波が高く、上陸は非常に困難であり、無事に帰還した者は居ない。
山があり、そのどこかに未知の秘宝があると言う噂が流れている。
アクアさんの話を一通り聞き、引っかかる部分があった。
移動する島……。何か、前に聞いた覚えのあるような……。
《ご主人様、前にアルタの言っていた、島鯨じゃないかしら?》
《ソレだ!》
レガリア獣人国に向かう船旅の途中、アルタが見つけた巨大な魔物。
海面を移動する島のような鯨、島鯨である。
距離的に、前にアルタが発見したのとは別の奴だと思うけど……。
A:はい。別の個体です。
マップ禁止中の俺には分からないが、アルタが把握していると言う事は、マップ圏内には居るようだ。
ファンタジー生物の上にある秘境か……。
《ご主人様、当然行くのよね?》
《ああ、行く》
《お供いたします》
察しの良いミオの問いに即答した。
マリアは定型文なので確認すらしない。
《くじらにくー!》
《楽しみですわね。……あ、行くことがですわよ!肉を食べる事じゃありませんわよ!》
《セラちゃん、何で態々墓穴を掘ったんですか……?》
流石に島鯨を食べる予定はない。
なお、以前の流れでクジラ肉は食卓に並んだ。
この世界では、クジラ漁に制限などない。
美味かった。まる。
島鯨、いや、流れ島を目指すことを決め、早速情報収集をすることにした。
「『上陸が困難』と『無事に帰還した者が居ない』を分けたのには理由があるのか?」
「ええ、その二つは明確に意味が分かれています」
先程の話で気になった点をアクアさんに尋ねる。
「実際のところ、上陸した者は皆無では無いのです。運良く乗り入れた者もいれば、嵐に飲まれ、偶然流れ着いた者もいます。ですが、流れ島から帰還した者は明確に皆無なのです。運良く上陸できても、帰還でも運を発揮できる者は居ないのでしょう」
幸運の女神は二度微笑まない。
一方通行の秘境と言うのもよくある話だ。
「それでも、手紙が渡ってきた事はあります。瓶に詰められた手紙が、時々流れてくるのです。嵐に飲まれて流れ島に辿り着いた方からの手紙で、辛うじて生活できていると近況報告があるそうです」
帰還者が居ない事を知っている漂流者は、賭けに出る事を止め、流れ島で暮らすことを選んだそうだ。
「島の食べ物は豊富なんですの?」
セラは食べ物が豊富でないとすぐに行動不能になるからね。気になるよね。
「はい。辿り着いた方の中には元冒険者もおり、島内にいる魔物を狩れるそうです。食べられる植物も多く、食生活には不自由していないと聞きました」
「元冒険者なら、その辺りは強そうですわね」
俺達は例外として、普通の冒険者はサバイバル知識がある程度豊富なはずだ。
最低限、食べていくには困らないのだろう。
それはそれとして、島鯨の上にそこまでの生態系が存在している事に驚きを隠せない。
鯨の上に植物が生えているって何事だよ。
「色々と危険な島ではありますが、遠くから眺める分には素敵な島ですし、良い思い出になるのです。……だから、2日後の予約は本当の本当に一杯なのです」
少し遠い目をするアクアさん。スケジュールがヤバいのだろう。
そして、これがゴンドラ最低一週間待ちの真相だったのか。
「国は動かないの?国内にある未開の島なんて、調査対象になりそうなものだけど?」
「国としては一貫して放置の姿勢を見せていますね。過去、一度たりとも調査したことが無いそうです」
ミオの質問にも即答するアクアさん。
本当に博識である。
「国は何か知っているのかしら?行くことは禁止されていないの?」
「ええ、向かうこと自体は禁止されていません。ただ、危険性を知っている地元民は行こうとしません。冒険者の方が、財宝目当てで向かって行方不明になる事はあります」
「行方不明になるオチまで付くのね……」
「帰ってくることもありますが……」
「良いわ。聞かないから」
アクアさんは生きて帰るとは一言も言っていない。
「冒険者達は船をどうやって手配しているんだ?」
冒険者が船を持っているとは思えないので尋ねてみた。
「……恥ずかしい話ですが、流れ島へ行くための船を貸し出している店があるのです。料金は高いのですが、島に行って帰って来られたら船が壊れていても料金を9割返すと言って、冒険者を煽っているのです」
なるほど、生きて戻るつもりの冒険者にとって、貸出料が高くても、生還すれば返金されるとなれば、十分に採算が取れる計算になるのか。
《ご主人様、どうやって流れ島に向かうつもりなの?》
