第186話 世界樹チョイスと帰還
一カ月で最後の<勇者>スキル持ちを探し出すと宣言したものの、別に一カ月で探し出せなくても、特に誰も損をしないので、罰則とかを決めることは無かった。
あくまでも、一カ月は俺達だけで探すよ、と言うだけの宣言である。
<勇者>を探す話を終えた俺達は、リリィの案内で世界樹の元を訪れる事になった。
万が一と言う事もあるので、今の内に異常個体の因子を世界樹に与えておきたいとスカーレットが言ったのだ。
「ここじゃ」
到着したのは、エルフの集落から離れた場所にある、不自然に開けた空間だった。
大体、直径1kmくらいの円形だな。
「何も無いように見えるが、ここに世界樹があるんだぜ」
「普段は不可視、不干渉状態となっておる。世界樹に関わる者、つまり、ワシかゴーシュでなければ、可視化する事は出来んのじゃ」
「触る事は出来るが、手応えが無いって言う、不思議な感触がするんだよな」
スカーレットが何もない空間に手を付き、そこに物がなければ不可能な態勢をとる。
俺も触ってみる。
……うん、不思議な感触だ。触っている実感はあるのに、触った物の印象が存在しない。
ちなみに、マップ上は世界樹の存在を把握できています。
その気になれば、不干渉を解除することも出来そうだ。
「それでは、世界樹を可視化するのじゃ」
そう言うと、リリィも世界樹がある空間に触れた。
次の瞬間、目の前に巨大な樹が現れた。
葉の緑が鮮やかな、活力に溢れる大樹だ。
今のところ、リソース不足を感じさせていない。
下から見上げる形なので、どれだけ高いのかが分かり難いが、幹のサイズから考えても、1kmでは済まないであろうことは確実だ。
「相変わらず、立派な樹だ。ジンもそう思うだろ?」
「ああ、ここまでデカい樹は初めて見るな」
あ、夢の中ではもっとデカい樹を見たっけ……。
「そうじゃろう、そうじゃろう。この世界樹も、最初はもっと小さかったのじゃぞ。長い年月をかけ、ここまで成長したのじゃ」
そして、それが今やリソース不足でピンチと……。
「しかし、残念じゃな。リソースさえあれば、お主らにスキルを与えてやれたのに……」
「ああ、やっぱり、アレってリソースが必要なのか」
リリィが聞き捨てならない事を言い、スカーレットが納得したような顔をする。
「どういうことだ?」
「世界樹の機能の1つじゃ。世界樹には、『異世界の魂を持つ者』に1つ、その者に合ったスキルを与える事が出来るのじゃ。それなりにリソースを消費するから、今は無理じゃがな」
「俺も以前ここに来た時、世界樹からスキルを貰ったんだよ。前世の知識で言えば、ユニークスキルって奴だな」
スカーレットはいくつかのユニーク級スキルを持っている。
出自の明確な<英雄の証>と<敵性魔法無効>の他に、<天眼視>と<魂の昇華>なるスキルも持っている。
スカーレットの身の上話から、<天眼視>も生まれつき持っていたと考えると、<魂の昇華>を貰ったのだろう。
「もしかして、その時に俺の異常個体の因子って取り込んでいたのか?」
「そうじゃよ。今現在、世界樹はエルフの<勇者>、<英雄の証>、転生者の3つの因子を持っておる」
「竜人種の迷宮支配者の因子は無いのか?」
先程、知り合いだったと聞いたのに、因子を貰っていないのか?
