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第188話 勇者発見と追加捜索

30日の更新は難しいかもしれません。

期待しないでお待ちください。

 ゴンドラツアーへの参加に失敗した俺達は、ラティス島の都市部を歩いて回る事にした。


「ほら、ご主人様、そんなに落ち込まないで。歩いて見て回っても、良い街だと思うわよ?」


 ミオの言う通り、歩いて見ても楽しめるのは間違いがない。

 でも、それは1番の楽しみ方では無いのだ。


「一応、予約はしたのですわよね?」

「ああ、だけど最低でも一週間待ちだって言うからな……」


 丁度、観光シーズンとぶつかっているのが悪かったらしい。

 俺にしては、非常に珍しい事だ。


「……いや、むしろ何かあると考えた方が自然か。幸い、厄ネタは既に見えているし」

「それ、『幸い』かなぁ……」


 ミオが不思議そうに首をかしげるのを無視して考える。


 『運が悪かった』と言うよりは、『これでも最善だった』の方が有り得る。

 厄ネタと言うのは、もちろん『姫巫女』の事である。

 『姫巫女』がサバイバルをすると言う、異常事態は既に発生しているのだ。


「この街……国、もしかして滅びるのか?」

「仁君、怖い事を言わないで下さい……」

「でも、アレが復活したら一発だろ?」


 アレとは、もちろん災竜の事である。


「それは……、否定できませんけど……」


 さくらも分かっているだろう、『水災竜・タイダルウェイブ』の脅威は……。

 一応言っておくと、『姫巫女』であるアシュリーの固有スキルが<流水の思念>だった時点で、『水災竜』である事はほぼ確定である。


 じゃあ、少し早い気もするが答え合わせだ。

 アルタ、俺の予想は合っているのか?


A:はい。全てマスターの想像通りです。マップを見ないとの事なので、詳細は省きますが、マスターが動かなければ、遅くとも一月後には災竜が復活してパジェル王国が滅びます。


 ……一か月で滅ぶのか。

 偶然だろうけど、<勇者>を見つける期限と同じくらいだな。


「当たって欲しくない事の方が当たりって訳ね……」


 他のメンバーにも情報が共有されているようで、ミオが嫌そうに言った。


「それでご主人様。アレの復活、止めるの?あるいは、復活前に叩くの?」

「状況次第だな。もちろん、復活したら倒す事は確実だ」

《ぶったおせー!》


 災竜と言うのは復活直後から被害を周囲に撒き散らす。

 復活したら、とにかくすぐに倒す事が重要となる。そして、俺にはその力がある。


 しかし、復活前に行動しようとすると、面倒な事が非常に多くなる。

 俺には災竜に対する責任なんて無いのだから、そんな面倒な事をする義務も無い。

 俺が動くとすれば、面倒と引き換えにでもするべき事がある場合だけだ。


 アルタ、俺が復活前に行動するような理由、あるのか?


A:いいえ、ありません。むしろ、復活を推奨する可能性があります。


 え、何?パジェル王国って、俺が滅べば良いと思っちゃうような国だったの?


A:はい。国の上層部。貴族や王族の多くが腐敗しています。


 あー……。俺の一番嫌いなパターンだ。

 もしかして、この島も同じなのか?


A:影響は0ではありませんが、この島はマスターの許容圏内だと思われます。


 それを聞いて安心した。


「分かった。この島だけは守ろう」


 まだ観光も終わっていないのだ。

 今回は諦めるが、せめてゴンドラに乗るまでは無事でいて欲しい。


「え?他の街は良いの?」

「良いとは言わないけど、俺にも出来ない事やしたくない事はある」


 災竜の復活後、何処にも被害を出さないなんて言うのは困難を極める。

 俺に腐敗した王侯貴族を守るために頑張れと?