《もちろん、船で行くに決まっているだろ?》
ミオが念話で質問してきたので答える。
《だよねー》
《飛んで行った方が確実じゃないですか……?》
《態々、危険な船で行くんですの?》
納得したのはミオだけで、さくらとセラが常識的な意見を出してきた。
言いたい事は分かる、しかし……。
《それは風情が無いだろう。折角の未知の島だぞ。空からこんにちはじゃあ面白くない。少なくとも、一回は海路で行かないと……》
《分かる》
《意味が分かりませんわ》
《私もです……》
同じく、理解してくれたのはミオだけだった。
ドーラ?俺の膝の上でお昼寝し始めたよ。
マリア?肯定はしてくれるけど、理解はしてくれないよ。
《そう言えば、ご主人様が危なそうなことをするのに、マリアちゃんが平気そうな顔をしているわね。熱でもあるの?》
《何気に失礼な事を言っていますわね……》
相変わらず、ミオはよく見ているな。
ミオの言い分が失礼なのは置いておいて、マリアが落ち着いた表情なのは事実だ。
俺はマリアを見て頷いた。
《実は、仁様にお願いして、私はマップの確認を許していただいているのです》
《……考えてみれば、マップ禁止なんてマリアちゃんが許容できる訳ないわよね》
ミオの言う通り、俺の護衛であるマリアにとって、マップ禁止は許容範囲を超えていた。
俺がマップ禁止を言い渡した直後、マリアから懇願があったのだ。
《マリアさんは仕方ないですわね》
《そうですね……》
セラとさくらも納得して頷いた。
《その代わり、ネタバレは禁止したし、俺の行動に対する意見も控えてもらうようにした。表情にも出さないように言ってある。マリアに出来るのは、心の準備だけだ》
《元々、マリアちゃんが意見を出す事が少ないから、気付きませんでした……》
実は、マップ禁止してからマリアは俺の側を一時も離れていなかったりする。
表情には出さないが、警戒心はMAXである。
《それでご主人様、船はどうするの?アクアさんの言っていたお店で借りるの?》
《いや、出来ればそこは使いたくない。縁起が悪いし、胸糞も悪いから》
冒険をあざ笑うかのような商売は嫌いだ。
何か、他の手段があれば良いのだけれど……。
「あっ、そう言えば、一点修正しておかなければならない事がありました」
「?」
アクアさんが思い出したように言う。
「先程、地元民は流れ島に行かないと言いましたが、正確ではありませんでした。1人だけ……今は2人だけ、この島にも流れ島に行こうとする人達が居ました」
「詳しく、聞かせて欲しい」
アクアさんのナイスアシスト。
これは、便乗のチャンスではないだろうか?
アクアさんの漕ぐゴンドラと名所を堪能した後、俺達は島の外れにある海岸を訪れた。
「結構歩いたわね」
「ここまで来ると人気も無くなりますね……」
「2日後は人が増えるらしいですわ。島鯨が一番近くから見えますから」
ここは、島鯨がラティス島に接近した時、最も距離が近くなる場所だ。
当然、2日後には人で溢れかえる。
「あの小屋だな」
俺は聞いていた特徴と一致する小屋を見て呟いた。
《おふねがいっぱいー!》
「ざっと50隻はありますわね」
小屋の近くには様々な形の船が並んでおり、作り手の努力の跡が見て取れる。
「……ご主人様、全力で支援するのよね?」
「ああ。今のところその予定だ」
ここに来たのは、アクアさんから聞いた、島鯨に向かおうという人達が居るからだ。
彼らは、家族が島鯨に取り残されており、何とか救出しようとしていると言う。
これはもう、便乗するしかあるまい。
俺達が小屋に近づくと、小屋の扉が開き、2人の男性が出てきた。
1人は50代くらいの如何にも海の男と言った様子で、もう1人は白衣眼鏡のインテリ系30代男性だ。
「クソッ!もう後2日しかないのに、ここに来て資金が尽きるか!」
「今まで、随分と試作を重ねてきましたからね。その費用は馬鹿になりませんよ。作成中の船の費用、何とか都合を付けられると良いのですが……」
ご説明、ありがとうございます。
「ん?何だお前らは、見ない顔だな」
「観光客ですか?流れ島が来るのは2日後ですよ」
俺達に気付いた2人が声をかけてきた。
悪いね。流れ島を見たいんじゃなくて、行きたいんだよ。
「いや、用があるのはアンタら2人だ」
「僕達に用ですか?」
「アンタら、2日後に流れ島に行くつもりなんだよな?俺達も同行させてもらえないか?」
俺がそう言うと、2人の表情が目に見えて厳しくなった。