折角、2つも因子を満たせる稀有な存在だったのに。
「その因子は無いのじゃ。奴が迷宮を作った後は、ワシの方が訪れる側だったからのう」
「リリィの婆さん、エルフの里から離れられたのか?」
「うむ、最近は出ておらんし、出るのも難しいが、昔は割と出ておったよ」
正直、ずっと引きこもっているイメージでした。
《ご主人様、お願いがあります》
そこで、ミオが畏まった口調で念話をしてきた。
《分かってる。ユニークスキル、欲しいんだろ?》
《お願いします》
茶化すことも無く、普通に懇願されてしまった。
本気で欲しいようだ。
「リソースがあれば、そのスキルって貰えるのか?」
「うむ。ああ、先程は言わなかったが、祝福を一度でも得た者は対象外じゃ」
『祝福の残骸』から分離した、元祝福のスキルは大丈夫だろう。
「なら、俺達のリソースを世界樹に向けるから、代わりにスキルをくれないか?」
「それは、願ってもない事じゃが、今ここで切り替える事が出来るのか?」
「ああ、出来る。……はい、切り替えたぞ」
リソースを世界樹に送るように設定変更した。
「お、おおおおおおおおおおお……」
リリィが壊れたおもちゃみたいな声を上げる。
足もガクガク震え、頭はフラフラ揺れている。
「ど、どうしたんだ?婆さん、ついにボケたか?」
「し、失礼な事を言うでない。きゅ、急に大量のリソースが流れてきて、混乱しただけじゃ」
まだ、頭をフラフラさせているリリィ。
「なるほど……。確かにこれなら、世界樹のリソース不足はすぐにでも解消できそうじゃ」
「マジかよ。ジン、ヤベぇな……」
「当然、全員にスキルを与える事も出来るのじゃ」
「ギブアンドテイクって奴だな」
あ、それ、俺の異能の名前です。
「それで、誰からスキルを受け取るのじゃ?」
リリィの問いに、スッと手を挙げるミオ。目が真剣である。
「この娘で良いのか?」
「ああ、この娘にスキルを与えてやってくれ」
「ならば、世界樹に触れるが良い。因子を取り込んだ後、すぐにスキルを得られるのじゃ」
リリィに促され、ミオが世界樹に触れる。
そして、小さくガッツポーズをした。
<自動書記>
自身の知識を紙に移せる。白紙の紙に残したい知識を思い浮かべて発動する。深層心理を読み取り、自動で文章化してくれる。
リリィの言う通り、ミオに相応しいスキルだと思う。
そして、ミオの困りごとを解決するスキルでもある。
以前から料理のレシピを紙に書くのが大変とか言っていたし、地球の知識をマリア達に伝える役目も担っており、それなりに苦労していたそうだ。
ミオは説明上手だから、つい頼ってしまうのである。
その程度の魔法なら、さくらにも作れるだろうって?
恐らく、さくらの魔法で似たような事をしようとしても上手くいかない。
実は、さくらの<魔法創造>で生み出せる魔法には一つ欠点……特徴があり、魔法の効果対象は明確である必要があるのだ。
元々、魔法の作成条件が術者のイメージに由来しており、曖昧さを許さない性質を持っているのだろう。
似たような魔法を作った場合、紙に残す文言を全て口頭で発声する必要があると思う。
説明文後半の『深層心理を読み取り、自動で文章化してくれる』と言う部分が強い。
「ありがとうございました」
世界樹に向け、頭を下げてお礼をするミオ。
世界樹から離れる時も、鼻歌を歌いそうなほど機嫌が良かった。
待望の『自分の為のユニークスキル』だからな。
「次は誰じゃ?」
今、この場にいる『異世界の魂を持つ者』は俺とさくらとミオの3人だ。
「さくら、行ってみるか?」
「仁君は良いんですか……?」
「折角だから、最後にさせてもらうよ」
「分かりました……。多分、仁君の番では驚くことになるんですよね……?」
ああ、うん。
何が起こるかは分からないけど、多分驚くことになると思うよ。
「失礼します……」
さくらも世界樹に触れ、スキルを取得する。
<魔法の習熟者>
魔法を使用する際、その魔法の使用回数に応じて消費MPが減少する。ただし、消費MPは0にならない。
これまた面白いスキルが出てきた。
使用回数による消費MPの減少って、ゲームとかでは割とよくあるシステムだよな。
この世界では、<無詠唱>を使用した場合など、消費MPが増える事はあっても、減らすスキルを見た事は無い。
A:ある事はあります。
あるそうです。
……とにかく、数が少ない貴重なスキルであることに間違いはない。
そして、ある意味、さくららしいと言えなくもない。
具体的に言うと、基本的な理に干渉する点と……。
《さくら、このスキルを<契約の絆>で共有しても良いか?俺の配下全員でこのスキルを使えば、あっという間に消費MPが減っていくと思うぞ》