 嫌だよ。お前らが勝手に頑張れよ。


 ……と言う訳で、基本的にこの国の危機に対してはノーアクションで行くことにした。

 何らかの理由で関わることになったら、その時に考えれば良いよな。



 さて、俺達はどうでもいい話をしながらラティス島を歩き回っていた訳だが、目的地も無く歩いていた訳ではない。

 アルタの案内で、ある店に向かっていたのである。


 それがコチラ。


 奴隷商。


 はい。皆大好き奴隷商です。

 ラティス島は観光地だが、そんな事はお構いなしに奴隷商は存在するのであった。


 <勇者>を探すのなら、奴隷商を外す事は出来ない。

 何と言っても、現時点で4人中2人が奴隷商から購入した奴隷なのだから。

 なお、人間の勇者であるシンシアは、孤児だったのを奴隷として直接買い取っており、奴隷商経由で購入していないためカウントしません。


「じゃあ、俺とマリアで見て来るから、皆はこの辺をブラブラしていてくれ」

「行って参ります」

《いってらっしゃーい!》


 奴隷商に行くのは俺とマリアの2人だけで、他のメンバー達は周囲の散策をしてもらう。


 アルタ曰く、ここの奴隷商は規模がかなり大きく、その奴隷の質はピンキリとのこと。

 つまり、捨て値の奴隷……まともな状態じゃない奴隷も扱っているのだ。


 さくらは見たくないと言うし、ドーラには見せたくない。

 ミオとセラは奴隷商に行くこと自体に抵抗はないが、捨て値奴隷の劣悪な環境は見たくないそうだ。嫌な思い出しかないからな。

 え、マリア?全く気にしてないよ。


 奴隷商に入った俺達は、一通り全ての奴隷を見せて欲しいと受付に頼んだ。

 奴隷商としては、購入の見込みも無いのに全ての奴隷を見せる意味は無いので、先に予算を確認された。


「これで足りるか?」


 とりあえず、大金貨(1枚で100万ゴールド)が一杯に入った袋を見せる。

 こう言うの、一度やってみたかったんだよね。


「ようこそいらっしゃいました!ささ、どうぞこちらへ」


 受付が高速でオーナーを呼びに行き、滅茶苦茶丁寧な態度で接客される。

 こう言うの、一度やってみたかったんだよね。


 ソファに座り、奴隷が次々と紹介されていく。

 今回、マップを見ないと言ったが、直接目にした相手のステータス確認は禁じていない。

 1人1人ステータスを見て、<勇者>スキルの持ち主を探す。


 今のところ、<勇者>の持ち主はいない。

 レアスキル持ちが居たので、マリアに名前を控えさせる。

 余談だが、今回は目的が目的の為、男性奴隷も確認の対象となっている。


「以上で、全ての奴隷をご紹介いたしました。お目に適う奴隷はいましたでしょうか?」


 オーナーがそう言ったが、俺の眼は誤魔化せない。


「まだ、全てじゃないだろう?」

「は?」

「捨て値で売られるような奴隷は見せていないはずだ」


 俺が問うと、オーナーは恐る恐る頷いた。


「え、ええ、その通りです。ですが、お客様の様に資産のあるお方が、捨て値の奴隷をご覧になられるのですか?」


 心底不思議そうに尋ねてくる。


「ああ。最初に全て見せて欲しいと言っただろう?」

「分かりました。連れて来るのが難しい奴隷も居るので、部屋の方にご足労頂いてもよろしいですか?……正直、お勧めは出来かねますが」

「慣れているからな。問題ない」

「ああ、なるほど。分かりました」


 そう言うと、オーナーは納得の表情が浮かべながら案内をしようとする。

 何故?


