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第186.5話 スカーレットの執務室

スカーレット関連の補足です。

登場人物紹介は書き終わっていたのですが、同時に投稿したかったこちらが長引いてしまいました。

 その日、俺は自分の執務室にローズ、ルビー、ジョナサンの3人を呼び出した。


 3人は皇帝である俺の命に背き、客人であるジンに手を出した罪により、幽閉されている。

 呼び出した今も3人は手錠と足枷を付けられており、自由が封じられた状態だ。


 ルビーは悲しそうに、ジョナサンは悔しそうにしているが、ローズは平然としている。

 少し前まで、見るも無残な状態だったと言うのに……。


 俺はローズとルビーを見据えて宣言する。


「ローズ、ルビー。お前達にはジンの奴隷になってもらう」

「承りました」


 ローズは即答だった。一切の迷いが見えなかった。


「おい、親父!どういうつもりだ!?それにローズ!何で了承しているんだよ!?」


 予想通りではあるが、ジョナサンが噛みついてきた。

 ローズ、ルビーに対する罰とジョナサンに対する罰は別だが、ジョナサンは同母のルビーを大切にしているからな。

 ルビーが奴隷になると言われたら、黙っていられる訳はないだろう。


「どういうつもりも何も、俺の命に背き、ジンに手を出した罰に決まっているだろ」

「だから、それがどうしてあの野郎の奴隷って話になるんだよ!」

「何だ?お前は3人揃って処刑されるのが望みなのか?皇帝の命に背いたら、処刑されるのは当然の話だよな?それを理解していないとは言わせねぇぞ?」

「ぐっ……」


 呻くジョナサン。


 この国は皇帝の権力が非常に強い。それで上手く回っている国だ。

 目的の為、いずれは皇帝の座を降りるとは言え、俺の代で皇帝の権威を落とす気はない。

 そんな事をすれば、最後までこの国の事を考えていたリオンに申し訳が立たない。


 よって、一度『皇帝の命』と宣言した以上、俺ですら翻す事は出来ない。

 自分の子供であろうと、処刑を止めるわけにはいかない。


 自分の子供を最優先に出来ない辺り、俺は親としては失格なのだろう。

 今更、変える事も出来そうにないが……。


 そんな状況に唯一、待ったを掛けられるのは、被害者であるジンだけだ。

 被害者からの提案があった場合のみ、処刑以外の道が生まれる。

 無礼を働かれた客人が言うのなら、温情を与えられる。


 正直、ジンが提案してくれる事に期待していた部分もある。

 奴隷と言うのは少し予想外だったが、処刑に比べればマシなはずだ。


「ジンがローズとルビーを奴隷にすると言わなければ、俺は3人共処刑するつもりだった」

「……俺はどうなるんだ?」


 ルビーの事で頭が一杯で、自分の処分まで気が回らなかったらしい。


「お前は継承権の剥奪だけだ。それ以外は基本、今まで通りとなる」

「なら、俺が奴隷になる!だから、ルビーの処分を継承権の剥奪にしてくれ!」


 明らかにジョナサンの処分が軽いので、そう言いたくなる気持ちは分からないでもない。

 しかし、それは無理だ。


「ルビーが奴隷になるからこそ、お前の処分が軽くなる。そこを逆転するのは無理だ」

「……どういう事だ?」

「ジン曰く、ルビーに心置きなく奴隷になってもらうためだそうだ」


 ジンは本当にいい性格をしている。


「お前が生きている場合と処刑された場合で、奴隷になった後の心情を想像してみろ」

「俺は、人質って事かよ……」


 概ね間違っていないな。

 ルビーが奴隷になるのは確定として、兄が生きているか否かと言うのは、大きな違いだ。

 兄が処刑されていたら、恨みも大きいだろうが、生きている以上、その件で恨む事は出来ない。だからこそ、ジョナサンの処分が明らかに軽い。


「……ローズは何で文句の一つも言わず、奴隷になる事を了承したんだ?」


 そこで、ジョナサンの矛先がローズに向かった。


「私は仁様の奴隷となる事に何の否も無いですから。と言うか、奴隷紋が刻まれていないだけで、私は既に仁様の忠実な下僕です。絶対服従です」

「えぇ……?」


 ジョナサンが絶句する。

 俺も表情には出していないと思うが、同じ心境である。


 人間、変われば変わるものだな……。


「ジョナサン、ジンからの伝言だ。『ジョナサンとルビーが両方とも真っ当な人物になれば、会わせてやってもいい』……だそうだ。少なくとも、ジンはルビーを無意味に甚振るつもりは無いと言っていたぞ。安心しろとは言わんが、希望が無い訳では無いはずだ」

「本当か!?」


 俺は黙って頷く。

 どちらかと言えば、ジョナサンの方が条件的に厳しいとは、言わなくても良いだろう。


 ルビーはジンの元で奴隷として再教育されることになっている。

 皇女の権威が消え、ただの奴隷少女として教育されるのだ。仁の望むように育つだろう。


 対するジョナサンは今から仁の望むような存在になれるのだろうか?