俺の能力との相性が非常に良いという点だ。
<契約の絆>により、このスキルを共有すると、魔法の使用回数カウントを配下全員で進める事が出来る。
そして、配下全員が消費MP低減の恩恵を受けられる。
ただし、配下以外の者と接する立場にある者は、恩恵を受けないように設定する。
異能や異常なスキルが露見する可能性は出来るだけ排除しておきたい。
《もちろん、構いません……。仁君や皆の役に立てるのは嬉しいですから……》
さくらが快諾してくれる。
実は、このスキルと一番相性が良いのは、さくらの<魔法創造>で創った<固有魔法>なんだよね。
元々、<固有魔法>は消費MPが多い割によく使うから、一番恩恵が大きい。
なるほど、本人の能力とシナジーのあるスキルが得られるというのは、本当らしい。
必然、俺が得るスキルにも期待が高まっていく。
「最後はジン殿か?」
「いや、その前に他の因子取り込みを優先させよう」
「良いのか?」
「ああ、俺は本当の最後で良い」
何が起こるか分からないから、先に済ますべき事は済ませておこう。
その後、淡々と因子の取り込みが進んだ。
マリア、セラ、ドーラ、ブルー、リーフ、ミカヅキの順で世界樹に手を触れる。
「いよいよ、ジンの番だな。一体、どんなスキルが手に入るんだろうな?」
「例外はあるが、基本的には勇者の祝福程度のスキルになるはずじゃ。レット坊のスキルは、その数少ない例外じゃな」
「俺が例外になるなら、ジンだって例外になるだろうよ」
「嫌な信頼だな。……否定は出来ないけどな」
さて、何が出て来るやら……。
世界樹に近づき、その幹に手を触れる。
今度は実体化しているので、普通に樹の感触がある。
>世界樹の機能により<蘚&[#あLV->を取得しました。
なるほど、こう来たか。
文字化けのせいで、詳細情報が全く分からん。
アルタ、解析を頼む。
A:承知いたしました。
「は?」
リリィが呆けたように口を開いている。
「な、何が起こったのじゃ?世界樹のリソースがほぼ空になったのじゃ。先程、増えた分以上に減ったのじゃ。本当に、結界が消えるギリギリだったのじゃ。ジン殿、一体、どのようなスキルを得たのじゃ?」
この<蘚&#[あ>と言うスキルを生み出すだけで、世界樹のリソースが枯渇するらしい。
一体、どんなスキルなのだろう。
「<蘚&#[あ>だ」
「何て?」
「<蘚&#[あ>だ」
「?」
聞き取れなかったリリィの為に複唱したのだが、二度目も聞き取れなかったようだ。
仕方が無いので、地面に文字を書く。
「い、意味が分からんのじゃ……」
「バグってやがるな。想像の斜め下に来たか」
はい、そこ。斜め下とか言わない。
「まあ、こう言う事もあるよね」
「聞いたこと無いのじゃ。ジン殿、ヤバいのじゃ」
永い時を生きる語り部にまでヤバいと言われました。
まあ、そう言う事もあるよね。
その後、スカーレット、リリィと共に細々とした話をした。
そして、エルフの里ですべき事を全て終えた俺達は、エルフの里を出発し、真紅帝国の帝都へと戻る事となった。
本音を言えば、もう少しエルフの里を観光しても良かったのだが、勇者の捜索に一カ月と言う期限を定めた以上、観光は後回しにせざるを得なくなった。
帝都に戻るのは、ルージュ達の回収や、詫び皇女を貰いに行くためである。
帝都に到着した後、スカーレットは国の重要案件の処理の為、一旦別れることになった。
俺達は再び宿をとり、のんびりと待つ。
次の日の朝、アッシュが使いパシリとなり、俺達を帝城に呼び出した。
そして、スカーレットの執務室。
ここには、エルフの里に行ったメンバーだけで集まっている。
「ジンはこの後、最後の勇者を探しに行くんだよな?」
「ああ、一カ月以内に見つけるつもりだ」
リリィにも一か月後くらいにまた来ると伝えてある。
「凄い自信だな……。俺も一月は帝都を離れる予定が無ぇから、次に来る時も一旦帝都に寄ってくれ。合流してから、エルフの里に行こう」
「ああ、分かった」
なお、スカーレット達には『ポータル』の事を教えていないので、次に真紅帝国に来るときは騎竜で来ると伝えてある。
「ようやく、ここまで来た……」
スカーレットが感慨深そうに呟く。
「ジンが居なかったら、婆さんが次に眠るまでの1年で、どれだけの事をしなけりゃならなかったか……。考えるだけでゾッとするぜ」
スカーレットも思わず苦笑いが出る。
最悪の場合、スカーレットが生きている間に実現しない可能性すらあった。
「そうだな……。今回の件で、ジンにはデカい借りが出来ちまった。少しでも借りを返しておきてぇんだが、何か頼み事とかねぇか?」
「そうだな……」
折角、頼み事を聞いてくれるというのだから、何か無いかな?