A:捨て値の奴隷を使った加虐的な趣味があると判断されたようです。


「待たれよ」


 思わず、今までに使った事の無い口調でオーナーを止める。

 流石に、その勘違いは許容できない。


「どうかなされましたか?」

「俺の目的は、オーナーの考えているモノではない」

「うっ……」


 内心を見破られたオーナーの顔が引きつる。


「今までの経験上、捨て値奴隷の中には意外と掘り出し物が多い。見もせずに切り捨てるのは勿体ないと言う判断だ。……さあ、案内してくれ」

「……承知いたしました」


 バツが悪そうなオーナーの案内を受け、少し離れた場所にある隔離部屋へと入る。

 オーナー自身は隔離部屋に入らず、隔離部屋専用の案内人が付いた。


 規模の大きい奴隷商だけあって、捨て値の奴隷もかなりの数が存在した。

 欠損に関わらず、レアスキルを持っていて、悪意に塗れていない奴隷をチェックしていく。


 半分くらい過ぎた辺りで2名のレアスキル持ちが見つかった。

 やはり、捨て値奴隷の方がレアスキル持ち確率が高い。


 しかし、残念ながら<勇者>の持ち主は居なそうだな。


「ん?」


 ふと、奥の方に居た1人の奴隷が気になった。

 特にレアなスキルを持っている訳では無い20代前半の女奴隷だ。種族は人間。

 腹が膨らんでおり、身体にはまだ新しい火傷の跡が残っている。後、目が死んでいる。


「あの奴隷は?」

「元々は結構デカい商家の嫁だったんだが、腹の子を残して夫が火事で死亡、本人も火傷であの有様、破産して奴隷になるっちゅう、見事な転落コースでさぁ」


 案内人に聞いた来歴には、見事なまでに救いが無い。


 さて、あの奴隷の何が気になるのだろう……。

 ステータスを隈なく確認していく。


 あ。

 見つけた。<勇者>スキルだ。


 そう、<勇者>スキルの持ち主は、女奴隷の胎の中に居たのだ。


 ステータスを見る限り、種族はドワーフ。

 異種族婚において、子供は基本的に母親と同じ種族になるが、極々稀に父親の種族になる事もあるそうだ。

 今回、母親が人間で子供がドワーフと言う事は、このレアケースが適用されたのだろう。

 そして、その子供が<勇者>スキル持ちと……。

 うん、レアケースのバーゲンセールだな。


 余談だが、<勇者>スキルを封じる<封印>スキルは持っていなかった。

 産まれた瞬間に付与されるのだろう。



 その後、レアスキル持ち3人と勇者マザーの合計4人を購入した。

 完全に偶然なのだが、レアスキル持ち3人は女性だった。


 捨て値奴隷達は洗われ、服を着せられ(今までは着ていなかった)、俺の前に連れて来られる。なお、これらのサービスは別料金である。

 金を払い、奴隷契約をサクッと終わらせ、部屋を借りて奴隷達に手持ちの料理を与えた。

 自分で動ける程度には回復してもらわないと、面倒だからな。


 俺の取り出した料理を見て、オーナーが顔色を変える。


「どうか!どうか私にもその料理を食べさせてください!」


 そう言ってオーナーが見事な土下座を決めた。


 曰く、オーナーは大層な食道楽であり、美味い食べ物には目が無いそうだ。

 見ただけで俺の出した料理の質を理解し、居ても立っても居られなくなったとのこと。


 ……結果、払った料金が丸々返ってきました。

 つまり、購入した奴隷達が食べている料理は、奴隷達と同じかそれ以上の価値があると言う事になる。もう、訳が分からないよ。


 名残惜しそうにするオーナーに見送られ、奴隷商を後にした。

 お金を1ゴールドも払っていないのに上客扱いである。


「お待たせー」


 奴隷商を出て、さくら達と合流する。

 奴隷達にはフードを被せ、喋らずに付いてくるように指示している。


「お疲れ様です……」

「ご主人様の顔を見る限り、奴隷商に居たみたいね」

「ですが、見当たりませんわよ?」


 本人のステータスだけを見たセラが不思議そうに言う。


《おなかー!》


 いち早く気付いたのはドーラだった。


「うわ!ホントだ! ……ダーツでコレを引き当てるの!?」

《おおあたりー!》

「凄いを通り越して、少し怖いです……」

「ドン引きですわ……」


 ドーラ以外が見事にドン引いている。

 俺も『探し人(未誕生)』を発見したのは初めての経験なので、正直に言えば驚いている。

 そして、マリアは何故か誇らしげである。


 さて、お目当ての<勇者>スキルの持ち主(未誕生)を見つけたのは良いが、母親の方ははっきり言ってダメージが深刻であり、長いこと歩かせるのも酷だ。

 そこで、人目につかないように上手く死角を使い、カスタールの屋敷へと転移した。

 今度もマリアだけが付いて来ている。


 屋敷では、メイド総長たるルセアが直々に出迎え、奴隷達を引き取ることになった。

 曰く、俺が直接購入した奴隷は久しぶりなので、気合いが入っているそうだ。


「出産経験のある者、知識のある者達を集めて、万全を期してくれ」


 残念ながら俺に出産に関する専門的な知識は無い。

 しかし、俺の配下には、出産経験のある者もいるし、医者(奴隷)もいる。

 火傷を回復させつつ栄養を取らせれば、多少は安全に出産できるだろう。


「既に手配しております。ここにいるメイド達は、全員が医学知識を持っております」


 そう言って、ルセアは後ろに控える10数名のメイドを見る。

 ルセアが有能過ぎて俺のすることが無い。


「彼女を診てあげてください」

「はい」


 ルセアに促され、医者メイド奴隷の1人が前に出てきて、混乱している妊娠奴隷を触診し、一つ二つ質問をした。


「この様子ですと、一月半から二月くらいで出産になります」

「え?」


 ここに来て想定外の事態が発生した。


「如何なさいましたか?」

「俺、一月で<勇者>持ちを見つけるって言ったんだけど……」


 産まれるまでに最低一月半かかると、どう考えても間に合わないよね?