 何しろ、妹を守ろうとして、選んだ手段が襲撃だったからな。

 今更性根を叩き直すのは難しいと思う。


「処分は既に決定したことだ。ジョナサンが何を言おうと、翻る事は無い。……ここを出たら、条件を満たすまで会えなくなるから、挨拶を済ませろ」


 ジョナサンは悔しそうな顔になり、腰を落とし、ルビーと同じ目線の高さにした。

 手錠のかけられた手でルビーの手を握り、真面目な表情で声をかける。


「ルビー、辛いと思うが、頑張れ。俺もルビーに会えるよう、頑張るからな」


 ルビーがコクリと頷く。

 それから、少しの間2人は言葉を交わし、分かれの時間となった。


 ローズとルビーはジンの配下のメイドに連れて行かれ、ジョナサンはもうしばらく牢屋で過ごすことになる。少なくとも、ジンが帰還するまでは。




「お父様、お呼びでしょうか?」

「ああ、入れ」


 執務室に入ってきたのは俺の長女、カーマインだ。


 軍の業務が終わった直後に呼び出したから、軍服のままである。

 急ぐ必要は無いと言ったから、着替えてきても良かったのだが……。


「お父様が私をお呼びになるのは久しぶりですね」


 恐らく、俺の子供達の中で一番交流があるのがカーマインだろう。

 昔から、やたら俺に懐いていたからな。流石の俺も、懐いてくる子供を無下には扱えない。


 向上心があり、皇帝の執務に興味があると言っていたので、時間がある時に呼んで、色々と教えていたこともあったな。

 ここ最近は色々と忙しかったから、機会も無くなっていたけどな。


「ああ、カーマインに言っておくことがあるからな」


 そこまで言ったところで、執務室の扉が再び開いた。


「兄上、入るぞ」


 ノックも無しに入ってきたのは、愚妹、ルージュである。

 ジンの元で教育されていたと聞いたのだが、俺の聞き間違いだったのだろうか?