A:マスター。真紅帝国内の通行権や居住権を貰っては如何でしょうか?真紅帝国内を探索する事が可能になります。配下の分も貰えれば、アドバンス商会の出店も出来ます。
よし、それで行こう。
「それなら、真紅帝国内で活動する権利を貰えないか?どんな権利が必要なのかは分からないが、居住や通行、商売に関わる権利を人数分、プラスαで貰えると助かる。この国を、もう少しウロチョロしたいからな」
「そんな事で良いのか?それなら簡単だ。言ってくれれば、何人分でも用意するぜ。ただ、頼むなら俺が皇帝やってる間にしてくれよ。退位した後に偉そうな事はしたくねぇからな」
「そりゃあ、当然だな」
地位を退いた者が好き勝手するのは、大抵の場合良い結末を迎えない。
スカーレットに頼み事をするなら、極力皇帝在位中にするべきだろう。
「この場に居ない俺の配下が権利を貰ったら、真紅帝国内にアドバンス商会の支店を出させてもらう事になると思う」
「アレもジン関連だったのかよ……。進堂……進歩……アドバンス、なるほど……」
あんまり分析しないで!
「良いぜ。ただ、お国柄、あまり受け入れられない可能性がある事は理解しておけよ?」
「ああ、そもそも、儲けは二の次だから、気にしないさ」
「商会がそれで良いのか?」
「多分……」
アドバンス商会の一番の目的は俺の旅の支援である。
儲けがあるに越したことは無いが、儲けが無くても目的は果たせるのである。
<千里眼>の仕様上、1人でも配下がいればその土地の情報が収集できるからね。
「まぁ、ジンが良いって言うなら、俺に文句はねぇ。細けぇ事を詮索する気はねぇが、1つ聞かせてくれ」
「何だ?」
「緊急でジンと連絡を取りたいときは、アドバンス商会にコンタクトを取れば良いのか?」
「ああ、それで大丈夫だ」
スカーレット、やはり良い勘をしている。
「なら、逆も考えた方が良いな。アドバンス商会と俺の間で、直接取引をしよう。そうすりゃ、アドバンス商会に舐めた事をする奴も減るだろうし、アドバンス商会側から俺に連絡することも出来るからな」
「それ、実質お抱え商人って奴じゃね?」
「じゃあ、それで」
「軽いな。一国の主」
と言う訳で、アドバンス商会は真紅帝国皇帝のお抱え商人になりました。
まだ、店舗すら出来ていないのに……。
その後もスカーレットとの話し合いは続いた。
スカーレットの距離感は素晴らしく、コチラが聞かれたくない部分を深く探ろうとはせず、重要な点だけを確認していく。
異能についての説明はしなかったが、『俺達に出来る事』のいくつかを教えることにした。
「やっぱ、ジンは凄ぇな。無理を承知でもう一度聞くが、ここに住まねぇか?」
流石に、娘を嫁に、と言うのは諦めたらしい。
「止めておく。別荘くらいならあっても困らないけど、家は要らない」
俺の中では、メインとなる屋敷はカスタールとエステアの2つだ。
例えば、迷宮の居住エリアや、天空城の城部分などは、俺にとって別荘のような物である。
滅多に使わないので、それ程管理に人を割かないようにしている。
もしくは、他の仕事と兼任できるようにしている。
「それでも良いぜ!アドバンス商会の件と合わせて、帝都の一等地をくれてやるよ!」
「それで良いのか?一国の主?」
それ、そんなに簡単に決めて良い事じゃないよね?
「良いんだよ。今は俺が皇帝だ。俺がルールだ」
「暴君が居る」
「暴君で結構!金と権力があれば、大抵の無理は押し通せるからな」
スカーレットは「それに」と続けた。
「ジンから貰ったアイテムの代金だと思えば、むしろお釣りを渡さなきゃならねぇよ」
友好の印、と言う訳でもないが、俺の持つアイテムをいくつかプレゼントした。
適当に取り出した物だが、思いの他喜んでくれたようだ。
A:スカーレットの言う通り、帝都の一等地の土地代と考えても、過剰だと思われます。
うーむ。もしかして、俺の金銭感覚、狂っている?