 <勇者>スキル自体は見つけているが、まだ産まれていない者をスキルの持ち主と言えるかどうか、判断が難しいところだ。

 マジで?


「開きますか?」

「待たれよ」


 医者メイド奴隷が表情一つ変えずに言ったので、奴隷商で使って以来、少しだけ気に入った表現で止めた。

 いくら何でも、ソレは有り得ない選択肢である。

 そして、絶対に医者の言うセリフではない。


「道理を曲げたい訳じゃない。ただ、腑に落ちなかっただけだ」


 『判断が難しい』と言ったとおり、考え方によっては『見つけた』と言っても良いだろう。

 腑に落ちなかったのは、俺が本気で探したのに、そんな中途半端グレーな結論に落ち着こうと言う点である。ハッキリ、明確に『見つけた』と言えない点である。

 もしかして……。


「まだ、居るのか?」


 俺の想い至った可能性、それは『ラティス島にもう1人<勇者>スキルの持ち主が居る』と言うモノだった。

 誰も<勇者>持ちが1人だなんて言っていない。それは、俺の思い込みでしかないのだ。


「……悪いが、ラティス島に戻らせてもらう。後は任せていいか?」

「承知しました。お任せください」


 俺はルセア達に後を任せ、『ポータル』でラティス島へと転移する。


「もう1人<勇者>スキルの持ち主が居る可能性がある。だから探索を続けようと思う」

「その可能性に思い至る時点で普通じゃないと思います……」


 俺が自身の思い付きを皆に話すと、さくらがコメントしにくい事を言った。

 言われてみれば、普通の発想ではない気もする。


「そこまでするくらいなら、マップを見てさっさと終わらせたらいいんじゃない?」

「それは却下だ」


 ミオの意見をバッサリと切り捨てる。

 縛りプレイを途中で諦める程格好悪い事もそうはあるまい。


「優先度を下げて、観光をしながら気楽に探そう」


 グレーではあるが、1人は見つけたので、急ぐ理由は無い(元々急いでいなかった)。

 後は居ると言う前提で行動をするだけだ。


「それ、最初の方針と大して変わっていなくない?」

「そうとも言う」


 元々、観光>捜索だった気がしないでもない。

 ……いや、観光>>>捜索くらいか?


 とりあえず、早くゴンドラに乗りたい。



 その後、再びラティス島の観光+<勇者>スキル探索を開始した。


「うーむ。奴隷商以外の心当たりとなると、全く思いつかないぞ……」

「だからって、街中を虱潰しって言うのもどうかと思うわよ?」


 奴隷商一点賭けだったので、実は奴隷商以外の候補を全く考えていなかった。

 ミオの言うように、現在、俺達はラティス島の街並みを歩いて楽しみつつ、道行く人のステータスを虱潰しで確認している。

 しかし、<勇者>スキルの持ち主は一向に見つかる気配が無い。


 余談だが、全員のステータスを目視でチェックするのは大変なので、見た相手が<勇者>スキルを持っていた場合、通知が入る設定にした。

 ギリギリ、マップは使っていない。


「何も思いつかないんだから仕方がないだろ」

「そもそも、ホントに2人目って居るのかしらね?」

「居ないのが普通、と言うのは、今更ですわよね?」


 いくら俺の運が良いと言っても、起こり得ない事まで起こす事は出来ない。

 産まれる前の胎児しか<勇者>持ちが居なければ、俺の納得とは無関係にダーツはこの場所を指すしかないのだ。それが最善なのだから。

 また、胎児以外の<勇者>スキル持ちが居るのなら、ダーツがその場所を示したことは想像に難くない。そちらが最善なのだから。


「それにしても、やたらと人が多いな」


 先にも述べた通り、ステータスチェックが大変なレベルで人が多いのだ。

 ゴンドラの受付で、観光シーズンって言っていたので、それが理由だろう。


「さっき、露店を巡っている時に聞いたんだけど、明日からこの島で色んなイベントが催されるみたいなのよ。そのせいで人が多いんだと思うわ」


 ここでミオが爆弾発言。


「マジか!それは見逃せないな!」

「仁君ならそう言いますよね……」


 当然、水の都の催し物なんて面白そうなモノを見逃す訳がない。

 しかし、街中にポスターなどは見当たらないな。どこで公報しているんだろう?