「な、何でアンタがここに!?」

「む、カーマインか。何故と言われれば、兄上に呼ばれたからに決まっているだろう」


 相変わらず、仲が悪いようで何よりだ。


「それはそうだろうけど……。と言うか、ノックくらいしなさいよ!」

「呼んだのだから、入って良いのは当然だ。ノックなど、時間の無駄だろう?」


 自信満々に言うルージュ。


「ルージュの言い分もある意味正しいが、淑女としてそれはどうかと思うぞ?」


 合理的と言えなくもないが、仮にも皇女が行って良い事ではない。


「ジンに相談してみるか……」

「それは止めてくれ!私が悪かった!」


 昔は怖いものなしと言う性格だったルージュがこの有様である。

 人間、変われば変わるものだ。


「そ、それで、私達に何の用なのだ?」


 露骨に話を逸らしてくるルージュ。

 相変わらず、アホの子だな。


「ああ、2人を呼んだのは、次期皇帝について話をする為だ」

「「!?」」


 驚愕している2人を無視して話を進める。


「知っていると思うが、俺はそう遠くない未来に皇帝を辞する。皇帝の座はその時点で相応しい者に譲るつもりだ」


 俺の言葉を聞き、カーマインが恐る恐る尋ねてくる。


「お父様が……その件について直接話をするのですか?」

「ああ、ジンと話をして、そろそろ真面目に伝えた方が良いと思ったからな」


 ジンのおかげで、予定が色々と早まりそうなのだ。

 俺の退位も早くなる可能性がある。その時に困らないように、根回しはしておくべきだ。


「彼はお父様にとって、それほどに重要な存在なのですね?」

「ああ、俺の目的にも、欠かせない人物だ」

「やはり……」


 カーマインがジンに頼み事をした件は聞いている。

 だからこそ、最初にカーマインに伝えようと思ったのだ。


「それで、次期皇帝は誰になる予定なのだ?このタイミングで呼んだと言う事は、私達2人のどちらかなのだろう?」

「!?」


 カーマインが非常に悔しそうな顔をする。

 俺が、ルージュを選ぶと思っているのだろう。


「そんなの、カーマインに決まっているだろ?まさかルージュ、お前自分が皇帝に相応しいとか思っていないよな?」

「当然だ。私に皇帝など務まる訳が無い。精々、傀儡皇帝が出来上がるだけだ」

「え?」


 意味が分からないと言うように、呆けた表情をするカーマイン。


「現時点で皇帝に一番相応しいのはカーマイン、お前だ」

「本当……ですか……?」

「こんな事で嘘を言う訳ないだろ」


 ここまで言っても、カーマインの表情は大きく変わらない。

 いまだに信じられないのだろう。


「しかし、カーマインが次期皇帝になる可能性が高いのか。そうなると、私はこの国に帰郷するのは難しくなりそうだな」


 カーマインと仲の悪いルージュが少し残念そうに言う。

 少ししか残念そうでは無いのは、既にルージュの居場所がこの国ではないからだろう。


「それは困るな。ルージュはジンとの繋がりも深い。ジンの心証や国の利益を考えても、追い出すのは得策とは言えないだろう。カーマイン、お前ならどうする?」

「……この国で権力のある立場を与える事は出来ませんが、追い出す様な真似はしません」


 俺が尋ねると、カーマインは表情を引き締め、少し考えてから答えた。


「それで良い。ルージュに立場を与えても、良い事は無いからな」

「それは少し酷くないか?」

「自分の行いを顧みてから言え」

「……何も言えんな」


 前から見れば、随分とマシになったが、それでも、まだまだ駄目な範疇だろう。

 大切である事と、与える立場は別の話なのだ。


「そう言えば、何故この場に私達だけを呼んだのだ?カーマインはともかく、私を呼ぶ必要は無いだろう?逆に、他の候補を呼んでいないのも気になる」


 ルージュにしては、意外と良いところに気付いたな。

 その点に言及するのは、カーマインだと思っていたのだが……。


「カーマインと一番仲が悪いのがルージュだからな。両者の反応を見ておきたかったのが前者の答えだ。カーマインがルージュを排除しないと言ったから、一安心だな」

「嫌いですけど、排除したいとまでは思っていません」


 カーマインが「お父様が悲しむから」と小さな声で呟いたが、聞かなかったことにした。


「他の候補はカーマインほど熱心に皇帝の座を求めていないから、優先度を落としたと言うのが、後者の答えだ。……熱心に求めていた2人が、今回の騒動で脱落したからな」


 ローズとジョナサンがカーマインに次いで皇帝の座を求めていた。

 身から出た錆だが、その2人が脱落したのは大きい。


「私は知らないが、他の候補者のスタンスはどうなっているのだ?」


 数年間離れていたルージュは、今の真紅帝国の情勢をほとんど知らない。


「皇帝になりたくないと言っているのが、第三皇子アッシュ第四皇女ラズベリー第五皇女クランベリーの双子だな。双子は研究の方が趣味に合っているんだろう」


 本心を言えば、アッシュに……ヴァーミリオンの息子に皇帝の座を譲りたい気持ちが無い訳では無い。だが、本人が望まない事を強要する気は毛頭ない。


「消極的なのが、第一皇子レッド第二皇女ストロベリー第六皇女マジェンタだな。皇女2人はあまり自信が無いそうだ。レッドは他に相応しい者が居ないなら、自分がなると言っているな」


 ある意味、俺の血を一番濃く継いでいるのはレッドなのだろう。


「レッドがカーマインを認めれば、文句なしでカーマインが次期皇帝だ」

「なるほど、確かにカーマインが一番有力だな」

「……ルージュが私の事を認めるの?」


 意外そうな顔をするカーマイン。


「……私も、色々とあったのだ。カーマインの実力も実績も、事実なのだから否定は出来ん」

「そう……」


 ルージュがカーマインから顔を背けながら言う。

 ルージュの言葉を聞き、カーマインが少しだけ嬉しそうにする。


 気に入った相手と大切な相手の仲が悪いと言うのは、結構精神によろしくない。

 仲良くしろとまでは言わないが、余計なわだかまりはない方が良いに決まっている。




「失礼いたします」


 そう言って入ってきたのは、側近であるピエールだ。


「何かあったのか?」

「はい。ストロベリー様の件で書状が届きました」

「ほう」


 ストロベリーには、エルガント神国の件でレガリア獣人国へ謝罪を頼んだ。

 距離で考えれば、そろそろ帰ってくる頃だろう。……何かあったのか?


「どうやら、ストロベリー様はブラウン・ウォール王国に居られるようです」

「え?何で?」


 ブラウン・ウォール王国があるのは、レガリア獣人国とは全く違う方向である。


「レガリア獣人国まで辿り着いた後、迷子になって辿り着いたのがブラウン・ウォール王国だそうです」

「意味が分からん……。ストロベリーからの手紙には何て書いてあった?」

「いえ……、ストロベリー様から書状が届いたのではありません」


 そう言えば、ピエールは『ストロベリー様の件で』と言った。

 ストロベリーから・・とは言っていない。


「アドバンス商会、ブラウン・ウォール王国支部から届いたのです。空路で送って下さるそうですよ」

「何でも有りだな。ジンの奴……」


 また、ジンへの借りが増えた。

 真面目に、カーマインかストロベリーを娶ってくれねぇかな?

短編で、名前だけ登場する皇族達。

出番を与える余地がありませんでした。

そして喋らないルビーちゃん。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
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