A:金銭感覚と言うよりは、希少性の認識が狂っていると思われます。
なるほど。それは自覚がある。
希少品に囲まれ過ぎて、希少だと認識できていないのだろう。
「まあ、土地の事は心配するな。明日までに、何とかしてやるよ」
「ああ、任せる」
話し合いの中で、俺達が真紅帝国を出発するのは、明日と言う事に決まっている。
スカーレット曰く、俺関係の対応を今日一日で終わらせるそうだ。
具体的に言うと、権利、土地、皇女の3つである。
早速、スカーレットが俺対応を始めるという事で、話し合いはお開きになった。
スカーレットと別れた後は、真紅帝国のラスト観光を始めた。
各自、エルフの里に行く前までの観光での心残りを解消しただけなので、特別話す程の事は無い。
そして、何事もなく次の日。
スカーレットから権利、土地、皇女を貰った。
「……確かに、渡した物の使い方はジンの自由だ。だが、流石にこれは予想外だ……」
俺達に同行したスカーレットが呟く目の前では、異常な速度で建物が建築されていく。
「俺の配下のメイド達だ。昨日の内に呼んでおいた。ああ、安心してくれ。昨日の時点で貰っていた通行許可証を使って、正規の手続きでここまで来ているからな。後、彼女達はアドバンス商会の従業員じゃないから、そちらも別途呼ばせてもらう」
「ああ、突っ込み所が多すぎる。俺には突っ込み切れねぇ」
スカーレットが何かを諦めた様子。
「……まぁ良い。とりあえず、ジンのヤバさを再確認できたと思う事にする」
酷い言い草である。
「ジンが味方で本当に良かったぜ」
「エステアに攻めるってのが本当だったら、敵認定だったけどな」
「あっぶな!?」
「ちなみに、金狐の件も敵認定の候補だった」
「結構、綱渡りだったな、俺……」
スカーレットとの敵対フラグは多かった。
逆に言えば、全ての敵対フラグを叩き折り、今、俺の横に居るのである。
「最初の予定では、スカーレットを排除して、ルージュを傀儡皇帝にする予定だった」
ここまで来たので、ぶっちゃける事にした。
「俺を排除するのはともかく、ルージュに傀儡が務まるのか?」
「正直、あまり自信は無かった」
「そうだろうな」
相変わらずのルージュの扱いである。
「それに、力ずくで皇帝の位を奪う以上、どうやっても国は荒れるだろうからな。スカーレットが味方で良かったと思っているのは、こちらも同じだ」
「ある意味、全部が全部綺麗に丸く収まったという訳か」
皇女、皇子の襲撃等、多少のトラブルはあったが、真紅帝国に来た目的は完全な形で達成されたと言える。
スカーレットから見ても、俺と言う味方を得て、目標への大幅な時間短縮が出来たはずだ。
土地や人に目立った被害もなく、関係者全員が目標を達成した。
今回の旅行は大成功と言っても良いだろう。
俺だって、偶には平穏な旅行が出来るんだよ。
「そうだな。でも、スカーレットの目的はまだ達成されて無いだろ?」
「ああ、これからだ。ジン頼りになっちまうのは情けねぇが、任せても良いか?」
「勿論だ。俺の目的の1つとも一致しているし、全力で事に当たらせてもらう」
やると言ったらやる男、進堂仁です。
「……さて、工事も順調そうだし、俺達もそろそろこの国を出発するかな」
俺達が話している間にも、目の前の建築現場では順調に作業が進んでいる。
建築メイドの能力を考えると、今日中に店舗と居住エリアが完成するだろう。
「もう行くのか?」
「ああ、次に来るときは残りの勇者も一緒だ」
「期待して待ってるぜ。……っと、そうだ。一応、仲間になるからな」
そう言って、スカーレットが手を差し出してきた。
偶にはこういうのも良いだろう。
俺もその手を握り返した。
これで12章は終了です。
ボスバトルが無いのは珍しいですが、スカーレットは味方ですし、客として呼んだ相手に勝負を吹っかける様な戦闘狂ではありませんから。
え?エルガント神国編の登場シーン?アレは長いフライトでストレスが溜まっていたからです。戦闘狂ではないですが、身体を動かすのは好きなので。後、ついでに存在感アピール。
以前お話した通り、しばらく本編更新が止まります。
多分、10月更新は難しいです。申し訳ございません。
一応、登場人物紹介は遠からず投稿します。