「街の景観を壊さないように、屋外にポスターを張るのは禁止しているみたいよ。運営本部とか、協賛店とかでパンフレットを貰う必要があるみたいね」

「決めた。後で貰いに行こう」


 こうして、この島で行う事リストが更新された。


目的1:ゴンドラに乗る。

目的2:ラティス島の催し物を楽しむ。

目的3:2人目の<勇者>を探す。


 <勇者>捜索の順位、ドンドン下がっている気がする。



 その後も街を歩き、探し続けたが、見つかる事は無かった。


「見つからないし、遅くなってきたから、そろそろ戻るか」


 そろそろ日も落ち始めてきたので、人探しは終わりにするべきだろう。

 元々、気楽に探すと言うコンセプトだ。


「帰ったら、お待ちかねの夕食だ」


 捜索の途中で、忘れずに宿をとっている(ゴンドラの失敗は繰り返さない)。

 観光シーズンの観光地価格でかなり高いが、今更気にするようなものでもない。


《ごはんー!》

「料理のおいしい宿との話ですので、楽しみですわ」


 ベネチア似の街並みに相応しい、イタリアンな料理が出て来るらしい。

 思考停止でスパゲッティにしようと思う。


 俺達は来た道を戻り始める。


 今、俺達が居るのは島で一番デカい船着き場である。

 折角、海洋国家に来たのだ。船着き場や船を見学したくなるのは当然の事だろう。

 ウチの『クイーン・サクヤ号』に匹敵する船こそ無かったが、海洋国家に相応しい立派な船が多かったことをここに記す。


 船着き場の入り口の方から、観光地の賑やかさとは違う、揉め事の喧騒が聞こえてきた。


「何か、騒がしいな」


 マップを使わない縛り中につき、何が起きているのか分からない。

 興味があるので、通りがかりに、少しだけ近づいて様子を窺う。

 厄介事イベントかな?関われるかな?貴族関連じゃないと良いな。


 そこに居たのは、高そうな服を着た俺と同年代くらいの少年と数名のエルフ、船乗りと思しき屈強な男性達とその代表らしき有能そうな男性。

 少年とエルフVS船乗り達と言う構図に見える。


名前:アストン・ド・パジェル

称号:パジェル王国王子


 高そうな服を着ているのは王子か……。

 うん、王族・貴族関連なら、素通りスルー確定である。

 アルタからも、王侯貴族が腐敗していると聞いた後だからね。


「私の命令が聞けないと言うのか!」


 王子が声を張り上げた。

 かなり高圧的な態度である。


「例え王族の命であろうと、そのような無茶な要求は呑めません。理由も言わず、海運組合の船と人員を総動員して、たった1人のエルフ女性を探すなど、無茶もいいところです。それも、よりにもよってこの時期にとは……」

「うるさい!貴様は黙ってアシュリーを探せばいいのだ!」


 無視しにくい内容の口論が聞こえてしまったので、歩みを遅らさざるを得なかった。


「見つからなければ私は破滅なのだ!それに、この国だって……グボッ!」


 横に居たエルフが王子に腹パンを決めた。

 良い感じに決まったらしく、王子は腹を押さえ、足がプルプルしている。

 おかしいな。王子とエルフ、同じ陣営に見えたのだが……。


「それ以上喋るな。私達が同行している意味を忘れたのか?」

「う、うぐ……」


 どうやら、エルフ達は王子の仲間ではなく、お目付け役のような存在だったらしい。

 そして、王子が言ってはいけない事を口走ろうとしたので黙らせたのだろう。

 殴って黙らせられると言う事は、エルフの方が相当に上の立場と言う事になるが……。


 アルタ、この連中ってもしかして?