「馬鹿な事言ってんじゃねぇぞ!」
「アースさん、落ち着いてください」
アースと呼ばれた海の男が怒鳴ると、インテリ眼鏡がそれを宥めた。
しかし、インテリ眼鏡の表情も同様に険しいままだ。
「君達、誰から僕達の事を聞いたかは知らないですが、これは遊びじゃありません。確かに、僕達は2日後、流れ島に向けて船を出します。だけど、それは僕達が流れ島に辿り着いた家族の元へ向かうためです。他の誰かを流れ島に連れて行くためじゃありません」
そこにあるのは、はっきりとした拒絶だった。
……まあ、当然と言えば当然だよな。
いきなり、こんな事を言われて、はいそうですかと言える訳が無い。
しかし、交渉と言うのは、断られてからが本番だと浅井が言っていた。
「資金がないんだよな?俺なら援助できるぞ?」
交渉カード三種の神器の1つ、財力を切った。
なお、他の2つは権力と武力だ。
「ぐっ……。さっきの話を聞かれていたか……」
アースが悔しそうに顔を歪ませる。
「資金援助ですか。本当なら助かりますが、船を1隻作るというのはそれほど安くありませんよ。失礼ですが、それ程の財力があるようには見えないのですが……」
この世界の船は魔法の道具ありきの造りになっている。
魔法の道具により風を起こしたり、スクリューを回したり、水の上を滑るように進むなど、様々な方法で高性能化されている。
余談だが、『クイーン・サクヤ号』には10種類、100個以上の動力用魔法の道具が使われていると聞いた。
当然、船用の魔法の道具は安くない。
船自体の材料費も含め、1隻作るのも結構な出費になるはずだ。
この場にある船を作るのに、どれだけの資金が必要だったかは想像もできない。
余談だが、『クイーン・サクヤ号』を建造しようとすると、小国の国家予算並みの金額が必要になると聞いた。魔法の道具も材料も内輪で用意したので、実際の建造費との間には大きな乖離があるらしいが……。
「これで足りるか?足りなければ、まだまだあるぞ」
俺はそう言うと、アイテムボックス(偽装用)から金の延べ棒を数本放り投げた。
金の延べ棒が地面に落ちる音を聞き、俺の言葉が本気だと理解した2人が喉を鳴らす。
ちなみに、金の延べ棒は俺の個人資産である。
現金を使う機会が少ないから、冗談で資産を金で保有したいと言ったら、用意された物だ。
知ってはいたが、奴隷達の前で気軽に冗談を言うと、高確率で実現するので注意が必要だ。
2人が絶句していると、ミオから念話が入った。
《何という成金ムーブ》
《確かに、ちょっとやり過ぎた感はある》
真面目に交渉するつもりだったのに、気付いたら成金の見本のような行動をしていた。
こうなれば、このまま押し切ろう。
「それとも、欲しいのは資材か?」
そう言って、俺はアイテムボックス(偽装用)から希少な木材を取り出した。
流石にこれは献上品だ。豪華客船(クイーン・サクヤ号)を作った資材の余りらしい。
「あるいは人手か?1時間で50人くらいなら集められるぞ?」
嘘です。5分で1000人以上集められます。
「「……………………」」
そろそろ、何か言って欲しいんだけど……。
「……何が、目的だ?」
「最初から言っているだろ?俺達の目的は、流れ島に船で行くことだ」
ようやく口を開いたアースの問いに答える。
「流れ島にあるという、財宝が欲しいのですか?」
「あー、それはそれで興味があるが、一番の目的は観光だな」
「お前、正気か?」
アースが本気で不思議そうな顔をした。
「ああ、正気だし、本気だ」
「……どうやら、彼は本気のようですね」
「そりゃあ、見れば分かるが……」
俺の目的を理解してもらえたようだが、2人の顔色は優れない。
「正直、支援があるのは有り難いですし、その代わりに貴方を連れて行くこと自体は可能です。ただ、2つ問題点があります」
「それは、金、物資、人手で解決できないタイプの問題か?」
その3つがあれば、大抵の事は何とかなるはずだが……。
「はい。それとは別の、根本的な問題です」
「聞かせてくれ」
俺が促すと、インテリ眼鏡が頷いた。
「……そもそも、私達は流れ島に行く事は考えていますが、帰る事はほぼ考えていません」
「じゃあ、何をしに流れ島に行くんだ?家族が流れ島に居るんだよな?」
「だから、家族の元に行くのが目的です。そこに家族が居るのなら、流れ島から帰る必要はありません。よしんば、帰る方法が見つかったとしても、優先すべきは家族なので、貴方達を帰せる保証はありません」
……ああ、なるほど。