A:ご想像の通り、『姫巫女』アシュリーの事情です。エルフは水災竜を封印する一族です。


 やっぱり……。

 王子が言いかけたのは、この国が災竜によって滅びると言う内容だろう。

 逆に言えば、この国の王族は災竜の存在を知っていることになる。


 『私は破滅』と言っていた事から推測するに、アストン王子が何かやらかしたのだろう。

 恐らく、アシュリーに対して。

 その結果、アシュリーはあの島でサバイバルをすることになった。


 アルタ、合っているか?


A:はい。その通りです。詳細をお聞きしますか?


 いや、その必要は無い。

 あの王子も高慢そうだし、王侯貴族の多くが腐敗しているんだろ?

 関わり合いになりたいと言う気持ちが欠片も沸いてこない。


 当初の予定通り、素通り(スルー)だ。



 こうして、俺達は普通にアストン王子一行の横を素通りし、宿へと戻ってイタリアンな夕食を食べることにした。


「思ったよりも料理の数が多いな」


 目の前に並んだ料理の数々を見て呟く。

 少なく見積もっても、10人前以上は確実にある。

 間違っても、男性1人、女性3人、幼女2人で食べる量ではない。


「うん。セラちゃん、ドーラちゃんが居る前提で頼んだからね。いつも助かっているわ」


 ミオは小食だが、料理研究のために出来るだけ色んな料理を食べようとする。

 沢山注文して、少しずつ食べる事になるのだが、余った料理はセラとドーラが平らげるので、残す事は基本的に有り得ない。


「お任せくださいですわ」

《いっぱいたべるー!》


 多分、今回も半分以上はこの2人で食べる事になるのだろう。


 そして、実食。


「他で食べられる料理も多いけど、やっぱり魚介系が美味いな」

「はい……。私はイカ墨スパゲッティが気に入りました……」


 さくらが気に入ったのはイカ墨スパゲッティ。

 俺が気に入ったのはボンゴレスパゲッティ。


 見事にスパゲッティばかりである。

 日本人にとって、一番馴染みのあるイタリア(風)料理だからね。


「そうね。このセッピエ・ネーレ・コン・ポレンタも絶品だわ」

「何て?」


 ミオが謎の呪文を唱えた。

 恐らく、料理名なのだろうが、完全に耳を素通りした。


「ベネチアの伝統料理らしいわよ。昔、海外の料理を調べた時に見かけた記憶があるわ。流石にイタリア語の料理名が一致するとも思えないから、異世界人が来たのは間違いないでしょうね」

「ふむ。ベネチア料理となると、日本以外からの転移者か?」


 ベネチア料理に知見のある日本人はそう多くはないだろう。

 ベネチアから転移したと言う方が余程自然である。


 日本以外からの転移と言うのは、何気に初めてのケースだったりする。

 なお、外国人という括りで言えば、留学生が前例として存在する。


「もちろん、その可能性もあるけど、メニューに味噌汁があるせいで、日本人の可能性が捨てきれないのよ」

「あー……」


 メニューに当たり前のように存在する『味噌汁 150G』。

 ご丁寧に漢字で書かれたこのメニューのせいで、折角のイタリア感が大幅に減少していた。日本人を疑うには十分な根拠である。


「気になるなら、アルタに聞いたら?」

「……捜索が終わったら聞くよ」


 今は縛りプレイ中なので、出来るだけアルタにも聞かないつもりだ。

 終わった後、ネタバラシをよろしく。


A:お任せください。


「うん? ……ご主人様、アレを見て!」


 ミオが何かを発見したようで、宿の壁を指差した。

 そこには1枚のポスターが張られていた。


『ラティス島料理大会 一般の部 優勝者は豪華ゴンドラツアーにご招待』


 件の催し物の1つなのだろう。

 大会は明日。参加締め切りは……ギリギリ間に合う。


 なるほど。なるほど。


「ミオ、任せた!」

「ラジャ!」


 ミオがビシッと敬礼を決めた。


皆もセッピエ・ネーレ・コン・ポレンタを検索してみよう!

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
さくらってまわりの人みんな奴隷なのに失礼だよね 仁いてもデバフスキルなのか嫌われるタイプのままだな いつ普通の人になるんだ
[気になる点] なぜハーフエルフという呼称はあるのにハーフドワーフや半鬼人はないのだろう。
2020/08/02 21:22 退会済み
管理
[一言] ポレンタをググったら3番目にここが出てきたww
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