『家族を連れ帰る』ではなく、『家族の元に行く』が目的だったのか。
俺の目的が観光なら、永住する気の彼等とは根本的な部分で差が出るよな。
「それは気にしなくて良い。俺には、自力で帰る方法があるからな」
『ポータル』、『ワープ』、騎竜、不死者の翼、風災竜の力、精霊化……パッと思いついただけでこれだけある。多分、よく考えれば他にもあるだろう。
「そんな事が出来るのですか……?もしや、何かの魔法の道具が?」
「そんなモンがあるなら、最初からそれを使って行けば良いんじゃねえか?」
おっと、アースが触れてはいけない部分に触れてきたぞ。
「帰りしか使えないんだ。行きでは使えない」
俺に使う気が無いから、『使えない』。
嘘ではありません。
「……それは、私達の家族を連れ帰るのにも使えますか?」
「!?」
鋭いインテリ眼鏡。アースも遅れて気付いた。
もちろん、そのくらいのアフターサービスは問題ではない。
「ああ、使える。どうだ?俺を連れて行く気になったか?」
「……貴方が言っている事が本当なら、是非とも連れて行きたいですね。ちなみに、もう1つの問題は、船のサイズ的に連れていけるのは2~3人と言う点です」
横を見ると、マリアが挙手をしていた。
まあ、マリアは仕方ないよね。
「後1人、立候補は居るか?」
「はい!」
《はーい!》
ミオとドーラが挙手をした。
「2人はどうだ?」
俺が尋ねると、さくらとセラは首を横に振った。
「行きたい人が居るのなら、その人が優先で良いです……」
「私も同じですわ。こちらでお待ちしていますわね」
そして、ミオとドーラの決戦が始まった。
「勝った!」
《まけたー……》
激しい戦いに勝利したのはミオ。
ドーラを撫でて慰める。
「良し、連れて行くメンバーが決まったぞ。俺を入れて3人だが、小柄だから平気だろ?」
「ええ、問題はありませんが……」
「お前、正気か?」
再びアースが俺の正気を疑って来た。
確かに、10歳前後の少女2人を連れて、死ぬかもしれない船旅とか、正気を疑われても仕方がないかもしれない。
「マリア、彼と腕相撲をしろ」
俺は筋骨隆々のアースを示し、マリアに命じる。
「はい、承知いたしました」
それから2分後。
「なるほど、見た目通りってワケじゃないんだな。いてて……」
腕をダランとさせたアースが納得したように言う。
論より証拠って、いい言葉だよね。
「アースさん、大丈夫ですか?凄い音がしましたけど……」
「正直、駄目かもしれん。完全に感覚が無くなってやがる」
「<回復魔法>は必要か?」
「悪いが、頼む。2日後の航海に差し支える」
思った以上に重傷だったようで、アースは躊躇なく頷いた。
骨は折れていないようなので、ササっと『ヒール』で完治させた。
「魔法も使えるのか。……<回復魔法>以外には何が使える?」
「何でも使える」
少なくとも、一般に認知されている魔法は全て使える。
「何でもとは大きく出ましたね……。<風魔法>は使えますか?」
「もちろん使える」
俺は<無詠唱>で<風魔法>を発動させ、突風を起こした。
なお、風災竜の力を使えば、<風魔法>以上の事も出来る。
使う機会はまずないと思うが……。
「これなら、計画を大幅に修正できるんじゃないか?」
「ええ、成功確率を大きく上げられそうです」
2人が興奮したように言う。
当然の事ではあるが、2人の計画は2人で行えることに限定されている。
逆に言えば、俺達が加わったことにより、計画に修正が入るのも当然だ。
「僕達の計画では、荒波を越えて流れ島に辿り着く為に、帆船を<風魔法>で加速させるつもりです。元々は僕の<風魔法>を使用する予定だったのですが、明らかに貴方の方が強力です。どうか、僕の代わりに<風魔法>を使って頂けませんか?」
「ああ、それくらいお安い御用だ。俺からの支援の中には、俺の能力を使う事も含まれているからな」
最低限、『船で行く』という条件を満たしていれば、協力は惜しまない。
「なら、悪いが遠慮なく支援してもらうぞ?」
「すいませんが、よろしくお願いします」
「ああ、大船に乗ったつもりでいてくれ。後悔はさせないからな」
これは、流れ島への航海を『大船』と『後悔』で掛けた、高度な洒落である。
「「「「「……………………」」」」」
うん。反応はイマイチ!
こうして、俺達は無事に流れ島に行くための手段を確保することに成功した。
さて、鬼人の勇者はどこに居るのでしょうか?
多分、また20日後です。申し訳ない。